悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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11 衝撃の再会

「姉様ぁ! お久しぶりですぅ!」

「わっ」

 

 ノクスの部下になってから二ヶ月。

 職場の人間関係にも大分慣れてきた今日この頃。

 本日は遂に待ちに待った姉様との再会の日である!

 クソ親父にずっと前から申請させていた面会の日が今日なのだよ!

 そのクソ親父は当然置いてきた。

 面会に来たのは、私とお付きのメイドスリーの合わせて4人だけだ。

 部屋の外には監視の騎士がいるから、あんまりぶっちゃけたトークはできないけど、それでもやっと姉様成分とラブパワーを補給できる!

 私は再会後0.1秒で姉様に抱き着き、頬擦りを開始した。

 

「姉様~! 姉様~!」

「ふふ。セレナは本当に相変わらずの甘えん坊さんね」

 

 姉様が前みたいに抱き締めながら頭を撫でてくれる。

 ああ、四ヶ月ぶりの天使の抱擁……

 癒されるぅ。

 幸せぇ。

 ずっとこうしていたいよぉ。

 チラリと後ろを見れば、私達のイチャイチャを見て感動の涙を流すメイドスリーの姿が目に入った。

 うんうん。

 君達も我らが姉様の元気そうな姿を見て安心したんだね。

 わかる。

 凄いわかるよ。

 

「セレナ、ちょっと大きくなったね」

「成長期ですから! そう言う姉、様、も……」

 

 そこまで口にしてから、私の言葉は尻すぼみになっていった。

 姉様はまだ15歳だ。

 つまり、私と同じでまだ成長期であり、色々と育ってて当然。

 私が今顔を埋めてる胸とかも一回り大きくなってて凄く役得なんだけど、そんな姉様の身体の変化の中で、一つだけ無視できない変化があった。

 これは……!?

 う、嘘だろ?

 どうか私の思い違いであってくれ。

 

「あ、気づいた? そうなの。今二ヶ月くらいで……って、セレナ大丈夫!? 血の涙が!?」

「ダイジョウブデス」

 

 嘘だ。

 全然大丈夫じゃない。

 その証拠が、唐突にカタカナチックになったイントネーションと、両の目から滝のように溢れ出すこの血涙だよ。

 多分、メイドスリーも私と同じ状態になってると思う。

 それくらい、姉様の変化は私達にとって衝撃が大きすぎた。

 

 服に隠れてわかりづらいけど、姉様のお腹は少しだけ膨らんでいる。

 太ったとかそういう微笑ましい理由だったら、どんなによかったか。

 そうだったら、気にしてダイエットする姉様を想像してホッコリする余裕すらあっただろう。

 

 だが、このお腹の膨らみは脂肪じゃない。

 男女の営みの結果だ。

 つまりは、そういう事だ。

 そういう事になってしまうのだ。

 姉様の、お腹に、皇帝の……うっ、頭が!

 理解したくないと私の脳細胞が悲鳴を上げている!

 だが、これは到底目を逸らせる事ではない!

 

 皇帝ぃいいい!

 あのクソ野郎!

 私の天使をもう孕ませやがったぁ!

 絶対に許さない!

 殺してやるぅ!

 いつか絶対殺してやるぅ!

 そのチン◯とキ◯タマをズタズタに引き裂いて豚の餌にしてから無惨に殺してやるぅ!

 

「セレナ……複雑だと思うけど、どうかこの子を嫌わないであげて」

「……わかってます」

 

 しかし!

 しかしだ!

 生まれてくる子供に罪はない。

 例え、この子が憎くて憎くて仕方がない皇帝の血を継いでいようとも、もう半分は世界で一番尊い姉様の血を継いだ子だ。

 だったら、私はこの子を愛さなきゃ。

 私は最初からそう決めてた筈だ。

 だから、ノクスと交わした雇用契約に子供の救済まで入れたのだから。

 それに、姉様のそんな母親としての顔を見せられたら、文句なんて言える訳がない。

 

 姉様だって複雑な筈だ。

 複雑じゃない筈がない。

 だって、皇帝の考え方と姉様の聖人っぷりは決して相容れないのだから。

 皇帝は他者を省みない男だ。

 そんな相手との子供。

 しかも、子供が生まれれば本格的にドロドロの権力争いに巻き込まれる事になる。

 権力を求める奴ならともかく、そうじゃない姉様にとっては、子供なんて厄介事の種にしかならないのだ。

 

 だけど、姉様はそんな事一切関係なく、まるで聖母のように理由のない無償の愛を我が子に注ぐだろう。

 姉様はそういう人だし、この顔を見ればそれくらいわかる。

 なら、私のすべき事は何も変わらない。

 姉様も、姉様の子供も、二人纏めて守るだけだ。

 

「名前は……」

「え?」

「名前は、もう決めてあるんですか?」

 

 私はそんな事を姉様に尋ねた。

 この世界では、子供の名前は生まれる前に決めておくのが一般的だ。

 だから尋ねた。

 この子を受け入れる為にも、この子の名前を知っておきたかった。

 

「うん。男の子ならルーン、女の子ならルナマリアにしようと思ってるの」

「そうですか」

 

 ルーンに、ルナマリア。

 どっちも、なんとなく月を連想する名前だ。

 私の名前であるセレナと同じように。

 もしかしたら、姉様はそれ繋がりで決めてくれたのかもしれない。

 あのネーミングセンスのない姉様がそこまで考えてくれたと思うだけでもう……!

 うん。

 悪くない。

 悪くないよ。

 

「良い名前ですね」

 

 私は抱き着いた体勢のまま、優しく姉様のお腹を撫でながらそう言った。

 多分、今の私は自然に笑えてると思う。

 そんな気がする。

 

「うん。ありがとう、セレナ」

 

 姉様はそう言って、ちょっとだけ目に涙を浮かべながら優しく微笑んだ。

 私がこの子を受け入れたんだという事が、ちゃんと伝わったんだと思う。

 

「セレナ、この子をよろしくね」

「はい!」

 

 きっと仲良くします。

 きっと仲良くできます。

 だって、この子は姉様の子供なんですから。

 

 その後、私達は昔のように穏やかな雰囲気で最近の事を語り合い、今日の面会は終了となった。

 

 尚、メイドスリーも姉様直々に「セレナとこの子の事よろしくね」と言われて使命感に燃えていたけど、それは余談だろう。


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