悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
鎧の性能テストも兼ねて、普通に魔術を使うんじゃなく、サブウェポンの剣や球体だけで革命軍を蹂躙してみた。
結果、このサブウェポンはかなり使える事が実証できました。
これは今でもよくやるレグルスやプルートとの模擬戦や、魔獣討伐の経験を基に、頭を捻って私に足りない要素を補う為に作った武装だ。
まず大前提だけど、純魔術師タイプの私が一番得意とする戦闘スタイルは、言うまでもなく遠距離戦。
で、その時、相手の攻撃を自動でガードしてくれる盾でもあれば、一方的に自分だけ魔術を撃ちまくれて超有利になるのに! という思いから生まれたのが多機能型球体アイスゴーレムだ。
これはセレナ人形と同じく魔術を使える自律式アイスゴーレムなので、核となる球体の周りに盾型の氷を生み出して自動で私を守ってくれる。
それが基本のプログラムな訳だけど、それ以外にも私が手動で操作すれば強烈な魔術を使って私本体のサポートをする事もできるし、まさに多機能型。
実際に使ってみて改めてわかった、この便利さよ。
もう一つの剣型アイスゴーレムは、近距離戦を仕掛けてくるタイプに対処する為の武装だ。
前にレグルス相手に即席で氷の剣を作って戦った事があったけど、あれをもっと極めればちゃんとした技として確立できるんじゃないかと思って作ったのが、この六本の剣型アイスゴーレム。
これは自律式じゃないから球体アイスゴーレムと違って自動では動かないし、剣以外の形に変える事もできないけど、その分凄く頑丈で素早く動かせる。
これならレグルスに軽く捌かれるって事もないと思うし、これによるサポートと、今回は使わなかった身体強化の魔術、更に鎧によるそれ以上の強化があれば、例え近接戦闘タイプに距離を詰められても戦えると思う。
まあ、今回は普通に遠距離攻撃に使っちゃったけどね……。
それはともかく。
普通の魔術をメインに、球体アイスゴーレムで守り、鎧本体と剣型アイスゴーレムで近距離に対処する。
これが私のガチ戦闘スタイルという訳だよ。
隙なしだぜ!
多分、この状態ならレグルスとプルートの二人を同時に相手しても勝てると思う。
私も強くなったもんだ。
それを今回の戦いで実感できた。
だから、少しは喜ぼう。
そうじゃないと、気持ち悪さと罪悪感で吐いてしまいそうだ。
今私の目の前で起こっているのは虐殺の光景。
剣型アイスゴーレムが罪のない人々を斬り殺し、戦意喪失して逃げた人には、即席で作った手抜きアイスゴーレムをぶつけるという鬼畜の所業。
それをやってるのは私だ。
一応、戦意喪失した人達はできるだけ殺さないようにアイスゴーレムを操ってるけど、そんな事はなんの言い訳にもならない。
どうせ、ここで私が殺さなくても貴族殺しなんて重罪をやらかした以上は死刑だろうし、下手したら貴族の玩具にされて私が殺すよりも惨い死を迎えるかもしれない。
だけど、それでもできるだけ無駄な殺しはしたくない。
これは私の我が儘だ。
この手を血で汚す覚悟は決めてきた。
これは戦争だ。
お互いに大事なものを守る為の戦いだ。
その中での犠牲はもう仕方がない。
戦争ってそういうものなんだから。
だけど、必要以上に殺せば、必要以上にいたぶれば、それはもう戦争ではなく悪魔の遊びだ。
他のクソ貴族どもがやってる事と何も変わらない。
帝国の闇に染まり、完全な悪になってしまったら、私は姉様に顔向けできない。
胸を張ってルナを育てる事もできない。
そして、私がそうなってしまう事を姉様は望まないだろう。
私は、自分が鬼になろうが悪魔になろうが、それで姉様を守れるなら本望だった。
その想いは今でも変わっていない。
姉様が死んで、守る対象がルナに変わっただけで、私の覚悟はそのまま残ってる。
それでも、できるだけ姉様の意志に背きたくない。
姉様が望まない事をやりたくない。
姉様が悲しむような存在になりたくない。
私は姉様の意志よりもルナの命を優先する。
だけど、それは決して姉様の意志を蔑ろにしていい理由にはならない。
命の方が優先順位が高いだけで、姉様の意志だって滅茶苦茶大切なものなんだから。
だから、私は無駄な殺しはしない。
無駄にいたぶる事もしない。
無駄に弄ぶ事もしない。
ただ、必要だと思った時だけは、私は悪に染まる。
その時だけは、私は鬼にでも悪魔にでもなる。なってやる。
「そう。これは必要な事なんだ」
だから、やる。
だから、殺る。
だから、こんな鬼畜行為に手を染めたんだ。
本当なら一撃で全員凍らせちゃえばよかった。
そうすれば無駄な血なんて一滴足りとも流れなかった。
それなのに、ここまで派手に人を殺したのは、それによって平民達を街の中で逃げ回らせ、
そんな外道な事をするくらいの覚悟がとうに決まってる。
なら、もう迷いはない。
私は今回のメインターゲットを殺害するべく、再び動き出した。
多分、私のこの決断が歴史を歪めてしまうだろう。
あった筈の希望の未来を打ち砕き、来る筈だった夜明けを遠ざけて、多くの人々を終わらない絶望の夜に沈める事になると思う。
それでも、それが必要な事なら。
それでルナの命が助かるのなら。
私は喜んで、多くの人々を不幸のどん底に突き落とす。
例え、それを姉様やルナ本人が望まなかったとしても。