ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強 作:コレクトマン
44話目です。
ハジメ〇〇になる、異常事態発生
裏組織のボスを保安局に預けた後、イルワさんから事情聴取の為に俺達はギルドにいた。イルワさんの手には裏組織“フリートホーフ”に関する報告書である。
「消滅した建物9棟、倒壊した建物15棟、半壊した建物32棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員98名、再起不能44名、重傷28名、行方不明者119名。民間への被害がゼロなのが奇跡としか思えない。……何か言い訳は?」
「カッとなったので計画的にやった。反省も後悔もない」
「本当なら裏組織の相手をすることはなかったのだが、ミュウが攫われたと知った時には救出と同時に壊滅させることにしたんだが……今回ばかりこれは流石にやり過ぎたと思っているよ。…だが、ハジメと同様に後悔はない」
そうイルワさんに今回の事件のことを報告していた。そしてミュウはギルドが用意したお菓子を美味しそうに食べていた。“お兄ちゃん、このお菓子美味しいの”とミュウが言えば“おう、どんどん食え”とハジメが返す中、イルワさんが今回起きた事件……というより、俺達のトラブルメーカー体質の限度差に頭を抱えていた。
「ハァ…まぁ私達もフリートホーフには手を焼いていたからね。君の言う通りやり過ぎだが、正直助かったとも言えるよ」
「見せしめも兼ねて盛大にやったからな。必要なら俺等の名前を使ってもいいぞ。なんなら支部長のお抱え冒険者ってことにしてもいい」
「それなら相当な抑止力になるが…利用されるのは嫌うタイプだろう?」
「世話になるし、それ位は構わねえよ。金ランクにもしてもらったことだしな」
そうハジメとイルワさんが話し合っていると、扉から別の人は入って来た。
「よくやったボウズ達!!フリートホーフを壊滅させただけじゃなく、フリートホーフのボスを捕まえてくれるとは!本当に感謝するぞ!!」
そう言って機嫌良く“ワハハッ!”と笑いながらその男はこの場から去っていった。……態々お礼を言いに来たということは、あの人は保安局の人か?
「…なんだ今のおっさん……」
「恐らく保安局の人じゃないのか?イルワさんはあの人を知っていますか?」
「保管局の局長だよ。……それはそうと、話を戻そう。ハジメ君、少し変わったかい?前は他人の事などどうでもいいように見えたが、ウルの町で何かあったのかな?」
「…まぁ、悪い事ばかりじゃなかったよ」
“…なら良かった”とイルワさんが言った後に俺達に別件を伝えた。それはミュウのことだった。ミュウを故郷に戻す方法として二つあるそうだ。一つ目は正規の手続きでエリセンへと送還する方法。二つ目はミュウを俺達に預け、依頼という形で送還してもらう方法だった。
二つの方法の内一つ目の方はベターかもしれないが、またフリートホーフの様な裏組織に捕まってしまえば元も子もない。ならば……俺達がとるべき方法は一つしかない。
「ハジメ、ミュウはこっちで送還させるという形で依頼を受けないか?一つ目の方法はベターな方だが、またフリートホーフの様な裏組織に拉致られる可能性が否定出来ない」
「ハジメさん、私からもお願いします。ミュウちゃんは私とマスターで絶対に守ってみせます!」
「お兄ちゃん、一緒…め?」
「…まぁ雷電のいい分もそうだが、今回は最初からそうするつもりで助けたからな。大火山の攻略が心配だが、なんとかするさ」
ハジメの賛成の下、正式にミュウをエリセンへ送還させるという依頼を受ける事になった。この時にハジメはミュウから“お兄ちゃん”という言葉にむず痒さを感じていた。
「…なぁミュウ。流石に“お兄ちゃん”は止めてくれ。普通にハジメでいい」
「どうして?」
「なんというか、むず痒いんだよその呼び方……」
「……じゃあ
その一言にハジメやユエ、シアにティアまでもが固まった。ミュウはハジメの事を父親として認識したのだ。それを見ていた清水やデルタ分隊は……
「おいおい、ハジメが父親って……」
「ブッwww駄目だこりゃ…笑いがwww」
「完全に父親として認識されている様ですね」
「ハジメが初の子持ちか。……フッwww」
「お前たち、茶化すのはその辺にしろ。……しかし父親か」
一番まともだったのはボスとフィクサーくらいだった。一応ミュウに何故ハジメの事をパパと呼ぶのか聞いてみた。
「ミュウ、ハジメの事をパパって呼ぶのはどうしてなんだい?」
「パパね…ミュウが生まれる前に神様の所に行っちゃったの。だからお兄ちゃんがパパなの!」
どうやら話から察するにミュウの父親はミュウが生まれる前に亡くなった様だ。その時にハジメはミュウにパパは勘弁してほしかった様だ。
「ミュウ…それは流石におかしくないか?パパは勘弁してくれ「やっ!パパなの!」いやっ駄目だ!お兄ちゃんでいいからそれだけは止めてくれ!」
「やーっ!パパはミュウのパパなの〜!
「俺はまだ17なんだぞ!!」
父親呼ばわりされて、色々とミュウに振り回されるハジメであった。ミュウはハジメに任せるとして、俺は清水が見つけたであろう奴隷の少女の事で身元が分かったのかイルワさんに聞いてみたが、その結果がゼロだった。
「身元不明?……どういう事なんだ?」
「こちらでも調べてみたんだが、あの子の身元が存在しなかったんだ。一応ステータスプレートを通して確認して見たんだが……」
そういってイルワさんは清水が救助した少女の為に発行したステータスプレートを俺と清水に見せ、確認した。
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シルヴィ 13歳 女 レベル1
天職:治癒師
筋力:10
体力:15
耐性:10
敏捷:10
魔力:100
魔耐:10
技能:治癒魔法・■■の刻印・魔力操作
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俺達以外が見てもこれが普通かもしれないが、二つだけ気になる技能があった。
「普通に見ればありふれた感じではあるな。この文字化けした所と魔力操作を除けばだが……」
「それもそうだが、技能に書かれている刻印というワードが気になる。何かしらのバットステータスという可能性も否定出来ない」
「それもそうなのだが、この子にもハジメ君たちと同じ技能があったんだ」
同じ技能というのは魔力操作の事である。俺とハジメの場合は、倒した魔物を食った事で得られたもので、少女の場合はシアと同じ生まれた時から得ている技能だ。そして気になるもう一つの技能が文字化けしている■■の刻印というものだった。一体何なのかは不明だが、いずれ何か分かる様な気がする。
「シャドウ、このシルヴィという少女をどうしたいんだ?」
「どう、と言われてもな……」
清水に少女ことシルヴィをどうしたいのかを聞き出すが、まだ明確に決まっていなく答えを出せない状態だった。するとシルヴィは清水に対してこう告げる。
「…あの、ご主人様」
「ご主っ…!?……それって、俺の事か?」
「…はい。前のご主人様は悲鳴を聞いて楽しむのが一番価値のある使い方だって言ってました」
清水はシルヴィにご主人様と言われた事に驚いたが、もっと驚いた事はシルヴィを奴隷として買っていた前の主人が彼女を痛め付けてその悲鳴を娯楽として扱っていた事であった。その主人は既に亡くなっているため俺達でもどうしようもなかったが、シルヴィにとんでもない心の傷を負わせた事に俺は怒りを隠しきれなかったがあまり表に出さず自制し、押さえ込む。雷電の表情を見ていた清水は声をかける事を避け、シルヴィの問いに答えるのだった。
「…悪いが俺達にはそんな趣味はない。それ以前に、お前はどこに住んでいたんだ?両親は?」
「私の家はもうありません。両親も既に死んでいます」
「!……すまない。配慮不足だった」
「…いえ。私こそ、ご主人様にちゃんと説明していなかったのです。申し訳ございません……」
「……その“ご主人様”って呼ぶのは少し勘弁してくれないか?俺とてそう呼ばれるのは正直言ってむず痒い」
「では…何と御呼びすればいいのでしょう?」
そう言われて困惑する清水。本当にどうしたものかと考えている時に清水は雷電とシアの方を見て何かヒントを思いついたのかシルヴィに告げる。
「ジェダイの真似事ではあるが……“マスター”と呼んでくれ。そっちの方がまだマシだ」
「…分かりました。ではマスター、どうかお手柔らかにお願いします」
「あぁ。……という訳なんだが、こいつも連れて行けないか?無論こっちが面倒を見る」
そう清水は言うが、問題はハジメはどう返答するかだった。しかしハジメは意外にもこの様な言葉が出た。
「……本来なら連れて行くのは反対なんだが、どの道帰る場所がないんじゃ何処に預けても意味ないからな。というか、そいつを放っておくと何処かで知らぬ間に死んでしまう可能性があるな。本当は面倒だが、お前が面倒を見るというのならミュウと一緒に連れて行くとしよう」
“すまない…”とハジメに礼を言う清水。そうしてミュウとシルヴィは正式に旅の仲間として此方と共に行動する事になった。因みにシルヴィは奴隷としての生活が長かったのか、誰にでも様付けしてしまう様だったので俺達の場合は普通でいいという形でシルヴィと交流するのだった。
それと余談ではあるがミュウがハジメの事をパパ呼びをした事に笑いのツボに嵌まったスコーチをハジメがしばき倒し、ミュウから母親がいる事を告げられてユエとシアは何故かしょぼんとしていた。……シアよ、何故お前までしょぼんとする必要がある?更にはミュウが俺の事を“おじちゃん”と言ってきたのだ。……まぁ精神年齢的にはあっているが、何だろう?若い身体に精神が引っ張られている所為か、頭では理解しているのに何故か納得がいかなかった。それはそうとミュウが俺をおじちゃんと言った時に笑いを噴出してしまったハジメとスコーチは後でしばく(怒)。
雷電Side out
雷電たちがミュウとシルヴィを連れて行く事になったその同時刻、オルクス大迷宮にて激しい剣戟と爆音、ブラスターによる銃声が響く。
コルトとフォードー率いるARCトルーパー含むクローン・トルーパー四個小隊と勇者組、メルド騎士団を連れ、オルクス大迷宮の八十九層まで進撃したのだった。そして八十九層に存在する魔物の群れの中で体長五十センチ程のコウモリ型の魔物と交戦していた。天之河が率いる前衛組はそのコウモリの魔物の注意を引き、後衛組の魔法詠唱隊は後方で魔法を詠唱し、前衛組を支援する。そしてクローン達もブラスターなどで牽制射撃を行い、コウモリの魔物を攻撃していた。
「万象切り裂く光、吹きすさぶ断絶の風、舞い散る百花の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め!“天翔裂破”!」
聖剣を腕の振りと手首の返しで加速させながら、自分を中心に光の刃を無数に放つ光輝。今まさに襲いかかろうとしていた体長五十センチ程のコウモリ型の魔物は、十匹以上の数を一瞬で細切れにされて、碌な攻撃も出来ずに血肉を撒き散らしながら地に落ちた。
「前衛! カウント、十!」
「「「了解!」」」
ギチギチと硬質な顎を動かす蟻型の魔物、空を飛び交うコウモリ型の魔物、そして無数の触手をうねらせるイソギンチャク型の魔物。それらが、直径三十メートル程の円形の部屋で無数に蠢いていた。部屋の周囲には八つの横穴があり、そこから魔物達が溢れ出しているのだ。
前衛を務める光輝、龍太郎、雫、永山、檜山、近藤に、後衛からタイミングを合わせた魔法による総攻撃の発動カウントが告げられる。何とか後衛に襲いかかろうとする魔物達を、光輝達は鍛え上げた武技をもって打倒し、弾き返していく。
厄介な飛行型の魔物であるコウモリ型の魔物が、前衛組の隙を突いて後衛に突進するが、頼りになる“結界師”が城壁となってそれを阻む。
「刹那の嵐よ、見えざる盾よ、荒れ狂え、吹き抜けろ、渦巻いて、全てを阻め──“爆嵐壁”!」
谷口鈴の攻勢防御魔法が発動する。呪文を詠唱する後衛達の一歩前に出て、突き出した両手の先にそよ風が生じた。見た目の変化はない。コウモリ型の魔物達も鈴の存在など気にせず、警鐘を鳴らす本能のままに大規模な攻撃魔法を仕掛けようとしている後衛組に向かって襲いかかった。
しかし、その手前で、突如、魔物の突進に合わせて空気の壁とでもいうべきものが大きくたわむ姿が現れる。何十匹というコウモリモドキが次々と衝突していくが、空気の壁はたわむばかりでただの一匹も彼等を通しはしない。
そして、突進してきたコウモリモドキ達が全て空気の壁に衝突した瞬間、たわみが限界に達したように凄絶な衝撃とともに爆発した。その発生した衝撃は凄まじく、それだけで肉体を粉砕されたものもいれば、一気に迷宮の壁まで吹き飛ばされてグシャ! という生々しい音と共にひしゃげて絶命するものいる程だ。
「ふふん!そう簡単には通さないんだからね!」
クラスのムードメイカー的存在である鈴の得意気な声が、激しい戦闘音の狭間に響く。と、同時に、前衛組が一斉に大技を繰り出した。敵を倒すことよりも、衝撃を与えて足止めし、自分達が距離を取ることを重視した攻撃だ。
「前衛組、後退!」
コルトの号令と共に、天之河達前衛組が一気に魔物達から距離を取る。次の瞬間、完璧なタイミングで後衛六人の攻撃魔法が発動した。
巨大な火球が着弾と同時に大爆発を起こし、真空刃を伴った竜巻が周囲の魔物を巻き上げ切り刻みながら戦場を蹂躙する。足元から猛烈な勢いで射出された石の槍が魔物達を下方から串刺しにし、同時に氷柱の豪雨が上方より魔物の肉体に穴を穿っていく。
自然の猛威がそのまま牙を向いたかのような壮絶な空間では生物が生き残れる道理などありはしない。ほんの数十秒の攻撃。されど、その短い時間で魔物達の九割以上が絶命するか瀕死の重傷を負うことになった。
「よし、いいぞ!残りを一気に片付ける!」
「お前たち!このまま一気に押し込むぞ!」
光輝の掛け声で、前衛組が再び前に飛び出していき、魔法による総攻撃の衝撃から立ち直りきれていない魔物達を一匹一匹確実に各個撃破していった。全ての魔物が殲滅されるのに五分もかからなかった。
「コマンダー、この階層に敵はいません。今ので全滅し、安全が確保されました」
「そうか。…よし、此処で休憩するぞ。一時間後に行動を再開する」
周囲の警戒を行い、安全を確保した後に勇者組やメルド騎士団、クローン達のペースを考え休憩をとる事にした。
「ふぅ、次で九十層か……この階層の魔物も難なく倒せるようになったし……迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな」
「だからって、気を抜いちゃダメよ。この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから」
「雫は心配しすぎってぇもんだろ?俺等ぁ、今まで誰も到達したことのない階層で余裕持って戦えてんだぜ?何が来たって蹴散らしてやんよ!それこそ魔人族が来てもな!」
「いやっ八重樫の言う通りだ。どんな時であろうと気を抜いてはならない。下手に気を抜いているとやられるのがオチだ」
そうコルトが指摘する中、衛生兵の役目を務めるクローン・トルーパー・メディックと勇者組の中で唯一の回復担当である香織は戦闘で負傷した皆を治療していた。彼等の存在のおかげで此処まで来れたとも言える。そして、周囲に治療が必要な人がいないことを確認すると、目立たないように溜息を吐き、奥へと続く薄暗い通路を憂いを帯びた瞳で見つめ始めた。その様子に気がついた雫には、親友の心情が手に取るように分かった。香織の心の内は今、不安でいっぱいなのだ。あと十層で迷宮の最下層(一般的な見解)にたどり着くというのにだ。その時にフォードーは白崎の様子が変だと悟ったのか声をかけるのだった。
「白崎、あと少ししたら出発する。今の内に休んでおく様に」
「あっ…フォードーさん」
「……やはり将軍等が気になるのか?」
「……はい。南雲くん達が生きていることを知って良かったです。でも……その度に私、不安になるんです」
「…将軍等がこの迷宮で力尽きていないかどうかか?」
そうフォードーが言うと香織は図星を突かれた様な感じで口を閉じた。流石に口が過ぎたと感じたフォードーは香織に謝罪する。
「……すまなかった。今のは配慮が足りていなかった」
「ううん、大丈夫です。私は信じてるんです、南雲くん達がきっと脱出できて私たちとまた出会えることを……」
“そうか…”と言葉を残し、その場をあとにする。そして一時間が経過し、休憩を終えたあとに九十層へと続く道を捜索し、十分も経たずに発見する。九十層に何が待ち構えているのか不明である為に先にコルト率いるACRトルーパー部隊が先行するのだった。
そうして九十層に到達したコルト達はある違和感を覚える。一応、節目ではあるので何か起こるのではと警戒していたのだが、見た目、今まで探索してきた八十層台と何ら変わらない作りのようだった。探索は順調だった。……いやっ順調すぎた。これがコルトが感じていた違和感の正体だった。
「……どうなってる?まるで空き家みたいだ」
「コマンダー、これは細心の注意を払いつつ行動した方がよろしいかと……」
「そうだな。…第一、第二分隊は俺と共にこのエリアの探索と同時に警戒。残りの部隊はフォードーと共に学生達の護衛に回れ」
コルトはクローン達に指示を出したあとに二個分隊を率いて探索を行う。かなり奥まで探索し大きな広間に出た頃、先行しているコルト達のあとに続いて来た光輝達はここで不可解さが頂点に達し、表情を困惑に歪めて光輝が疑問の声を漏らした。他のメンバーも同じように困惑していたので、光輝の疑問に同調しつつ足を止める。
「……何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」
既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっている。今までなら散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めなかった。ワンフロアを半分ほど探索するのに平均二日はかかるのが常であったのだ。にもかかわらず、コルト達や光輝達がこの九十層に降りて探索を開始してから、まだ三時間ほどしか経っていないのに、この進み具合。それは単純な理由だ。未だ一度もこのフロアの魔物と遭遇していないからである。
最初は、魔物達が光輝達の様子を物陰から観察でもしているのかと疑ったが、彼等の感知系スキルや魔法を用いても一切索敵にかからないのだ。魔物の気配すらないというのは、いくら何でもおかしい。明らかな異常事態である。
「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」
龍太郎と同じように、メンバーが口々に可能性を話し合うが答えが見つかるはずもない。困惑は深まるばかりだ。
「……光輝。一度、戻らない?何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」
雫が警戒心を強めながら、光輝にそう提案した。光輝も、何となく嫌な予感を感じていたので雫の提案に乗るべきかと考えたが、何らかの障碍があったとしてもいずれにしろ打ち破って進まなければならないし、八十九層でも割りかし余裕のあった自分達なら何が来ても大丈夫ではないかと考えて、答えを逡巡する。
光輝が迷っていると、不意に、辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけたようで声を上げた。
「これ……血……だよな?」
「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど……あちこち付いているよ」
「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……」
表情を青ざめさせるメンバーの中から永山が進み出て、血と思しき液体に指を這わせる。そして、指に付着した血をすり合わせたり、臭いを嗅いだりして詳しく確認した。
「天之河……八重樫の提案に従った方がいい……これは魔物の血だ。それも真新しい」
「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」
光輝の反論に、永山は首を振る。永山は、龍太郎と並ぶクラスの二大巨漢ではあるが、龍太郎と違って非常に思慮深い性格をしている。その永山が、臨戦態勢になりながら立ち上がると周囲を最大限に警戒しながら、光輝に自分の考えを告げた。
「天之河……魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」
「……何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」
あとを継いだ雫の言葉に永山が頷く。光輝もその言葉にハッとした表情になると、永山と同じように険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。
「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」
「ここが終着点という事さ」
光輝の言葉を引き継ぎ、突如、聞いたことのない女の声が響き渡った。男口調のハスキーな声音だ。光輝達は、ギョッとなって、咄嗟に戦闘態勢に入りながら声のする方に視線を向けた。
コツコツと足音を響かせながら、広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。
光輝達が驚愕したように目を見開く。女のその特徴は、光輝達のよく知るものだったからだ。実際には見たことはないが、イシュタル達から叩き込まれた座学において、何度も出てきた種族の特徴。聖教教会の掲げる神敵にして、人間族の宿敵。そう……
「……魔人族」
誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。その時にコルト達はその魔人族の女やこの場にいないもう一つの存在に警戒していた。そしてコルトはプライベート通信でフォードーに連絡を入れ、遠藤を連れてハイリヒ王国から援軍を要請してもらう様に指示を出すのだった。
中村恵里が雷電たちの仲間入りする際にどのタイミングがよろしいか?
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グリューエン大火山に向かう時
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王都編が終わる直前の時