悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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17 皇帝と六鬼将

 皇帝からの呼び出しを無視する訳にもいかず、私とノクスは速攻で支度を整えた。

 私が持ってる服の中で唯一正装と言えそうな服である学園の制服に着替え、メイドスリーに身嗜みを整えてもらう。

 ちなみにその時、ノクスが部屋を出る前に脱ぎ始めて盛大に怒られた。

 普段の私ならやらないポカだ。

 やっぱり、まだ疲れが残ってるらしい。

 それか、呼び出しへの不安と皇帝への憎しみに思考リソースを割かれて、一時的にアホになったのかもしれない。

 

 そんなこんなの末に準備は整い、私はノクスと共に城の謁見の間へと赴いた。

 城に出入りするようになって数年経つけど、ここには初めて来た。

 けど、この場所はゲームのラストバトルのステージだから、見覚えはある。

 

 そんな謁見の間を一言で言うと、どこの魔王城ですか? って感じだ。

 黒を基調としたデザインの大広間。

 その部屋の奥に数段の階段があり、そこに荘厳なデザインをした巨大な玉座が置かれている。

 そして、その玉座にはゲームで見た時と同じく、ノクスと同じ黒髪黒目を持ち、ノクスより数段上の帝王のオーラを撒き散らす、憎い憎い相手が座っていた。

 

 ブラックダイヤ帝国皇帝、アビス・フォン・ブラックダイヤ。

 

 ゲームのラスボスであり、一人で一国を滅ぼすとまで言われる圧倒的な力を持った男。

 そして、私から姉様を奪った憎い憎い仇。

 殺したい。

 今すぐに殺してやりたい。

 ズタズタに引き裂いて豚の餌にしてやりたい。

 特に、姉様を辱しめたそのチン◯とキ◯タマを。

 

 でも、それはダメだ。

 優先順位は復讐よりもルナの安全の方が上。

 それに多分、私じゃこいつには勝てない。

 何せ、覚醒した主人公が強力な仲間達と一緒に袋叩きにしてやっと辛勝ってレベルの化け物だ。

 私が無策で戦っても死ぬだけだと思った方がいい。

 そして、ここで私が死んだら誰もルナを守れない。

 だから、勝ち目があるかもわからない化け物に挑む訳にはいかない。

 

 おまけに、この場にいるのは皇帝だけじゃないのだ。

 ここには、私とノクスと皇帝の他に5人の人間がいる。

 私がぶっ殺したグレゴールを除く、残りの六鬼将全員だ。

 

 序列一位『闘神将』アルデバラン・クリスタル。

 序列二位『賢人将』プロキオン・エメラルド。

 序列三位『閃姫将』ミア・フルグライト。

 序列五位『極炎将』レグルス・ルビーライト。

 序列六位『魔水将』プルート・サファイア。

 

 なんで、忙しい筈の六鬼将全員の予定が合ってるんだろうか。

 皇帝だけでも勝ち目ないに等しいのに、こいつら全員を相手にしたら勝てる訳がない。

 レグルスとプルートは私と仲がいいし、今も心配そうに私を見てるけど、皇帝を殺そうとすればさすがに敵に回るだろう。

 それはノクスだって同じ事。

 つまり、私がここで感情に任せて暴れれば、待っているのは七対一の絶望的な戦いだ。

 私は歯を食い縛って、自分の中の激情を押さえつけた。

 

「陛下。ノクス・フォン・ブラックダイヤ、並びにセレナ・アメジスト、参上いたしました」

「うむ」

 

 ノクスが跪き、私もそれに合わせて膝をついた。

 憎い仇に頭を下げるしかない悔しさを噛み締めながら。

 そんな私達に、皇帝が話しかける。

 

「よく来た。では早速本題に入るとしよう。

 わかっていると思うが、今回私がお前達を呼び出したのは、昨日発生した襲撃事件の詳細を報告させる為だ。

 ノクス、お前は襲撃を受けた後宮の一団が帝都へと逃げ帰る前にその情報を掴み、動いていたな。それは何故だ?」

「ハッ。私の部下であるセレナより報告を受けた為です。私は彼女の能力を信頼していますので」

「ふむ。ではセレナよ、お前はどうやって襲撃の事を知った?」

 

 うるさい、黙れ、死ね。

 思わず出かかった言葉を飲み込み、私は伝えてもそこまでの問題はないだろう情報を告げた。

 

「私は姉に探索魔術の効果を持った魔道具をお守りとして持たせていました。そして、姉は昨日の襲撃事件の渦中におりました。

 私はその魔道具によって姉の危機を察知し、その場へ向かって急行した次第です」

「ほう。成る程な」

 

 私の言葉を皇帝は素直に信じるらしい。

 そんな魔道具どうやって手に入れたのかとか聞いてこない。

 これ、まさかセレナ人形の存在がバレてたのだろうか?

 下手したら後宮に忍び込ませた虫型アイスゴーレムの存在も。

 だとしたらマズイ。

 でも、皇帝はその事に特に追及する気はないみたいだった。

 代わりに、他の面子からは探るような視線を向けられたけど。

 特に序列一位の正統派騎士王と、序列二位の爺の視線が強くて痛い。

 

「では、お前は襲撃事件の現場を見たという事だな。その時の状況を話してみよ」

「私が到着した時点からの断片的な情報しかございませんが」

「それでもよい」

「では」

 

 そうして、私は昨日見た事を話し始めた。

 

「現場に到着して私が見た光景は、六鬼将のグレゴール様が我が姉エミリアを殺害する場面でした。

 それを見た私は激昂し、下手人であるグレゴール様を殺害いたしました」

『!?』

 

 その言葉を聞いて、ノクスと六鬼将の何人かが驚愕の表情になった。

 ノクス達にも、下手人がグレゴールだって事は伝えてなかったからね。

 果たして、グレゴールの凶行に驚いてるのか、私がグレゴールを殺す程に強いって事に驚いてるのか。

 なんにせよ、信じがたいって顔をしてるのが殆どだ。

 私の強さを知らない奴は、この言葉を疑ってると思う。

 

「つまり、グレゴールとエミリアは死んだと、そういう事だな?」

「はい」

 

 対して、皇帝は大して驚いていない。

 淡々と事実確認をしてくる。

 てめぇに感情はないのか?

 てめぇの血は何色だ!

 私の腸が煮えくり返った瞬間、驚くべき事に皇帝の顔が悲しそうに歪んだ。

 

「そうか。あの二人が死んだか。

 あやつが肌身離さず持っていた大鎌が現場に落ちていたと聞いてグレゴールの死は確信していたが、エミリアまでも……。

 あそこまでの優秀な才を持った者を二人も同時に失ってしまうとは。残念だ」

 

 ……ちょっとでもこいつに情を期待した私がバカだった。

 こいつは姉様の死もグレゴールの死も悲しんでなどいない。

 こいつが考えてるのは、ただただ優秀な()がなくなった事への失望。

 ふざけんな。

 ふざけんな!

 ふざけんなァ!

 

「特にエミリアは惜しかったな。あやつはどこか弟を彷彿とさせる女であった。

 弟は私と敵対してしまったが為に死んだが、エミリアはそうではない。

 あやつの歩む道の先を見てみたかった。

 だから、その才を存分に活かせる私の側室という立場を与えてやったというのに。

 本当に残念だ」

 

 そんな、そんな下らない理由で私から姉様を奪ったのか!

 ふざけんじゃねぇ!

 姉様の才能しか見てないクズが!

 姉様自身の事なんて欠片も考えてないどクズが!

 殺す!

 いつか絶対無惨に殺してやる!

 憎い!

 憎い!

 

「そんなエミリアを殺すとは、グレゴールも罪深い事をしたものだ。

 まあ、恐らく奴の属していた派閥にエミリアを恐れる者でもいたのだろう。

 かつての弟と似た思想を持つエミリアの下に、かつての第二皇子派が集う事を恐れたと言ったところか。

 その為の尖兵にされ、使い潰されるとはな。

 グレゴールも哀れなものよ」

 

 そんな下らない理由で姉様は……!

 許さない。

 誰一人として許さない。

 ルナを無事に育てきった暁には、必ずこの国に舞い戻り、一人残らず殺してやる!

 例え、先に革命軍に滅ぼされてたとしても、草の根分けてでも生き残りを探し出し、最後の一人に至るまで殺し尽くしてやる!

 

「さて、死者を惜しむのはこれくらいにして、次はこれからの話をするとしよう。

 まず、グレゴールが死んだ事によって、六鬼将の席次に空席が出来てしまった。

 ならば、これを埋めなければならない。

 そこで、私はこのセレナを新たなる六鬼将として迎えようと思っている。

 反対する者はいるか?」

 

 ………………は?

 皇帝のその言葉に室内がザワついた。

 私が六鬼将?

 何言ってんだろう、こいつ?

 バカか?

 ああ、バカだった。

 バカでクズで救いようのない外道だったわ。

 死ねばいいのに。

 

「お言葉ですが陛下。セレナはまだ12歳。学園も卒業していない年齢です。その歳で六鬼将の地位を与えるのは早すぎるかと」

 

 ノクスが反論してくれた。

 多分、姉様を失って傷心中の私を気遣ってくれたんだと思う。

 六鬼将になれば、心の傷を癒す暇もなく任務に追われる事になるだろうからね。

 

「僕もノクス様と同じく反対いたします」

「俺もですね。セレナにゃ早すぎる」

 

 続いて、レグルスとプルートも反対してくれた。

 優しい。

 

「んー。アタシも反対ですね。正直、こんな小さな女の子を戦場に出すのは抵抗あります」

 

 序列三位の女の人も反対。

 さすが、ゲームでは帝国の良心とか言われてた人。

 帝国にあるまじき、まともな理由。

 

「儂はどちらでも構いませぬ。陛下のお好きにされるのがよろしいかと」

 

 序列二位の爺は中立。

 まあ、こいつは革命軍のスパイだしね。

 革命を志すような正義感があれば、私みたいな幼女を矢面に立たせるのは気が引ける。

 でも、私は革命軍の思想と近い考え方してた姉様の妹だから、もしかしたら革命軍に付いてくれるかもしれない。

 だったら、六鬼将の地位を持ってた方が後々便利。

 どっちにするか迷ったから、最終的に中立になったってところかな。

 

「我は賛成です。使える者は年齢など関係なく使うべきと考えます」

 

 そして、序列一位の正統派騎士王は賛成。

 帝国騎士の鑑みたいなこいつなら、皇帝の為に使えるものはなんでも使うべきって考えるわな、そりゃ。

 

「そうか。皆の考えはよくわかった。

 反対する者達は、セレナの年齢を考慮しての事だな。

 だが、現状セレナ以外に六鬼将の地位に相応しい程の実力者がいない事もまた事実。

 レグルスとプルートが現れるまで五位と六位も空席だったのだ。

 せっかく全ての席次が埋まった矢先にまた空席を出したのでは、六鬼将の名が廃る」

 

 皇帝がペラペラと持論を語り出す。

 ああ、わかった。

 こいつ、他人の意見を求めつつも、ハナから自分の意見を曲げるつもりないんだ。

 

「故に、早急に空席を埋める必要がある。

 セレナの実力は確かだ。その事はノクスやエミリアから聞いているし、何よりグレゴールを倒している。

 これ以上の人材はいないと私は考える。

 年齢故の未熟さは、他の者達が支えてやればいい。

 と、私は思うが。セレナ、お前はどう思う」

 

 その問いかけに、私は心底どうでもいいと思いながら答えた。

 

「私は陛下のご指示に従うのみです」

 

 私が六鬼将になろうがなるまいがどうでもいい。

 どうせ、明日にはルナとメイドスリーを連れてトンズラするんだから。

 

「そうか。では、私の指示に従ってもらおう。

 セレナよ。お前を新たなる六鬼将の一人『氷月将』として迎え入れる。

 序列は六位。レグルスとプルートは一つ繰り上げだ。

 三人とも、その地位に相応しい働きを期待しているぞ」

「「「ハッ」」」

 

 私とレグルスとプルートが同時に頭を下げた。

 レグルスとプルートは苦い顔で、私はひたすらの無表情。

 姉様を側室にした事と言い、皇帝は本人の望まぬ人事をするのが本当にお好きと見える。

 

「では、今日はこれにて解散とする。下がれ」

『ハッ!』

 

 そうして、この場の全員が部屋から去って行く。

 しかし、その去り際に。

 

「セレナよ」

「……なんでしょうか?」

 

 皇帝が私に話しかけてきた。

 虫酸が走るから黙っててほしい。

 

「私は優秀な者が好きだ。優秀な者が私の手元にある事を望み、その者が私と敵対する事を望まない。

 何故なら、どんなに優秀な者であろうとも、私と敵対すれば必ず死ぬからだ。

 そうして、優秀な才能を無為に潰す事を私は嫌う」

 

 はぁ?

 だからなんだ?

 訳わかんねぇ事語ってんじゃねぇよ、殺すぞ。

 

「もう一度言おう。

 私は優秀な者が手元にある事を望み、その者が私と敵対する事を望まない。

 この言葉を覚えておけ」

「……畏まりました」

 

 要するに裏切るなって事だろ?

 言われなくてもルナが健やかに育つまでは敵対しねぇから安心しろや。

 安心して主人公に殺されとけ、バーカバーカ。

 

 

 私がこの言葉の真の意味を知るのは、その翌日の事だった。

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