ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強 作:コレクトマン
65話目です。
ハジメ達が見上げる帆船は、地球でもそうそうお目にかかれない規模の本当に巨大な船だった。
全長三百メートル以上、地上に見える部分だけでも十階建て構造になっている。そこかしこに荘厳な装飾が施してあり、朽ちて尚、見るものに感動を与えるほどだ。木造の船で、よくもまぁ、これほどの船を仕上げたものだと、同じく物造りを得意とするハジメは、当時の職人達には尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
ハジメは香織を抱え、雷電は恵里を抱えた後に“空力”を使って飛び上がり、豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立った。すると、案の定、周囲の空間が歪み始める。
「またか……香織、気をしっかりもてよ。どうせ碌な光景じゃない」
「……うん。大丈夫だよ」
「………」
「雷電くん、どうしたの?何か考え込んでいるみたいだけど……」
「いや…何でもない……」
テンポの遅い香織の返事にハジメは、先程の指摘は迷宮攻略中に言う事ではなかったかと軽く後悔した。明らかに、香織のテンションがダダ下がりである。言わなければならないことだったと確信しているが、もう少し、タイミングというものがあったかもしれない。香織の浮かべる笑みが、ハジメの知っているものと余りに異なり見ていられなくなったのだが……せめて“メルジーネ海底遺跡”を攻略するまで我慢すべきだった、かもしれないとハジメは頬をカリカリと掻きながら思った。雷電は前の幻覚の兵士達との戦闘が終わって以来、何かと一人で考え込んでいた。一体何を考えているのか気になる所だが、今は目の前のことに集中しようと後回しにする。
そうこうしている内に周囲の景色は完全に変わり、今度は、海上に浮かぶ豪華客船の上にいた。
時刻は夜で、満月が夜天に輝いている。豪華客船は光に溢れキラキラと輝き、甲板には様々な飾り付けと立食式の料理が所狭しと並んでいて、多くの人々が豪華な料理を片手に楽しげに談笑をしていた。
「パーティー……だよね?」
「ああ。随分と煌びやかだが……メルジーネのコンセプトは勘違いだったか?」
「何だろう……嫌な予感でしかない」
「…雷電くん?」
予想したような凄惨な光景とは程遠く肩透かしを喰ったような気になりながら、その煌びやかな光景を、ハジメと香織は、おそらく船員用の一際高い場所にあるテラスから、巨大な甲板を見下ろす形で眺めていた。その時に雷電は、この後の何かしらの嫌な予感を感じ取る。
すると、ハジメ達の背後の扉が開いて船員が数名現れ、少し離れたところで一服しながら談笑を始めた。休憩にでも来たのだろう。
その彼等の話に聞き耳を立ててみたところ、どうやら、この海上パーティーは、終戦を祝う為のものらしい。長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。船員達も嬉しそうだ。よく見れば、甲板にいるのは人間族だけでなく、魔人族や亜人族も多くいる。その誰もが、種族の区別なく談笑をしていた。
「こんな時代があったんだね」
「終戦のために奔走した人達の、まさに偉業だな。終戦からどれくらい経っているのか分からないが……全てのわだかまりが消えたわけでもないだろうに……あれだけ笑い合えるなんてな……」
「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なんじゃないかな?皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……」
「そうだな……」
「……ん?あれは……?」
楽しげで晴れやかな人々の表情を見ていると、ハジメと香織も自然と頬が緩んだ。雷電はその人々の中をよく見てみると、そこには召喚した覚えのない
「クローン!?ハジメ、この中に俺が召喚した覚えのないクローン・トルーパーが混じっている!」
「なにっ!?何処だ?」
「クローン達はあそこだ!」
雷電が指す方角には、甲板に用意されていた壇上の付近に数名のフェーズⅡクローン・トルーパー・アーマーを着たクローン・トルーパーの姿があった。そのアーマーのカラーリングの色はブラックグレーをベースに、深紅のラインマーカーが塗られており、そのクローンの正体を雷電は前世の頃から覚えていた。
「間違いない、あのクローン達は…!」
「雷電、あのクローンは何処の所属か分かるか?」
ハジメは雷電に向こう側にいるクローン達の所属が何処なのか聞くと、雷電は苦虫を噛み潰した表情をしながらも説明した。
「……第422
「第422機密大隊?……そんな大隊があったのか?」
「あぁ……私兵とは名ばかりで、実力はクローン・コマンドー並で、第501大隊に引けを取らない程の精鋭大隊だ。特に彼等の任務は“
そう雷電が考える最中、甲板に用意されていた壇上の付近に初老の男が登り、周囲に手を振り始めた。それに気がついた人々が、即座におしゃべりを止めて男に注目する。彼等の目には一様に敬意のようなものが含まれていた。
初老の男の傍には側近らしき男と何故かフードをかぶった人物が控えている。時と場合を考えれば失礼に当たると思うのだが……しかし、誰もフードについては注意しないようだ。
やがて、全ての人々が静まり注目が集まると、初老の男の演説が始まった。
「諸君……平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ」
そう言って始まった演説を誰もが身じろぎ一つせず聞き入る。演説は進み、和平への足がかりとなった事件や、すれ違い、疑心暗鬼、それを覆すためにした無茶の数々、そして、道半ばで散っていった友……演説が進むに連れて、皆が遠い目をしたり、懐かしんだり、目頭を抑えて涙するのを堪えたりしている。
どうやら初老の男は、人間族のとある国の王らしい。人間族の中でも、相当初期から和平のために裏で動いていたようだ。人々が敬意を示すのも頷ける。
演説も遂に終盤のようだ。どこか熱に浮かされたように盛り上がる国王。場の雰囲気も盛り上がる。しかし、ハジメは、そんな国王の表情を何処かで見たことがあるような気がして、途端に嫌な予感に襲われた。雷電もまた、壇上の付近にいるクローン達の様子がおかしいことに気付き、警戒をした。
「──こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………
国王の言葉に、一瞬、その場にいた人々が頭上に“?”を浮かべる。聞き間違いかと、隣にいる者同士で顔を見合わせる。その間も、国王の熱に浮かされた演説は続く。
「そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ」
「い、一体、何を言っているのだ!アレイストよ!一体、どうしたと言うッがはっ!?」
国王アレイストの豹変に、一人の魔人族が動揺したような声音で前に進み出た。そして、アレイスト王に問い詰めようとして……結果、胸から剣を生やすことになった。
刺された魔人族の男は、肩越しに振り返り、そこにいた人間族を見て驚愕に表情を歪めた。その表情を見れば、彼等が浅はかならぬ関係であることが分かる。本当に、信じられないと言った表情で魔人族の男は崩れ落ちた。
場が騒然とする。“陛下ぁ!”と悲鳴が上がり、倒れた魔人族の男に数人の男女が駆け寄った。
「さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる“エヒト様”に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ!それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ!獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ!そして複製の人形達よ!気は熟した、今は好機!オーダー“
「了解、アレイスト王…」
「フフフ、アーッハッハッハッハッ!!ああ、エヒト様!見ておられますかぁ!!!」
膝を付き天を仰いで哄笑を上げるアレイスト王。彼が合図すると同時に、パーティー会場である甲板を完全に包囲する形で船員に扮した兵士達と第422機密大隊のクローン達が現れた。
甲板は、前後を十階建ての建物と巨大なマストに挟まれる形で船の中央に備え付けられている。なので、テラスやマストの足場に陣取る兵士達やクローン達から見れば、眼下に標的を見据えることなる。海の上で逃げ場もない以上、地の利は完全に兵士達側にあるのだ。それに気がついたのだろう。各国の重鎮達の表情は絶望一色に染まった。
次の瞬間、遂に甲板目掛けて一斉に魔法とブラスターの光弾が撃ち込まれた。下という不利な位置にいる乗客達は必死に応戦するものの……一方的な暴威に晒され抵抗虚しく次々と倒れていった。
何とか、船内に逃げ込んだ者達もいるようだが、ほとんどの者達が息絶え、甲板は一瞬で血の海に様変わりした。ほんの数分前までの煌びやかさが嘘のようだ。海に飛び込んだ者もいるようだが、そこにも小舟に乗った船員が無数に控えており、やはり直ぐに殺されて海が鮮血に染まっていく。
「うっ」
「香織」
吐き気を堪えるように、香織が手すりに身を預け片手で口元を抑えた。余りに凄惨な光景だ。無理もないと、ハジメは香織を支える。
アレイスト王は、部下を伴って船内へと戻っていった。幾人かは咄嗟に船内へ逃げ込んだようなので、あるいは、狩りでも行う気なのかもしれない。
彼に追従する男とフードの人物も船内に消える。
と、その時、ふと、フードの人物が甲板を振り返った。その拍子に、フードの裾から月の光を反射してキラキラと光る銀髪が一房、ハジメには見えた気がした。
周囲の景色がぐにゃりと歪む。どうやら、先程の映像を見せたかっただけらしく、ハジメと香織は元の朽ちた豪華客船の上に戻っていた。この時に雷電は、今見た光景をジェダイ聖堂で起きたクローン達の反乱、ジェダイの大虐殺と重なって見えた。
「クソッ!……まさかあの光景を思い出す羽目になるなんて……!これじゃあ前世の俺が体験した仲間達が虐殺された
「雷電くん……」
雷電は見たくもない光景を目にし、内心に溜まる怒りを近くにある手摺りに当たる他になかった。恵里はそんな雷電を見て心配そうになる。ハジメも、雷電がここまで怒りを隠せないでいることに心配するが、最も心配すべきなのは香織でもあった。
「香織、少し休め」
「ううん、大丈夫だよ。ちょっと、キツかったけど……それより、あれで終わりかな?私達、何もしてないけど……」
「この船の墓場は、ここが終着点だ。結界を超えて海中を探索して行くことは出来るが……普通に考えれば、深部に進みたければ船内に進めという意味なんじゃないか?あの光景は、見せることそのものが目的だったのかもな。神の凄惨さを記憶に焼き付けて、その上でこの船を探索させる……中々、嫌らしい趣向だよ。特に、この世界の連中にとってはな」
「全くだ。ここにいても、気分が悪くなるだけだ。早めに移動しよう……」
この世界の人々は、そのほとんどが信仰心を持っているはずであり、その信仰心の行き着く果ての惨たらしさを見せつけられては、相当精神を苛むだろう。そして、この迷宮は精神状態に作用されやすい魔法の力が攻略の要だ。ある意味、“ライセン大迷宮”の逆なのである。異世界人であるハジメ達だからこそ、精神的圧迫もこの程度に済んでいるのだ。
ハジメ達は甲板を見下ろし、そこで起きた凄惨な虐殺を思い出して気の進まない表情になった。ハジメの場合、ただ単にウザそうなだけのようだったが、特に雷電の場合は、前世の頃に体験したジェダイの大虐殺をこの世界版でもある亜人、魔人族の大虐殺を見て蒸し返したくもない過去を思い出してしまい、怒りが収まらなかった。
そんなこんなで四人は、意を決して甲板に飛び降り、アレイスト王達が入って言った扉から船内へと足を踏み入れた。
船内は、完全に闇に閉ざされていた。外は明るいので、朽ちた木の隙間から光が差し込んでいてもおかしくないのだが、何故か、全く光が届いていない。ハジメは、“宝物庫”から緑光石を使ったライトを取り出し闇を払う。雷電もライトセーバーで青い光刃を出し、それをライト代わりにする。
「さっきの光景……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていうことかな?」
「そうみたいだな……ただ、ちょっと不自然じゃなかったか? 壇上に登った時は、随分と敬意と親愛の篭った眼差しを向けられていたのに……内心で亜人族や魔人族を嫌悪していたのだとしたら、本当に、あんなに慕われると思うか?」
「……そうだね……あの人の口ぶりからして、まるで終戦して一年の間に何かがあって豹変した……と考えるのが妥当かな?……問題は何があったのかということだけど」
「まぁ、神絡みなのは間違いないな。めっちゃ叫んでたし。危ない感じで」
「うん、イシュタルさんみたいだった……トリップ中の。痛々しいよね」
どうやら聖教教会の教皇は、女子高生からイタイ人と思われていたらしい。ハジメは少しだけ同情してしまった。一方の雷電は、ある程度怒りが収まった後にアレイスト王の変貌ぶりについて考えていた。あの王が変貌した様子は、まるでクローン達が裏切った原因であろう行動抑制チップの真の役割である“オーダー66”と少しだけ酷似していた。
「…なぁ三人共、少し冷静になって考えてみたんだが、あの王の変貌について少しだけ分かった事がある」
「「「分かったこと?」」」
「あぁ……あの王の変貌は、まるでオーダー66を受けた行動抑制チップを埋め込まれたクローン達と少し似ているんだ」
「はっ?……いや、それはありえないだろ?さっきのクローン達ならまだ分かるが、あの王には行動抑制チップを埋め込む以前に作る技術レベルまで達していないだろ?」
「科学技術的にはそうだが、魔法技術ならありえなくはない筈だ。……で、少し似ている事についてだが、あの王はまるでエヒトのお告げを“真実”だと認識していた……というよりは、させていたようだ。まるでエヒトによって“真実”を認識させ、行動を強制させられたかの様に……行動抑制チップを例えて言うならば、行動を強制させる……差し詰め、“行動強制チップ”みたいな魔法を受けた歳か考えられる。つまり、俺達がいずれ戦うであろうエヒトには、
「マジかよ……」
「……この大迷宮の
雷電がそう考察しながらも進んでいると、前方に向けられたハジメのライトが何かを照らし出した。白くヒラヒラしたものだ。
ハジメ達は足を止めて、ライトの光を少しずつ上に上げていく。その正体は、女の子だった。白いドレスを着た女の子が、俯いてゆらゆらと揺れながら廊下の先に立っていたのだ。
猛烈に嫌な予感がするハジメ達。特に、香織の表情は引き攣りまくっている。ハジメは、こんなところに女の子がいるはずないので取り敢えず撃ち殺そうとドンナーの銃口を向けた。
その瞬間、女の子がペシャと廊下に倒れ込んだ。そして、手足の関節を有り得ない角度で曲げると、まるで蜘蛛のように手足を動かし、真っ直ぐハジメ達に突っ込んで来た!
ケタケタケタケタケタケタケタッ!
奇怪な笑い声が廊下に響き渡る。前髪の隙間から炯々と光る眼でハジメ達を射抜きながら迫る姿は、まるで何処ぞの都市伝説のようだ。
「「いやぁあああああああああああ!!!!」」
「うおっ!?落ち着け香織!腕を掴むな!」
テンプレだが、それ故に恐ろしい光景に、香織と恵里が盛大に悲鳴を上げ、香織はハジメにしがみついた。ケタケタ笑って迫る少女?をドンナーで撃とうとしていたハジメは、香織がしがみついたせいで照準をずらしてしまった。
「ケギャ!!」
瞬く間に足元まで這い寄った少女?は、奇怪な雄叫びと共にハジメの顔面に向かって飛びかかった。
ハジメは、仕方なく銃撃を諦めて、ケタケタ笑う少女?の腹部に必殺のヤクザキックをぶち当てようとした時に、雷電がその間に割り込み、ライトセーバーで少女を切り裂き、フォース・プッシュで吹き飛ばす。
フォース・プッシュによって吹き飛ばされた瞬間、少女は盛大に吹き飛び壁や廊下に数回バウンドしたあと、廊下の奥で手足を更におかしな方向に曲げて停止し、そのまま溶けるように消えていった。この時に雷電は、ライトセーバーでも通用する事に気付き、ライトセーバーだけで対応する事にした。
ハジメは溜息を吐いた後に雷電に礼を言った後、未だにふるふると震えながらハジメにしがみつく香織の頭を拳で軽く叩く。ビクッとしたあと、香織は、恐る恐るという感じでハジメを見上げた。既に目尻には涙が溜まっており、口元はキュッと一文字に結ばれている。マジビビリだった。恵里も恵里で以外にもこの手の物は大の苦手であった。
「香織って、こういうの苦手か?」
「……得意な人なんているの?」
「魔物と思えばいいんじゃないか?」
「……ぐすっ、頑張る」
「恵里、大丈夫か?恵里はこの手の物は苦手だったか?」
「怖かった……怖かったよぉ…!」
香織はそう言って、ハジメから離れた。手だけはハジメの服の裾を掴んで離さなかったが。恵里はもう泣きたいくらいに雷電の横に抱きつくしかなかった。雷電は恵里を宥めながらも頭を優しく撫でるのだった。
先程まで、ハジメに言われたことを気にして、どこか遠慮があったというのに、今は、絶対離れないからね!という強靭な意志が濡れた瞳に宿っている。必死だ。告白したときと同じくらいに。
その後も、廊下の先の扉をバンバン叩かれたかと思うと、その扉に無数の血塗れた手形がついていたり、首筋に水滴が当たって天井を見上げれば水を滴らせる髪の長い女が張り付いてハジメ達を見下ろしていたり、ゴリゴリと廊下の先から何かを引きずる音がしたかと思ったら、生首と斧を持った男が現れ迫ってきたり……
そのほとんどは、ハジメが魔力弾で撃ち抜くか、雷電のライトセーバーで瞬殺したのだが……
「やだよぉ……もう帰りたいよぉ……雫ちゃんに会いたいよぉ~」
「香織、僕だってやだよぉ……でも、この迷宮を攻略しなきゃ帰れないんだよ?」
「うぅ〜……」
船内を進むごとに激しくなる怪奇現象に、香織が幼児退行を起こし、ハジメの背に張り付いてそこから動かなくなった。恵里は何とか香織を元気付けようとするが、効果はなかった。
ちなみに、雫の名を呼ぶのは、小さい時から光輝達に付き合わされて入ったお化け屋敷で、香織のナイト役を勤めていたのは雫だったからだそうだ。決して、ゆりゆりしているわけではない。
“メルジーネ海底遺跡”の創設者メイル・メルジーネは、どうやらとことん精神的に追い詰めるのが好きらしい。ハジメは、奈落の底で、闇と化け物に囲まれながら長期間サバイバルしていた経験があるので、特に、どうとも思わないが、普通の感性を持つ者なら精神的にキツイだろう。もっとも、ユエやティオが驚きむせび泣くところなど想像できないが……
先程までの人生の迷子的なシリアスな雰囲気は何処に行った?と、思わずツッコミを入れたくなるくらいハジメに引っ付き半泣きになりながら、それでも何とか回復魔法で怪奇を撃退していく香織とそれを見守るハジメ。恵里は雷電と一緒ならば平気と暗示を掛ける様に初級の魔法の炎弾で会期を撃退する。雷電も、恵里をあまり負荷が駆らない様にライトセーバーで怪奇を斬り捨てるのだった。
途中、何度か香織が意識を飛ばしそうになりつつも、遂に四人は、船倉までたどり着いた。
重苦しい扉を開き中に踏み込む。船倉内にはまばらに積荷が残っており、ハジメ達は、その積荷の間を奥に向かって進む。すると、少し進んだところで、いきなり入ってきた扉がバタンッ!と大きな音を立てて勝手に閉まってしまった。
「ぴっ!?」
「ヒッ!?」
「……」
「罠か……」
香織と恵里がその音に驚いて変な声を上げる。何だか、迷宮を攻略したあとも自分のした大切な話を覚えているのか心配になって来たハジメ。ああいう話を何度もするのは勘弁だった。
ハジメが、溜息を吐きながらビクつく香織の肩をポンポンと撫でて宥めていると、また異常事態が発生した。急に濃い霧が視界を閉ざし始めたのだ。
「ハハハハハハ、ハジメくん!?」
「何か陽気な外人の笑い声みたいになってるぞ。今まで通り、魔法でぶっ飛ばせばいいだけだ。大丈夫だって」
ハジメがそう答えた瞬間、ヒュ!と風を切る音が鳴り霧を切り裂いて何かが飛来した。咄嗟に、ハジメが左腕を掲げると、ちょうど首の高さで左腕に止められた極細の糸が見えた。更に、連続して風を切る音が鳴り、今度は四方八方から矢が飛来する
「ここに来て、物理トラップか?ほんとに嫌らしいな!解放者ってのはどいつもこいつも!」
「そうでもしないと神代魔法を受け継ぐのにふさわしいか如何か分からないだろう?解放者視点で考えればの話だが!」
「守護の光をここに──“光絶”!」
ハジメは、一瞬、意表を突かれたものの、所詮はただの原始的な武器であることから難なく捌き、雷電もライトセーバーで飛んでくる矢を防ぐ。香織も防御魔法を発動し、恵里を守る。直後、前方の霧が渦巻いたかと思うと、凄まじい勢いの暴風がハジメ達に襲いかかった。
雷電はアセンション・ケーブルで地面に突き刺し、飛ばされない様にしつつも恵里を掴んで暴風に耐えていた。ハジメも靴のスパイクで体を固定し飛ばされないようにしつつ、咄嗟に隣の香織を掴もうとしたが、運悪く香織の防御魔法が邪魔になり、一瞬の差で手が届かなかった。
「きゃあ!?」
「香織!?」
香織は悲鳴を上げて暴風に吹き飛ばされ霧の中へと姿を消す。ハジメは舌打ちをして感知系能力を使い香織の居場所を把握しようとした。しかし、どうやらこの霧は“ハルツィナ樹海”の霧と同じように方向感覚や感知系の能力を阻害する働きがあるようで、あっさり見失ってしまった。
「マズいぞ、ハジメ!」
「チッ…分かっている!香織、そこを動くなよ!」
舌打ちしつつ香織に呼びかけるハジメに、今度は前方の霧を切り裂いて、長剣を振りかぶった騎士風の男が襲いかかってきた。何らかの技なのだろう、凄まじい剣技を繰り出してくる。
ハジメは、それを冷静にドンナーで受け流すと、大きく相手の懐に踏み込み左のシュラークを腹に当てがって魔力弾を撃ち放つ。腹に風穴を開けられた騎士風の男は苦悶の声を上げることもなくそのまま霧散した。
しかし、同じような並みの技量ではない剣士や拳士、他にも様々な武器を持った武闘派の連中が、霧に紛れて次々に襲いかかってきた。
「クソ面倒な……」
「恵里、このアセンション・ガンをしっかり掴んでいてくれ。俺達は目の前の敵を片付ける」
「分かった、気をつけて……」
悪態を吐きつつ、ハジメは、紅色の魔力弾を衛星のように体の周囲に展開し、“瞬光”も発動して速攻で片付けにかかる。雷電もまた“瞬光”を発動させてライトセーバーで次々と敵を斬り捨てる。その時のハジメは、香織の声が聞こえないのが気がかりだったのだ。
一方、その香織はというと、ハジメ達の姿が見えなくなってしまった事に猛烈な不安と恐怖を感じていた。ホラーは、本気で苦手なのだ。こればっかりは、体が勝手に竦んでしまうので、克服するのは非常に難しい。ただでさえ、劣等感から卑屈になっている点を指摘されてしまい、何とか、そんなことはないと示そうと思っていたのに、肝心なところで縋り付いてしまう自分がほとほと嫌になる。
こんなことではいけないと震える体を叱咤して、香織は何とか立ち上がる。と、その時、香織の肩に手が置かれた。ハジメは、よく肩をポンポンと叩いて励ますことがあるので、自分を見つけてくれたのかと、一瞬、喜びか湧き上がった。
「ハジメく……」
直ぐに振り向こうとして、しかし、その前に、香織は、肩に置かれた手の温かみが妙に薄いことに気がついた。いや、もっと正確に言うなら、温かいどころか冷たい気さえする。香織の背筋が粟立った。自分の後ろにいるのは、ハジメではない。直感で悟る。
では、一体だれ?
油を差し忘れた機械のようにギギギと音がなりそうな有様で背後を振り返った香織の眼前には……目、鼻、口――顔の穴という穴の全てが深淵のような闇色に染まった女の顔があった。
「あふぅ~」
香織の精神は一瞬で許容量をオーバーし、防衛本能に従ってその意識を手放した。
その頃、ハジメと雷電は、僅か一分程で五十体近い戦士の亡霊達を撃滅していた。大体、二~三秒で歴戦の戦士を一体屠っている計算だ。と、その時、一瞬、攻勢が止んだかと思うと、霧の中から大剣を大上段に振りかぶった大男が現れ、霧すら切り裂きながら莫大な威力を秘めた剣撃を繰り出した。
ハジメと雷電は、半身になってその一撃をかわす。しかし、最初から二ノ剣が想定されていたのか、地面にぶつかった反動も利用して大剣が跳ね上がった。
ハジメは、その場で跳躍すると、“金剛”をかけつつ大剣に義手を引っ掛けその上に飛び乗る。そして雷電は、二ノ剣の攻撃を紙一重で躱し、一瞬で距離を積めてライトセーバーで大男の足を切り裂く。その時に振り切られた大剣の上に膝立ちするハジメは、スっとドンナーを大男の頭部に向け魔力弾を撃ち放った。
頭部を吹き飛ばされ大男が霧散すると同時に、周囲の霧も晴れ始める。
「これで全部か?……後は香織だな」
「香織!どこだ!」
ハジメは、香織の気配を感知しようと集中する。しかし、そんなことをするまでもなく、香織はあっさり見つかった。
「ここだよ。ハジメくん」
「香織、無事だったか……」
微笑みながら歩み寄ってくる香織に、ハジメは安堵の吐息をもらす。そんなハジメの様子に、香織は更に婉然と微笑むと、そっとハジメに寄り添った。この時に雷電は、香織のフォースにある以上を検知したが、どうやらハジメもそれを理解している様だ。恐らくハジメは香織を救う為に大胆な行動をするであろうと予測する。
「すごく、怖かった……」
「そうか……」
「うん。だからね、慰めて欲しいな」
そう言って、香織はハジメの首に腕を回して抱きついた。そして、鼻と鼻が触れ合いそうなほど間近い場所で、その瞳がハジメの口元を見つめる。やがて、ゆっくりと近づいていき……
ゴツッ
と音を立てて、香織のこめかみにドンナーの銃口が突きつけられた。
「な、なにを……」
狼狽した様子を見せる香織に、ハジメの眼が殺意を宿して凶悪に細められる。
「なにを?もちろん、敵を殺すんだよ。お前がそうしようとしたようにな」
そう言って、ハジメは微塵も躊躇わず引き金を引いた。ドンナーから紅色に輝く弾丸が撃ち放たれ容赦なく香織のこめかみを穿ち、吹き飛ばす。
カランカラン…
音を立てて転がったのは錆び付いたナイフだ。香織の手から放り出された物であり、抱きつきながら袖口から取り出したものでもある。恵里は一体これはどうゆう状況なのか理解できていなかった。雷電は恵里にこっそりと説明をし、今はハジメに任せようと見守るのだった。ただし、度が過ぎれば介入するつもりである。
コツコツと足音を立てながら、倒れた香織に近寄るハジメ。香織は体を起こし、怯えたように震えた声でハジメに話しかける。
「ハジメくん、どうしてこんなことッ!?」
しかし、ハジメは取り合わず再び香織に魔力弾を撃ち込んだ。
「香織の声で勝手に話すな。香織の体で勝手に動くな。全て見えているぞ?香織に巣食ったゴミクズの姿がな」
そう、ハジメの魔眼石には、香織と重なるようにしてとり憑いている女の亡霊のようなものが映っていた。雷電にも魔眼石が左眼に入っているが殆ど使用せず、フォースだけで香織に取り付いている亡霊に気付いたのだ。……というか、雷電の魔眼石がただの飾りになってしまっていた。正体がバレていると悟ったのか、香織の姿をした亡霊は、先程までの怯えた表情が嘘のように、今度はニヤニヤと笑い出した。
「ウフフ、それがわかってもどうする事も出来ない……もう、この女は私のものッ!?」
そう話しながら立ち上がろうとした香織(憑)だったが、ハジメに馬乗りに押し倒され再び倒れこんだ。
「まてっ!なにをするの!この女は、あんたの女!傷つけるつもりッ!?」
「頭の悪い奴だ。話すな、動くなと言っただろう?別に香織は傷つけないさ。魔力弾で肉体は傷つかない。苦しむのは取り憑いたお前だけだ」
「私が消滅すれば、この女の魂も壊れるのよ!それでもいいの!?」
その言葉に、ハジメが少し首を傾げる。ハッタリの可能性も十分にあるが、真偽を確かめるすべがない。普通なら、躊躇し手を出せなくなるだろう。香織(憑)もそう思ったのか、再びニヤつきながら、上からどけとハジメに命令した。それに対するハジメの返答は……
スパンッ! スパンッ!
魔力弾を撃ち込むことだった。苦痛を感じているのか香織(憑)の表情が歪む。そして焦った表情で更に魔力弾を撃ち込もうとするハジメに怒声を上げた。
「あんた正気なの!?この女がどうなってもいいの!?」
「黙れ、ゴミクズ。お前の言う通り攻撃を止めたところで、香織の体は奪われたままだろうが。それに、逆に言えば、消滅させなければ魂は壊れないんだろう?なら、出て行きたくなるまで死なないようにお前を嬲ればいいだけだ」
あまりに潔い発言に絶句する女の亡霊。その時に女の亡霊は、その様子を見ていた雷電達に抗議し、助けを求めた。
「ちょっとあなた達!?この男は自分の大切な女を殺そうとしているのよ!?見てないで助けなさいよ!?」
「いや、僕の場合は無理だから……化け物じみたハジメくんを止めるのは……」
「それ以前に、アンタは取り付く相手を間違えたんだ。アンタが助かる道は二つ。ハジメの魔力弾によって成仏するか、香織から離れて自己成仏するかの二つだけだ。下手に意地を張ってもアンタが苦しむだけだぞ?」
「いやいや、自己成仏って何っ!?そんな言葉初めて聞いたんだけど!?「おい…」…ヒッ!?」
女の亡霊が雷電の言葉にツッコム中、ハジメの濃密な殺意が宿った眼光によって射抜かれ、硬直する。
「この状況でよく口が動かせるもんだな?俺の“大切”に手を出したんだ……楽に消滅なんてさせない。あらゆる手段を尽くして、
ハジメの体から紅色の魔力が噴き上がり、白髪が煽られてゆらゆらと揺らめく。殺気も魔力も荒れ狂い、にもかかわらず瞳だけが氷のように凍てついている。
ハジメは、激怒しているのだ。かつてないほど。ただ敵を殺すだけでは飽き足らない、“残虐性”が発露するほどに。
香織にとり憑いた亡霊は、余りに濃密でおぞましい殺意に、もはや硬直してハジメを凝視する以外何も出来なかった。この時になって、ようやく悟ったのである。自分が決して手を出してはいけない化け物の、決して触れてはいけない禁忌に触れてしまったのだと。
ドンナーの銃口が、香織(憑)の額に押し当てられる。とり憑いた亡霊は、ただひたすら願った。一秒でも早く消えてしまいたいと。これからされるだろう“何か”を思うと、少しでも早く消えてしまいたかった。
亡霊の正体は、元々、生に人一倍強く執着する思念が変質したものだったのだが、その思いすら吹き飛ばすほど、今のハジメの放つ雰囲気は恐ろしかったのだ。
消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい!
亡霊の叫びが木霊する中、ハジメがまさに引き金を引こうとした瞬間、香織の体が突然、輝き出した。それは、状態異常回復の魔法“万天”の輝きだ。香織が万一に備えて“遅延発動”用にストックしておいたものである。
突然の事態に呆然とする亡霊に内から声が響いた。
──大丈夫、ちゃんと送ってあげるから
その言葉と共に、輝きが更に増す。純白の光は、亡霊を包み込むように纏わりつくと、ゆらりふわふわと天へ向けて立ち上っていった。同時に、亡霊の意識は薄れていき、安堵と安らぎの中、完全にこの世から消滅した。
一拍の後、香織のまぶたがふるふると振るえ、ゆっくり目を開いた。馬乗り状態のハジメが、真上から香織の瞳を覗き込む。香織が輝き出してから、ハジメの魔眼石には、存在が薄れていく亡霊の姿が映っていたので、取り敢えず殺意を薄め、香織の中にいないか確かめているのだ。
間近い場所にハジメの顔があり、押し倒されている状況で、ハジメの視線は真っ直ぐ香織の瞳を射抜いている。びっくりするほど真剣で、同時に、心配と安堵も含まれた眼差し。そんな瞳を見つめ返しながら、香織の体は自然と動いていた。
スっと顔を持ち上げて、ハジメの唇に自分のそれを重ねる。唇と唇を触れ合わせるだけのもの。それでも確かに、香織のファーストキスだ。これには恵里の顔が真っ赤になるのには十分すぎる衝撃だった。
ハジメは、“魂が壊れる”と言われたために、万一を考えて香織に巣食うものがないか“見る”ことに集中しており、ごく自然な動作で迫った香織のキスを避けることが出来なかった。驚いて一瞬硬直するハジメから、香織は、そっと唇を離す。
「……なにして……」
「答えかな?」
「答え?」
「うん。どうして付いて来たのか、これからも付いて行くのか……ハジメくんの問い掛けに対する答え」
そう言ってハジメに向けられた香織の微笑みは、いつも見ていた温かな陽だまりのような微笑みだった。ここに来てから見せていた、作り笑いの影は微塵もない。
実のところ、とり憑かれている間、香織には意識があった。まるで、ガラス張りの部屋に閉じ込められてそこから外を見ているような感じだった。それ故に、香織もしっかりと認識していたのだ。未だかつて見たことがないほど怒り狂ったハジメの姿を。香織を“大切”だと言って、敵に激情をぶつけた姿を。
そのハジメの姿を見た瞬間、香織の胸に耐え難い切なさが湧き上がった。そして、それと同時に、告白した時のどうしようもない気持ちを思い出したのだ。
それは、誰に何と言われようと、例えどれだけ迷惑を掛けようとも、このわがままだけは貫かせて欲しい。貫いてみせる。そんな気持ちだ。ハジメを囲むユエ達の輪の中に、自分だけいないことが耐え難かった。自分だけハジメの傍にいないという未来は想像もしたくなかった。自分の力量がユエ達に遠く及ばないことは重々承知していても、気持ちだけは負けていないと示したかった。
「好きだよ、ハジメくん。大好き。だから、これからも傍にいたい」
「……辛くなるだけじゃないか?例えばの話だが、ユエもいなければ、ってわけじゃないだろう?」
「そうだね。独占したいって思うよ。私だけ見て欲しいって思うよ。ユエに、嫉妬もするし、劣等感も抱くよ……辛いと感じることもあるかも」
「だったら……」
「でも、少なくとも、ここで引いたら後悔することだけは確かだから。確信してるよ。私にとっての最善はハジメくんの傍にいることだって……最初からそう思って付いて来たのに、実際に差を見せつけられて色々見失ってたみたい。でも、もう大丈夫」
ハジメの頬を両手で挟みながら、ふわりと微笑む香織。ハジメは、困ったような呆れたような複雑な表情だ。香織が自分で決めて、その決断が最善だと信じているなら、ハジメに言えることは何もない。幸せの形など人それぞれだ。ハジメに香織の幸せの形を決めることなど出来ないし、するべきでもない。
「……どうやら、吹っ切れた様だな?」
「……そうか。香織がそれでいいなら、俺はこれ以上なにも言わない」
「うん。いっぱい面倒かけるけど、嫌わないでね」
「今更だろう。学校でも、ここに来てからも……お前は割かしトラブルメイカーだ」
「それは酷いよ!」
「そうか? 学校でも空気読まずに普通に話しかけて来たし、無自覚に言葉の爆弾落とすし、その度に、周りの奴らが殺気立つし、香織は気づかないし、深夜に男の部屋へネグリジェ姿でやって来るし……」
「うぅ、あの頃はまだ自覚がなくて、ただ話したくて……部屋に行ったのは、うん、後で気がついて凄く恥ずかしかった……」
「まぁ、そこは香織らしいと言えばらしいかな?僕は今のままの香織が好きだしね」
顔を赤くし両手で顔を覆う香織の上から退き、ハジメは、そのまま香織を助け起こす。そして、苦笑いしながら香織の肩をポンポンと叩き、そして、霧が晴れてから倉庫の一番奥で輝き始めた魔法陣の方へ歩き出そうとした。
そのハジメの袖をギュッと掴む香織。見れば、少しふらついてる。どうやら、とり憑かれていたせいか、少し体の感覚が鈍いらしい。体に異常はないようなので、直に元に戻るだろうが。
「少し休憩しよう」
そう提案したハジメに、香織はいいことを思いついた笑みを浮かべると、ハジメに背を向けさせその背中に飛び乗った。
「……何してる」
「早く先に進んだ方がいいでしょ?いつまで魔法陣が機能してるか分からないし。ぼやぼやしてたら、また霧が出ちゃうかも。だから、ね?」
確かに一理あることなので、ハジメは“しょうがないか……”と頭をカリカリ掻きながら、香織を背負い直して魔法陣へと歩いて行った。その後方で雷電と恵里は今のハジメ達を暖かい目で見守っていた。
香織は、腕をハジメの首に回して、これでもかというくらいギュッと背中にしがみつく。何がとは言わないが、背中に感じる凄く柔らかい感触を極力無視するハジメ。そんなハジメの耳元に甘い声音が響く。ほとんど触れるような近さで、香織の唇が震え、熱い吐息と共に言葉が囁やかれた。
「ハジメくん……さっきのもう一度言って欲しいな」
「さっきの?」
「そう、“何に”手を出されたから怒ったの?」
「……さぁ、何のことかわからない」
「もうっ、それくらい言ってよ~」
ある意味、イチャついていると言えなくもない雰囲気で香織を背負ったハジメは、スタスタと進み、躊躇いなく魔法陣へと足を踏み入れた。
雷電もハジメの後を追おうとした時に恵里からこんな質問をされた。
「ねぇ、雷電くん」
「恵里……?どうした?」
「もし、私も香織と同じ目に合ったら、雷電くんは助けてくれる?」
恵里がもしも、先ほどの女の亡霊に取り憑かれた場合は助けてくれるかどうかだった。この質問に雷電は答え方に悩んだ。この手の質問は、恋愛的要素も含まれているものだと理解していた。正直に言えば、このところ、シアの事を考えるだけで暗黒面の力が増してくる一方だ。そんな想いを片隅に雷電は、ある程度考えた後に答えを出した。
「助けるには助けるが、俺自身、恋愛に関しては疎いんだ。前世の頃の影響かもしれないが、恵里の気持ちは分からなくはない。ただ……」
「…ただ?」
「前世で既に血に染まった俺が、幸せを掴んでいいのか分からない……いや、怖いんだ。俺を愛する人を不幸にしてしまわないかとな?俺のフォースが暗黒面に偏り過ぎていって、もはやダーク・ジェダイと言われてもおかしくない位にバランスが不安定なんだ。だから、出来るだけ恋愛は避けたかった。俺の所為で、俺に好意を抱いているシアや恵里を不幸にさせたくない……」
「雷電くん……」
雷電の辛い答えに恵里は何も言えなかった。雷電は、これ以上暗い話をするべきではないと判断し、ハジメ達の後を追うのだった。……この時に恵里は思う。“せめて雷電にも救いがあります様に”と願うのだった。
オリキャラの詳細を書いた話を書くべきか?
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書くべき。
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不要。
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作者に任せる。