青い炎と同時に撃たれる紫の炎を掻い潜り、
重力に身体をあずけ、疾走する。
唐突に弾幕が止まり、
部屋の壁に無数のスキマが開く。
「またスペルか………!?」
「結界、〝光と闇の網目〟!!」
スキマから赤と青の光の線が一直線に出現する。
と思った瞬間、スキマからレーザーが発射される。
「っ!!」
ギリギリで部屋を抜け回避。
重力を流して着々、だが
その次の部屋にもスキマが開いていた。
「おいおい、マジか………っ!」
同時に八雲紫からの弾幕も飛来する。
この限られた空間で弾幕まで避るのかよ!?
スペルは一回きりとはいえ、これではジリ貧。
こちらが立ち止まった瞬間にも八雲紫は空間を
拡張しどんどん距離を離される。
スペルも聞いていたのだけで凄まじく多い。
完全にラスボスだなこりゃ。
「とか、言ってる場合じゃねぇか!」
レーザーと弾幕を避けるのだけで地獄なのに
その速度があがる近距離まで
接近しないといけない。
模倣スペルで超長遠距離攻撃する手もあるが、
スキマに吸収、反撃されるのが確定する。
「……………やるしかないか」
極限まで意識を弾幕と熱線に集中させる。
その間を抜けて八雲紫まで一気に
接近するルートを探る。
先の部屋の向きから重力の向きを判断、
覚悟を決める。
「賭けの時間だ、行くぞ!!」
手足に能力を集中、紫電を纏う。
スキマから熱線の線が出る前に速攻で。
畳を蹴り、レーザーの間を抜け、
弾幕を壁を蹴って避ける。
走ってダメなら蹴って速度を一気にあげる。
「っ!?」
レーザーが発射されるより早く部屋を抜け、
弾幕は厚くなるが狙いが定まっていない。
軽く避け、そしてその部屋を抜けて
八雲紫に接近する。
「ぶっ飛べ!!」
「ぐ、ぁ!?」
蹴り飛ばす。
大きく後退させたが、ダメージは与えられた。
一撃で倒せるほど甘く見てはいない。
こちらも、倒せるか不安になってきたが。
「……ふっ、でも、まだ浅いわ」
「ご、ふ………っ、はぁっ、はぁっ、
ち、くしょう、持ってくれよ、オレの身体……」
凄まじい嫌悪感、血を吐く。
身体中の傷が開き、血が噴き出す。
………不味い、眩暈がする。
膝をついてしまう。
「ここまでのようね」
「はっ、まだ、立て、るぞ………」
「やはり人は妖怪には勝てないのよ、
それは絶対に覆すことの出来ない事実」
違う。まだ、まだ終わっていない。
終われるか、こんな場所で。
「たとえ貴方が運命を覆す力を以てしても、
そこに限界はないとは限らないのよ」
「力じゃねぇ………根性だ……
確かにオレは力に頼ってるけど、
まだ終われねぇんだよ、約束したからな……!!」
藍とルーミアに頼む、と言われた。
靈夢に出来ることをするのよ、と言われた。
センに必ず帰る、そう約束した。
今までもそうだった。
誰かの声が聞こえたんだ。
悲しい声がして。
オレはそんな声を聞きたくないから、
立ち上がったんだ。
紅魔館でも、白玉楼でも、あの森でも。
いつかどこかで、悲しい声がした。
誰かが泣いていた。
今も、聞こえるんだ。
「声が、聞こえた……」
そうだ、見捨てられないんだよ。
泣き声が聞こえなくなるまで、立ち続けるんだ。
同じだった。
染み付いてるんだ、幻想郷の、どこにいても。
同じ泣き声が、聞こえる。
「お前の声だ…………八雲 紫」
立ち上がる。
そうだ、あの白玉楼の夜に見た、
炎と屍の山の上に立って泣く少女の夢。
「何を…………」
「スキマ妖怪…………
人の姿をした、ただ1人の妖怪。
元から妖怪なら、
見た目に何かしら特徴があるんだ」
わかさぎ姫、小傘、文、椛など、
最初から妖怪だったなら、何かしら特徴がある。
だが、元人間は一見、人にしか見えない。
慧音さん、一輪、芳香とか。
そうだ、
「聞いたことがあるんだ………ごく稀に
「……………」
「半妖とか、そうらしいけど。
八雲紫、お前、妖怪でも人間でもねぇよな」
「…………、……………………黙りなさい」
歯軋りの音が聞こえる。
だが、止めるつもりはない。
「何にもなれなかった、はみ出し者、ってとこか」
「黙れ」
「人間だから霊力もあった。
霊夢はお前に霊力の扱いを教えてもらった、
って言ってたんだ。
妖怪がそんなこと出来るとは思えなかった、
だけど、やっと納得がいったよ」
八雲紫は、何からも外れた存在。
妖怪、人間、神の境界にある者だ。
だからこそ、境界を操ることも容易なこと。
「やっと見つけた。
泣き声は、お前の声だったのか」
「……………」
「ずっと気になってたんだ。
オレ、妖怪の気みたいなのに敏感でな。
お前の気配、全く感じなかったから」
彼女は、迫害され続けた少女の成れの果て。
だからこそ、全てにおいて達観し、
神すら恐れる力を持っていた。
何故戦う、お互いに傷つけ合うことに
一体何の意味があるの、と泣いていた。
だからこそ、自分自身も含めた全てが
幸せになれるように願い、幻想郷を創った。
言うなれば、幻想郷そのものだ。
「優しさは、一線を越えたら暴力だ。
優し過ぎんだよ、お前は」
あー、やる気なくす。
家燃やされた時点では悪意しかなかったのに。
裏を返せば幸せを願う乙女とか。
笑うしかねぇよ、こんなの。
「黙れ!!
貴方に私の何が分かる!!」
「知るか」
「は、ぁ!?」
レミリアとの時も言ったなぁ、と思いながら、
そう断言した。
「お前の努力も、願いも、オレは知らねぇ。
だけどな、その結果が間違ってたら
間違いだって言うのが何も知らねぇ他人だ」
「…………ッ!!」
「オレは幻想郷に来て良かったと思ってる。
何度も死にかけてでも、それでも楽しいから。
幻想郷で色んな人たちと会えたから。
……………でも!!」
「ふざけるな…………!!」
「幻想郷を廻すのは間違ってる。
指摘してやる奴はいなかったんだろ?
ならオレが、何度でも言ってやるよ!!」
全身全霊、立ち上がって叫ぶ。
これが、八雲紫にとっての
最初で最後の真の理解者だった。
「お前の幻想郷は、間違ってる!!!」
紫は泣きながら、それを否定する。
「私は間違ってない」と。
心の底では気づいていても。
叫ぶ、自身のやってきたことは無駄ではないと。
それでも彼は、血を拭って立ち上がる。
「なら教えてやる、
幻想郷は、人も、妖怪も、神も!!」
涙が、止まらなかった。
「間違いを通り抜けて!!!
未来へ、その足で進んで行くんだ!!!!」
違う、と八雲紫は弾幕を張る。
「間違いだって認めろよ!!!
八雲 紫!!!」
最後の力を振り絞り、彼は走り出す。