銀河英雄伝説~黄金樹《ゴールデンバウム》と2人の英雄~   作:フリードリヒ提督

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黎明編第1章~ブランデンブルグ公領~

1

 

―――ブランデンブルグ星系は、ブランデンブルグ公領の中核を成す星系であり、G型主系列星(黄色矮星)である恒星ブランデンブルグを取り巻く7つの惑星から成っている。

この星系は恒星の活動がG型主系列星の中では活発である為恒星風が強く、また小惑星がまばらに集まり公転していることも合わさり交通の難所ではあるものの、2つの有人惑星があり、ブランデンブルグ公領の中心的な星系と言うポジションを長く維持し続けている場所である。

 それは即ち、7つの恒星系から成るブランデンブルグ公領の経済の中心地である事も示しており、貿易などは概ねこの星系で行われている。交通の難所であるにも拘らず商船が多く行き交うその光景は、この星系が発見されて以来変わる事無く続けてきた繁栄を印象付ける光景として、帝国全土で語り草になっている程で、曰く「ブラウンシュヴァイク公は皇帝に匹敵する富を持つが、ブランデンブルグ公はオーディンに匹敵する繁栄を持つ」と称される程に、この辺境の星系は栄えてきたのである。

 

 そのブランデンブルグ星系に、1隻の戦艦が外縁部にワープアウトした。それは明らかに他の殆どの船よりも、例えば星系警備の為にいた帝国軍巡航艦や、一般的な民間商船よりも遥かに大きく、船体側面に描かれたゴールデンバウム王朝軍のシンボルには、赤い縦2本線がバックに描かれていた。

帝国歴487年4月27日、ジークムント艦隊旗艦の任を解かれた戦艦ローゼンハイムが、パルスワープで大凡5日程の旅程を終えて、ブランデンブルグ星系第3惑星「ヴィルヘルムスハーフェン」に降り立った日である。

ローゼンハイムにとっては初めての地だが、その主にとっては、久方ぶりの領地であった。

 

 

~10時17分 惑星ヴィルヘルムスハーフェン・地上宇宙港~

 

コン、コン、コン、コン・・・

 

ジークムント「久しぶりに帰ってきたな。」

 

クーリヒ「ですね、兄さん。」

 

ローゼンハイムを降りた2人は、そのまま執政府に向かう為に出口への廊下を歩いていた。その二人に、出口の近くで声をかける1人の男がいた。

 

「―――公爵閣下、弟君。ご帰着をお待ちしておりました。」

 

その男は礼をしながらそう述べた。その姿は黒の燕尾服に身を包み、中肉中背で、灰色の双眸はモノグラムをかけており、頬の張った5角形のフェイスラインに薄めの唇と目立たない鼻、ダークグレーのショートヘアが合わさり、口元には柔和な笑みを浮かべていた。

 

ジークムント「ランベルト、久しいな。領地の方は変わりないか?」

 

ランベルト「はい、万事滞りなく。領民達もつづがなく生活出来ているようです。」

 

ジークムント「何よりだ、助かる。」

 

ランベルト「閣下ご不在の折に領民を治めるのが、私の仕事で御座いますから。」

 

ジークムント「相変わらず真面目だな―――長く領地を空けてすまなかった、早速屋敷に戻ろう。」

 

ランベルト「ハッ。」

 

 ヨーゼフ・ランベルト・フォン・アイゼンフートはブランデンブルグ家家門の一人で、ジークムントの父の代から執事として当主に仕えてきた男であり、この年42歳になる。

アイゼンフート子爵家当主でもあり、領地を持っている訳ではないものの、ブランデンブルグ公不在の際に名代として領地の内政を取り仕切る権限を持つ文官であるが、帝国軍士官学校を卒業し、前線後方双方の事務に携わっていた事もあって、帝国軍大佐の階級を持つ。

 現在はこの若い当主を支える公爵家家臣の一人として、また執事としてその力を振るう、この時代には珍しく貴族出身の有能な官吏の一人である。

この時代の門閥貴族達は執事を置いている事は殆どないのだが、ブランデンブルグ公爵家はその例外的な家の一つでもあるのだ。

 

 

~ヴィルヘルムスハーフェン惑星首都中心街・公爵家執政府~

 

 オーディンに匹敵する繁栄を得ているとされるここ、ヴィルヘルムスハーフェンは、ブランデンブルグ公領の政治的中心地であり、その惑星首都は、オーディンを彷彿とさせるような豪奢な街並みを揃え、その中心に、ブランデンブルグ公爵の屋敷を兼ねた執政府が建っている。

その形は六角形に建てられた7階建ての鉄筋コンクリート製ビルであり、周囲を高い壁と水堀で囲っている以外に外見上余分な装飾などはなく、最上階が公爵の居住スペースである以外は政務を取り仕切る為、また実施する為の役所が入っているのだ。壁の四隅には尖塔が建ち、不審な人物が不用意に近づかないよう常に警備兵がそこから目を光らせていた。

 その正門両脇には、右にゴールデンバウム王家の紋章、左にはブランデンブルグ公爵家の紋章である鷹のシンボルが、それぞれ縦掲揚の旗として掛けられている。その正門を公爵の専用車がくぐっていった。

 

 執政府に到着したジークムントは、最初に1階にある政務室に入っていった。この部屋は貴族の屋敷であれば貴賓室や謁見室など呼ばれる部屋と、一般官庁の執務室を纏めた役割を持つ部屋であり、彼は普段の政務をここで行っている。

入口からレッドカーペットが伸びたその先に机があり、その背後の壁に、開祖ルドルフの肖像画と共に、第3代ブランデンブルグ“伯”アウグスト・ヴィルヘルムの、ルドルフに引けを取らない堂々とした立ち姿の肖像があった。このアウグスト・ヴィルヘルムは、このブランデンブルグ星系が発見された時、この星系を下賜され、その星系と、惑星ヴィルヘルムスハーフェンの名をつけたその人である。

 その肖像画を前にして、ジークムントは執務用にあしらえられた重厚な机の奥に、ある人物の影を思い起こしていた。

 

ジークムント(―――父上。只今戻りました。)

 

―――これは彼にとって、一種の儀式のようなものだった。

第35代ブランデンブルグ家当主、ブランデンブルグ公ヨハン・オットー。それがジークムントの父の名である。彼は武人家系であるブランデンブルグ家に相応しく帝国軍人としてキャリアを重ね、帝国軍少将にまで位を進めたが、5年前の帝国歴482年に、同盟軍との戦闘で勝ちながらも旗艦に重篤な損傷を受け、40そこそこと言う若さで戦場に早逝したのである。

 

 彼はこの時23歳であり、計算すると5年前と言えば18歳、この時の彼と言えばまだ実戦を経験していない帝国軍貴族幼年学校卒の士官学校3年生であり、彼にとってはまだ父親が自分の目標でしかなかった時期でもあったのだ。そんな時期に父親は自分の手の届かない星の彼方へと旅立ってしまったのだった。

ジークムントにとって父のヨハン・オットーは、多少理想主義的なところもあったが十分理想的な為政者であり、また軍人としても彼の模範となる存在であり、そしてもう二度と超える事が出来ない永遠の目標となっている。故に彼は領地を空けて戻ってくると、まずこの政務室に入り、自分の行いを顧みる事を自身に課していたのである。

 

 父の死後、彼が辿ったキャリアは輝かしいと言えるだけのものがあった。父の死の2年後に当たる484年に士官学校を卒業したジークムントは、その公爵と言う身分やその血筋を(おもんばか)った人事部によって、大佐待遇の帝国軍少佐という身分で、ある大型戦艦の艦長として護衛艦をつけられ着任。その後第5次イゼルローン攻防戦を初めとして主要な会戦の全てに小部隊もしくは艦隊を率いて参加、486年に卒業した弟のクーリヒを初め、ミュラーやクナップシュタインら幕僚を揃えて、今日まで戦い抜いてきたのだ。

中にはローエングラム伯やミュッケンベルガー退役元帥、ミッターマイヤー、ロイエンタール等々と言った現帝国軍を担う錚々たる面々が一堂に会した戦いもあり、その中にあって尚多大な功績を残して、僅か3年で帝国軍上級大将にまで上り詰めたのである。

 

 現帝国軍最年少の元帥であるローエングラム伯ラインハルトが上級大将になったのは、任官してから5年を経ていた為、ラインハルトが尉官だった1年余りを飛ばした上級大将までのキャリアと比較しても、その昇進ペースはラインハルトに匹敵している。その実力は周囲も認めるところであり、門閥嫌いのラインハルトは置くにしても、キルヒアイスや指揮下の提督達にもそれなりに一目置かれている程度には、その非凡さを発揮しているのである。

そう言った意味では彼も十分、帝国軍を担っている者の一人であった。

 尤も、現在ではラインハルトに階級を追い抜かれている身ではあったが、それでも彼も人として、また軍人として、恥ずべき事は何もしていないという自負は存在した。しかしそれでも部内や社交界からは「皇族の末席だから昇進出来たのだ」と後ろ指を差すような声も少なくない。

 

 美醜様々な風聞をその身に受ける様になった彼が、最後に領地に戻ったのは1年近くも前の事であった。彼はその間の事を振り返り、それが終わると踵を返して政務室を後にした。

 

 

2

 

 政務室を後にしたジークムントは、クーリヒを伴って執政府の2階に来ていた。

この2階と3階は全フロアに「ブランデンブルグ公領軍総司令部」が入っており、ジークムントが保有する全艦隊の管理・運営は全てここで行われている。

司令部はブランデンブルグ家当主であり総司令官のジークムントを長として、その下に彼を補佐する各部門の長を集めた参謀部が置かれ、参謀部の下に作戦課・主計課・総務部・後方課(兵站・通信・補給の統括とその要点の維持を担当)・運用課(分艦隊の運営を包括的に担当)・情報課(軍事行動に必要な諜報を担当する執政府諜報部の出先機関)の6部門が設けられている。末端まで含めればその人員は400名を超すと言う正規軍司令部にも引けを取らない規模を誇り、総参謀長1名、副官1名、参謀長(各課トップ)6名、艦隊司令官3名、分艦隊司令官は10名を超す貴族では珍しい大所帯である。

 2人は上った階段の先にある司令部のエントランスに来ていた。エレベーターがあればよいのだが、ルドルフ大帝の時代に「帝国人たる者強靭であらねばならない」と規定されたことが伝統的風習となった事で、そういった設備は存在しない。

 

「ジーク―――閣下!」

 2人組の姿を見るなりそう言ってパタパタと駆け寄ってきたのは、ブランデンブルグ公艦隊に於ける彼の副官である。背格好もジークムントとそう変わらないが、金髪黒目の端正な顔立ちに、普段は気品に満ちた、それでいて柔和な表情を湛える人物である。その表情は、久方ぶりの主人の帰還に嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

ジークムント「そそっかしいのは変わらんな、ヘルナー。」

 

「あははは・・・クーリヒも、久しぶり。」

 

クーリヒ「あぁ。こうしてまた会えて嬉しいよ。」

 

ジークムント「領内の様子は変わりないか?」

 

「はい! 万事つづがなく。」

 

ジークムント「ハハハ、そうかそうか。」

 

 そう笑って話す3人の表情は、主君と臣下と言う関係とは程遠いように見えた。それもその筈、彼はただの家臣ではない。

ゴッドホルン・ジークフリード・フォン・ヘルナー准将、ブランデンブルグ家家門の一人であり、ヘルナー伯爵家の当主であると同時に、ジークムントとは又従弟に当たる。年齢は23歳でジークムントと同い年なのだが、生まれたのはジークムントと同じ6月1日と言う、全く同じ星の下生まれた幼馴染なのだ。故に彼はジークムントにとって、実弟であるクーリヒと並ぶ腹心であり、掛け替えのない友人なのである。

現在のヘルナーは帝国軍准将として軍籍を持つ一方、ヘルナー伯爵家が代々世襲してきた、「ブランデンブルグ家当主傍仕え」と言う役柄を継承している。彼も2年前に父が逝去し、家と役目を受け継いだ若き門閥貴族であった。

 

ヘルナー「あ、そうです! 閣下の御帰還を聞きつけて、3提督が揃っておられますよ!」

 

ジークムント「参ったな、オーディンの屋敷から聞いたのか。」

 

ヘルナー「勿論です!」

 

ジークムント「やれやれ。」

 

 口ではうんざりしたようでその実満更でもない様子で、彼はヘルナーに案内されて司令部内の一室に足を踏み入れる。そこは将官の会議に使われる部屋であり、そこには普段この星の地表にいない3提督が、ロングテーブルを挟んで揃っていた。

 

「閣下。長期の軍務、お疲れ様でございました。」

 

 そう一同を代表して述べたのは、ロングテーブルの右側に並んでいた2人の内手前にいた提督である。茶髪のショートヘアに灰色の瞳は細く開かれた瞼の内から覗き込むように判別でき、先細りの顎に柔和な微笑をたたえた口元、垂れ下がった眉が多少大人し気な印象を与えるが、恵まれた体格をしており、肩幅も大きい。

纏っている軍服も将官用のものであり、肩の階級章は白線3本、即ち帝国軍中将である。

 

ジークムント「ありがとう。皆が揃うのも久々だな。」

 

「久方ぶりの閣下の御帰還を聞きつけ、閣下のお顔を拝見したく、こうしてまかり越した次第です。」

 

「左様、この老いぼれに最後の御奉公の場を下さったお方ですからのう。」

 

 そう言ったのはロングテーブルの右手にもう一人いた提督だが、先の者と比較して明確に老人である事が分かる。

髪は白く色が抜け、若い頃は精悍だっただろう顔は皺が目立ち、口元の髭や眉も白くなり、しかしそれでもすくっと真っ直ぐに立つその姿は、かつて一端の軍人であった事を如実に示すものがあった。先の者と同じ灰色の瞳もしっかりと見開かれており、老いて背も低くなり肩幅も小さくなったものの、尚壮健たる事を印象付けるに足るものがあった。

肩の階級章は先の者と同じく帝国軍中将のものをつけている。

 

ジークムント「爺も元気そうで良かった。」

 

「なんの、閣下の御為、まだまだ元気でおらねばの。」

 

ジークムント「そう言って頂けるのはありがたい限りですが・・・。」

 

「我々は閣下の忠実な僕です。張り切るのも当然というものでしょう。」

 

 そう言ったのはロングテーブルの左に立っていた提督である。

先の2人に比べて非常に若く、まだまだ活力に溢れる青年将校であるが、丸顔で、青い瞳は垂れ目の奥にしまい込まれているというちょっと頼りなさげな風貌をしている。黒髪はショートボブに整えられており、中肉中背と言う体格がより頼りなさを際立たせている。しかしその見た目と裏腹に極めて活発な性格と言うギャップが印象的な人物である。

肩の階級章は先の2人と同じく帝国軍中将である。

 

ジークムント「張り切るのもよいが、余り張り切り過ぎるなよ、クレーマン。」

 

「心得ております。」

 

ジークムント「ディッケンドルフ、老グレゴール、クレーマン。出迎えありがとう、そしてよく領内を守ってくれた。今後も頼むぞ。」

 

3人「「はっ!!」」

 

彼に見事な挙手の礼を施し、3提督はジークムントの退室に続くように散会した。

 

 最初にジークムントを労ったアドルフ・ハウシルト・フォン・ディッケンドルフ中将は35歳、ブランデンブルグ公私兵艦隊の内、第2艦隊を率いている。司令官としては会戦に参加した歴はないが、戦艦や巡航艦の艦長を務めた事がある。

代々この家に仕えてきた親戚筋の男爵家の当主であるこの提督は、ジークムントに英才教育を施した家庭教師のような人物であり、父が軍務に就いている事の多いジークムントにとっては親代わりだった存在でもあり、ジークムントに最も血脈が近かったこともあって、ヨハン・オットー早逝の後はジークムントが成人するまでの間後見人も務めていたのである。現在第2艦隊司令官を務める彼は、普段はヴィルヘルムスハーフェンと隣の第4惑星ヴォルフスブルグの周回軌道中間に駐留している艦隊にいる。

 

 老グレゴールことグレゴール・フォン・リンツはこの年86歳の老提督で、既に第一線は退いているが、その堅実な用兵を買われてブランデンブルグ公第3艦隊を指揮している。老グレゴールと呼ばれているのは、数か月前に退役した元宇宙艦隊司令長官、グレゴール・フォン・ミュッケンベルガーよりも遥かに高齢であるからである。

3提督の中では唯一多彩な戦歴を誇り、パランティア星域会戦(*1)に1個艦隊を率いて出征したのを皮切りに、60代の頃まで第一線で活躍したことで有名な人物でもあり、本来ならば元帥仗を賜っても可笑しくはなかったが、人事部との反目から大将でそのキャリアを終えている。

この人物もブランデンブルグ家の家臣であり親戚でもある子爵家の当主であり、第3艦隊駐留地であるカールスルーエ星系第4惑星ケーニヒスベルクを任地として、自らが仕える主君に、最後の奉公を余生として送っていた。

 

 青年提督、ミヒャエル・クレーマンは26歳、この中では唯一平民階級の出身で、ジークムントの御声掛かりで登用された人物である。元は平民でありながら若くして少将と言う階級を持っていたが、平民階級であった事が災いして閑職とも言える星間警備担当の巡航艦隊を指揮していた人物であり、海賊討伐に功績のある才気溢れる若者である。とある出来事がきっかけでその非凡さがジークムントの目に留まり、中将に昇進の上で空席だった第4艦隊司令官に招かれたという経緯を持つ。

普段は第4艦隊の駐留地であるディオスクロイ星系第3惑星カストルに赴任しており、惑星カストルと2連星を成す第4惑星の弟星ボルックスをカストルと共に防衛する任務に当たっている。

 

 3提督共に実績人望豊かとは必ずしも言えないものの、その実力は本物であり、才気に満ちたクレーマン、経験豊かな老グレゴール、人望篤いディッケンドルフ、いずれが欠けても艦隊は同じ能力を発揮出来ないとも言われている、欠かせない人材達なのである。

 

 

3

 

 執政府の各部門の様子を一通り見終えた彼は、再び専用車に乗って執政府の門を出て、惑星首都郊外の丘に向かった。ここは帝国では珍しい公共墓地であり、ブランデンブルグ家家門の者たちも平民の者たちも、この墓地に平等に埋葬されているのだ。勿論御墓の様式の差は存在するものの、平民と貴族が同じ墓地に埋葬されるというのは、帝国では珍しい事であり、平民と貴族の格差を端的に表す一面となっている。

 

 彼はここに当然視察に来た訳ではない。と言うより、この墓地は彼が生まれる遥か昔から存在するものであり、今更視察に来るような場所ではない。となれば、彼が訪れた理由はただ一つであった。

赤いマントを従卒に持たせ、帝国軍上級大将の軍服を纏って墓参したのは、ブランデンブルグ一族の墓であった。ここには歴代の直系一族が埋葬されており、周辺には家門の家々の墓が並んでいるが、一際目立つ豪奢さがあるという訳でもなく、単に一回り大きいから目立つという点でも、家の個性が出ていた。

 

ジークムント(お久しぶりです―――母上。)

 

 彼の目的はただ一つ、母の墓参である。彼にとって現存する肉親は弟のクーリヒのみである。母は彼が幼年学校を出て士官学校に入る頃には既に亡かったからで、5年前に戦死した父の骨は、この墓にはないのだ。

彼の母、ヴェルトリンデは、先帝オトフリート5世の第一皇女の娘で、ジークムントはオトフリート5世の曾孫(ひまご)と言う事になる。

彼女は先帝に直系男子が3人(リヒャルト・フリードリヒ・クレメンツの3人)いたことで、忠心に満ち有能で、オトフリート5世と古くから親交のあったブランデンブルグ公ヨハン・オットーの功績を称えるべく、先帝の命により嫁ぎ、その後フリードリヒ4世の即位で直系からは外れた為庶流になったものの、軍人家系ではあったが幸福な夫婦生活の後に死去したのだった。その亡骸は正にこの墳墓に埋葬されている。

 

ジークムント(私は気づけば、父上よりもずっと偉くなってしまいました。ヴァルハラに行ったら、父上に僻まれそうです。)

 

 彼は心の中で、天に召された母に語り掛ける。無論返事が返ってくる訳ではない。しかし、見守ってくれる者のなさは、彼にとって途方もない影を投げかけるのだ。

 

 

 ジークムントがヴィルヘルムスハーフェン中央病院で生を受けたのは、730年マフィアによって齎された「軍務省にとって涙すべき40分」の悪夢から、イゼルローン要塞完工によって完全に立ち直ってから8年が経過した、帝国歴464年6月1日のことである。ブランデンブルグ公ヨハン・オットーとその妻ヴェルトリンデの間に生まれた彼の隣のベッドには、10分だけ遅れて生まれた後の彼の腹心、ゴッドホルン・ジークフリード・フォン・ヘルナーがいた。この頃、ヨハン・オットーはまだ家督を継いだばかりであり、周囲は跡目の誕生を心から祝福し、父と彼のその前途に大きな期待を抱いていた。

 彼は「栄光ある」帝国貴族の最たる家の一つに生まれたが、堕落し、甘やかされ切った他家とは異なり、彼は5歳の頃から親族を家庭教師に勉学を始め、ずっと英才教育を受けながら育った。3歳の時に弟のクーリヒが生まれ、8歳になった頃からディッケンドルフから軍事学を学び始め、円満な家庭環境と、多数の家臣や親族らに囲まれながら、この頃の貴族子弟には少数派とも言うべき、健全かつ幸福な幼少期を送る。

 この頃、彼は母にこう薫陶されて育ったという。曰く「己が正しいと信じる道をお行きなさい。それが自らを生かすか殺すかは、貴方次第です。」と―――。

彼はこの薫陶を胸に、何をするにも母の応援を受けながら、その能力と人柄を円熟させていくのである。

 

 10歳になった帝国歴474年、彼は帝国軍貴族幼年学校に入学する事になる。物心ついた頃から軍人に囲まれて育った彼は、自然と軍人を志しており、半ば志願、半ば既定路線と言う形で入学する。この「貴族幼年学校」とは、銀河帝国の貴族達が、その高貴さの義務(ノブレス・オブリージュ)を果たす為に設けた貴族の為の軍教育機関である。一方通常幼年学校と呼ばれるものは、帝国歴439年に創設された平民向けの軍教育機関であり、いずれも卒業した場合原則として准尉の階級で任官する。

だがここでの生活は決して円満なものとは言えなかった―――

 

「おい見ろよ、『血濡れの坊や』のお通りだぜ。」

「なんだいそれ?」

「父上から聞いたんだ、あいつの家は、戦争が大好きな野蛮人の家だって。」

「・・・成程、中々面白そうな奴じゃないか。」

 

―――ジークムントの家格は確かに公爵でこそあったが、この頃の貴族達からは余り好かれる家柄では無かった。

 ブランデンブルグ公爵家とその一門は開闢以来の軍人貴族であり、それにも拘らず公爵にまで長い世代をかけて栄達した家柄である。この点こそは他家と一線を画する点でもあり、彼らは常に帝国軍史の中に何度も登場し、帝国軍の中でその人的資源の一翼を担って活躍する事一再ではない。

これが第2次ティアマト会戦以前であれば、彼も、彼の家も、これほどまでの態度を取られる事はなかったであろう。「軍務省にとって涙すべき40分」で失われた60人を数える将官達は、当時の帝国軍に於ける人的資源の精髄であり、同時に誰かの良き父、良き夫、良き領主でもあった。ブランデンブルグ一門も当然含まれ、帝国内に於いては人間的にも評価されていたこれらの人々を失った帝国貴族は、その日を境にしてより一層その腐敗を加速させていた。   

 そして、その悪夢から1世代を経て2世代目に当たる彼らは、父親達の無責任な罵言を真に受けて、彼を疎外したという訳である。簡単に言えばいじめであるが、彼はそんな貴族幼年学校内の空気を感じ取って、そもそも彼らとの関わりを避けていた。

「彼らを打ちのめすのは簡単であるが、父達に迷惑をかける訳には行かない。」彼は父親への崇敬(すうけい)からそう考えていた。3年後に弟のクーリヒも入学してくると、クーリヒは常に兄の背中にくっついて行動するようになった。彼は彼なりに、そんな空気にうんざりしたのであった。

 

 そんな折の幼年学校5年生の頃、彼はある人物と知り合う事になる。

 

ジークムント「・・・。」

 

クーリヒ「―――兄上、危ない!」

 

ジークムント「えっ・・・」

 

「わっ―――」

 

ドンッ―――バサササッ

 

ジークムントは廊下の影から突然現れた人影にぶつかって、お互いに転倒してしまったのである。

 

ジークムント「ってて・・・」

 

「うう・・・」

 

クーリヒ「兄上、大丈夫ですか?」

 

ジークムント「あぁ・・・君、大丈夫かい?」

 

「えっ・・・」

 

クーリヒ「―――ん、君って・・・」

 

ジークムント「済まない、考え事をしていたんだ。拾うの手伝うよ。」

 

「あぁ、ありがとうございます。」

 

そう言って2人は相手が持っていたプリントを拾い集め始める。そこにクーリヒも加わったので、直ぐに片づけは終わった。

 

「ありがとうございました。それと、ぶつかってしまってすみませんでした。」

 

相手は2人が上級生である事を見抜いてすかさず謝罪してきた。襟章を見ると1年生である。

 

ジークムント「気にしなくていいよ。」

 

クーリヒ「少しいいかい?」

 

「はい。」

 そう返事した彼の体が堅くなるのを2人は見て取った。この頃のクーリヒはまだ下級生に話しかける時は、子供に話しかけるような口調のままであった。現在では軍人らしく堅いのだが。

 

クーリヒ「君ってもしかして最近噂の『赤毛の坊や』かい?」

 

「・・・そう呼ぶ人もいます。」

少し目線を落として彼は言った。

 

ジークムント「知ってるのか?」

 

クーリヒ「えぇ、新しく来た1年生の中で、とりわけ優秀と噂の2人組の一人です。尤も、罵声混じりですが。」

 

「優秀・・・。」

クーリヒの忌憚のない言葉にその1年生は目を丸くし、ジークムントは興味を引かれた風に言った。

「へぇ、そうなのか。では俺達と殆ど同じだな。ジークムント・フォン・ブランデンブルグだ。ぶつかってしまったお詫びに、放課後コーヒーを奢らせて欲しい。いいかな?」

折り目正しく自己紹介をした上級生の彼に、1年生の少年は言った。

「ジークフリード・キルヒアイスと言います。お誘い、お受けします。」

後に、覇王の片翼となる彼との、最初の邂逅であった。

 

 

4

 

「へぇ、平民出身なのか。貴族幼年学校では珍しいな。」

 放課後、校内の売店で約束通りコーヒーを奢ったジークムントは、共にコーヒーを飲みながら談話室のテーブルを囲み、クーリヒも交えてキルヒアイスと話をしていた。

 

キルヒアイス「はい、同級生のラインハルトと一緒に、入学試験を受けました。」

 

ジークムント「ふむ。まぁ、貴族幼年学校とは言っても、平民の入学を認めていない訳じゃないからね。昔は珍しい事だったって聞いてるよ。」

 

クーリヒ「ラインハルトって、あの金髪の?」

 

キルヒアイス「はい。」

 

クーリヒ「幼馴染なのかい?」

 

キルヒアイス「えぇ、まぁ。」

 

「幼馴染同士優等生か、良い事だ。俺たち2人は兄弟なんだ。」

とジークムントが埒もない事を言うと、キルヒアイスは

「お二人の事も一応は存じています。お二人とも、各学年の中ではトップクラスの秀才だと。」

と返した。

 

ジークムント「恐縮するが、家名を背負っているからな。」

 

クーリヒ「僕も、兄上を支えないと。」

 

キルヒアイス「・・・。」

 

「キルヒアイス!」

 

3人「!」

 

キルヒアイスを呼ぶ声に3人が振り向くと、そこには金髪の小柄な生徒がいた。襟章は1年生。そんな生徒は、この時には一人しかいない。

 

キルヒアイス「ラインハルト!」

 

ラインハルト「随分探したんだ、こんな所にいたなんて。―――彼らは?」

 

キルヒアイス「5年生のジークムント・フォン・ブランデンブルグ先輩と、2年生のクーリヒ・エドモンド・フォン・ブランデンブルグ先輩だよ。ほら、午前中廊下でぶつかったって言ってた先輩方さ。」

 

ラインハルト「―――ラインハルト・フォン・ミューゼルです。」

 

ジークムント「君が優秀と噂の金髪君か。キルヒアイス君にぶつかったお詫びにコーヒーを1杯奢らせてもらっていた所だったんだ。時間を取らせてすまない。」

 彼がそう言うと、ラインハルトは警戒するような目で彼を見据えた。それはまるで、“キルヒアイスに何かあればただでは置かない”と、自己表現しているようでもあった。ジークムントも流石に、

「―――そう目くじらを立てないでくれ、別に他意はないよ。それに何も仕込んでいないから安心してくれ。そんな事をしたって何にもならないし、単に話がしたかっただけだ。」

と言った。その様子に見かねたキルヒアイスも言葉を重ねた。

「ラインハルト! お二人ともすみません、何分同級生にも敵が多いもので・・・。」

 

ジークムント「中々気難しい性格だね、まぁ気にしないでおくよ。」

 

キルヒアイス「ありがとうございます。ほらラインハルト!」

 

「・・・失礼しました。ではこれにて。」

それだけ言ってラインハルトはキルヒアイスを伴って談話室を後にした。

 

ジークムント「・・・あれが、金髪の孺子(こぞう)と赤毛の子分か。」

 

クーリヒ「知ってたんですか?」

 

ジークムント「グリューネワルト伯爵夫人の弟君と、その親友と言う事だけね。噂の又聞き位俺だってするさ。」

 

クーリヒ「あぁ・・・。」

兄上でもするんだ、と意外に思った彼に、ジークムントはこんな質問をした。

「あの二人、どう思う?」

 

クーリヒ「うーん・・・ラインハルトの方は出世は難しいんじゃないかと。キルヒアイスも平民出身ですので・・・。」

 

ジークムント「そうだな、俺もそう思う。」

 

 

ラインハルト「キルヒアイス、君はもう少し警戒した方がいい。貴族共なんてどいつもこいつも碌な奴じゃないんだ。」

 

キルヒアイス「でもあの二人は、どこか違うような感じだったよ。調べてみたら、公爵家の出身なのに、随分他の生徒達と反応が違っていたように思う。」

 

ラインハルト「・・・分かるもんか。」

 口ではそう言うものの、ラインハルトは心中、貴族達の中にも「まとも」な奴がいるのだと言う事を心に留めておくのであった。結局の所この頃から既に、キルヒアイスの人を見る目が確かである事を、ラインハルトはよく知っていたからでもあっただろう。

 

 

 一方、貴族達の中で基本的に孤立を貫き通したジークムントは、2人との邂逅の後に貴族幼年学校を学年首席で卒業する。しかし帝国軍士官学校への入学が既に内定し、入学の準備を進めていた時、領地のヴィルヘルムスハーフェンから急報が届いたのである。

 

ジークムント「えっ・・・!?」

 

超光速通信の相手は、執事のアイゼンフートであった。彼は涙ながらに告げたのである。

「奥方様が、亡くなられました・・・。」

 

ジークムント「―――なんで・・・。」

 

ランベルト「心臓発作だったそうです。私共が駆けつけた時には、もう・・・」

 

ジークムント「先日、士官学校への入学が決まったと教えて差し上げた時、母様はあんなにも喜んでくれたのに・・・。」

 

 そう、それは余りに突然の死であった。ジークムントの幼年学校最後の春休みは、ジークムントとクーリヒの母の命日として、決して消えない記憶となってしまったのである。

ジークムントはその晩の間、悲しみに暮れた。この点で言えば、弟のクーリヒの方がまだしも冷静であったくらいで、この15年もの間、彼を温かく見守ってくれていた太陽のような存在がいなくなったことは、彼にとっては何にも比較出来ない様な喪失体験となったのである。

 

 流石に夜が明ける事には彼も落ち着きを取り戻し、故郷であるヴィルヘルムスハーフェンにクーリヒを伴って戻ると、親族らや父と共に喪章をつけ、母の葬儀に参加した。それが済むと再びオーディンへと戻り、寮を引っ越す準備に明け暮れながら、喪に服するのであった―――。

 

 

ジークムント(でも、寂しくはありません。皆が、部下たちが支えてくれていますから。)

 彼は士官学校で学ぶ内に、その喪失感と悲しみに打ち勝った。そして彼は大きくその羽を羽ばたかせ、既に無数の部下を率いる身分であり、最早周囲から見守られる側ではない。但し彼がまだ23歳であり、その時期にこれだけの大役を預かり、それに対して肉親のサポートが殆どない事を考えると、ラインハルト程の人物でなければ平静ではいられないだろう。

 彼も出世欲は強いし、大任に耐えうるだけの芯の強さもあるが、ラインハルトと異なり、見守ってくれる肉親がいないのだから、精神的な支えは脆弱であった。だが、今唯一血を分けた存在である弟と共に二人三脚で戦い抜いてきただけに、プレッシャーへの強さもまた人一倍強かったのは確かである。

短いながらも感傷に耽る時間を終えたジークムントは、足早に公共墓地を後にする。そこにはあくまで過去があり、過去に生きた人々が、過去へと永遠の旅に出た場所であり、生きる彼には、明日に向かう責務がある。彼はそう考えていた。

 

ジークムント(父上、母上、見ていて下さい。ジークは皆と力を合わせ、この家を守り抜きますから。)

 彼は歴史と栄光に満ちたこの家を守り抜くことを心に決めていた。例えどの様な者達が立ち塞がろうとも、前を向き、戦い続ける。それが、父祖達に対する恩顧に報いる道であると固く信じていたし、彼の家に比べれば歴史の浅いブラウンシュヴァイクやリッテンハイムとは違うという、クロプシュトック侯爵らと同じく、帝国開闢以来の名門を担う者としてのプライドがあった。

 ブランデンブルグ家は代々中央からは閣僚こそ輩出するだけで距離を置いており、それ故政治の主流に立った事はこの500年余りの間殆どない。

だが地方叛乱の鎮定などで帝国の軍事史に残した絶大な影響に加え、150年に渡って続く自由惑星同盟(一部の血の気の多い者達から叛乱軍とも呼ばれる)との騒乱において一門が残した莫大な功績は、宇宙艦隊司令長官や元帥杖を受けた者を幾人も生み出している。

その意味では、「我々は宮殿でダンスを踊っている他の連中とは違う」と言う一族のプライドは本物であり、その実績と、職業軍人の家系故に堕落を生まなかった伝統こそが、ブランデンブルグ家家門と言う存在感を生み出していた。それは、領邦君主である門閥貴族達が作った王国と異なり、ブランデンブルグ家が作り上げた「経済立国の軍事政権」と言う、帝国内で一線を画する明確な政策を掲げた小国家である事でも明らかであった。

 

 

5

 

 翌日、彼は再びヴィルヘルムスハーフェン地上宇宙港に来ていた。この宇宙港には2000隻の民間用シップヤードの他に、8600隻分の軍事用シップヤードがある。戦艦ローゼンハイムは外部からの入泊用に割り当てられている600隻分の軍事用シップヤードの一つに係留されており、8000隻はジークムントが直卒するブランデンブルグ公第1艦隊8000隻が占有している。これらの私兵艦隊には各貴族の家紋が描かれており、ブランデンブルグ公艦隊主力部隊には全て、ゴールデンバウム王朝の紋様ではなく、ブランデンブルグ家の紋様である鷹のシンボルが描かれていた。

それはここにいる第1艦隊も例外なくそうであり、彼がやって来ていたのはそうした1隻―――その旗艦であった。

 

ジークムント「“ハイデルブルグ”を見るのも久しぶりだな。」

 

クーリヒ「そうですね。」

 

ヘルナー「この間オーバーホールが終わったばかりですから、万全のコンディションで飛び立てます。」

 

ジークムント「それは何よりだな。」

 

ヘルナー「今回の船旅も、ごゆるりとお寛ぎになって下さい。」

 

ジークムント「任せるよ、“艦長”。」

 

ヘルナー「お任せください。」

 

 ヘルナーはジークムントの副官を務める傍ら、旗艦級戦艦「ハイデルブルグ」の艦長を務め、艦隊運用を彼から託されている。ヘルナーの艦隊運用は帝国内でも屈指の洗練されたものであり、正規軍ではない私兵艦隊が、ジークムントの要望に沿って迅速かつ正確に動けるのは、ヘルナーの名人芸あってこそであり、艦長としての経験は、帝国軍の戦艦で艦長を務めていた時期に培ったものである。

 

 ジークムントが座乗艦とし、ヘルナーが艦長を務める旗艦級戦艦「ハイデルブルグ」は、ヴィルヘルミナ級戦艦ローゼンハイムを手本として、純粋な戦艦として能力を追い求めたもので、実質上の縮小強化版に当たる。

ヴィルヘルミナ級は(手本となったローゼンハイムも含めて)「貴族の動く御屋敷」として、会議やパーティー用と言った、戦闘には直接には不要な設備を艤装できる様に作られており、そういったコンセプトが気に入らなかった彼によって、ブランデンブルグ公領で作られた旗艦級戦艦である。

 このハイデルブルグは、ヴィルヘルミナ級全艦が建造された時よりも新しい現在の技術に、ブランデンブルグ公領で開発された新手法を組み合わせる事と、前述の不要な装備を通常の旗艦級に見られる程度の必要十分な部分までを除いて全廃した事で、ヴィルヘルミナよりもサイズを一回り以上小さくしつつも、能力では同等の性能をキープする事に成功している。

 

 全長はヴィルヘルミナ級の1,116mに対して1,032mまで縮小されており、動力炉も技術の向上でヴィルヘルミナが出来た頃より小型化されたことで、同等の出力を維持しつつ機関部も小型化、全高も337mから310mに縮小、幅も241mから230mとしながら、主砲門数は16門と、艦の小型化に伴い減少したが、エネルギー収束口径は通常のヴィルヘルミナ級と同じ30㎝をキープしている。

 この大きさはラインハルトの座乗艦「ブリュンヒルト」よりも二回りほど大きい程度でありつつも、豪奢な貴族装備にジェネレーター出力を持って行かれた挙句、20門の主砲を12㎝口径と言う駆逐艦並みの収束口径にせざるを得なかったベルリンやオストマルクと言った貴族型ヴィルヘルミナ級とは火力も対極にあり、ローゼンハイムの30㎝ビーム20本には流石に劣るものの、旗艦としては十分過ぎる火力を有していた。

 

 この小型化に踏み切った背景には、そういった貴族趣味を快く思っていなかった事の他に、経済的な戦艦が求められた事による。

 巨大な戦艦は見栄を張る分には良いが、1万隻以上の規模で戦われる艦隊戦に於いて、旗艦級戦艦には原則として、自衛以上の戦闘能力は要求されないのだ。

旗艦級戦艦は全艦隊を統率する為の存在であり、主体となって戦う存在としては考えられていない。よって、指揮官を守る為の高い防御力と、旗艦が肉薄された際に発揮する為の強力な自衛力、そして全艦隊に行き届くだけの通信能力があればそれでよいのだ。必ずしも大きくある必要もなければ、過剰なまでの火力を持たせる意味も皆無なのである。

 しかも巨大戦艦というものは、公爵とはいえ一領主が作るにはコストもかかる上、そのランニングコストの面でも不利を受けてしまう。

より具体的に言えば、ヴィルヘルミナ級はエンジンの数も主砲の数も、それ以外の装備品にしても標準型戦艦の倍かそれ以上の数を搭載しており、大きさも比較にならないほど大きく、自然と運用人員も増大するし、維持費も、それを整備するドックの費用も大きな負担となってのしかかってくる。

そんな扱いにくいものを、合理的に考えれば作る余裕などありはしないのだ。主砲だって、1門増減するだけで数十万帝国(ライヒス)マルクの差があるのだから、4門減れば装備費用だけで100万帝国マルク超の削減、維持費にしても1%程の差が出てくるのだ。

 ではなぜ敢えて旗艦級戦艦を作ったのかと言えば、それは総戦力5万隻に迫る様な大艦隊を指揮する為には、現実的に言って標準型戦艦の想定している1個艦隊に対応する程度の拡張指揮能力では追い付かない為である。*2

 

 これらの理由から貴族的装備が排された事によって、動力炉のエネルギーリソースにも余裕が出来ており、シールド(エネルギー中和磁場)や主砲の持続力は勿論、その最大出力も向上しているし、艦載機格納区画に近い部分は格納庫に作り替えられてもいる為、近接防空能力も極めて高く、その上出力を維持しつつ機関部を含めた艦自体が小型化されたことで、重量出力比(パワーウェイトレシオ)が大幅に向上、燃費の削減や機動力の向上に繋がっている。

 地方領主側で建造されたという、旗艦級戦艦の中では珍しい経緯を持つハイデルブルグだが、その原典はローゼンハイム、遡ればヴィルヘルミナ級であり、ヴィルヘルミナ級が信頼性の担保された標準型戦艦の拡大型である以上、ハイデルブルグも標準型戦艦の影響を強く受けている。故にその信頼性は高く、それは幾つかの新機軸を受け入れて尚余りあるものだった。

 

 3人は揃ってハイデルブルグに乗り込むと、護衛の巡航艦3隻を従えて首都星ヴィルヘルムスハーフェンを発った。目的は領内の巡視と、各艦隊の視察であった。

 

 

 最初に向かった先は、ブランデンブルグ星系第3惑星ヴィルヘルムスハーフェンと、第4惑星ヴォルフスブルグの周回軌道の丁度中間を周回している人工天体である。

人工天体とは言っても球形ではなく、六角柱のコアブロックを中心にして放射線に伸びる8つの太い棒状構造物―――腕と、2つのリング状建造物から放射線状に伸びる細長い無数の腕によって構成されていた。

細い腕の一つ一つには繊毛のように横に突き出た構造があり、そこに接続される形で多数の軍艦が係留されていた。また太い腕には突端部に球形の構造が取り付けられており、その球と太い腕の表面には多数の砲台が見て取れた。

 

ジークムント「あれを見るのも久しいな。」

 

クーリヒ「そうですね。」

 

ヘルナー「まもなく“アースガルズ”に入港します。」

 

ジークムント「分かった。」

 

 戦艦ハイデルブルグは、入港管制に従い、所定のシップヤードに入港していく。周囲には多数の戦艦や巡航艦、宇宙母艦などが係留されており、ここがただの人工天体でない事は一目瞭然であった。

 

―――アースガルズ要塞。それが、ブランデンブルグ公領内随一の規模を誇る軍事拠点の名であった。外周の直径はおよそ70kmあり、1万7千隻の艦艇収容能力と、同時修理可能艦艇数520隻の収容能力を持つ修理ドックを備え、8つの球形砲台ブロックに守られている。

「要塞」と名付けられてこそいるが実態としてはシップヤード、即ち宇宙港であり、これ自体の攻撃能力としてはさして大きい訳ではない。ではなぜ「要塞」と言う名が付いているのか。それは、その経緯に理由を求める事が出来る。

 事の発端は、ジークムントの祖父の代に、ブランデンブルグ星系を守護する宙域防空用の要塞を作ろうという計画が持ち上がった事に端を発する。

祖父、つまり34代目ブランデンブルグ公は、その計画に並々ならぬ関心と賛意を示し、早速中央に対してその認可を得ようとしたのだが、粘り強い交渉にも拘らず中央は全く首を縦に振らなかったのだ。困り果てていたその時、臣下の一人から出された代替案が「シップヤード」だったのである。

 結果として「それならば」と軍務省も首を縦に振ったのだが、結果完成したものは、要塞としての機能を併せ持った、帝国領内では珍しい宇宙港であった、という訳である。この為艦艇収容能力でガイエスブルグよりも大きく、直径もイゼルローンを上回るが、それはあくまで複数本のビームをベースとした構造である為で、要塞主砲は装備されていない。ただ、元々ヴォルフスブルグに駐留していた艦隊をこちらに移した事で、経済の中心地であるヴォルフスブルグ内での大気圏内航行管制が容易となり、事故件数が劇的に減少し、大気への影響も抑えられたのだ。

そしてその元々ヴォルフスブルグに駐留していた艦隊であり、現在はアースガルズ要塞に駐留しているのが、アドルフ・ハウシルト・フォン・ディッケンドルフ中将の第2艦隊8000隻である。

 

ジークムント「ディッケンドルフ中将。」

 

「お待ちしておりました。」

 第2艦隊司令官ディッケンドルフ中将は、ジークムントを要塞司令室で出迎えた。指令室は出入港管制を別系統にしている為、要塞全体の中央管制を受け持っており、余り圧迫感を感じさせない広々としたデザインになっていた。

 

ジークムント「相変わらず不自由ないか?」

 

ディッケンドルフ「部下から報告の上がってきた不具合等についてはは、直ぐに対応頂いておりますので。執政府の(ほう)には、お礼の申し様も御座いません。」

 

ジークムント「うん。ここはこの星系の守りの要だ。しっかり頼むぞ。」

 

ディッケンドルフ「ハッ!」

 ディッケンドルフ艦隊は、有事の際には公領内の航路と制宙権を確保する責任を負っており、所謂公領全体の警備隊としての責任は彼らが担っていると言ってよい。一方ジークムント直卒でヴィルヘルムスハーフェン駐留の第1艦隊は、ブランデンブルグ星系全域を含む首都防衛の任務と、有事の際の機動戦力と言う位置づけが為されている、矛と盾の関係にある。

 

ディッケンドルフ「閣下、訓練の方はご視察になりますか? それとも他の領地に向かわれますか?」

 

ジークムント「訓練を見させて貰おうか。」

 

ディッケンドルフ「承知しました、然るべく取り計らいます。」

 

そのやり取りをきっかけに二人は別れる。片や部下への指示を出す為に、片や訓練宙域に移動する為にである。

 

 

 ところ変わってブランデンブルグ星系外縁部では、ディッケンドルフ艦隊所属の分艦隊と、ジークムント艦隊の分艦隊とが訓練を行っていた。アースガルズ要塞を出たハイデルブルグはその演習風景を視察する為、その近傍に来ていた。

演習は概ね実戦に沿ったもので、訓練用に出力を落とした中性子ビーム砲が飛び交い、演習用の模擬弾頭を装着したミサイルが発射される。シールドは定格出力で展開されている為、最小出力で発射される主砲では傷も与えられないが、代わりとして入射角を計算してダメージシミュレーションをするのである。

約2.5光秒程離れたハイデルブルグから、彼は光の筋が飛び交う様と、データリンクで送られてくる状況図を交互に見ていた。

 

ジークムント「ふむ、良い機動戦術だな。それに対する対応も完璧だ。」

 

ディッケンドルフ「“実戦経験・訓練共に行き届いております。分艦隊指揮官級の将校の育成も滞りなく出来ております。”」

 

ジークムント「うん、大変結構。」

 

ディッケンドルフ「“ありがとうございます。”」

 

ジークムントは満足した様に頷いて言った。彼が率いる艦隊は、些かもその精彩を欠いていなかった事を確認出来たのは、彼にとって喜ばしい事であったに違いない。

 

ディッケンドルフ「“閣下、軍務省筋から聞いた話なのですが―――”」

 

ジークムント「なんだ?」

 

ディッケンドルフ「“戦艦『ワレンシュタイン』が、先の戦いで戦没したそうです。”」

 

ジークムント「『ワレンシュタイン』が・・・そうか。惜しいな。」

 

ディッケンドルフ「“どうやら、敵第2艦隊に突撃した折、敵旗艦と至近距離で交戦、撃沈されたようです。”」

 

ジークムント「私が下りた後、ローエングラム伯の下にいたとはな。ライバル同士、因果なものよ。」

 

ディッケンドルフ「“は・・・。”」

 

ジークムント「だが、あれに乗っていたのも昔の話だ。今はこの『ハイデルブルグ』『ローゼンハイム』こそ私の城と言えよう。良い船を頂いたものだ。」

 

彼の言葉には含む所があったが、ディッケンドルフは何も言わなかった―――。

 

 

6

 

 翻って同盟では、アスターテ星域会戦に於ける200万人もの人的損害と、2万隻に上る艦艇の損害、それによる2個艦隊の壊滅を再建する為、最大限の努力が施されていた。

まず旗艦レオニダス喪失、司令官パストーレ中将が戦死し、部隊を統率して迅速に戦線を離脱した―――正確には残敵掃討に余分な時間を割くことを嫌ったラインハルトによりお目こぼしをもらった―――フィッシャー准将の分艦隊と、200隻程度の残存艦艇を除く戦力の8割強を失った第4艦隊と、ヤン・ウェンリー准将の指揮で半数を失いつつも辛うじて死地を切り抜けた第2艦隊とを統合して第13艦隊が編成され、艦艇数6000隻の半個艦隊としてその歴史をスタートする。そして同じく旗艦ペルガモン喪失、司令官ムーア中将が戦死しながらも()()()()()()()()()()()、戦力の半数が壊乱状態になって逃走した事で生き残った第6艦隊は、複数の独立部隊が統合される形で再建が行われる事となっていた。

 

 

宇宙歴796年3月21日 バーラト星系惑星ハイネセン・統合作戦本部ビル内本部長執務室

 

「かけたまえ、ヤン“少将”。」

 

 そう言ったのは、白髪だが筋骨逞しい壮年の黒人である。

シドニー・シトレ―――階級は同盟軍元帥、役職は統合作戦本部長。所謂参謀本部に相当する場所であり、作戦考案から後方兵站、宣伝に至るまでの軍政を担当する部署のトップであった。

 

ヤン「―――昇進、ですか?」

 

 そう答えたのはメディアからも「アスターテの英雄」と騒がれていたヤン・ウェンリーであった。黒髪に冴えない面構えには、普段通りの温和さの中に、僅かばかりの「またか―――」と言う表情が浮かんでいた。

彼はなにも軍人になるべくしてなった訳では無く、昇進しようとして手柄を立てた事もない。その普段の素行故に「無駄飯食らいのヤン」とも呼ばれる男である。

 

シトレ「君は少将に昇進してもらう事になる。これは内定ではなく決定だ。辞令は明日になる。理由は分かるね?」

 

ヤン「負けたからでしょう?」

 

シトレ「君は士官学校の時から変わらんな。温和な顔をして辛辣なセリフを吐く。」

 

苦笑するシトレではあったが、その声には否定する様な響きはなかった。シトレは続ける。

「ある意味ではその通りだ。近来にない大敗北によって市民の間には動揺が広がっている。これを鎮める為に、同盟には英雄が必要なのだ。つまりヤン少将、君だ。」

 

ヤン「私にそのような資格は・・・それに、やたらに恩賞を与えるのは、その国が窮迫している証拠だと、古代の兵法書にもあります。」

 

シトレ「君の言う事にも一理あるが、実際、アスターテにおける君の功績は、客観的に見ても昇進させるのに十分足るものだ、理由もなく昇進させている訳ではない。それに、作られた英雄になるのは、君にとっては不本意だろうが、これは軍人にとっての一種の任務だ。それに、功績を立てたのに昇進させないとあっては、統合作戦本部も国防委員会も、信賞必罰の実を問われる事になる。」

 

ヤン「その国防委員会ですが、トリューニヒト委員長の意向でしょうか。」

 

シトレ「一個人の意向など、この際問題ではない。例え委員長であってもだ。公人としての立場というものもある。」

 

 シトレは口ではそう断じたが、ヤンには察しが付いていた。この人事はヨブ・トリューニヒト国防委員長―――あの市民を戦争に煽り立てる事については天才的な、碌でもない演説家も一枚噛んでいると言う事をである。そしてヤンのその想像は事実でもあった。

 

シトレ「ところで、君が会戦前にパエッタ司令に提出した作戦、あれが実行されていたら、勝てたと思うかね。」

 

ヤン「多分。」

 

シトレ「だが別の機会にこの作戦を生かして、ローエングラム伯へ復讐する事も可能ではないか?」

 

シトレの質問に対して、ヤンは静かな声でこう答えた。

「ローエングラム伯が、少数で多数に勝とうとするのであれば、それを生かす機会があるでしょう。しかし、そうはならないと思います。次は圧倒的多数で、我々を叩きのめしに来るでしょう。」

 

 そこからヤンは自己の思う所によるアスターテの敗因についての持論を披瀝する。ヤンは各司令官が、当初の作戦案がプロパガンダ的に非常に有効であると言う一点に加えて、何者かに指嗾されたことで思考の硬直が引き起こされていたのではないか。それ故に、あの戦争の天才に付け入られたのではないかと言う事を、彼なりの言葉で表現した。それを聞いていたシトレは、我が意を得たりとばかりに満足した様に頷いて話題を変えた。

 

シトレ「ところでだ。今度、軍の編成に一部変更が加えられる。壊滅した第4艦隊に第2艦隊と新兵を加えて、第13艦隊が編成される事になった。君にはその司令官になって貰う。」

 

ヤン「艦隊司令官は、通常では中将を充てるのではないのですか?」

 

シトレ「第13艦隊の規模は、通常のほぼ半数の数だ。その最初の任務はイゼルローン要塞の攻略だ。」

 

ヤン「―――今の話を聞いておいででしたか?」

 

シトレ「無論だ、その上で話をしている。」

 

シトレはそう力強く断言するが、ヤンが驚くのも無理はなかった。

 

―――イゼルローン要塞。

帝国と同盟の宙域を結ぶ回廊「イゼルローン回廊」内にある恒星アルテナ周囲を公転する、直径60kmの人工天体である。その表面は流体金属の海で覆われており、無数の砲台と艦隊で防御されている。

 イゼルローン要塞には、これを難攻不落とする所以たる兵器が存在する。それが、要塞主砲「雷神の槌(トゥールハンマー)」である。射程6.4光秒、出力9億2400万メガワットを誇るこの巨砲は、流体金属層をへこませレンズ代わりにする事で発射され、一撃で数千隻を消滅させる事も可能な威力を誇る。

この要塞主砲の威力やその防御力の高さが災いし、イゼルローン要塞はこれまで6度の攻防戦が繰り広げられ、その全てで同盟軍は大敗を喫し、数百万の将兵と、10万隻に達する艦艇を失ったのである。帝国はこの為に、「イゼルローン回廊は叛徒共の血で舗装されたり」と豪語している。

帝国にとっては帝国領への侵入を阻む門であり、同盟にとっては難攻不落の城塞であった。

 

ヤン「可能だとお考えですか?」

 

その至極真っ当過ぎる質問に、シトレはこう事も無げに答えた。

「君に出来ねば、他の誰にも不可能だろうと考えておるよ。」

 

その言葉にヤンは思わず考え込んでしまう。

 

シトレ「・・・自信がないかね?」

 

シトレはそう問いかけた後、こう言葉を続けた。

「もし君が新艦隊を率いてこの偉業を成し遂げれば、君個人に対する周囲の好悪(こうお)はどうあれ、トリューニヒト国防委員長も、君の事を認めざるを得んだろうな。どうだ?」

 

その言葉を聞いたヤンは溜め息を一つついた後で答えたのだった。

 

ヤン「微力を尽くします。」

 

―――こうして、同盟軍第13艦隊が創設される運びとなった。

司令官 ヤン・ウェンリー少将、副司令官 エドウィン・フィッシャー准将、参謀長 ムライ准将、副参謀長 フョードル・パトリチェフ大佐、副官 フレデリカ・グリーンヒル中尉と言う顔ぶれを迎え、来たるべき作戦に向けて歩みを進める事となった。

 

 

 帝国と同盟、双方で軍編成の変更が起こり、2人の英雄が、その表舞台に姿を現した、宇宙歴796年/帝国歴487年3月と言う時期は、この歴史上に於いて、一つの大きな転換点とも言えるポイントとなる。これを境にして、歴史の歯車は、その停滞していた歩みを加速させる事となるのだ。

だがこの時、帝国中枢にあって、多大な功績を挙げながらも雌伏の時を過ごす、若き上級大将の姿は、他の動きに隠れて目立たない存在となっていたのである―――。

 

 

黎明編第2章~カストロプ動乱~へ続く・・・

*1
宇宙暦751年/帝国暦442年に発生した帝国軍と同盟軍の戦闘。前年同盟軍宇宙艦隊副司令長官に就任したジョン・ドリンカー・コープ(730年マフィアの一人)が陣頭指揮をとったが、コープが指揮を執ったとは思われない程の精彩を欠いた指揮ぶりで同盟軍が惨敗、同盟軍はフレデリック・ジャスパー(同じく730年マフィアの一人)の援軍が間に合わず30万人の戦死者を出し、コープ自身も戦死した。

*2
補足になるが、ではこの時期他の貴族私兵艦隊はと言えば、旗艦能力を付与した標準型戦艦複数をリンクさせて指揮を執ることが多く、これによって正規艦隊並みの指揮を可能としている。しかしこの方法は正規軍並みの洗練された将兵にしか十全に扱う事が出来ない方法であり、旗艦級戦艦を標準配備している同盟軍と同じやり方でもある。貴族私兵は概ね練度は並かそれ以下である事を考えると、彼らがそれ程大掛かりな艦隊運用を考慮に入れていないと言う事でもあり、この点からしても当時の貴族達に、合理的な思考は乏しかったことが伺えるだろう。ブランデンブルグ公艦隊にもこのやり方は適用出来るが、アスターテ会戦に於ける同盟軍に見られる様に、データリンクシステムを使用している都合上、通信妨害で呆気なく連携を遮断されてしまう恐れもある事から、彼らはこの方法を取っている。

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