ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強   作:コレクトマン

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連続投稿その3です。これにて打ち止めです。


71話目です。


シア無双とユエ無双

 

 

突然の結界の消失と早くも伝わった魔人族の襲撃に、王都は大混乱に陥っていた。

 

 

 

人々は家から飛び出しては砕け散った大結界の残滓を呆然と眺め、そんな彼等に警邏隊の者達が“家から出るな!”と怒声を上げながら駆け回っている。決断の早い人間は、既に最小限の荷物だけ持って王都からの脱出を試みており、また王宮内に避難しようとかなりの数の住人達が門前に集まって中に入れろ!と叫んでいた。

 

 

 

夜も遅い時間であることから、まだこの程度の騒ぎで済んでいるが、もうしばらくすれば暴徒と化す人々が出てもおかしくないだろう。王宮側もしばらくは都内の混乱には対処できないはずなので尚更だ。なにせ、今、一番混乱しているのは王宮なのだ。全くもって青天の霹靂とはこの事で、目が覚めたら喉元に剣を突きつけられたような状態だ。無理もないだろう。

 

 

 

彼等も急いで軍備を整えているようだが……

 

 

 

パキャァアアン!!

 

 

 

間に合わなかったようだ。

 

 

 

遂に最後の結界が破られ、大地を鳴動させながら魔人族の戦士達と神代魔法により生み出された魔物達が大挙して押し寄せた。残る守りは、王都を囲む石の外壁だけ。それだけでも相当な強度を誇る防壁ではあるが……長く持つと考えるのは楽観が過ぎるだろう。

 

 

 

外壁を粉砕すべく、魔人族が複数人で上級魔法を組み上げる。魔物も固有魔法で炎や雷、氷や土の礫を放ち、体長四メートルはありそうなサイクロプスモドキがメイスを振りかぶって外壁を削りにかかる。

 

 

 

別の場所でも、体長五メートルはありそうなイノシシ型の魔物が、風を纏いながら猛烈な勢いで外壁に突進し、その度に地震かと思うような衝撃を撒き散らして外壁を崩していく。更に、上空には灰竜や黒鷲のような飛行型の魔物が飛び交い、外壁を無視して王都内へと侵入を果たした。

 

 

 

外壁上部や中程に詰めていた王国の兵士達が必死に応戦しているが、全く想定していなかった大軍相手では、その迎撃も酷く頼りない。突進してくる鋼鉄列車にエアガンで反撃しているようなものだ。

 

 

 

しかし、そんな絶望的な状況の中で魔物の大軍勢に臆せず、戦う兵士がいた。それはクローン・トルーパー達だった。ブリッツが指揮するクローン部隊は王都の警備隊を纏めながらも的確に侵攻してくる魔物達を迎撃する。クローン達がブラスターで応戦し、警備隊はブリッツの指示の下で行動していた。だが、多勢に無勢である事は変わりはなかった。その時に警備隊の兵士はクローン達に王宮の防衛に回る様に頼む。ブリッツとしては仲間を見捨てない積もりだったが、彼等は命をとしてまでもここを死守するという覚悟をしせられて、ブリッツ達は警備隊に敬礼しつつも王宮へと向かうのだった。

 

 

 

そんな様子を、城下町にある大きな時計塔の天辺からどうしたものかと眺めていたティオの傍に、王宮から飛び出してきたユエとシアが降り立った。

 

 

「……ティオ、アイツ、見つけた?」

 

「ティオさん、あのふざけた事してくれた人は何処ですか?」

 

「……お主等……いや、まぁ、気持ちはわかるがの?『皆さんが一緒に来てくれて心強いです!』と言っとったリリアーナ姫が少々不憫じゃ……あっさり放り出して来おって」

 

「……細かいこと」

 

「小さいことです」

 

 

ティオが呆れたような表情をしてユエとシアを見るが、二人は全く気にしていないようだった。これもハジメの影響なのか。興味のない相手には実にドライだ。

 

 

 

ユエとシアが目を皿のようにしてフリード・バグアーを探していると、念話石が反応する。ハジメからの通信だ。

 

 

“おい!ティオ!今すぐこっちに来てくれ!”

 

“ぬおっ!ご主人様?一体どうしたのじゃ?”

 

 

念話石から思いのほか強い声音が響き、名を呼ばれたティオが思わず驚きの声を上げた。

 

 

“ヤバイのが二人出てきた。先生を預かって欲しい。今のところ雷電とアシュ=レイのおかげで持ちこたえているが、抱えたままじゃ全力が出せねぇ”

 

“!?相分かった!直ぐに向かうのじゃ!”

 

 

ハジメ達が全力を出さねばならない相手と相対しているという事を直ぐに悟ったティオは、一瞬で“竜化”すると咆哮一発、標高八千メートルの本山目指して一気にその場を飛び立った。

 

 

“……ハジメ、気を付けて”

 

“ハジメさん!マスターに伝えといてください、あの魔物使いは私とユエさんが殺っちまいますから安心して下さい!”

 

”は?お前ら姫さん達といるんじゃ…っうお、あぶね!悪い、ちょっと話してる暇はなさそうだ!何するつもりか知らないが、そっちも気を付けてな”

 

 

ハジメは、シアの言葉に何を言っているんだと疑問を抱いたようだが、よほど戦闘が激しいのか直ぐに通信を切ってしまった。ユエとシアは、愛子を庇いながらとはいえ、ハジメ達を苦戦させる相手が居るという事に、一瞬、自分達も救援に駆けつけるべきかと考えた。

 

 

「ユエさん、どうします?」

 

「……ハジメ達なら大丈夫。ティオもいる。それより、魔物使いを殺る。また、神代魔法の魔法陣を壊されたら堪らない」

 

 

そう、ユエが戦場に出てきたのは、ハジメにされた事に対するお礼参りというのもあるが、同じ神代魔法の使い手であるフリードを野放しにしたくなかったからという理由もあったのだ。

 

 

 

フリードが“神山”の大迷宮の詳しい場所を知っていた場合、先を越されると“グリューエン大火山”の時のように、また魔法陣を破壊されかねない。大迷宮は気が付けば魔物も構造も元通りになっている場合が多いので“グリューエン大火山”も時間経過で元に戻る可能性はあるが、どれくらい掛かるかは分からない。その為、それだけは何としても避けたいユエは、こっちからフリードを襲撃してやろうと考えたのだ。

 

 

 

もっとも、ユエの中の比率は報復が九割だったが……

 

 

 

と、その時、時計塔の天辺にいるユエとシアに気がついたのか、体長三、四メートル程の黒い鷲のような魔物が二体、左右から挟撃するようにユエとシアを狙って急降下してきた。

 

 

 

クェエエエエエ!!

 

 

 

そんな雄叫びを上げて迫ってきた黒鷲に、シアは見もせず射撃モードのドリュッケンを“宝物庫”から取り出し、躊躇いなく炸裂スラッグ弾を撃ち放った。ユエもまた、見もせず右手をフィンガースナップするだけで無数の風刃を上方から豪雨のごとく降らせる。

 

 

 

今まさに二人の少女を喰らおうとしていた二体の黒鷲は、頭部を衝撃波によって爆砕され、また、ギロチン処刑でもされたかのように体の各所を切り落とされてバラバラになり、無残な姿となって民家の屋根に落ちていった。今頃、家の中のいる人達は屋根に何かが落ちてきた音にビクッとなって戦々恐々としていることだろう。

 

 

 

黒鷲が無残に絶命させられたことでユエとシアの存在に気がついた飛行型の魔物達が二人の周囲を旋回し始めた。よく見れば、その三分の一には魔人族が乗っているようだ。彼等は、黒鷲を落とされたことで警戒して上空を旋回しながら様子を見ていたようだが、その相手が兎人族と小柄な少女であるとわかると、馬鹿にするように鼻を鳴らしユエ達向かって、魔法の詠唱を始めた。

 

 

 

ユエ達としては、王都を守るために身命を賭して大軍とやり合うつもりなど毛頭なく、ただフリード・バグアーだけが目的だったので、行きたければ勝手に行けという気持ちだったのだが、襲われたとあっては反撃しないわけにはいかない。

 

 

 

一応、シアが“私達は敵じゃないですよぉ~、さっきのは襲われて仕方なくですよぉ~”と呼びかけているが、彼等はますます馬鹿にしたように笑うだけで攻撃を止める気配はなかった

 

 

 

取るに足らない相手だと侮って幾人かの仲間だけを残し先行した魔人族達は、次の瞬間、背後から響いた断末魔の悲鳴と轟音、そしてその原因を見て驚愕に目を見開くことになった。

 

 

 

ゴォガァアアアア!!

 

 

 

全身から雷を迸らせながら雷鳴の咆哮を上げる龍が、彼等の仲間と魔物達を次々と喰い散らかしていたのだ。

 

 

 

その光景に、あり得べからざる事態に呆然とする魔人族達。何とか命からがら雷龍から逃げ出し、先行していた仲間のもとへ必死に飛んできた魔人族の一人が、助けを求めるように手を伸ばす……が、次の瞬間には背後から殺意の風に乗って飛来した炸裂スラッグ弾に撃ち抜かれ、騎乗していた灰竜ごと木っ端微塵となった。

 

 

 

魔人族のものか灰竜のものか分からない血肉が先行していた魔人族達にビチャビチャと降りかかる。

 

 

 

硬直していた魔人族達が、ハッと我に返り、追撃に備えて最大限の警戒をする。そして、仲間を一瞬で粉砕した原因たる少女達を探した。全く予想外のところから振るわれた死神の鎌に己の死を幻視しながら、緊張に流れる汗を拭うことも忘れて視線を巡らせる。そして、向けた視線の先にユエ達はいた。

 

 

 

しかし、その姿は彼等にとって、全くの予想外。なぜなら、自分達への追撃態勢に入っているどころか、ユエ達は彼等を見てすらいなかったのだ。最初と同じく、ただ外壁の外を何かを探すように眺めているだけ。その背中は、何よりも雄弁に物語っていた。

 

 

 

すなわち、眼中にない、と。

 

 

 

それを察した瞬間、緊張に強ばっていた魔人族達の表情が憤怒に歪んだ。戦友を粉微塵にしておいて、路傍の石を蹴り飛ばした程度の認識しかしていないユエ達に、戦士として、または一人の魔人族としての矜持を踏みにじられたと感じたのだ。彼等の全身を血液が沸騰したかのような灼熱が駆け巡る。

 

 

「貴様等ぁーーーー!!」

 

「うぉおおおお!!」

 

「死ねぇーー!!」

 

 

怒りに駆られながらも、戦士としての有能さが自然と陣形を整えさせ、絶妙な連携を取らせる。四方と上方から逃げ場をなくすように包囲し、一斉に魔法を放った。魔法に長けた魔人族達の魔法だ。普通なら、絶望に表情を歪める場面である。

 

 

 

しかし、当のユエが浮かべるのは呆れた表情。ついで、細くしなやかな指をタクトのように振るわれる。

 

 

「……彼我の実力差くらい、本能で悟れ」

 

 

そんな言葉と同時に、全ての魔法は雷龍がとぐろを巻いてユエ達を繭のように包むことで完全に防がれてしまった。そして、雷龍が一度その大食らいの顎門を開けば、彼等はまるで特攻しか知らぬと言わんばかりに自らその身を投げ出していく。

 

 

 

ならば反対側からと複数人で貫通性に優れた上級魔法を唱えようとすると、雷龍の一部が開いて、そこからウサミミをなびかせたシアが砲弾もかくやという速度で飛び出した。

 

 

 

咄嗟に、近くにいた魔人族が、詠唱の邪魔をさせてなるものかと、ほとんど無詠唱かと思う速度で完成させた初級魔法の炎弾を無数に放った。

 

 

 

しかし、シアは、まるで気にした様子もなく、ドリュッケンの激発の反動で軌道を変えると全弾あっさり躱し、ギョッとしている詠唱中の魔人族三人に向けてドリュッケンを横殴りにフルスイングした。

 

 

「りゃぁあああ!」

 

 

気合一発。振るわれたドリュッケンは、重力魔法の力でインパクトの瞬間だけ四トンの重量を得る。それを、最近更に上昇した身体強化で振るった。結果は言わずもがな。魔人族の三人は為すすべもなくまとめて上半身を爆砕され、騎乗していた魔物も衝撃で背骨を砕かれて断末魔の悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。

 

 

 

空中にあるシアは、その場で自身の重さをドリュッケンも含めて五キロ以下まで落とし、再度、激発を利用して羽のように軽やかに宙を舞う。そして、ドリュッケンを変形させて射撃モードに切り替え、先程炎弾を放ってきた魔人族に向けて炸裂スラッグ弾を轟音と共に解き放った。狙い通り、王都の夜空にまた一つ、真っ赤な花が咲いた。

 

 

 

シアは、“宝物庫”から取り出した二枚の鈍色の円盤を宙に放ち、重力を無視して空中に浮くそれを足場にした。そして、その場に留まりドリュッケンで肩をトントンしながら周囲を見渡す。

 

 

 

ちょうど、少し離れたところで、ユエ達に襲いかかってきた魔人族の最後の一人が死に物狂いでユエに特攻しているところだった。

 

 

「小娘…がぁああ!! 殺してやるぅ!!」

 

 

血走った目が、刺し違えてでも!という決死の意志を感じさせる。しかし、そんな彼に対するユエの態度は実に冷めていた。

 

 

「……三百年早い、坊や・・」

 

 

雷龍が、彼の仲間を襲っている隙を突いたつもりだったのだろう。ユエが雷龍を戻すより先に仕留められると口元を歪めた魔人族は、直後、ユエが懐から取り出した白い銃から放たれる弾丸に眉間を撃ち抜かれ、錐揉みしながら眼下の路地へと落ちていった。

 

 

 

ユエは、無意味な時間を取ったと直ぐにフリード探しを再開する。隣に、ドリュッケンを担いだままのシアが降り立った。

 

 

「完全に、王国側の戦力と思われたんじゃないですか?」

 

「……関係ない。思いたければ勝手に思っていればいい」

 

「ドライですねぇ。……まぁ、確かにそうなんですけど……」

 

 

軽口を叩き合いながらもフリード・バグアーを探す二人だったが、中々見つからないので、よもや、既に大迷宮の場所を把握していて空間転移したんじゃ……と内心不安になり始めたその時……

 

 

「ッ!?ユエさん!」

 

「んっ」

 

 

シアが警告を発すると同時に、ユエは躊躇うことなく時計塔から飛び退いた。直後、何もない空間に楕円形の膜が出来たかと思うと、そこから特大の極光が迸った。極光は、一瞬でユエ達が直前までいた時計塔の上部を消し飛ばし、それだけにとどまらず射線上にあった建物を根こそぎ吹き飛ばしていく。

 

 

「やはり、予知の類か。忌々しい……」

 

 

男の声が響くと同時に、楕円形の膜から雷電が倒した白竜に乗った赤髪の魔人族フリード・バグアーが現れた。その表情には、渾身の不意打ちが簡単に回避されたことに対する苛立ちが見て取れる。

 

 

 

白竜が完全に“ゲート”から現れると、タイミングを合わせたように黒鷲や灰竜に乗った魔人族が数百単位で集まり、ユエとシアを包囲した。

 

 

 

同時に……凄まじい轟音を響かせて遂に外壁の一部が崩され、そこから次々と魔物やそれに乗った魔人族が王都への侵入を果たし、いくつかの部隊が、ユエとシアの方へ猛然と駆け寄ってくるのが見えた。どうやら、ここでユエとシアを完全に仕留めるつもりらしい。

 

 

「まさか、あの状況から生還するとはな。……やはり、あの男に垣間見たおぞましい程の生への執念は……危険過ぎる。まずは、確実に奴の仲間である貴様等から仕留めさせてもらおう」

 

 

フリードの憎しみすら宿っていそうな言葉を向けられて、しかし、ユエとシアは二人して不敵に口元を歪めた。そして、同時に同じ言葉を返す。それは奇しくも、八千メートル上空で彼女達の愛する少年が敵に放った言葉と同じだった。

 

 

「「殺れるものなら殺ってみて(下さい)」」

 

 

その言葉が合図になったかのように、周囲の魔物と魔人族が一斉に魔法を放った。

 

 

 

大気すら焦がしかねない熱量の炎槍が乱れ飛び、水のレーザーが空間を縦横無尽に切り裂き、殺意の風が刃となって襲い掛かり、氷雪の砲撃が咆哮を上げ、石化の礫が永久牢獄という名の死を撒き散らし、蛇の如き雷の鞭が奇怪な動きで夜天を奔る。そして、駄目押しとばかりに極光が空を切り裂いた。

 

 

 

魔人族四十人以上、魔物の数は百体以上。四方上下全てが敵。視界は攻撃の嵐で埋め尽くされている。

 

 

 

しかし、ユエもシアも、逃げ場のない死に囲まれながら焦りは一切なく、まして回避する素振りも見せずに佇んでいた。何人かの魔人族が“諦めたか……”と若干拍子抜けするような表情になったが、フリードだけは猛烈に湧き上がった嫌な予感に警戒心を一気に引き上げた。

 

 

「“界穿”」

 

 

ユエが神代魔法のトリガーを引く。

 

 

 

直後、二つの光り輝くゲートが飛来する極光の前に重なるようにして出現した。フリードは訝しそうに眉を潜める。あんな座標にゲートをつなげては、極光を空間転移させても、直ぐにもう一つのゲートから出てきて直撃するだけだろうと。

 

 

 

しかし、その予想は、ゲートを一対しか展開していないという事を前提とした考えだ。フリードが自身の限界を基準にした考えでもある。

 

 

だから、ユエとシアが眼前のゲートに飛び込んだ意味が咄嗟に理解出来なかったし、いつの間にか自分達の背後にゲートが開いている事にも直ぐに気がつくことが出来なかった。

 

 

「しまっ、回避せよっ!!」

 

 

ユエ達がゲートの向こう側に消え、極光がゲートを通る瞬間、自分の思い違いに気が付いたフリードが部下達に警告を発するが、“時既に遅し”だった。

 

 

 

フリード自身は回避が間に合ったものの、部下の多くは背後から・・・・極光の直撃を受けて死を意識する間もない消滅を余儀なくされた。

 

 

「おのれ、私に部下を殺させたな。……まさか同時発動出来るとは……まだ見くびっていたということか……」

 

 

瞳に憤怒を浮かべ、同時に自分には出来ないゲートの二対同時発動という至難の業を実戦で成功させたユエに畏怖にも似た念を抱くフリード。詠唱した形跡も魔法陣を用いた様子もなく、その正体が気なるところだったが、今は、消えた二人を探さなければならない。

 

 

「フリード様! あそこにっ!」

 

 

フリードの部下の一人が外壁の外を指差す。そこには、確かにユエとシアがいた。

 

 

 

真下に民家があっては戦いづらかった。フリード自身がユエ達との対決を望むなら、そのまま王都侵攻に踵を返すとも思えなかったので、外壁の外へ空間転移したのである。もちろん、万一、フリード達がユエ達を無視して王都侵攻を続行すれば、その背中に向けて死神の鎌を振り下ろすだけだ。

 

 

 

フリード達もそれがわかっているので、ユエ達に背を向けることはない。そして、遠目にユエが右手をフリード達に伸ばし手の甲を向けると指をクイクイと曲げる仕草をした時点で、魔人族達の怒りは軽く沸点を超えた。

 

 

 

明らかな挑発だが、見た目幼さの残る少女と、蔑む対象である兎人族の少女にしてやられて多くの戦友を失い、その上で“相手をしてあげる”という上から目線……自分達を少数ながら優れた種族と誇ってはばからない魔人族の戦士達にとっては看過できない挑発だった。

 

 

「小娘ごときがぁ!」

 

「薄汚い獣風情が粋がるなぁ!」

 

 

そんな罵詈雑言を叫びながら、魔人族達が一斉に襲いかかった。タイムラグのない致死性の魔法を連発するユエを警戒して魔物を先行させる。地上からも、大軍の一部がユエ達を標的に定め猛然と襲いかかってきた。

 

 

 

シアは“宝物庫”のおかげで、実質無制限と言ってもいいくらい大量に保管している炸裂スラッグ弾を惜しむことなく連発する。空で、あるいは地上で、シアの魔力が青白いムーンストーン色の波紋となって広がり、次の瞬間には衝撃波に変換されて破壊を撒き散らした。後に残るのは、轢死あるいは圧死でもしたかのようなひしゃげ、砕けた遺体のみ。

 

 

 

と、そこへ、白竜と灰竜から一斉に吐かれたブレスが殺到する。直撃すれば身体強化中のシアといえどもただでは済まない破壊の嵐。しかし、シアが慌てることはない。

 

 

「“絶禍”」

 

 

シアの眼下にユエの放った黒く渦巻く球体が出現する。超重力を内包する漆黒の球体は、さながらブラックホールのようにシアに迫っていた極光群の軌道を下方に捻じ曲げてその内へと呑み込んでいった。

 

 

「くっ、あの時も使っていたな。……私の知らぬ神代魔法か。総員聞け!私は金髪の術師を殺る!お前達は全員で兎人族を殺るのだ!引き離して、連携を取らせるな!」

 

「「「「「了解!」」」」」」

 

 

どうやら、縦横無尽に飛び回りユエの前衛を務めるシアと、後衛のユエを引き離して各個撃破するつもりらしい。そうはさせじと、シアがユエの近くに退避しようとしたとき、特別大きな黒鷲に乗った魔人族が、巨大な竜巻を騎乗する黒鷲に纏わせて、砲弾の如く突撃してきた。

 

 

 

空中にいたシアは、咄嗟にドリュッケンを振るって弾き飛ばそうとしたが、絶妙なタイミングで数人の魔人族が決死の覚悟による特攻を図ったため、そちらの対応に追われることになった。ドリュッケンの激発の反動を使用してその場で一回転し、襲い来た全ての魔人族を放射状に吹き飛ばす。

 

 

 

急いで、正面から突撃してきた竜巻を纏う黒鷲と魔人族と相対し直すものの、流石にカウンターを放つ暇はなく、また回避も間に合いそうになかったので、ドリュッケンを盾代わりにかざして防御体勢をとった。ドリュッケンのギミックが作動し、カシュンカシュンと音を立てて打撃面からラウンドシールドが展開される。

 

 

「貴様等だけはぁ!必ず殺すっ!」

 

 

そんな雄叫びを上げながら金髪を短く切り揃えた魔人族の男が、ただ仲間を殺された怒りだけとは思えない壮絶な憎悪を宿した眼でシアを射貫きながら、彼女の構えたドリュッケンに衝突した。

 

 

 

押されるままにユエから引き離されそうになったシアは、体重を一気に増加させて離脱を試みるが、それを実行する前に、背後で空間転移のゲートが展開されてしまった。チラリと視線を向けてみれば、ユエの方も、フリードが空間魔法を発動する時間を稼ぐために無謀とも言える特攻を受けているところだった。

 

 

“ユエさん!すみません!離されます!”

 

“ん……問題ない。こいつは私が殺っておく”

 

 

ゲートに押し込まれる寸前、ユエが“グッドラック!”とでも言うようにサムズアップしている姿を見て、シアは小さく笑みを浮かべた。その笑みを見て眼前の大黒鷲に乗った魔人族が再び憤怒に顔を歪めるが、シアは特に気にすることもなく、そのまま魔人族の男と共にゲートに呑み込まれてユエから引き離された。

 

 

「そのヘラヘラと笑った顔、虫酸が走る。四肢を引きちぎって、貴様の男の前に引きずって行ってやろう」

 

 

ゲートを抜けた先で、相対する魔人族の第一声がそれだった。どうも他の魔人族と違って、個人的な恨みあるようだと察したシアは、訝しそうに眉をしかめて尋ねてみる。

 

 

「……どこかで会いました? そんな眼を向けられる覚えがないんですが?」

 

「赤髪の魔人族の女を覚えているだろう?」

 

 

シアは、なぜそこで女の話が出てくるのか分からず首を捻る。しかし、魔人族の男は、それを覚えていないという意味でとったのか、ギリッと歯を食いしばり、怨嗟の篭った声音で追加の情報を告げた。

 

 

「貴様等が、【オルクス大迷宮】で殺した女だぁ!」

 

「……………………ああ!あの人!」

 

「きざまぁ~」

 

 

明らかに今の今まで忘れてましたという様子のシアに、既に怒りのせいで呂律すら怪しくなっている男は、僅かな詠唱だけで風の刃を無数に放った。それを、何でもないようにひょいひょいと避けるシア。

 

 

「ちょっと、その人が何なんです? さっきから訳わからないです」

 

「カトレアは、お前らが殺した女は……俺の婚約者だ!」

 

「!ああ、なるほど……それで」

 

 

シアは得心したように頷いた。

 

 

 

どうやら、目の前の男は、“オルクス大迷宮”でハジメに殺された魔人族の女が最後に愛を囁いた相手──ミハイルらしい。どうやら魔人族側にいるジャンゴが、ハジメが自分の婚約者を殺した事を伝えられ、復讐に燃えているようだ。自分がされたのと同じように、シアやユエを殺してハジメの前に突き出したいのだろう。

 

 

「よくも、カトレアを……優しく聡明で、いつも国を思っていたアイツを……」

 

 

血走った目で、恨みを吐くミハイルに、シアは普段の明るさが嘘のような冷たい表情となって、実にあっさりした言葉で返した。

 

 

「知りませんよ、そんな事」

 

「な、なんだと!」

 

「いや、死にたくないなら戦わなければいいでしょう?そもそも挑んで来たのはあの人の方ですし。ハジメさんは、警告してましたよ。逃げるなら追わないって。愛しい人を殺されれば、恨みを抱くのは当たり前ですけど……殺した相手がどんな人だったか教えられても……興味ないですし……あなたなら聞きますか?今まで自分が殺してきた相手の人生とか……ないでしょう?」

 

「う、うるさい、うるさい、うるさい!カトレアの仇だ!苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる!」

 

 

ミハイルは、癇癪を起こしたように喚きたてると、大黒鷲を高速で飛行させながら再び竜巻を発生させてシアに突っ込んで来た。どうやら、竜巻はミハイルの魔法で大黒鷲の固有能力ではないらしい。騎乗のミハイルが更に詠唱すると、竜巻から風刃が無数に飛び出して、シアの退路を塞ごうとした。

 

 

 

シアは、ドリュッケンを振るって風の刃を蹴散らすと、そのまま体重を軽くして円盤を足場に大跳躍し、竜巻を纏う大黒鷲を避けた。

 

 

 

しかし、避けた先には、ミハイルとシアが話している間に集まってきた魔人族と黒鷲の部隊がいた。ミハイルの騎乗しているのが大黒鷲であることから、彼の部下なのかもしれない。

 

 

 

シアより上空にいた黒鷲部隊は、石の針を一斉に射出した。それはまさに篠突く雨のよう。シアは、炸裂スラッグ弾を撃ち放ち衝撃波で針の雨を蹴散らす。

 

 

 

そして、空いた弾幕の隙間に飛び込んで上空の黒鷲の一体に肉薄した。ギョッとする魔人族を尻目に、ドリュッケンを遠慮容赦一切なく振り抜く。直撃を受けた魔人族は、骨もろとも内臓を粉砕させながら吹き飛び夜闇の中へと消えていった。

 

 

 

シアは更に、勢いそのままに柄を伸長させて、離れた場所にいた黒鷲と魔人族も粉砕する。

 

 

「くっ、接近戦をするな! 空は我々の領域だ! 遠距離から魔法と石針で波状攻撃しろ!」

 

 

まるでピンボールのように吹き飛んでいく仲間に、接近戦は無理だと判断したミハイルは、遠方からの攻撃を指示する。再び、四方八方から飛んできた魔法と石の針を激発による反動と円盤を足場にした連続跳躍で華麗に避け続けるシア。

 

 

 

しかし、中距離以下には決して近づかず、シアが接近しようものなら全力で距離をとる戦い方に、シアは次第に苛つき始める。そして、炸裂スラッグ弾だけでは手が足りないと判断し、新ギミックを“宝物庫”から取り出した。

 

 

 

それは赤い金属球だ。大きさは直径二メートルほど。金属球の一部から鎖が伸びており、シアはその鎖の先をドリュッケンの天辺についた金具に取り付けた。そして、重力に引かれて落ちかけた金属球を足で蹴り上げると、大きく水平に振りかぶったドリュッケンをその金属球に叩きつけた。

 

 

 

ガギンッ!!

 

 

 

金属同士がぶつかる轟音と共に、信じられない速度で金属球が打ち出される。

 

 

 

標的にされた魔人族は慌てて回避しようとするが、突然、金属球の側面が激発し軌道が捻じ曲がった。その動きに対応できなかった魔人族と黒鷲は、総重量十トンまで加重された金属球に衝突され、全身の骨を砕かれながら一瞬でその命を夜空に散らすことになった。

 

 

 

敵を屠った金属球は、シアがドリュッケンを振るう事で鎖が引かれ一気に手元に戻ってくる。シアは、その間にも炸裂スラッグ弾を連発し、敵を牽制、あるいは撃ち滅ぼしていく。そして、戻ってきた金属球を再びぶっ叩き、別の標的に向けて弾き飛ばした。

 

 

 

そう、ドリュッケンの新ギミックとは、重量変化と軌道変更用ショットシェルが内蔵された“剣玉

”なのである。

 

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 

 

シアが、そんな雄叫びをあげながら王都の夜空に赤い剣玉を奔らせ続ける。ぶっ飛ばしては引き戻し、またぶっ飛ばしては引き戻す。赤い流星となって夜天を不規則に駆け巡る“剣玉”は、自身の赤だけでなく敵の血肉で赤く染まり始めた。

 

 

「おのれっ、奇怪な技を!上だ!範囲外の天頂から攻撃しろ!」

 

 

ミハイルが次々と殺られていく部下達の姿に唇を噛み締めながら指示を出し、自身は足止めのために旋回しながら牽制の魔法を連発する。シアは、それらの攻撃を重さを感じさせない跳躍で宙を舞うように軽く避けていく。

 

 

 

そうして、最後の一撃を避けた直後、頭上より範囲攻撃魔法が壁のごとく降り注いだ。

 

 

 

シアは、ドリュッケンを頭上に掲げると柄の中央を握ってグルグルと回し始める。すると、回転の遠心力によって鎖で繋がった金属球も一緒に大回転を始めた。猛烈な勢いで超高速回転するドリュッケンと剣玉は、赤い色で縁取った即席のラウンドシールドとなり、頭上から降り注いだ強力無比な複合魔法を吹き散らしていった。

 

 

「もらったぞ!」

 

 

頭上からの攻撃を防ぐことに手一杯と判断したミハイルが、シアに突撃する。大黒鷲の桁外れな量の石針を風系攻撃魔法“砲皇”に乗せて接近しながら放った。局所的な嵐が唸りを上げてシアに急迫する。

 

 

 

シアは、自由落下に任せて一気に高度を落とし、風の砲撃を避けた。ミハイルは予想通りだと口元を歪め、回避直後の落下してきた瞬間を狙って再度、風の刃を放とうとした。

 

 

 

しかし、標的を見据えるミハイルの目には、絶望に歪むシアの表情ではなく、虚空から現れた拳大の鉄球がシアの足元に落ちる光景が映っていた。

 

 

 

シアは、“宝物庫”から取り出した鉄球を最大強化した脚力を以て蹴り飛ばす。豪速で弾き出された鉄球は、狙い違わずミハイルの乗る大黒鷲に直撃しベギョ!と生々しい音を立ててめり込んだ。

 

 

 

クゥェエエエエエ!!!

 

 

 

激痛と衝撃に大黒鷲が悲鳴を上げ錐揉みしながら落下する。ミハイルもまた、悪態を吐きなが苦し紛れに石針を内包させた風の砲弾を放ち、大黒鷲と一緒に落ちていった。

 

 

 

ようやく頭上からの魔法攻撃を凌ぎ切ったシアは、迫る風の砲弾をギリギリ、ドリュッケンで弾き飛ばす。しかし、内包された石の針までは完全には防げず、いくつかの針が肩や腕に突き刺ってしまった。

 

 

「やったぞ! コートリスの石針が刺さっている!」

 

「これで終わりだ!」

 

 

石の針自体はそれほど大きなダメージではないのに、シアが石針を喰らった事で魔人族達が一様に喜色を浮かべている。

 

 

 

その事に怪訝そうな表情をするシア。

 

 

 

その疑問の答えは直ぐに出た。針の刺さった部分から徐々に石化が始まったのだ。どうやら、黒鷲はコートリスという名の魔物らしく、その固有魔法は石化の石針を無数に飛ばすことらしい。中々に嫌らしく厄介な能力だ。

 

 

 

普通は、状態異常を解くために特定の薬を使うか、光系の回復魔法で浄化をしなければならない。今、この戦場にはシア一人なので、これで終わりだと魔人族達は思ったのだろう。仮に薬の類を持っていても服用させる隙など与えず攻撃し続ければ、そうかからずに石化出来るからだ。

 

 

 

しかし、彼等の勝利を確信した表情は次の瞬間、唖然としたものに変わり、そして最終的に絶望へと変わった。

 

 

 

なぜなら……

 

 

「むむっ、不覚です。しかし、これくらいなら!」

 

 

そう言って、シアは刺さった針を抜き捨てると、少し集中するように目を細めた。すると、一拍おいて、じわじわと広がっていた石化がピタリと止まり、次いで、潮が引くように石化した部分が元の肌色を取り戻していった。そして、最終的には、針が刺さった傷口も塞がり、何事もなかったかのような無傷の状態に戻ってしまった。

 

 

「な、なんで!?」

 

「どうなってるんだ!?」

 

 

回復魔法が使われた気配も、薬を使った素振りも見せず、ただ少しの集中により体の傷どころか石化すら治癒してしまったシアに、魔人族達は、その表情に恐怖を浮かべ始めた。それは理解できない未知への恐怖だ。声も狼狽して震えている。

 

 

 

シアの傷が治ったのは、どうということもない。ただ再生魔法を使っただけである。相変わらず、適性は悲しい程になく、自分の体の傷や状態異常を癒すくらいしか出来ない。

 

 

 

ユエの“自動再生”のように欠損した部分が再生したり、瞬時に重症でも治せたり、自動で発動したりもしない。外部の何かを再生することも出来ない。だが、多少の傷や単純な骨折、進行の遅い状態異常なら少し集中するだけで数秒あれば癒すことが出来る。時間をかければある程度の重症でも大丈夫だ。

 

 

 

魔人族達が絶望するのも仕方ないことだろう。圧倒的な破壊力に回復機能まであるのだから、攻略方法が思いつかない。シアを見る目が、かつてハジメと相対した者達が彼を見る目と同じになっている。すなわち、この化け物めっ!と。

 

 

「さぁ、行きますよ?」

 

 

狼狽えて硬直する魔人族達の眼前にシアがドリュッケンを“宝物庫”にしまい、代わりに腰に懸架していたライトセーバーを手にしてスイッチを押し、緑の光刃を出した後にフォースによる身体強化で飛び上がってくる。そして、一撃必殺!と振るわれた一閃で、また一人、魔人族が絶命した。その瞬間、残りの魔人族が恐慌を来たしたように意味不明な叫び声を上げて、連携も何もなくがむしゃらに特攻を仕掛けていった。

 

 

 

シアは、冷静にライトセーバーで敵の攻撃を弾く、又は弾き返しながら確実に仕留めて数を減らしていく。

 

 

 

いよいよミハイル部隊の最後の一人がライトセーバーの餌食となったその時、急に月明かりが遮られ影が一帯を覆った。

 

 

 

シアが上を仰ぎ見れば、暗雲を背後に、上空からミハイルが降って来るところだった。大黒鷲も限界のようで、上空からの急降下しかまともな攻撃が出来なかったのだろう。

 

 

「天より降り注ぐ無数の雷、避けられるものなら避けてみろ!」

 

 

ミハイルの叫びと同時に、無数の雷が轟音を響かせながら無秩序に降り注いだ。それはさながら篠突く雷。本来は風系の上級攻撃魔法“雷槌”という暗雲から極大の雷を降らせる魔法なのだが、敢えてそれを細分化し、広範囲魔法に仕立て上げたのだろう。それだけでミハイルの卓越した魔法技能が見て取れる。

 

 

 

急降下してくるミハイルを追い抜いて雷光がシア目掛けて降り注ぐ。

 

 

 

おそらく、確実に仕留めるために、雷に打たれた瞬間に刺し違える覚悟で特攻する気なのだろう。いくら細分化して威力が弱まっている上に、シアが超人的とは言え、落雷に打たれれば少なくとも硬直は免れない。

 

 

 

そして雷の落ちる速度は秒速百五十キロメートル。認識して避けるなど不可能だ。ミハイルの眼にも、部下が殺られていく中ひたすら耐えて詠唱し放った渾身の魔法故に、今度こそ仕留める!という強靭な意志が見て取れる。

 

 

 

しかし、直後、ミハイルは信じられない光景を見ることになった。なんと、シアが降り注ぐ落雷を避けているのだ。いや、正確には最初から当たらない場所がわかっているかのように、落雷が落ちる前に移動しているのである。

 

 

 

ミハイルの誤算。それは、シアには認識できなくても避ける術があったこと。

 

 

 

シアの固有魔法“未来視”その新たな派生“天啓視”。最大二秒先の未来を任意で見ることが出来る。“仮定未来”やフォースの予知(ヴィジョン)の劣化版のような能力だが、それより魔力を消費しないので、何度か連発できる使い勝手のいい能力だ。日々、鍛錬を続けてきたシアの努力の賜物である。

 

 

「何なんだ、何なんだ貴様は!」

 

「……ただのウサミミ少女で、ジェダイ見習いです」

 

 

自分でも余り信じていない返しをしながら、全ての落雷を避けたシアは、当然、突撃してきたミハイルもあっさりかわし、すれ違い様にライトセーバーを振るった。

 

 

 

その時にミハイルは咄嗟に躱したものの、完全には躱せず、ライトセーバーの光刃によって切られてしまい、そのまま大黒鷲から堕ちてしまう。その結果、地面へと落下し、激突する。

 

 

 

咄嗟に、風の障壁を張って即死だけは免れたようだが、全身の骨が砕けているのか微動だにせず仰向けに横たわり、口からはゴボッゴボッと血を吐いている。

 

 

 

シアは、その傍らに降り立った。

 

 

 

ライトセーバーをしまい、“宝物庫”にしまっていたドリュッケン取り出し、肩に担いでツカツカとミハイルに歩み寄る。ミハイルは、朦朧とする意識を何とかつなぎ止めながら、虚ろな瞳をシアに向けた。その口元には、仇を討てなかった自分の不甲斐なさにか、あるいは、百人近い部下と共に全滅させられたという有り得ない事態にか、ミハイル自身にも分からない自嘲気味の笑みが浮かんでいた。ここまで完膚なきまでに叩きのめされれば、もう、笑うしかないという心境なのかもしれない。

 

 

 

自分を見下ろすシアに、ミハイルは己の最後を悟る。内心で、愛しい婚約者に仇を討てなかった詫びを入れつつ、掠れる声で最後に悪態をついた。

 

 

「……ごほっ、このっ…げほっ……化け物めっ!」

 

「ふふ、有難うございます!」

 

 

ミハイル最後の口撃は、むしろシアを喜ばせただけらしい。

 

 

 

最後に、己の頭に振り下ろされた大槌の打撃面を見ながら、ミハイルは、死後の世界があるならカトレアを探しに行かないとなぁと、そんな事をぼんやり考えながら衝撃と共に意識を闇に落とした。

 

 

 

止めを刺したドリュッケンを担ぎ上げながら、シアは、ミハイルの最後の言葉に頬を緩める。

 

 

「どうやら、ようやく私も、化け物と呼ばれる程度には強くなれたようですね……ふふ、ハジメさん達に少しは近づけたみたいです。…とは言っても、マスターはこういうのは望んではいないでしょうけど、今は必要不可欠ですしね?さて、ユエさんの方は……」

 

 

シアは、かなり離されたユエのいる方を仰ぎ見る。そして、今ならまだフリードを一発くらい殴れるかもしれないと期待して、ユエと合流すべく一気に駆け出した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

天頂に輝く月が見えなくなるほどの灰竜の群れ。

 

 

 

優に百体は超えているだろう。そして、その中心には胸元に傷を付けた白竜と、背に騎乗するフリード・バグアーの姿。

 

 

「悪く思うな。敵戦力の分断は戦いの定石だ」

 

 

空間魔法“界穿”が作り出した転移ゲートの奥へと消えていったシアとミハイル。そして二人を追って飛んでいった黒鷲部隊を横目にフリードは宙に佇むユエに語りかける。

 

 

 

風系統の魔法を使っている気配もないのに、まるで夜天に浮かぶ月のように空に浮かぶその姿に、目を細めながら反応を伺うが、ユエは無表情のまま静かにフリードを見据えているだけだ。

 

 

 

フリードは、魔人族であることに誇りを持っており、例に漏れず、他種族を下に見ている。魔人族が崇める神に対する敬虔な信者でもあり、価値観の多様性を認めないタイプの男だ。

 

 

 

故に、他種族の女に興味を示すことなど有り得ない事だった。だが、そのフリードをして、本物の月が自らの配下である灰竜達により隠されてなお、地上を照らす月の如き輝きを放つ美貌の少女には、“殺すのは惜しい”と思わせるだけの魅力を感じていた。

 

 

 

その思いは、ハジメや雷電を殺すためにも必要だと分かっていながら、そして同胞を殺された事に対する憎しみを抱いていながら、それでも、つい戯言を口にさせてしまう。

 

 

「惜しいな。……女、術師であるお前では、いくら無詠唱という驚愕すべき技を持っていたとしても、この状況を切り抜けるのは無謀というものだろう。どうだ?私と共に来ないか?お前ほどの女なら悪いようにはしない」

 

 

そんなフリードの勧誘に対するユエの反応はというと……

 

 

「……ふっ、生まれ直してこい。ブ男」

 

 

何とも手厳しい、嘲笑混じりの痛烈な皮肉の投げ返しだった。

 

 

 

ちなみに、フリードは十人中十人が美男子と評価すると言っても過言でないほど整った容姿をしている。その力の大きさと相まって、魔人族の間では女性に熱狂的な人気がある。断じてブ男ではない。

 

 

 

しかし、ユエはフリードが“グリューエン大火山”で神を語った時の恍惚とした表情を見ており、それが酷く気持ち悪かったという記憶があるのだ。そんな男が、澄まし顔で誘ってくる。もう、気持ち悪い上に滑稽な男にしか見えなかった。そもそも、ハジメ以外の男に対して何かを感じるという事すらないので、本当に戯言以外の何ものでもなかった。

 

 

 

ユエの言葉を受けて、フリードの目元がピクリと引きつる。

 

 

「殉教の道を選ぶか?それとも、この国への忠誠のためか?くだらぬ教え、それを盲信するくだらぬ国、そんなもののために命を捧げるのか? 愚かの極みだ。一度、我らの神、“アルヴ様”の教えを知るといい。ならば、その素晴らしさに、その閉じきった眼もッ!?」

 

 

全くの見当違いをペラペラと話しだしたフリードに、ユエは白い銃で弾丸を放つことで答えとした。ただ単に、聞くに耐えなかっただけというのもあるが。

 

 

 

夜風に乗って血飛沫が舞う。ユエの放った風刃はフリードが身を逸らしたために肩を浅く切り裂くに留まった。咄嗟に、フリードが風刃に反応できたのは、腐っても大迷宮攻略者ということだろう。でなければ、今頃は腕一本失っているところである。

 

 

 

ユエは、怒りを宿した瞳で自分を睨むフリードに、冷めた眼差しを返す。そして、愚かな魔物の支配者に対し豪然と告げた。

 

 

「……御託はいらない。ハジメが傷ついた分、苦しんで死ね」

 

 

その言葉を合図に、ユエを中心にして極寒の氷雪が吹き荒れた。

 

 

 

一瞬で巨大な竜巻へと発展したそれは、ユエを覆い隠しながら天頂へと登る。地と天を繋ぐ白き嵐は、周囲の温度を一気に絶対零度まで引き下げ、月を覆い隠して上空を旋回していた灰竜達の尽くを凍てつかせた。

 

 

 

竜巻を発生させる風系中級攻撃魔法“嵐帝”と広範囲を絶対零度に落とす氷系最上級攻撃魔法“凍獄”の複合魔法である。

 

 

 

まるで、氷河期をもたらした気候変動により一瞬で凍りついたマンモスのように、その身を傷つけることなく絶命した灰竜達は、地上へと落下すると地面に激突してその身を粉々に砕けさせた。体内まで完全に凍りついていたようで、赤い血肉の結晶が大地にコロコロと跳ね返っている。

 

 

「聞く耳を持たないか。……仕方あるまい。掃射せよ!」

 

 

一気に二十体近くの灰竜を落とされたフリードは、ギリッと歯を食いしばりながら一斉攻撃の命令を下す。それにより、旋回していた灰竜達が一斉に散開し、四方八方上下、あらゆる方向から極光の乱れ撃ちを行った。

 

 

 

夜天に奔る幾百の極光は、さながら流星雨のよう。夜の闇を切り裂き迫る閃光は、中の術者を射殺さんと、吹き荒れる絶対零度のブリザードを剣山の如く貫いた。

 

 

 

無数の極光による衝撃で、氷雪の竜巻は宙に溶けるように霧散していく。散らされた氷雪が螺旋を描き、その中央から現れたのは、極光に貫かれ傷ついたユエの姿……ではなく、前後左右に黒く渦巻く星を従えた無傷のユエだった。

 

 

 

間髪いれず、目視した小さな敵に再び幾百の閃光が奔る。

 

 

 

しかし、本来なら全てを消滅させる強力無比な死の光は、ユエを守るように周囲に漂う黒い星に次々と呑み込まれ、あるいは明後日の方向に軌道を捻じ曲げられて、ただの一つも届かなかった。

 

 

 

ユエは、重力魔法を操作して更に高度を上げる。無数の極光に晒されながら、その表情に動揺の色は皆無だ。ユエの周囲を周回する重力球“禍天”と全てを呑み込む“絶禍”は、さながら月を守る守護衛星のようだ。

 

 

「ブレスが効かぬなら、直接叩くまで! 行け!」

 

 

フリードの作戦変更命令に、灰竜達はタイムラグなど一切なく忠実に従う。竜の咆哮を上げながら、その鋭い爪牙で華奢な少女の肉体を引き裂かんと眼に殺意を宿して襲いかかった。

 

 

 

波状攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。ユエの周囲は直ぐに灰竜の群れによって灰色に埋め尽くされた。

 

 

 

対するユエは、迫り来る竜達の殺意など微塵も気にせず、静かに瞑目していた。深く集中しているようだ。動かぬならばむしろ好都合と言わんばかりに迫った灰竜達が、その鋭い爪を伸ばし、強靭な顎門を大きく開ける。

 

 

 

もはや逃れようのない死が到達するかと思われたまさにその時、ユエの眼がカッ! と見開らかれた。そして、その薄く可憐な唇が言葉を紡ぐ。

 

 

「“斬羅きら”」

 

 

その瞬間、世界が一斉にずれた・・・。

 

 

 

まるで割れた鏡のように、何もない空間に無数の一線が引かれ、その線を起点に隣り合う空間が僅かにずれているのだ。そして、その空間の亀裂に重なっていた灰竜達は、一瞬の硬直の後、ズルっという生々しい音と共に空間ごと体を切断されて血飛沫を撒き散らしながら地へと落ちていった。

 

 

 

空間魔法“斬羅”。空間に亀裂を入れてずらす事で、対象を問答無用に切断する魔法である。

 

 

 

ユエによる防御不能の切断魔法で、周囲に集まっていた灰竜三十体以上が断末魔の悲鳴を上げる事すら出来ずに絶命した。フリードは、自分でも出来ない発動速度・展開規模での空間魔法の行使に戦慄の表情を浮かべる。

 

 

「なんという技量だ。……もしや、貴様も神に選ばれし者なのか!それなら、私の誘いに乗れぬのも頷ける」

 

 

額に汗を流しながら得心がいったというように頷くフリードに、ユエは“この勘違い野郎、すごく気持ち悪いんですけど……”と誰が見てもわかる嫌そうな表情を浮かべた。

 

 

「……冗談。私が戦うのは何時でもハジメのため。お前如きと一緒にしないで」

 

 

辛辣な言葉に、フリードは自分どころか敬愛する自身の神をも貶されたような気になり(気のせいではない)無表情となった。どうやら、フリードのタブーに触れたようだ。

 

 

「よかろう。もはや、何も言うまい。貴様を殺して、あの男の前に死体を叩きつけてやろう。さすれば、多少の動揺は誘えよう。その時が、あの男の最後だ」

 

「……よく回る口。黙って行動で示せないの? ブ男」

 

 

怒りを押し殺して告げた言葉に、嘲笑を以て返されたフリードの額に青筋が浮かぶ。直後の返答はユエの言う通り、行動で示された。

 

“グリューエン大火山”でも見た、肩に止まる小鳥型の魔物に指示を出すフリード。すると、王都の外壁を破り都に侵攻していた魔物の群れの一部が地上からユエ達の方へと押し寄せて来た。どうやら、地上からも攻撃をするつもりらしい。

 

 

 

ユエは、灰竜達の極光を重力球の守護衛星で防ぎながら、“雷龍”を召喚する。天に立ち込めた暗雲から落雷の咆哮と共に黄金の龍が姿を現した。“絶禍”に溜め込んだ極光を迫り来るフリードと灰竜達に解き放ち牽制しながら、地上部隊を殲滅せんと雷龍を強襲させる。

 

 

 

いつも通り、問答無用に顎門に吸い込み全てを灼き尽くす雷龍……のはずが、体長五メートルを超える六足の亀型の魔物アブソドによってその進撃を止められてしまった。大口を開けた巨大アブソドによって、正面から逆に喰われ始めているのだ。

 

 

 

アブソドは以前、“オルクス大迷宮”でカトレアという魔人族の女が連れていた、魔法を体内に取り込む固有魔法を持つ魔物だ。しかし、地上で雷龍を吸い込んでいるアブソドは、迷宮にいたアブソドとは大きさが違う。おそらく、改良が加えられ更に強化されたのだろう。

 

 

 

それでも、流石の雷龍というべきか。アブソドに呑み込まれながらも、その巨体を浮かせていき、少しずつではあるがその身を灼いていく。どうやら、同時に複数属性の魔法を呑み込むことが出来ないという制限は変わっていないらしい。雷は呑み込めても重力魔法の方は呑み込めないようだ。

 

 

 

徐々に浮かされていく体に焦ったように六足をばたつかせるアブソドだったが、その巨体が雷龍に攫われる前に、もう一体のアブソドが重力魔法を呑み込み始めた。流石に、二体の強化されたアブソドによるフルパワーでの固有魔法“魔力貯蔵”の行使には雷龍も耐えられず、その雷の体を取り込まれてしまった。

 

 

 

その直後、圧縮されたそれぞれの魔法が、ユエに向けて発射される。

 

 

「……鬱陶しい」

 

 

地上より発射された対空砲火二条は、正確な狙いでユエを襲う。灰竜と白竜の極光を防ぐために重力球の守護衛星を全力で使っていたユエは、咄嗟に上空へ“落ちる”ことにより、それを回避した。

 

「ふっ、貴様がその奇怪な雷系魔法を使うことは承知している。アブソドがいる限り、お前の魔法は封じたも同然だ」

 

 

ニヤリと口元を歪めながら嗤うフリード。しかし、ユエは特に焦ることもなく、ジッとアブソドを観察すると、ほんの僅かな時間、何かを考えるように視線を宙にさまよわせ再び集中状態に入った。

 

 

「また、空間を裂く気か? そんな暇は与えんぞ!」

 

 

白竜と灰竜がより一層苛烈に極光を放ち、地上からは空を蹴って黒豹型の魔物が迫った。

 

 

 

極光の嵐を何とか重力球の守護衛星で防ぐものの、ユエの意識の大半は別の魔法を構築中であり、その動きは今までに比べると精細さを欠いた。そこへ、地上から黒豹がその姿を霞ませるほどの速度で迫り、無数の触手を射出し始め、更に、極光を防ぐため動き回る重力球を掻い潜って鋭い爪を振るった。

 

 

 

僅かな攻防の間に、ユエの体に無数の傷がつき、夜空に赤い鮮血が飛び散る。しかし、どれも浅い傷ばかりなので全く問題ない。そもそもユエの本当の防御力とは、障壁でも重力球でもない。その反則的な“再生力”なのだ。

 

 

 

仲間がいれば障壁を張るし、服が破れるのは好ましくないので回避もするが、本来は相手の攻撃を無視して己の再生力に任せ、一方的に攻撃するというのがユエのスタイルなのである。

 

 

 

血飛沫を上げたユエに、半ば勝利を確信して笑みを浮かべたフリードの表情は、目に見えて修復されていくユエの傷を見て驚愕に目を見開いた。

 

 

「それも、神代の魔法か?一体いくつ修得しているというのだ!」

 

 

全くハズレでもないのだが、ユエに関しては間違った推測を口にしながら、ならば治癒が間に合わないほどの飽和攻撃をするまでと魔物達に全力の直接攻撃を命じる。そして、フリード自身も神代魔法の詠唱を始めた。

 

 

 

だが、当然、先に集中状態に入ったユエの方が早く魔法を発動させる。ユエの強い意志の宿った瞳が見開かれ、閃光と咆哮の轟く空間に、その可憐な声が響いた。

 

 

「“五天龍”」

 

 

直後、暗雲が立ち込め雷鳴が轟き、渦巻く風が竜巻となって吹き荒れ、集う水流が冷気を帯びて凍りつき、灰色の砂煙が大蛇雲の如く棚引いて形を成し、蒼き殲滅の炎が大気すら焦がしながら圧縮される。

 

 

 

その結果、王都の夜天に出現したのは五体の魔龍。それぞれ、別の属性を持ち、重力魔法と複合された龍である。

 

 

 

ゴォアァアアアア!!!

 

 

 

凄まじい咆哮が五体の龍から発せられ、大気をビリビリと震わせる。

 

 

 

巨体を誇り神々しくすらある魔龍の群れに、灰竜達は、本能が己の上位者であるとでも悟ったのか、怯えたように小さく情けない鳴き声を上げた。その瞳には、既にユエに対する殺意の色はほとんどなく、代わりに戸惑いと畏怖が住み着き、主たるフリードに助けを求めるような視線を寄せていた。

 

 

 

フリードもまた、非常識極まりない魔法の行使に白竜の上でポカンと口を開くという醜態を晒していた。その隙を逃さず、ユエは五天龍を地上へと強襲させる。

 

 

 

雷龍が、最初に己を呑み込んだアブソドに突撃し、アブソドも再び喰らい尽くしてやろうと大口を開ける。僅かばかり取り込まれる雷龍だったが、先程とは異なり、雷龍の後ろから飛び出した蒼龍が、その業火を以て相対するアブソドを融解させていった。

 

 

「クァアアアアアアアアン!!」

 

 

生きたまま甲羅から溶かされていく苦痛に、堪らず苦痛の声を上げて固有魔法を解いてしまったアブソドを放置して、雷龍は、次の標的を狙う。それは、嵐龍を呑み込もうとしている別のアブソドだ。神鳴る音を響かせながら雷龍の顎門がアブソドに喰らいつき、その灼熱によって身の端から灰に変えていった。

 

 

 

また、少し離れたところでは、氷龍がアブソドを凍てつかせ、石龍が周囲一帯を根こそぎ巻き込んで石化させていく。雷龍により解放された嵐龍は、身の内に蓄えた風の刃でアブソド以外の黒豹などの魔物共も一緒くたに切り刻んでいった。

 

 

 

流石に、五天龍の行使はキツかったのか、額に大量の汗を浮かべて肩で息をするユエ。早々にアブソドを片付けると、今度は上空の灰竜達に矛先を変えた。

 

 

 

強力無比な竜の群れを従えるフリードに、同じく龍をもって挑むユエ。なすすべなく五天龍の餌食となっていく灰竜達の姿が、そのままフリードとユエの格の違いをあらわしているようだった。

 

 

 

フリードは、ここに来てようやく悟る。自分がとんでもない化け物を相手にしてしまったことを。あの“グリューエン大火山”で自分に痛手を負わせた少年だけでなく、眼前の少女もまた、決死の覚悟で戦わねばならない相手だったのだと。戦う前に言った、自分の下に付けてやろうなどという傲慢な言葉を今更ながらに恥じた。

 

 

 

故に、これより放つ魔法は、文字通りフリードの全力だ。

 

 

「────揺れる揺れる世界の理、巨人の鉄槌、竜王の咆哮、万軍の足踏、いずれも世界を満たさない、鳴動を喚び、悲鳴を齎すは、ただ神の溜息!それは神の嘆き!汝、絶望と共に砕かれよ!“震天”!」

 

 

周囲一帯の空間が激しく鳴動する。低く腹の底に響く音は、まるで世界が上げる悲鳴のようだ。

 

 

 

ユエ自身、知識にあるその魔法に“むっ!”と警戒心を強め、すぐさま防御態勢を整えた。放たれる魔法は範囲が広すぎて回避は既に不可能なのだ。そして、並みの防御では、この魔法には一瞬も耐えられない。

 

 

 

ユエは、五天龍と重力球の守護衛星を解除すると、即行で空間魔法を構築する。他の魔法にリソースを割いている余裕がないからだ。ユエが、驚異的な速度で空間魔法を発動したのと、一瞬収縮した空間が大爆発を起こしたのは同時だった。

 

 

 

空間そのものが破裂する。そうとしか言いようのない凄絶な衝撃が、生き残りの灰竜や地上の魔物すら一瞬で粉微塵に砕いて、大地を抉り飛ばし、天空のまだら雲すら吹き飛ばした。

 

 

 

空間魔法“震天”。空間を無理やり圧縮して、それを解放することで凄まじい衝撃を発生させる魔法である。

 

 

「……んっ、流石……神代魔法」

 

 

しかし、その衝撃の中心にいながらユエはしっかり生き残っていた。服が所々破けていたり、内臓を少しやられたのか口の端から血を流していたりしているが、空間そのものが砕け散ったかのような衝撃の中にいたにしては軽すぎるダメージだ。その軽傷も、一拍後には完全に再生されてしまった。

 

 

 

本来なら、文字通り跡形もなく消し飛ぶほどの威力があったのだが……

 

 

 

その理由は、ユエが“震天”が効果を発揮する直前に空間魔法“縛羅”を発動したことにある。これは、空間を固定する魔法だ。使い方によって防御にも捕縛にも使える便利な魔法である。もっとも、例に漏れず消費コストは白目を剥きたくなるレベルだが。

 

 

 

即行での展開だったので完全には空間を固定しきれず、ダメージを負ってしまったユエだが、“自動再生”による肉体の修復の他、再生魔法により衣服も修復したので、見た目、中身共に無傷である。

 

 

 

周囲の全てが破壊された中、その中心で何事もなかったように佇み月光を浴びる姿は、その呆れるほどの強さと相まって神々しくすらあった。

 

 

 

だが、そんなユエの強さを疑わない者が一人。ユエの死角から強襲する。

 

 

「耐え切るとわかっていたぞ! 少女の姿をした化け物よ!」

 

 

ユエの背後に開いたゲートを通り、極光を放ちながら白竜に騎乗したフリードが出現する。

 

 

 

咄嗟に右側に“落ちる”ことで極光を回避するユエだったが、交差する一瞬で襲いかかった白竜の顎門までは回避しきれず、肩まで一気に喰らいつかれてしまった。

 

 

 

ブシュ!という音と共に傷口から血が噴き出す。白竜は、ユエの片腕を噛み切らず、その鋭い牙を柔肌に喰い込ませたまま、ゼロ距離から極光を放とうとしているようだ。

 

 

 

大魔法の連発で疲弊しきった様子のフリードが、今度こそ殺とったと勝利を確信し歓喜で満ちた眼差しをユエに向ける。しかし、ユエの表情を見た瞬間、フリードの背筋を言い知れぬ怖気が駆け巡り、その眼差しに宿す色は歓喜から恐怖に変わった。

 

 

 

なぜなら、ユエの口元が、まるで三日月のようにパックリと裂けて笑みを浮かべていたからだ。薄い桃色の唇がやけに目に付く。その笑みには、先ほどの神々しさなど皆無。ユエを照らす月明かりは、その荘厳さを示すものではなく魔性を表すものへと変わった。

 

 

 

夜風に吹かれ攫われた美しい金の髪の隙間から煌々と光る紅の瞳が物語る。

 

 

 

すなわち

 

 

 

──私に触れたな?

 

 

 

と。

 

 

 

白い銃の銃口をフリードの方に向け、ユエの口から静かに神代魔法の詠唱が紡がれた。

 

 

「“壊刻”」

 

 

直後、魔性の月光が降り注ぐ夜空に、一人の絶叫が響き渡った。

 

 

「ぐぅああああっ!!」

 

 

白竜はフリードが身悶えしたことで、ユエの腕を噛みちぎる。今度こそ腕を噛みちぎられたユエは、しかし、特に気にした様子もなく重力を操って天空へ上がった。そして、一拍おいて何事もなかったかのように再生された腕の様子を確かめると、全身から血を噴き出して悶えているフリードと白竜を睥睨した。

 

 

「……どう? ハジメから受けた傷は。痛い?」

 

「ぐぅうう! 貴様ぁ、これは……」

 

 

無表情を崩し艶然として月を背負うユエに対し、フリードは壮絶な痛みに歯を食いしばって耐えながら、鋭い眼光を返した。

 

 

 

フリードの状態は酷いものだった。現在のフリードの状態は、胸にある一文字の切創からダラダラと血を流し、砕けた左腕をダランと下げ、内臓が傷ついているのか激しく吐血している。その他にも全身に大小様々な傷が付いており、まさに満身創痍といった有様だった。

 

 

 

それらの全ては、かつて“グリューエン大火山”で相対した時に、ハジメ達によって付けられた傷である。再生魔法“壊刻”──対象が過去に負った傷や損壊を再生する魔法だ。直接・間接を問わないが、半径三メートル以内でどこかに触れていなければならず、再生できる傷は、魔力に比例するという制限がある。

 

 

 

ユエは、出来ることならこの魔法でフリード達を追い詰めたいと思っていた。この戦いは、あくまでユエの個人的な仕返しなのだ。“グリューエン大火山”では、愛おしい恋人を傷つけられ怒り心頭であったのに、仕返しの一つも出来ず逃げられてしまった。あの時から“……次にあったら絶対ボコる”と誓っていたのだ。

 

 

 

そして、再生魔法を“メルジーネ海底遺跡”で手に入れた時に、殺るなら絶対“グリューエン大火山”での一戦を思い出せるように、この“壊刻”を使ってやろうと思っていたのである。ユエの中の“ヤン”な部分が囁いたのだから仕方ない。

 

 

 

しかし、ユエは接近戦が苦手だ。高速で飛べる白竜に乗ったフリードに追いついて、触れて、魔法を発動できるかは微妙だった。なので、適当にダメージを与えて墜としてから使ってやろうと思っていたのだが……わざわざフリード達の方から自分に触れてくれたのだ。思わず、笑みが浮かんでしまったのも仕方ない事だろう。ハジメの敵に、心が“ヤンヤン”してしまうのは止められないのだ。

 

 

「……今の私では……勝利を得られないということか。……かくなる上はっ」

 

「……させない」

 

 

王手をかけられたと察したフリードが歯噛みし、ユエが止めを刺そうと白い銃をフリードに向けたその時、ユエに向けて地上から怒涛の攻撃魔法が放たれた。

 

 

「フリード様!一度お引き下さい!」

 

「我らが時間を稼ぎます!」

 

 

それは、王都侵攻に出ていた地上部隊の魔人族達だった。フリードの窮地を察して救援に来たらしい。

 

 

「お前たち! ……くっ、すまん!」

 

 

救援に来た魔人族達は、満身創痍のフリードと白竜を見て瞳に憤怒を宿し、防御など考えない特攻を敢行した。当然、ただの意気込みだけでユエを殺れるわけがない。しかし、フリードがゲートを開く時間だけはギリギリ稼げたようだ。

 

 

ユエの放った炎槍がフリードと白竜に突き刺さる寸前、フリード達はゲートに飛び込み姿を消してしまった。

 

 

「……邪魔」

 

 

まんまとフリードに逃げられてしまったユエは、未だ“よくもフリード様を!”等と喚きながら攻撃を繰り返す魔人族達を冷たく見下ろすと、白い銃で魔人族達を一人残さず眉間を撃ち抜く。八つ当たり気味に一瞬で殲滅を完了したユエだったが、その表情には、少しの苛立ちが見て取れる。鬱憤は晴れなかったらしい。

 

 

 

ユエが、何とか気持ちを落ち着けようと深呼吸をしていると、戦場には似つかわしくない明るい声が響き渡った。

 

 

「ユエさ~ん!まだ、あの野郎、生きてますかぁ?生きてたら一発殴らせ……うわぁ~何ですか、ここ?天変地異でもあったんですか?」

 

 

ウサミミをなびかせて、空に浮く円盤を足場に跳躍してきたシアが、呆れたような声音で周囲を見渡しながら尋ねた。

 

 

「……逃げられた」

 

 

不機嫌そうなその一言で大体の事情を察したシアは、フリードの意外なしぶとさに内心驚きつつ、苦笑いしながらユエを宥める。

 

 

 

そして、失った魔力を補充しながらしばらく情報交換していると、王宮の一角で爆発が起き、次いで、遥か天空より降り注いだ巨大な光の柱が、外壁の外で待機していた数万からなる魔物の大軍を根こそぎ消滅させるという有り得ない光景を見て、お互い顔を見合わせた。

 

 

「「……ハジメ(さん)」」

 

 

二人の答えはばっちり同じらしい。

 

 

「……取り敢えずマスターも向こうで待っている様ですし、王宮に行きますか」

 

「……ん」

 

 

ユエとシアはハモリながら非常識の犯人はハジメであると断定し、消し飛んだ魔物と巨大なクレーターを一瞥して呆れたような笑みを浮かべると、二人一緒に、ハジメ達がいるであろう王宮に向かうのだった。

 

 

ハイリヒ王国編が終わった後、番外編をやろうと思います。ハジメ達や勇者(笑)達を含めて別世界に転移するという設定なのですが、転移する場所はどのような場所が良いでしょうか?

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