悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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3 回り出す破滅の歯車

「い、今なんて……?」

 

 私が転生してから10年が経ち、もうすぐ10歳の誕生日を迎えようかという頃。

 私は敬愛するエミリア姉様から絶望的な事を告げられ、絶句した。

 聞き間違いであってほしい。

 肯定の言葉なんて聞きたくない。

 エミリア姉様の声を聞きたくないなんて思ったのは初めてかもしれない。

 

「うん。私、結婚する事になったの」

「ノォーーー!」

 

 聞き間違いじゃなかった、チクショウ!

 ふざけんなよ!?

 私がもうすぐ10歳って事は、エミリア姉様は15歳だぞ!

 ロリ婚反対!

 まだ学園だって卒業してないのに!

 おまけに、もう少しで逃走用の魔術が完成するという、このタイミングで!

 しかも! しかも!

 

「こ、これは私の聞き間違いですよね? 姉様の結婚相手が……」

「うん。皇帝陛下」

「ジーーーザス!」 

 

 まさかの!

 まさかの皇帝!

 私は頭を抱えた。

 だって、今の皇帝ってゲームのラスボスやぞ!?

 そうじゃなくても、姉様と大して歳の変わらない子供がいるおっさんやぞ!?

 おまけに、側室を囲いまくってハーレム作ってる女の敵やぞ!?

 ざけんな!

 

「い、一応聞きますけど、断る事は……」

「無理だね。そんな事したら我が家はお取り潰しになっちゃうと思うよ」

「ですよねぇ……」

 

 ウチが潰されるだけなら別にいいんだけど、多分、というか間違いなく、家がなくなって貴族じゃなくなった姉様は強制連行されるよね。

 嫁じゃなくて性奴隷として。

 今の皇帝はそういう奴だもん。

 ふっっっざけんな!

 あのクソ国家の愚王め!

 殺してやるぅ!

 ぶっ殺してやるぅ!

 

「なんで……! なんで、こんな事に……!」

 

 原因はわかってる。

 姉様の通ってる貴族学校に皇帝が視察に来て、そこで姉様を見初めてしまったのだ。

 たった今、本人に聞いた。

 まあな!

 ウチの姉様は美人で優しくて優秀で天使だからな!

 私の迸る愛によるフィルターを通さなくても、ウチのクソ親父が私同様の扱いを姉様にしないで学園にまで通わせてたって時点で、姉様自身に凄まじい価値があるって事がわかるだろう。

 

 そう。

 本来、エミリア姉様と私は同じ立場の筈なのだ。

 だって、姉様と私は同腹の姉妹。

 同じ母から生まれた。

 つまり、姉様が持っている親関連の後ろ楯は、私と同じで全くの0。

 本来なら姉様も私と同じく、いない者扱いされ、他の家族(クズ)どもから冷遇されてなきゃおかしい。

 

 加えて、姉様はぐうの音も出ない聖人だ。

 ぐうの音も出ない畜生である他の家族(クズ)どもとは、よく使用人達の扱いとか、拐って来た平民の扱いとかで揉めてた。

 家族(クズ)どもからしたら、さぞ鬱陶しかったに違いない。

 だったら、むしろ私以上に冷遇されて、文句を言う権利ごと剥奪されるのが自然だ。

 まあ、そんな事になってたら、私が暴走して一家氷殺事件が起きてただろうけど。

 

 そうならなかったのは、ひとえに姉様に価値があったから。

 まず第一に、姉様は美少女だ。

 サラサラの白髪、宝石のように輝くアメジスト色の瞳、均整の取れたナイスバディ。

 ホントに私と同じ血が流れてんのかと疑うレベルで美少女だ。

 私が何度、禁断の恋に目覚めかけた事か。

 それだけの美貌があれば、玉の輿を狙わせて、より上位の貴族と縁を結ぶ事もできる……とか考えてたんだと思う、あのクソ親父は。

 

 次に、姉様は優秀である。

 イチャイチャタイムで教えてくれた勉強とかは、明らかに難しい内容を、私にもわかりやすいように噛み砕いて教えてくれてた。

 それって、姉様がその内容を完璧に理解できてないとできない芸当だからね。

 

 おまけに、姉様は魔術も凄い。

 元々の才能も凄いんだけど、それに加えてゲームシステムという名のこの世界の魔術習得の理をほぼ完全に理解している私が色々と教えたせいで、本当に凄い事になってるのだよ。

 具体的に言うと、10年に一人の天才とか呼ばれるレベル。

 さすがに、人生の殆どを魔術に費やしてる私程じゃないけど、それでも魔術だけなら戦場で優秀な騎士としてブイブイ言わせてるクソ親父より強い。

 尚、クソ親父はアレでも帝国全体でトップ50に入るくらいには強いって話です。

 魔術の上達は発言力の上昇と死亡率の低下に直結するからね。

 そりゃ、全力で仕込みましたとも。

 

 さて、ここまで話せばおわかり頂けただろうか?

 姉様の凄まじさと麗しさと尊さと素晴らしさとクソ家族どもに冷遇されない理由が。

 私なんぞとは訳が違うのだよ!

 そのせいで皇帝の目に留まっちゃったんだけどな!

 あいつ、優秀な奴が大好きだから!

 クソがぁ!

 原因がわかってても嘆かずにいられるか!

 

「……セレナ、ごめんね。あなたを一人にしてしまう。寂しい思いをさせちゃうし、辛い思いもさせちゃうと思う。

 でも、困った時は私の使用人達を頼……」

「そんな事はどうでもいいんです!」

「ええ!?」

 

 私は吠えた。

 

「それより、私は姉様の方が心配です!」

 

 私の安否なんてどうでもいい事より、姉様の安否の方が百億倍大事だよ!

 数字で書くと、10000000000倍!

 いや、やっぱりこんなんじゃ足りない!

 全然足りない!

 私の姉様への気持ちも心配も、百億の百億乗くらい数字がないと表現できないんだよぉ!

 

「わかってるんですか!? 姉様は権謀術数が渦巻き、魑魅魍魎が跋扈する宮殿に行くんですよ!? しかも後宮! 醜い女の争いが絶えない危険地帯に!」

 

 今の皇帝には正室がいない。

 10年くらい前の帝位継承争いに巻き込まれて死んだからだ。

 それ以来、皇帝は新しい正室を娶る事なく、気に入った女をホイホイ側室にして後宮に押し込み、ハーレムを作っている。

 まさに女の敵!

 しかも厄介なのは、正室がいないって事で、全ての側室の立場が表向き対等ってところだ。

 つまり、世継ぎを生むなり皇帝に気に入られるなりすれば、かなりの権力を得られてしまう。

 それこそ、下手したら国母になれるくらいの権力を。

 そうなれば始まるに決まってるっしょ。

 親類までガッツリ巻き込んだ、醜い女の争いが!

 

 そこに姉様を放り込んだらどうなると思うよ?

 命狙われるに決まってんだろ!

 ただでさえ、姉様はクソ貴族どもに嫌われる聖人天使なんだから、そういう権力目当てのクズどもから目の敵にされる未来が目に見えてるんだよ!

 

 おまけに、今は革命の時がすぐ近くにまで迫ってるんだぞ!?

 はーい、突然ですが、ここで問題です。

 革命が成功した時に、皇帝の妻なんて立場にいる人間はどうなるでしょうか?

 答え、連座処刑で打ち首獄門に決まってんだろ!

 しかも、後宮は出入りできる人間がかなり限定されてる上に、当然、警備も国内トップクラス。

 私がこっそり潜入して姉様を拐って行くなんて不可能に近い。

 どないせいっちゅうねん!?

 

「姉様が男の毒牙にかかるってだけでも耐え難いのに、嫁ぎ先が命の危険しかない場所だなんてあんまりですよぉ!」

 

 私は慟哭した。

 慟哭しながら姉様に抱き着き、胸に顔を埋めながら咽び泣く。

 姉様は、そんな私を優しく抱き締めながら頭を撫でてくれた。

 離したくない、この温もり。

 でも、それはできない。

 今の私じゃ国外までは逃げ切れないし、国内に潜もうにも、皇帝に目をつけられた以上はすぐに見つかる。

 見つかれば多分私は殺され、姉様は性奴隷コース一直線だ。

 そんな危険な賭けはできない。

 

「うー! うー!」

「ごめんね……ごめんね、セレナ……」

 

 奇声を発しながら泣き続ける私を、姉様はいつまでも優しく抱き締めてくれた。

 姉様が謝る必要なんてない。

 でも、そういうところが姉様の魅力なんだと思う。

 その魅力も、もうすぐ皇帝のクソ野郎に奪われてしまう。

 だったら、だったら、せめて……

 

「姉様」

「何、セレナ……っ!?」

 

 私は姉様の胸に埋まっていた顔を上げ、そのまま姉様の唇を奪った。

 ただのキスではなく、大人のキッスである。

 

「!? !? !?」

 

 姉様は驚愕と混乱で動きを止め、されるがままになっている。

 そして、キッスを終えた瞬間、真っ赤な顔で唇を押さえた。

 超可愛い。

 

「セ、セレナ!? な、ななななな何を!?」

「皇帝に奪われる前に奪っちゃいました。姉様のファーストキス」

「っ!?」

 

 ちゃんと言葉にしたら、姉様の顔が更に赤くなる。

 熟れたリンゴみたいで美味しそう。

 食べちゃいたい。

 

「姉様の初めての相手は私です。運命の相手は皇帝なんかじゃなくて私です。誰がなんと言おうと私です。

 だから、そんな私はなんとしてでも運命の相手である姉様の隣へと戻ります。

 待っててくださいね」

「へ?」

「待っててくださいね」

「う、うん」

 

 よし! 

 言質は取ったぞ!

 絶対に迎えに行くから覚悟しててくださいね、姉様!

 さながら物語のヒーローのように、颯爽と姉様(ヒロイン)を救い出してやるぜ!

 

 私はこの日、姉様が嫁に行ってしまうという残酷な現実を受け入れ、一刻も早く助け出すという決意を固めた。


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