悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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81 最後の戦い 2

「くっ!?」

「うわっ!?」

 

 凄まじい勢いで広がっていく闇を前に、私達は咄嗟に上空へと飛び上がる事で難を逃れた。

 私とアルバは自力で。

 ルルはアルバに抱えられて。

 他の三人は、アルバが無理に回収しようとする前に、私が咄嗟に作ったアイスゴーレムを掴んで回避。

 咄嗟だったから乗る事もできないかなり小さなアイスゴーレムしか作れなかったんだけど。

 バックはそれを片手で掴んでぶら下がり、もう片方の腕で気絶したキリカを抱え、更にバックの首筋に手を回して抱き着いたミストまで持ち上げ、三人分の体重を片手で支えていた。

 凄いマッスル。

 いや、身体強化のおかげだってわかってるけど、バックなら身体強化なしでもやりそうだから凄い。

 それはともかく。

 

「ひ、酷い……!」

 

 眼下に広がる光景を見て、アルバが思わずといった様子で呟いた。

 気持ちはわかる。

 何せ、闇の嵐はあっという間に広大な帝都の大部分を飲み込んでしまったのだから。

 闇の力は破壊の力だ。

 あの闇に包まれた部分は、間違いなくその全てを破壊されている。

 建物も、人も、跡形も残ってないだろう。

 決戦前に、ノクスの指示で戦場になる確率の高い所からは民衆を避難させたみたいだけど、こうなったら意味がない。

 平民も貴族も関係なく、帝都に住まう人々の殆どは皆殺しにされた。

 生き残ってるのは、帝都の外で戦ってた革命軍と騎士団をはじめ、運良く効果範囲の外にいた人達だけだ。

 自分の手で国を滅ぼす事も厭わないような、本気で周囲の一切を顧みない攻撃。

 一応、敵国を変身の場に選んで、民衆に避難する余裕を与えてたワールドトレントよりも遥かに悪辣だ。

 あのクソ外道、本気で救いようがない。

 

「こんな……! こんな事って……!」

「落ち着いてください。この国を理不尽が襲うのはいつもの事です」

「ッ!」

 

 憤って冷静さを失いかけていたアルバに声をかける。

 すると、アルバは反射的に、鋭い視線で私を睨んだ。

 冷たい言い方にカチンときてしまったんだろう。

 だけど。

 

「だから、あなたが変えるんでしょう? 終わらせるんでしょう? この悲劇の連鎖を。このどうしようもない理不尽にまみれた悲劇の国を。だったら落ち着いてください。冷静さを失ってはあの化け物には勝てません」

「…………そうだな」

 

 私がより強く真剣な視線で見詰め返しながら言葉で諭すと、アルバはおとなしくなった。

 

「ルル、思いっきり俺を引っ叩いてくれ」

「わかったわ。フンッ!」

「うぐっ!?」

 

 ……何やってんの?

 アルバの頬に真っ赤な紅葉マークが出来ちゃったんだけど。

 浮気がバレた夫みたいになってますけど。

 

「ふぅ……。ありがとう。目が覚めた」

「どういたしまして!」

 

 ……まあ、本人達がいいのなら何も言うまい。

 それよりもだ。

 

「話を戻しますが、皇帝がこのような暴挙に出た以上、私とアルバさん以外はもう近づく事すらできないでしょう。無理に近づこうとすれば、あの闇の嵐に飲み込まれて木っ端微塵になるのがオチです。なので、他の皆さんはここでリタイアしてほしいのですが」

 

 向こうが大放出した魔力を制御する為に止まり、こっちも闇の嵐が盾になるせいで生半可な攻撃は使えず、迂闊に手を出せない状況を利用して、私は話を切り出した。

 

「それは……」

「妥当な判断だな」

 

 アルバが何か言おうとした瞬間、それを遮るようにバックが話に入ってきた。

 サングラス越しの冷静な目で私達を見ながら語る。

 

「悔しいが、私達の力ではこのスケールの戦いにはついて行けない。それに私とミストはともかく、キリカは既に気絶している。アルデバラン戦からずっと近接戦闘で身体を張り続けていたルルも限界が近いだろう。これ以上は足手まといになる」

「バックさん……」

「だが」

 

 バックが、弱気な事を言ったとは思えない、サングラス越しでも感じる強い視線で私達を見る。

 

「そんな私達でも、まだやれる事はある。セレナ、悪いが私達を仲間達の所に降ろしてくれ。全員の力を合わせれば撹乱くらいできるだろう」

「わかりました」

 

 私は即席でバック達の足下に鳥型のアイスゴーレムを作る。

 バックはキリカとミストを抱えたまま、それに飛び乗った。

 

「さあ、ルル。お前も」

「ええ、わかってます。……アルバ!」

 

 アルバの腕の中から飛び出し、バック達と一緒に鳥型アイスゴーレムに乗った後、ルルはアルバを真っ直ぐに見詰めながら名前を呼び、拳を突き出した。

 

「絶対に勝ってきなさいよ!」

「……ああ!」

 

 そんなルルと、アルバは拳をぶつけ合う。

 ルルはもう、この戦いにおいてアルバを支える事はできない。

 だけど、この想いは確実にアルバを支えて、強くしてくれるんだろうと、そう思った。

 

 そうしてアルバを励ました後、ルルは私の方を見る。

 

「それから、あんたもね!」

 

 ルルは、私にも激励の言葉をかけてきた。

 ……やっぱり、いい子だ。

 こういう人達と、もう戦わなくていい。

 もう殺さなくていい。

 それだけで、結構救われた気がする。

 

「ええ、安心してください。絶対に勝ちますし、あなたの恋人はしっかりと生きてお返ししますよ」

「それなら良し! ……じゃないわよ!? だ、だだだ誰が恋人よ!?」

「あれ? 違いましたか?」

「違うわよ!」

 

 違ったのか。

 ゲームの最終決戦の時はとっくに付き合ってたから、今も恋人なんだとばかり思ってた。

 私のせいで色々と変わっちゃってるから、こういう事もあるんだね。

 まあ、今までのあれこれとか、今の反応とか見てると、普通に脈はありそうだけど。

 

「では、そろそろ送りますね」

「ちょっと待ちなさい! 恋人うんぬんを訂正しなさ……キャアアアアア!?」

 

 ルルが最後に何か言ってたけど、すぐにジェットコースターなんか目じゃないアイスゴーレム高速飛行に悲鳴を上げたせいでよく聞こえなかった。

 その悲鳴があっという間に遠ざかって行く。

 気を取り直してアルバの方を見ると、なんか顔を真っ赤にしていた。

 

「あの……本当に俺とルルはそういう関係じゃないからな?」

「プロポーズは早めにする事をオススメします。それと彼女を妻として迎えられるような国造りもね。国王が平民の妻を迎えられれば、新国家が決して平民を軽視しないという良い喧伝になるでしょう。まあ、問題は山積みでしょうが」

「だから違うって!」

 

 説得力がない。

 まあ、なんにせよ、少しは肩の力が抜けたみたいだ。

 それに未来への希望も持てただろう。

 死を恐れずに命を捨てて戦う奴も強いけど、未来の為に死ぬ気で生きようとする奴も強い。

 アルバは確実に後者の方が強くなるタイプだ。

 これで少しは勝率が上がる筈。

 

 そして……

 

「お喋りは終わりです。来ますよ」

「! ……ああ」

 

 私達の目の前で、帝都全域を包んでいた闇が形を変えていく。

 まるで奈落の底から地獄の亡者が這い出すかのように、闇の中から巨大な腕が飛び出してきた。

 その腕が大地を掴み、残りの身体を闇の中から引き摺り出す。

 

 それは、闇を押し固めて作ったような、歪でおどろおどろしい闇の巨人だった。

 

 頭部があり、二本の腕を持ち、されど足はない。

 全長は、全盛の頃のワールドトレントに匹敵する程の、天を衝くような巨体。

 しかし、感じる力も魔力も、ワールドトレントなんか歯牙にもかけないレベル。

 

 これこそが、皇帝の最終形態『奈落の巨神(アビスギガント)』。

 間違いなく、この世で最強の存在だと断言できる闇の巨神だ。

 これが私達の倒すべき最後の敵。

 ラスボスの名に相応しい、最後にして最大の壁。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 そして、闇の巨神がおぞましい咆哮を上げながら、私達に向けてその手を伸ばしてきた。

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