悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「お! 今日は気合い入ってんな、セレナ!」
初陣に出撃する日の朝。
今回の反乱鎮圧部隊の集合場所で、先に来ていたレグルスにそんな言葉をかけられた。
確かに、今回の私は気合いが入っている。
内心で気合い入れてるとかそういうんじゃなくて、目に見えて一目瞭然な感じで。
何故なら、本日の私のコーデは氷のフルプレートメイルなのだ。
この日の為、というかいつか戦いに駆り出される日の為に、半年がかりで作った鎧型アイスゴーレム。
時間と手間隙がかかってる分、その性能は即席で作ったアイスゴーレムは勿論、私の城にある自律式アイスゴーレムや、かつてのセレナ人形すら遥かに上回ってるのだ。
最低でも伯爵クラスの魔術じゃないと傷一つ付けられない防御力。
鎧に蓄えた魔力を身体強化以上の出力で使う事で、一時的に身体機能をレグルスが雑魚に思えるレベルまで引き上げる機能。
両腕の籠手部分に最高級品の杖を埋め込み、魔術の発動補助もバッチリ。
更にサブウェポンとして、腰に六本の剣型アイスゴーレムと、背中に四つの多機能型球体アイスゴーレムを装備。
モビルスーツもビックリな仕上がりになっております。
これが私の戦闘モードだ!
「さすがに初陣で死にたくはないので、気合い入れて来ました」
「アッハッハ! ビビり過ぎだろ! お前が簡単に死ぬなら俺らだってとっくの昔に死んでるっての!」
「いえ、その心掛けは立派なものです。相手が雑魚であろうとも油断しないのは大事ですからね。
そこの脳筋の言葉を真に受けてはいけませんよ、セレナ」
「誰が脳筋だ、コラァ!」
「わかりました、プルートさん」
「セレナ!? お前どっちの味方だ!?」
いや、だってプルートの言ってる事の方が正しいって思ったんだもん。
私はルナの為にも死ねないんだから、油断なんてできる訳がないもんよ。
だから、そんなに睨まないでくださいよ、レグルス先輩。
そんなやり取りをしてる間に、今回の作戦に参加する騎士達が続々と集まって来た。
数は全部で20人ちょい。
今回は相手が平民という事で少数編成だ。
カルセドニ男爵からの要請は「数が多くて面倒くさそうだから助太刀プリーズ」って感じだったらしいので、どいつもこいつもやる気がないというか、油断しまくってる感じがする。
まあ、こいつらからしたら、平民狩りなんてカブトムシ狩りと大差ないからね。
それだけ普通の人と訓練を受けた魔術師の力の差は大きい。
でも、それは普通だったらの話なんだよなー。
なんとなくだけど、今回の平民騒動はなんかあると私の勘が囁いている。
革命軍の本格的な始動が約2年後に迫ってるって知ってるからそう思うんだろうけど、だからこそこの予感が当たる可能性は高いと思うんだ。
だって、革命軍って基本的に平民の集まりだし。
帝国の腐敗に染まってない一部の、本当に極一部のまともな貴族が指揮取ってるとは言え、革命軍の構成員は九割が平民だ。
そして、今回暴動を起こしたのも平民だ。
それも、最弱の男爵家とは言え、貴族がヘルプを求めるくらいには大規模な暴動。
革命軍との繋がりを疑って当然でしょ。
で、革命軍には平民が貴族に一矢報いる為の秘密兵器がある。
だから油断できない訳よ。
まあ、そんな事他の奴らには言えないけどね。
だって、情報源どこだとか聞かれたら答えられないし。
証拠もなしに変な事言っても意味ない。
それどころか、余計な出る杭になって打たれるだけ。
それが政治だ。
だから、ゲーム知識云々は私の胸の内にしまっておく。
一応、信頼してるメイドスリーには内緒と念を押した上で、あくまでも私の予想という事にして一部話してあるけど。
そんな事を考えてる内に、今回の作戦に参加する騎士が出揃った。
んだけど、その中に予想外の顔があって我が目を疑った。
思わず目を見開いてガン見しちゃったよ。
兜で視線隠れててよかった。
「ほら、セレナ」
私がそいつを見て硬直した時、レグルスが私の背中を軽く押して前に押し出した。
今回の指揮官として挨拶しろって事だと思う。
私は予想外の人物の対処法を考えながら、口を開いた。
「あー、私が今回の作戦指揮を任された六鬼将のセレナです。よろしくお願いします。
敵はカルセドニ男爵領で暴動を起こした平民達。
簡単な任務に思えますが、窮鼠猫を噛むと言いますし、油断せずに行きましょう。
それでは、出発!」
そうして私は挨拶を終え、用意された馬に跨がって、カルセドニ男爵領に向けて出発した。
……ホント、どうしよう今回の仕事。
何をするべきで、どう動くのが最善なのか若干迷う。
主に予想外の人物のせいで。
まさか初陣でこんな変な感じに頭使う事になるとは思わなかったなぁ。
まあ、幸い目的地に付くまでは数日かかるし、それまでに考えとけばいっか。
そうして、私の六鬼将としての初仕事が始まったのだった。