悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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勇者VS皇帝

「『光騎剣(シャインブレード)』!」

 

 開幕速攻。

 フェイントを一切挟まず、最短距離を走らせた光の斬撃で皇帝を狙う。

 この一撃で終わらせるくらいの気持ちで、全力の魔力を剣に込めて振り下ろした。

 皇帝はそれを……

 

「なっ!?」

「ほう。中々良い太刀筋だ。魔術の威力も申し分ない。これならば、アルデバランともまともに打ち合えるだろうな」

 

 皇帝は呑気にそう語りながら、━━漆黒の籠手に包まれた片手で俺の剣を止めていた。

 玉座から立ち上がりもしないまま、右手に身体強化の魔力を集中させ、俺の剣を素手で掴んで止めたのだ。

 まさか、こんな簡単に防がれるなんて!?

 化け物だとは思ってた。

 格上だとは思ってた。

 でも、こいつに対して相性がいい筈の光の魔術を以てして、ここまで通用しないとは思ってなかった。

 

「『黒掌打(ショックブラック)』」

「がはっ!?」

 

 闇を纏った皇帝の掌打が俺の腹に突き刺さる。

 こんな小手調べみたいな攻撃がバカみたいに速くて強い!

 こっちも咄嗟に身体強化の魔力を集中してガードしたのに、まるで衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされてしまった。

 痛みに呻きながら膝をつく。

 皇帝はそんな俺を見下ろしながら、手の中に残った剣をつまらなそうに俺の前に放り投げた。

 

「お前が優れた戦士だという事を今の一撃で改めて実感した。だが、優れた戦士だからこそ理解できた筈だ。お前と私との絶対的な実力の差をな。━━お前が私に勝つ事は決して叶わぬ。諦めて私の配下となれ。それが正しい選択だ」

 

 痛みを堪え、皇帝の言葉を無視して剣を掴む。

 確かに、たった一撃で格の違いは思い知らされた。

 だけど、だから何だと言うのか。

 勝ち目の殆どないような敵と戦った事なんて初めてじゃない。

 その度に、俺は諦める事だけは決してしなかった。

 それだけが、敗北だらけの俺の戦歴の中で唯一誇れるものだ。

 だったら、今回も諦める事だけは絶対にしない!

 

 それに、俺はまだ全てを出し尽くしてはいないぞ!

 

「『光翼(フォトンウィング)』!」

 

 前の戦いでセレナが空を飛んでたのを見てイメージを掴み、さっきセレナの氷人形達が飛翔してるのを間近に観察してようやく習得した新技。

 まだまだ制御に不安があるけど、出し惜しみしてられる状況じゃない!

 俺は、さっきと同じく思いっきり床を蹴りつけ、光の翼による推進力と合わせて再び特攻した。

 

「『破突光翼剣(ストライクフリューゲル)』!」

 

 セレナとノクスの二人を相手にしても通じた一撃。

 これでどうだ!

 

「ほう」

 

 だが、これでも尚、皇帝は動かなかった。

 動く必要がないとばかりに、玉座に座ったまま、興味深そうな目で俺を見ている。

 余裕綽々の態度。

 それが虚勢ではないと証明するかのように、皇帝は俺の前に片手を突き出す。

 

 そして、流れるようにその掌で俺の攻撃を受け流した。

 

「ッ!?」

 

 軌道を歪められ、俺の攻撃は玉座の右側へと逸れる。

 だけど、これはチャンスだ。

 受け流したという事は、皇帝はさっきの攻撃と違って当たればダメージになると判断したという事。

 なら、意地でも当ててやる!

 

 俺は瞬時にもう一つの新技、衝撃波移動を発動。

 背中の左側に衝撃波を当てて、右方向に身体を回転。

 突撃のエネルギーをそのまま回転の威力に変える。

 その状態で横薙ぎの一撃を繰り出し、玉座ごと皇帝を切り裂く!

 

「『闇武装(ダークアームズ)』」

 

 そんな一撃を、皇帝は闇を纏わせた左腕で止めた。

 身体強化と闇の魔力を纏った漆黒の籠手が、光の斬撃を完全に遮断する。

 まだだ!

 

「『光翼嵐飛行(テンペストフライ)』!」

 

 光の翼と衝撃波移動を複雑に組み合わせた変則軌道で皇帝の周囲を飛び回る。

 完璧に防がれるんだったら、ガードが間に合わない程のスピードで翻弄すればいい!

 超スピードの連続攻撃を繰り出し続けて、絶対に防げないような隙を作るんだ!

 

「なるほど。セレナの翼と、アルデバランの技術の合わせ技か。器用な事をする。私やリヒトにはなかった才能だ」

 

 「だが」と皇帝は続け、おもむろに腕を振るった。

 超高速で動く俺をピンポイントで捉える拳を。

 見切られた!?

 

「ぐっ!?」

 

 咄嗟に剣を盾にして防ぐ。

 ダメージは軽い。

 けど、超高速で拳と激突したせいで思いっきり吹き飛ばされ、部屋の壁に叩きつけられてしまった。

 皇帝はまだ座ったままだ。

 どこまでも余裕の態度で、俺を見下ろしてくる。

 

「お前は確かに強い。しかし、まだまだ若く経験が足りない。だからこそ、基礎的な能力値で私やリヒトに遠く及ばないのだ。その程度の力では私を玉座から動かす事すら叶わん。諦めろ」

 

 誰が諦めるか!

 今の力で足りないのなら、もっと強くなればいい!

 魔術はイメージだ。

 イメージしろ!

 もっと強くなった自分自身を!

 

「『二対光翼(ツイン・フォトンウィング)』!」

「む?」

 

 俺は背中からもう二枚の光の翼を生やす。

 合計二対四枚の翼。

 こうすれば単純に推進力は二倍だ。

 もっと速く!

 

「『破突光翼剣(ストライクフリューゲル)』!」

「ぬ!」

 

 自分の認識すら振り切るスピードで、もう一度皇帝に挑みかかる。

 そんな俺を見て、皇帝が初めて驚いたような声を上げる。

 

「『闇拳(ダークフィスト)』!」

 

 それでも、まだ迎撃が余裕で間に合うのか!

 光の剣と闇の拳が正面からぶつかり合う。

 その威力は……ここに来て、ようやく互角。

 お互いの攻撃が弾かれ、お互いの体勢が崩れる。

 追撃だ!

 初めて見せた皇帝の隙、狙わない訳にはいかない!

 

「『光翼嵐飛行(テンペストフライ)』!」

 

 俺は衝撃波移動で無理矢理体勢を整え、強引に身体を動かした。

 制御しろ。

 この身に余る超速を、今この場で自分の物にしろ。

 

 攻撃の威力を上げろ。

 今までの力じゃ皇帝をよろめかせる事すらできない。

 身体強化を、剣に纏う光を、もっと強く。

 

 魔力を引き出せ。

 それを完璧に制御下に置け。

 精密操作のお手本とは散々戦ってきた。

 あれを模倣し、そして超えるんだ。

 

「うぉおおおおおお!!」

 

 極限まで集中し、さっき以上の超速連続攻撃を繰り出し続ける。

 崩せ!

 崩せ!

 崩せッ!

 皇帝の守りを!

 絶対に勝つんだ!

 

「驚いたな」

 

 そんな声が聞こえた瞬間、━━背筋に悪寒が走った。

 一瞬、時が止まったかのような錯覚を覚える。

 もしかしたらそれは、特大の危険を感じ取った俺の本能が、無意識に最大出力の思考加速を使った結果だったのかもしれない。

 

 玉座の後ろに、巨大な影が現れるのが見えた。

 

 闇を押し固めて作ったような、歪でおどろおどろしい闇の巨人。

 それが拳を振るい、俺を殴り飛ばした。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に全身に光を纏って防御する。

 だが、闇の巨人の一撃はそれを貫いて、俺にかなりのダメージを与えた。

 吹き飛ばされ、またしても部屋の壁に叩きつけられる。

 壁が崩れ、瓦礫の中に埋まった。

 このままじゃ追撃で殺されると思い、急いでそこから脱出。

 再び皇帝を視界に捉えた時には、もうあの巨人はどこにも見当たらなかった。

 あれは、いったい……

 

「実に驚いたぞ。さっきまでのお前は間違いなく全力を尽くしていた。それが次の瞬間には限界を超えて更に強くなるとはな」

 

 俺の疑問に答えが出る前に、皇帝が口を開いた。

 声がとてつもなく楽しげだ。

 余裕を通り越して、楽しむ余裕すらあるらしい。

 クソッ、まだ全然届かないのか……!

 

「超速成長、いや潜在能力の開花と言った方が正しいか。死闘を経験し、死線を越える為、眠っていた才能の一部が無理矢理叩き起こされたのだろう。つまり、お前の中にはまだまだ花開いていない才能が山のように眠っているのだ。それでいて、現時点で既にアルデバランを超えかねない程の力を発揮している。素晴らしい。素晴らしいぞ! やはり、お前は私と共にあるべきだ!」

 

 皇帝が興奮したように語る。

 俺にはその姿が、狂気に満ちているように見えた。

 

「お前は先程言ったな。これ以上私に悲劇を起こさせはしないと。だが、それは間違った見解だ。お前は私を誤解している。私は悲劇を起こしてなどいない。むしろ、真の悲劇を回避するべく全力を尽くしているのだ」

 

 狂気を宿した瞳で皇帝は語り続ける。

 ……嘘を吐いているようには見えない。

 信じられない事に、こいつは自分の言葉が正しい事を疑っていないのだ。

 

「真の悲劇とは、優れた才能が活かされずに消えていく事だ。かつて、我が弟リヒトは私以上の才能を持っていた。戦闘力も、魔術も、頭脳も、僅かとはいえ私を上回っていたのだ。だが、あいつは死んだ。あいつより劣る私に負けて戦死した。何故だと思う?」

 

 問いかけるような言葉。

 しかし、こいつは俺の答えなど求めていない。

 

「答えは簡単。あいつは自らの才能を活かせなかったのだ。環境が、周囲の者達が、そして何より優しさなどという下らぬものが、あいつの足を引っ張った。あいつの才能を潰した。あの日、私の前で無様に屍を晒す弟を見て私は思ったのだ。私が優秀な弟を押し退けて皇帝となった意味は、リヒトのような悲劇を繰り返さない為だと。リヒトのような才能ある者達を見出だし、その才能を存分に活かせる環境を与えてやる事こそが私の使命だとな」

 

 ……それは違うだろうと叫びたい。

 才能だけ見て、本人の意思を無視したら、セレナのような悲劇しか生まない。

 でも、その言葉がこいつに届く事はないんだろう。

 俺達とこいつでは、根本的に考え方が違い過ぎる。

 どうあってもわかり合えない。

 

「皇帝となってより、私はずっとその意志を貫き通してきた。セレナ達のような逸材を迎え入れ、優秀な女を側室として私の血と掛け合わせ、そうして手に入れた優秀な人材を育てるべく、私自身はなるべく動かずに配下達に経験を積ませてきた。今回の争いでそんな人材を根こそぎ失ってしまったが、代わりに彼らを踏み台にして、リヒトの血を引くお前が私の前にまで辿り着き、私にここまでの才能を示して見せた。これは天命だ!」

 

 皇帝は感極まったようにそう言って、俺に手を差し伸べてきた。

 

「改めて言う。リヒトの息子よ。いや、アルバよ。私の手を取り、我が配下となれ。父の悲劇を繰り返すな」

 

 その言葉には、こいつなりの真摯な想いがこもっているように感じた。

 俺達とは決して相容れない思想。

 相容れない考え方。

 でも、その考え方の中で最上級の評価を俺に下し、俺を認め、心から迎え入れようとしているのはわかった。

 ……こいつは、なんだかんだで俺の伯父だ。

 こいつが普通の伯父さんで、悲劇の元凶なんかじゃなくて、もっと普通の事で俺を褒めてくれたんだったら、きっと俺は素直に喜べたのだろう。

 

 だけど、それもまた、あり得ない「もしも」の話だ。

 俺の答えは変わらない。

 

「『三対光翼(トライ・フォトンウィング)』」

 

 俺は皇帝の手を取らず、三対目の光の翼を作り出した。

 これが俺の意志表示。

 それを見た皇帝が、失望の眼差しで俺を見る。

 

「それがお前の答えか」

 

 そうだ。

 お前にはわからないかもしれないけど……

 

「どんなに才能があっても、それを認めてもらえても、幸せのない国の為にそれを振るうつもりはない。それが俺の答えだ」

 

 俺が……俺達が目指したのは、平和で幸せな国だ。

 俺達が味わった悲劇を繰り返さなくていい国だ。

 たとえ、お前がどれだけ俺の事を認めてくれようと、根本にあるこの想いを否定するのなら、お前の配下になんか死んでもなれないんだよ。

 

「……本当にリヒトと同じような事を言う。顔立ちこそ、そこまで似てはいないが、本当にそっくりな親子だよお前達は」

 

 最後にそう言って……皇帝の目から温度が消えた。

 

「私は優秀な者が好きだ。優秀な者が私の手元にある事を望み、その者が私と敵対する事を望まない。何故なら、どんなに優秀な者であろうとも、私と敵対すれば必ず死ぬからだ。あのリヒトですらそうだった。そうして優秀な才能を無為に潰す事を私は嫌う」

 

 「しかし」と皇帝は続ける。

 

「どんなに優秀な者でも、どれだけ私が目をかけた者であっても、敵対するのであれば戦うより他にない。そして、屈服しないのならば殺すより他にない。お前は私に殺される覚悟があると、そう判断していいのだな?」

 

 その瞬間、皇帝から吹き出す威圧感がとてつもなく膨れ上がった。

 これは、殺気だ。

 遂に皇帝が俺を殺す気になった。

 身体が震えそうになるのを必死で堪える。

 恐怖を押し殺して、心を強く持つ。

 そうして、手に持った純白の剣を、全力で握り締めた。

 

「そうか……ならばもう手加減はしない。リヒトの時と同じように、私の本気を以て殺してやる」

 

 そう言って、皇帝は遂に玉座から立ち上がった。

 そして、玉座の頂点に付いていた突起を握り、力の限り引き抜く。

 玉座が砕け、その中から豪奢な装飾の施された大振りの剣が。

 夜の闇を凝縮させて作ったような漆黒の魔剣が現れた。

 

「リヒトとの戦い以降、配下達の成長の為にと封印してきた私の愛剣だ。覚悟はいいな?」

「……来い」

 

 覚悟なんて、問われるまでもなくもう決まってる。

 アメジスト領でセレナに突き付けられ、その言葉に俺なりの答えを出したあの時から。

 その覚悟に従って、俺は戦う。

 もう、俺は逃げない。

 

「良い面構えだ。では……む!?」

「━━━━━━━━━━━━━━━!!!」

 

 そうして互いに踏み出そうとした瞬間、城の壁を突き破って何かがこの場所に乱入してきた。

 龍の形をした巨大な植物、ワールドトレント。

 皇帝はそれを一撃で消し飛ばしたが、それだけで身体全てを消す事はできず、後から後から植物が溢れてくる。

 

 更に、部屋の入り口が大きな音と共に開かれ、そこから無数の魔術が皇帝目掛けて飛んでいく。

 魔術に続いて現れたのは、見覚えのある仲間達。

 ルル、バックさん、ミストさん、キリカさん、そして元エメラルド公爵騎士団の人達が何人か。

 ああ……

 

「皆!」

「「「アルバ!」」」

『アルバ様!』

 

 よかった!

 アルデバランを倒せたのか!

 随分と人数が少ないのが気にかかるけど、他の人達は向こうに残ったんだと信じておく。

 もしそうじゃないのなら……その意志は俺達が継ぐ。

 決して無駄にはしない。

 

「随分ボロボロみたいだけど、あとちょっとよ! 根性見せなさいアルバ!」

「ああ!」

 

 ルルの激励を受け、気合いを入れ直す。

 彼女が、そして皆が一緒ならきっと勝てる。

 俺はとても勇気づけられた。

 

「このタイミングで援軍とはな。類い稀な天運も持ち合わせているのか。ああ、実に、実に惜しい」

 

 そう呟きながら、皇帝が全ての攻撃を吹き飛ばして、無傷の状態で俺達の前に立つ。

 俺達は顔を見合わせてから、息を合わせて一斉攻撃を開始した。

 戦いは次のステージに移り、そして加速し続ける。

 決着の時が訪れる、その瞬間まで。

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