ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強   作:コレクトマン

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今回初めての20000文字です。……キツかった(;´д`)


66話目です。


封印されし騎士、悪食討伐

 

 

淡い光が海面を照らし、それが天井にゆらゆらと波を作る。

 

 

 

その空間には中央に神殿のような建造物があり、四本の巨大な支柱に支えられていた。支柱の間に壁はなく、吹き抜けになっている。神殿の中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれていた。また、周囲を海水で満たされたその神殿からは、海面に浮かぶ通路が四方に伸びており、その先端は円形になっている。そして、その円形の足場にも魔法陣が描かれていた。

 

 

 

その四つある魔法陣の内の一つが、にわかに輝き出す。そして、一瞬の爆発するような光のあと、そこには人影が立っていた。ハジメと香織、雷電と恵里だ。

 

 

「……ここは……あれは魔法陣?まさか、攻略したのか?」

 

「えっと、何か問題あるの?」

 

「いや、まさかもうクリアとは思わなくてな……他の迷宮に比べると少し簡単だった気が……最後にあのクリオネ擬きくらい出てくると思ったんだが……」

 

「確かに……オルクス大迷宮やライセン大迷宮の最深部で迷宮のラスボスと戦う事になっていたからな。しかし、この大迷宮は別なのか?」

 

「もしそうなら、あのクリオネ擬きとは戦いたくないかな?僕達でもあれは流石にきついよ……」

 

 

どうやら、メイル・メルジーネの住処に到着したようだと分かり、ハジメは少し拍子抜けしたような表情になり、雷電はまだ仕組みがあるのかと警戒するのだった。それに対して香織は、ハジメ達の肩越しに顔を覗かせて、苦笑いしながら答えた。

 

 

「あのね、ハジメくんに雷電くん。十分大変な場所だったよ。最初の海底洞窟だって、普通は潜水艇なんて持ってないんだから、クリアするまでずっと沢山の魔力を消費し続けるし、下手をすれば、そのまま溺死だよ。クリオネみたいなのは、有り得ないくらい強敵だったし、亡霊みたいなのは物理攻撃が効かないから、また魔力頼りになる。それで、大軍と戦って突破しなきゃならないんだよ?十分、おかしな難易度だよ」

 

「むっ、そう言われればそうなんだろうが……」

 

「まして、この世界の人なら信仰心が強いだろうし……あんな狂気を見せられたら……」

 

「余計、精神的にキツいか……」

 

「……だな」

 

 

香織の指摘は、要するにハジメが強すぎたという事だ。そこまで言われると、確かに、“グリューエン大火山”も最後のフリードの襲撃さえなければ無傷で攻略出来ていたなぁと納得するハジメと雷電。

 

 

 

そして、そう言えば、ユエ達と合流する前に到着してしまったが彼女達はどうしているだろうかと考えたその時、ハジメの思考を読んだように右側にある通路の先の魔法陣が輝き出した。

 

 

 

爆ぜる光が収まると、そこにはユエ、シア、ティオ、清水、デルタ、不良分隊の姿があった。絶妙なタイミングだった。

 

 

「いいタイミングだな。そっちは大丈夫だったか?」

 

「ん……そっちは……大丈夫じゃなかった?」

 

「あ、香織さん大丈夫ですかっ!」

 

「む?怪我でもしておるのか?回復魔法はどうした?」

 

 

ハジメの呼びかけに、それぞれ元気な様子を見せつつ、ハジメに背負われている香織に心配そうな視線を送っている。それに対する香織の返答は……

 

 

「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫だよ。半分は甘えているだけだから」

 

 

実に朗らかな笑みを浮かべて堂々と宣言する香織に、ユエはスっと目を細め、ティオは面白そうに“ほほぉ”とニヤついた笑みを浮かべ、清水はハジメ達を見て、小声で“爆ぜろ…”と呟いた。そしてデルタ分隊は清水の毒舌に苦笑いし、不良分隊はそんなハジメに対して何とも言えなかった。

 

 

「おい、香織。もしかして、もう立てるのか?」

 

「えへへ、実は最初から歩くくらいなら問題なかったり……ごめんね?」

 

「はぁ、さっさと降りろ」

 

 

少しバツ悪そうに笑う香織に、呆れた表情を見せながらハジメは香織を降ろした。そして、神殿へと向かいユエ達と合流する。

 

 

「で、何があったんじゃ?ん?ほれ、言うてみよ、ご主人様。香織と何かあったんじゃろ?ほれほれ、何があったんじゃあ?隠さずに言うてッへぶぅ!?」

 

 

ティオがニヤつきながら実にうざい感じで問い詰め出したので、イラっと来たハジメは取り敢えず張り手を繰り出した。足を崩して、艶かしい姿勢で崩れ落ちたティオが荒い息を吐きながら頬を染める。

 

 

「ひ、久しぶりの衝撃じゃぁ~、はぁはぁ、んっ、ご主人様よ、もっとお仕置きしていいんじゃよ?むしろ足蹴にしてくれていいんじゃよ?」

 

 

どこか期待した雰囲気で、そんなことをのたまうティオを無視して、ハジメ達は奥の祭壇へと向かった。背後から“あと一回、一回でいいのじゃ! お願い、妾をぶってぇ”とキモイ言葉が聞こえていたが、全員全力でスルーした。

 

 

「……で? 何があったの?」

 

 

ユエが、ティオと同じ質問をする。しかし、その視線はハジメではなく、香織に向いていた。香織は、ユエに視線を合わせるとニッコリと上機嫌に笑い、いつかのように言葉の爆弾を落とす。

 

 

「ちょっと、ハジメくんとキスしただけだよ」

 

「……ほぅ」

 

「えっ!?ホントですか!?どっちから!どっちからですか!まさか、ハジメさんから!?」

 

 

香織の言葉に、ユエの声が一段低くなり、シアが興味有り気に詰め寄った。

 

 

「私からだよ。……ハジメくんが私の為に怒ってくれて……我慢できなくて奪っちゃった」

 

「わぁ、私の時と同じですね!私も、我慢できなくてマスターの最初を奪いましたから。仲間ですね!香織さん!」

 

「いやっ待て、シア。前にも言ったが、あの時はお前が溺れてたから人工呼吸で蘇生させたんだ。だからアレは「マスター、少し口を閉じてください」……何でだよ」

 

 

雷電の訂正すら聞く耳すら持たないシア。ハジメと雷電の直ぐ傍らで、ハジメ&雷電襲撃計画を練り始める女子二人。ハジメと雷電の頬に冷たい汗が流れる。冗談めかしてキャッキャッとはしゃいでいるように見えるが、その実、香織もシアも目がマジだったからだ。肉食系の眼を向けてくる香織など昔は想像すらしていなかった。

 

 

「……尻尾巻いて逃げるかと思ってた」

 

 

ユエが、香織に探るような眼差しを向ける。ユエは、香織が劣等感を感じて心を苛んでいることに気がついていた。だから、香織にとって最初の大迷宮挑戦になる今回で、あるいは挫折して逃げ帰ることもあるだろうと考えていたのだ。もちろん、自分に宣戦布告した相手を慰めてやるつもりなど毛頭なかった。ここで引くなら、その程度の想いだったと勝利宣言すればいいだけだ。

 

 

 

だが、香織は、どうやら立ち直ったようで、むしろ、前より決然としている雰囲気すらある。何があったのか気になるところだった。

 

 

「……そうだね。ハジメくんにも、いっそそうした方がいいって言われたよ。でも、ユエとの色々な差とか……今更だしね」

 

「……開き直った?」

 

「そうとも言うかも。というかね、元々、開き直って付いて来たのに、差を見せつけられて、それを忘れてただけなんだよ。情けないとこ見せちゃった」

 

「……そのまま諦めれば良かったのに」

 

「ふふ、怖い?取られそうで?」

 

「……調子にのるな。トラブルメイカー」

 

「……それ、ハジメくんにも言われた。……私、そんなにトラブル体質なのかな……」

 

 

辛辣なユエの言葉に、香織の頬が引き攣る。想い人と恋敵に揃ってトラブルメイカー呼ばわりされて若干落ち込みそうなるが、直ぐに気を取り直す。ちなみに、実はユエも、というかハジメ達全員が割かしトラブル体質なので、かなりブーメランな言葉なのだが、ユエにその自覚はなかった。

 

 

「まぁ、ユエの言う通りかもしれないけど……少なくとも私はハジメくんの“大切”だから、頑張って“特別”を目指すって決めたの。誰になんと言われようと、ね」

 

「……そう。なら今まで通り受けて立つ」

 

「うん!あ、それと、ユエの事は嫌いじゃないからね?喧嘩友達とか、そういうの、ちょっと憧れてたんだ」

 

「……友達? 私と香織が?」

 

「そう、友達。日本にはね、強敵と書いて友と表現する人がいるみたい。なら、恋敵と書いて友と読んでもいいんじゃないかな?」

 

「……日本……ハジメの故郷……聞けば聞くほど不思議な国。でも……いいセンスだと思う」

 

「だよね。うふふ、そういうわけで、これからも宜しくね?」

 

「……ん」

 

 

何だかいい感じの雰囲気を放つユエと香織だったが、その傍らで、二人の会話を聞かされているハジメは、物凄く居心地が悪かった。ガールズトークをしている女子の中に一人だけ場違いにも紛れ込んでいる男子のような気分だ。そして、香織が某世紀末の濃ゆい人の言葉を知っている事や、ユエの返しが某ダンボール好きな蛇の言葉だというのもツッコミたくて仕方なかったが、空気を読んで我慢した。

 

 

 

祭壇に到着したハジメ達は、全員で魔法陣へと足を踏み入れる。いつもの通り、脳内を精査され、記憶が読み取られた。しかし、今回はそれだけでなく、他の者が経験したことも一緒に見させられるようだった。つまり、ユエ達が見聞きしたものをハジメと香織も共有したのである。

 

 

 

どうやら、ユエ達は、巨大な地下空間で海底都市とも言うべき廃都にたどり着いたようだ。そこで、ハジメ達と同じく空間が歪み、二国の軍隊と都内で戦争して来たようである。というのも、その都は人間族の都で魔人族の軍隊に侵略されているところだったらしく、結局、ハジメ達と同じように両者から襲われたようだ。

 

 

 

都の奥には王城と思しき巨大な建築物があり、軍隊を蹴散らしながら突き進んだユエ達は、侵入した王城で重鎮達の話を聞くことになった。

 

 

 

何でも、魔人族が人間族の村を滅ぼした事がきっかけで、この都を首都とする人間族の国が魔人族側と戦争を始めたのだが、実は、それは和平を望まず魔人族の根絶やしを願った人間側の陰謀だったようなのだ。気がついた時には、既に収まりがつかないほど戦火は拡大し、遂に、返り討ちに合った人間側が王都まで攻め入られるという事態になってしまった……という状況だったらしい。

 

 

 

そして、その陰謀を図った人間とは、国と繋がりの深い光教教会の高位司祭だったらしく、この光教教会は、聖教教会の前身だったようだ。更に、彼等は進退窮まり暴挙に出た。困った時の神頼みと言わんばかりに、生贄を捧げて神の助力を得ようとしたのだ。その結果、都内から集められた数百人の女子供が、教会の大聖堂で虐殺されるという凄惨な事態となった。

 

 

 

ユエ達も、その光景を見たときは流石にかなりキツかったようだ。魔法陣による記憶の確認により強制的に思い出し、顔を青ざめさせている。特に、シアは今にも吐きそうだ。

 

 

 

ようやく記憶の確認が終わり、無事に全員攻略者と認められたようである。ハジメ達の脳内に新たな神代魔法が刻み込まれていった。

 

 

「ここでこの魔法か……大陸の端と端じゃねぇか。解放者め」

 

「……見つけた“再生の力”」

 

 

ハジメが悪態をつく。それは、手に入れた“メルジーネ海底遺跡”の神代魔法が“再生魔法”だったからだ。

 

 

 

思い出すのは、“ハルツィナ樹海”の大樹の下にあった石版の文言。先に進むには確かに“再生の力”が必要だと書かれていた。つまり、東の果てにある大迷宮を攻略するには、西の果てにまで行かなければならなかったということであり、最初に“ハルツィナ樹海”に訪れた者にとっては途轍もなく面倒である。ハジメ達は、魔力駆動車という高速の移動手段を持っているからまだマシだったが。

 

 

 

ハジメが解放者の嫌らしさに眉をしかめていると、魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、床から直方体がせり出てきた。小さめの祭壇のようだ。その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形をとり人型となった。どうやら、オスカー・オルクスと同じくメッセージを残したらしい。

 

 

 

人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となった。祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。どうやら解放者の一人メイル・メルジーネは海人族と関係のある女性だったようだ。

 

 

 

彼女は、オスカーと同じく、自己紹介したのち解放者の真実を語った。おっとりした女性のようで、憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている。やがて、オスカーの告げたのと同じ語りを終えると、最後に言葉を紡いだ。

 

 

《……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています》

 

 

そう締め括り、メイル・メルジーネは再び淡い光となって霧散した。直後、彼女が座っていた場所に小さな魔法陣が浮き出て輝き、その光が収まると、そこにはメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。

 

 

「証の数も四つですね、ハジメさん、マスター。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょう~」

 

 

シアが、懐かしそうに故郷と家族に思いを馳せた。しかし、この時に脳裏に浮かんだのは“お帰りなさい、将軍!”と敬礼する父親達だったので、頭を振ってその光景を霧散させる。ハジメは、証のコインを“宝物庫”にしまうと、シアと同じように“お帰りなさい、将軍!”と敬礼するハウリア族を思い出し、頭を振ってその光景を追い出した。

 

 

 

と、その時に雷電は、この神殿の祭壇の奥にある壁にある窪みを見つける。

 

 

「……ん?あの窪みは…?」

 

「雷電?……どうした?」

 

「マスター?」

 

 

雷電が見つけた窪みは二つ存在しており、一つは雷電が持つライトセーバーと同じ形の窪みをしており、もう一つはシアが持つライトセーバーと同じ形の窪みであった。雷電はこの窪みの形に違和感を覚えていた。何故自身とシアのライトセーバーと同じ形の窪みがこのメルジーネ海底遺跡に存在するのか?と。

 

 

「この窪み……まるでライトセーバーを填める様にある形だな?もしかして……」

 

「マスター……この窪みは一体?」

 

「……シア、窪みにライトセーバーを填めてみるぞ」

 

「はいですぅ!」

 

 

雷電とシアは壁にある窪みにライトセーバーを嵌め込むと、神殿が揺れ始めた。するとライトセーバーを嵌め込んだ壁が横に開く様に展開し、新たな隠し通路が出現する。

 

 

「隠し通路……か。しかし、何故ライトセーバーが鍵なんだ?まるで雷電達を待っていたかの様に見えるな?」

 

「……罠?」

 

「マスター。この奥に何か有る筈ですぅ」

 

「どの道、調べないと分からないな。慎重に進もう……いつも通りにな」

 

 

そうして雷電とシアはライトセーバーを回収した後に先頭に立ち、隠し通路に進む。ハジメ達は雷電達の後を追う様に出現した隠し通路を通るのだった。進めど進めど、辺り一面は真っ黒であり、雷電達はライトセーバーを明かり代わりにし、ハジメは緑光石を錬成で加工し、作り上げたライトで道を照らしながらも雷電の後に続く。

 

 

 

隠し通路を進み始めてから数十分、終わりが見えなさそうに思えた長い通路も、終わりを迎えた。雷電達の行く道に一筋の光が灯る。その光こそ、この隠し通路の終わり側である。雷電達はライトセーバーを仕舞い、出た場所の辺りを見渡した。そこは真っ白な空間がこの部屋を覆っており、雷電達の前には一つの台座が有った。雷電はその台座を調べると、そこにはコイン状の窪みがあり、何かを入れる為の仕掛けである事を理解する。

 

 

「この形……ハジメ、メルジーネ海底遺跡の攻略の証を貸してくれ」

 

「応っ……何かあったのか?」

 

「自分の読みが正しければ、この証がここにある台座の鍵かもしれない」

 

 

そう言いながらも雷電はハジメからメルジーネの証を受け取り、台座の窪みに証を嵌め込んだ。

 

 

 

すると、仕掛けが起動したのか台座の後ろで異変が起きる。突如と台座の後ろに穴が出現し、その穴から何かが上がってくる。そして数十秒後、その上がってきたものの正体が、雷電達の前に現れる。それは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()だった。

 

 

 

ハジメはその黒い板を見て、何かと見覚えがあった……否、この技術を知っていた。

 

 

「こいつは……“カーボン凍結”!?」

 

「ハジメ……これって?」

 

「ハジメくん、知ってるの?」

 

「あ…あぁ、こいつはカーボン凍結って言ってな?雷電の世界の技術だ。超強力なカーボナイトで高圧ガスなどの不安定な物質を閉じ込める工業テクノロジーであるんだが、通常、知覚種族……つまり、生き物に対する使用は想定されていないんだが、目の前にあるクローンと、誰かは知らねえ男がカーボン凍結されて冬眠状態になっている様だな」

 

 

 

ハジメがユエ達に説明する中、雷電はクローンの事もそうだが、目の前にいるカーボン凍結された青年に対して冷静でいられなかった。

 

 

「嘘……だろ?」

 

「…マスター?」

 

 

シアは雷電の様子がおかしい事に気付くが、雷電はシアからの心配を気にせずに目の前の青年に目が釘付けだった。この青年は雷電に取って知り合いでもあり、腐れ縁でもある人物でもあった。

 

 

「ミレディから聞いていたが……まさか、海底遺跡で眠っているとは思わなかったぞ……()()()()()()

 

 

そう……雷電の前にあるカーボン凍結された青年こと、ジェダイ達の中で問題児と評されたジェダイ・ナイト“アシュ=レイ・ザンガ”がこの海底遺跡の奥で眠っていたのだ。一人のクローンと共に。

 

 

 

シアは雷電がアシュ=レイの名を聞いた時にミレディから渡されたジェダイ・ホロクロンに投影された人物と目の前にいる青年が同一人物であることを理解する。

 

 

「えっ!?も…もしかして、この人がホロクロンを作った人物ですか!?で…でも、もしそうなら何でここで眠っているんでしょうか?」

 

「カーボン凍結を解除させてアシュ=レイに聞けば、その謎も解けるだろう」

 

 

香織と恵里にとってアシュ=レイと言う男がどういう存在なのかは理解していない。しかし、今の時点で分かることは雷電はアシュ=レイとは知り合いでもあり、腐れ縁でもあるということだけだった。そんな彼女の思想を知らずに雷電は、カーボン凍結されているアシュ=レイとクローンの炭素板の横にあるスイッチを押し、カーボン凍結を解除する。そしてカーボン凍結を解除されたアシュ=レイとクローンは、久しぶりの目覚めに上手く足に力が入らずに倒れ込む。

 

 

「いっつ!……っ、一体何だ?」

 

「……つぅ、どうやら何者かが自分たちをカーボン凍結から目覚めさせた様です」

 

「まぁ……そういうことだ」

 

 

アシュ=レイは、ふと懐かしい声を聞いた様な声が耳に入った。そして顔を上げると、そこには白髪の少年の姿があった。この時にアシュ=レイは、その白髪の少年とは初めて会うのだが、不思議と初めて会った気がしなかった。だが、その男性のフォースを感じ取り、自分がよく知る腐れ縁の知り合いのフォースそのものであることを理解する。

 

 

「お前……ライか?」

 

「久しぶりだな、アシュ=レイ。……といっても、今の俺は一度死んで、輪廻転生で“藤原雷電”としてこの世に生まれた存在だ。前世の記憶を受けついでな」

 

「マジか……お前、あの時にか?」

 

「あぁ……あの大虐殺から生還できなかった。その結果、一度死んで地球という星で転生したということになるな」

 

「どういうことだよ、それ。……でもまぁ、また会えて嬉しいことに変わりないな」

 

「……だな」

 

 

雷電は上手く立てないアシュ=レイの手を掴み、腕を引っ張って立たせるのを手伝う。何とか立ち上がるものの、長年カーボン凍結で冬眠状態が続いたことで上手くバランスが取り難かったが、“時間が経てば、そのうち慣れるだろう”と軽口を言って何とかバランスを保てた。クローンもまたデルタ分隊に手助けされながらも立ち上がるのだった。

 

 

 

この時に香織は、雷電が前世持ちの転生者であることを初めて知った。

 

 

「えっ!?雷電くんって前世の記憶を引き継いた状態で生まれ変わったの?それに、“ライ”というは雷電くんの前の名前の?」

 

「そう言えば、香織にはまだ俺の過去のことを話してなかったな?まぁ……噛み砕いて説明すると、俺は前世の頃、コルサントの銀河共和国に所属するジェダイ・ナイトの一人だ。そしてアシュ=レイとは切っても切れない腐れ縁の仲で、同じジェダイ・ナイトだ。最も、クローン戦争が始まる前でも問題児であったことには変わらなかったが……」

 

「おい、一言余計だ!それはそうと……ライ」

 

「ん…?」

 

 

雷電の余計な一言で癪に障ったのか、アシュ=レイは雷電に何か言おうと声をかける。そして……

 

 

 

「お前、一体どういった経緯で記憶を引き継いだ状態で転生したんだよ!?転生するんだったらこっちの世界に転生してくれよ!!」

 

「知るか!!そもそも輪廻転生の常識から外れた転生だから、俺に言ってもどうしようもねぇだろうが!!」

 

 

 

「他にあるだろうが!?この世界に魔法なんかで引き寄せられて来たとか!科学の力で無理矢理この世界に来たとかよっ!!」

 

「何で俺がそっちに来る前提なんだよ!!というか、俺が転生した世界は魔法なんて存在しねえし、科学もまだワームホール技術などを使った転移技術すら確立してねぇんだぞ!!それ以前に、お前は解放者と共にエヒトに喧嘩売ったんだろう!その尻拭いを俺に押し付けるつもりだったんだろうが!!」

 

「しょうがねえだろうが!それに、旅は道ずれ世は情けって言うだろうが!!」

 

「巫山戯んな!お前の場合は“歩く問題児(アシュ=レイ)”だろうが!!」

 

「ぐっ…!正論過ぎて、何も言えねぇ!!……ってか、今ルビに要らねえ文字入れただろう!?」

 

 

……と、言った感じで口喧嘩になり、ハジメ達は雷電とアシュ=レイの急な口喧嘩に付いて行けず、何処をツッコンだら良いのか分からなかった。

 

 

「あのーっ……ハジメさん?マスターって腐れ縁の方と話し合う際はこんな感じなんでしょうか?」

 

「いやっ…そこ、俺に振るか?俺だってあんな雷電の顔を見るのは初めてだ。つーか、あの様子からしてあのアシュ=レイって奴には結構苦労したんだろうな?」

 

「ミレディ以上に癖が強そうです……」

 

「でも……実力は本物みたい」

 

「雷電殿も、変わった友人を持っている様じゃな」

 

「雷電くんから過去の話を聞かされていたから分かっていたけど、アシュ=レイさんのことはあまり話さなかったかな?」

 

「そ……そうなんだ……」

 

「何とも言えないな……お前たち、何かコメントはあるか?」

 

「「「ノーコメントで……」」」

 

 

雷電とアシュ=レイの遣り取り……というより、口喧嘩する様子に対してそれぞれの感想を述べるのだった。そうしている内に雷電とアシュ=レイは口喧嘩によって疲れたのか途中で会話を止め、別の話題に移るのだった。

 

 

「まぁ……お前に色々と言いたいことはあるが、俺達の目的は元の世界の帰還だ。どの道エヒトを倒さないと元の世界に戻れそうないのは事実だ。その為に力を貸してくれるか?」

 

「愚問だぜ?俺とてエヒトにやられた借りを返せるんだ。だったら俺も行くぜ!あっ…後、今更だが、一緒に凍結されていたクローンは俺の相棒兼武器製作のプロフェッショナルだ」

 

「どうも、自分は“ヴォルト”と言います。以後、よろしくお願いします」

 

「あぁ……よろしく頼む」

 

 

そう挨拶を交わした後に雷電達は新たな仲間であるアシュ=レイとヴォルトと共に隠し部屋を後にし、この海底遺跡の神殿から出ようとしたその時、神殿が鳴動を始めた。そして、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。

 

 

「うおっ!?チッ、今頃になって強制排出ってかっ。全員、掴み合え!」

 

「……んっ」

 

「わわっ、乱暴すぎるよ!」

 

「ライセン大迷宮みたいなのは、もういやですよぉ~」

 

「水責めとは……やりおるのぉ」

 

「メイルの奴……カーボン凍結した俺達のことを考慮して俺達が来たら強制的に排出される様、仕掛けを仕組んだな?」

 

「呑気に解析してる場合じゃないぞ、ハジメの言う通りにするぞ!」

 

 

凄まじい勢いで増加する海水に、ハジメ達は潜水艇を出して乗り込む暇もなく、あっという間に水没していく。咄嗟に、また別々に流されては敵わないと、全員がしっかりお互いの服を掴み合い、“宝物庫”から酸素ボンベ取り出して口に装着した。

 

 

 

そしてその直後、天井部分が“グリューエン大火山”のショートカットのように開き、猛烈な勢いで海水が流れ込む。ハジメ達もその竪穴に流れ込んで、下から噴水に押し出されるように、猛烈な勢いで上方へと吹き飛ばされた。

 

 

 

おそらく、“メルジーネ海底遺跡”のショートカットなのだろうが、おっとりしていて優しいお姉さんといった雰囲気のメイル・メルジーネらしくない、滅茶苦茶乱暴なショートカットだった。しかも、強制的だった。意外に、過激な人なのかもしれない。

 

 

 

押し上げられていくハジメ達は、やがて頭上が行き止まりになっていることに気が付く。しかし、ハジメ達がぶつかるといった瞬間、天井部分が再びスライドし、ハジメ達は勢いよく遺跡の外、広大な海中へと放り出された。ハジメは確信する。メイル・メルジーネは絶対、見た目に反して過激で大雑把な性格だと。

 

 

 

海中に放り出されたハジメ達は、急いで潜水艇を“宝物庫”から取り出した。そして、ハッチから乗り込もうとするが、その目論見は阻止される。一番、会いたくなかった相手によって。

 

 

 

ズバァアアアアアアッ!!!

 

 

 

ハジメ達の眼前を凄まじい勢いで半透明の触手が通り過ぎ、潜水艇が勢いよく弾き飛ばされた。

 

 

“ユエ”

 

“凍柩!”

 

 

ハジメが向けた視線の先には、一見妖精のような造形でありながら、全てを溶かし、無限に再生し続ける凶悪で最悪の生物──巨大クリオネがいた。わざわざ攻略が終わった後で現れたことに歯噛みしながら、ハジメはユエに“念話”を発動して呼びかける。

 

 

 

巨大クリオネは、再び無数の触手を水の抵抗などないかのように猛烈な勢いで射出した。それに対して、ユエがハジメの呼びかけに応え阿吽の呼吸で周囲の海水を球形状に凍らせて、氷の障壁を張る。

 

 

 

直撃した触手の勢いで海中を勢いよく吹き飛ばされる氷の障壁と中のハジメ達。激しい衝撃に全員が障壁内でシェイクされる。

 

 

“どうするんじゃ!ご主人様よ!〟

 

 

念話石を使って通信してきたティオに、ハジメが答える。

 

 

“全員海上を目指せ。水中じゃあ嬲り殺しだ。時間は俺が稼ぐ!”

 

 

ハジメは、そう言いながら指輪型の感応石を操って潜水艇を遠隔操作した。ハジメ達の背後から、吹き飛ばされ沈んだはずの潜水艇が猛スピードで突き進み、船体を捻りながら襲い来る無数の触手をかわしていく。そして、船底から無数の魚雷を射出した。

 

 

 

一度に射出された魚雷の数は十二。普通に考えれば十分な破壊力。しかし、ハジメは、ここで確実に隙を作らなければジリ貧だと判断し、手を緩めず潜水艇に搭載されている魚雷の全てを連続して射出した。船体を横滑りさせるように航行させ、巨大クリオネを中心に円を描かせる。普通の船なら不可能な動きを実現しながら、次々と放たれた魚雷の数は、総じて四十八発。

 

 

 

泡の線を引きながら殺到したそれらは、狙い違わず巨大クリオネに直撃し凄絶な破壊をもたらした。

 

 

 

ドォウ! ドォウ! ドォウ! ドォウ!

 

 

 

そんなくぐもった衝撃音が鳴り響き、海水が膨張したように膨れ上がる。海上から、巨大クリオネの直上を見ているものがいれば、海面が一瞬盛り上がり、次いで、噴き上がる巨大な水柱を観測したことだろう。

 

 

 

ハジメ達は、全魚雷が爆発した直後、水流を操作して浮上を試みた。いくら化け物じみた再生力を持っていても、しばらくは時間を稼げるはずだ。しかし、巨大クリオネのデタラメさはハジメ達の予測を軽く超えていたらしい。

 

 

“ユエ、上だ!”

 

“っ…ダメ、間に合わない!”

 

 

潜水艇を遠隔操作で回収しながら浮上するハジメ達の頭上に半透明のゼリーが漂っており、数瞬で集まり固まると三メートルサイズのクリオネモドキになったのだ。そして、頭部をガパッ! と大きく開くとそのまま、氷の障壁を呑み込んでしまった。当然、ハジメ達は、障壁と一緒に、クリオネの腹の中である。

 

 

“くそっ、再生が早すぎるぞ!”

 

“ちぎれた触手から再生したみたい!”

 

“マズイですよ、ハジメさん、マスター。周りがゼリーだらけですぅ!”

 

 

どうやら、ちぎれた触手だけでなく、半透明ゼリーは最初から海流に乗ってあちこちに分布していたようだ。

 

“……ハジメ。あまり保たない!腹の中じゃ海水がないから補強できない!”

 

“ちっ、こうなったら……”

 

“ハジメ、皆に衝撃に備える様に伝えてくれ!ここは俺が!”

 

“雷電!?……だーくそっ全員衝撃に備えろ!”

 

 

氷の障壁が凄まじい勢いで溶かされていくのをユエが必死に耐える。ハジメは万が一のことを想定し、障壁に“金剛”を纏わせ防御力を強化させる。そして雷電は、フォースを使う為にユエが張ってくれた氷の障壁の外側であるクリオネの腹の中を押し出すイメージをし始める。

 

 

 

するとクリオネモドキの体が膨らみ、やがて限界が来て破裂する。僅かな時間で“金剛”すら溶けかけていたため、間近で破裂の衝撃を浴びたハジメ達も盛大に吹き飛び、氷の障壁も砕け散ってしまった。

 

 

 

海中に放り出されたハジメ達。ハジメは、水中ではまともに戦えない香織とシアを潜水艇に掴まらせて海上まで運ぼうと遠隔操作した。

 

 

 

しかし、今度はその潜水艇が捕まる。巨大クリオネの一部がいつの間にか船底に張り付いて穴を開けたのだ。船内に海水が流れ込み航行速度が鈍った隙に四散していた周囲の半透明ゼリーが一気に集まり潜水艇を包み込んでしまった。

 

 

 

しかも、ハジメ達が浮上しようとしていることに気が付いていたのか、大量の半透明ゼリーをハジメ達の頭上に覆うように展開している。巨大クリオネの尋常でない再生速度からすると、生半可な方法では突破できないだろう。

 

 

 

溶かされていく自慢の潜水艇に内心悪態を吐きながら、ハジメはユエに念話で呼びかけた。

 

 

“ユエ。“界穿”を頼む”

 

“……四十秒はかかる”

 

“邪魔はさせない。海中から脱するには、それしかない”

 

“んっ……任せて”

 

 

ユエが、集中のため目を瞑り動かなくなった。海流に流されないように香織とシアが引っ付いている。ユエが行使しようとしている“界穿”とは、“グリューエン大火山”で修得した神代魔法である空間魔法の一つだ。空間の二つの地点に穴を開け、二点の空間を繋げる。要するに、ワープゲートを作る魔法である。まだ、修得して日が浅いのでユエをもってして、それだけの時間がかかるのだ。

 

 

 

襲い来る触手を、ティオが縮小版ブレスの連射で何とか薙ぎ払う。しかし、ブレスは魔力消費が激しい上に、水中では威力も射程も相当落ちる上、直線的な攻撃なので触手には当てづらく殲滅力が弱い。もう数秒も持たずに突破されるだろう。

 

 

 

ハジメは“宝物庫”から鉱石を次々と取り出しては、連続して“錬成”していき、先程ユエが形成した氷の障壁のような、球形状の物理障壁を形成していった。

 

 

“ご主人様よ!もう、突破されるのじゃ!”

 

“出来たぞ、全員入れ!”

 

 

五人が十分に入れるくらいの金属製障壁が出来上がり、ティオが最後に入り込むと同時に穴が塞がって完全な金属球となった。さらに、その金属球を紅色の魔力が覆う。“金剛”による強化だ。一応、重力石も組み込んでいるので、沈み続けるということもない。

 

 

 

その直後、金属球に触手が殺到し、一気に包み込み始めた。

 

 

 

即行で魔力そのものすら溶かす半透明ゼリーが“金剛”を食い破ってくる。そして、金属球の表面もみるみると溶かされていった。しかし、金属球に紅色のスパークが走ったかと思うと溶かされる端から金属が盛り上がり、その防壁を辛うじて維持する。

 

 

 

それは、ハジメが中から常に“錬成”をし続けているからだ。幸い、鉱石の類は“宝物庫”の中に文字通り腐るほど入っている。溶解速度に対抗して本気の“錬成”を繰り返し、そして、遂に待ちわびた瞬間が来た。

 

 

“界穿!”

 

 

ユエの空間転移魔法が発動する。金属球の中、ハジメ達の直ぐ傍に楕円形の光り輝く膜が出来上がった。空間を繋げるゲートだ。

 

“全員飛び込め!”

 

 

金属球に手を当てて“錬成”し続けるハジメの号令に従って、全員が一斉にゲートへと飛び込んでいく。ハジメも、最後に飛び込んだ。ハジメが潜ったあと、直ぐにゲートは消滅し、その数秒後、金属球を無数の触手が貫き、溶かしていった。

 

 

 

ゲートを潜ったハジメ達は、凄まじい浮遊感に襲われた。転移した先が、上空だったからだ。少しでも海から離れようと、ユエが、上空百メートルに出口を設定したのである。

 

 

 

すぐさま、ティオが“竜化”をし、その背にハジメ、ユエ、シア、香織を乗せて浮遊した。雷電は技能派生の一つ“共和国軍兵器召喚”でガンシップを召喚し、落下しながらもフォースを使い、残りのメンバーをガンシップに飛ばし、乗せる。そして雷電はアセンション・ガンを使ってガンシップに向けて撃ち出す。ケーブルはガンシップの下側に突き刺さり、ケーブルを伝って登り、何とかガンシップに乗り込むのだった。

 

 

 

ティオの背で、ユエが崩れ落ちかけ、傍らの香織とシアが支える。完全に魔力枯渇の状態だ。急いで、魔晶石から魔力を取り出し補充していく。

 

 

「ユエ、助かった。流石だよ。空間転移は相当難しいだろうに」

 

「……はぁはぁ、ん。頑張った。でも、まだまだ実戦レベルじゃない」

 

 

ユエの言う通り、空間魔法は重力魔法の比ではないくらい扱いが難しく、ユエを以てして未だ、実戦で使えるレベルではなかった。“想像構成”によるイメージでの魔法陣構築には多大な時間がかかるし、魔力効率もまだまだ悪く、百メートルの空間転移をするのに最上級魔法二回分の魔力を消費してしまう程だ。

 

 

 

それでも、ユエが短い期間で発動に到れるまで習熟していてくれたおかげで、脱出することが出来たのだ。香織達からも惜しみない称賛が送られ、若干、頬を染めてユエは照れた。

 

 

 

その様子に皆が頬を緩めたが、次の瞬間、その表情は凍りつくことになる。

 

 

 

ドォゴオオオオオオオ!!!

 

 

 

ザバァアアアアアア!!!

 

 

 

そんな轟音と共に、突然、ハジメ達の背後から巨大な津波が襲いかかったのだ。いや、巨大というのもおこがましいだろう。もはや、壁、そして空だ。上空百メートルほどの高さを飛ぶティオの遥か天に白波を立てながら襲い来る津波は、優に高さ五百メートルを超えているだろう。そして直径は一キロメートルくらいありそうだ。

 

 

「ッ、ティオ!」

 

“承知っ!”

 

 

ハジメの叫びにティオが我を取り戻し、翼をはためかせて一気に加速する。左右に逃げ場はない。空間転移は間に合わない。ならば、何も考えず“前へ”! “グリューエン大火山”から脱出した時に匹敵するような高速で飛行する。

 

 

「──“縛印”、“聖絶”!」

 

「“聖絶”」

 

 

香織が、呑み込まれた時に備えて全員を繋げる光のロープを作り出し、同時に、ユエと共に上級防御魔法を展開する。シアは、何やら集中すると次の瞬間には目を見開いて警告を発した。

 

 

「ティオさん、気をつけて!津波の中にアレがいます!触手、来ます!」

 

 

固有魔法“未来視”の派生“仮定未来”で見た光景を伝えたのだろう。ティオは、シアの言葉を確認することもなく、咄嗟に身をひねった。直後、津波から無数の触手が伸び、今の今までティオの居た空間を貫いていく。

 

 

 

上手く避けることは出来た。しかし、そのせいで津波との差が詰まってしまった。なお襲い来る触手を、ハジメが火炎放射器で焼き払い迎撃するが……

 

 

「ちくしょう! 全員固まれ!」

 

 

ティオの背でハジメは、ユエとシアと香織を抱きしめるように庇い、そして、その直後、天災とも言うべき巨大津波がハジメ達を呑み込んだ。その時に雷電達が乗るガンシップは巨大津波に飲まれる前に回避できたのだが、肝心のハジメ達はその巨大津波に飲まれてしまうところを目撃する。

 

 

「っ…!ハジメ!」

 

 

そう叫ぶ雷電。その頃、津波に飲まれたハジメ達はユエと香織の二人がかりでの“聖絶”のおかげで津波の衝撃を直接受けることはなかったが、それでも壮絶な奔流によって滅茶苦茶に振り回され、海中へと逆戻りとなった。

 

 

 

その“聖絶”も一枚は完全に粉砕され、もう一枚もヒビが入っており、もし一枚しか展開していなければ、今頃ハジメ達は海の藻屑になっていたかもしない。海に叩きつけられた衝撃に頭を振るハジメ達は、顔を上げて表情を更に険しくした。

 

 

「狙った獲物は逃がさないってか?」

 

 

“聖絶”に守られたハジメ達の前に巨大クリオネが既にいたのだ。しかも、その姿は更に巨大化しており、既に二十メートルを超えている。それでも足りないのか、周囲から半透明ゼリーを集めながら、更に巨大化を続けていく。

 

 

「そ、そんな……死なない上に、何でも溶かして、海まで操れるなんて……どうすれば」

 

「……ハジメさん。冗談抜きにマズい状況です。最後くらいマスターとキスしたかったですぅ」

 

「……ふぅ、ご主人様よ。妾は、最後はキスを所望するじゃ」

 

 

香織が絶望に表情を暗くし、ティオが困ったような微笑みを浮かべながらハジメにおねだりをする。シアは今はいない雷電におねだりできないことに残念がっていた。

 

 

 

だが、ハジメに視線を向けた彼女達は、ビクッと体を震わせた。なぜなら、ハジメの眼が爛々と輝いていたからだ。眼光は鋭く、濃密で狂的なほどの殺意を宿し、歯を剥いて巨大化するクリオネモドキを睨んでいる。

 

 

 

ハジメは諦めてなどいなかった。そんな考え微塵もなかった。頭にあるのは、どうすれば目の前の敵を殺せるか、生き残れるか、ただそれだけだ。有り得ないほどの強敵と相対し、諦めが付くくらいなら、ハジメは今この場に立っていない。とっくの昔に奈落の底で果てていたはずだ。

 

 

 

そして、それを理解し、共に奈落の底で死線をくぐり抜けて来たからからこそ、ユエもまた、諦めなど一切持たずに、必死に考えを巡らせていた。

 

 

 

ギラギラと輝くハジメの眼に、香織もシアもティオも心奪われたように、しばらく惚けた表情で見つめたまま硬直していたが、巨大クリオネがいよいよ三十メートル級になり攻撃を開始したことで正気を取り戻した。

 

 

 

慌てて、香織が“聖絶”を張り直す。シアが、“仮定未来”で勝利の可能性を探る。ティオがブレスを放つ。シアを除く彼女達の眼には、もう諦めの色はなかった。潔い女など、ハジメの傍にいるべき者ではないと、そう思ったからだ。シアも雷電の傍にいる為にも諦める様子も見せなかった。

 

 

 

ユエも、まだ打開策は思いつかないものの、取り敢えず生き残るために攻撃と防御の両方をこなしていく。

 

 

 

ハジメは、特に何もせず、ただひたすら考えを巡らしていた。ユエ達が稼いでくれる時間で、“瞬光”を発動しながら高速思考で勝利への道を探し続ける。自分自身に、今ある情報の全てを思い出せと命じる。ハジメの脳内を凄まじい勢いで、今までの光景がフラッシュバックしていった。

 

 

 

そして、思い出す。自分達が一度は、巨大クリオネから逃げ切ったことを。それは疑問に変わる。“これだけの力がありながら、なぜ、一度は自分達を見逃した?”と。あの時と、今の戦いと何が違うのか……それは、

 

 

「火を余り使ってない」

 

 

そう、前回はティオもユエも盛大に炎系の魔法や雷電達は火炎放射器を使いまくっていた。その時、触手はボロボロと灰になり、再生には使われていなかったはずである。

 

 

 

ハジメはそこに光明を見出した。確証のない推測だが、おそらくクリオネ擬きの再生は無限ではない。無限に等しく見えるほどその体を構成する半透明ゼリーが大量にあるのだ。

 

 

 

また、おそらく今までの様子を見る限り自前で生成も出来るのだろう。が、一気に消滅させられれば、補充には時間が必要になるのではないか。だから、前回、大量に消滅させられた体を補充するために、追跡より再生を優先し、ハジメ達は逃げることが出来たのではないだろうか。

 

 

 

ならば、同じだ。クリオネモドキを構成する半透明ゼリーを再生、あるいは生成するより早く消滅させればいい。だが、ここは海中。一番有効と考えられる炎系の魔法は使えないと言っていい。ティオのブレスは高熱ではあるが、消滅させきる事は出来ないだろう。手立てがない。消滅させるための武器がない。ならば……

 

 

「作ればいいだけだっ」

 

 

ハジメは“宝物庫”から次々と鉱石や魚雷を取り出し、何やら凄まじい勢いでものを作り始めた。

 

 

「……ハジメ?何か思いついた?」

 

「ああ。海で火を使うにはこれしかない。上手く行けば倒せるはずだ」

 

「ハジメくん、ホントなの!? 」

 

「流石ハジメさん!信じてましたよぉ!」

 

「それでこそ妾のご主人様じゃ!」

 

「だが、時間がかかる。お前ら、頼んだぞ」

 

 

口元を釣り上げて不敵に笑いながら、そう言うハジメに、香織もシアもティオも直ぐに力強く頷き、より一層、集中力を増して巨大クリオネに相対した。

 

 

 

ハジメは、“瞬光”を最大限にして知覚能力を拡大し、更に、“限界突破”も併用して限界を超えた集中力を発揮し武器制作に全力を注ぐ。

 

 

 

一つ、また一つと出来上がっていくが、作成の難易度が極めて高く弾丸のように一気に大量生産とはいかない。だからと言って、散発的に使っては、巨大クリオネは半透明ゼリーを生成して再生してしまうかもしれない。そうなればジリ貧だ。殺るなら一気に殺らねばならない。“限界突破”の証──紅色の魔力を纏いながら、ハジメの必死の〝錬成〟が繰り返される。

 

 

 

だが、現実は非情だ。海中という巨大クリオネにとって圧倒的にアドバンテージのある場所では、チート集団のユエ達を以てしても、そう長くは拮抗できない。

 

 

 

ユエも香織もシアもティオも苦しそうな表情で必死に踏ん張っているが、とても準備が整うまで持ちそうにない。

 

 

“三分、せめて後、三分あれば!”

 

 

思わず念話を発動しながら、そう叫んだハジメ。遂に、その猛攻を抑えきれず巨大クリオネが眼前まで迫り、頭部がガパッ!と分かれてハジメ達を呑み込もうと襲いかかった。

 

 

 

ハジメは、仕方なく、今出来た分だけでも放って、この瞬間を生き残ろうと決断した。

 

 

 

……が、その瞬間、ユエでも、シアでも、ティオでも、香織でもない、空にいる筈の友人の声が念話によるハジメの叫びに応えた。

 

 

“時間を稼げば良いんだな?任せろ!”

 

“なっ……雷電!?”

 

 

ハジメは巨大クリオネの背後にクローン・スキューバ・アーマーを装着した雷電の姿を目視する。何故雷電が再び海に飛び込んでいるのかと言うと、単純にハジメ達を助ける為に再び海に飛び込んだのだ。巨大クリオネも雷電の存在に気が付き、ハジメ達よりも先に雷電から喰らおうと襲いかかる。

 

 

 

その時に雷電は、ここでフォースの暗黒面の力を使い、フォース・グリップで巨大クリオネを押し潰す様にフォースの力を解放する。巨大クリオネは雷電のフォースの術中に嵌まったのか動くことが出来なくなり、身体の一部が見えない何かしらの力によって圧縮される様に押し潰され始まっていた。巨大クリオネは目の前の出来事に対して本能的に恐怖を抱き始めた。海の中で食物連鎖の頂点に君臨し続けた巨大クリオネにとって初めての体感だった。そして巨大クリオネは理解する。“この生物は危険だ!この生物を殺さなければ、己が殺される!”と。

 

 

 

雷電を殺す為に必死に藻掻く巨大クリオネ。雷電も巨大クリオネの抵抗に少しばかり焦りを感じていた。

 

 

“マズいな…!これ以上、暗黒面の力を使い続けたら…!”

 

 

フォースの光明面と暗黒面は表裏一体。暗黒面の力を使い続ければ、フォースは暗黒面に偏ってしまい、暗黒面の力に囚われてしまうのだ。そのことに焦りを生じたか、無意識の内に念話越しに口が漏れてしまう。何とかこの巨大クリオネをどうにかしなければと思っていた矢先、渋いおっさんの声が念話による雷電の叫びに応えた。

 

 

“よぉ、ライ坊。ヤバそうじゃねぇか。おっちゃんが手助けしてやるぜ”

 

“ッ!?こ、この声、まさかリーさんか!?”

 

“おうよ。ハー坊の友、リーさんだ”

 

 

そう、現れたのは、かつてフューレンの水族館に捕獲されていた、雷電がリーさんと呼ぶ人面魚の魔物リーマンだった。雷電が、驚愕に目を見開いて周囲を見渡すと、突然、銀色の巨大な影が横合いから巨大クリオネに体当たりをぶちかました。雷電のフォースで動けず藻掻いていた巨大クリオネは、完全な不意打ちを受けて吹き飛ばされ、押しやられていく。

 

 

 

その隙に、雷電のすぐ近くへ、確かに見覚えのある人面魚が泳いできた。突然の事態に、ハジメ達も全く付いてこられていない。リーマンの姿を見て、ユエとティオは目を丸くしているし、シアは“あの時の!”と驚愕に目を見開いているし、香織に至っては“ひっ!?”と悲鳴を上げている。

 

 

“シアの嬢ちゃんも息災か?”

 

「ふぇ!?えっと、は、はい!健康ですぅ!」

 

“そりゃ、重畳。で、ライ坊は何ぼさっとしてやがる。あと三分ありゃあ、お前さんの友人が悪食をどうにか出来んだろ?だったら急ぎな、そう長くは持たないぜ?”

 

“あ、あぁ。何かよく分からないが、とにかく助かった。感謝する、リーさん”

 

 

雷電は、突然のリーマンの登場に止まっていた手を動かして、フォース・グリップで巨大クリオネを再び動きを止める。

 

 

 

その間にも、銀色の巨大な影は、巨大クリオネに特攻したり、攻撃をかわしたりして時間を稼いでいる。どうやら、銀色の影の正体は、魚群のようだ。それも魔物などではなく、ただの魚だ。ただの魚でも数万、あるいは数十万匹という数が揃えば、怪物相手でも時間稼ぎくらいは出来るらしい。物凄い勢いで数を減らしているので、確かに、そう長くは保たないだろうが。

 

 

 

何故ここにリーマンがいるのか、その疑問を顔見知りらしいからと無理やり前に出されたシアが代表して聞く。

 

 

“あ、あのリーさん? でいいですか? えっと、一体何がどうなっているんですか?”

 

“ふん、別にどうってことはねぇ。この近くを適当にぶらついていたら、でっけぇ上に覚えのある魔力を伴った念話が聞こえたもんでよ。何事かと駆けつけてみりゃあ、ライ坊が悪食に襲われてるじゃねぇか。色々疑問はあったが、友の危機だ。何もしないなんて男の恥ってもんよ”

 

「えーと、あの魚群は……それに悪食?」

 

“悪食ってのは、あれのことだ。遥か昔、太古から海に巣食う化け物…いや、天災ってやつよ。魔物の祖先なんて言われてたりもするな。あの魚の群れは、俺の能力で誘導したんだよ。俺達の種族が使う念話には、普通の海の生物をある程度操る能力があるんでな”

 

 

驚愕の事実が発覚した。人面魚リーマンは魚使いだったらしい。と、リーマンの話が終わったタイミングで魚群がほぼ壊滅し、巨大クリオネが雷電のフォース・グリップから逃れ、雷電を殺すことは不可能だと判断したのか、再びハジメ達に向かって大口を開けながら襲いかかってきた。

 

 

「すまん、ハジメ!そっちに行ったぞ!」

 

「見えてる!……だが、丁度良いタイミングだ!」

 

 

だが、尊い犠牲の上に稼がれた時間は……丁度きっちり三分。

 

 

 

通常のものより大きい魚雷群がハジメ達を囲む“聖絶”の周囲に整然と展開された。その数は凡そ百二十。そして、不敵に笑うハジメの周囲には同数の円環が浮かんでいる。

 

 

 

ハジメは手元の感応石を起動すると、一斉に魚雷群を射出させた。百二十もの魚雷が気泡の線を引きながら高速で大口開ける巨大クリオネに向かって突貫する。しかし、ただの魚雷では、爆発したところで巨大クリオネの体を四散させるだけで、実質的なダメージもなく直ぐに再生されてしまうだろう。

 

 

 

皆が、一体どうするのだろうと見つめる先で、捕食の邪魔をされるのが嫌なのかおびただしい数の触手を繰り出し、魚雷群の迎撃を図る巨大クリオネ。限界突破中のハジメは、極限の集中力を以て魚雷を操りギリギリでかわしていく。

 

 

「お前は避けたりしないだろう? さぁ、たらふく喰ってくれ」

 

 

ハジメの呟きが響く。巨大クリオネ改め悪食は、何でも溶かせる故に攻撃を避けたりしないだろうと、ハジメは考えていた。

 

 

 

そして、その予想は正しかった。触手の弾幕をかわしきった魚雷群は、避けようという素振りすら見せない巨大クリオネの全身に満遍なく直撃し突き刺さった。

 

 

 

だが、爆発はしない。巨大クリオネの体に埋まり、溶かされながらも一発たりとて爆発しなかった。体中に黒い魚雷群を埋め込まれた巨大クリオネは、まるで全身を毒に侵され斑点模様が出来たような有様。

 

 

 

ハジメは、魚雷群が完全に溶かされる前に、次の一手を打つ。“宝物庫”から大量の黒い液体を虚空に取り出した。それはフラム鉱石が液体化したタールだ。それを周囲の浮かぶ円環の内側に、滝のように注ぎ込んでいく。

 

 

 

すると同時に、巨大クリオネの全身が黒く染まり始めた。まるで、紙に水が染み込み一気に色を変えていくように、半透明だった巨大クリオネの体内を黒い液体が侵食していく。その正体は、ハジメが周囲の円環に注ぎ込んでいるフラム鉱石を液状化させたタールだ。

 

 

 

この円環と魚雷群は、それぞれ小さなゲートで繋がっているのである。円環の内側を通したものは空間を跳躍し魚雷の中に仕込まれた同じ円環を出口とし出現する。つまり、魚雷は爆発物ではなく、円環を運ぶためのものであり、同時に、タールを送り込む間の円環の物理障壁でもあるのだ。

 

 

 

当然、タールそのものも溶かされていくが、総数百二十のゲートから、間断なく大量に注ぎ込まれるタールに溶解速度が追いつかず全身をタールで侵食されていく。

 

 

 

咄嗟に、巨大クリオネは、体を分離して侵食を逃れようとするが、それはユエ達が許さなかった。障壁や氷結、ブレスで分離を徹底的に邪魔する。なお、ユエのゲートが使えないのは、彼女が、まだ、動く標的にピンポイントでゲートを開くことが出来ないからである。出来るのは、定めた二点の空間をつなげるだけだ。

 

 

 

巨大クリオネは、本気になったがために、周囲の半透明ゼリーを集合させ最大級の大きさと戦力でハジメ達に止めを刺しにかかったが、今度は、それがアダになった。ハジメの流し込むタールは、遂に余すことなく巨大クリオネを黒に染め上げた。

 

 

 

ハジメは、口元を歪め、爛々と輝く眼で巨大クリオネを射貫いた。その手には小さな火種が持たれている。

 

 

「身の内から業火に焼かれて果てろ」

 

 

ハジメの親指に弾かれた火種は、放物線を描きながら流し込まれるタールの一つに吸い込まれるように直撃した。その瞬間、摂氏三千度の灼熱が迸り、ゲートを通して一気に燃え広がる。

 

 

 

先程まで、黒く染まり、どこか必死さを感じさせる雰囲気で体内のタールを溶解しようとしていた巨大クリオネは、今度は、灼熱の赤に染まることになった。ハジメの言う通り、体の内側から、抗うことなど出来ない業火が一瞬の抵抗も許さず、その身を焼き尽くしていく。

 

 

 

海中に咲く紅蓮の大花は、遂に、巨大クリオネを体内から飛び出し海中に大量の気泡という名の彩を添えて、外側からも焼滅させていった。そして、超高温の炎が、海水を一瞬で蒸発させて凄絶な水蒸気爆発を起こした。

 

 

 

ゴォバァアアアアア!!!

 

 

 

凄まじい衝撃が迸り、遥か上の海面が冗談のように爆ぜる。海中もまた荒れ狂い、嵐を呼び込んだような有様だ。荒れる海の中で、衝撃をやり過ごしたハジメ達は、障壁越しに巨大クリオネの姿を探す。

 

 

 

刻一刻と静まっていく海中に油断なく視線を巡らすが……どこにも悪夢のようなクリオネの姿は見えなかった。ハジメが、魔眼石や“遠見”を活用して念入りに探査するが、やはり巨大クリオネの痕跡は映っていない。

 

 

 

ハジメ達は確信した。太古の怪物──悪食討伐はここに成ったのだと。

 

 

「ぐっ……何とか、終わったか……」

 

 

周囲に浮遊していた円環が力を失ってバラバラと落ちていき、ハジメの体を包んでいた紅色の魔力もスっと霧散して消えてった。同時に、“限界突破”の副作用でふらついたハジメは“聖絶”の結界内で片膝をつき、酷使しためにガンガンと痛む頭に表情を歪める。

 

 

 

しかし、その眼には、“殺ったぜ!”という勝利と生き残った事への歓喜が溢れていた。

 

 

「……ハジメ、大丈夫?」

 

「ハジメくん、直ぐに治すから!」

 

 

直ぐにユエがハジメの傍に寄り、その体を支える。香織も、直ぐに回復魔法を唱えてハジメを癒していった。ティオは傍らに寄って来て、ハジメに抱きつく。シアも無事に合流した雷電に抱きつくのだった

 

 

「やりましたね!マスター!」

 

「流石、ご主人様じゃ……えぐい殺し方をする。ゾクゾクしたのじゃ」

 

 

香織の癒しに、少しずつ頭痛が治まっていくのを感じながら、集まってきた仲間にハジメも頬を緩めた。ハジメ達が勝利の余韻に浸りながら、和気あいあいとしていると、少し、不機嫌そうなおっさん声が響いた。

 

 

“よぉ、ライ坊。爆発するなら教えてくれよ。死ぬかと思ったじゃねぇか”

 

“あっ、リーさん。すまない。流石の俺でもハジメのやることを想定してなかった”

 

 

どうやら、最後の爆発でリーマンは吹き飛ばされてしまったらしい。あの時のハジメは巨大クリオネを殺すことに全力だったので、リーマンに意識が向いていなかった。それに、最後の爆発は、ハジメの意図したものではない。ハジメは以前雷電が助けた人面魚が彼?出会ったことにちょっとびっくりしたのだ。

 

 

“まぁ、悪食殺ろうってんなら仕方ないか。何にしろ、見事だったぜ”

 

“あー…あれは最終的にハジメが止めを刺したんだけどな?けど、リーさんが来てくれなかったら、本当に危なかった。ありがとう”

 

“どういたしましてだ。まぁ、仁義を貫いただけさ。気にするな”

 

“相変わらず漢だな。流石リーさん。ここに居てくれた偶然にも感謝だよ”

 

“ライ坊、積み重なった偶然は、もはや必然と呼ぶんだぜ?おっちゃんがお前さんに助力できたのも必然、こうして生き残ったのも必然さ”

 

 

ニヤリと笑うおっさん面の魚と“…だな”と同じくフッと口元を緩める雷電。何かが通じ合っている二人に、背後の女性陣がヒソヒソと話し合っている。

 

 

「……なんじゃ、あれは。何か、やたらと通じ合ってないかのぉ?」

 

「……漢の友情?」

 

「ハジメくん……雷電くんが異世界で出来た友達がシーマ○なの?あんなに誰かと意気投合してる姿なんて日本でも見たことないよ!」

 

「俺もあんな雷電を見て、どうしてこうなったとしか思いつかねぇよ。……つーか、何気にあの人面魚のおっさん、何気にシブいな?」

 

「前もあんな感じでしたよ。ガールズトークならぬボーイズトークってやつですかね?まぁ、相手はおっさんですが……」

 

 

自分達より、ある意味親しげな雰囲気の雷電とリーマンに、ハジメ達が戦慄とも困惑ともつかない複雑な表情を向けていると、二人の話も区切りがついたようだ。

 

 

“じゃあ、おっちゃんはもう行くぜ。ライ坊。縁があればまた会おう”

 

“ああ。リーさんも元気で”

 

 

互いに一つ頷くと、リーマンは踵を返した。しかし、少し進んで振り返ると、シアに話しかけた。

 

 

“嬢ちゃん、お前さん、何かとライバルは多そうだが頑張れよ。子供が出来たら、いつか家の子と遊ばせよう。カミさんも紹介するぜ。じゃあな”

 

 

それだけ言い残すと、今度は振り返らずに、そのまま大海へと消えていった。

 

 

 

後に残ったのは……

 

 

「「「「「結婚してたのかよぉーーー!!」」」」」

 

 

そんなハジメ達の盛大なツッコミだった。風来坊を気取っていたが、家庭持ちと考えると、タダのダメ親父にしか見えない。しばらく、大海原にハジメ達のツッコミが木霊していた。

 

 

 

一方の雷電は……

 

 

「……リーさん、家庭持ちだったんだな?」

 

 

前世の記憶が有ってか、あまり驚いた様子はなかった。

 

 

 

一方、ハジメ達の救出に向かった雷電を待つガンシップ内では……

 

 

「「「……何か忘れられている気がする」」」

 

 

今回において、非情に影が薄くなって存在が忘れられかけそうになった清水達だった。そして恵里は……

 

 

「雷電くん……後でOHANASHIかな?」

 

 

何やら少しづつ黒く染まりかけていた。

 

オリキャラの詳細を書いた話を書くべきか?

  • 書くべき。
  • 不要。
  • 作者に任せる。
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