悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
私は再び鳥型アイスゴーレムを飛ばし、学園へと戻って来た。
そこに目当ての人物がいるかどうかは賭けだったけど、どうやら私は賭けに勝ったらしい。
「ただいま戻りました、ノクス様」
「セレナ! いきなり飛び出して行って何があったん……っ!?」
そこまで言ってから、ノクスは私の顔を見て顔を強張らせた。
今の私は酷い顔をしている自覚がある。
涙の跡は目立つだろうし、正直、心労で倒れそうなくらい精神は限界に近い。
強行軍で体力も使ってしまったから、顔色は相当悪いだろう。
有り余っているのは魔力だけだ。
でも、そんな事は関係ない。
事は一刻を争う。
「ノクス様、お願いがあります」
「……言ってみろ」
「先程、我が姉エミリアが亡くなりました」
「なっ……!? なんだとっ!?」
「つきましては、未だ後宮に取り残されている姉の娘、第四皇女ルナマリア様が心配です。
母を亡くした以上、もう後宮にはいられないでしょう。
私が後見人となって預かろうと思っているのですが、その旨を皇帝陛下に進言して頂きたいのです」
「わ、わかった」
「では、私はその為の手続きに取り掛かります。申し訳ありませんが、本日は生徒会を早退させて頂きます。それでは」
「待て!」
「……なんでしょうか?」
ノクスに一礼して、手続きの為に城に行こうと思ったのに、引き留められてしまった。
私は酷く冷めた目でノクスを見る。
この急いでる時に、なんの用があると言うのだろうか。
「その手続きも私がやっておく。お前はもう休め」
「必要ありません」
何を言うかと思えば、そんな事か。
「それに、ノクス様お一人よりも私と合わせて二人で動いた方が早い筈です」
「人手なら私の部下で充分だ。それにレグルスとプルートもいる。あの二人は仕事中だが、無理をすれば外せるだろう。
そして、レグルスはともかく、プルートの事務仕事はお前よりも早い」
「それは……」
それは、言われてみれば確かに。
でも、私が動かないと。
ルナの為に私が動かないと。
「それに、お前は今酷い顔をしている。心労と疲労が顔に出ている。
そんな体調の者に仕事をさせてもロクな結果にはならん。休め」
「ですが……」
「上司としての命令だ。休め」
うっ、強権を発動されたら私には逆らえない。
ノクスの助力はルナを助ける為に必要不可欠なんだ。
機嫌を損ねる訳にはいかない。
「………………わかりました。それでは、本日は休ませて頂きます」
「そうしろ」
「はい」
そうして、私はとぼとぼと生徒会室を出る。
「すまなかった……!」
背後から聞こえてきたノクスの声を、聞こえないふりをしながら。
◆◆◆
その後、私は寮の自室へと戻り、メイドスリーに事の顛末を話した。
三人とも最初は理解できない、理解したくないという顔をし、最後は泣きそうになるのを必死に堪えて私を慰めてくれた。
誰一人として私を責めなかった。
それが辛くて、そして嬉しかった。
私にはまだ、こんなに優しくて頼りになる同志がいる。
そう思えば、ほんの少しだけ気力が戻った。
また涙が出てきた。
そしたら、それを見てメイドスリーも堪えきれなくなったみたいで、4人して盛大に泣いた。
ここがアパートだったら、近所から苦情が殺到するレベルの大声で泣いた。
私達は悲しみを分かち合って、ほんの少しだけ救われたような気がする。
そして、私は改めてメイドスリーに告げた。
私と共に、姉様の忘れ形見であるルナを守ってほしいと。
彼女達は一も二もなく、私と同種の決意と覚悟を秘めた顔で即答した。
私達は何があろうとも、どんな事をしてでも、今度こそ大切な人を守る。
それが叶わなかった時は、全ての仇を殺してから死ぬ。
改めて、4人でその誓いを立てた。
私はとても勇気づけられた。
◆◆◆
そして、私は休めと言ったノクスの言葉を無視し、こっそりと学園を抜け出して、ある場所へとやって来た。
休む前に済ませておかなきゃいけない事があるのだ。
こればっかりは私にしかできない。
私が向かった場所は、我が実家であるアメジスト伯爵家が帝都に構えている別邸。
そこにいるのは、私とエミリア姉様に感謝する使用人ばかり。
私の要求はあっさりと通り、地下の転移陣を使って領地の方の本邸へと戻って来た。
そして、クソ親父のいる執務室へと向かう。
「どうも、お父様」
「……なんの用だ?」
そこでクソ親父に命令する。
ルナを迎え入れる準備をする為に。
「突然ですが、家族を全員集めてください。仕事の補佐をしている使用人と一緒に」
さあ、大掃除を始めようか。