悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「ただいま、ルナ~!」
「おかえりなさい、おねえさま!」
砦での戦後処理という名の地獄の業務を片付け、ようやく取れた休暇で私はルナのいる領地へと戻っていた。
いや、正確には仕事片付いてないんだけどね。
今回は結構戦死者とか出たから戦後処理が本当に地獄の作業と化し休暇が潰れかけたのだ。
だが、ルナに会えなくて発狂しそうだった私を見かねたノクスが仕事を代わってくれた。
感謝である。
まあ、そのせいで休暇は今日一日しかないんだけどね。
その分、今日は目一杯ルナに構ってあげよう。
うん。
「おねえさま、おねがいがあるんです!」
おっと、早速のおねだりか。
いいよ、ドンとこい。
ルナの為なら皇帝討伐クラスの超高難易度ミッションだって達成してみせる!
まあ、あんまり我が儘言うようだったらたしなめるけど。
「なぁに?」
「わたし、まちにいってみたいんです!」
「…………へ?」
ちょっと予想外のおねだりに間抜けな声が出た。
街、街かぁ。
それはどうだろうか……。
「えぇっと……ルナ、街はちょっと」
「ダ、ダメですか?」
「うっ!」
泣きそうな顔で上目遣いはズルい!
で、でも、街は治安悪いし。
ここは心を鬼にして断らなくては。
「あ、あの、セレナ様。少しいいですか?」
「ん? どうしたの、アン?」
そこでアンが何故かちょっと困った顔で口を挟んできた。
私の耳元でゴニョゴニョと言い始める。
くすぐったい。
「じ、実はルナ様の好奇心がもう限界なんです。結構前から街に行きたい行きたいって駄々をこねて……このままだと勝手に屋敷を抜け出しかねません。
私に逃走計画を一緒に考えてほしいって言ってくるレベルですし」
「……マジで?」
「はい。マジです。大マジです」
私はアンの報告に頭を抱えた。
そっかぁ……。
好奇心の限界かぁ……。
確かに、こんな狭い場所にずっと押し込めてたら息が詰まるよね。
前々から危惧してた問題ではある。
それが遂に表面化しちゃった感じだ。
「ルナ、ちょっと待っててね。作戦ターイム!」
私はルナに断ってから大きな声で作戦タイムを宣言した。
アンだけではなく、近くにいたドゥとトロワも呼び寄せる。
そしてルナに聞こえないように、コソコソと話し合いを開始した。
ルナが我慢できなくなる前に手早く済ませなくては。
「さて、という訳でルナが街に行きたいそうなんだけど、どうしようか?」
「行かせてあげましょう!」
「賛成ですね~」
「セレナ様と私達が一緒に付いて行けば大丈夫かと」
満場一致で賛成意見だと!?
これは予想外だ。
最低でも真面目なトロワ辺りは絶対に反対すると思ってた。
だって街ってアレだよ?
活気がなくて、住人はゾンビみたいで、世紀末のチンピラが湧いてくる危険地帯だよ?
危ないし教育にもよくないでしょ。
「あそこに連れ出すのはどうかと思うけど……」
「でも、このままだと一人で行っちゃいます!」
「うっ!?」
アンが目を逸らせない問題を直球で投げつけてくる。
それを言われると痛い!
「セレナ様~、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ~。最近は街の治安も良くなってますから~」
「え、そうなの?」
「はい~」
ドゥが意外な事を言い出した。
治安良くなってるの?
そりゃさすがに、ちょっと前に行った平民は劣等種だー主義を公言してるサファイア領の街よりはマシだと思うけど、ウチだって結構なクソ貴族が統治してた訳だし、最低でもモヒカンが湧いてくるくらいの治安レベルなんじゃないの?
実際、クソ家族どもに平民の人達が頻繁に拉致られてた訳だし。
「具体的にどれくらい治安が改善されたのかってわかる?」
「住人は屋敷の使用人達と同じくらいに生きる気力を取り戻し、孤児やゴロツキの数が激減し、のら猫にすら多少の施しができる程になっています。
ルナ様のいい経験になるような立派な街に生まれ変わっていますよ」
「……マジで?」
「マジです。何度も買い出しに行って確認しているので間違いありません」
真面目なトロワが断言した。
他の二人もコクコクと頷いている。
という事は、嘘でも勘違いでもないのか。
信じ難い。
何故にそんな事になってるのか。
とりあえず、自分の目でも確認したくなったので、私は視力を強化して窓から街並みを眺めてみた。
すると確かに、三人の言う通り街からは暗い雰囲気を感じない。
見た限りでは、ファンタジー系のアニメに出てきそうなまともな街になってる。
アンビリーバボー。
訳がわからないよ。
でも、これなら。
「……本当にルナを連れて行っても大丈夫だと思う?」
「大丈夫です!」
「一人ならともかく~、私達が付いてれば問題ないと思いますよ~」
「万全を期するならセレナ様にも付いて来て頂けると助かります。そこまですればまず問題は起こらないかと」
「そっかぁ……」
メイドスリーがここまで太鼓判を押してるなら大丈夫かな?
私がいれば大抵の危険には対処できるだろうし、万が一はぐれたりしても、彼女達やルナに持たせたお守りがあれば特級戦士が襲来しても一人くらいなら返り討ちにできる筈。
それに、ずっとここに押し込めてるのもルナの教育に悪いとは思ってたんだ。
外に出る経験は積んでおいた方がいい。
危険な目には遭わせたくないけど、そこまで過保護にするのはやり過ぎだろう。
なら、これはいい機会だ。
「よし! わかった」
私はパンッと手を叩き、作戦タイムを終了した。
「じゃあ、今日は私達と一緒に街に行こうか」
「いいんですか!?」
「うん、いいよ。ただし! 私が一緒の時じゃないとダメだからね!」
「はい!」
という訳で、今日はルナとメイドスリーと一緒に街へ行く事が決定した。
血みどろの戦いの合間に、こういう平和な一時があってもいい筈だよね。