悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「そちらも片付いたか」
グレンを倒して少しすれば、向こうも戦いが終わったらしく、ノクスが話しかけてきた。
その近くにはノクスの足止めをしていたステロの死体がある。
真っ二つだ。
多分、グレンと同じで死ぬまで戦ったんだろう。
捕虜にはできなかったらしい。
だが、今はそれよりも。
「ノクス様、途中から随分と調子を崩されていましたが大丈夫ですか?」
私はそれが心配になって尋ねた。
今回のノクスの動きは明らかにおかしかった。
本来のノクスの実力は私とほぼ互角。
近接戦闘に関しては私なんか比較にならないレベルだ。
それなのに、負傷したステロ一人に手こずるなんて絶対におかしい。
一刻も早く革命軍を追撃した方がいいんだけど、これだけは聞いておかないといけないと思った。
「……ああ、今は問題ない。だが、あの黒髪の少年の光魔術を食らった時、体内の魔力が嫌にかき乱された。
結果、闇魔術の発動はおろか、身体強化にまで影響が出てしまってな。情けない限りだ」
「それは……」
どういう事だろうか?
確かに、アルバの光魔術は闇魔術に対して非常に相性の良い属性ではある。
でも、魔力がかき乱される?
そんな設定ゲームにあったかな。
もしや隠し設定?
考察の余地がありそう。
まあ、今考える事じゃないんだけどさ。
それよりノクスの体調の方が心配だ。
「……今は問題ないのですね?」
「ああ、少し時間を置けば収まった」
うーん……なら大丈夫か。
「では、私は反乱軍の追撃に行きます。ノクス様は砦の防衛をお願いできますか?」
「いや、私も追撃に出よう。傷を負ったお前一人では不安だ」
「私は回復魔術で治しておりますので問題ありません。それよりも原因不明の不調に見舞われたノクス様はご自身の心配をされるべきかと。
万一、戦場で症状が再発すれば洒落になりません」
「む……」
という事で、ノクスは砦待機に決まった。
護衛の人達が「よく言った!」みたいな目で見てくる。
まあ、普通に考えて心配だよね。
ノクスに何かあったらマジで洒落にならないし。
本人はこの決定に不満そうだったけど、さすがに私の言ってる事の方が正しいと認めてるのか反論はしてこなかった。
「セレナ。くれぐれも気をつけろよ」
「わかっています」
代わりに、出撃前に釘を刺されてしまった。
まあ、ついさっきかなり追い詰められた身だから無理はしない。
魔力にはまだ余裕があっても、普通に体力は削られてるし、疲れも溜まってるんだ。
ここで無理して私が死んだら本末転倒。
だから深追いはしない。
遥か上空からの爆撃程度に留めておきますから安心してください。
という訳で、鳥型アイスゴーレムを作って搭乗。
空中戦を考えると
それに下からの攻撃の盾にもなるし。
そんな鳥型アイスゴーレムに乗ってテイクオフ!
でも、その前にさっきアルバが落とした剣を回収しておく事も忘れない。
超貴重な光属性のサンプルだもん。
しかも、ルナを縛る闇の魔術に対して効果抜群な属性ときた。
回収は必須ですよ。
これは魔剣じゃなくて
剣としては破損してても、中身のマガジンさえ無事なら問題ない。
あとで持ち帰ってバラしてみよう。
まあ、それは後のお楽しみとして、今度こそテイクオフ!
念の為に、前に革命軍を一方的に攻撃できた高度1000メートルくらいまで上昇。
ここなら、バックやミストの攻撃も早々届かないだろう。
そこから見下ろすと、私の指示がなくても砦の騎士達が追撃を開始してるのがわかった。
今まで出番なかったからね。
そりゃやる気も出るか。
でも、革命軍は敗走中とは思えない綺麗な陣形で反撃してる。
そこまでの被害は与えられてなさそう。
ならばと、私も参戦してこの上空から大規模魔術を放つ。
使うのは前と同じ
言わずもがな巻き添え防止の為である。
でも、やっぱりそれだけだと、ワルキューレの魔術と同じくバックのレーザービームに相殺されて大した成果は上がらなかった。
だけどまあ、バックの手を煩わせてるし、やらないよりは遥かにいいと思う。
ガンガン撃つ。
そうしている間に革命軍は自分達の土俵である森まで退却した。
でも、そこには前もって派遣しておいた私の直属部隊が配置されてる。
戦闘開始前、革命軍が拠点を出発したとわかった時点で、今の私と同じように鳥型アイスゴーレムに乗せて出張させておいたのだ。
革命軍が留守の間に拠点を落とし、逃げ場をなくす為に。
あいつらは性格に難のある奴らばっかりだけど、実力は全員が一級騎士という超精鋭部隊。
主力が丸々出撃して守りが薄くなった拠点を落とすくらい造作もない……筈だ。
私とノクスで確実に革命軍を潰し、敗走してきた所を直属部隊と追撃部隊で挟撃するのが今回の作戦の全容。
それは概ね成功と言っていいだろう。
森の入り口辺りで派手な魔術が使われ、革命軍が血相を変えて逆走し始めた。
そのせいで陣形が乱れ、追撃部隊や私の攻撃が通りやすくなる。
そうしてかなりの人数を討ち取り、残りも帰るべき拠点を失ってバラバラの方向に逃げ出した。
これでめでたく完全勝利だ。
あくまでも大局的に見ればだけど。
砦を落とそうとした大軍勢を壊滅させ、拠点を制圧し、特級戦士の半数以上を討ち取り、アルバにも消えない傷を刻んだ。
勝利と言って差し支えないと思う。
だけど、もう少し上手く動けてればここでアルバを討ち取れた筈だ。
そうすれば後顧の憂いは裏切り爺だけになってた。
それを思えば、これは最良の結果なんかじゃない。
点数を付けるなら50点がいいところだろう。
赤点ではないけど、決して良い点数とは言えないレベルだ。
「はぁ……」
空中で誰も聞いていないのをいい事に、私は大きくため息を吐いた。
でも、落ち込んでばかりもいられない。
ミスっちゃった以上、これからも心磨り減る戦いが続くんだ。
落ち込んでる暇なんてない。
「……頑張らなきゃ」
私は自分に言い聞かせるように、自分を律するように、そんな言葉を口にした。
心が潰れていくような嫌な感覚がした。