ぜかまし。
「おや、ソラじゃないか。おはよう。
こんな朝早くからどうしたんじゃ?」
「おはようございます、マミゾウさん」
オレは早朝の町で、とある妖怪と出会う。
モフモフ……げふんげふん、大きな尻尾が特徴的な
茶髪の女性だ。
勿論、人間ではなく妖怪。
この町の寺、命蓮寺に住んでいる狸。
二ッ岩マミゾウさん。
この町に来た時から、
命蓮寺にはお世話になっている。
「少し買い物に来たんです。
実は昨日、お客さんに食べ物が食いつくされて」
「んん?どんな客じゃ?
結構な食料を買い込んでおったろ?」
「幽霊………あ、亡霊って言ってたっけ。
桃色の女性と、刀を持ってる白い女の子です」
「あぁ………それは災難じゃったの………」
どうやら知っているようだ。
あまりよろしくないが、気になるので聞いてみる。
ちなみに、あの2人だが未だ家で寝ている。
泥酔しているし、センとミズが見張っている。
問題はない、だろうと思う。
「あの2人は冥界の管理者とその従者じゃよ。
食い尽くしたのは桃色の方じゃろう?」
「はい。もの凄い勢いで」
「大食いで有名なんじゃよ。
少し前、宴をしたときは驚いた。
10人前は消えたぞ、奴の胃袋に」
「なにそれこわい」
じゅ、10人前…………
亡霊ってエネルギー変換効率悪いのか?
「だから店が開く前から出てきたのか」
「はい。にとりに持っていく
「感心じゃの………その年で。お主、人間じゃろ?
妖怪でも好き勝手生きとるのになぁ」
「あはは………それが存在意義、
みたいなものと聞きましたよ」
妖怪、というのは化物を表す単語ではない。
妖怪とは一つの概念のようなものであり、
それゆえに、肉体は丈夫であるが精神に
異常をきたすと消滅することもあるという。
(一部を除いた)妖怪に″死″の概念は無い。
だが、存在を忘れ去られる等、
無かったことになると本当に消えてしまう。
だから、妖怪は自由に生きる。
自身を変えることは出来ないから。
妖怪を変えるのは、何時だって人間なのだから。
────人間とは、別の意味で儚い。
「まぁそれもそうじゃな。
自由が一番、酒が旨くなるものじゃ」
「また今度来てください。
特別にサービスしますよ」
「それは楽しみじゃ………お、珍しい客じゃな?」
「え?」
マミゾウさんは唐突に眉を寄せ、
そしてニヤリと笑う。
オレも何となく、感じとる。
──────かなり大きい妖気だ。
それは、ゆっくりと此方へ近づいて来た。
「珍しいの、お前さんが人里へ
来るのも一年振りくらいじゃな」
「そりゃあそうよ、やっと異変も落ち着いたし。
─────外の世界から
幻想入りした人間もいるって聞いたし、ね」
背筋に悪寒が走る。
狂気を帯びたフランと似た、
鼠を追い詰めた猫のような笑いを浮かべる女。
すぐに後ろへ下がる。
どんな弾幕、攻撃が来ても逃げられるように。
それが、意味を成さないと分かっていても。
「幽香、殺すのか?
………あまり感心せんな」
「運が悪かったのね。人間に会わないよう、
早朝から出てきた私に鉢合わせるなんて」
「…………こんな早朝から美人2人に
会えるのは、運が良いのか悪いのか、ですね」
冗談(本心だが)を言って自身を鼓舞する。
冗談を垂れ流して笑っていないと立ってられない。
最悪、能力も使えるように腕に力を込める。
「あら、お世辞が上手ね」
「………別段、お世辞って訳でもないですけど」
「ははは、嬉しいの」
「フフ、美人なんて
言われたのはいつ振りかしら?」
威圧感は収まらない。
選択、行動、言動を間違えれば即死だ。
慎重に。
女は口に手を当て、
見定める様子でこちらを窺い、一歩近づく。
ふわり、と。風に乗って花の香りがした。
つい、口に出てしまう。
「薔薇………?」
「へぇ」「っ!!」
一瞬。一瞬だった。
5メートルはあった距離を詰められ、
そして肩を掴まれる。
「分かるかしら?」
「………」
息を飲む。
……………選択は、間違えてはいけない。
正直に答えるべき、だろう。
「………………薔薇の、甘い、匂い。
その他にも、花の匂いがします」
「言える?花の名前、よ」
「………ボロニア、ヒヤシンス。どちらも甘い香り。
春の花としては、とても良いかと」
沈黙。
…………幻想入りする前のこと。
酒屋をやっていて、香りが強いのは悩みの種だ。
だから花を店の外で育てていたことがあった。
ワインなどにも薄く薔薇の匂いが染み、
外国人からの評判が良かったことを覚えている。
都合が良かった。良すぎた。
幸運にしては、大吉以上のレベルだ。
「凄いわ!」
「おう"っ!?」
肩を大きく揺さぶられる。
変な声が出るが、威圧感が消えて
体から力が抜けたせいでガンガン揺らされる。
「まさか花の名前を当てられるなんて!」
「うぉううぉううぉううぉう」
「幽香、揺らし過ぎじゃ。ソラが死んでしまうぞ」
「あら、ごめんなさいね?」
な、なんか急に態度変わった………
てかヤバい。世界が回ってる。
ぐるぐるぐるぐる………
「うぷ」
「ふふ、怖がらせて悪かったわね」
緑色の髪の女性は、ニコリと微笑む。
マジで怖かった………
「ふぅ、危うく手が出てしまうところじゃったぞ」
「マミゾウさん、助けて下さいよ………」
「いやぁ、儂も幽香と戦うのは……ちとキツイ」
「私もご免よ」
マミゾウさん、かなりお強い。
それでも手に余るのか………怖っ。
「私は風見 幽香。話は聞いているわ、酒屋さん」
「ソラ、です。お店には来ないで下さい。怖い」
「後で行かせてもらうわ」
「慈悲なし」
もういいや。本音で大丈夫っぽい。
「それにしても、
花の名前が全部分かるだなんて!
私、貴方を気に入ったわよ!」
「えぇ…………」
「儂も驚いたぞ?」
オレは経緯を説明する。
2人とも興味深そうに聞いてくれた。
「ますます貴方のお店に行きたいわ」
「勘弁してくださいよ………」
結局、食料を買い込んで、マミゾウさん、
幽香さんを連れてオレは帰宅したのだった。