悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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勇者と氷月将

「『魔刃一閃』!」

『ギャアアアアアアアア!?』

 

 魔力刃よりも消費魔力を上げ、威力と攻撃範囲を大幅に強化した斬撃で騎士達を吹き飛ばす。

 しかし、それで倒せたのは実力の低そうな騎士だけだ。

 強い騎士はこんな攻撃くらい簡単に防いで、すぐに反撃に出てきた。

 

「『風魔剣(ウィンドソード)』!」

「ぐっ!?」

 

 風の魔術を剣に纏わせた騎士が、俊敏な動きで俺に斬りかかってくる。

 速い!

 まさに風のような素早さだ。

 しかも、繰り出す剣の一撃一撃が重くて鋭い。

 たまに使ってくる風の魔術も凄まじい威力を持っている。

 

 前に戦った一級騎士と遜色ない実力。

 こんな強敵が当たり前のように序盤から湧いてくるなんて、やっぱりこの砦の戦力は段違いだ。

 俺一人なら、この騎士を倒す事すらできなかったかもしれない。

 

 だが!

 

「ウォオオオオ! 『魔刃衝撃波』!」

「ぬぅ!?」

 

 俺は手に持った剣の魔導兵器(マギア)に多大な魔力を込め、これに内蔵されている魔術の一つ、強烈な衝撃波を発生させる技を使った。

 前方方向全てを薙ぎ払う衝撃波に巻き込まれ、騎士の体勢が崩れる。

 そこを狙って、頼れる仲間の攻撃が炸裂した。

 

「『魔槍一文字』!」

「くっ!?」

 

 衝撃波の後ろから飛び出したデントが、槍の一撃で騎士の隙を突く。

 騎士はそれをなんとか剣で受け流したが、それで体勢は完全に崩れた。

 そうなれば、続く攻撃を防げはしない。

 

「『強刃』!」

「がっ……!?」

 

 そのタイミングを狙い澄ましたかのように、デントの陰に隠れて接近していたルルが騎士の首筋を斬り裂いた。

 鮮血が飛び散り、騎士の身体が崩れ落ちる。

 その首は半分以上が切断されていた。

 いくら生命力の強い魔術師とはいえ、これだけの傷を負えば死ぬ。

 勝った。

 

「気を抜くな、アルバ!」

「そうよ! まだ始まったばっかでしょうが!」

「うっ……ごめん」

 

 デントとルルに叱責され、僅かに緩んでしまった気を引き締めた。

 そうだ。

 今回の戦いはセレナを倒し、砦を落とすまで終わりじゃないんだ。

 強敵を一人倒したくらいで気を抜いていい訳がない。

 俺は自分を叱責しながら先を急いだ。

 

 

 今、俺達は今回の攻撃目標である砦の中にいた。

 革命軍の作戦はこうだ。

 まず、特級戦士のバックさん率いる本隊が正攻法で砦に襲撃を仕掛ける。

 それと同時に内通者の人が砦の内部で爆弾を炸裂させ、帝国軍が混乱した隙に防壁を飛び越えられる程の身体能力を持った少数精鋭を砦の中へと送り込み、内と外からの同時攻撃で砦を落とす。

 本命は俺達を含めた少数精鋭部隊の方だ。

 何せ、こっちに特級戦士の殆どが割り当てられている。

 本隊の方は囮みたいなものだ。

 俺達がセレナを倒さなければ、今回の作戦は成立しない。

 

 何故なら、数の暴力でセレナを倒す事はできないからだ。

 大軍勢を引き連れて攻め込んだところで、前みたいに遥か上空から広範囲殲滅魔術を打ち込まれて壊滅させられるのがオチ。

 だったら少数精鋭で砦に突貫し、接近戦を仕掛けて勝つしかない。

 とにもかくにも近づかなければ、セレナとは戦い自体が成立しないのだから。

 

 俺達の勝機は接近戦にしかない。

 そして、セレナが砦の防衛を考えるのならば上空に逃げる事はないだろう。

 俺達はもう砦の中に入っている。

 今から上空へ逃げたとしても、そこから俺達を倒すには味方を巻き込んで砦ごと凍らせるしかない。

 いくらセレナでもそんな事はできない筈だ。

 たとえそれで俺達を倒せたとしても、砦の騎士が全滅してしまったら向こうの負けなのだから。

 セレナが同じ騎士の命すらなんとも思ってない冷血野郎だったとしても、砦の騎士数百人と突入部隊十人弱の命では絶対に釣り合いが取れない。

 取れる訳がない。 

 だから、セレナは砦を守る為にも砦の中で俺達と戦わざるを得ない筈だ。

 そこに俺達の勝機がある。

 

 その勝機を目指して俺達は進んだ。

 仲間達と、ルルとデントと、特級戦士の人達と一丸となって砦の中を走り抜ける。

 勿論、一筋縄ではいかない。

 さっき倒したのと同じくらい強い騎士が何人も出てきたし、そうじゃなくても向こうの方が数が多い。

 いくらこっちが革命軍の最精鋭とはいえ、これだけの数の騎士を相手にしたらさすがに苦戦する。

 

 それでも走った。

 止まらずに走り抜けた。

 そうして随分と進んだ時、俺達の前に今度は毛色の違う敵が現れる。

 

「なんだこいつら!?」

 

 オックスさんの困惑の声が聞こえた。

 俺達の前に立ち塞がったのは、セレナが身に付けていたのと同じ氷のような全身鎧。

 中身はない。

 鎧が独りでに動いている。

 まるで人形のような、なんとも不気味な敵だった。

 

「くっ!? 強い……!?」

 

 そして、こいつらはかなり手強い。

 さすがに一級騎士には及ばないものの、一体一体がそこら辺の騎士より強い上に、人間技とは思えない完璧な連携を取って攻めてくる。

 しかも、使ってくる作戦が最悪だ。

 人形達は、俺達を分断させようとしていた。

 破壊される事も厭わず、複数体で一人に襲いかかり、纏わりつき、一丸となっていた俺達を個別に分断して叩く。

 そこに他の騎士達も合流してくる。

 数に任せて各個撃破するつもりだ。

 マズイ!

 

 そして、悪い事というものはとことん重なる。

 

 ガシャアアアン! という音が鳴り響き、窓を破って外から誰かが入ってきた。

 丁度、俺のすぐ近くに。

 そいつは、人形達と同じ氷のような全身鎧を身に纏っていた。

 ただし、人形と違って腰に六本もの剣を差した女性用の鎧。

 その身長は俺よりも低い。

 ルルと同じくらいだ。

 恐らく、中身は年端もいかない少女なのだろう。

 

 だが、その小さな身体から放たれる威圧感は、他のどの騎士よりも遥かに上だった。

 

 その姿を見て、俺は目を見開く。

 こいつこそ俺のトラウマ。

 大事な仲間達をあっさりと殺した化け物。

 そして、今回の最終標的。

 帝国騎士の最高位である六鬼将の一人。

 

 『氷月将』セレナ・アメジストがそこにいた。

 

「ああ、やっぱり」

 

 そんなセレナが俺の事を見ている。

 兜に隠れて視線は見えないが、はっきりと見られていると感じた。

 そうして俺を見ながら、セレナは小さくそう呟いた。

 

 次の瞬間、俺の身体は凄まじい衝撃を受け、高速で吹き飛んだ。

 

「ぐうっ!?」

 

 何をされたかはわかる。

 目で追えた。

 セレナは一瞬で巨大な氷の弾丸を作り出し、それを俺に向けて射出したのだ。

 だが、目で追えても避ける事ができなかった。

 距離が近かったせいもあるが、それ以上に避ける暇もない圧倒的な魔術の発動速度。

 咄嗟に剣を盾にして防げたのが奇跡。

 たった一つの魔術を見ただけでわかった。

 こいつは、格が違う。

 

「がはっ!?」

 

 吹き飛ばされた俺は、どこかの壁にぶつかって停止した。

 視界には青空が見える。

 屋外にまで飛ばされたらしい。

 そして、すぐにセレナが近くへとやって来た。

 まるで逃がさないとでも言うかのように。

 

「悪いけど、ここで死んでもらうから」

 

 そう言って、セレナは片手を俺へと向けた。

 俺は痛む身体に鞭打って立ち上がり、強く剣を握る。

 

 そうして、トラウマとの戦いが幕を開けた。

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