悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ルナが転移陣を使って怒られるという大事件から数日後。
私は敵国と停戦条約を結んで砦での仕事を完遂し、次の仕事先へと移動していた。
休暇はなしですか、そうですか。
おのれブラック帝国。
ズル休みしといてよかった。
で、その次の配属先なんだけど、聞かされた当初ちょっと驚いたよ。
今私がいる次の職場は、プルートの実家である大貴族サファイア公爵家が自領の端っこに構えてる砦の中だ。
この国には砦が乱立してる。
何せ、現在発生中の革命然り、15年前の帝位継承争い然り、内戦が割と頻繁に起こるし、魔獣という危険な害獣の脅威もある危険な国だからね。
そりゃ砦も大量にあるさ。
ウチのアメジスト領にもいくつかあるよ。
まあ、砦の話はともかく仕事の話をしよう。
今回の職場であるサファイア公爵領は、元々敵国の領土をぶん取って出来た領地らしい。
なので、立地は帝都寄りではなく国境付近。
それだけなら別に驚かない。
驚いたのは、ここがゲームに出てくるかなり大きなイベントの発生地点だからだ。
なんと、ここは主人公とノクスが初めて出会う筈の因縁の場所なのだよ!
ゲームの流れだと、革命軍のファーストアタックで多くの領地を落とされ混乱に陥った帝国の隙を突く形で革命軍がこの砦に攻め入り、戦いが起こる。
革命軍がこの砦を攻めた理由は、単純にデカイ拠点一つ制圧したかったっていうのもあるけど、一番の理由は立地のせい。
さっきも言った通り、この領地は国境付近にある。
そして、その国境の先にある国は、何を隠そう革命軍の同盟国なのだ!
つまり、ここを革命軍が落とせば、その国と革命軍とで国境の砦を挟み撃ちにする事ができるので、まるでオセロの如く国境を制圧して友軍を迎え入れる事ができる。
そうなれば、革命軍は貧弱な平民の集まりではなくなり、六鬼将と言えども容易には攻められない基盤を手にする事になる訳だ。
そうなれば厄介極まりない。
だが、ゲームでは我らが有能上司ノクスがその企みを見抜いていた。
ノクスはここに革命軍が攻めて来ると見越し、プルートの伝を使って自分とレグルスとプルートという戦力を砦に忍ばせたのだ。
革命軍に悟られないようにこっそりと。
その作戦が大成功し、ノクス達は革命軍をけちょんけちょんに蹴散らした挙げ句、直接対決で主人公をもボッコボコにして敗走させるという大戦果を上げた。
革命軍はその作戦にかなりの戦力を投入してたけど、迎撃準備バッチリの六鬼将二人に加えて、それよりも強いノクスを相手にしたら勝てない。
例え、主人公+革命軍最高戦力である特級戦士を全員投入したとしてもだ。
基本的に帝国軍は革命軍より強いので、革命軍はその差を戦略と根性で覆さないと勝てないのです。
ちなみに、これは常識である。
主人公サイドからすると、これはいわゆる負けイベントというやつなのだよ。
そして、その負けイベントを切欠にして、主人公がノクスを宿命のライバルとして認識する訳だ。
その因縁は物語が進む程に複雑化していき、終盤の決着の時が訪れるまでずっと続く。
そんな因縁の始まりとなる場所、しかも時系列までクリティカルヒットなタイミングで私は来てる訳だけど、これどうなるんだろう?
正直、ゲーム通りに進むとは欠片も思ってない。
まず第一に、ノクスがここにいないんだもん。
ノクスどころか、レグルスもプルートもいない。
実家なんだからプルートくらいは来いよと思ったけど、彼は他の国との停戦条約締結に手こずってるので来れません。
だから代わりに私が派遣された。
けど、別にノクスの指示で来た訳じゃなくて、単に付近の革命軍を探して討伐する拠点に丁度いいからって理由でここが選ばれただけだ。
メインキャストが誰もいない上に前提条件すら違う状態でゲーム通りに進む訳ないやん。
加えて、ゲームの時とは帝国の状況が随分と違ってるし。
革命軍のファーストアタックは成功こそしたものの、帝国を混乱させる程のダメージは与えられてない。
潰された領地の吸収合併とか、失った戦力の再編成とかでゴタゴタしてるけど、逆に言えばその程度。
それどころか、最近の帝国は他国との戦争を減らし、その分の戦力を国内に戻して革命に備えてる状態だ。
しかも、ここを狙う理由になった肝心の同盟国も、先日私がボコボコにして停戦条約を結んできた。
この状況で革命軍が無理矢理にでもここを攻める可能性は……まあ、なくはないけど確率は決して高くない。
これは私の予想でもあり、ゲームで大活躍したノクスの予想でもある。
攻めて来なかった場合は、普通に革命軍の足取りを調査して狩るだけなんだけどね。
でも、個人的には起きてほしいなー、負けイベント。
だって、もし主人公が私の起こしたバタフライ効果を乗り越えて生きてた場合、そこで接触できるような気がするから。
そうしたら私の手で殺して、今度こそ確実に憂いを排除できる。
まあ、下手したら負ける可能性もあるから要注意だけどね。
気を引き締めて準備しておかないといけない。
そんな事を脳内でツラツラと考えつつ、私の次の仕事は始まった。