ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強   作:コレクトマン

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かなり間があいてしまった様ですが、何とか投稿です。


60話目です。


灼熱の中、漂流中

 

 

「……自爆はロマンだ」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

「いや、そんなロマンがあってたまるか……」

 

 

ハジメがそう呟くと、上から順に雷電、清水がハジメが言う“自爆はロマン説”にツッコミを入れながらも灰竜から放たれる小極光の豪雨を防ぐハジメ一行。ティオが飛び立ってから、周囲のマグマは益々荒々しさを増し、既に中央の島以外の足場はマグマの海に沈んでしまった。五分もしない内に中央の島も呑み込まれるだろう。

 

 

 

降り注ぐ小極光をユエの“絶禍”が呑み込み、焦れた灰竜が直接攻撃を仕掛けてきてはシアのドリュッケンによりマグマの中に叩き落とされるということを繰り返す。灰竜の数も十体を切っている。

 

 

 

中央の島には、最初に見たマグマのドームはなくなっていて、代わりに漆黒の建造物がその姿を見せていた。その傍らには、地面から数センチほど浮遊している円盤がある。真上がさっきまで開いていた天井のショートカット用出口だったので、本来は、これに乗って地上に出るのだろう。

 

 

 

ハジメ達は、灰竜達がハジメ達への攻撃よりも噴出するマグマ柱の回避に必死になり始めたのを尻目に、漆黒の建造物へと近づいた。

 

 

 

一見、扉などない唯の長方体に見えるが、壁の一部に毎度お馴染みの七大迷宮を示す文様が刻まれている場所があった。ハジメ達が、その前に立つと、スっと音もなく壁がスライドし、中に入ることが出来た。ハジメ達が中に入るのと、遂にマグマが中央の島をも呑み込もうと流れ込んできたのは同時だった。再び、スっと音もなく閉まる扉が、流れ込んできたマグマを間一髪でせき止める。

 

 

 

しばらく、扉を見つめていたハジメ達だったが、扉が溶かされてマグマが流れ込むということもないようなので、ホッと安堵の吐息を漏らした。こんな場所にある住処なのだから、万一に備えて、十中八九、マグマに耐えるだろうと予想はしていたが、いざ、その結果が示されるとやはり安堵してしまうものだ。

 

 

「ひとまず、安心だな……」

 

「あぁ、全くだ。前世の頃に火山の星の調査を行った時はこんなトラブルは一度も体感した事もないぞ……」

 

「だとするなら、今世に置いて初の体験になるな。しかも、この異世界(トータス)でだ」

 

「仮に雷電がそうだとしても、俺としては二度とあんな目には遭いたくないぞ。俺的に二度も同じ目を味わったら、あの襲って来た魔人族は必ず殺すつもりだ。……それにしても、この部屋は振動も遮断するのか……」

 

「ん……ハジメ、ライデン、あれ」

 

「魔法陣ですね」

 

 

部屋に入った途端、大地震クラスの振動を感じなくなったことに驚くハジメ達。その呟きに応じながら、傍らのユエが指を差す。その先には、複雑にして精緻な魔法陣があった。神代魔法の魔法陣だ。ハジメ達は互いに頷き合い、その中へ踏み込んだ。

 

 

 

“オルクス大迷宮”の時と同じように、記憶が勝手に溢れ出し迷宮攻略の軌跡が脳内を駆け巡る。そして、マグマ蛇を全て討伐したところで攻略を認められたようで、脳内に直接、神代魔法が刻み込まれていった。

 

 

 

「……これは、空間操作の魔法か」

 

「……瞬間移動のタネ」

 

「ああ、あのいきなり背後に現れたやつですね」

 

 

どうやら、【グリューエン大火山】における神代魔法は“空間魔法”らしい。また、とんでもないものに干渉できる魔法だ。相変わらず神代の魔法はぶっ飛んでいる。

 

 

 

ユエがフリードの奇襲について言及する。最初の奇襲も、おそらく、空間魔法を使ってあの場に現れ攻撃したのだろう。空間転移か空間を歪めて隠れていたのかは分からないが、厄介なことに変わりはない、二度目の奇襲も、咄嗟に雷電がフリードに強襲してなければ、ハジメは直撃を受けていたかもしれない。更には雷電が極光を放つ白竜を討伐したから、なおさらファインプレーとも言える。

 

 

 

ハジメ達が空間魔法を修得し、魔法陣の輝きが収まっていくと同時に、カコンと音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。

 

 

 

“人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う”

 

“ナイズ・グリューエン”

 

 

 

「……シンプルだな」

 

「“Simple is best”とはまさにこの事か……」

 

「シンプルすぎるのはどうかと思うが……まぁ、細かい事は気にしないでおこうか」

 

 

そのメッセージを見て、ハジメ達が抱いた素直な感想だ。周囲を見渡せば、“グリューエン大火山”の創設者の住処にしては、かなり殺風景な部屋だと気が付く。オルクスの住処のような生活感がまるでないのだ。本当に、ただ魔法陣があるだけの場所だ。

 

 

「……身辺整理でもしたみたい」

 

「ナイズさんは魔法以外、何も残さなかったみたいですね」

 

「そういえば、オスカーの手記にナイズってやつも出てたな。すごく寡黙なやつだったみたいだ」

 

「その様だな。シア、ハジメを支えててくれ。証を回収してくる」

 

 

雷電は、ハジメを支える役をシア一人に任せて、拳サイズの開いた壁のところに行き、中に入っていたペンダントを取り出した。今まで手に入れた証と少々趣が異なる意匠を凝らしたサークル状のペンダントだ。それをユエに渡した後、ユエはペンダントをそっとハジメの首にかける。

 

 

「……さて、魔法も証も手に入れた。次は、脱出なわけだが」

 

「……どうするの?」

 

「何か、考えがあるんだよな?たぶん……というより、確実に外は完全にマグマで満たされている。脱出はかなり困難だぞ?」

 

 

懸念を伝えつつも、不安は微塵も感じさせないユエ達。ハジメは、皆から寄せてくれる信頼を嬉しく思いながら脱出計画を話す。

 

 

「もちろん、マグマの中を泳いで進む」

 

「……ん?」

 

「……はい?」

 

「「「……は?」」」

 

 

圧倒的に説明の足りない第一声に、ユエ達が“やはり、ダメージが深いのだろうか?”と多少、頭を心配するような表情で問い返した。その際に雷電がハジメの説明不足にフォローを入れる。

 

 

「落ち着け、ハジメは至って正常だ。ただ、説明が不足しているだけだ。ハジメ、幾ら何でも説明を噛み砕き過ぎだ」

 

「悪かったって……ちゃんと説明するからそんな目で見ないでくれ。えっとな……実は、この建物のすぐ外に潜水艇を用意してある。次のメルジーネ海底遺跡で必要になるだろうと思って作っておいたものだ。果たして、マグマの中でも耐えられるか少々不安ではあったんだが、金剛で覆った小舟が大丈夫だったから、いけると踏んだんだ。やはり大丈夫だったみたいだな」

 

「一体、いつの間にそんなこと……」

 

「お前な……」

 

 

シアや清水が呆れたような声を出す。ユエ達も瞳に呆れを宿しているようだ。流石にこれはフォローできないと判断した俺は何も言えずにいた。

 

 

 

実は、フリードが要石を破壊したと告げたとき、既に“宝物庫”から直接マグマの中に潜水艇を転送しておいたのだ。溶け出すようなら、直ぐに強行突破してティオと一緒に天井から脱出するつもりだったが、しばらく様子を見ても溶け出す様子がなかったので(感応石が組み込んであるので様子がわかる)、マグマに満たされても後から脱出できると踏んだのである。

 

 

 

ただ、明らかにヤバイレベルで“グリューエン大火山”自体が激震し、あちこち崩壊していたことから、スムーズに脱出できない可能性が大いにあった。アンカジへ戻るタイムリミットが迫る中、悠長に脱出ルートを探っている時間はない。なので、その場合に備えてティオを先に脱出させたのである。確実に、タイムリミット内に“静因石”を持ち帰るために。

 

 

「脱出ルートは、当然、天井のショートカットだ。ユエ、潜水艇の搭乗口まで結界を頼む。出来るよな?」

 

「んっ……任せて」

 

「俺達も手伝うぞ、ハジメ。シア、準備はいいな?」

 

「はいですぅ!」

 

 

ハジメの言葉に頷いて、ユエが念を入れて“聖絶”を三重に重ね掛けする。光り輝く障壁がハジメ達を包み込んだ。ハジメ達は、互いに頷きあって扉の前に立つ。そして、煮えたぎるマグマで満たされた外界への扉を開いた。

 

 

 

直後、ゴバッ!と音を立てて、灼熱の奔流が部屋の中に流れ込んでくる。その時に雷電とシアはフォースを使って流れ込んで来たマグマを弾き、ユエの“聖絶”の負荷を軽減させる。そして、ユエの“聖絶”はしっかりとマグマからハジメ達を守ったが、一瞬にして視界の全てが紅蓮に染まった。マグマの中からマグマを見るという有り得ない体験に覚悟していたとは言え、流石のハジメ達も言葉に詰まる。世界は広しと言えど、このような体験をした事があるのはハジメ達くらいに違いない。

 

 

「すぐ外だ。行くぞ!」

 

「んっ」

 

「あぁ。シア、清水、コマンドー達、遅れるなよ?」

 

「は、はいです!」

 

「分かってる」

 

「「「イエッサー!」」」

 

 

ハジメの号令で、全員はゆっくりと部屋の外に出た。何も分からない閉ざされた世界ではあるが、ハジメの言葉通り、本当に出入り口のすぐ傍に待機させていたようで直ぐに“聖絶”に当たり場所がわかった。ユエは障壁を調整しながら、雷電とシアはフォースを駆使してハッチまで行き、ようやく全員は潜水艇に乗り込むことができた。思わず、体に入っていた力が抜けるハジメ達。

 

 

 

と、その瞬間……

 

 

 

ドォゴォオオオ!!!

 

 

 

今までの比ではない激震が空間全体を襲った。そして、突如、マグマが一定方向へと猛烈な勢いで流れ始める。潜水艇は、その激流に翻弄され、中のハジメ達はミキサーにかけられたように上に下に、右に左にと転げまわる事になった。

 

 

「ぐわっ!?」

 

「んにゃ!?」

 

「はぅ!?痛いですぅ!」

 

「おわっ!?この揺れは……」

 

「ぐっ!……まさかな」

 

 

それぞれ船内の壁に体のあちこちをぶつけて、悲鳴を上げる。ユエが咄嗟に“絶禍”の応用版を発動し、自分達を黒く渦く小さな球体に引き寄せることで、何とかシェイクされる状況を脱した。

 

 

「た、たすかった。ありがとうな、ユエ」

 

「有難うございますぅ、ユエさん」

 

「ん……それより」

 

 

ユエが“絶禍”を移動させて操縦席らしき場所にまでハジメを運ぶ。ハジメは、魔力を流し込んで、潜水艇のコントロールを試みるが激しい流れとマグマの粘性に、思うように舵が取れなかった。

 

 

「どうだハジメ、操縦できそうか?」

 

「いや……出来なくはないが、思う様に舵が取れねぇ。ちっ……これが噴火だってなら、外に放り出されて、むしろラッキーなんだが」

 

「……違うの?」

 

 

苦虫を噛み潰したような表情をするハジメに、ユエが首をかしげる。

 

 

「ああ。マグマの中でも方向を見失わないよう、クロスビットに特定石を仕込んでおいたんだ。自爆する前に、脱出口付近に射出して置いたから、少なくとも天井のショートカットの場所はわかるんだが……この流れ、出口から遠ざかってやがる」

 

「やはり……先ほどの揺れはそれが原因か。面倒な事になって来たな……」

 

「えっ?それって地下に潜ってるってことですか?」

 

「ああ、真下ってわけじゃなくて、斜め下って感じだが……問題は、どこに繋がっているのか分からない。清水の言う通り、面倒な事になったな……」

 

「そういうことだ、皆。やっぱり直ぐには戻れそうにない。このまま行くとこまで行くしかないようだ」

 

 

覚悟の決まった表情でそう語るハジメに、ユエ達はただ優しげに目元を緩めて、そっと寄り添った。

 

 

「……最後まで傍にいる。それが叶うなら何も問題ない」

 

「ふふ……文字通り、例え火の中水の中ですね。私も、皆さんと一緒にいられるなら“どこまででも”ですよ!」

 

「……そうか。そうだな……とりあえず、舵が取れるまで操縦桿を握っていた方がいいな。何時コントロールが回復するのか分からねぇからな」

 

 

ハジメも、そんな二人に頬を緩めると笑みを返し、潜水艦の操縦桿を掴む。

 

 

 

そうしてハジメ達は、潜水艇の中で寄り添いながら、灼熱の奔流に流されていった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

“グリューエン大火山”からの脱出が叶わず、ハジメ達が何処とも知れないマグマが流れる地下道を流されている頃、赤銅色の砂が吹きすさぶ“グリューエン大砂漠”の上空をフラフラと飛ぶ影があった。

 

 

 

言わずもがな、“竜化”状態のティオである。

 

 

「むぅ……これはちとマズイのじゃ……全く、厄介なブレスを吐きおって……致し方ない。ご主人様よ、許してたもれ」

 

 

強行突破のせいで、少なくない極光を浴びていたティオは、極光の毒素に蝕まれて傷を悪化させていた。このままでは、アンカジに到着する前に倒れてしまうと判断したティオは、勝手に秘薬を使う事をハジメに謝罪して、“宝物庫”から神水を取り出し容器ごと噛み砕いて服用した。

 

 

 

ブレスの連発と限界以上に身体能力や飛行能力に注ぎ込んだため大量に消費した魔力が、かなりの勢いで回復していく。また、傷も瞬時に治るわけではなかったが少なくとも毒素の影響は抑えられたようだ。

 

 

 

それから飛ぶこと数時間、ようやく前方にアンカジの姿が見えてきた。これ以上飛行を続ければ、アンカジの監視塔からもティオの姿が見えるだろう。ティオは、一瞬竜化を解いて行くべきかと考えたが、おそらく生きているであろう魔人族のフリードに知られた事と、きっと、今後ハジメの旅について行くなら竜化が必要な場面はいくらでもあるだろうと考えて、すっぱり割り切ることにした。

 

 

 

隠れ里はそう簡単に見つかることはないし、万が一見つかっても、竜人族はそう簡単にやられはしない。それに、五百年前の悪夢(迫害)が襲いかかったとしても、ティオが助けを求めれば、きっとハジメは力を貸してくれるはずである。何だかんだで、ハジメは身内には甘いのだ。

 

 

 

そんな考え事をしているうちに、遂に、アンカジまで数キロの位置までやって来た。見れば、監視塔の上が何やら非常に慌ただしい。勘違いで攻撃を受けても面倒なので、ティオは入場門の方へ迂回し、少し離れた場所に着地した。

 

 

 

ズドオオン!!

 

 

 

と、半ば墜落する形で砂塵を巻き上げながら着地したティオのもとへ、アンカジの兵士達が隊列を組んでやってきた。見れば、壁の上にも大勢の兵士が弓や魔法陣の刻まれた杖などをもって待機している。その時にアンカジの民の治療していたクローン達が、兵士達にティオに攻撃をやめる様に説得する。

 

 

 

もうもうと巻き上がる砂埃が風にさらわれて晴れていく。兵士達が、緊張にゴクリと喉を鳴らす音が響く。しかし、砂埃が晴れた先にいるのが黒髪金眼の美女で、しかも何やら随分と疲弊しているようだとわかると、一様に困惑したような表情となって仲間同士顔を見合わせた。

 

 

 

そんな、混乱する兵士達の隙間を通り抜けて、一人の少女が飛び出す。ティオと同じ黒髪の女の子、香織だ。後ろから危険だと兵士達や領主の息子ビィズが制止の声をかけるが、まるっと無視して猛然と、片膝をついて荒い息を吐くティオのもとへ駆け寄った。そして

 

 

 

監視塔からの報告があった時点で、香織は、ティオが竜人族であると知っていたため、ハジメ達が帰ってきたと察し、急いで駆けつけたのだ。

 

 

「ティオ!大丈夫!?」

 

「むっ、香織か……うむ、割かし平気じゃ。ちと疲れたがの」

 

 

体中、あちこちに怪我を負って疲弊した様子のティオに、香織が血相を変える。すぐ傍に膝をつくと、急いでティオの容態を診察し出した。そして、見たことのない毒素が体に入っているとわかると、すぐさま浄化と回復魔法を同時にかけ始めた。

 

 

「そんな……浄化できないなんて……」

 

 

しかし、極光の毒素は、神水ですら解毒に時間がかかる代物だ。香織の回復魔法だけではすぐさま浄化することは出来なかった。それに、顔を歪める香織だったが、先程服用した神水の効果と香織の非凡な回復魔法のおかげでかなり回復できたティオは、香織に“心配するでない、もうすぐ浄化できるのじゃ”と微笑みながら頭を撫でた。

 

 

 

本当に、ティオの表情から心配ないことを察すると、香織は肩の力を抜いて安堵の笑みを浮かべる。そして、キョロキョロと辺りを見回し、次第に不安そうな表情になった。

 

 

「ティオ……あの、ハジメくん達は? 一人なの? どうして……あの噴火は……」

 

「落ち着くのじゃ、香織。全部説明する。まずは、後ろの兵達を落ち着かせて、話せる場所に案内しておくれ」

 

「あっ、うん、そうだね」

 

 

背後で困惑にざわつく兵達に今更ながらに気がつき、香織は不安そうな表情をしながらも力強く頷いた。ティオが悲愴な表情をしていないことも、落ち着きを取り戻した要因だ。

 

 

 

香織は、ビィズや駆けつけたランズィ達のもとへ戻り、事情説明をしながらティオを落ち着いて話のできる場所に案内した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「それじゃあ、ハジメ君たちは……」

 

「うむ、あとから追いかけてくるはずじゃ。ご主人様は、微塵も諦めておらんかった。時間がなくて詳しくは聞けんかったが、何か打開策があったのは確かじゃよ」

 

 

“グリューエン大火山”で何があったのかを聞いた香織と恵里は、顔を青ざめさせて手をギュッと握り締めた。アンカジの人々を震撼させた大噴火を見たときから感じていた不安が急速に膨れ上がっていく。

 

 

 

しかし、そんな今にも倒れそうな香織が必死に握り締めた手に、ティオが、そっと自分の手を重ね合わせる。そして、力強い眼差しで香織を見つめた。

 

 

「香織、そして恵里よ。ご主人様とライデンからの伝言じゃ」

 

「ハジメくんからの?」

 

「うむ。正確には香織とミュウにはご主人様で、恵里とシルヴィにはライデンなのじゃが……まず香香織達には“後で会おう”で、恵里達には“後で合流しよう”じゃ」

 

 

 

香織と恵里は“必ず帰る”とか“心配するな”など、そんな香織達を安心させるための言葉かと思っていたのだが、“ちょっとコンビニ寄ってくるから後で合流しよう”みたいな滅茶苦茶軽い言葉だったためにポカンと口を開けて呆けてしまった。

 

 

 

脳裏に、“この程度の何に深刻になればいいんだ?”と不敵な笑みを浮かべるハジメと雷電の姿が過る。どんな困難も笑いながら打ち砕いてしまいそうな力強い姿だ。そんな姿をごく自然と思い浮かべてしまうのだから、下手に強い言葉を伝えられるよりも、自分達が一番安心できる伝言だと、香織は苦笑いをこぼした。

 

「……そっか、なら大丈夫だよね」

 

「……そうだね、雷電くん達ならきっと無事だよ」

 

「うむ、例え傍から見れば絶望的な状況でも、ご主人様やライデンなら普通にひょっこりと生還する。無条件にそう信じられるのじゃ……」

 

「うん……ハジメくんなら大丈夫。だから、私達も私がやるべき事をやらないとね」

 

「それもそうだね、僕たちでやれる事をしよう」

 

「そうじゃな。もちろん、妾も手伝うからの」

 

 

香織達は、大迷宮でハジメが行方不明になったという事実に目眩を覚えていたものの、ハジメ達なら大丈夫だと、ティオと同じくギュッと拳を握りながら信じた。そして、先にランズィ達に渡しておいた大量の“静因石”が、現在、粉末状にされ患者達に配られている頃だと判断し、衰弱した人々を癒すためにグッと瞳に力を入れて立ち上がった。

 

 

 

その後、宮殿で、領主の娘であるアイリー(十四歳)に構われているミュウとも合流し、事情説明が行われた。ハジメパパがいないことに泣きべそをかくミュウだったが、ハジメパパの娘は、そう簡単に泣いたりしないとティオに言われて、ほっぺをプクッと膨らませながら懸命に泣くのを堪えるということがあった。

 

 

 

ミュウは海人族ではあるが、“神の使徒”たる香織の連れであることと、少し関わればわかってしまうその愛らしさに、アンカジの宮殿にいる者達はこぞってノックアウトされていたらしく、特にアイリーに至っては病み上がりで外出禁止となっていることもあり、ミュウを構い倒しているようだ。

 

 

 

ティオが竜人族であるという事についても、ランズィ達は思うところがあるようだったが、命懸けで“静因石”を取ってきてくれた事から、公国の恩人であることに変わりはなく、そう大きな騒ぎにはならなかった。

 

 

 

香織達は、患者達を次々と癒していったが、二日経ってもハジメ達が戻ってこないことに、次第に、表情を暗くしていった。ティオは、何度か“グリューエン大火山”までのルートを探索してみたが、ハジメ達の痕跡はなく途方に暮れた。

 

 

 

そしてティオが戻ってから三日目の晩、香織は、ミュウとティオ、恵里に提案をした。

 

 

「今日で、私の処置が必要な患者さんはいなくなったと思う。あとは、時間をかけて安静にするか、医療院のスタッフとクローンさん達に任せれば問題ないよ。だから……ハジメくん達を探しに行こうと思うの」

 

「僕も同じ事を考えていたよ。幾ら何でも南雲くん達の帰りが遅いから、直接探しに行った方が早いかもね」

 

「パパ? お迎えに行くの?」

 

「ふむ、そうじゃな。妾も、そろそろ動くべきかと思っておった」

 

 

香織と恵里の言葉に、ミュウは嬉しそうに身を乗り出し、ティオは真剣な表情で賛同した。

 

 

「でも、流石に、“グリューエン大火山”にミュウちゃんを連れて行く訳にはいかないよね」

 

「そうじゃな。それでは、ご主人様がここにミュウを預けていった意味がない。それに、今は噴火の影響でどちらにしろまともな探索は出来んじゃろ」

 

「うん、僕もそう思うよ。だから、先にエリセンに行ってミュウちゃんをママさんに会わせようと思ったんだけど……どうかな?」

 

「ふむ、それが妥当じゃろうな……よかろう。ならば、妾の背に乗っていくがよい。エリセンまでなら、急げば一日もかからず行けるじゃろう。早朝に出れば夕方までには到着できよう」

 

 

スイスイと進んでいく話に、ミュウが頭の上で“?”の花を大量に咲かせる。香織が、ミュウに丁寧にわかりやすく説明すると、直接ハジメを迎えに行けないことに悲しげな表情をした。しかし、母親にも会いたかったようで、二人でハジメパパが会いに来るのを待っていて欲しいと伝えると、渋々ではあるが納得をしたようだ。実母と天秤にかけられるとか、どこまでパパなんだと香織とティオは二人揃って苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

 

 

 

翌日、引き止めたそうな領主や、特に熱っぽい眼差しで香織を見つめるビィズに見送られながら、竜化したティオの背に乗って香織達は西の空へと飛び立った。背後で、盛大な感謝や香織を称える人々の声が砂塵をものともせず響き渡る。

 

 

 

香織は、再びはぐれてしまった愛しい人を想い、必ず見つけると決意を胸に秘めて、真っ直ぐ前を向いた。

 

 

 

その先で、拍子抜けするほどあっさり再会するとは夢にも思わず……

 

 






プチNGシーン “合法”



ティオがグリューエン大火山から取って来てくれた静因石をメディカル・オフィサー・クローン達は、クローン・トルーパー・メディックに使用方法を教えながらも、患者に服用させていた。



なお、服用方法は静因石を砕き、粉末状にした状態で服用するも良し。または、水に溶かして注射液にして投与するも良しと何でもありだった。そのお陰で、多数の患者を救えた事に変わりはなかった。


「ティオが何とか静因石を運んで来たおかげで、この国の住民達を救う事が出来たな」

「うん!ティオのおかげで沢山の人が助かったよ!ほら見て!」


そういって香織は、一人のメディカル・オフィサー・クローンとティオに患者達がいる場所に向けさせる。ティオ達が見た光景は、何というべきか……まるで危険な薬物に手を出し、その薬物の中毒に陥った様な患者達の姿だった。(※絵面はあれだが、ちゃんとした合法であり、治療である)



中には砕いた静因石の粉末をあぶってアロマセラピーの様に使用する者もいれば、中毒者の様に痙攣しながらもケタケタと笑う者もいた。(※絵面はあれだが、ちゃんとした…以下略)


「みんな、元気になって…!」

「「いやっ絵面…」」


この時にティオとクローンは初めて意見が合い、香織にそうツッコムのだった。

檜山の末路について(死亡は確定済み)

  • 雷電に首を刎ねられる
  • 激昂した恵里に殺される
  • 原作通り

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