……………何も無いところからの始まりだった
……………何も知らないところからの始まりだった
……………それでも、この日々は幸せだった
……………僕がいて、姉さんがいて
……………料理したり実験したり、修行したり話をしたり
……………家族ができたり
……………毎日が楽しかった
……………毎日が大切な……僕の大切な思い出だ
……………絶対に忘れたりしない思い出
……………これがあればきっといくらだって待っていられる
……………でも、やっぱり一人は寂しいから
……………早く帰って来て
……………それまで………また会うその日まで
……………ずっと、待っているから
これは僕と姉さんの別れの話
また会う日までの別れの話
…………………
……………
………
「着方はこれであってるかな?」
白と赤の姉さんから貰った服を着て、普段よりも早い朝を迎えた
「姉さんはまだ寝てるだろけど…………少し悪いけど起こそうかな」
…………今日は少しでも長く一緒にいたいからね
「楔?入るわよ」
扉の向こうから姉さんの声が聞こえた……………意外にも起きていたようだ
「ん?入っていいよ」
僕の返事を受けた姉さんは僕の部屋に入ってきた
「おはよう楔」
「うん、おはよう姉さん」
朝の挨拶を済ませると姉さんは僕をじっと見つめていた…………僕を、と言うよりその格好の方を
「どう?似合ってるかな?」
袖を持ち少しだけ広げて見せる。正直この服を貰った時に少々違和感を感じたので似合っているかどうか聞いてみたかったのだ…………なんか本来僕が着るような物じゃない気がして
「えぇ、とても良く似合ってる………………………一瞬妹になったのかと思ったわ」
「へ?」
似合っていると言われて安心したが、姉さんがボソッと言った言葉は良く聞こえなかった…………なんて言ったのだろう?
「いえ、なんでもないわよ」
それなら別にいいのだが、なんか男としての尊厳のような物が貶められているような予感がしてならない。姉さんから他の服を着る時にもこんな予感に苛まれることがある……………ネコミミと尻尾を渡された時には冷や汗が止まらず必死に断ったのは記憶に新しい
「今日は早いわね」
「少しでも姉さんと一緒の時間を作りたかったからね」
珍しく早く起きている姉さんを見るときっと姉さんも
「お姉ちゃんと同じこと考えるところを見ると、やっぱり私達は仲良し義姉弟ね」
やっぱり同じことを考えていたようだ
「今更だよ、そんなこと。じゃあ朝ごはんにしよっか」
「それもそうね。お姉ちゃんも手伝うわ」
姉さんと料理するのも久々で…………これで暫くは出来ないのだなと思うと寂しく感じた
今日は僕と姉さんの別れの日なのだから
・・・・・・・・・
「「ごちそうさま」」
姉さんと作った朝ご飯はやはりと言うべきか、いつもよりも美味しく感じた
「楔は今日何したい?」
と、姉さんから聞かれた
「あの家まで歩いて行きたいな」
あそこまで行くのは相当時間がかかるだろう、夜くらいには着くはずだ………あれを見せるのにはちょうどいい
「そんなことでいいの?」
「もうほとんどやり残したこと無いし、姉さんと一緒に居られるからいいよ」
「嬉しいこと言ってくれるわね」
「それにこの家からは能力使ってでしか言ったこと無いし、歩いてならちょうど夜には着くでしょ」
言ってからしまったと思った。これでは夜に何かあるようじゃないか!
「あら、夜に何かあるのかしら?」
………やっぱり気づいちゃうよね。でも驚いて欲しいから秘密にしなければ………
「い、いや何も無いよッ!?うん、何もッ!」
………どうだ
「そうなの」
………ふぅ……どうやら乗り切ったようだ。バレないでよかった
「それじゃあ行きましょうか」
「うん!」
僕のサプライズ、喜んでくれるだろうか
・・・・・・・・・
時刻はもう三時をになっていた
「少し遅くなったけどお昼にしよう、おにぎり作って来たんだ」
「おにぎりなんていつの間に……」
「朝ご飯を作る時に一緒にね」
ご飯に具を入れて握るだけだから五秒程で一個出来る。二年台所を任されて得た技術だ
「この辺も随分来たわね」
「あんまり憶えてないけどここで姉さんに拾ってもらったんだよね」
「特訓の鬼ごっこもだいたいここでやったわね」
すべてはここから始まったのだと思うとただの変哲もない森にも愛着を感じるようになってしまう。特訓の時には当てられた個数を毎日木に刻んで自分の成長を確認したものだ
「はい、おにぎり」
「いただきます」
「どう、新作のハチミツ梅なんだけど美味しい?」
「とても美味しいわよ。よく作れるわね」
「まぁね」
自信があったので褒められて安心した。逆にまずいって言われたらどうしようと思ったよ…………………ムッ!?
「あえて言うならお婿さんだよ………」
姉さんの思考の内容があまりにも心外で少し凹む………
「そうしょげないで、姉さんが悪かったわ」
「うぅ、冗談きついよ」
…………………冗談じゃないと聞こえた気がするが………気のせいだよね?
そうこうしているうちに時間は経っていった
・・・・・・・・・
「随分暗くなってきたわね」
「そうだね…………急がないと」
ひらけた場所で観ないとせっかくの絶景が台無しになってしまう。そう思って急ぎ足で家へ向かう。少しして振り向くと姉さんを置いていっていることに気がつきた。何か考え事をしているのだろうか
「姉さん早く!!」
「ちょっと楔待ちなさい!」
小走りで追ってくるがそれよりも早く進む
「早く早く!」
………追いかけっこしている気分で少し楽しかったのは秘密だ
「なんとか間に合った………」
周りには灯りは無く、今は姉さんが霊力で照らしている
「何が間に合ったの?」
「姉さん明かり消して」
「?まぁいいけど」
姉さんが灯りを消したのを確認して空を見上げる。山を切り拓いて建てたこの家では満遍なく空を見ることが出来る。街の灯りがないこの場所で………
「それで何がしたかったの?」
そう聞いてくるが僕は答えなかった。ただただ空を見上げていた。何度見てもこの光景を目の当たりにすると声を出すのを忘れてしまう………
「〜〜〜〜〜〜ッ!?」
隣で息を飲むだのを感じた。きっと姉さんもこの星空を見ているのだろう
「この前ここに来た時に気付いたんだ。あっちじゃ街の灯りのせいで星がこんなに見えなかったからさ……………最後の思い出にと思って」
その時から決めていた。この場所で最後の思い出を作ろうって………
姉さんは星空をずっと黙って見ていた。この光景を目に焼き付けるように………どれくらい経ったのだろうか、姉さんがふと口をひらいた
「こんな素晴らしいものをくれるなんて…………一生忘れないわ」
「僕も………絶対忘れないよ。姉さんが帰ってきたら、ここで、この星空を見てお酒でも呑もう」
「あら、いいわね……………お姉ちゃんも楔にプレゼントをもってきたのだけど………この後だと出しずらいわね………」
「姉さんにもらうものだったら何でも嬉しいけど」
「そう…………?じゃあ、はい」
手渡されたのは何の装飾もないシンプルな指輪だった………何故かどこかで見たことあるような気がしないでもないが………とても心が惹かれる
「…………これは」
「気に入ってくれた?」
「うん!凄くいいよ!!」
すぐに指輪をはめる………指輪はすんなりと僕の指におさまる。まるでここが定位置だと言わんばかりだ
「その指輪は楔を見つけた時に拾ったの。見たことない物質でできているみたいだったから調べようと思ってね。それにはちょっとした仕掛けを施してあるのよ…………少し霊力を流して見なさい」
「こう?」
すると僕の周りに青白い膜が現れた
「簡易結界…………ちゃんと作動してるわね」
「…………すごい、何これ凄いよ!!」
全方位を守れるのは強みになる。もうあんな糸を振り回さなくてもこれがあれば大丈夫ってことじゃないかッ!!
「その結界は楔の霊力で出来ているから、楔の能力を付加できるはずよ」
…………それって攻撃効かなくなるんじゃない?こんな僕の能力を考えて作ってくれたような物じゃないか
「姉さん………ありがとう。最後まで僕の心配をしてくれて」
「当たり前よ。お姉ちゃんなんだから」
本当、僕には過ぎたくらいのいい姉さんだよ
そして僕達の最後の夜は素敵な贈り物によって終わった
・・・・・・・・・
「…………………もう、行かないと」
「………うん」
楽しい時間は終わりを告げる
「楔、送ってくれる」
「…………わかった」
最後にいい思い出が出来た。姉さんは月に行って、僕はここに残る
「またね、楔。元気でいるのよ」
「またね、姉さん。そっちも元気で」
互いに別れの挨拶をした後、僕は姉さんを元の家に戻した………
「……………………」
夜の山には鳥の鳴き声と木々のこすれる音しか聞こえなくなった
「…………あぁ……独りになったんだなぁ」
もう、僕の言葉に答えてくれる人はいな
「ワンッ」
………鳴き声のする方を見ると犬がいた………人はいなかったけど犬はいたようだ
「ワンッ、ハァハァ……」
「野犬かな?それにしては人間慣れしてるし………捨て犬か、お前は?」
「ブルブル」
首を横に降るような動作をした………こいつ賢いな………ん?
「………怪我してるのか?」
よく見ると後ろ足に傷があるのがわかった
「ちょっとおいで、ほら、怖くないよ」
しゃがんで目線を合わせる。すると怖がる様子も無くテクテクとこちらに寄って来た
「八意の人間たるもの、動物も治せずにどうするか」
怪我や病気の人は助けろと姉さんに教わっている……………犬も入るよね?
「ほれ、見せてご覧」
どれどれ……………………うん、薬を塗って包帯を巻けば数日でよくなるな
「ちょっと待ってな、今薬を……………戻した方が早いか」
極論を言ってしまうと薬を使うより戻してしまった方が早いのはあたりまえなのだが………あまり能力に頼り過ぎるなと姉さんはいわれているんだよね………
「くぅん……」
「……………………今日は特別サービスだ」
可哀想だからとか可愛かったからとかじゃないんだよ。今日だけ特別なだけだからね!
「それじゃあ早速………"戻れ"」
患部に手を当て能力を発動させる………
「ほら、治ったぞ。良かったなぁ、よしよし」
やはり独りになると寂しいからか犬相手に話しかけてしまう。いつか寂しいあまりエアーな友達とかできてしまいそうだ
「ありがとう巫女様ッ!!」
……………もう幻聴が聴こえるほど精神が参っているらしい。姉さんと別れてまだ数分しか経っていないのに………
「巫女様?」
………目の前には首を傾げたような犬が………
「もしかして妖怪?」
「もしかしなくても妖怪だよ!」
……………………バッ!!
「よよよ妖怪が何をしに来たッ!?」
突然の妖怪襲来に動揺が隠しきれないがなんとか距離をとった。そのまま戦闘態勢に
「ちょッ!?いきなりどうしたのッ!?」
……………あれ?
「妖怪なんだよね?」
「そうだよ」
「僕は人だよね?」
「えッ!?人じゃないの!?」
「いや人だけど……………食べようとしないの?」
「???」
………まったくわからないといった様子だ
「僕を食べないのってきいたんだけど………」
「巫女様って食べ物なのッ!?」
「いや違うけど………」
「なら食べないよ」
「……………もしかして無害?」
「もしかしなくても無害だよッ!!」
まったく心外だなぁ、と言っているのを他所目に僕は考えた。無害なら話し相手になってもらおうと
「ちょっと話し相手になってくれる」
「いいよ!というよりそのために来たんだもんっ!!」
テンション高いなぁ………ん?
「そのためにって………なんで?」
妖怪がわざわざ僕のために?
「こっちの方から寂しいよぉって匂いがしたから来たんだっ!」
………どんな匂いだよッ!!
「それじゃあ自己紹介からだねっ!私はただ長く生きて妖怪になった犬、名前は………無いっ!!」
ないのっ!?
「巫女様はなんて名前なの?」
自己紹介されたからには応えないと
「え、え〜と、僕は八意 楔。ただの………医者見習い………かな………ところでその巫女様って何なの?」
「巫女服を来てるから巫女様だよっ!」
「へぇ、そうなんだ」
これが人生二度目の妖怪との遭遇だった
巫女とは何なのだろうか?
・・・・・・・・・
「君みたいな妖怪もいるんだね」
「そうだよ!妖怪にだって色んな妖怪がいるんだよ!!………まぁ襲われたことがあるならそう思っていても仕方ないよね………」
暫くの間犬の妖怪相手にこの二年間のことを聞かせていた。聞き上手というのだろうか、僕の話に時折あいづちをうったり笑ったりしながら妖怪は聞いていて話しているこちらも気持ちのいいくらいだった………………はたから見ると犬相手に話しかけているヤバイ人なんだろうなぁ
「それでこの指輪は姉さんが最後にくれたものなんだ」
右の中指にはめられた指輪を見て言う………さっき姉さんはこれは僕を拾ったところで拾ったといっていたけど………そう言えばあの森でこんな指輪を投げたような気がしないでもない………どうりで見たことがある訳だ。と言うことはこれは記憶を失う前の僕のなのだろうか
「巫女様は愛されてるねぇ」
妖怪の言葉に思考の海から引き戻される
「そうだね」
姉さんは僕を家族にしてくれて、愛してくれて、何から何まで世話になって………
「最後まで気にかけてくれたからなぁ………」
返しても恩が返しきれないなぁ………と思っていると遠くの空が明るくなっているのが目に入った
「なにっ!?何が起きてるの巫女様っ!?」
何が起きているのかわからないようで妖怪が騒いでいる
「あれはロケット………という物らしい。あれに乗って月に行くんだってさ………ここなら危なくないから大丈夫だよ」
「そ、そんなんだぁ………」
危険がないとわかったからか落ち着いたようだ
「巫女様はこれからどうするの?」
打ち上げられているロケットを見ながらそんなことを聞いてきた」
「僕はここで姉さんが帰ってくるのを待つよ。気が向いたら遊びにおいで………っていうかここにいてもいいけど」
話し相手がいた方が寂しさも紛らうだろう
「いいのっ!?」
「妖怪っていっても危険が無いなら別にかまわないよ」
「やたぁ〜〜〜〜〜住居確保っ!!これで雨に濡れずにすむよありがとう巫女様!!」
…………本当はそれがここに来た理由なのではないだろうか
「退屈しなさそうだな………ははっ」
喜びのあまり自分の尻尾を追いかけて回り続けている妖怪を見てそう思う…………姉さん、僕はなんとかやっていけそうだよ。今はもう見えなくなったロケットに向かってその思いを………
「なんだろう、あれは…………?」
さっきロケットが発射したあたりから何十本の光の筋が空に上がっていくのが見えた。妖怪も回るのをやめその光景を見る………そのうちの何本かがこちらに向かってきた
「クンクン……………」
妖怪が何やらやっているようだか………いや、それよりもあれをどうするか考えな
「危ない………巫女様あれから危険な匂いがするよッ!?」
「………どういう意味?」
いきなり切羽詰まったように焦り出す妖怪をみて緊急を要することだと本能的に理解した
「私は『どんなものも嗅ぎつけ、嗅ぎ分ける程度の能力』を持っているの!”あれ”からは危険な匂いがしたんだよッ!!それもすごく濃かった………”あれ”はとにかくすごく危ないものだよッ!?」
「……………展開」
指輪に霊力を通しこの家のある山ごと結界で覆った。それと同時に緊急時に飲むようにと姉さんに以前渡された霊力増強剤を飲む。副作用なんて気にする場合ではない
「んく…………僕がなんとかしてみる…………」
「…………できるの?」
「正直わからない。どんなものがくるかもわからないし僕がそれをどうにかできるかもわからない……………でも、僕はここで死ぬ訳にはいかないッ!!」
結界に能力を付加し害あるものを戻す結界にする
一面が光に覆われた
「うッがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
戻し切れなかった衝撃や熱が結界にヒビを入れた
「”戻れ”ッ!」
結界を元に戻しても再び軋む音をたてながら幾重もの筋が結界に生じる
「”戻れ”ッ!!」
霊力が吸われる。結界の維持、能力の行使、あと何度使えば終わるのだろうか。視界が紅く染まる
「巫女様血がッ!?」
声が聞こえた。急激な霊力の減少か、薬の副作用か、身体に激痛がはしり何をいっているのかわからない
「”戻れ”ッ!!!」
どれくらい経っただろうか。まだ数秒も経ってないような気がするが、もう何時間もこうやっている気もする
「”戻れ”よぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」
……………まだ死ぬ訳にはいかない
……………生きて
……………何がなんでも生きて
……………姉さんが帰って来るまで
「生きて……待つって約束したんだぁぁぁぁぁッ!!!!!」
だか、現実は無情だ
「ッ!?霊力がッ!?」
霊力がほぼ底をついた。体力まで使ってもこの規模だとあと一回しか戻せないだろう
ピシッ
あぁ
ピシッピシッ
もう、お終いなのだろうか?
ピシッピシッピシッ
…………死にたく………ないな
”戻し続ける”ことができたら良かったのに
急なオリキャラ投入。今は犬だけど…………ね
さて、楔君は無事なのか?
次回はさらにオリキャラ投入するつもりです
…………週一で書けたらいいな