悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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24 やっちまった。もう後には引けない

 手抜きアイスゴーレム達に革命軍の武器であった魔導兵器(マギア)を使わせ、革命軍の仕業に見せかけて今回のメインターゲットであるブライアン・ベリルを殺害した私は、内心の凄まじい罪悪感を押さえ込みながら、何食わぬ顔で仕事に戻った。

 これで今回やるべきだった最大のミッションは完了だ。

 あとは本来の仕事である暴徒鎮圧を済ませればお仕事完了である。

 

 ここで、ブライアンを殺した理由を説明しておこうと思う。

 実はなんと!

 彼はゲームにおいて主人公を革命軍に勧誘する物語のキーマンだったのだ!

 な、なんだってー!

 

 つまり、ブライアンが生きていた場合、今から約2年後のゲーム開始時において、彼は帝国騎士でありながら革命軍のスパイというカッコいい感じの職業にジョブチェンジする事になる。

 もしかしたら、今の時点でもう既に革命軍と繋がってたのかもしれないけど、証拠はないし、本人も死んじゃったから確かめようがない。

 

 まあ、それはともかく。

 2年後のブライアンは、例のゲーム序盤のイベントである宿屋の看板娘誘拐事件を引き起こすクソ貴族の所の護衛騎士になってて、そこに看板娘を助けに来た主人公をボッコボコにして捕まえた後、主人公の正義の心に感化されて、彼を助けつつクソ貴族の屋敷を全焼させて逃走。

 その後、主人公を革命軍に勧誘する訳だ。

 ちなみに、護衛対象を死なせちゃった事によって、ブライアンは騎士としての身分を失い、スパイから本格的な革命軍の戦士にジョブチェンジして、主人公のパーティーメンバーになる。

 その後は、最終決戦で皇帝に挑む時まで一緒だ。

 そうして、ブライアンは主人公と一緒に皇帝を倒して英雄となる。

 

 私はそれを殺しちまった訳だよ!

 ウェーイ!

 罪悪感で吐きそう!

 頭が壊れてテンションがおかしな事になってるぜ!

 

 そして、これでもう後には引けない。

 ブライアンが死んだ以上、因果率的な何かが発生しない限り、主人公も宿屋の看板娘誘拐事件の時に死ぬだろうし、そうなったら革命は十中八九成就しない。

 主人公なしで勝てる程、皇帝は甘い相手じゃないと思うから。

 

 故に、私はこれから一切の容赦なく革命軍を潰す。

 あわよくば主人公が皇帝を殺してくれないかという淡い期待を自分の手で潰しちゃった以上、もう革命軍に期待する事はできない。

 だから全力で潰す。

 だって、革命軍によって帝国が追い詰められたらルナの死亡率も上がっちゃうだろうから。

 この国の夜明けを待ってる人達には悪いけど、しばらくは真っ暗闇な夜のままにさせてもらおう。

 その代わり、皇帝がノクスに代替わりしたら国は変わると思うから、それで許してほしい。

 無理か。

 無理だな。

 本当にごめんなさい。

 

 正直、ブライアンを殺すかどうかの選択は凄い迷った。

 正確には、主人公による皇帝殺しを期待するか、その可能性を切り捨てて完全に帝国に服従するかで凄い迷った。

 だって、私としては革命軍の目的が成就する事自体は別に問題ないというか、むしろ、諸手を挙げて歓迎したいくらいなんだから。

 

 革命の成功は即ち皇帝の死だ。

 国家元首を討ち取らずして成功する程、革命は甘くない。

 どこぞの徳川最後の将軍様みたいに降伏でもしない限りはね。

 あの皇帝が降伏?

 ないでしょ。

 よって、革命軍の勝利条件の一つは皇帝の首な訳だ。

 そんなもんはノシつけてプレゼントフォーユーしたい。

 革命軍が皇帝だけ殺してくれるんなら、私は心の底から応援するよ。

 そう。

 皇帝だけ(・・)殺してくれるんならね。

 

 でも、これはそう簡単な話じゃない。

 私が応援するのは、あくまでも革命の結果だ。

 その過程にある事に関しては一切応援できないし、それどころか全力で叩き潰さなきゃならない。

 革命軍が皇帝に迫るという事は、帝国を切り崩して進軍してくるという事だ。

 そして、帝国を打倒せんとする敵を、六鬼将の私が放置する訳にはいかない。

 そんな事したら職務怠慢で首が飛んでしまう。

 そうなったら、ルナのお先が真っ暗だ。

 

 当然、そんな事が許容できる筈もなく、どっちみち私は革命軍と戦わざるを得ない。

 しかも、革命軍に帝国が追い詰められたら、私やルナの死亡率も上がる。

 戦争は勝ち戦より負け戦の方が死にやすいのは言うまでもない。

 そして、私が死んだら皇帝にとってルナを生かしておく理由がなくなってしまう。

 当て付けに呪いを発動させるか、それとも私や姉様の代わりとしてコレクションにするか。

 どっちしろ平穏な生活は送れないだろう。

 そんな事許せる訳ねぇだろ!

 おまけに、侵攻してきた革命軍がルナの居るアメジスト領に手を出さない保証だって欠片もないんだから。

 

 こんな感じで、革命軍が侵攻して来るのはリスクが高過ぎる。

 私にとって、革命軍という存在はとんでもないギャンブルなのだ。

 革命軍の進軍を見逃し、戦死や処罰やルナの死と紙一重の危ない橋を渡り続けて、革命軍を皇帝にぶつけて殺させる。

 それがこのギャンブルの勝ち筋。

 カ◯ジ並みのクソ難易度じゃねぇか!

 そんな危な過ぎる賭けできるか!

 チップが私の命だけならやっただろうけど、ルナの命まで懸かってる以上、できる限り危ない橋は渡れないんだよ!

 

 という事で、私の中ではギャンブルダメ絶対という結論が既に出ていた。

 それでも、実際に皇帝を殺し得る手段を潰すという決断は凄い勇気が必要だったけど。

 だって、それに頼れないなら、私が取るべき手段は一つしかなくなるのだから。

 

 その手段とは、悪の帝国に忠誠を誓い、呪いを解く手段を見つけるか、皇帝がいつか死ぬその時まで、ひたすらに耐え続ける事。

 

 皇帝だって人間だ。

 いつかは必ず寿命で死ぬだろう。

 そうすれば、呪いを解く手段が見つからなくてもルナは自由になれる。

 皇帝が死ぬまで自由な生活を送らせてあげられないどころか籠の鳥生活を強いてしまうっていうのはもの凄く心苦しい。

 けど、その時間が辛いならコールドスリープという手もある。

 そうすれば寿命も縮まないし、私のコールドスリープは魔力ごと対象を凍結封印するから、もしかしたら皇帝の呪いごと止められるかもしれない。

 今もルナには、呪いが発動しそうになったら即座にコールドスリープ状態にさせるお守りを持たせてるし、手段の一つとしてはありだと思う。

 失敗したらルナの人生を丸ごと奪っちゃう手段だから、本当に最後の手段だけど。

 

 でも、そういうの全部ひっくるめて、これが私の選ぶ道である。

 憎い憎い皇帝に頭を下げ続け、悪の帝国に忠誠を誓い、ルナの助命を懇願し続ける事を私は選ぶ。

 それが一番成功率の高い賭けだからだ。

 

 だから、私は革命軍を潰す。

 彼らが真に国家を憂いて、虐げられる民衆を憂いて、そんな大義の為に戦う組織だったとしても、そんな事は関係ない。

 革命軍の存在はルナを危険にさらす。

 だから、潰す。

 徹底的に潰す。

 半端はやらない。

 慈悲も情けもかけない。

 それが必要な事だと、必要な戦いで必要な殺しなんだと信じているから。

 

 私はブライアンの亡骸に背を向け、彼と同じような善良な革命戦士達を踏みにじる覚悟を改めて決めた。


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