悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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83 夢での再会

 あ、これ夢だ。

 意識が覚醒して少しした後、私は直感でここが夢の世界であると確信した。

 なんか全体的に景色がぼんやりしてるし、ついでに意識もちょっとぼんやりしてるし、これは夢以外の何物でもないだろう。

 あるいは、死後の世界か。

 

 でも、夢にしても死後の世界にしても、中々にいい場所をチョイスしてくれたなぁ。

 景色はぼんやりとしてるけど、とても見覚えがある場所だから、ここがどこなのかは簡単にわかる。

 

 ここは、私の生家であるアメジスト伯爵家本邸の敷地内にある森の中。

 かつて、私の秘密基地があった場所だ。

 今では、地下に作った氷の城を引っ張り出した事で潰れてしまった場所。

 昔、よく姉様と一緒に過ごした思い出の場所。

 私の人生で、一番幸せだった時間を過ごした場所。

 

 そこに、私以外の誰かが近づいてくる気配を感じた。

 よく知ってる気配だ。

 私が誰よりも愛しく思う気配だ。

 そして……もう二度と感じ取れないと思っていた気配だ。

 

「セレナ」

 

 その気配の主が、私の名前を呼ぶ。

 それだけで、涙が溢れて止まらなくなった。

 反射的に身体が駆け出す。

 その人に向かって全力でダイブする。

 

「エミリア姉様!」

「わっ」

 

 その人は、紛う事なきエミリア姉様本人だった。

 最後に会った時より少し幼い、この場所で最後に語り合った時と同じ15歳くらいの姿をした姉様。

 そして、そんな姉様にダイブした時の感覚が昔と変わらない。

 見れば、私の姿も若返っていた。

 姉様と同じく、この場所で最後に語り合った時と同じ、10歳くらいの姿に。

 

「姉様! 姉様! 姉様ぁ!」

 

 姉様に向かって全力で頬擦りをする。

 失った温もりを取り戻すように。

 涙を流しながら、全力で。

 

「言ったじゃないですか! 暗殺とか謀殺とかには気をつけてくださいって! 姉様は聖人天使過ぎて目をつけられやすいからって!」

「……ごめんね」

「自分の命を第一に考えてくださいって言ったのに! 考えなしに動かないでって言ったのに! 私知ってるんですよ!? 姉様が死んだ時、グレゴールの奴と真っ向から戦った形跡があった! あいつは派閥からの指示で姉様以外の人の事も狙ってた! 姉様はその人達の事を守ろうとして、だから逃げなかったんだって! 無茶ですよ! 相手は六鬼将ですよ!? なんで自分の事だけ考えてくれなかったんですか!? いくらなんでも優し過ぎます! 姉様が死んだら、私は後追い自殺するって言っておいたのに!」

「……ごめん」

「なんで! なんで! ……なんで私を置いて死んじゃうんですかぁ!」

 

 私は今まで胸の中に抱えていた思いを、全て姉様に向かって吐き出した。

 涙と一緒に、出して、出して、出し尽くして。

 

「……ごめん、なさい」

 

 最後に出てきたのは、姉様への大きすぎる罪悪感と、弱々しい謝罪の言葉だった。

 

「私は、姉様の妹失格です。姉様が死んでから、私はいっぱい酷い事してきました。沢山の人達を殺してきました。沢山の人達を苦しめてきました。……私の手は、血にまみれてる。姉様と同じ場所には行けない。本当なら、こうして姉様に抱き着く資格もない」

 

 そう言って、私は姉様から離れようとした。

 これ以上、この汚い手で姉様に触れる訳にはいかない。

 だけど、姉様はそんな私を力強く抱き締めた。

 抱き締めて、優しく頭を撫でてくれた。

 ずっと、ずっと願っていた、追い求めていた、優しい感触。

 

「私にセレナを責める資格なんてないし、責めるつもりもないよ。セレナは凄く頑張ってくれた。とっても頑張ってくれた。そんなセレナが報われないなんて、お姉ちゃんが許さないよ」

「姉様……」

「他の誰がセレナを責めても、恨んでも、地獄に落とそうとしても、私が絶対に守るから。今度こそ、妹を悲しませて迷惑ばっかりかけるようなダメな姉じゃなくて、頼れるお姉ちゃんになるから」

「姉、様……」

「……勝手に死んじゃってごめんね。ルナを守ってくれてありがとう」

「ッ!」

 

 泣きながら顔を上げれば、姉様の顔がよく見えた。

 静かに涙を流しながら、それでも私を慈しんでくれる、綺麗なアメジスト色の瞳が見えた。

 

 姉様は、今の私を受け入れてくれた。

 

 血にまみれて、こんなに汚く染まった私を。

 姉様を助けられなかった無能な私を。

 色んな人に恨まれて当然の極悪人になってしまった今の私を。

 姉様は、昔と変わらず愛してくれる。

 それが何よりの救いだった。

 さっきとは違う理由で、涙が溢れて止まらなくなる。

 

「もう、どこにも行かないでください」

「うん」

「ずっと私の側にいてください」

「うん」

「……キスしていいですか?」

「う、うん? そ、それはちょっと……」

 

 ああ、その可愛い困り顔も昔のままだ。

 ホッコリする。

 胸が温かくなる。

 決して癒えないと思ってた心の傷が、優しく治っていく感覚がした。

 私は、満足だ。

 辛い事ばっかりだった二度目の人生を、こうして満足して終われる事が、凄く嬉しい。

 

 そう思った瞬間、━━突如、私の身体が不思議な光を纏い始めた。

 

「え!?」

「ああ、そっか。セレナの側には、助けてくれる人がいるんだね」

 

 困惑している私をよそに、姉様は少し寂しそうな、でも嬉しそうな顔をして、慌てる私を見ていた。

 そんな姉様を見て、これがどんな現象なのかを直感で理解する。

 意識が薄れてきて、私は慌てた。

 

「姉様! やだ! また離れたくない!」

「大丈夫。大丈夫だよ」

 

 慌てる私を姉様は優しく抱き締めてから、私の首に下がっている物を軽く指で触った。

 それは、この場所で姉様と別れた時に、私の10歳の誕生日に姉様がくれたペンダント。

 中に姉様の写真が入っている、ロケットペンダント。

 

「私はいつでもセレナを見てる。この場所でずっと待ってる。だから、もう少しゆっくりしてから来てね」

「姉様!」

またね(・・・)、セレナ」

 

 最後に、姉様は私の額に親愛100%のキスをしてくれた。

 あの時と同じ感触。

 あの時と同じ言葉。

 そして、あの時と同じ約束をして。

 

「次に会った時は、今度こそずっと一緒にいようね」

「……はい!」

 

 その一言が付け加えられた。

 今度こそ、その約束を完璧に果たしてやると誓いながら力強く返事をして……私の意識は夢の世界から消えていった。

 

 

 

 

 

「う、ん……」

「セレナ!? 起きたか!?」

 

 次に目を開けた時、見えたのは真剣な表情をしたアルバの顔。

 感じたのは全身に走る痛みと、魔力切れ特有の疲労感。

 そして、思いっきり私の胸に当たってるアルバの掌の感触だった。

 

「どこ触ってんだ」

「へぶっ!?」

 

 思わず仰向けの体勢から蹴りを叩き込んでしまった。

 どさくさに紛れて何やってんだ。

 そういうのはルルにやれ。

 

「いや、違うんだよ! 回復魔術使ってたんだって! 身体に直接触れた方が効果あるだろ!?」

「だからって胸を鷲掴みにするとか……」

「だって心臓止まってるから! これは医療行為だ! やましい気持ちは一切ない!」

「……本当に?」

「ない! ……多分」

 

 おい最後。

 自信ないんかい。

 思春期のエロガキが。

 

「まあ、冗談はさておき。……どうして助けたんですか?」

 

 夢の世界で感じた光。

 あれはアルバが私に回復魔術をかけたのが原因だろう。

 心臓がないんだからそれで完治はしないし、ほんの僅かな延命が精一杯だけど。

 ……いや、生存に臓器とかがいらず、魔力さえあれば生きていける魔力生命体の因子を取り込んでる訳だし、ワンチャンあるか?

 あくまでも私の身体が精霊になった訳じゃなくて、精霊の力を取り込んでるだけだから、可能性は低いだろうけどね。

 

 でも、それとアルバが私を助けようとした理由とは別問題だ。

 理由を問えば、アルバはエロガキから勇者の顔へと変わった。

 

「セレナ、俺は言ったよな。お前を殺したくないって。理由はただそれだけだよ。もう帝国の夜は明けたんだ。この国に、必要のない悲劇はもういらない」

「……お人好し」

「なんとでも言え」

 

 開き直るアルバ。

 でも、実にアルバらしい。

 

「一応、お礼は言っておきます」

「別にいい。それより、他の人達が来る前に早く行け。お前には帰らなきゃいけない場所があるだろ」

「ええ、わかってますよ」

 

 アルバの言葉に神妙に頷く。

 そうだ。

 命を拾った以上、私は帰る。

 ルナの所へ。

 メイドスリーの所へ。

 私の家族のいる場所へ。

 姉様の側に戻るのは、この拾った命が尽きる時までお預けだ。

 

 私は一度眠った事で回復した僅かな魔力を使い、氷翼(アイスウィング)を出した。

 それを使って空に浮かぶ。

 

「それでは、さようなら。革命軍の……いえ、夜明けの勇者さん。せいぜい良い国を作ってくださいね」

「ああ、言われるまでもない」

 

 力強く頷くアルバを見て、この国は大丈夫だと確信した。

 今のアルバならいい王様になれる。

 帝国が起こしてきた悲劇も、その内側にあった事情も見定めて。

 革命軍の正義も、その裏にあったどうしようもない醜い部分もちゃんと見て。

 その上で、私の突きつけた問いかけに明確な答えを出して戦い抜いた今のアルバなら。

 知識の不足なんて問題じゃない。

 そんなのは十徹でも百徹でもして身につければいい。

 大事なのは、王としてのあり方なんだから。

 

 そんな勇者を見届け、私は空を飛んで帝都を後にする。

 飛行中に、私は服の中にしまっておいた小さなペンダントを取り出した。

 これまでずっと肌身離さず身につけ、戦闘の余波で壊れないようにガッチカチに硬い氷で固めておいたロケットペンダントを。

 その氷を砕き、チャームの部分を開けて、中にある姉様の写真を見る。

 

 姉様。

 姉様の言う通り、私はもう少しゆっくりしてから、そっちに行く事にします。

 一日か、一週間か、一ヶ月か、はたまた一年か。

 雪女の因子がどれだけ私を生かしてくれるかわかりませんが、できるだけ長生きして、家族サービスして、今度会う時には、皆との楽しい思い出話を姉様に話せるように頑張りたいと思います。

 どうか、見守っていてください。

 

 そんな祈りを捧げた後、私は穏やかな気持ちでチャームを閉じた。

 もう一度ペンダントを服の下にしまい直し、飛行速度を上げる。

 アイスゴーレム越しに情報を送ったから途中で停止してくれてるとは思うけど、それでもルナ達を乗せた国外脱出用魔術は大分遠くまで行ってる筈だ。

 戦後処理でゴタゴタする帝国に残ってもいい事なんてないから、アメジスト領に戻るつもりはない。

 追い付いたら、一緒にどこか遠い国に行こう。

 いくつか穏やかに暮らせそうな国の目星はつけてる。

 もう、何も心配はいらない。

 

「さあ、帰ろう」

 

 そう呟いて、私は更に飛行速度を上げた。

 私の駆ける雲一つない青空には、燦々と光輝く太陽の姿。

 こうして、長い長い悲劇の夜は明け、私の戦いは終わったのだった。

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