悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
入学式の翌日。
今日から本格的な授業が始まった。
まず、午前の授業は座学だ。
残念な事に、私はこの分野で目立つ事はできない。
同級生のクラスメイトは10歳のショタロリどもだというのに、その中ですら私の成績は下の下だろう。
しゃーないねん。
私、家族どもからいない者扱いされて育ったから、貴族としての教育とか受けてないねん。
それでもギリギリ授業について行けてるのは、転生者故の精神年齢の高さと、姉様がイチャイチャタイムで色々教えてくれたおかげだな。
ありがとう、姉様!
そうして地獄の午前を乗り越えれば、午後は待ちに待った魔術の授業!
やっと私の時代が来たぁ !
これで勝つる!
肝心の授業内容だけど、今日は初日という事で、とりあえず全員に魔術を使わせて、現時点での腕前を見るそうだ。
その方法は、的当て。
訓練場の中心に教師が土魔術で人間サイズの的を用意し、それを生徒が魔術で狙う。
その時に使う魔術で、その生徒のレベルが判断される訳だ。
そして今も、一人の少女が杖を構え、的に向けて魔術を放った。
「『
どうやら、この少女は火魔術の使い手らしい。
直径30センチくらいの火の球が、プロ野球選手の全力投球くらいのスピードで飛んで行き、的にぶち当たった。
ただ、属性の相性なのか単純に威力不足なのか、土で出来た的はちょっと焦げただけだ。
それでも、あれを普通の人間にぶつけたら普通に死ぬと思うけど。
しかし、あれでも他の生徒に比べれば弱い方なんだよなー。
そうなると、あの少女は男爵家か子爵家の出身かね。
「よし! 次!」
「『
次に行ったのは、なんかオシャレな感じに改造した制服を着た少年。
なんとなく、改造された制服に高級感がある。
持ってる杖も、いかにも高級品! って感じだし。
そんな少年が使ったのは、風の魔術。
少年が放った風の球は、的に当たると同時に爆発し、周囲に爆風を撒き散らす。
その爆風による土煙が晴れた時、的は粉々に破壊されていた。
他の生徒達が愕然とし、少年はドヤ顔を披露する。
ふむ。
確かに他の生徒達が驚くのも無理はないくらいにレベルの高い魔術だった。
風属性の中級魔術、それもかなりの魔力が籠められた一撃だ。
あの少年は侯爵家か公爵家の出身と見た。
と、こんな感じで、貴族は基本的に階級の高い奴ほど強い魔力を持ってる。
男爵より子爵。
子爵より伯爵。
そして、貴族の最高位たる公爵よりも上が皇族だ。
魔力は、貴族が特権階級足りえる力の象徴だからね。
そりゃ強い奴ほど優遇されて上の階級を貰えるさ。
実力主義の帝国なら尚更。
で、魔力というものは遺伝する。
属性だけじゃなく、魔力量も遺伝による要素が大きい。
強い魔力を持った親からは、強い魔力を持った子供が生まれるのだ。
結果、強い魔力を持つ高位貴族の所に強い魔力を持った子供が生まれ、高位の貴族ほど強いという図式が完成する。
そして、下位の貴族が上位の貴族を追い抜くのは、かなり難しい。
いくら魔力量は努力で増えるとはいえ、やっぱりスタートラインの差は大きいからね。
「くくっ」
そこまで考えて、私は笑った。
何故って?
決まってるじゃないか。
階級による実力差が明確って事は、裏を返せば階級をひっくり返す程の力を持つ
ここで私が、あのドヤ顔決めてる高位貴族を圧倒すれば、すぐに噂になるだろう。
そうなれば、ノクスへのこの上ないアピールになる。
実に私に都合が良くて笑えてくるわ。
「次!」
「はい」
そして、遂に私の番がやって来た。
制服の腰から指揮棒のような小さな杖を取り出し、構える。
魔術師と言えば、やっぱり杖だよね!
この杖は飾りではなく、魔術の発動を助け、威力を向上させる効果がある。
加速装置の付いた補助輪みたいなもんかな。
我ながら意味わからん例えだけど。
そんな加速装置付きの補助輪こと、魔術の杖は大抵の魔術師が持ってるのだ。
当然、私も持ってる。
今使ってるのは、クソ親父に大金を出させて購入した最高級品の白い杖。
前は4歳の誕生日に姉様がプレゼントしてくれた世界一尊い杖を使ってたんだけど、あの宝物を荒事で壊したくなかったから今のに変えた。
クソ親父に買わせた物なら、なんの躊躇いもなく使い潰せる。
宝物の杖は、他のプレゼントと一緒に私の城で大事に保管してるよ。
そんな使い捨ての杖を的へと向ける。
杖を使って魔術を使う場合は、こうして杖を向けた方向にしか魔術を放てないのだ。
若干不便だけど、杖を持ってるからって、杖なしでの魔術が使えなくなる訳じゃないし、そこまで気にする事でもない。
そして私は杖に魔力を籠め、魔術を発動した。
「『
氷属性の中級魔術『
その名の通り、氷の柱を生み出す魔術。
的当てという今回の課題には向かない魔術だ。
だが、私の目的はスマートに的を壊す事ではなく、実力を盛大にアピールする事。
その為には、この魔術が最適だと思ったのよ。
だって、凄まじく目立つから。
私の作った氷柱は、的ごと訓練場の殆どを飲み込み、天高くそびえ立った。
その全長、実に数百メートル。
城のような大きさを誇る学園を超える高さだ。
しかも、その形は綺麗な円柱型。
表面には一切の凹凸がなく、つるんとしている。
それは、これだけの大魔術を完全に制御下に置いているという証に他ならない。
まさに、魔術の威力と魔力操作技術の高さを同時に見せつける匠の技である!
さすが私!
さすが姉様の妹!
そして、私はパチンと指を鳴らした。
その瞬間、巨大な氷の柱にヒビが入り、中にあった的ごと一瞬で砕けて細かい氷の粒子となる。
これにて的を破壊する事にも成功。
最初のアピールは、これ以上ない程の大成功と言えよう。
見よ!
クラスメイト達の驚愕に満ちた顔を!
これならすぐに噂になるだろうし、そうじゃなくても、さっきの魔術は学園のどこに居ても見えるくらいデカかったから、確実にノクスの目にも留まってる筈。
あわよくば、向こうからスカウトに来てくれないかなー。
いや、さすがにそれは高望みし過ぎか。
とにかく、これからもアピールを続けて、充分な実績を積めたと判断したら自分を売り込みに行こう。
営業販売の押し売りセールスマンの如く押して押して押しまくり、必ず
覚悟しとけよ、ノクス!