悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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22 えらい事になってますがな

 行軍を開始してから10日。

 私達はカルセドニ男爵領に入り、目的地である領都のすぐ近くにある森の中にまで来ていた。

 帝国で使われてる軍馬は魔獣の一種みたいで、スポーツカー並みのスピードで走る化け物なのに、移動には結構な時間がかかるのだ。

 純粋にブラックダイヤ帝国は広いからね。

 帝都と国境の間くらいにあるカルセドニ男爵領までの距離ですら、多分日本が丸ごと入ってお釣りがくるくらいの距離があるよ。

 マジで大国なんだよなーこの国。

 ちなみに、伯爵領以上の領地とか、国境を含めた重要な地点とかには帝都と繋がった転移陣があるから、少数の部隊ならそれで送り込めたりするんだよね。

 つまり、今回の仕事は少数部隊なのに馬で移動しなきゃいけないという中々にレアなケースな訳だ。

 貧乏クジ引かされた気分。

 

 そんなどうでもいい事を考えながら馬を走らせ、今回の作戦を大まかに決めた時、私達は前方から走って来る馬に遭遇した。

 ただの馬じゃない。

 私達の乗ってるスポーツカー並みのスピードで走る馬魔獣と同種の馬。

 即ち、帝国の軍馬。

 そんな馬が上にボロボロの騎士っぽい奴を乗せて走って来た。

 その鎧には帝国のマークが刻まれている。

 

「全隊止まれ!」

 

 私は騎士達に停止命令を出し、前から走って来たボロボロ騎士に近づいた。

 探索魔術の応用による見極めで、この騎士が本当に弱ってる事はわかってるから、これが罠の可能性は低いと思ってる。

 勿論、警戒はするけど。

 それで、ええっと、こういう時のマニュアルは確か……

 

「私は帝国中央騎士団所属、六鬼将序列六位『氷月将』セレナ・アメジストです。所属と階級を名乗りなさい」

 

 先に自分の階級を明かして、相手にもそれを求める。

 淀みなく答えられなければスパイ認定して拘束だ。

 

「ゴホッ! カ、カルセドニ男爵騎士団所属、三級騎士ボブ・ストンです」

 

 うん。

 すんなり答えられたみたいだし、多分本物。

 なお、騎士団は帝都所属の中央騎士団と、各領地所属の辺境騎士団に別れてるのだ。

 で、その中に、一級騎士、二級騎士、三級騎士という階級がある。

 一級騎士が公爵から侯爵クラスの魔力量と戦闘力。

 二級騎士が伯爵から子爵クラス。

 三級騎士が男爵クラス。

 こんな感じ。

 あくまでも目安なので、戦闘力が高ければ魔力量が低くても上の階級に上る事はできる。

 実際、ウチのクソ親父なんかは伯爵だけど一級騎士だったし。

 ちなみに、六鬼将は一級騎士の更に上だ。

 

「では、とりあえず、あなたの治療をしましょうか。『回復(ヒール)』」

 

 ボブさんに回復魔術をかける。

 クソ国家の騎士とは言え、まだクズ認定はしてないんだから、見捨てるのは忍びない。

 それに、例えクズだったとしても、六鬼将としては味方を無駄に見捨てる訳にもいかないし。

 怪我がみるみる内に治り、私の回復魔術の腕前に驚いたのか、ボブさんが目を見開いた。

 

「それで、ストン騎士。何があったんですか? 報告しなさい」

「は、はい! な、謎の武器を手にした平民達の猛攻に合い、カルセドニ男爵騎士団は敗走! 領都は陥落いたしました!」

 

 わお。

 やっぱり私の予感当たっちゃったか。

 でも、私以外の騎士は予想すらしてなかった訳で、ボブさんの言葉を聞いて結構、いや、かなり動揺してる。

 レグルスとプルートも例外じゃない。

 それくらい、最弱の男爵騎士団とは言え、貴族が平民に負けるっていうのは驚天動地の出来事なんだよねー。

 

「なるほど。事情はわかりました。では少し見てみましょうか。『氷翼(アイスウィング)』」

 

 私は鎧の背中部分に即席で氷の翼を作り出し、それを前のアイスゴーレムと同じ要領で浮かせて空に飛び上がった。

 別にこんな事しなくても、鎧だってアイスゴーレムなんだから飛ばせるんだけど、まあ、気分だよ気分。

 それに、魔術はイメージが大事だから、翼を作ったりアイスゴーレムを鳥型にしたりすると、案外バカにならないくらい飛行能力に差が出るのだ。

 だから、これは決して魔力の無駄使いではない!

 

「お、あれかな?」

 

 空中で誰も聞いてないから素の言葉遣いに戻る私。

 そんな私が、身体強化の応用である無属性の中級魔術『千里眼』によって視力を強化し、遠くの方を見てみると、領都の跡地と思われる瓦礫の山を占拠する大量の軍団を発見した。

 その人達は平民が無理矢理武装しましたーって感じの安物っぽい装備に身を包み、手に両手銃みたいなゴツイ代物を持って元領都に居座ってる。

 えらい事になってますがな。

 そして、あの人達どう見ても革命軍の息がかかってますわ。

 あんな特徴的な武器、他にある訳ないじゃん。

 

 なお、その元領都に大量の死体が転がってるのも見えたんだけど、レグルスとプルートの後ろで何回か戦争を経験する内に、あれくらいなら見ても吐き気を催さない程度にはグロ耐性が付いたよ。

 姉様を助けに行った時にも護衛の死体とか見てたし、クソ家族どもを殺した時なんか結構なスプラッタだったしで、元々それなりの耐性が付いてたみたいだしね。

 それでも結構気分悪くなるけど、そこは我慢するしかない。

 

 そんな空からの偵察を終えて、地上へと帰還する。

 

「確かに、領都は暴徒達によって制圧されているようですね。

 予定を変更します。

 本来であればカルセドニ男爵に面会し、暴徒の情報を得てから討伐作戦を開始する予定でしたが、肝心の男爵の住まう領都が制圧されていては、それどころではないでしょう。

 なので、まずは領都を暴徒達の手から解放します」

 

 私はこの後の予定を告げた。

 同時に思考加速を使って即座に作戦を練り上げ、通達する。

 

「私は領都の上空から敵の主力を叩きます。

 あなた達は四人一組になって散開。その内四組は東西南北の各門へと赴き、そこで逃げようとする敵を処理しなさい。

 残りの一組は領都内に入り、私と共にそこに残る敵を殲滅です。

 わかりましたか?」

『ハッ!』

 

 騎士達が元気よく、反論の一つもせずに返事をする。

 ここに集まった騎士の殆どは、私がボコボコにして上下関係を叩き込んだ連中なので文句は言わない。

 そうして指示を出す私を、プルートは満足そうな顔で眺めていた。

 レグルスは「俺よりちゃんとしてやがる……」と呟きながら微妙な顔してた。

 そんな二人は監督役なので作戦には組み込めない。

 組み込まなくても多分問題ないと思うけど。

 

「よろしい。では、作戦開始!」

 

 なんか当初の予定とは違うトラブルが発生しちゃったけど、これは充分に予測できた事態なんだから問題はない。

 むしろ、これはある意味チャンスだ。

 そう思って戦うとしよう。

 

 さて、それじゃあ戦闘開始と行こうか。


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