ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強   作:コレクトマン

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また緊急事態宣言が発令されたそうです。皆さんもコロナに気をつけましょう。


59話目です。


神代魔法の使い手、そして脱出

 

 

ハジメ達は、グリューエン大火山の最終試練を攻略している最中、突如と乱入して来た魔人族の男が無数の竜とそれらとは比べ物にならないくらいの巨体を誇る純白の竜を率いてハジメ達に攻撃して来たのだった。

 

 

「……看過できない実力だ。やはり、ここで待ち伏せていて正解だった。お前達は危険過ぎる。特に、その男とジェダイと名乗る貴様は……」

 

「ジェダイ……か。その名を知っているという事は、賞金稼ぎのジャンゴから聞いた様だな」

 

「まさか、私の白竜のブレスに気付き、その上で未知の力で躱すとは……おまけに報告にあった強力にして未知の武器に、人の形をした造られた兵器であるクローンの存在……貴様等、一体何者だ?いくつの神代魔法を修得している?」

 

 

ティオに似た黄金色の眼を剣呑に細め、上空より睥睨する魔人族の男は、警戒心をあらわにしつつ睨み返すハジメ達に、そんな質問をした。ハジメ達の力が、何処かの大迷宮をクリアして手に入れた神代魔法のおかげだと考えたようだ。

 

 

「俺が言うのもなんだが、質問する前に、まず名乗ったらどうだ?魔人族は礼儀ってもんを知らないのか?」

 

「……これから死にゆく者に名乗りが必要とは思えんな」

 

「全く同感だな。テンプレだから聞いてみただけだ。俺も興味ないし気にするな。ところで、ここに来たのはウルの町に襲撃して来た魔物の軍勢を指揮していた魔人族の敵討ちか?もしそうであるなら、相当な暇人だな?」

 

 

ハジメは、敵である魔人族と白い竜を倒す為に時間稼ぎがてらに、そんな事を揶揄するように尋ねた。魔人族の男の“報告”やら“待ち伏せていた”というセリフから、以前、ウルの町で暗躍し、最後に雷電に首を刎ねられ、死亡した魔人族を思い出したのだ。おそらく、俺達の事はジャンゴから情報を得たのだろうと。

 

 

 

魔人族の男は、それに眉を一瞬ピクリと動かし、先程より幾分低くなった声音で答えた。

 

 

「気が変わった。貴様は、私の名を骨身に刻め。私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」

 

「神の使徒……ね。大仰だな。神代魔法を手に入れて、そう名乗ることが許されたってところか?魔物を使役する魔法じゃねぇよな?……極光を放てるような魔物が、うじゃうじゃいて堪るかってんだ。おそらく、魔物を作る類の魔法じゃないか?強力無比な軍隊を作れるなら、そりゃあ神の使徒くらい名乗れるだろうよ」

 

「その通りだ。神代の力を手に入れた私に、“アルヴ様”は直接語りかけて下さった。“我が使徒”と。故に、私は、己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障碍と成りうる貴様等の存在を、私は全力で否定する」

 

 

どこか聖教教会教皇イシュタルを彷彿とさせるフリード・バグアーと名乗った魔人族は、真っ向からハジメ達の存在そのものを否定した。その苛烈な物言いに対して、ハジメは不敵に笑うのみ。

 

 

「それは俺のセリフだ。俺の前に立ちはだかったお前は敵だ。敵は……皆殺す!」

 

「幾らお前が俺達を否定しようと関係の無いことだ。だが、どんな大義であれ、俺達の前に立ちはだかるなら、押し通らせてもらう!」

 

 

ハジメは、そう雄叫びを上げながらドンナーをフリードに向け引き金を引いた。更に、“瞬光”を発動してクロスビットも取り出し突撃させた。それと同時に、雷電もライトセーバーを分割し、二刀流にした後にスイッチを入れ、青い光刃を展開すると同時にハジメ同様に“瞬光”を発動させる。そんなハジメ達を援護する為にユエが“雷龍”を、ティオがブレスを、シアが炸裂スラッグ弾を、清水とデルタ、不良分隊がブラスターで光弾を放つ。

 

 

 

しかし、灰竜と呼ばれた体長三、四メートル程の竜が数頭ひらりと射線上に入ると、直後、正三角形が無数に組み合わさった赤黒い障壁が出現し、ハジメ達の攻撃を全て受け止める。

 

 

 

その障壁は、ハジメ達の攻撃力が絶大であるために数秒程で直ぐに亀裂が入って砕けそうになるのだが、後から更に他の灰竜が射線上に入ると同じように障壁が何重にも展開されていき、思ったように突破が出来ない。よく見れば、竜の背中には亀型の魔物が張り付いているようだ。甲羅が赤黒く発光しているので、おそらく、障壁は亀型の魔物の固有魔法なのだろう。

 

 

「私の連れている魔物が竜だけだと思ったか? この守りはそう簡単には抜けんよ。さぁ、見せてやろう。私が手にしたもう一つの力を。神代の力を!」

 

 

そう言うと、フリードは極度の集中状態に入り、微動だにせずにブツブツと詠唱を唱え始めた。手には、何やら大きな布が持たれており、複雑怪奇な魔法陣が描かれているようだ。新たに手に入れた神代の力と言っていた事から、おそらく、この“グリューエン大火山”で手に入れた神代魔法なのだろう。神代魔法の絶大な効果を知っているハジメ達は、詠唱などさせるものかと、更に苛烈に攻撃を加え始めた。

 

 

 

しかし、灰竜達は障壁を突破されて消し飛んでも、直ぐに後続が詰めて新たな障壁を展開し、ハジメ達の攻撃をフリードに届かせない。本来なら、ユエ達に援護を任せて、“空力”で直接叩きに行くのだが、今はまだ回復しきっておらず、灰竜の群れに叩き落とされるのが関の山だと思いハジメは歯噛みした。

 

 

 

ドンナーをしまい、反動の少ないオルカンを取り出し全弾ぶっ放すが、数頭の灰竜を障壁ごと吹き飛ばして終わりだった。フリードには届いていない。クロスビットも、威力が足りず障壁を破壊しきるには至らない。

 

 

 

と、その時点でタイムアップだったようだ。フリードの詠唱が完成する。

 

 

 

「“界穿”!」

 

「ッ!後ろです!ハジメさん!」

 

 

最後の魔法名が唱えられると同時に──フリードと白竜の姿が消えた。正確には、光り輝く膜のようなものが出現し、それに飛び込んだのだ。ハジメ達は、フリードが魔法名を唱えると同時に叫んだシアの警告に従い、驚愕に目を見開く暇もなく背後へ振り返る。

 

 

 

そこには……ハジメの眼前で大口を開けた白竜とその背に乗ってハジメを睨むフリードがいた。白竜の口内には、既に膨大な熱量と魔力が臨界状態まで集束・圧縮されている。ハジメが、咄嗟にオルカンを盾にするのと、ゼロ距離で極光が放たれるのは同時だった。

 

 

 

ドォゴォオオオオ!!!

 

 

 

「ぐぅう!! あぁああ!!」

 

 

轟音と共に、かざしたオルカンに極光が直撃しハジメを水平に吹き飛ばした。凄絶な衝撃に、ハジメの食いしばった口から苦悶の呻き声が上がる。

 

 

「ハジメ!」

 

 

極光に押され吹き飛ぶハジメを助けようと、ユエ達が咄嗟に、白竜に向かって攻撃を放とうとするが、それを読んでいたように灰竜からの掃射が彼女達に襲いかかり、その場に釘付けにされてしまった。

 

 

 

吹き飛ぶハジメは、直撃こそ受けていないものの極光の衝撃で盛大に血飛沫を撒き散らす。その時に義手の左腕があらぬ方向に折れ曲がっていて使い物にならなくなっていた。ハジメは、必死に傷ついた右腕のみで左腕の義手を宝物庫にしまい、そして、オルカンを支え、“空力”で踏ん張りつつも、このままでは煮え滾る海に叩き落とされると悟ったハジメは、“限界突破”を発動した。

 

 

 

傷ついた体で“限界突破”を使うのは非常に危険な賭けだ。普段なら、“限界突破”を使っても、ひどい倦怠感に襲われるだけで済むが、今の状態で使えば、おそらく使用後に身動きがとれなくなるだろう。それでも、状況の打開に必要だと判断した。

 

 

 

ハジメの体を紅い光の奔流が包み込み、力が爆発的に膨れ上がる。

 

 

「らぁあああ!!」

 

 

雄叫びを上げながらオルカンを跳ね上げ極光を強引に上方へと逸らす。それでも、完全に逸らす事は出来ず、極光の余波を喰らい更に血を噴き出しながら吹き飛んだ。

 

 

 

白竜が、追撃に光弾を無数に放つ。そんなところまでヒュドラにそっくりだ。だが、かのヒュドラよりも極光の威力が上である以上、光弾の威力も侮ることは全く出来ない。神代魔法の使い手とのコンビネーションも相まって厄介さは格段に上だ。

 

 

「クロスビットぉ!」

 

 

ハジメは、襲い来る光弾を極限の集中によりスローになった世界で、木の葉のように揺れながらかわしていく。そして、極光により融解して使い物にならなくなったオルカンをしまうと、ドンナーを連射しながら、同時にクロスビットを飛ばしてフリードを強襲した。

 

 

「何というしぶとさだ!紙一重で決定打を打てないとはっ!」

 

 

フリードは、再び、亀型の魔物が張る障壁の中に包まれながら、重傷を負っているはずのハジメのしぶとさに歯噛みすると同時に驚嘆の眼差しを送った。そして、白竜を高速で飛ばしながら、再び、詠唱を唱え始めたその時に、フリードはある事に気付いた。今、強襲しているハジメを除くユエ達の方を見遣ると、一人足りていなかった。

 

 

(…一人足りない?……っ!?)

 

 

そう考えた瞬間、フリードの右斜め上から雷電が強襲して来たのだ。

 

 

「(何時の間にっ!?…だが!)“界穿”!」

 

 

最後の魔法名が唱えられると同時に、フリードと白竜の姿は光り輝く膜のようなものが出現し、それに飛び込み、ハジメに不意打ちした様に、雷電の背後へと回り込み、白竜によるブレスで仕留めようとする。

 

 

 

しかし……

 

 

 

「うぅぉぉぉぉぉぉおおおおおーーっ!!」

 

 

雷電は不意打ちしてくる事を分かっていたのか、雷電は“瞬光”で一気に白竜へと突撃し、白竜がブレスを吐く前にライトセーバーで頭から首回りのと頃まで螺旋状に斬りつける。余りにも早すぎる斬撃に白竜は、苦痛の悲鳴を上げる。

 

 

(何…だと……!?)

 

 

フリードは、決して侮っていた訳ではなかった。だが、雷電と言うジェダイの存在が、フリードが想像した以上に驚異的である事を見せつけられたと同時に、かつてジャンゴが言っていた事を思い出した。

 

 

 

“俺が賞金首を狩る時に偶然だが、厄介な奴とあった”

 

 

 

“厄介な奴?貴様がその様に評する者は一体誰だ?”

 

 

 

“ジェダイだ”

 

 

この時にフリードは、率いた魔物達を易々と突破した雷電の事を改めて、ジェダイがより危険な存在であると再認識した瞬間、雷電は次の行動に移していた。その行動は、フリードに向かっていた。

 

 

(ま…拙い!)

 

 

フリードに直接狙おうとする雷電を危機感を抱いたフリードは、秘密組織であるファースト・オーダーに所属する尋問官から、同盟の証としてシスが使用するシングル=ブレード・ライトセーバーを手にし、スイッチを入れて赤い光刃を展開し、雷電を迎え撃とうとするが……雷電はフリードを無視し、そのまま白竜に攻撃を集中させていた。この時にフリードは雷電の目論見を理解した。

 

 

「(こいつ…!私ではなく、白竜の方を!?狙いは白竜か!)…好きにはさせん!」

 

「させねぇよ」

 

「ッ!?」

 

 

雷電の目論見を阻止しようと懐から新たな布を取り出し、再び正体不明の神代魔法を詠唱しようとした。

 

 

 

しかし、それは、背後から響いた声と共に撃ち放たれた衝撃により中断される。

 

 

 

傷口から血を噴き出しながら、いつの間にかフリードの背後に回っていたハジメがドンナーを連射したのだ。一発の銃声と共に放たれた弾丸は六発。その全てが、ほぼ同時に、一ミリのズレもなく同じ場所へピンポイントに着弾した。

 

 

 

フリードの傍にいた亀型の魔物が、フリードが反応するより早く障壁を展開していたのだが、赤黒く輝く障壁はほぼゼロ距離から放たれた閃光と衝撃により、あっさり喰い破られた。焦燥感をあらわにしたフリードの懐へハジメが潜り込む。

 

 

 

そして、ドンナーに纏わせた“風爪”を発動させながら、一気に振り抜いた。

 

 

「ぐぁあ!?」

 

 

間一髪、後ろに下がることで両断されることは免れたが、フリードの胸に横一文字の切創が刻まれる。ハジメは攻撃の手を緩めず、フリードを切り裂いた勢いそのままに、くるりと回転すると“魔力変換”による“魔衝波”を発動させながら後ろ回し蹴りを放った。

 

 

 

ドォガ!!

 

 

 

「がぁああ!!」

 

 

辛うじて左腕でガードしたようだが、勢いを殺すことなど出来るはずもなく、左腕を粉砕されて内臓にもダメージを受けながら、フリードは白竜の上から水平に吹き飛んでいく。

 

 

 

主がいなくなったことに気がついたのか、気を逸らした白竜に雷電のライトセーバーが白竜の両目を切り裂き、視界を奪う。だが、これだけでは終わらなかった。

 

 

「ルァアアアアン!!」

 

「さっきの不意打ちといい、随分と楽しそうだったな!?だったら……もっと楽しんでくれよ!!!

 

 

雷電は白竜の首元に移動する際に、白竜の翼を根こそぎ切り落とす。そして、そのまま落下しながらも、雷電は青い光刃を放つ二振りのライトセーバーで、白竜の首元を超人的な早さで斬り刻む。

白竜の首元の鱗はライトセーバーによる切り傷が出来ると同時に、徐々に鱗の防御力が限界を迎え、雷電は最後に、足とてに力を入れ、ライトセーバーで白竜の首を切り落とし、止めを刺した。

 

 

「……何という奴だ。たった一人で白竜の首を……!」

 

 

雷電の圧倒的な戦闘力を目の当たりにし、そう呟くフリードは現在、率いた魔物の内一体である灰竜に乗っていた。

 

 

 

そんなフリードに対してハジメは、“空力”で追撃を仕掛けようとする。しかし……

 

 

「ぐっ!? ガハッ!!」

 

 

ハジメを包んでいた紅色の光が急速に消えて行き、傷口からだけでなく、口からも盛大に血を吐き出した。“限界突破”のタイムリミットだ。傷を負った状態で、更に限界越えなどしたものだからダメージは深まり、リミットも早かったらしい。“空力”が解除されて、マグマの海に落ちそうになるハジメ。

 

 

「なっ!?…ティオ!」

 

「うむ、任せるのじゃ!」

 

 

雷電は落下するハジメを助けるべく、ティオに声を掛けた後、フォースを使って落下するハジメを空中で止め、そして竜化し、飛翔してきたティオが自分の背に乗せる。

 

 

「ご主人様よ!しっかりするのじゃ!」

 

「ハジメ、無事か!」

 

「ぐっ、ティ、ティオ……雷電……」

 

 

ティオに救助されたハジメは、“限界突破”の副作用と深刻になったダメージに倒れそうになるが、何とか片膝立ちで堪え、ギラギラと光る眼光で上空のフリードを睨みつけた。

 

 

 

見れば、フリードの周囲に、ユエ達を襲っていた灰竜達も集まっている。

 

 

「ハジメ!」

 

「ハジメさん!」

 

「「「コマンダー!」」」

 

 

ユエとシア、デルタに不良分隊達が、ハジメの名を叫びながら駆けつけてきた。ティオは、近くにあった足場に着地する。今のハジメでは、攻撃を受けたときのティオの戦闘機動に耐えられず落下するおそれが高いからだ。同じ足場に飛び移ってきたユエは、直ぐにハジメの傍に寄り添いその体を支えた。

 

 

「……恐るべき戦闘力だ。侍らしている女共や兵士達も尋常ではないな。絶滅したと思われていた竜人族に、無詠唱無陣の魔法の使い手、未来予知らしき力と人外の膂力をもつ兎人族、裏切り者の勇者に、人の形をした人ならざる兵器達……よもや、神代の力を使って、なお、ここまで追い詰められると同時にジェダイに白竜が討たれるとは……最初の一撃を当てられていなければ、蹴散らされていたのは私の方か……」

 

 

何かを押し殺したような声音で語りながら、ハジメと火花散る視線を交わすフリード。肩で息をしながら、無事な右手で刻まれた胸の傷口を押さえている。

 

 

「なに既に勝ったこと前提で話してんだ? 俺は、まだまだ戦えるぞ」

 

 

ハジメは、フリードの言葉に不快げに表情を歪めると、ボロボロの体で、それでも殺意で眼をギラギラと光らせながら戦闘続行を宣言する。

 

 

「……だろうな。貴様から溢れ出る殺意の奔流は、どれだけ体が傷つこうと些かの衰えもない。真に恐るべきはその戦闘力ではなく、敵に喰らいつく殺意……いや、生き残ろうとする執念か……」

 

 

フリードは、一度目を伏せると決然とした表情で再びハジメを睨みつける。

 

 

「この手は使いたくはなかったのだがな……貴様等ほどの強敵を殺せるなら必要な対価だったと割り切ろう」

 

「なにを言ってる?」

 

「……!まさか奴は!」

 

 

フリードはハジメの質問には応えず、雷電は何かを察した様だが気にせず、いつの間にか肩に止まっていた小鳥の魔物に何かを伝えた。

 

 

 

その直後、

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!ゴバッ!!!ズドォン!!

 

 

 

空間全体……いや、“グリューエン大火山”全体に激震が走り、凄まじい轟音と共にマグマの海が荒れ狂い始めた。

 

「うおっ!?」

 

「んぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「ぬおっ!?」

 

「おわっ!?」

 

「ぐっ!」

 

 

突如、下から突き上げるような衝撃に見舞われ、四者四様の悲鳴を上げて必死にバランスをとるハジメ達。激震は刻一刻と激しさを増し、既に震度で言えば確実に七はあるだろう。マグマの海からは無数の火柱、いや、マグマ柱が噴き上がり始めている。

 

 

「ハジメさん!マスター!水位が!」

 

 

シアの言葉に、ハジメ達が足場の淵を見れば、確かにマグマの海がせり上がってきていた。

 

 

「何をした?」

 

 

ハジメが、明らかにこの異常事態を引き起こした犯人であるフリードに押し殺したような声音で聞いた。フリードは、中央の島の直上にある天井に移動する中、雷電が代わりに質問に応える。

 

 

「ハジメ、どうやら奴は、この火山の要石を破壊した様だ!」

 

「要石……だと?」

 

「そこのジェダイの言う通りだ。このマグマを見て、おかしいとは思わなかったのか?“グリューエン大火山”は明らかに活火山だ。にもかかわらず、今まで一度も噴火したという記録がない。それはつまり、地下のマグマ溜まりからの噴出をコントロールしている要因があるということ」

 

 

「それが“要石”か……まさかっ!?」

 

「そうだ。ハジメが考えている通り、奴はマグマ溜まりを鎮めている巨大な要石を破壊し、俺達を大迷宮ごとマグマの海に沈めるつもりだ!」

 

「その通り。間も無くこの大迷宮は破壊される。神代魔法を同胞にも授けられないのは痛恨だが……貴様等をここで仕留められるなら惜しくない対価だ。大迷宮もろとも果てるがいい」

 

 

フリードは、冷たくハジメ達を見下ろすと、首に下げたペンダントを天井に掲げた。すると、天井に亀裂が走り、左右に開き始める。円形に開かれた天井の穴は、そのまま頂上までいくつかの扉を開いて直通した。

 

 

 

どうやら、“グリューエン大火山”の攻略の証で地上までのショートカットを開いたようだ。フリードは最後にもう一度、ハジメ達を睥睨すると、踵を返して白竜と共に天井の通路へと消えていった。

 

 

 

周囲のマグマの海は、既に、まるでハリケーンの勢力圏に入った海のように荒れ狂い、噴き上がるマグマ柱はその数を次々と増やしている。ハジメ達の足場も端からマグマが流れ込みだした。まるで終末世界のような光景である。

 

 

 

ハジメは、僅かな時間、何かを考えるように目を細めた。そして、何かを決断すると、怪我を押して立ち上がった。直後、フリードと灰竜が出て行っても残っていた灰竜達が一斉に小極光を放ち始めた。どうあっても、ここで殺すつもりらしい。

 

 

 

清水が偏向シールド発生装置を起動させて、小極光を呑み込みながら攻撃を凌いでいる間にハジメは、“宝物庫”を手に握ると、頭上の灰竜達にブレスを放とうとしているティオの堅い竜鱗に覆われた頬に手を這わせ自分の方に顔を向けさせた。

 

 

「ティオ、よく聞け。これを持って、お前は一人であの天井から地上へ脱出しろ」

 

 

一瞬、何を言われているのか分からないという表情で目を瞬かせるティオだったが、次の瞬間には傷ついたような表情をして悲しみと怒りの混じった声を響かせた。ハジメの言葉が、まるでティオだけ生き残らせて、自分達を切り捨てろと言っているように聞こえたのだ。

 

 

「ご主人様よ、妾は、妾だけは最後を共に過ごすに値しないというのか?妾に切り捨てろと、そういうのか?妾は……」

 

「ティオ、そうじゃない。時間がないから一度しか言わないぞ。俺は、何も諦めていない。神代魔法は手に入れるし、いつかあの野郎はぶっ殺すし、そして“静因石”を届けるという約束も守る。だが、一人じゃ無理なんだ。だからお前の力を貸して欲しい。お前でなければ、全てを突破して期限内にアンカジに戻ることは不可能なんだ……頼む、ティオ」

 

 

今まで一度も向けたことのない真剣な眼差しで、竜化状態のティオの瞳を見つめるハジメ。傲岸不遜で、何でも一人で出来ると言わんばかりのハジメが、全力で頼っている。全ての望みを叶えるには、俺達が全ての困難に打ち勝つには、ティオの協力がなければならないのだと。ティオの力が必要なのだと。そこには諦めも、自己犠牲の精神も、ティオだけを除け者にするような考えも一切ない。

 

 

 

ティオの心が悲しみや怒りから一転して歓喜に震える。気に入った男から、いや、今や本気で伴侶になりたいと思っている相手から、生死のかかった瀬戸際で大切なものを〝託された〟のだ。これに応えられなければ、女ではない。

 

 

 

それ故に、ティオはただ一言、応えた。

 

 

「任せよ!」

 

 

ハジメは、ティオのウロコの内側へ“宝物庫”を入れる。こうすることで、竜の肉体を通して人状態のティオの手に渡るのだ。

 

 

 

ティオは、身の内に“宝物庫”が入った事を確認すると、そっと、ハジメに頭をこすりつけた。今できる、精一杯の愛情表現だ。ハジメも、最後に優しく一撫でするとティオから離れた。ティオは、ユエとシアにも視線を向ける。二人共、諦めなど微塵も感じさせずに力強く頷いた。

 

 

「ティオ、香織とミュウに伝言を。“後で会おう”だ。頼んだぞ」

 

「俺からも恵里とシルヴィにも伝言を頼む。“後で合流しよう”だ」

 

「ふふ、委細承知じゃよ」

 

 

ハジメと雷電の軽すぎる伝言を受け取り、思わず笑い声を漏らしたティオは、一拍の後、力強い風を纏って一気に飛び立った。小極光が襲いかかるが、バレルロールしながらかわし、一気に灰竜の群れへと突っ込んでいく。黒竜の特攻に危機感を抱いたのか、灰竜達の攻撃がティオに集中しだした。

 

 

 

殺到する小極光をブレスで相殺しようとするが、次々と追加で放たれるので簡単にはいかない。しかし、拮抗するかと思われた瞬間、下方より極光が迸り、ティオに攻撃を加えていた灰竜が数体消し飛んだ。

 

 

ユエが“絶禍”で圧縮した小極光を解放したのだ。さらに、炸裂スラッグ弾が乱発され灰竜達を衝撃波で吹き飛ばしていく。

 

と……その時、フリードと灰竜が外に出たのか、天井の扉が閉まり始めた。時間がないと悟り、ティオは、被弾覚悟で加速することのみに集中する。そのおかげで飛行速度は更に増加したが、灰竜からの小極光がティオの竜鱗を砕き始めた。

 

 

「ふん、この程度の痛みぃ!むしろ心地いいのじゃ!バッチコ~イ!」

 

 

言葉通り、灰竜の攻撃がティオの体にダメージを入れるごとに調子が上がり飛行速度が増していく。“竜化”の派生“痛覚変換”の効果だ。痛みが酷ければ酷いほど、テンションと共に任意の能力が一時的に強化されるという酷い派生能力だ。ちなみに、ハジメと出会ってから数百年ぶりに手に入れたものである。“壁を越えた”というより、“扉を開いた”という表現の方が正しいだろうが。

 

 

 

灰竜達ですら若干引き気味の中、ティオは遂に小極光の嵐を突破して閉まり切る寸前の扉をくぐり抜けた。頭上を見れば、遥か先に小さな光が見える。地上の光だ。それまでに幾つか扉があるようで、順次閉まり始めている。

 

 

 

ティオは、もう後先考えず、残りの魔力を“竜化”が維持できるギリギリを残して、全て使い切るつもりで風を操ることに注ぎ込んだ。自分の長い生を思い出しても、ここまでの速度は出したことが無いと思えるほどの速度で、文字通り、疾風と化して飛翔する。

 

 

 

一つ目、二つ目、三つ目と、扉をくぐり抜け、遂に最後の扉、地上へと繋がる分厚い扉のみを残すところまで上がってきた。黒い風を纏って一発の砲弾のごとく突き進むティオ。そんな彼女に、頭上から光弾が襲いかかる。

 

 

 

どうやら、ティオの存在に気がついて足止めの攻撃を放ってきたらしい。扉は既に半分以上閉まっている。回転しながら回避し、あるいは回避しきれず被弾しながらも速度を緩めず突き進むティオに、白竜からの極光が降り注ぐ。

 

 

 

魔力が尽きかけているのか当初ほどの威力はない。精々半分程度の威力だ。しかし、それでも喰らえば小極光の比ではないダメージを受けるだろう。かと言って回避しても迎撃して飛行速度は落ちる。そうなれば、扉を抜けるには間に合わないかもしれない。

 

 

 

ティオは覚悟を決めて、むしろ被弾した直後に“痛覚変換”で更に速度を上げてやるつもりで突進した。

 

 

 

と、その時、ティオの脇を幾つかの影が走り抜け、ティオと迫り来る極光の間に割って入った。

 

 

 

それは、ティオにとって見覚えのあるもの。浮遊する十字架、オールレンジ兵器、そう、ハジメのクロスビットだ。ティオの直ぐ後ろに付けていたのである。

 

 

 

飛び出した三機のクロスビットは、紅色の輝きを纏うと角度をつけて極光を遮り、脇へと逸らしていく。極光の威力に、一機、また一機と破壊されていくが、極光が途切れるまでしっかりとティオを守り抜いた。更に、ティオを守るように四機のクロスビットがティオのすぐ傍を飛ぶ。

 

 

“ぬはぁー、たまらん!ご主人様よぉ、愛しておるのじゃー!”

 

 

マグマの奔流に襲われているであろうに、ティオにクロスビットを全機付けて地下から操っているハジメに、天地に轟けと愛を叫ぶティオ。竜人族の中でも特に強者であったティオを守る男など、未だかつていなかった。いつだって、彼女は守る側だったのだ。だからこそ、極めて困難な状況において守られているという事実に、今まで感じたことのない喜びが爆発する

 

 

「グゥルゥアアア!!!」

 

 

そして、竜の咆哮をも響かせながら、遂に最後の扉をくぐり抜けた。黒い風の塊と化したティオが垂直に飛び出し、巨大な砂嵐に囲まれながらも太陽の光が降り注ぐ天空を舞う。

 

「あの状況から出て来るとはっ!化け物揃いめっ!だが、いかに黒竜と言えど既に満身創痍。ここで仕留めッ!?」

 

 

頭上を飛び越えたティオに、灰竜に乗ったフリードが驚愕しながらも攻撃を加えようと眼光を鋭くした。だが、その目論見は、言葉と同様に止められることになった。四機のクロスビットが、いつの間にかフリードと白竜を四方から取り囲んでいたからである。

 

 

 

フリードは、すかさず退避の途中で連れてきた亀型の魔物に障壁を張らせる。クロスビットの攻撃力では、障壁を破壊出来ないことは実証済みだ。炸裂弾が装填されていれば、結果は違ったのだろうが、遠距離攻撃に乏しいシアの炸裂スラッグ弾と、ドンナー・シュラークの弾丸を優先したので、時間的にまだ配備出来ていなかったのだ。

 

 

 

しかし、クロスビットには、もう一つ強力な攻撃手段がある。それは、クロスビットに対して余裕の表情を浮かべているフリードの表情が凍りつき、次いで灰竜もろとも大ダメージを喰らって吹き飛ばされるという形で証明された。

 

 

 

ズゥドォオオオオオン!!!

 

 

 

クロスビットが、突如、発砲もせず紅色の輝きを異常なほど強めたかと思ったら、次の瞬間──自爆したのである。

 

 

 

四機のクロスビットが、衝撃を余すことなく標的に伝えるために四方を固めていたため、壮絶な威力の衝撃と内蔵されていた弾丸が嵐の如く飛び散り、障壁を易々と粉砕してフリードと灰竜に襲いかかった。

 

 

「がぁああ!!」

 

「ルァアアアアン!!」

 

 

主従揃って悲鳴を上げながら盛大に吹き飛ぶ。

 

 

 

更に、ダメ押しとばかりに放たれたティオの竜巻が襲い掛かり、フリードと白竜を砂嵐の中まで吹き飛ばした。ティオとしては、ブレスを放って確実に仕留めてしまいたかったのだが、流石に、咄嗟に出せるほど余力がなかったのだ。

 

 

 

ティオは、しばらくフリード達が消えていった場所を見つめ、変化がないことを確かめると視線を転じ、眼下の“グリューエン大火山”を、先程までの変態的なテンションなど微塵も感じさせない静かな眼差しで見つめた。そして、“信じている”というように一つ頷くと、踵を返してアンカジの方角へと飛翔していった。

 

 

 

数十分後、“グリューエン大火山”を中心に激震が走った。轟音というのも生温い、大気すら軋ませる大爆発が発生し、一時的に砂嵐さえ吹き飛した。あらわになった“グリューエン大火山”はもうもう黒煙を噴き上げ、赤熱化した岩石を弾き飛ばし、火山雷のスパークを撒き散らしていた。

 

 

 

現存する歴史書の中で、ただの一度も記録されていない“グリューエン大火山”の大噴火。ある意味、貴重な歴史的瞬間は、どういう原理か数分後には復活した巨大な砂嵐のベールに包まれ、その偉容を隠してしまった。

 

 

 

それでも、まるで世界が上げた悲鳴の如き轟音も、噴き上がる黒煙も、アンカジの人々は確かに観測したのだ。不安が募る。それは、大切な人の帰りを待つ少女と幼子も同じだった。

 

 

檜山の末路について(死亡は確定済み)

  • 雷電に首を刎ねられる
  • 激昂した恵里に殺される
  • 原作通り

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