ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強 作:コレクトマン
74話目です。
時間は少し戻る。ちょうど、リリアーナ達が王宮内に到着した頃。
パキャァアアアアン!!
「ッ!?一体なにっ!?」
ガラスが砕かれるような不快な騒音に、自室で就寝中だった八重樫雫は、シーツを跳ね除けて枕元の黒刀を手に取ると一瞬で臨戦態勢を取った。明らかに、普段から気を休めず警戒し続けている者の動きだ。
「……」
しばらくの間、抜刀態勢で険しい表情をしながら息を潜めていた雫だったが、室内に異常がないと分かると僅かに安堵の吐息を漏らした。
雫が、ここまで警戒心を強めているのは、ここ数日、顔を合わせることの出来ないリリアーナと愛子の事が引っかかっているからだ。
少し前から、王宮内に漂う違和感には気がついていた。あの日、愛子が帰還した日に、夕食時に重要な話があるといって別れたきり姿が見えない事で、愛子の身に何か良くない事が起きているのではとも疑っていた。
当然、二人の行方を探し、イシュタルから愛子達は総本山で異端審問について協議しているというもっともらしい話を聞き出したのだが、直接会わせてもらうことは出来なかった。なお食い下がった雫だったが数日後には戻ってくると言われ、またリリアーナの父で国王でもあるエリヒドにも心配するなと言われれば、渋々ではあるが一先ず引き下がるしかなかった。
しかし、雷電が召喚したブリッツ達は別だった。ブリッツは密かに光輝ではなく、雫に愛子を護衛していた他のクローン達のシグナルが消失したことを話す。それ即ち、クローン達は何者かに殺され、愛子はその何者かに攫われたという事だ。ブリッツから聞かされた情報に戸惑いを覚えたが、あまり情報は拡散しない方がいいとブリッツが助言した後、雫は部屋に戻るが、漠然とした不安感は消えず、今のように、どこぞのスパイのような警戒心溢れる就寝をしていたのである。
雫は、音もなくベッドから降りると、数秒で装備を整えて慎重に部屋の外へ出た。香織がハジメ達と共に旅に出てから雫は一人部屋だ。廊下に異常がないことを確かめると、直ぐに向かいの光輝達の部屋をノックした。
扉はすぐに開き、光輝が姿を見せた。部屋の奥には龍太郎もいて既に起きているようだ。どうやら、先程の大音響で雫と同じく目が覚めたらしい。
「光輝、あなた、もうちょっと警戒しなさいよ。いきなり扉開けるとか……誰何するくらい手間じゃないでしょ?」
何の警戒心もなく普通に扉を開けた光輝に眉を潜めて注意する雫。それに対して光輝は、キョトンとした表情だ。破砕音は聞こえていたが、王宮内の、それも直ぐ外の廊下に危機があるかもしれないとは考えつかなかったらしい。まだ、完全に覚醒していないというのもありそうだ。
ここ数日、雫が王宮内の違和感や愛子達のことで、“何かがおかしい、警戒するべきだ”と忠告をし続けているのだが、光輝も龍太郎も考えすぎだろうと余り真剣に受け取っていなかった。
「そんな事より、雫。さっきのは何だ?何か割れたような音だったけど……」
「……わからないわ。とにかく、皆を起こして情報を貰いに行きましょう。何だか、嫌な予感がするのよ……」
雫はそれだけ言うと、踵を返して他のクラスメイト達の部屋を片っ端から叩いていった。ほとんどの生徒が、先程の破砕音で起きていたらしく集合は速やかに行われた。不安そうに、あるいは突然の睡眠妨害に迷惑そうにしながら廊下に出てきた全生徒に光輝が声を張り上げてまとめる。
と、その時、雫と懇意にしている侍女の一人が駆け込んで来た。彼女は、家が騎士の家系で剣術を嗜んでおり、その繋がりで雫と親しくなったのだ。
「雫様……」
「ニア!」
ニアと呼ばれた侍女は、どこか覇気に欠ける表情で雫の傍に歩み寄る。いつもの凛とした雰囲気に影が差しているような、そんな違和感を覚えて眉を寄せる雫だったが、ニアからもたらされた情報に度肝を抜かれ、その違和感も吹き飛んでしまった。
「大結界が一つ破られました」
「……なんですって?」
思わず聞き返した雫に、ニアは淡々と事実を告げる。
「魔人族の侵攻です。大軍が王都近郊に展開されており、彼等の攻撃により大結界が破られました」
「……そんな、一体どうやって……」
もたらされた情報が余りに現実離れしており、流石の雫も冷静さを僅かばかり失って呆然としてしまう。
それは、他のクラスメイト達も同じだったようで、ざわざわと喧騒が広がった。魔人族の大軍が、誰にも見咎められずに王都まで侵攻するなど有り得ない上に、大結界が破られるというのも信じ難い話だ。彼等が冷静でいられないのも仕方ない。
「……大結界は第一障壁だけかい?」
そんな中、険しい表情をした光輝がニアに尋ねる。王都を守護する大結界は三枚で構成されており、外から第一、第二、第三障壁と呼び、内側の第三障壁が展開規模も小さい分もっとも堅牢な障壁となっている。
「はい。今のところは……ですが、第一障壁は一撃で破られました。全て突破されるのも時間の問題かと……」
ニアの回答に、光輝は頷くと自分達の方から討って出ようと提案した。
「俺達で少しでも時間を稼ぐんだ。その間に王都の人達を避難させて、兵団や騎士団が態勢を整えてくれれば……」
光輝の言葉に決然とした表情を見せたのはほんの僅か。雫や龍太郎、鈴、永山のパーティーなど前線組だけだった。
他のクラスメイトは目を逸らすだけで暗い表情をしている。彼等は、前線に立つ意欲を失った者達だ。とても大軍相手に時間稼ぎとはいえ挑むことなど出来はしない。
ならば俺達だけでもと、より一層心を滾らせる光輝にニアが待ったをかける。
「お待ちください、光輝様。貴女方だけで戦うより、早くメルド騎士団長達と合流するべきです」
「ニアさん……だけど」
「ニアさん、大軍って……どれくらいかわかりますか?」
「……ざっとですが十万ほどかと」
その数に、生徒達は息を呑む。
「光輝。いくら俺達だけじゃ抑えきれねえ。……ここはメルドさんと合流して数には数で対抗しなければ勝てねえ。一応俺なりに考えたんだが、俺達は普通の人より強い分、一番必要な時に必要な場所にいるべきだと思う。それには、メルドさん達ときちんと連携をとって動くべきじゃねえか?」
多少脳筋の龍太郎の意見はもっともなものだった。鈴も龍太郎の案に賛成だった。
「うん、鈴も龍っちに賛成かな。今はメルドさんのところにいって合流した方がいいもんね!流石龍っち!」
「お…おう……サンキューな」
「ふふ、私も龍太郎に賛成するわ。少し、冷静さを欠いていたみたい。光輝は?」
幼馴染みと鈴の三人の意見に、光輝は逡巡する。しかし、普段は光輝と肩を並べるほど仲が良い龍太郎との判断を、光輝は結構信頼している事もあり、結局、龍太郎の言う通りメルド達騎士団や兵団と合流することにした。
光輝達は、出動時における兵や騎士達の集合場所に向けて走り出した。何処かで三日月のように裂けた笑みをする者には気づかずに……
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光輝達が、緊急時に指定されている屋外の集合場所に訪れたとき、既にそこには多くの兵士と騎士、ブリッツが率いるクローン達が整然と並び、前の壇上にはハイリヒ王国騎士団副団長のホセ・ランカイドが声高に状況説明を行っているところだった。ホセの状況説明を聞いている最中ブリッツは、部屋で就寝していた雫達を見かけ、無事であった事に安堵する。月光を浴びながら、兵士達は、みな青ざめた表情で呆然と立ち尽くし、覇気のない様子でホセを見つめていた。
と、広場に入ってきた光輝達に気がついたホセが言葉を止めて光輝達を手招きする。
「……よく来てくれた。状況は理解しているか?」
「はい、ニアから聞きました。えっと、メルドさんは?」
ホセの歓迎の言葉と質問に光輝は頷き、そして、姿が見えないメルドを探してキョロキョロしながらその所在を尋ねた。
「団長は、少し、やる事がある。それより、さぁ、我らの中心へ。勇者が我らのリーダーなのだから……」
ホセは、そう言って光輝達を整列する兵士達の中央へ案内した。居残り組のクラスメイトが、“えっ?俺達も?”といった風に戸惑った様子を見せたが、無言の兵達がひしめく場所で何か言い出せるはずもなく流されるままに光輝達について行った。
無言を通し、表情もほとんど変わらない周囲の兵士、騎士達の様子に、雫の中の違和感が膨れ上がっていく。それは、起きた時からずっと感じている嫌な予感と相まって、雫の心を騒がせた。無意識の内に、黒刀を握る手に力が入る。
そして、光輝達が、ちょうど周囲の全てを兵士と騎士に囲まれたとき、ホセが演説を再開した。
「みな、状況は切迫している。しかし、恐れることは何もない。我々に敵はない。我々に敗北はない。死が我々を襲うことなど有りはしないのだ。さぁ、みな、我らが勇者を歓迎しよう。今日、この日のために我々は存在するのだ。さぁ、剣をとれ」
兵士が、騎士が、一斉に剣を抜刀し掲げる。
「始まりの狼煙だ。注視せよ」
ホセが 懐から取り出した何かを頭上に掲げた。彼の言葉に従い、兵士達だけでなくブリッツ達や光輝達も思わず注目する。
そして……
カッ!!
光が爆ぜた。
ホセの持つ何かがハジメの閃光弾もかくやという光量の光を放ったのだ。無防備に注目していた光輝達は、それぞれ短い悲鳴を上げながら咄嗟に目を逸らしたり覆ったりするものの、直視してしまったことで一時的に視覚を光に塗りつぶされてしまった。
そして、次の瞬間……
ズブリッ
そんな生々しい音が無数に鳴り、
「あぐっ?」
「がぁ!」
「ぐふっ!?」
次いで、あちこちからくぐもった悲鳴が上がった。
先程の、光に驚いたような悲鳴ではない。苦痛を感じて、意図せず漏れ出た苦悶の声だ。そして、その直後に、ドサドサと人が倒れる音が無数に聞こえ始める。
そんな中、雫だけは、その原因を理解していた。広場に入ってからずっと最大限に警戒していたのだ。ホセの演説もどこか違和感を覚えるものだった。なので、光が爆発し目を灼かれた直後も、比較的動揺せずに身構え、直後、自分を襲った凶刃を何とか黒刀で防いだのである。目が見えない状況で気配だけを頼りに防げたのは鍛錬の賜物だろう。
そして、閃光が収まり、回復しだした視力で周囲を見渡した雫が見たのは、クラスメイト達が全員、背後から兵士や騎士達の剣に貫かれた挙句、地面に組み伏せられている姿だった。
「な、こんな……」
呻き声を上げながら上から伸し倒されるように押さえつけられ、更に、背中から剣を突き刺されたクラスメイト達を見て、雫が声を詰まらせる。まさか、全員殺されたのかと最悪の想像がよぎるが、みな、苦悶の声を上げながらも辛うじて生きているようだ。
そのことに僅かに安心しながらも、予断を許さない状況に険しい視線を周囲の兵士達に向ける雫だったが、その目に奇妙な光景が映り込み思わず硬直する。それは、ブリッツを含むクローン達が無事であった雫にブラスターを向けていた。
「ブリッツさん!?それに他のクローン達も……一体何をっ!?」
八重樫の問いに堪える事なくブリッツはブラスターの非殺傷のスタンモードで八重樫を撃つ。八重樫は信用していたクローン達に突然裏切られた形で気絶させられてしまう。
「雫っ!!」
「八重樫!?」
「シズシズ!?」
「………」
ブリッツは何も言わず、スタンモード状態のブラスターで光輝たちを撃ち、気絶させた後に別方向からクローン達が報告する。
「コマンダー、作戦の第一段階が完了しました。次の段階に移れます」
「分かった。……よしっお前達、これより我々は主神エヒトの命である
「「「イエッサー!」」」
「「「はっ!」」」
「既に反逆者が侵入されている可能性も否定できない。王宮には隠れられる場所が無数ある。捜索隊を編制、複数に分かれてしらみつぶしに探せ。残りは勇者達の治療後、ここでジェダイ達が来るのを待つ。いいな?……よし、掛かれ」
ブリッツの合図で兵士や騎士達は少数のクローン達と共に来るであろうハジメ達を抹殺する為に行動する。そして、残ったブリッツは待機していたニアに命ずる。
「ニア、お前はここで待機しろ。反逆者を誘き寄せるには彼等やお前の存在が必要不可欠だ」
「…了解しました」
そう命じられた後にニアは、覇気なき声でブリッツの命令を了承する。その時に、ブラスターのスタンモードで気絶させられていた雫は目を覚ます。しかし、つかさずクローンが押さえつける。
「ブリッツ……さん?それに、ニアも。ど、どうして……」
「……」
ブラスターのスタンモードで気絶させられたとはいえ、ダメージがない訳ではない。顔を歪めながらも未だに信じられないといった表情で、雫はブリッツやニアの方を見上げた。
ニアは、普段の親しみのこもった眼差しも快活な表情もなく、ただ無表情に雫を見返すだけだった。対してブリッツは、ヘルメットを被っていた為に表情などは分からなかったが。人が変わったかの様な激変が起きていた。
雫は、そこでようやく気がついた。最初は、ニアの様子がおかしい原因は王都侵攻のせいだろうと思っていたのだが、そうではなく、彼女の様子が自分の周囲を無表情で取り囲む兵士や騎士と雰囲気が全く同じであり、別のところに原因があるのだと。
ニアは、そのまま押さえつけられている雫の腕を取って捻りあげると地面に組み伏せて拘束し、他の生徒達にしているのと同じように魔力封じの枷を付けてしまった。
「どういうこと…なの……ブリッツさん」
「我々は、命令に従っているだけだ」
「命令……?それって、藤原くんの?」
「違う。
「なん……だって?」
すると、いつの間にか目を覚ました光輝達。そして光輝は、ブリッツに何故こんな事をしたのかを問い出す。
「どういう……事なんだ。一体…ぐっ…何故俺達を……裏切ったんだ……」
「これは裏切りではない、主神エヒトの命だ。お前達勇者には、抹殺対象である藤原雷電を始めとする南雲ハジメ達をこちらに引き寄せる為の餌となってもらうだけの事だ。
「まぁ……そういう事になるわね?」
突如と別方向から黒い装甲服を来た一団がやって来た。中にはオルクス大迷宮でハジメが倒したストーム・トルーパーと似た黒い装甲服を来た兵士達が居り、その前衛に二名の上官らしき人物がいた。ブリッツはその前衛にいる二名を上官として認識し、敬礼をする。
「勇者達の確保、完了しました。尋問官」
「ご苦労様。貴方達は引き続き任務を全うしなさい」
「イエッサー!直ちに…」
そう言ってブリッツは、捜索に行った兵士達と共に雷電達の捜索に向かうのだった。雫は何故、彼等が王宮に侵入できたかは謎であったが、一つだけ確信した事があった。
「…まさか…っ…大結界が簡単に…破られたのは……」
「おやっ……以外と察しが良いお嬢ちゃんの様ね?そうよ、私たちが壊したからさ。大結界の仕組みさえ理解できれば壊すのは他愛無いのよ」
雫の最悪の推測は当たっていたらしい。魔人族が、王都近郊まで侵攻できた理由までは思い至らなかったが、大結界が簡単に破られたのは、尋問官と名乗る者たちの仕業だったようだ。尋問官の視線が、彼女の傍らに人が変わってしまったクローン達の反逆に尋問官が関わっていると判断していいだろう。
「あの坊やが召喚したクローンの一部はエヒトの使いが“魅了”で操った後に密かに知られず頭部にチップを埋め込んだのさ。そのチップには、坊や達が反逆者と認識させる為の認識改変効果があり、今の様に彼等クローンは私らの仲間というわけさね。本当の真実ですら知らずにね?」
「馬鹿な…彼等が操られているだけというのか…!」
光輝がクローン達が裏切った衝撃からどうにか持ち直し、信じられないと言った表情で呟く。クローン達は光輝にとって嫌いな存在であるが、自分達とずっと一緒に王宮で鍛錬していたのだ。大結界の中に魔人族が入れない以上、コンタクトを取るなんて不可能だと、尋問官に対して拙い反論をする。
しかし、尋問官はそんな希望をあっさり打ち砕く。
「“オルクス大迷宮”で襲ってきた魔人族の女の遺品を回収しにきた賞金稼ぎの男を知ってるでしょ?そいつがこの国の王宮に忍び込み、王宮の見取り図を入手したというわけさ。その際にエヒトから送られた刺客の案内の下、賞金稼ぎはここの兵士や騎士に見つからずに済んだという訳さ」
尋問官はその証拠に王宮の見取り図を取り出し、雫達に見せびらかす。尋問官の言葉通り、敵は既に内部に忍び込まれ、最終的に見取り図や兵士達や騎士、クローン達を洗脳したのが彼等であったことに雫達はショックを隠せずにいた。
「彼等の…様子が…おかしいのは……」
「その通り、この兵士や騎士もクローン達と同様にチップが埋め込まれているのさ」
雫は、もたらされた非情な解答にギリッと歯を食いしばり、必死の反論をした。
「…嘘よ…仮に何でニアが…他と違うの?……それが分からない…!」
「簡単よ、フォースでアタシらに従う様に催眠を掛けただけさね。そのお陰でアナタ達をここに連れて来させるのがとても簡単だったよ」
そう説明する尋問官。しかし、ここで更なる追い打ちを光輝達に話す。
「それともう一つ、この世界の神エヒトは、たとえこの国が滅びようと世界がどうなろうと知ったことじゃないそうよ?エヒトを信仰していたものから聞いたら一体どのような反応を示すんだろうね?」
尋問官の言葉に光輝は許せないでいた。己の正義感としてなのか、人を操る輩を許せないのか分からなかったが、それでも光輝の怒りとしての起爆剤にしては十分すぎた。
「……許さない。…俺はお前達を……絶対に許さない!!」
そう宣言した瞬間、光輝に取り付けられた合計五つも付けられた魔力封じの枷に亀裂を入れ始めた。“限界突破”の“覇潰”でも使おうというのか、凄まじい圧力がその体から溢れ出している。
しかし、脳のリミッターが外れ生前とは比べものにならないほどの膂力を発揮する騎士達と関節を利用した完璧な拘束により、どうあっても直ぐには振りほどけない。だが、それでも諦めることはなく、やがて魔力封じの枷が壊れ、“覇潰”で押さえつけるクローンを突き飛ばし、聖剣を片手に尋問官に斬り掛かる。黒いストーム・トルーパー達はブラスターで光輝を撃とうとするも、尋問官に制止させる。
「勢い任せの攻撃じゃアタシ達には通用しないよ。ましてや、古臭い剣で相手するなんて命知らずにも程があるよ」
尋問官は、懸架していたライトセーバーを掴み出し、赤い光刃を展開させて光輝の聖剣とぶつかり合う……ことはなく、光輝の持つ聖剣は赤い光刃によって切断され、破壊される。
「なっ…!聖剣が!?」
「悪いけど坊やに構ってやる程、暇じゃないの!」
尋問官はフォース・プッシュで光輝を吹き飛ばす。光輝は、雷電と同じ力を尋問官達が持っていることを身を以て知ることとなった。それと同時に魔力封じの枷を破壊する際に“覇潰”を使ったことで多くの魔力を消費してしまい、短時間で魔力切れを起こし、動かなくなってしまう。これ以上抵抗されると面倒だと判断した尋問官はある事を思いつく。
「これ以上あの坊やに抵抗させられたら面倒ね?なら……
そう言って尋問官は、おもむろに一番近くに倒れていた近藤礼一のもとへ歩み寄る。
近藤は、嫌な予感でも感じたのか“ひっ”と悲鳴をあげて少しでも近づいてくる尋問官から離れようとした。当然、完璧に組み伏せられ、魔力も枷で封じられているので身じろぎする程度のことしか出来ない。
近藤の傍に歩み寄った尋問官は、何をされるのか察して恐怖に震える近藤に向かって再び、ヘルメット越しでニッコリと笑みを向けた。光輝達が、“よせぇ!” “やめろぉ!”と制止の声を上げる。
「や、やめっ!?がぁ、あ、あぐぁ…」
近藤のくぐもった悲鳴が上がる。近藤の背中には心臓の位置にライトセーバーの赤い光刃が突き立てられていた。ほんの少しの間、強靭なステータス故のしぶとさを見せてもがいていた近藤だが、やがてその動きを弱々しいものに変えていき、そして……動かなくなった。
「アンタ達が抵抗すれば何れこの坊やと同じ末路を辿ることになるよ。ならば、無駄な抵抗はしないことさ」
無言無表情で倒れ尽くす近藤を呆然と見つめるクラスメイト達の間に、尋問官の声が響く。たった今、クラスメイトの一人を殺した挙句、その死すら弄んだ者とは思えない声音だ。
「尋問官っ!あなた達はっ!」
余りの仕打ち、雫が怒声を上げる。催眠を掛けられ、操り人形と化したニアが必死にもがく雫の髪を掴んで地面に叩きつける。しかし、それがどうしたと言わんばかりに、雫の瞳は怒りで燃え上がっていた。
「ふふ。怒ってる様ね?その怒りが最も強力な力を引き出す。だからこそ、とっても素敵な役目をあげるわ」
「っ…役目……ですって?」
「私たちと同じ
まさかの尋問官から勧誘されるとは思ってもいなかったと同時に、拒否すれば親友を殺すという言葉に雫の瞳が大きく見開かれる。
「…まさか、香織をっ!?」
「それ以外に何があるのさ?アナタの親友が殺されれば、アナタの力は増すどころか、私たちのとってより尋問官にふさわしい人材になるのよ。そうなれば、最高指導者もお喜びになるよ」
「ふ、ふざけっ!ごふっ…あぐぅあ!?」
怒りのままに、クローン達に抑えられていようとも動こうとする雫に、ニアが剣を突き刺した。
「あまり動かないでください、雫様。これも尋問官様の命です……」
「ぐっ…ニア……!」
「辛い様ね?でも、すぐ楽になるさ。私たち尋問官を受け入れ、己の欲に従えばいいのさ。彼等を切り捨ててね?」
今度は雫の番だというように、ヘルメット越しに甘い勧誘と笑みを浮かべながら歩み寄る尋問官。雫を尋問官側に引き入れようとするのを阻止しようと龍太郎達が必死の抵抗を試みる。
特に光輝は、“覇潰”の反動からまだ完全に回復していないのにも関わらず、無理矢理にでも何とか身体を動かそうとする。すると光輝の目先に、クローン達が持っていたブラスターを目視する。そのブラスターは、光輝が“覇潰”を発動させる前、拘束していたクローン達が所持してたブラスターだった。光輝に吹き飛ばした際にブラスターも吹き飛ばされた様だ。
聖剣を破壊され、武器を所有していないこの時の光輝は、仲間を救う為にブラスターを手にしようとするが、脳裏にある不安が過る。
この武器を使ったら、自分が信じていたものを否定してしまうのではないのか?と……
しかし、刻一刻と雫の危機が迫っていた為に選択の余地がなかった。光輝は幼馴染みの雫を助けるべく、ブラスターを手にする。そしてブラスターの銃口を尋問官の方に向ける。
「雫を…連れて行かせる……訳には……いかない!!」
光輝は最後の力を振り絞り、雫を救うためにブラスターの引き金を引こうとする。しかし……
「相変わらず詰めが甘いのよ、坊や…!」
尋問官は光輝の行動を読んでいたのかフォース・プルで光輝を引き寄せる。そして尋問官と光輝がすれ違い様に赤い光刃を一閃。ブラスター諸共、光輝の右腕を切り落とす。
「グアァっ!?」
「光輝っ!!」
「フッ……」
龍太郎は、光輝が右腕が切り落とされたことに声を上げ、そして尋問官は、右腕を切り落とした光輝を龍太郎達がいる方にフォース・プッシュで吹き飛ばした。龍太郎達は吹き飛ばされた光輝を受け止める。龍太郎達は光輝に声をかけるも、光輝は“覇潰”の反動や尋問官に右腕を切り落とされた痛みによって気を失っていた。
「まだ動けることには驚いたけど……とんだ茶番だったね?」
雫は、出血のため朦朧としてきた意識を必死に繋ぎ留め、せめて最後まで眼だけは逸らしてやるものかと尋問官を激烈な怒りを宿した眼で睨み続けた。
それを、尋問官は何処か期待気に雫を見下ろす。
「次はアナタの番。これ以上仲間を殺されたくなければ選択することだね?服従か、死か。そのどちらかをね?」
雫は、尋問官を睨みながらも、その心の内は親友へと向けていた。届くはずがないと知りながら、それでも、これから起こるかもしれない悲劇を思って、世界のどこかを旅しているはずの親友に祈りを捧げる。
(ごめんなさい、香織。次に会った時はどうか私を信用しないで……生き残って……幸せになって……)
何も答えず雫は、なお祈る。どうか親友が生き残れますように、どうか幸せになりますように。私は先に逝くけれど、死んだ私は貴女を傷つけてしまうだろうけど、貴女の傍には彼がいるからきっと大丈夫。強く生きて、愛しい人と幸せに……どうか……
沈黙は死を望むと断定した尋問官は、ライトセーバーの赤い光刃を雫に向けて突き下ろそうとする。色褪せ、全てが遅くなった世界で雫の脳裏に今までの全てが一瞬で過ぎっていく。ああ、これが走馬灯なのね……最後に、そんなことを思う雫に突き下ろされた赤い光刃は、彼女の命を……
…………奪わなかった。
「え?」
「何?」
雫と尋問官の声が重なる。
尋問官が突き下ろしたライトセーバーは、掌くらいの大きさの輝く障壁に止められていた。何が起きたのかと呆然とする二人に、ここにいるはずのない者の声が響く。ひどく切羽詰まった、焦燥に満ちた声だ。雫が、その幸せを願った相手、親友の声だ。
「雫ちゃん!」
ハイリヒ王国編が終わった後、番外編をやろうと思います。ハジメ達や勇者(笑)達を含めて別世界に転移するという設定なのですが、転移する場所はどのような場所が良いでしょうか?
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