こうして、泥田坊は山へ帰って行った。
正確には不穏なオーラを放つ水神様から
逃げて行ったように見えたが。
「さて、ソラ様」
「あ、はい」
水神は改まってこちらを見る。
そして正座し──────オレに頭を下げた。
「「ぶふぅっ!!?」」
「!?」
それを見てオレは驚きから言葉を失い、
後ろの河童少女と人魚少女は噴き出す。
それでオレは尚も驚く。
そんなオレににとりが走り寄ってくる。
「そ、ソラ!平伏!!平伏しないと!!」
「え、あ?」
「いえ、その必要はありません」
「ひゅい!?」
水神は頭を上げる。
にとりに頭を押し付けられるので
オレも一応座って視点の高さを同じにする。
「えーと、1ついいか「敬語!!」……いいですか」
「はい、なんでしょう?」
「あんた……あなたは、ミズ、でいいんですか?」
「えぇ、貴方様からの愛称ですね!
私、それがとても気に入っているんです!」
「は、はぁ………」
妙に食いつくな………
水神はニッコリと嬉しそうに笑う。
つーか貴方様ってなんすか………
「では、改めて自己紹介させて頂きますね。
私は
蛟………マジですか。
マジもんの水神様かぁ……
てーかオレの付けた名前、的を射てるな。偶然。
「ソラ様、今後ともミズ、と。
その無理をした敬語もいりませんよ」
「あ、わかった」
「凄いねソラ、水神様のお気に入りじゃん。
あ、ソラ様って言った方がいいかな?」
「やめてくれよ、ソラでいい」
にとりがからかってくる。
堅苦しいのはどうも苦手なんだよなぁ。
なんつーか、見た目が同じくらいの奴なら
凄い違和感を感じる。
慧音さんとかは別だけど。
「それで、私から………
ソラ様に………その………」
「ん?」
「お願い、が………あるのです」
なんだろうか、水神様からの頼みとは。
オレ、ついでににとりとわかさぎ姫は息を呑む。
「私を………まだソラ様の御家に
置いて頂けないでしょうか!?」
「そんなこと!?」
「そ、そんなこととか言っちゃうの!?」
いや別に良くね?
オレ生贄にでもされるのかと思ったけど。
心配して損した気分だよ?
「よ、良いのですか?
私、姿を隠していましたし………」
「いや、一食分食費増えるくらいだし問題ないよ。
そこまで霊夢みたいにヤバい生活してないから」
アイツ結構ギリギリの生活らしい。
最近は異変もないらしく、霊夢と魔理沙によると
地獄の動物の霊たちを成敗したのが最後らしいので
報酬による金が入ってこない。
更に、(これはオレが悪いの?)
オレの店は妖怪たちの間でも結構有名らしく、
人妖問わず飯が食べれる、酒が飲める、それで
人間と妖怪の交流も増え、妖怪退治の依頼もない。
霊夢はこの前死にそうな顔してたから
タダで酒と飯を出してやった。
ついでに二日分の飯を持たせたら、
泣いて喜んでたのでドン引きした。
どんな生活してんだ。
関係ない話に脱線したな、悪い。
「まぁ別に構わないよ?」
「よかった………ありがとうございます」
「さて、それじゃ………セン、傷、大丈夫か?」
「ワフゥ」
忘れられてなくて良かった、
というような顔のセンを撫でる。
打撲だったようだが、
モフモ……毛皮で助かったようだ。
「よし、んじゃ帰るか」
「うん、お疲れ様。
気を付けて帰りなよ」
「さよなら~」
「じゃあねー」
オレはセン、ミズと共に里へと歩き出す。
まぁ色々大変だったが、問題なかろう。
里の水も綺麗になった筈だ。
「悪趣味」
誰もいなくなった森の中。
山の源流でリボンを外した、
成長した姿のルーミアはそう呟く。
源流となる池は汚染が無くなり、
美しい水が涌き出ている。
「あら、人喰い妖怪に
そう言われると傷つきますわね」
唐突に空間に裂け目が生まれ、
そこから女性が現れる。
女性の背後にある空間は、
不気味な多数の目玉がギョロついている。
「遠回しに、しかも他の妖怪まで
巻き込むのが悪趣味と言ったのよ」
「ふふ、それはただ、
〝運が悪かった〟と思ってもらいたいですわ」
彼女が今回の泥田坊を仕向けた原因であると、
ルーミアは事情聴取により見抜いた。
しかも、彼女が首を狙っている者は1人。
それに河童や人魚まで巻き込んだのだ。
彼女が何故そこまでするのか───
ルーミアは不可解だった。
「しかもあなた───人里まで細工したのね」
「あら、そこもお見通し?」
今回、何故ソラがここに赴いたのか。
タダでさえ危険な里の外へ出るなら、
慧音たちが来る筈だ。
しかも今回、ソラは慧音に怒られることを
配慮していなかった。
前に酒屋に行ったときは
こっぴどく叱られたと言っていたのに、だ。
それはつまり、彼女が里全体に細工を施したから。
「それにしても、私の方が不可解ですわ。
どうして人喰い妖怪が人間の味方を?」
「…………そうね、簡単に言えば、
不味そうに見える人間を初めて見たからよ」
「なら嫌悪感でも抱くのではなくて?」
「不味そうでも嫌悪感を抱くとは限らないわ。
…………………先入観は自己を滅ぼすわよ?」
その言葉に、彼女は目を細める。
「私が、私の理想が、彼に敗北すると?
────────────あり得ない、
そんなことが、あっていい筈がないのよ」
彼女は再びスキマの中へ。
空間の裂け目が閉じ、姿が見えなくなる。
宵闇もまた、その姿を消していた。
本当に誰もいなくなった源流で、
水の音だけが響いている。