ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強   作:コレクトマン

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久しぶりに一万文字を超えるほど書き込んで結構疲れた作者です。


46話です。


魔人族と勇者の愚行

 

 

キャプテン・フォードーと遠藤がハイリヒ王国に援軍要請に向かってからかなり劣勢の状況に立たされていた。魔人族が従える魔物達の強さといい、魔人族が詠唱する石化魔法によってコマンダー・コルトを含むクローン部隊の二個小隊が全滅し、一個小隊がほぼ壊滅状態になっていた。メルド団長率いる騎士団にも被害が出ていた。アランという騎士が魔人族が従える魔物に敗北して死亡し、メルド団長も戦闘の最中で深手を負い、敵に捕らわれていた。そして天之河達にも被害が出ており、結界役の谷口が魔物の不意打ちによって大怪我を受けてしまったのだ。

 

 

 

何故この様な状況になってしまったのかというと、時間は数十時間前に遡る。

 

 

 

数十時間前……

 

 

 

コルトは目の前の魔人族や魔物達の存在にかなり危険視していた。ジャンゴ・フェットの遺伝子というより、戦いの勘がそう告げているのだ。彼等(勇者)を守りながら戦えば確実に被害が出る事は明確だった。この時にコルトはプライベート通信でフォードーに連絡を入れる。

 

 

《コマンダー、どうなされましたか?》

 

「フォードー、緊急事態だ。九十階層で魔人族と接敵した。お前は遠藤と共にこの迷宮から脱出し、王国に救援要請しに向かってくれ」

 

《…!イエッサー、直ちに!》

 

 

フォードーとの通信を終えた後にコルトは魔人族の方を見た。瞳の色は髪と同じ燃えるような赤色で、服装は艶のない黒一色のライダースーツのようなものを纏っている。体にピッタリと吸い付くようなデザインなので彼女の見事なボディラインが薄暗い迷宮の中でも丸分かりだった。しかも、胸元は大きく開いており、見事な双丘がこぼれ落ちそうになっている。また、前に垂れていた髪を、その特徴的な僅かに尖った耳にかける仕草が実に艶かしく、そんな場合ではないと分かっていながら幾人かの男子生徒の頬が赤く染まる。対してクローン達は兵士としてのメンタルが強い影響かあまり興味を持たず、寧ろ警戒していた。

 

 

 

魔人族の女の方は先に仕掛けてくる様子は無い。寧ろ、何かと俺達をじっくり観察している様子だった。その時に魔人族の女は天之河の方に目を向ける。

 

 

「勇者はあんたでいいんだよね?そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」

 

「あ、アホ……う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ!」

 

「いちいち反応するな天之河。……質問を質問で返して悪いが、魔人族のお前は一体何をしに来たんだ?」

 

 

あまりと言えばあまりな物言いに軽くキレる天之河。それに合わせてコルトは魔人族の女に目的を問いただした。しかし、魔人族の女は煩そうに天之河の怒りを無視し、心底面倒そうに言葉を続け、コルト達に話す。

 

 

「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに……白い鎧を着た連中以外は?……まぁ、命令だし仕方ないか……あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

 

「な、なに?来ないかって……どう言う意味だ!」

 

「文字通りだ、天之河。あの魔人族はどうやらお前たちをハイリヒ王国から魔人国に引き入れるつもりで勧誘している。もっとも、本人は嫌そうではあるがな…」

 

「あんた、呑み込みが良いね。そっちの呑み込みが悪いね勇者と違ってね?あんたの言う通り、そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?無論、白い鎧を着たあんた等もね?」

 

 

天之河達としては完全に予想外の言葉だったために、その意味を理解するのに少し時間がかかった。しかし、軍人であるコルトはその意味を完全に理解していたため答えを出した。

 

 

「悪いが、俺達が忠誠を誓っているのは共和国だ。お前の勧誘は断らせてもらう」

 

「俺もコルトと同じだ!人間族を……仲間達を……王国の人達を……裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな!やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、一人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ。投降しろ!」

 

 

天之河の言葉に、安心した表情をするクラスメイト達。天之河なら即行で断るだろうとは思っていたが、ほんの僅かに不安があったのは否定できない。もっとも、龍太郎や雫など幼馴染達は、欠片も心配していなかったようだが。しかし、コルト達は違った。

 

 

「天之河、お前たちはこの迷宮から脱出しろ」

 

「なっ…!?何を言ってるんですか!相手は魔人族一人、こちらの方が……」

 

「いいから退け!!向こうは何の用意も無しに此処にいる訳ではないんだ!お前が俺の命令を拒んでも強制的に退かせる!第一、第二分隊、学生達を迷宮から脱出させろ!」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

「ま…待てっ!魔人族相手に何を……!?」

 

 

天之河の反論すら聞かず、フォードー率いるクローン達に天之河達を連れて迷宮から脱出するよう指示を出す。そしてクローン達も天之河達を連れて迷宮から脱出を図る。それを魔人族の女は追撃もせず、ただ黙ってみていた。そのことに疑問に思ったコルトは魔人族に問いかける。

 

 

「……何故追撃して来なかった?あのタイミングなら追撃できた筈だ」

 

「まぁ…あたしとしてはあの勇者達がどうなろうと知ったことじゃないんだけどね?それはそうと目的はあの勇者もそうだけど、あんた等も勧誘対象に入ってるのさ。一応聞くけど、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?それでも?」

 

「……前にも言ったが俺達クローンは共和国に忠誠を誓っている。勧誘は諦めるんだな?」

 

 

コルトの言葉を皮切りに残りのクローン・トルーパー二個小隊がコマンダー・コルトの下に集まり、戦闘態勢を取る。

 

 

「そう。なら、もう用はないよ。あと、一応言っておくけど……あんた等の勧誘は最優先事項ってわけじゃないから、殺されないなんて甘いことは考えないことだね」

 

「俺達は戦う為に造られた存在。戦いで死ぬのなら、兵士として本望さ」

 

「そうかい……ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」

 

 

魔人族の女が三つの名を呼ぶのと、バリンッ!という破砕音と共に、一部のクローン達が苦悶の声を上げて吹き飛ぶのは同時だった。

 

 

「…っ!お前たち、何としても彼等が脱出するまでここで時間を稼ぐぞ!!」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

 

こうしてコルト率いるクローン・トルーパー二個小隊は魔人族が従える魔物達と交戦するのだった。己の命を引き換えに……

 

 

コルトSide out

 

 

 

天之河達がクローン達に連れられて八十九階層付近に到着した際にメルド団長率いる騎士団と合流した時に他の魔物と待ち伏せ受ける。その待ち伏せした魔物達を蹴散らした天之河達。しかし、雫達はかなり魔力と体力を消耗していて危険だった。その時に魔法詠唱隊に土壁を作り、そこで治療や休憩を数時間取りつつもフォードーはメルドに遠藤を連れて王国に救援を要請してくると告げる。

 

 

 

メルド団長達としては救援に来られるとは思っていない。しかし、それしか助かる方法はないと判断し、メルド団長はフォードーに遠藤を託して騎士達は天之河達を守る為に護衛に入る。その際にコルトがいないことに気付いたメルド団長はクローン・トルーパーのイザナミにコルトは何処にいるのかを聞き出す。

 

 

「イザナミ、コルトはどうした!?」

 

「コマンダー・コルトは二個小隊を率いて魔人族とそれに従う魔物達を足止めしています!しかし、敵は強力な故に突破されるのは時間の問題かと……」

 

 

コルトが時間稼ぎの為に足止めをしていることを聞いたメルドは悟った。コルト達は自分の命を引き換えに魔人族を足止めしているということを。これ以上の事をメルドは聞かなかった。彼の死を無駄にしない為に。

 

 

「どうやらここにいたようね?」

 

 

すると声が響き渡り、その声がする方に向けると、そこにはコルト達と交戦していた筈の魔人族の女がコルトのヘルメットを持ってここに来た。魔物達を引き連れて……

 

 

「そのヘルメット……コマンダー・コルトのか!?」

 

「あぁ、あいつには手を焼かされたよ。なかなか粘るもんだからね?」

 

 

そういって魔人族の女はコルトのヘルメットをクローン達の方に投げる。イザナミはそっとコマンダー・コルトのヘルメットを回収する。クローン達は魔人族の女に怒りを覚えるが自制し、冷静に状況を判断する。しかし、クローン達以外に例外がいた。

 

 

「…っ!貴様ァー!!」

 

 

それは天之河だった。コルトとはあまり良く思っていなかったが、それでも仲間として殺されたことに撃昴し、魔人族に切り掛かる。体力がまだ完全に回復し切れてない状態で……

 

 

「「「光輝(くん)!?」」」

 

「おいっバカ!?迂闊に突出するな!!トルーパー、あの馬鹿の援護!メルド騎士団も援護を頼む!」

 

「分かってる!もうこれ以上、死なせるものか!」

 

 

そうして天之河の愚行の所為で疲弊した状態のまま魔人族と交戦することになった。フォードー達が援軍を連れてくるまで持ちこたえなければならない。

 

 

 

そして今現在に至る。

 

 

 

クローン達の鎧も所々傷だらけであったが、戦闘続行するには支障は無かった。しかし、天之河達は完全に危険だった。肝心の天之河はメルド同様に別の魔物に捕まってしまっている。

 

 

「勇者くんは本当に期待外れだよ。こうも単機で突っ込んでこんな手に引っかかるなんてね?それに対して白い鎧を着た連中……“クローン”だってね?人間の複製なんてある意味、人間の方が魔物を造っている様に見えるね?まぁ…兵士としては一級品だけどね?」

 

「くそっ!光輝ッ!!」

 

「雫ちゃん…光輝くんが…」

 

「くっ…!」

 

 

八重樫達は囚われている天之河とメルド団長をどう助けるか考えていた。しかし……この絶望の中、魔人族に従える強力な魔物達相手にクローン達は敗れた。その時に魔人族の女は八重樫達に最後のチャンスと言わんばかりに勧誘を勧める。

 

 

「…んで、あんた達にもう一度聞くけど……魔人族側(こっち)に来ないかい?今のあんた達は未熟だけど見込みがある。来てくれるなら歓迎するよ」

 

「だけど、断れば生かす理由は無くなるってところかしら?」

 

 

そんな話の中、後衛を務めていた中村は意見を出す。

 

 

「わ…私は、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」

 

「恵里!?」

 

「中村!てめぇ何言ってんだ!光輝達を裏切るってことかよ!?」

 

「よせ、お前たち!中村、そう意見したということは皆の生存を考えてのことか?」

 

「う…うん。みんなに死んでほしくなくて……光輝君のことは、私には……どうしたらいいか……うぅ、ぐすっ……」

 

 

中村の意見に驚く谷口にキレる龍太郎。そしてそれを静めるイザナミ。中村はポロポロと涙を零しながらも一生懸命言葉を紡ぐ。すると、一人、恵里に賛同する者が現れた。

 

 

「俺も、中村と同意見だ。もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

 

「檜山……それは、光輝はどうでもいいってことかぁ?あぁ?」

 

「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろっていうのか?俺達全員?」

 

「そうじゃねぇ!そうじゃねぇが!」

 

「代案がないなら黙ってろよ。今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ」

 

 

檜山の発言で、更に誘いに乗るべきだという雰囲気になる。檜山の言う通り、死にたくなければ提案を呑むしかないのだ。しかし、イザナミを含むクローン達は違った。

 

 

「悪いがその案は反対だ。俺たちの命令はお前たちをこの迷宮から脱出させることだ。それ以外は俺達が認めん」

 

「じゃあ、戦うしか能のないお前たちはここで心中するってのか!?生きてさえいればまだ望みが…「戦場を理解していない素人は黙っていろ!」ヒィッ!?」

 

 

イザナミが檜山を黙らせるところを見ていた魔人族の女は“おぉ…怖い怖い”と小さく呟く中、捕まって気を失っていたメルドは意識を覚醒し、また一つ苦しげな、しかし力強い声が部屋に響き渡る。小さな声なのに、何故かよく響く低めの声音。戦場にあって、一体何度その声に励まされて支えられてきたか。どんな状況でも的確に判断し、力強く迷いなく発せられる言葉、大きな背中を見せて手本となる姿のなんと頼りになることか。みなが、兄のように、あるいは父のように慕った男。メルドの声が響き渡る。

 

 

「……お前達」

 

「…メルドさん!」

 

「…おや、まだ生きていたのかい?」

 

「お前達は…生き残る事だけ考えろ…!今更こんな事を言っても遅いが、ずっと後悔していた。巻き込んで済まなかった……我々のことは気にするな。信じた通りに進み…生きて故郷に帰れ……最初からこれは…私達の戦争だったのだ!」

 

 

メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなかった。唯の一人の男、メルド・ロギンスの言葉、立場を捨てたメルドの本心。それを晒したのは、これが最後と悟ったからだ。

 

 

 

天之河達が、メルドの名を呟きながらその言葉に目を見開くのと、メルドが全身から光を放ちながらブルタールモドキを振り払い、一気に踏み込んで魔人族の女に組み付こうとした。

 

 

「魔人族!一緒に逝ってもらうぞ!!」

 

「へぇ、自爆かい?潔いね。嫌いじゃないよ、そういうの。…でも、あんたと一緒は御免だね」

 

 

すると魔人族の後方にいた魔物が呼吸し始めるとメルドが纏っていた光が吸収される。

 

 

「…!?魔力が…!」

 

「残念だったね?せめて楽にしてあげるよ」

 

 

そういって魔人族の女は魔法で砂塵で出来た刃を作り、それをメルドの腹部に突き刺す。腹部から背中にかけて貫かれ、背から飛び出している刃にはべっとりと血が付いていて先端からはその雫も滴り落ちている。

 

 

「……メルドさん!」

 

 

光輝が、血反吐を吐きながらも気にした素振りも見せず大声でメルドの名を呼ぶ。メルドが、その声に反応して、自分の腹部から光輝に目を転じ、眉を八の字にすると“すまない”と口だけを動かして悔しげな笑みを浮かべた。

 

 

 

後、砂塵の刃が横薙ぎに振るわれ、メルドが吹き飛ぶ。人形のように力を失ってドシャ!と地面に叩きつけられた。少しずつ血溜りが広がっていく。誰が見ても、致命傷だった。満身創痍の状態で、あれだけ動けただけでも驚異的であったのだが、今度こそ完全に終わりだと誰にでも理解できた。

 

 

「あの傷で立ち上がるとは思わなかったよ。…さて、これが一つの末路だよ。あんた達はどうする?魔人族側(こっち)に来るか、ここで全滅するか…」

 

 

メルドが死亡したことで八重樫達は完全に戦意喪失していた。しかし、クローン達はまだ戦意は消えていなかった。己が命に代えても天之河達を守るつもりだった。その時に、魔人族の女は天之河から異常な威圧感を感じ取った。

 

 

「…!?白銀色の瞳!?それにこの威圧感…!(このまま放置してたら、何かマズい!!)アハトド!殺りな!!」

 

 

馬頭、改めアハトドは、魔人族の女の命令を忠実に実行し、“魔衝波”を発動させた拳二本で宙吊りにしている光輝を両サイドから押しつぶそうとした。

 

 

 

だが、その瞬間、光輝から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。そして、光輝が自分を掴むアハトドの腕に右手の拳を振るうと、ベギャ!という音を響かせて、いとも簡単に粉砕してしまった。

 

 

 

粉砕された右手に絶叫を上げ、思わず光輝を取り落とすアハトドに、光輝は負傷を感じさせない動きで回し蹴りを叩き込む。

 

 

 

ズドォン!!

 

 

 

そんな大砲のような衝撃音を響かせて直撃した蹴りは、アハトドの巨体をくの字に折り曲げて、後方の壁へと途轍もない勢いで吹き飛ばした。轟音と共に壁を粉砕しながらめり込んだアハトドは、衝撃で体が上手く動かないのか、必死に壁から抜け出ようとするが僅かに身動ぎすることしか出来ない。

 

 

 

光輝は、ゆらりと体を揺らして、取り落としていた聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光で魔人族の女を睨みつけた。同時に、竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流が光輝の体へと収束し始める。

 

 

 

“限界突破”終の派生技能[+覇潰]。通常の“限界突破”が基本ステータスの三倍の力を制限時間内だけ発揮するものとすれば、〝覇潰〟はその上位の技能で、基本ステータスの五倍の力を得ることが出来る。ただし、唯でさえ限界突破しているのに、更に無理やり力を引きずり出すのだ。今の光輝では発動は三十秒が限界。効果が切れたあとの副作用も甚大。

 

 

 

だが、そんな事を意識することもなく、光輝は怒りのままに魔人族の女に向かって突進する。今、光輝の頭にあるのはメルドの仇を討つことだけ。復讐の念だけだ。

 

 

「よくも…よくもメルドさんをッ!!」

 

「チィ!お前達!!」

 

 

魔人族の女が焦った表情を浮かべ、周囲の魔物を光輝にけしかける。キメラが奇襲をかけ、黒猫が触手を射出し、ブルタールモドキがメイスを振るう。しかし、光輝は、そんな魔物達には目もくれない。聖剣のひと振りでなぎ払い、怒声を上げながら一瞬も立ち止まらず、魔人族の女のもとへ踏み込んだ。

 

 

 

大上段に振りかぶった聖剣を光輝は躊躇いなく振り下ろす。魔人族の女は舌打ちしながら、咄嗟に、砂塵の密度を高めて盾にするが……光の奔流を纏った聖剣はたやすく砂塵の盾を切り裂き、その奥にいる魔人族の女を袈裟斬りにした。流石のクローン達も天之河の急激な展開に驚いていた。

 

 

「参ったね……あの状況から逆転なんて………三文芝居でも見ている気分だよ」

 

 

魔人族の女はこの様な展開になる事を想定していなかった為か、かなり焦っていた。その時に魔人族の女の懐から何かが落ちた。魔人族の女はそれを拾い上げ、手から離さずに掴む。この時に天之河は魔人族の女は自爆するつもりと判断したのか直ぐに止めを刺そうとする。そして魔人族の女は手に持っていた物ことロケットペンダントを開き、愛すべき人を見つめながら愛しそうな表情で呟く。

 

 

「ごめん……先に逝く。……愛してるよ、ミハイル……」

 

 

その呟きに反応したのか天之河は止めを刺すのを止めてしまう。それを見ていたクローン達は天之河がここに来て最悪な展開が起きてしまったことに焦りを生じてしまう。それこそ、天之河は最後まで魔人族を()()()()()()()()()()()()()()のだ。クローン達は天之河に早く止めを刺すように怒声を上げる。

 

 

「…くそっ!こんな厄介なタイミングでッ…!!天之河、早くするんだ!ここで魔人族を討たなければ魔物達が起き上がり、他の仲間に襲いかかるぞ!聞こえてるのか!?」

 

「天之河、早くしろ!!魔人族や魔物諸共生かしておくな!!」

 

 

イザナミや他のクローン達がそう告げるが、天之河の表情は愕然としており、目をこれでもかと見開いて魔人族の女を見下ろしている。その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。その光輝の瞳を見た魔人族の女は、何が光輝の剣を止めたのかを正確に悟り、侮蔑の眼差しを返した。その眼差しに光輝は更に動揺する。

 

 

「……呆れたね。まさか、今になってようやく気がついたのかい?()を殺そうとしていることに」

 

「ッ!?」

 

「あのクローン達の言葉から察するに、魔人族を人とすら認めていなかったとはね」

 

「ち…違う。俺は…知らなくて…」

 

 

動揺する天之河を無視して魔人族の女は魔物たちに命令する。

 

 

「アハトド!起きな!!あいつ等を皆殺しにしな!」

 

「なっ…どうして!」

 

「このバカ!この土壇場で止めを刺すのを戸惑うからだ!!」

 

「あのクローンの言う通りだよ、本当に何も分かってない坊ちゃんだね?ここで殺しておいた方がいいと判断しただけの話さ。未熟な精神に強大な力、あんたは危険すぎる。これは()()なんだよ!!」

 

 

その言葉を皮切りに一体の猫型の魔物が背後から雫を黒い触手で突き刺そうとした。雫は背後から来る触手に対応できなかった。

 

 

「しまっ…!」

 

「シズシズーッ!」

 

 

その時に大怪我をしていた谷口が雫に割って入ろうとする。谷口はクローン・トルーパー・メディックに治療されて傷口が塞がったものの、まだ病み上がりだった為に上手く身体を動かす事すらままならない。しかし、持ち前の気合いと根性で何とか割って入る事が出来たと同時に再び刺される覚悟をして目を瞑ったが、谷口に襲う筈の痛みがいつまで経っても来なかった。

 

 

「アレ…?な…何で……ッ!?」

 

 

谷口がゆっくり目を開けると、そこには中村が谷口の代わりに受けて腹部を貫かれていた。

 

 

「え……エリリンッ!!」

 

「恵里ッ!?」

 

 

谷口と八重樫は急ぎ触手によって貫かれた中村を助けるべく、八重樫は触手を切り裂き、谷口は中村を抱きかかえながらもゆっくりと降ろす。そして谷口たちを庇った中村は貫かれた衝撃で朦朧としていた。その時に天之河が猫型の魔物を聖剣で倒すと同時に八重樫の安否を確認する。

 

 

「雫、大丈夫か!?」

 

「光輝!私は大丈夫、でも恵里が……」

 

「大丈夫だ!誰も死なせない!今の俺なら…」

 

 

そう構え治した瞬間、いつかの再現か、ガクンと膝から力が抜けそのまま前のめりに倒れ込んでしまった。

 

“覇潰”のタイムリミットだ。そして、最悪なことに、無理に無理を重ねた代償は弱体化などという生温いものではなく、体が麻痺したように一切動かないというものだった。

 

 

「光輝!?」

 

「?……!?」

 

「お前たち、直ぐにこっちに来るんだ!」

 

「イザナミさん!?……了解!」

 

 

八重樫は天之河を、谷口は中村を担いでクローン達のところに運ぶ。そこでは白崎とクローン・トルーパー・メディックが負傷した者たちを応急手当で治療していた。しかし、いくら衛生兵のクローン・トルーパー・メディックの持つバクタ液でも数が足りず、かなり危険な状況だった。

 

 

「香織!光輝をお願い!後は…私がやる」

 

「無茶だ、八重樫!お前たち、八重樫の援護に回れ!!」

 

「「イエッサー!」」

 

 

八重樫とクローン・トルーパー二名が倒れた天之河の代わりに魔人族の相手をする。友人である白崎は不安になりながらも天之河を治癒魔法で治療するのだった。

 

 

「あんたは殺し合いをする自覚はあるね。あんたの方が勇者にふさわしいんじゃないか?」

 

「御託はいい。光輝のツケは私が払わせてもらう」

 

「焦るな、先ずは俺達が援護する!」

 

 

そしてクローン・トルーパー二名はブラスターで応戦する。魔人族の女は砂塵の使った盾を生成し、ブラスターから放たれる光弾を防ぐ。その同時に八重樫は神速の抜刀術で魔人族の女を斬ろうと“無拍子”を発動しようと構えを取った。が、その瞬間、背筋を悪寒が駆け抜け本能がけたたましく警鐘を鳴らす。咄嗟に、側宙しながらその場を飛び退くと、黒猫の触手がついさっきまで雫のいた場所を貫いていた。

 

 

「他の魔物に狙わせないとは言ってない。アハトドと他の魔物を相手にしながらあたしが殺せるかい?」

 

「くっ!」

 

 

魔人族の女は“もちろんあたしも殺るからね”と言いながら魔法の詠唱を始めた。“無拍子”による予備動作のない急激な加速と減速を繰り返しながら魔物の波状攻撃を凌ぎつつ、何とか、魔人族の女の懐に踏み込む隙を狙う八重樫だったが、その表情は次第に絶望に染まっていく。

 

 

 

なにより苦しいのは、アハトドが八重樫のスピードについて来ていることだ。その鈍重そうな巨体に反して、しっかり八重樫を眼で捉えており、隙を衝いて魔人族の女のもとへ飛び込もうとしても、一瞬で八重樫に並走して衝撃を伴った爆撃のような拳を振るってくるのである。

 

 

 

八重樫はスピード特化の剣士職であり、防御力は極めて低い。回避か受け流しが防御の基本なのだ。それ故に、“魔衝波”の余波だけでも少しずつダメージが蓄積していく。完全な回避も、受け流しも出来ないからだ。

 

 

 

そして、とうとう蓄積したダメージが、ほんの僅かに八重樫の動きを鈍らせた。それは、ギリギリの戦いにおいては致命の隙だ。

 

 

 

バギャァ!!

 

 

 

「あぐぅう!!」

 

 

咄嗟に剣と鞘を盾にしたが、アハトドの拳は、八重樫の相棒を半ばから粉砕しそのまま八重樫の肩を捉えた。地面に対して水平に吹き飛び体を強かに打ち付けて地を滑ったあと、力なく横たわる八重樫。右肩が大きく下がって腕がありえない角度で曲がっている。完全に粉砕されてしまったようだ。体自体にも衝撃が通ったようで、ゲホッゲホッと咳き込むたびに血を吐いている。

 

 

「「「八重樫!」」」

 

「雫ちゃん!」

 

 

白崎とクローン達が、焦燥を滲ませた声音で八重樫の名を呼ぶが、八重樫は折れた剣の柄を握りながらも、うずくまったまま動かない。その時、白崎の頭からは、仲間との陣形とか魔力が尽きかけているとか、自分が傍に行っても意味はないとか、そんな理屈の一切は綺麗さっぱり消え去っていた。あるのはただ“大切な親友の傍に行かなければ”という思いだけ。

 

 

 

白崎は、衝動のままに駆け出す。魔力がほとんど残っていないため、体がフラつき足元がおぼつかない。背後からクローン達が制止する声が上がるが、白崎の耳には届いていなかった。ただ一心不乱に八重樫を目指して無謀な突貫を試みる。当然、無防備な白崎を魔物達が見逃すはずもなく、情け容赦ない攻撃が殺到する。

 

 

 

だが、それらの攻撃は全てクローン達がブラスターで撃退し、八重樫へと続く道を作る。そしてクローン二名も二人を殺してなるものかとブラスターで必死に抵抗する。

 

 

「絶対に彼女等を死なせるな!何としても守り抜くんだ!!」

 

「魔物の野郎、ふざけやがって!!」

 

「ここは俺達が抑える!その内に八重樫を!!」

 

 

クローン達の援護のおかげで白崎は、多少の手傷を負いつつも八重樫の下へたどり着いた。そして、うずくまる八重樫の体をそっと抱きしめ支える。

 

 

「か、香織……何をして……早く、戻って。ここにいちゃダメよ」

 

「ううん。どこでも同じだよ。それなら、雫ちゃんの傍がいいから」

 

「……ごめんなさい。勝てなかったわ」

 

「私こそ、これくらいしか出来なくてごめんね。もうほとんど魔力が残ってないの」

 

 

八重樫を支えながら眉を八の字にして微笑む白崎は、痛みを和らげる魔法を使う。八重樫も、無事な左手で自分を支える白崎の手を握り締めると困ったような微笑みを返した。

 

 

 

そんな二人の前に影が差す。アハトドだ。血走った眼で、寄り添う白崎と八重樫を見下ろし、独特の咆哮を上げながら、その極太の腕を振りかぶっていた。

 

 

 

今、まさに放たれようとしている死の鉄槌を目の前にして、白崎の脳裏に様々な光景が過ぎっていく。“ああ、これが走馬灯なのかな?”と妙に落ち着いた気持ちで、思い出に浸っていた白崎だが、最後に浮かんだ光景に心がざわついた。

 

 

 

それは、月下のお茶会。二人っきりの語らいの思い出。自ら誓いを立てた夜のこと。困ったような笑みを浮かべる今はいない彼。いなくなって初めて〝好き〟だったのだと自覚した。生存しながらもまた会える事を信じて追いかけた。

 

 

 

だが、それもここで終わる。“結局、また、誓いを破ってしまった”そんな思いが、気がつけば白崎の頬に涙となって現れた。

 

 

 

再会したら、まずは名前で呼び合いたいと思っていた。その想いのままに、せめて、最後に彼の名を……自然と紡ぐ。

 

 

「……ハジメくん」

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

ドォゴオオン!!

 

 

 

轟音と共にアハトドの頭上にある天井が崩落し、同時に紅い雷を纏った巨大な漆黒の杭が凄絶な威力を以て飛び出した。

 

 

 

スパークする漆黒の杭は、そのまま眼下のアハトドを、まるで豆腐のように貫きひしゃげさせ、そのまま地面に突き刺さった。

 

 

 

全長百二十センチのほとんどを地中に埋め紅いスパークを放っている巨杭と、それを中心に血肉を撒き散らして原型を留めていないほど破壊され尽くしたアハトドの残骸に、眼前にいた白崎と八重樫はもちろんのこと、天之河達や彼等を襲っていた魔物達、そして魔人族の女までもが硬直する。

 

 

 

戦場には似つかわしくない静寂が辺りを支配し、誰もが訳も分からず呆然と立ち尽くしていると、他の魔物たちが再び白崎たちに襲いかかろうとしたその瞬間、崩落した天井から人影が飛び降りてきた。その人物は手に筒状の物体を持ち、それを起動させて青い光刃を発生させ、そのまま白崎たちに襲いかかる魔物たちを全て切り捨てた。

 

 

 

白崎たちを襲う魔物を一掃した事確認しつつも周囲を睥睨する。そして、その者は肩越しに振り返り背後で寄り添い合う香織と雫を見やった。

 

 

 

白崎たちは突如と現れ、助けてくれた人物はクローン達と同じ装備に茶色のローブと合体させた装甲服を着た一人のクローン?だった。この時に八重樫は遠藤達が連れて来た援軍なのかと思ったその時に崩落した天井から再び人影が飛び降りてきた。その人物は、香織達に背を向ける形でスタッと軽やかにアハトドの残骸を踏みつけながら降り立つと、周囲を睥睨する。

 

 

 

そして、肩越しに振り返り背後で寄り添い合う白崎と八重樫を見やった。

 

 

 

振り返るその人物と目が合った瞬間、白崎の体に電撃が走る。悲しみと共に冷え切っていた心が、いや、もしかしたら大切な人が消えたあの日から凍てついていた心が、突如、火を入れられたように熱を放ち、ドクンッドクンッと激しく脈打ち始めた。

 

 

「……相変わらず仲がいいな、お前等」

 

「お前な……ここに来て再会した後の言葉がそれか?」

 

 

その者は白崎たちに対しての言葉に助けてくれたクローン?は苦笑いしながらツッコミを入れる。そんな事をいう彼に、考えるよりも早く白崎の心が歓喜で満たされていく。

 

 

 

髪の色が違う、纏う雰囲気が違う、口調が違う、目つきが違う。だが、わかる。彼だ。生存を信じて探し続けた彼だ。

 

 

そう……

 

 

「ハジメくん!」

 

 

天之河達の間でオルクス大迷宮で死亡した筈の“南雲ハジメ”が再びこの迷宮に戻って来たのだ。それだけではない……

 

 

「ハジメだけじゃないぞ」

 

 

そう言ってクローン?は自らヘルメットを外し、その素顔を晒す。その時に八重樫はヘルメットを外した人物に見覚えがあった。オルクス大迷宮の奈落に落ちて以来、その奈落から通信越しでハジメとクローン達を召喚したもう一人の生存者……

 

 

「藤原…君?」

 

「久しぶりだな、八重樫。約四ヶ月ぶりといったところか?」

 

 

クローン軍団の将軍である“藤原雷電”がジェダイとなって白崎達の救援に来たのだった。仲間と二個分隊のクローン・コマンドーを引き連れて……

 

 

中村恵里が雷電たちの仲間入りする際にどのタイミングがよろしいか?

  • グリューエン大火山に向かう時
  • 王都編が終わる直前の時
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