悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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19 セレナの城

 その後、私はなんとか自分の感情を飲み込む事に成功し、ルナを連れて後宮を出た。

 そして、学園の寮ではなくアメジスト家の別邸を目指して歩く。

 

「ノクス様、ここまでで大丈夫です。本日はありがとうございました」

「いや、それはいいのだが……セレナ、お前大丈夫か? 先程からずっと顔色が悪いぞ」

 

 ……ノクスにも気づかれてたのか。

 もっと精神力を鍛えなきゃダメだな。

 ノクスはいい奴だけど、皇帝の息子で帝位継承権第一位の第一皇子という根っからの帝国人だ。

 私が皇帝と帝国に憎しみを抱いている事を悟られてはいけない相手だ。

 気をつけないと。

 

「大丈夫です。ルナに会えて気が緩んでしまったので、疲労が表に出てしまっただけでしょう」

「どうにもそんな感じには思えないのだがな……まあいい。無理だけはするなよ。上司としての命令だ」

「はい。わかりました」

 

 ノクス本当にいい奴だな。

 あのクソ野郎の息子とは思えないし、悪役にはとても見えない。

 もう早めに代替わりしてノクスが皇帝になれば革命いらないんじゃないかな?

 

 そうして、最後まで私を心配してくれたノクスと別れ、私は別邸の中へと入る。

 そこで使用人達の一糸乱れぬお辞儀に迎えられた。

 

『お帰りなさいませ、セレナ様!』

 

 お、おう。

 なんか使用人達が生気に満ち溢れている。

 仕事楽しいですと言わんばかりの、めっちゃ明るい笑顔浮かべてるよ。

 どうしたんだろう?

 そう思ったのは私だけじゃなかったらしく、メイドスリーがコソコソと私の耳元に顔を寄せて聞いてきた。

 

「セレナ様、何やったんですか?」

「特に何も……ああ、そういえば昨日クソ家族どもを粛清したわ」

「あ~、遂に殺っちゃったんですね~。いい気味です~」

「なるほど。それで屋敷の雰囲気がやけに明るい訳ですね。納得しました」

 

 納得されてしまった。

 姉様に心酔して聖人になろうとしてたメイドスリーが、虐殺を責めるどころか思いっきり肯定してる辺り、我が家の闇を感じるわ。

 それどころか「あいつら、ルナ様の教育に悪いですしね」とか言い出す始末。

 帝国の闇は深い。

 でも、使用人達がここまで私に好意的なら、もう少し家の方に干渉してもいいかもね。

 

 そんな使用人達に見送られ、地下の転移陣を通って本邸の方へ移動。

 転移陣を警備させてるアイスゴーレムを横目に階段を上り、本邸の方でも生き生きとした使用人達に迎えられた。

 ちょっとゴミを掃除しただけで、職場環境が驚く程に改善されている。

 どんだけのガン細胞だったんだろう、あのクソ家族ども。

 

 でも、この変化は正直嬉しい誤算だ。

 本来の予定なら、この後すぐに国外逃亡するつもりだったんだけど、ルナにかけられた呪いのせいでそれはできなくなった。

 なら、最低でも呪いを解く算段をつけるまでは帝国に居座らざるを得ない。

 六鬼将にもなっちゃったし、仕事からも皇帝からも逃げられないだろう。

 

 そうなると、必然的に帝国でルナを育てるしかない。

 そして、帝国内でルナを最も安全に育てられる場所はここだ。

 帝都にいたら、また権力争いに巻き込まれかねないし。

 その点、このアメジスト領には権力争いをしようとする貴族がもういないからね。

 領内にある各街の街長とかはアメジスト家と所縁のある貴族だけど、立場的には本家であるこっちの方が遥かに上だし、大した力もないからそこまでの問題はない。

 念の為にクソ親父に飲ませたのと同種のアイスゴーレムを全員に飲ませておけば一先ずは安心できると思う。

 という訳で、ここは権力からも帝国の闇からも切り離して育てるには最適の環境なのだ。

 そんな場所の職場環境が改善されたのは喜ぶべき事だと思う。

 

 まあ、この屋敷でルナを育てる気はないけどね。

 だって血塗れの粛清があった屋敷って縁起悪いし、そもそも使用人達だって完全に信用できる訳じゃないんだから。

 私が完全に信用して信頼してるのは、同志であるメイドスリーだけだ。

 ノクス達だって、信用はしてても信頼はしてない。

 なんだかんだで、あいつらにも悪役らしい負の面はあるからね。

 まあ、身内にはかなり優しい奴らだって事はわかったから信用はしてるんだけど。

 

 そして、ルナの子育ては信頼できる奴にしか任せられない。

 必然的に適任はメイドスリーしかいない訳だ。

 更に、信頼できない者をルナに近づける訳にもいかない。

 だから、できる限りメイドスリーだけで子育てができる環境がいる。

 屋敷では、その条件が満たせない。

 

「という訳で、行くよ」

 

 その説明をメイドスリーにして、私は屋敷を出てある場所を目指して歩く。

 ちなみに、ルナの教育を任されたメイドスリーが決意とやる気と使命感で凄い燃えてたので、期待しておこうと思う。

 

 そうしてやって来たのは、かつて私が魔術の練習場に使い、姉様との逢瀬を繰り返した秘密基地。

 姉様との思い出が一番多く残る場所。

 正直、ここに居るだけで泣きそうだけど、今はそんな場合じゃない。

 

「じゃあ、始めるよ。ちょっと危ないから下がってて」

「「「え?」」」

 

 疑問の声を上げるメイドスリーにルナを預け、そのままかなり後ろの方へと下がらせた。

 そして、私は地面に手を置く。

 今から、この場所にずっと隠してきた秘密基地の本体(・・)を表に出す。

 

「『氷城(アイスキャッスル)』」

 

 その瞬間、地面が盛り上がって、そこから氷のドームがせり上がってきた。

 全体が巨大なアイスゴーレムで作られた、超巨大な移動型の氷のドーム。

 それは中身に土を侵入させない為に作った外装に過ぎない。

 その外装を今から砕く。

 

 そうして中から現れたのは、アメジスト家の屋敷より余裕で大きい氷の城。

 

 さすがに帝都にある本物の城や学園には及ばないけど、それでもどこぞの雪の女王が作った城並みにデカイと思う。

 これは元々、国外逃亡用の魔術をはじめとした諸々の研究の為の拠点が欲しいと思って作ったものだ。

 中には国外逃亡用の魔術や警備の為のアイスゴーレム数百体などが保管されている。

 あと、姉様から頂いたプレゼントという宝の数々を大事に保管している部屋もここにある。

 正確に言えば国外逃亡用の魔術の中だけど。

 

 そして、城を地下から引っ張り出す作業が終了し、メイドスリーの方を振り向く。

 3人は空いた口が塞がらないみたいだった。

 逆に、ルナは珍しい光景に興奮したのか、キャッキャと喜んでくれてる。

 その笑顔だけで救われるよ。

 

「ひゃー……」

「凄いですね~」

「前々から凄いとは思ってましたけど、ここまで凄かったんですね、セレナ様って……」

「ほら、ボーとしてないで行くよ」

「「「はい!」」」

 

 呆然としたメイドスリーに声をかけて、城の中へと招き入れる。

 ここに誰かを招いたのは、姉様以外では初めてだ。

 その後、簡単な城内の案内をしてから、改めてメイドスリーに告げた。

 

「あなた達にはこれから、ここでルナを育ててほしい。

 警備は私のアイスゴーレムが結構いるから大丈夫だと思うけど、万が一の時は渡しておいた護身用の魔道具を使って、死ぬ気でルナを守って」

「当たり前です!」

「この命に変えても守りますよ~」

「お任せください!」

 

 メイドスリーが頼もしく返事をしてくれる。

 本当に心強い。

 3人とも子育ての経験はない筈だけど、そこは年配の使用人に聞きに行くなりしてもらえばいいし、3人寄れば文殊の知恵って言葉もあるから大丈夫だと思う。

 警備の方も、アイスゴーレムは一体で並みの魔術師より強いし、護身用に渡した腕輪型の特別製アイスゴーレムがあれば、メイドスリーも高位貴族に匹敵する戦闘力を発揮できる。

 それに、私だってずっと留守にする訳じゃない。

 休みの日どころか、仕事を終えて帰宅する場所もここにするつもりだ。

 それでも不安は尽きないけど、ここより安全な場所なんて早々ないんだし、これで納得しないといけない。

 

「頼りにしてるからね、3人とも」

「「「はい!」」」

 

 だから、この不安は頼れる同志への信頼で埋めよう。

 そして、彼女達にも話しておこうと思う。

 この城のトップシークレットと、その使い方。

 それと、ルナがかけられている呪いと、その対処法について。

 

「皆、今から私のする話をよく聞いて」

 

 そうして、私はメイドスリーに全ての秘密をぶちまけた。

 それによって、メイドスリーの皇帝に対する殺意がカンストしたのは言うまでもない。


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