FLOWER KNIGHT GIRL~Knight of Kerria~   作:フリードリヒ提督

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追憶~かの英雄、在りし日(つづ)る者~

~スプリングガーデンのとある村~

 

村の子供A「ねぇねぇ大ばば様! 今日もお話聞かせて!」

 

村の子供B「聞かせて聞かせて!」

 

大ばば様「はいはい、皆慌てないで、今日も聞かせてあげるからね。」

 

子供達「「やったぁ!」」

 

村の子供A「今日はどんなお話?」

 

村の子供B「おとぎ話?」

 

村の子供C「王子様とお姫様のお話がいい!」

 

村の子供D「えー! カッコいい勇者のお話がいいなぁ!」

 

大ばば様「へぇ、勇者様のお話か。勇者とは少し違うけれど、昔、この世界を救った英雄のお話を、今日はしてあげよう。」

 

子供達「「はーい。」」

 

大ばば様「そう、それは今から何十年も昔のお話―――」

 

 

1

 

 そう、それは今から何年も何年も前の事。このスプリングガーデンの一国、『ブロッサムヒル』の一隅で、一人の英雄が、至って静かにその道を歩み始めた。

その男は、同じ時代を生きる誰よりも強く、聡明で、優しく、おおらかで、ダメな所は多いが、それでも、誰からも慕われた男だった。かく言う私も、その為人(ひととなり)に感服した花騎士(フラワーナイト)の一人だ。

 彼は花騎士よりなる「騎士団」を率いて各地を転戦し、かつてこの世界を覆った災厄―――害虫の群れと相対し、自分について来る花騎士達の先頭に立って、今では「大災害」とも呼ばれる戦いの末期、苛烈さが加速度的に増す中で尚戦い続けた男。そして、その1000年を超える終わりの見えなかった戦いに、手ずから終止符を打った男。

彼がいなければ、我々は今もあの激しい戦いの日々を繰り返していたのかもしれないと思えば、これを偉業と称さず、何と称するべきだろう。

 私は今日、ふと昔日の彼の事を思い出し、彼の伝記を執筆し始めた。可能な範囲で調べられるあらゆる事を調べ、それを伝記として纏める事を決意した次第である。

 

―――私の名前は“カラー”、リリィウッド出身の花騎士で、今はリリィウッド王立騎士学校教官を務めている者だ。

 

 

・・・それは今から遡る事30と3年前、周囲に比べれば何の変哲もない一人の男が、ブロッサムヒル王城の謁見の間にて、当時のブロッサムヒル女王の御前に(ひざまず)いていた。

 

 彼の名は“レオポルト・ディークマイアー”、山と谷と断崖が大半を占める峻険な国『ベルガモットバレー』に生まれ、現在は「ブロッサムヒル王立西苑(せいえん)騎士隊」に籍を置く騎士で、しがない平民出身者である。

地元ブロッサムヒルの出身者が大半である騎士達の中で、他国の出身でありながらもみるみる内に頭角を現し、知徳の世界花「ブロッサムヒル」とブロッサムヒル王国の国土を、害虫から守り通す一翼となって最前線で身を粉にして働いて来た若年騎士であり、平民の出ながら騎士達の一団を統率する「騎士長(Chevalier capitaine)」として、将来を嘱望されている男であった。

 レオポルトはこの時26歳。アメジストの瞳と茶髪のショートヘア、少々シャープさはあるが、礼装を着てしまえばそんじょそこらの貴族の子弟と間違えられそうな程美形な顔立ちをしている。体も筋肉質で肉付きも良いが、それ程偉丈夫と言う訳でもなく自己主張も程々の体つきで、背丈も対外的な面目を重視される男性騎士らしく、183cmと高い。

 

 そんな美形の若年騎士は今、礼装を纏ってブロッサムヒル王国女王の玉座の前にいた。何を隠そう、王城で自身の部隊の訓練中、女王自らの召還によって王城内の謁見の間へと通されたのである。謁見の間には女王とレオポルトの他、近衛騎士数名の警備と2人ばかり傍らに控える女王の側近のみがあり、空間全体が厳粛な雰囲気に満ちていた。

 

 

「―――ディークマイアー殿。貴方が今日、私の前に呼び出されたのは他でもありません。貴方に、ある重大な使命を与える為です。」

 

その美しく良く通る声を響かせ、女王がレオポルトに用件を切り出す。彼は無言で跪き、女王の次の言葉を待つ。

 

「貴方を、この度新設される騎士団の団長に任命したいのです。」

 

レオポルト「私を、ですか・・・?」

 

女王の放った思ってもいなかった言葉に対し、彼は少し驚いてそう答えた。

 

「そうです。貴方は我が王国の騎士隊を率い、これまで巧みな手腕を発揮して、害虫の群れが闊歩(かっぽ)するのを阻止してきました。その手腕を、より大きな舞台で生かして欲しいのです。」

 

レオポルト「――女王陛下直々の勅命(ちょくめい)とあれば、勿論御引き受け致しますが・・・。」

 

当惑してそう言うレオポルトに対し、女王は凛として答えた。

 

「えぇ、そうですね。これは私が自分で考え、決めた事です。」

 

レオポルト「―――理由を、お伺いしても宜しいですか?」

 

彼がそう言うと、女王は次のように答えたと言う。

 

「貴方は今まで、自身が生まれ育った地を離れ、このブロッサムヒルの地で、今まで私達の為に尽くして頂きました。その勇敢さと知謀、そして貴方の類稀なる力を、より良く振るって頂く為です。知っての通り、貴方方勇敢な人々の献身と努力にも拘らず、戦乱はより一層深刻さを増すばかり。女王としてこれを憂い、(わら)にもすがるような気持ちで、今日この場に於いて、貴方に、より一層の働きを期待させて頂きたいのです。」

 

レオポルト(参ったな・・・逃げ道はどうもなさそうだ。)

 

 心中穏やかではないレオポルト。そもそもブロッサムヒルにとっては他国の出身者である自分が、そのブロッサムヒルに於いて騎士長と言う身分にあるだけでも、彼には過分な地位な様に思えていた。

だが、今自らが跪いているブロッサムヒルの女王は、その自分をより高位の位に就けようとしていたのだった。周囲からの嫉視は、どう想像しても避けがたい所であった。

しかし、どうやら自身の置かれた状況からして、彼には逃げ道は無い様に思われたようである。

彼はこの時、女王が答えに詰まる様であれば、この申し出を断るつもりだった様であるが、しかし目の前に鎮座する女王は、迷うことなく彼にその理由を告げたのである。

 

「―――これまで私達の為に、十分以上に尽くして頂いた事は承知の上です。しかし私には、ノヴァーリス女王やシュウメイギク女王の様に、戦う力がありません。ですからこうして、お願いする事しか出来ないのです。やって下さいますか? ディークマイアー殿。」

 

 ノヴァーリスは北の雪に閉ざされた国『ウィンターローズ』の、そしてシュウメイギクは彼の生まれ故郷であるベルガモットバレーの女王である。両名とも女王の身でありつつも一人の花騎士として、その名が知られる王侯の筆頭として名が挙がる人物である。

シュウメイギク自身は普段城から出る事自体が稀であり、(まつりごと)に関しても各地の自主性を尊重するなど余り積極的でない部分はあるものの、特にノヴァーリスはその力を惜しみなく振るうべく、陣頭指揮を執って戦う事も珍しくないと噂である。

 しかしその両名とは異なり、目の前に玉座を占める当代のブロッサムヒル女王には、そうした力を持ち合わせてはいない。故に常日頃から、国と共にある国民や、国の為に戦う騎士達に対して、常に暖かく心を配り、その凶事に際しては心を痛めていた。

それを最前線にあってよく知る彼だからこそ、彼は自らが仕える主君の気持ちに背く事をすまいと決意し、そして後に世界の運命を決したとも言える言葉を発する。

 

レオポルト「―――御意のままに致します。非才の身ではありますが、委細全て、お任せ下さい。」

 

「お任せします。貴方のその手腕に、期待させて頂きますよ。」

 

レオポルト「ご期待に沿えるよう、微力を尽くします。」

 

 

2

 

レオポルト(―――何故、俺なのだろう。)

 

 そうして女王の御前を辞去したレオポルトは、内心では唐突な騎士団長任命に戸惑っていた。

彼は元々ベルガモットバレーの出身であり、人員の大半がブロッサムヒル出身者で占められ、当然貴族の生まれを持つ者も多い同国騎士隊の中にあって、自身が選ばれた理由を測りかねたのだ。彼の視点で見れば、適任者ならばそれこそ、自分でなくてもいる様に思えたのは事実であっただろう。

 だが考えた末に彼は結局、「女王陛下がこれまで積んできた自分の功に報いるべく昇進人事をなさったのだ」と、無理矢理自分を納得させた。事実、この人事がどのような意図であれ、昇進である事に変わりはない。

一介の騎士長であるより、特別な存在であるとされている花騎士を率いる身分である、騎士団長の方が社会的な地位では上なのだから。

 

―――だが彼が為してきた事、そして彼がこれから為した事を想えば、彼ほど団長として適任者はいなかったし、適材適所の人事だったことは明白である。

 

 その後、数日の間に辞令と詳細な説明を受けたレオポルトは、城内にあった騎士宿舎を荷物を纏めて引き払い、それまで率いてきた騎士達に涙ながらに見送られながら、ブロッサムヒル王都外縁部に位置する街区の一つに設けられた騎士団本部に向けて、手配された馬車に乗り王城を発ったのである。

 

 

G.C.(Garden calendar)1487年7月2日9時17分―――

 

レオポルト「・・・ここが、か。」

 

 彼は、これから彼の「城」となる、「騎士団本部」の正門前にいた。周囲は威圧感さえ与える様な高い石塀に全周を囲まれている事が一目で分かる。小型の害虫くらいなら、確かに寄せ付けないだろうと思わせるだけの立派なものである。

 

レオポルト「・・・まだ全部仕上がってはいないのか。」

 

 彼は若干落胆したように言った。

彼の受けた説明によれば、騎士団本部が設置されるノースフォス街区はその名の通り、弱度の敵勢力地域に指定されている「フォス平原」に面している為、時折はぐれた害虫の姿が見えると言う。

騎士団本部となる予定の建物は、ノースフォス街区内のフォス街道沿いにある住宅街の中、街道から脇道に逸れたその突き当りに建っている、没落した地主の所有していた屋敷であった建物である。

当代になっても当主はなお多くの土地を持っていたそうなのだが、その当主自身が害虫に襲われて死亡し、相続人もおらず遺族も扱いに困って空き家となっていたものを、王家が買い取って手を加え、急ぎ騎士団で使うように改修している最中、と言う内容であった。

 見た所、中央の大きな建物や倉庫、訓練場など、基本的な設備は全て工事が終わっているようだったが、全ての倉庫や建物が工事を終えている訳ではないようで、まだ大工達が(せわ)しなく出入りしていた。

だが少し離れた所から門の奥を覗き込んだだけでも、充実した設備の訓練場までも抱え込む程に、広々とした敷地を持っている事は見て取れた。

 だが彼が今立っている場所は王都の城壁の外であり、故に触れずともその堅牢さが窺い知れるその石塀は十分に彼を納得させるものがあった。このご時世、城壁を1歩外に出れば、いつ害虫に襲われるとも知れない。

屋敷の(あるじ)はそれ故に、この壁のような塀を造らせたものだろう事は彼にも容易に想像出来る。が、思わず独語したのはそれとはまた別の事であった。

 

レオポルト「やれやれ、陛下が思い立ってから実行まで日取りが無かったと言う所か、或いは何かの手違いか。」

 

―――恐らくその両方だろう。彼はそう感じて嘆息するのだ。

 普通こう言ったものの工期はある程度余裕を持たせるものである筈だが、後年に発覚したところでは、本来はそのつもりだったものの、その頃組まれていたタイムスケジュールからして、女王陛下の日取りに余裕がないが故に任命を前倒しにせざるを得なかったのだが、それでも本来の期限には十分間に合う筈だった。

しかしその直前になって改装中の屋敷の工事に手違いがあり、それにより大幅に遅れてしまったと言うのが真相なのだと言う。結果として彼の直感は明察だったと言えるだろう。

 

「あの~・・・すみません。」

 

レオポルト「―――?」

 

そのような事を考えているところへ声を掛けられ、後ろを振り向いた彼の目には、一人の女性の姿が映っていた。

 ウェーブのかかった茶髪のロングヘア―、白い服は上着とスカートが一体化したような形状だが、少々肌の自己主張が激しい印象を受けた。ほっそりとした体つきだが十分美人であり、その表情は完全に疑問を投げかける時のそれであった。

「あの、人違いだったら申し訳ないのですが、この騎士団に着任する団長さんで、お間違いないですか?」

 

レオポルト「あぁ、そうだが・・・。」

 

「そうですか! 良かった~、人違いじゃなくて。」

そう言いながら声を掛けてきた女性は安心したように笑みを見せた。

「えっと、君は?」

内心当惑しながらディークマイアーが尋ねると、女性は頭を垂れながら名乗り始める。

「あっ、申し遅れました。本日より貴方様を補佐させて頂く事になっております、ナズナと申します!」

それを聞いた彼は、騎士団の関係者であったと言う事に加え、女性から先に名乗らせてしまった事に気づいて自らも名乗った。

「失礼した。本日付でこの騎士団の団長に着任する、レオポルト・ディークマイアーだ。先日女王陛下より勅命を賜り、ついさっきここに着いた所なんだ。」

 

ナズナ「そうでしたか。あっ、お出迎えが出来ず申し訳ありません、実は今朝、この近くの草原に害虫がいたと言う通報がありまして、最も近かった私達が急ぎ対応に向かっていたので・・・。」

 

レオポルト「成程・・・いや、それについては気にしていないよ。」

 

 そこまで言い終えた時、彼はナズナの傍らに1人の少女が控えている事に気づいた。

背が低く、赤みがかった髪にブルーの瞳の組み合わせが印象的だが、何より服装が何とも開放的なのが目を引く。上半身は布状の下着1枚、下はショートパンツと言う、見てて不安になる位の軽装をしている。頭に大きな赤い花飾りをつけていて、その表情は元気一杯の笑顔に満ちていた。

 一見すれば背丈と言いルックスと言い、その当たりにでもいそうな女の子と言った風采だったが、背中には、穂先の根元両側に突き出た短い刃先が目を引く槍を背負っていた。

その身なりから花騎士であると気付くのに、それ程の時間は要さなかった。ただの騎士で任務帰りと言う事であれば、甲冑に身を包んで帯剣(たいけん)している筈だからである。

「―――ところで、そちらは?」

そう彼が切り出すとナズナは答えた。

「はい、ご紹介します。団長様の着任に当たって、最初に麾下に入る花騎士さんです。」

ナズナがそう言うと、その少女は元気一杯に自己紹介を始めた。

「私ハイビスカス、よろしくね! 背はちょっと小さいけど、体力なら誰にも負けない自信があるよ! 戦場でもいっぱい駆け回って、困ってる人を守ってみせるから、期待しててっ!」

 

レオポルト「あぁ、宜しく頼むぞ。それにしても、俺の着任前から討伐任務とは、関心だな。」

 

ハイビスカス「へへっ、そうかな?」

 

ナズナ「今朝の害虫討伐でも、何匹かの害虫を瞬く間に仕留めたんですよ!」

 

それを聞いたレオポルトは満足したように2度頷きながら言った。

 

レオポルト「成程、人は見かけに依らぬと言う訳だ、団長として心しておこう。ま、立ち話もなんだし、軽く本部を案内してくれないか?」

 

ナズナ「はい、喜んで!」

 

 レオポルトはナズナに施設を案内して貰う事にして、騎士団本部の門を初めてくぐった。あとから思えば何のひねりもないごく普通の会話が、彼とナズナとの出会いであった。後年ナズナは、この時の事をこの様に(つづ)っている。

 

「(レオポルト・ディークマイアー)氏は私自らの意思で、最後にお仕えさせて頂く事になった団長様でしたが、私が受け持った多くの団長様の中では、最も素晴らしい方ではなかったかと思います。しかし、このように表すのは自分でもどうかと思うのですが、氏は一般に思われているような方ではなく、人としてははっきり申し上げれば「普通の人」でした。他の方と根本的に違うと言えるような所は本当に少ない、文字通りの普通の方でした。」

―――ナズナの手記 冒頭より

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