悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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勇者の目覚め 2

 その後、俺はどうしても納得がいかず、馬車が去って行った方向に向かってひたすら走った。

 幸い、目的地はハッキリしている。

 馬車が消えて行った方向には、街の中央に鎮座する巨大な屋敷がある。

 前にこの街に来た時、あれが貴族の屋敷なのだと父さんが教えてくれた。

 同時に、絶対に近づいてはいけないとも言っていた。

 その時は意味がわからなかったけど、今ならわかる。

 わかった上で、俺はその言い付けを破ろうとしている。

 

 ごめん、父さん。

 でも、俺はどうしても納得できないんだ。

 平気な顔して他人を傷つける奴がいて、傷つけられた方は仕方がないと言って歯を食い縛って耐えるしかないなんて。

 そんなの絶対間違ってる。

 他の皆が仕方ないと言ったからって納得できる訳がない。

 だから、俺は走った。

 誰も助けてくれないなら俺が助けてやると意気込んで。

 何より、こんな理不尽が心の底から許せなかったから。 

 

 でも、俺のそんな想いは簡単に打ち砕かれた。

 

「ぐあっ!?」

 

 剣が俺の体を斬り裂き、火や水の球が俺を殺そうと襲い来る。

 俺はただ避ける事しかできない。

 いや、避ける事すら完全にはできてない。

 何度も何度も攻撃を食らい、傷がドンドン増えていく。

 このままじゃ長く持たないのは明白だ。

 

 貴族の屋敷に辿り着いた俺は、村一番だった自慢の身体能力で塀を飛び越えて敷地の中に入った。

 そこから見つからないようにコソコソ移動して、看板娘さんを探す為に屋敷の中に入ろうとしてた時。

 俺はあっさりと鎧を纏った人達に見つかった。

 大きな音を出した訳でも、うっかり姿を見せた訳でもないのに、あっさりと見つかってしまった。

 どれだけ優秀なんだろうか。

 その優秀さを他の事に使ってほしい。

 

 そして、俺はその鎧を着た人達に追い回され、追い詰められ、最終的には戦闘になった。

 この人達は本当に強かった。

 一人一人が俺達の村を襲った奴よりも余裕で強い。

 本当に、その優秀さを別の事に使ってほしい。

 でも、それは期待できない。

 追い詰められた時に「貴様! 目的はなんだ!」って尋ねられたから「俺は拐われた人を助けに来ただけだ!」って答えた。

 そうしたら「馬鹿な平民だ! 殺せ!」ってなった。

 結局、この人達もあの悪魔と同類だったのだ。

 説得も善意も期待できない。

 

 そして結局、俺はその人達にボロ雑巾みたいにボコボコにされ、まだ生きてるのかと驚かれながら牢屋に放り込まれた。

 すぐに殺されなかったのは、トドメを刺される寸前であの看板娘さんを拐った貴族の男が出て来て「いい事を思い付いた。おい、まだ殺さず牢にぶち込んでおけ」と鎧の人達に命令したからだ。

 何をする気か知らないけど、絶対にロクな事じゃない。

 あのガマガエルみたいな意地汚い笑顔を見れば、それくらいわかる。

 

「うっ……ぐっ……」

 

 牢屋に放り込まれた俺は、全身を襲う痛みに呻いていた。

 痛い。

 身体中が痛い。

 そして、心も痛い。

 あまりにも自分が情けなくて泣けてくる。

 

 本当に情けない。

 俺が助けるんだと息巻いておいて、結局は何もできずに捕まるなんて。

 村を襲った貴族を倒した事で、俺なら他の貴族だって倒して、俺と同じような不幸な人達を助けられると自惚れていたんだろうか。

 今度こそ理不尽を倒せると思い上がっていたのだろうか。

 蓋を上げてみれば、俺なんてこんな弱い存在でしかなかったというのに。

 

 今、俺の目の前には大勢の不幸な人達がいる。

 俺が入れられた牢屋とは別の牢屋に、大勢の傷ついた女の人達がいるのだ。

 その人達は皆ボロボロの服を着て、虚ろな目をしている。

 多分、俺から見えない位置には看板娘さんもいるんだろう。

 

 なのに、俺は誰一人として助けられない。

 無力だ。

 他の人達も、きっとこんな気持ちだったんだと思う。

 貴族に逆らっても今の俺みたいになるのが目に見えてたから。

 勝てない戦いを挑んで、他の大切なものまで失う訳にはいかなかったから。

 だから、歯を食い縛って耐えてた。

 そんな事も理解せずに、何が「どうして助けなかったんですか!?」だ。

 この国はどこまでも残酷で、そんな真っ当な正義を貫けるような場所じゃないっていうのに。

 

「クソッ……!」

 

 悔しい。

 理不尽に泣く事しかできないのが堪らなく悔しい。

 なのに涙が止まらない。

 俺は、なんて弱いんだ……!

 

「わっ! ……これは酷いわね。ちょっとあんた大丈夫?」

 

 その時、目の前から声がした。

 直後に感じた、ツンツンと硬い何かで頭をつつかれる感触。

 ボロボロの身体に鞭打って顔を上げると、そこには俺の思考を一瞬真っ白に染め上げる程の衝撃の光景があった。

 

「し……」

「し?」

「白……」

 

 そこにいたのは、ボロボロの服を着た俺と同い年くらいの女の子だった。

 無理矢理千切ってミニスカートのような丈になってしまっている服を着た女の子が、床にうつ伏せで倒れる俺に合わせて屈み、鉄格子の隙間から鞘に入ったナイフのような物を入れて俺の頭をつついている。

 そう、女の子はそんな格好で屈んでいる。

 だから、その、見えてしまっているのだ。

 男が本能的に求めてやまない布地が。

 こんな状況だというのに、反射的にその布地の色を口走ってしまった。

 こんな状況で何をやってるんだろう俺は。

 あ、鼻血が。

 

「はぁ? あんた何言って……っ!?」

 

 女の子は途中まで俺の言っている事がわからなかったみたいだが、俺の視線の先を察した途端みるみる内に顔が赤くなっていった。

 

「変態!」

「ぐはっ!?」

 

 鞘に入ったナイフの一撃が俺の脳天に直撃した。

 当然の裁きだろう。

 こんな状況で堂々としたチカンとセクハラだ。

 正直、今までで一番自分に失望したかもしれない。

 いっそ殺してくれ。

 

「……とりあえず、あたしのパンツに興奮できるくらいには元気みたいね。心配して損したわ。

 まあ、あんたみたいな変態でも貴族の犠牲者って事で一応助けてあげるから、優しい優しいあたしに感謝して……って、ヤバッ!?」

 

 ジト目で俺を睨みながら何か言っていた女の子は、急に焦ったような顔になって一瞬でこの場から消えた。

 それと入れ替わるように聞こえてきた足音。

 その足音の主を見上げれば、ニヤニヤと嫌みな笑みを浮かべている鎧の人達がいた。

 

「伯爵様がお呼びだ。出ろ」

 

 そして、俺は鎧の人達に腕を掴まれ、動かない身体を引き摺られながら、どこかへと連れ出された。

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