楔side
姉さんの特訓の第二段階が終わったということで、今日は晩御飯はご馳走になった………まぁ全部僕が作ったのだけど
「あぁ美味しかった」
「えぇ美味しかったわ………でも今日のメインはこっちじゃないわ」
「わかってるよ、お酒でしょ。ちゃんとおつまみも用意してるよ」
「今から作ってもらおうと思ったのに、お姉ちゃんの考えてることはお見通しってことね。さすがお姉ちゃんの弟だわ」
嬉しそうな顔で小さく笑ってる
「本当、昔じゃ考えられなかったわこんな生活」
姉さんは僕に独り言をしゃべるような口調で話だした
「楔が来てから、世界に色がついていったように感じたわ。今まで私が見てきた世界は全部色褪せていた。なんでも知っているんだもの、見るもの全てが新鮮じゃなかったわ」
「お酒を飲みながらする話でしょそうゆうのは………このお酒でいい?」
「………酔ってない時に言っておきたかったのよ。お酒はそれでいいわ、今日のために買っておいたお姉ちゃんのお気に入りよ」
蓋を開けると姉さん、僕の順に注いで初めてのお酒を飲む………
「………苦い」
「口にあわなかった?」
「でも、嫌いじゃない」
「それは良かったわ」
そんな様子をみていたら姉さんもお酒を口にする
「楔と飲むお酒は格別ね。今までで一番美味しいわ」
そのまま注いだ分を飲み干した姉さんはこちらを向くと
「お酌してくれる」
「もちろん」
再び注ぎ入れる。僕もちびちび飲みながら三杯目を飲み終えた頃
「さっきの続き、聞いてくれるかしら?」
「うん、僕も聞きたい」
姉さんは自分のことを僕に話さない。実際、ここで過ごして一年ちょっと経つけど姉さんのことを僕はそんなに知っていない。だから姉さんがさっき話し始めた時少し嬉しかった。姉さんに本当の家族と認められたような気がして、でもそう思っていることが少し気恥ずかしくてお酒の力を借りようと話の腰を折ってしまった
「あら、そんなこと思ってたのね」
………家族愛ってすごいねやっぱり
「お姉ちゃんが自分の話をしなかったのは単に話す機会がなかったからよ。あと、楔のことは楔が弟になった時から本当の家族以上に家族だと思っているから安心しなさい」
素直にすごく嬉しい
「それじゃあ続きね。………私の家は薬師を代々営んできたわ。私はその家で末っ子として産まれたの。初めの頃は普通の子供だったと思うわ、でも年が経つに連れていつの間にか私は賢者と呼ばれるまでになっていたわ………その時から親も兄姉も皆私を家族じゃなく賢者として扱い出したわ。今思えば家族と呼べる人間は、この時他人になった」
遠くを見るように、ときに寂しそうな、辛そうな顔をして話を続けていく
「ここに一人で住んでいたのも家に私の居場所がなかったから。この街には私の居場所はここにしかないのよ。どこに行っても特別扱いされる、そんな生活に絶望して新しい薬ばかり作ってた………私の知らないことがないと生きている心地がしなかった。月に行くのもそれが原因よ」
月に行くのをやめようとしないのはそれもあるのか………
「そうね……それもあったけど、今ではもうないわ。私が月へ行くのはここまで進めた計画を最後まで見届ける義務があるからよ。でも楔を一人にしてしまうことには変わりない………ごめんね」
「いいよそんなこと。姉さんは姉さんの義務を果たさないと」
「……ありがとう楔………話がそれたわね。そうやって日々の生活に何も感じなくなっていた時に森で楔を見つけたのよ。最初は私の薬作りに協力してもらおうと記憶の無い楔をこの家に置いたわ………でも日が経つにつれて、楔の人柄に触れていくにつれて、家族を思い出すようになっていった。あの日、私が楔を殺さなかったのは、ただ単純に私を私として見てくれる家族が欲しかった………きっと見てくれるなら誰でもよかったのよ。そう思うと最低な女ね私は」
「そんなことないよ。なんと言おうが姉さんは最高の姉さんだ。身寄りも無く記憶も無い僕に仕事をくれた、住む家をくれた、家族にしてくれた、勉強を教えてくれた、身を守る術を教えてくれた………生きる意味をくれた。たまに暴走したりもするけど、僕にいろんなものをくれた姉さんが、僕は好きだよ……………もちろん家族として」
お酒が回っているのか普段言わないことがスラスラとでてくる
「今の話を聞いてそう言ってくれるのは楔だけよ………でも嬉しい。お姉ちゃんも楔のことは大好きよ……………もちろん家族として」
そう言って微笑んだ姉さんの目には涙がみえた
「楔が来て、何から何まで生活が変わったわ。全て新しく見えた。それもこれも楔のおかげよ………ありがとう、私と出会ってくれて」
「こちらこそありがとう、僕を拾ってくれて」
そのままお互いに一言も口にすることなくお酒を飲み続けた………ひどく心地が良かった
・・・・・・・
・・・・・
・・・
永琳side
お酒を飲んだおかげか、今まで思っていたことを楔に打ち明けられた………ついでに楔の本音も聞けちゃった。やっぱり可愛いわウチの楔は
「楔大丈夫?」
「らいじょうぶらいじょうぶ」
酔いが回ってきたようね、私はまだまだいけるけど
「大丈夫じゃないでしょ、部屋に連れてってあげるわ」
楔に近づいて手を取ろうとするが楔が唐突に立ち上がったので空振りに終わってしまう
「一人で行けそう?」
そう聞いた私に
「………お姉ちゃん」
「へっ?」
「チュ」
楔はキスをしてきた
「おやしゅみ〜」
そのままバタリと倒れ込んで寝てしまった
「…………………………ハッ!!」
突然のお姉ちゃんコールとキスで意識が飛んでいた
「ファースト………」
私と楔、互いに………楔の方はおそらく
「まぁ楔以外にあげる相手もいないんだけど楔でよかったわ」
それにしても楔は酔ったらキス魔になるのか………
「何処の馬の骨とも知れないやつにあげるくらいならお姉ちゃんが最初をもらってもいいわよね」
事後承諾………楔は聞いてないけど
「それはそうと楔は性格いいし顔もまぁいい。お姉ちゃんと離れ離れのうちに楔に惚れてしまう娘がいるかもね………いや絶対いるな」
そうなったら………
「まずはお姉ちゃんである私から了承を得ないと交際も何も認めないわよ」
それとも楔が欲しければ私を倒しなさいの方がいいかしら?
…………………その前に床に広がってく血の池をどうにかしないと………血が足りないわ
この時未来で寒気に襲われた者がいたとかいなかったとか