ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強   作:コレクトマン

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特に言う事はないですが、最近腰が痛い……or”z


56話目です。


オアシスに潜むものと修羅場

 

 

オアシスより現れたそれは、体長十メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っていた。スライム……そう表現するのが一番わかりやすいだろう。

 

 

 

だが、サイズがおかしい。通常スライム型の魔物はせいぜい体長一メートルくらいなのだ。また、周囲の水を操るような力もなかったはずだ。少なくとも触手のように操ることは、自身の肉体以外では出来なかったはずである。

 

 

「なんだ……この魔物は一体何なんだ? バチェラム……なのか?」

 

 

呆然とランズィがそんな事を呟く。バチェラムとは、この世界のスライム型の魔物のことだ。

 

 

「まぁ、何でもいいさ。こいつがオアシスが汚染された原因だろ? 大方、毒素を出す固有魔法でも持っているんだろう」

 

「……確かに、そう考えるのが妥当か。だが倒せるのか?」

 

 

ハジメとランズィが会話している間も、まるで怒り心頭といった感じで触手攻撃をしてくるオアシスバチュラム。ユエは氷結系の魔法、ティオは火系の魔法、清水とデルタ、不良分隊はブラスターで対処している。ハジメも、会話しながらドンナー・シュラークで迎撃しつつ、核と思しき赤い魔石を狙い撃つが、魔石はまるで意思を持っているかのように縦横無尽に体内を動き回り、中々狙いをつけさせない。

 

 

 

その様子を見てランズィが、ハジメの持つアーティファクトやユエ達の魔法に、もう驚いていられるかと投げやり気味にスルーすることを決めた。そして清水は、オアシスバチュラムを相手にしながらもハジメに勝算を尋ねた。

 

 

「ハジメ、奴の(コア)は捕捉できそうか?」

 

「ん~……ああ、大丈夫だ。もう捉えた」

 

 

清水の質問に対してお座なりな返事をしながら、目を細めジッと動き回る魔石の軌跡を追っていたハジメは、おもむろにシュラークをホルスターにしまうと、ドンナーだけを持って両手で構えた。持ち手の右腕を真っ直ぐ突き出し左肘を曲げて、足も前後に開いている。いわゆるウィーバー・スタンスと言われる射撃姿勢だ。ドンナーによる精密射撃体勢である。

 

 

 

ハジメの眼はまるで鷹のように鋭く細められ、魔石の動きを完全に捉えているようだ。そして……

 

 

 

ドパンッ!!

 

 

 

乾いた破裂音と共に空を切り裂き駆け抜けた一条の閃光は、カクっと慣性を無視して進路を変えた魔石を、まるで磁石が引き合うように、あるいは魔石そのものが自ら当たりにいったかのように寸分違わず撃ち抜いた。

 

 

 

レールガンの衝撃と熱量によって魔石は一瞬で消滅し、同時にオアシスバチュラムを構成していた水も力を失ってただの水へと戻った。ドザァー!と大量の水が降り注ぐ音を響かせながら、激しく波立つオアシスを見つめるランズィ達。

 

 

「……終わったのかね?」

 

「ああ、もう、オアシスに魔力反応はねぇよ。原因を排除した事がイコール浄化と言えるのかは分からないが」

 

 

ハジメの言葉に、自分達アンカジを存亡の危機に陥れた元凶が、あっさり撃退されたことに、まるで狐につままれたような気分になるランズィ達。それでも、元凶が目の前で消滅したことは確かなので、慌ててランズィの部下の一人が水質の鑑定を行った。その際に清水が不良分隊のテックに同じ様に水質の鑑定の指示を出し、水質の鑑定を待った。

 

 

「……どうだ?」

 

「……いえ、汚染されたままです」

 

「テック、彼等と同じ結果か?」

 

「はい。こちらも同じ結果が出ました。厳密に言えば、先程倒した魔物は自分たちに倒されても、毒素は残したままに出来る固有魔法を有してたという事になります。もっとも、その魔物は一体何処からやって来たのかは不明ですが……」

 

 

ランズィの期待するような声音に、しかし部下は落胆した様子で首を振った。そしてテックの説明の通り、オアシスから汲んだ水からも人々が感染していたことから予想していたことではあるが、オアシスバチュラムがいなくても一度汚染された水は残るという事実に、やはり皆落胆が隠せないようだ。

 

 

「まぁ、そう気を落とすでない。元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むことはない。新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」

 

 

ティオが慰めるようにランズィ達に言うと、彼等も、気を取り直し復興に向けて意欲を見せ始めた。ランズィを中心に一丸となっている姿から、アンカジの住民は、みながこの国を愛しているのだということがよくわかる。過酷な環境にある国だからこそ、愛国心も強いのだろう。

 

 

「……しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか……新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

 

 

気を取り直したランズィが首を傾げてオアシスを眺める。それに答えたのはハジメだった。

 

 

「おそらくだが……魔人族の仕業じゃないか?」

 

「!?魔人族だと?ハジメ殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのだな?」

 

 

ハジメの言葉に驚いた表情を見せたランズィは、しかし、すぐさま冷静さを取り戻し、ハジメに続きを促した。水の確保と元凶の排除を成し遂げたハジメに、ランズィは敬意と信頼を寄せているようで、最初の、胡乱な眼差しはもはや微塵もない。

 

 

 

ハジメは、オアシスバチュラムが、魔人族の神代魔法による新たな魔物だと推測していた。それはオアシスバチュラムの特異性もそうだが、ウルの町で愛子を狙い、オルクスで勇者一行を狙ったという事実があるからだ。

 

 

 

おそらく、魔人族の魔物の軍備は整いつつあるのだろう。そして、いざ戦争となる前に、危険や不確定要素、北大陸の要所に対する調査と打撃を行っているのだ。愛子という食料供給を一変させかねない存在と、聖教教会が魔人族の魔物に対抗するため異世界から喚んだ勇者を狙ったのがいい証拠だ。

 

 

 

そして、アンカジは、エリセンから海産系食料供給の中継点であり、果物やその他食料の供給も多大であることから食料関係において間違いなく要所であると言える。しかも、襲撃した場合、大砂漠のど真ん中という地理から、救援も呼びにくい。魔人族が狙うのもおかしな話ではないのだ。

 

 

 

その辺りのことを、ランズィに話すと、彼は低く唸り声を上げ苦い表情を見せた。

 

 

「魔物のことは聞き及んでいる。こちらでも独自に調査はしていたが……よもや、あんなものまで使役できるようになっているとは……見通しが甘かったか」

 

「まぁ、仕方ないんじゃないか? 王都でも、おそらく新種の魔物なんて情報は掴んでいないだろうし。なにせ、勇者一行が襲われたのもつい最近だ。今頃、あちこちで大騒ぎだろうよ」

 

「いよいよ本格的に動き出したということか……ハジメ殿……貴殿は冒険者と名乗っていたが……そのアーティファクトといい、強さといい、やはり香織殿と同じ……」

 

 

ハジメが、何も答えず肩を竦めると、ランズィは何か事情があるのだろうとそれ以上の詮索を止めた。どんな事情があろうとアンカジがハジメ達に救われたことに変わりはない。恩人に対しては、無用な詮索をするよりやるべき事がある。

 

 

「……ハジメ殿、ユエ殿、ティオ殿、シャドウ殿、。アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う。この国は貴殿等に救われた」

 

 

そう言うと、ランズィを含め彼等の部下達も深々と頭を下げた。領主たる者が、そう簡単に頭を下げるべきではないのだが、ハジメが“神の使徒”の一人であるか否かに関わらず、きっと、ランズィは頭を下げただろう。ほんの少しの付き合いしかないが、それでも彼の愛国心が並々ならぬものであると理解できる。だからこそ、周囲の部下達もランズィが一介の冒険者を名乗るハジメに頭を下げても止めようとせず、一緒に頭を下げているのだ。この辺りは、息子にもしっかり受け継がれているのだろう。仕草も言動もそっくりである。

 

 

 

そんな彼等に、ハジメはニッコリと満面の笑みを見せる。そして、

 

 

「ああ、たっぷり感謝してくれ。そして、決してこの巨大な恩を忘れないようにな」

 

 

思いっきり恩に着せた。それはもう、清々しいまでに。ランズィはてっきり「いや、気にしないでくれ。人として当然のことをしたまでだ」等と謙遜しつつ、さり気なく下心でも出してくるかと思っていたので、思わずキョトンとした表情をしてしまう。別にランズィとしては、救国に対する礼は元からするつもりだったので、それでも構わなかったのだが、まさか、ここまでド直球に来るとは予想外だった。

 

 

 

ハジメとしては、香織の頼みでもあったし、ミュウを預けなければならない以上、アンカジの安全確保は必要なことだったので、それほど感謝される程の事でもなかった。

 

 

 

だが、せっかく感謝してくれているし、いざという時味方をしてくれる人は多いに越したことはないだろうと、しっかり恩を売っておくことにしたのだ。ランズィなら、その辺の対応は誠実だろうとは思ったが、彼も政治家である以上、言質は取っておこうというわけである

 

 

「あ、ああ。もちろんだ。末代まで覚えているとも……だが、アンカジには未だ苦しんでいる患者達が大勢いる……それも、頼めるかね?」

 

 

政治家として、あるいは貴族として、腹の探り合いが日常とかしているランズィは、ド直球なハジメの言葉に少し戸惑った様子だったが、やがて何かに納得したのか苦笑いをして頷いた。そして、感染者たちを救うため“静因石”の採取を改めて依頼した。

 

 

「もともと、“グリューエン大火山”に用があって来たんだ。そっちも問題ない。ただ、どれくらい採取する必要があるんだ?」

 

 

 

あっさり引き受けたハジメにホッと胸を撫で下ろし、ランズィは、現在の患者数と必要な採取量を伝えた。相当な量であったが、ハジメには“宝物庫”があるので問題ない。こういうところでも、普通の冒険者では全ての患者を救うことは出来なかっただろうと、ランズィはハジメ達との出会いを神に感謝するのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

一方、雷電たちが担当している医療院では、香織がシアを伴って獅子奮迅の活躍を見せていた。緊急性の高い患者から魔力を一斉に抜き取っては魔晶石にストックし、半径十メートル以内に集めた患者の病の進行を一斉に遅らせ、同時に衰弱を回復させるよう回復魔法も行使する。

 

 

 

シアは、動けない患者達を、その剛力をもって一気に運んでいた。馬車を走らせるのではなく、馬車に詰めた患者達を馬車ごと持ち上げて、建物の上をピョンピョン飛び跳ねながら他の施設を行ったり来たりしている。緊急性の高い患者は、香織が各施設を移動するより、集めて一気に処置した方が効率的だからだ。

 

 

 

もっとも、この方法、非力なはずのウサミミ少女の有り得ない光景に、それを見た者は自分も病気にかかって幻覚を見始めたのだと絶望して医療院に駆け込むという姿が多々見られたので、余計に医療院が混乱するという弊害もあったのだが。

 

 

 

医療院の職員達は、上級魔法を連発したり、複数の回復魔法を当たり前のように同時行使する香織の姿に、驚愕を通り越すと深い尊敬の念を抱いたようで、今や、全員が香織の指示のもと患者達の治療に当たっていた。

 

 

 

雷電が召喚したクローン達も患者達から血液を採取し、その血液と医療院にあった僅かな静因石の主成分を解析し、その主成分に似せたワクチンを開発を開始していた。開発には時間がかかるが、ないよりはマシだと雷電は判断した。

 

 

 

そして恵里とシルヴィは、数人のクローン達と共に雷電が防具を召喚し、支給されたハザードスーツを着て除菌されたタオルや毛布などを医療院や公共施設に運び、そこでタオルや毛布などの交換を行っていた。

 

 

 

そんな香織を中心とした彼等の元に、ハジメ達がやって来る。そして、共にいたランズィより水の確保と元凶の排除がなされた事が大声で伝えられると、一斉に歓声が上がった。多くの人が亡くなり、砂漠の真ん中で安全な水も確保できず、絶望に包まれていた人達が笑顔を取り戻し始める。

 

 

 

その知らせは、すぐさま各所に伝えられていき、病に倒れ伏す人々も、もう少し耐えれば助かるはずだと気力を奮い立たせた。

 

 

「香織、これから“グリューエン大火山”に挑む。どれくらい持ちそうだ?」

 

「ハジメくん……」

 

 

 

歓声に包まれる医療院において、なお、治療の手を休めない香織にハジメが歩み寄り尋ねた。

 

 

 

香織は、ハジメの姿を見て嬉しそうに頬を綻ばせるが、直ぐに真剣な表情となって虚空を見つめた。そして計算を終えたのか、ハジメを見つめ返して“二日”と答えた。それが、魔力的にも患者の体力的にも、持たせられる限界だと判断したのだろう。

 

 

「ハジメくん。私は、ここに残って患者さん達の治療をするね。静因石をお願い。貴重な鉱物らしいけど……大量に必要だからハジメくんじゃなきゃだめなの。ごめんね……ハジメくんがこの世界の事に関心がないのは分かっているけど……」

 

「それだけ集めようってんなら、どちらにしろ深部まで行かなきゃならないだろ。浅い場所でちんたら探しても仕方ないしな。……要は、ちょっと急ぎで攻略する必要があるってだけの話だ。序でなんだから謝んな。俺が自分で決めたことだ。……それに、ミュウを人がバッタバッタと倒れて逝く場所に置いて行くわけにも行かないだろ?」

 

「ふふ……そうだね、頼りにしてる。ミュウちゃんは私がしっかり見てるから」

 

 

香織は、アンカジに来るまでの道中で、ハジメから狂った神の話や旅の目的は聞いており、ハジメがこの世界を見捨てても故郷に帰ることを優先しているということも聞いている。それに納得できないなら、光輝達のもとへ帰れとも。全てを聞いた上で、香織は、それでもハジメに付いてくという意志を曲げなかった。

 

 

 

今回の事も、もしハジメがアンカジを見捨てる決断をしていたなら、説得くらいはしただろうが、それが功を奏しなければ諦めていただろう。

 

 

 

だが、出来ることならアンカジの人々の力になりたいと思っていたことは事実で、ハジメが決断するとき、つい懇願するような眼差しを向けてしまった。自分の思いだけでハジメが決断すると思えるほど自惚れているわけではないが、ハジメは、そんな香織の眼差しを受けて苦笑い気味に肩を竦めていたことから少しは判断に影響を与えたはずだ。

 

 

 

なので、香織は、まるで自分のわがままにハジメを付き合わせたような複雑な気持ちを抱いていた。

 

 

 

だが、つい謝罪を口にした香織に、ハジメはあっけらかんとした態度で手をヒラヒラと振る。香織の気持ちを見透かしたように、自分で決めたことだから気にするなと。香織は、そんなハジメのぶっきらぼうだが自分を気遣う態度に、そして、さりげなく発揮するパパ振りに頬を緩めて、信頼と愛情をたっぷり含めた眼差しを向けた。

 

 

「私も頑張るから……無事に帰ってきてね。待ってるから……」

 

「……あ、ああ」

 

 

香織の、愛しげに細められた眼差しと、まるで戦地に夫を送り出す妻のような雰囲気に、思わず、どもるハジメ。

 

 

 

元から香織の言動はストレートなところがある。日本にいたときも、光輝の勘違いをばっさり切り捨てたり、ハジメに爆弾を落として教室が嫉妬の嵐に見舞われたり……そういった事は日常と化していた。それが、あの告白の日から、さらに露骨になっている。

 

 

 

雷電は香織の露骨さにもう驚く様子がなかった。寧ろ、清水にとって思い出しの良いネタになると思ったからだ。しかし、雷電を他人事とは言わせないかの如く恵里も雷電の想いに露骨さを見せていた。

 

 

「僕もしばらくの間ここで香織達の手伝いをするよ。雷電も頑張ってね?僕も待っているから……」

 

「あ、あぁ……」

 

 

二人の共通点として何となく目を逸らしたハジメと雷電だったが、逸らした先には……ハジメにはユエがいて、雷電にはシアがいた。ユエの場合は、いつか見た無機質な眼差しでジーとハジメを見ている。すごく見ている。思わず反対側に向き直ると、愛おしさたっぷりにふんわりと微笑む香織が……シアの場合は、膨れ面になっていながらも雷電の事をジーッと見ている。ものすごく見ていた。雷電も、ハジメ同様に思わず反対側に向き直ると、香織と同じ様に愛おしさたっぷりにふんわりと微笑む恵里がいた。内心、腹黒さを抱えてである。

 

 

 

そんな香織達の雰囲気を見て、我らがアイドル、ミュウが爆弾を落とす。

 

 

「香織お姉ちゃん、さっきのユエお姉ちゃん見たいなの~。香織お姉ちゃんもパパとチュウするの~?」

 

「おや?見えておったのか、ミュウよ?」

 

「う~?指の隙間から見えてたの~。ユエお姉ちゃん、とっても可愛かったの~。ミュウもパパとチュウしたいの~」

 

「う~む。妾ですらまだなのじゃぞ?ミュウは、もっと大きくなってからじゃな」

 

「うぅ~」

 

 

ミュウの無邪気な言葉にほっこりしつつ、ティオに“この役立たずが!”と理不尽な怒りをぶつけるハジメ。案の定、“その眼!その眼がぁ!イィ!”と興奮し始めるティオだったが、今は、どうでもいいことだ。

 

 

 

なぜなら、ハジメのすぐ傍に刀を肩に担ぐ般若が出現したからだ。もちろん、香織のス○ンドである。

 

 

「……どういうことかな、かな?ハジメくん達は、お仕事に行ってたんだよね?なのに、どうしてユエとキスしているのかな?どうして、そんなことになるのかな?そんな必要があったのかな?私が、必死に患者さん達に応急処置している間に、二人は、楽しんでたんだ?私のことなんて忘れてたんだ?むしろ、二人っきりになるために別れたんじゃあないよね?」

 

 

目のハイライトを消して、背後に般若を背負ってハジメを見つめる香織。ハジメの頬に自然と冷や汗が伝う。ハジメが、吸血行為のついでみたいなもので、キスのために別れたわけじゃないと言おうとするが、その前にユエが前に進み出た。

 

 

 

誤解を解いてくれるのかと期待するハジメだが、この状況でユエに期待するのは阿呆のすることである。

 

 

 

ユエは、香織と正面から見つめ合うと、堂々と胸を張った。そして、フッと口元を緩めると、

 

 

「……美味だった」

 

 

…と告げた。

 

 

「あは、あははははは」

 

「ふふ、ふふふふふふ」

 

 

医療院に、二人の美少女から不気味な笑い声が響く。今の今まで、香織を聖女のように思っていた医療院の職員達や患者達が、そろってドン引きし、なるべく目を合わせないよう顔を背けている。

 

 

 

無理もない。背後に刀を振り回す般若を背負う者を誰も聖女とは思えないだろう。しかも、相対する方にも背後に暗雲と雷を纏う龍を背負っているのだ。目を逸らしたくなるのも仕方ない。

 

 

 

そして修羅場はハジメだけではなかった。シアもキスの事である事を思い出したのだ。

 

 

「そういえば……キスの事で思い出したのですが、ライセン大迷宮を攻略した後、ミレディに無理矢理大迷宮から追い出された時に流された場所が湖だったのですが、そこで私は溺れてしまって、マスターに助けてもらったんですよね?も…もちろん、キ……キスで……」

 

 

シアもシアで恵里の前で爆弾発言を落とす。例えるなら、炎の中にニトログリセリンをぶちまける様な発言でもあった。

 

 

「あの時は人工呼吸すらこの世界に知れ渡っていなかったんだ、本当ならユエにやらせようと思ったがユエすら知らなかったから教える時間がなかった分、俺がやるしかなかったんだ。だからアレはノーカンだ。……だから恵里、その殺意を込めた魔法を出すのはやめろ。ここで放ってしまっては本当に洒落にならないぞ」

 

 

そう雷電が告げる中、恵里は微笑みを絶えずに(目が笑っていない)怒りと殺意を抱きながらも魔法をシアに放とうとしていたので、雷電は止めようとする。するとシアがそれを制止させる。この時にシアが恵里を止めようとしているのかと雷電は思ったが、それは筋違いであった。

 

 

「大丈夫だよ、雷電?これはほんのちょっとしたシアさんとの戯れだから問題ないよ?」

 

「そうですよ、マスター。これは恵里さんとのちょっとした戯れですから問題ないですぅ。それに……マスターの正妻の座を渡すつもりはありませんから!」

 

「フッ……ファースト・キスは僕が貰ったのにその気でいるんだから、本当は雷電からファースト・キスを貰いたかったんでしょ?」

 

「うぅ……そ…それはしょうがないとして、正ヒロインはいくらマスターのクラスメイトでも恵里さんでもゆずれないですぅ!!」

 

「フフッ……それはどうだろうね?それを決めるのは雷電だからね?」

 

 

最早、女性関係で災いが起こっているハジメと雷電は、笑い声を上げながら睨み合う香織とユエ、互いに睨み合うシアと恵里に溜息を吐きながらも、ハジメは香織達に近づくと素早くデコピンを決める。ズバン!と有り得ない音を響かせて直撃したデコピンに、ユエと香織は思わずうめき声を上げながら蹲った。雷電もハジメ同様にシアと恵里の額にデコピンを決める。それぞれ涙目で“何をするんだ”と見上げてくる四人に、ハジメと雷電は呆れた表情をする。

 

 

「香織。別にユエとそういうことをしたくて別行動したわけじゃない。分かっているだろ?それと、ユエは俺の恋人なんだ。何をしようがお前にとやかく言われる筋合いはない。それも全て承知で付いて来たんだろうが」

 

「うっ……そうだけど……理屈じゃないもの、こういうのは……」

 

 

ハジメに怒られて、シュンとしながらも反論する香織。ハジメは、再び溜息を吐きながら、ユエにも“いちいち、相手するなよ”と注意するが、ユエはプイッ!とそっぽを向くと“これは女の戦い……ハジメは口出ししないで”と突っぱねる始末。

 

 

「二人とも、こんな状況で俺という存在の取り合いをしている場合じゃないだろう。それに、俺自身も恋については初心(うぶ)と言ってもいいくらいまだ理解していないんだ。それ以前に、相手の気持ちを知らずに一方的に自分の気持ちを押し付けては本末転倒だろう?」

 

「あぅ……すみません、マスター、ですが……」

 

「……ごめんなさい、雷電くん。でも、こればかりは雷電くんでもシア相手には譲れないんだ」

 

 

シアと恵里が起こした俺を巡っての修羅場の沈静化は不可能と判断した雷電は、“もうどうにでもなれ…”と、もはや匙を投げるしか他になかった。

 

 

 

ランズィ達は突然の修羅場に置いてけぼりだし、清水やデルタ、不良分隊は“最近影が薄い気がするな”と己の状況を省み中で、ティオは未だハァハァしており、ミュウは、またユエと香織が喧嘩しているとお怒りモードだ。

 

 

 

ハジメと雷電は、事態の収拾を諦めてさっさと“グリューエン大火山”へと向かうことにした。事前に話は通してあったが、医療院で忙しい香織だけでなく、ランズィにもミュウの世話を改めて頼んでおく。ハジメ達の関係に苦笑い気味のランズィは、快くミュウの世話を引き受けた。

 

 

 

あらかじめ言い聞かせてあったものの、ハジメが出発すると雰囲気で察した途端、寂しそうに顔をうつむかせるミュウに、ハジメは膝をついて目線を合わせ、ゆっくり頭を撫でた。

 

 

「ミュウ、行ってくる。いい子で留守番してるんだぞ?」

 

「うぅ、いい子してるの。だから、早く帰ってきて欲しいの、パパ」

 

「ああ、出来るだけ早く帰る」

 

 

服の裾をギュッと両手で握り締め、泣くのを我慢するミュウと、それを優しく宥めるハジメの姿は、種族など関係なく、誰が見ても親子だった。修羅場により冷えた空気がほんわかと暖かくなる。ハジメはミュウの背中を押し、香織達の方へ行かせる。そして、雷電、ユエ、シア、ティオ、清水、デルタ、不良分隊に出発の号令をかけた。

 

 

 

踵を返そうとするハジメに、香織が声をかけた。

 

 

「あ、ハジメくん……その、いってらっしゃい」

 

「おう、ミュウの事頼んだぞ」

 

「うん……それで、その……キス、ダメかな?いってらっしゃいのキス……みたいな」

 

「……ダメに決まっているだろ。ていうか何だいきなり」

 

「ほっぺでもいいよ?ダメ?」

 

 

香織が、頬を染めてもじもじしつつも、意外な程強い声音でそんな事をいう。どうやら、ユエに対抗していくには、こういう時に引いてはならないと考えているらしい。今、思えば、日本にいた時も割かし積極的だった気がするが、自分の好意を自覚し告白した後の香織は、本当にグイグイと押してくる。

 

 

 

ハジメの背後で“あっ、じゃあマスター、私も!”と声を上げるウサミミや“何でそうなる…”とツッコミを入れる雷電をスルーして、ハジメが、きっぱり断ろうとすると、まさかの相手に機先を制された。

 

 

「ミュウも~。ミュウもパパとチュウする!」

 

 

無邪気に手を伸ばして来るミュウに、便乗する香織。ハジメが色々言って躱そうとするが(ミュウには強くは言えない)、遂には……

 

 

「パパは、ミュウが嫌いなの?」

 

 

と、涙目でそんな事を言われてはグゥの音も出ない。

 

 

 

結局、香織とミュウと互いの頬にキスをすることになり、今度は、多くの患者が倒れている中で、生暖かな視線を受けるという意味のわからない状況になって、ハジメは逃げるように“グリューエン大火山”へと出発するのだった。

 

 

 

ちなみに、ティオもキスを望んだが、鼻息が荒かったので思わず罵ってしまい、余計興奮させてしまった。とても気持ち悪かったとだけ言っておこう。

 

 

檜山の末路について(死亡は確定済み)

  • 雷電に首を刎ねられる
  • 激昂した恵里に殺される
  • 原作通り
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