FLOWER KNIGHT GIRL~Knight of Kerria~ 作:フリードリヒ提督
ご不興を被る事を覚悟で予め前置きさせて頂きたい事が2点あります。
まず、このお話は基本として原作「FLOWER KNIGHT GIRL」のメインストーリーをベースとしますが、本来メインストーリーに登場する騎士団と団長とは別人であり、劇中では「ブロッサムヒル騎士団」として登場するものになります。
また展開上、メインストーリーを忠実に追う訳では無い事もここで明言させて頂きます。
以上を踏まえた上で、お読み頂けると幸いです。
1
―――王命に従い、新たな騎士団へ団長として着任したレオポルトは、ナズナの案内を受けて、騎士団の施設を一通り見回ってみる事にした。まだ出来上がってはいないにせよ、これから彼の城となる場所である。何処に何があるか位は、把握して置かなければ怠慢というものだろう。
自然、ナズナが先頭になる形で、隣に最初に着任した
見回してみると、真新しい装いの建物の傍に、荷車や資材がまだ置かれており、塗られたばかりの塗料の匂いが鼻を突く。何年も前から建っている建物の筈だが、よく見ないと劣化した場所が分からない程にまで修繕され、新築だと説明されても直ぐには疑問を抱かないだろうと、レオポルトは感心していた。
「へぇ、随分綺麗に直されてるな。」
思わずそう言ったのはレオポルトであった。
ナズナ「はい、王家直々の御沙汰で、相当な資材が投じられたみたいです。殆どリフォームに近い状態ですね。」
ナズナのその言葉を聞いたレオポルトの返事は概ね好意的なものであった。
「成程、設備に関しては期待が持てそうだな。」
ナズナ「はい。仰る通り、設備は凄く豪華ですよ。でも、他の騎士団でもこんな事はありませんでしたよ。」
レオポルト「そうなのか?」
ナズナ「大体の騎士団、例えば『ブロッサムヒル騎士団』は、城内の一角に本部を置いていますし、施設も騎士隊と共用ですからねぇ。専用の施設がここまでして用立てられるのも例としては多くないですよ。女王陛下のご信頼を受けている証拠ですよ!」
同じ城内に駐屯して居た者として、「ブロッサムヒル騎士団」の事やその事情はある程度知っていたので、彼にとってナズナの言った事ははそれほど驚く事では無かった。ブロッサムヒル騎士団も新設されたばかりの騎士団であり、見かけた回数もそう多くはないが、恵まれた環境であるかと言えば「そうでは無かろう」と言える位には、王城内の事には知悉していた。
だが、ナズナの放った最後の一語を聞いた時、彼は一瞬当惑気な顔をした後で、すぐに元に戻してこう言った。
「買い被りでなければいいのだけどね。」
「きっと、大丈夫です!」
ナズナはこの時、特に根拠なくただ励ます為にそう言った。彼もそれが分かっているから、特にそれには何も答えず、ただ苦笑したのみであった。
2
騎士団本部の敷地中央に堂々と建つのが、かつて主の母屋だったものを改装した騎士団本部建屋である。元々バロック様式の屋敷であり、3階建ての石造りの建物である。正門から見ると両翼に非常に広い外観で、多くの窓が見て取れるが、その奥に覗き見る事が出来る内装は、地主の屋敷であった頃の煌びやかさが豹変している事が見て取れた。
ナズナ「こちらが本部の正面玄関です。」
正門からまっすぐ見えていた両開きの大きな扉を開くと、その構造が明らかになってくる。玄関ホールはそのまま裏庭の方に通り抜けが出来る構造になっており、左右に各部屋への廊下が2本ずつ伸びている。その間隔の広さから、2本の廊下の間には相当に広い部屋でも無ければ2部屋分の幅がある事が見て取れた。
ナズナ「階段は左右両翼に1つずつ、右翼の奥の方にも1か所あります。」
レオポルト「と言う事は右翼側は奥に折れ曲がって続いているという訳か。」
ナズナ「はい、直角に。」
レオポルト「それは良い、裏庭が良く見えそうだ。いい眺めだろうな。」
相槌を打ちながら3人は右翼側の手前側の廊下を奥に進んでいく。ナズナの言う通り、行き当たりは左に直角に曲がって続いており、その奥には階段や奥の廊下との連絡用の廊下も見えていたが、突き当たりには黒さが目に付く、大きく重厚な扉があった。
近づいていくと、それは黒く塗装されている訳ではなく、黒い色味の木であった。美しい木目が扉全体に走っているのが見て取れ、少なくともただの大きな家で無かった事が分かる名残であるだろう、大きく豪奢なドアノブが印象的である。
両開きの扉を開けると、そこには扉の質感に合う色調や質感を伴った、最低限整えられた内装の執務室があった。横幅、奥行き共に広く、横幅は建物のそれと等しく、奥行きと合わせて間違いなく40人以上は整列する事が出来るであろう、一つの屋敷にしてはとてつもない広さのその部屋は、これからその主となる者の到着を、静寂と共に待ちかねていた。
ナズナ「ここが執務室です。改装前も家主の部屋として使われていたようです。」
ハイビスカス「すごっ・・・。」
レオポルト「広いな・・・。」
思わず彼はそう言った。
ナズナ「数十人収容出来るだけのスペースがありますから、全員集めて会議もできますよ。」
レオポルト「フッ、いつになるかな。」
ナズナ「近日中に、期限付きで応援に来る花騎士さん達が到着される筈ですよ。」
レオポルト「ほう、それはありがたいな。」
ナズナ「まずはハイビスカスさんとその方々とで任務に当たる事になると思いますよ。」
レオポルト「そうだな・・・。」
ハイビスカス「楽しみだなぁ。誰が来るんだろう?」
レオポルト「そうだな。さっ、次に行こう。時間も惜しい事だし。」
ナズナ「あっ、はい!」
レオポルトはナズナを急かすと執務室から出た。事実として、一介の騎士だった頃から害虫討伐を任務とする彼にとって、一刻も早く体制を整備し、出動出来る様にして置くことは重要な事であった。
この本部建屋は部屋数がとても多く、地下室まで備えており、1階と地下室には執務室や団長の居室の他、複数の資料室や蔵書室があり、2階と3階には花騎士達の部屋が割り当てられる予定になっていた。
それらを一通り見て回った3人は、今度は本部建屋正面玄関を出て、本部建屋正面両翼の外廊下に来ていた。
レオポルト「来るときに右翼側に倉庫があるのは見えていたが、左翼側のあの建物はなんなんだ?」
ナズナ「あれは食堂ですね。倉庫も食堂もこの外廊下で繋がっています。」
つまり、本部建屋を正面から見て右隣に倉庫、左隣に食堂があると言う事である。勿論玄関から出たときは左右の見え方は逆になり、玄関を出て右に行くと食堂に着ける訳である。
レオポルト「倉庫はまだ工事が終わっていないようだな。」
ナズナ「はい、そのようです。」
レオポルト「倉庫は3棟あるのかな?」
ナズナ「はい、2棟はリフォーム、1棟は新築で、新築の方は既に出来ているそうですが、リフォーム中の2棟の方が・・・。」
レオポルト「備品の搬入は?」
ナズナ「8割ほど完了しています。」
レオポルト「結構。応援の花騎士達の到着を待って始める事にしよう。」
ナズナの回答は、概ねレオポルトを満足させるに足るものであった。まだ工事は終わっていないものの、倉庫も使えるし、これならばいつでも動き出せるだろう。
ナズナもその要領よく指示を出していく彼の様子を見て、思わず目を
レオポルト「・・・そういえばナズナ。」
ナズナ「はい?」
レオポルトは一つ聞いて置かなければならない「重要な疑問」に思い当たった。
レオポルト「食堂は誰か雇うのか?」
ナズナ「いいえ、騎士団内でやって頂く事になります。所謂自炊の場も兼ねていますから。」
レオポルト「そう言う事かい・・・。」
つまり食事は自分達で作らなければならないという訳であった。但し―――
ナズナ「騎士団は基本的に専属の料理人を置いていませんから、花騎士達も自炊をしている方は多いですよ。」
レオポルト「ハイビスカスはどうなんだ?」
ハイビスカス「んー、お店で食べる方が多いかなぁ。」
レオポルト「ナズナはどうなんだ?」
ナズナ「私も全然で・・・。」
レオポルト「やれやれ、困ったな・・・。」
実は彼も自炊は余りする方ではない。重要な疑問とは正にこの事で、応援の者達が到着するまでの間の食事をどうにかせねばならないのである。彼は彼で騎士と言う仕事柄、予め作られた物を現地で簡単に調理して食べる事が多く、騎士隊の兵営も城内で食堂があったから、自炊は余りしなかったのである。
時間帯的にもお腹が空いてきているところであり、しかも3人共料理はからっきし、しかも騎士団ではシェフを雇わない方が普通と来ていて、着任早々本気で頭を悩ませる羽目に陥ってしまったのだった。
ナズナ「お食事でしたら、この辺りにいい店を知ってますけど、どうされますか?」
レオポルト「ありがたい、そうするとしようか。」
ナズナ「はいっ!」
ナズナは喜色満面で返事をすると、早速トタトタと彼の前を歩いていく。ハイビスカスとレオポルトもまた、互いに顔を見合わせてクスリと笑ってから、その後に続くのだった。
3
ナズナの紹介してくれたノースフォス街区の街道沿いのレストランは、彼の舌をうならせるに十分であった。3人が満たされたお腹に満足しながら騎士団本部に戻る途中、ふとナズナがレオポルトに向かって声をかける。
ナズナ「団長様。」
レオポルト「どうした?」
ナズナ「つかぬ事をお伺いしますが、団長様は、何か特別なお力をお持ちだったりするのですか?」
レオポルト「・・・いや、特にそんなことはない筈だが。どうして?」
ナズナ「いえ・・・なんだか、団長様から、何かに似た雰囲気を感じたもので。」
「・・・そうか。」
そう言われてもどう返答してよいものか分からなかったレオポルトは、結局そう返事するしかなかった。
騎士団本部に戻ったレオポルト達。最後に1か所だけ説明を受けていない所に行ってみる事にした。それは何を隠そう・・・
ナズナ「ここがこの騎士団専用の訓練場です。かつては裏庭でしたが、そこを広場と倉庫を伴う訓練場に変えました。」
ナズナに案内されてきたのは、入り口から通り抜けして反対側に抜けた先にあった訓練場だった。元々地主の屋敷の裏庭だっただけあってとんでもない広さがあり、大立ち回りしても特に不自由しないだろう程だった。
正直に言ってしまえば、ほんの数人で使う分には広すぎて持て余すレベルであり、それらが完全に彼らの専用として整えられたのであった。
レオポルト「一部屋根が付いてるんだな、雨でも素振りは出来そうだ。」
ナズナ「向こうに見えてますが、射場もあるので、弓を使う方でも訓練出来ます。」
レオポルト「備品は?」
ナズナ「揃っていると思います。」
レオポルト「流石、王家の息がかかっているだけはある。」
この点に関しては王侯貴族というものの凄さに称賛の意を表すレオポルトである。
ナズナ「そう言えば団長様は、ブロッサムヒルでも一、二を争う騎士長だったそうですね?」
レオポルト「あぁ、まぁ。よく知ってるね。」
ナズナ「有名人ですからね。少し前までサポートを担当していた騎士団でも、時々噂の種になってましたね。」
レオポルト「ふむ、そうか。」
ハイビスカス「え、そうなの!?」
ナズナ「知らなかったんですか?」
ハイビスカス「全然・・・。」
レオポルト「・・・。」
ナズナの言葉は感心なさげに聞き流した彼だったが、ハイビスカスにそう言われると流石に思う所があるようで、その表情もちょっとムスッとしていた。
レオポルト「―――よし、一度手合わせしようか、ハイビスカス。」
ハイビスカス「えっ、団長と!?」
ナズナ「団長様!?」
レオポルト「お互いの実力ってもんを知っておいた方がいいだろう? これから一緒に働く訳だし。」
ハイビスカス「・・・分かった。手加減は出来ないけど、いい?」
レオポルト「その方が助かる。」
そう言うと彼は木で出来た剣を手に取り、三度素振りをする。その間にハイビスカスも近くに立てかけてある木の槍を持ち出す。
ナズナ「ほ、本当にやるんですか・・・?」オロオロ
レオポルト「本当も何も、見れば分かるだろう?」
ナズナ「え、えーっと・・・。」
不安そうに声を掛けようとするナズナ。それもその筈である。花騎士達はみな一様に、世界花からの加護を受けてその力を用いる。その力は常人の到底及ばざるところであり、しかもハイビスカスの宣言が本当なら、最初から彼女は全力で行くのだろう事は容易に想像できる。
そうなると、彼がいきなり怪我しやしないかと言う事を
レオポルト「―――さぁ、始めよう。」
ハイビスカス「・・・いいんだね?」
そう遠慮がちに言うハイビスカスに対し、レオポルトは言った。
「構わないよ。さぁ、来いッ!」
レオポルトはしっかりと木の剣を握り構える。その全身に気迫が漲り、その双眸は一点の淀みなくハイビスカスの姿を捉えていた。
ハイビスカス「―――いくよっ!」
その瞬間―――レオポルトの後ろから見ていたナズナには、ハイビスカスの姿が目の前から掻き消えたように思われた。だがレオポルトもさるもの、ハイビスカスの最初の行動は既に見切っていた。
レオポルト「ふんっ!」
カアアァァン
ハイビスカス「えっ!?」
ハイビスカスは左方向に勢い良く飛び、レオポルトの右手から襲い掛かろうとしたのだが、レオポルトは瞬時に把握し、常人とは思えない速度で迫るハイビスカスの軌道を正確に読み、その槍の鋭い一撃を一太刀で弾いて見せたのである。
レオポルト「これが花騎士の力か―――騎士隊時代に見たどんな逸材でもこれ程ではないと言うのに・・・!」
そう言う彼は、背筋に冷たいものが滴るのを感じていた。ハイビスカスの動きは、大型害虫の腕がしなり来る速さに似ていたからである。これほどまでとは想像もしなかった速さに、しかし彼は辛うじて反応して見せたのであった。
ハイビスカス「―――へぇー。レッドジンジャー以外に、初めにこの技を止めた人は殆どいないのにな。」
レオポルト「正直見くびっていたよ。」
ハイビスカス「私も。でも、それなら本気でやらないと、ねっ!」
レオポルト「っ!」
カンカンカアアァァァァン
ハイビスカスが鋭い踏み込みから放った三連撃も、全てレオポルトはいなして見せ、しかもここで彼は反撃に出る。
レオポルト「はぁっ!」
カアァァン
ハイビスカス「っ!?」
いなした際の剣の動きを反動の代わりにして踏み込んだ一撃を、ハイビスカスは槍の柄で受ける。互いにその動作に無駄はなく、彼の一撃もまた、ハイビスカスの思った以上に重いものだった。しかし受けるや否や槍を振り抜いた事でレオポルトも弾き飛ばされ、再び間合いは開いてしまった。
しかし彼は体勢を崩すことなく着地し、ハイビスカスの次の一撃に備えた。その次の挙動は、一文字に追撃してくると言うシンプルなものだった。その速さは流石に評価されているだけあって、瞬く間に目の前まで迫っていた。
レオポルト「―――!」
しかしレオポルトの動きは素早かった。彼はその場で踏み込むと、上段からの一閃でまずハイビスカスの勢いを相殺し、続けざまに下段から振り上げた一閃でハイビスカスを弾き飛ばしたのである。
ハイビスカス「うー・・・やるなぁ。」
レオポルト「伊達に『春庭の脅威』を何体も倒してないよ。最も、一人で倒した事は余りないけど。」
ハイビスカス「―――本当にただの男の人?」
レオポルト「失礼だな、ただの騎士だよ。」
そこから再び両者は動き始める。薙ぎ、突き、斬り払う。互いに激しい動きで間合いを詰め、激しく打ち合い、また離れる。その動きは洗練されており、互いに害虫相手に数々の場数を踏んできた事を窺わせるものがあった。
ナズナはその応酬をつぶさに見ていた。
それはまるでフォス騎士学校で行われる上級生の教練を見ているようでもあり、自身がこれから担当することになるこの新任の団長が、ただならぬ存在である事を窺わせるのに足るものだった。
―――それも、半刻を経ずに勝負が付いた。
レオポルト「ハァ・・・ハァ・・・」
いくら歴戦の騎士であった彼でも、花騎士の持つ力を前にしては抗し得なかった。体力を使い果たして膝を折るレオポルトの姿がそこにはあった。一方ハイビスカスは立ってこそいたが、肩で息をしており、花騎士である彼女のその様子が、普通の騎士である筈のレオポルトとの戦いが、激戦だったことを物語っていた。
ハイビスカス「ふぅ・・・凄いね、団長さん。今まで見てきたどんな騎士さんよりも強かったよ。」
レオポルト「参った・・・これが、花騎士の力か。」
ナズナ「花騎士の皆さんは、世界花の加護を受けて戦っています。その力は、害虫と戦う為の強大なものです。はい、どうぞ。」
ナズナはそう言いながらレオポルトにタオルを手渡した。
レオポルト「ありがとう。凄い力だな、世界花の加護と言うのも。」
ナズナ「団長さんも凄いですよ! 花騎士を相手にして、ここまで打ち合う人なんていませんよ?」
レオポルト「正直、敵わないな。」
ハイビスカス「そんな事ないよ、団長さん。正直、ちょっと焦ったもん。」
レオポルト「―――そっか。」
ハイビスカス「うん! これから頑張ろうね、団長さん。」
レオポルト「あぁ、頼りにしてる。」
レオポルトもハイビスカスも、共に戦うに当たって不安に思ったのが、互いの実力であった。特にハイビスカスはそもそも、彼が前線に来るのかどうかと言う所を気にかけていたのだが、お互いにとって、それらの懸念は払拭されたと言ってよい。
この一騎打ちによって、3人はそれぞれに、互いへの信頼を築いたのである。
4
それから3日程の間を、3人はここでの生活に慣れるのに費やした。勿論騎士団を立ち上げる為の業務こそあったものの、応援の花騎士達が到着するまでは待命の身である。ナズナはしきりに王城との間を行き来していたが、特に何事も起こらないまま、その日はやって来た。
G.C.1487年7月6日11時02分 ブロッサムヒル・ノースフォス街区 騎士団本部団長執務室
コンコン、ガチャッ―――
ナズナ「失礼します! 団長様、応援に来られる花騎士の皆さんが到着されました!」
レオポルト「うん、通してくれ。」
彼がそう告げると、ナズナに続いて4人の花騎士が執務室に入って来た。4人共容姿はまるでバラバラで、それが花騎士達の多彩さを端的に表しているようでもあった。
ナズナ「こちらが、今回一時的に団長様の指揮下に入られる花騎士の皆さんです。では、一人ずつ自己紹介をお願いします。」
ナズナの発言に続く形で最初に自己紹介したのは、グリーンのロングヘアーが印象的なスレンダーな女性である。サルビアほど薄着でもないが、グリーン系で統一された装束は所々に露出が目立ち、4人の中で唯一装甲を身に着けていない。
「はじめまして、団長さん。私、ミントといいます。よろしくお願いします。」
その次に挨拶したのは、対照的に4人では一番背の高い、やはりピンク髪のこちらはロングヘアーの女性である。多少露出の多い自己主張の強い体つきにこれと言った武具は無かったが、ガーターベルトで止められた厚手のハイソックスの上から膝丈の脚甲を身に着けている。
「イブキトラノオよ。短い間だけど、宜しく。」
3人目に挨拶したのは、赤いショートヘアの女性、背もイブキトラノオよりは低い程度であり、スタイルもいい。こちらもタイツの上から膝丈の脚甲を身に着けている他、肘から手首までを覆うタイプの装甲を両腕に身に着けていたが、服装はここまでの2人と比べドレスコードかと言う位軽装である。
「サルビアよ、宜しく。」
最後に挨拶したのは、ピンク髪の小さな女の子である。紺の上着と言い紫がかったピンクのスカートと言い、チェストプレートを身につけていなければただの女の子としか思えなかっただろう。
「イチゴと言います! まだ騎士にはなり立てですが、宜しくお願いします!」
レオポルト「よく来てくれた、ディークマイアー騎士団団長、レオポルト・ディークマイアーだ。新設されたばかりの我が騎士団の応援に来てくれた事、感謝する。」
イブキトラノオ「ま、任務ですもの。一人で何か出来る訳じゃないんだし、暫くはお手伝いさせて貰うわ。」
レオポルト「うん。短い間だが、宜しく頼む。」
ナズナ「では、ご挨拶も済んだと言う事で、ハイビスカスさん、施設の案内をお願いしますね。」
ハイビスカス「うん、任せて!」
ナズナに促され、ハイビスカスも含めた5人は執務室を出る。そしてナズナと二人きりになった時、ふと彼がこう漏らした。
レオポルト「―――騎士団に加える騎士を自分で選ぶ事になるとはな・・・。」
ナズナ「そうですね、騎士団は各地で編成されている花騎士さん同士で作る部隊と違って、その団長さんがいる限りずっとあるものですから、団長さんとの相性なんかも含めて上手くやっていけるようにしないといけない訳です。なので、団長さんには人事申請権がある訳です。」
レオポルト「だが、期間がな。3か月と言うのが・・・。」
ナズナ「そうですよね・・・。」
ミント達4人が応援としてこの騎士団にいる期間は、ほんの3か月でしかない。その間にレオポルトは、各地にいる花騎士達を見極め、適宜招かなければならないのだ。つまり、たった3か月の間に4人見繕う必要があるのである。
レオポルト「まぁいいさ、どうにかするしかない。」
ナズナ「はい! 実は団長さんには一杯任務が来てますので、その中で沢山の方々と出会う事になると思いますよ。」
その言葉にこそ彼は目を瞬かせた。
「うん、初耳だね。」
と言うとナズナは特に動じた様子も無く堂々と言い放った。
「任務をお伝えする時期は、私に一任されていますので!」
レオポルト「成程、そりゃ頼もしい限りだ。」
ナズナ「騎士団のマネジメントも、しっかりやりますよ!」
レオポルト「助かるよ、分からない事もあるし、俺だけでは決めかねる事もあるだろうしな・・・。」
ここ数日の間で、レオポルトとナズナはかなり打ち解けていた。しかしレオポルトの肩には、事の最初から随分な重荷がのしかかっているのであって、ナズナを頼りにしたのもその辺りの事情があった。ナズナ自身は花の名前を持つが戦う力を持たない文官であり、これまで各地で騎士団や行事の運営に携わって来た事務のエキスパートなのである。
それ故様々な線引きを知り、顔も広いと言う事で、ひとまずは彼もナズナを頼りにしているという訳であった。
2日後、レオポルトは騎士団を率いて最初の任務に出ていた。
レオポルト「―――静かだな、何度来ても。」
ナズナ「団長様は、何度もここに来た事がおありですか?」
レオポルト「そりゃぁ騎士だったら巡回もするからね。」
ナズナ「この“フォス丘陵地”は、ブロッサムヒルの騎士団として最初の任務に選ばれる場所です。ここにいる皆さんにとっては、比較的馴染のある場所だと思います。」
レオポルト「うん、そうだな。」
ミント「私も何度か。」
イチゴ「よく巡回してます!」
イブキトラノオ「私も数回来たわね。」
サルビア「だなー。」
ナズナ「さぁ、行きましょう、団長様!」
レオポルト「うん、行こうか。」
レオポルトの言葉を合図に、ナズナを除く全員がその得物に手を付けた。イブキトラノオとイチゴは弓を、サルビアは大槌を、ミントは一対の短刀を手に取り、そしてレオポルトは、腰に提げた剣の柄に手をかけた。そして一斉に丘陵地に展開していく。
この“フォス丘陵地”は、世界花「ブロッサムヒル」の東に広く広がる“フォス平原”の北西に位置する丘陵地帯の事である。騎士団本部のあるノースフォス街区にフォス街道を通って程近い場所であり、市街地に近い事から害虫の報告も小型の害虫ばかりで、それ程多い訳でもない。この為新任の騎士達の最初の任地として選ばれる事が多く、レオポルト自身も騎士学校を出たばかりの准騎士達を連れて何度も来た場所である。
だが油断してはならない。それはレオポルトも普段愛用している鎧を身に着けている事で分かる。
彼の使っている鎧は、手の甲から腕の外側を覆う装甲が肩甲に繋がっており、上鎧は胸周りを鋼鉄、ウエスト周りを腰辺りまで覆うレザーで守っている、2種の材質で出来た胸甲で、下半身は足を動かしやすい様に、胸甲のレザーと繋がる様に作られた、鋼鉄製のヒップアーマーと膝丈の脚甲で済ませると言う、騎士らしからぬ軽装である。ヘルムは身に着けてすらいない。一応だが特注品揃いであり、鎧自体も軽量化に意が用いられている他、ウェスト周りがレザーである理由も、ポーチなどの小物を付けられるようにする為と言う目的も兼ねているのだ。
―――余談だが、この鎧を使うようになったのは彼が騎士長になった後からだが、こうした特注品を官給品に代わって使う事について、当初は批判の声がかなりあった。しかし彼も意に介さず使い続け、やがて赫々たる功績を挙げる様になるとそう言った声も雲散霧消していた。結局のところ、官僚的な物の考え方が生み出した小言に過ぎなかった訳である。
話を戻し、最初の任務に乗り出した騎士団一行は、彼らに驚いて飛び出してきた何匹かの害虫を、見つけ出しては駆除して行った。フォス丘陵地は野草に覆われているが所々に草むらがある程度で草の背丈も低く、所々に野生の花が咲いているのどかな場所である。
よく一般の人々も散歩に訪れるような場所であるが、だからこそきっちりと害虫を討伐しておく必要があるのだ。
レオポルト「・・・騎士達でも苦労する害虫をこれ程手早く討伐していく。花騎士達の力とは、凄いものだな。」
後ろから付いていくレオポルトは、5人の任務中の姿を見て、改めて驚きの念を隠せないでいた。勿論彼も任務の都合で何度も花騎士と共に仕事をした事はあるが、概ね担当が別になる為その力を目の当たりにした事は余りない。
ナズナ「それに皆さん、経験を積まれた方々ですから。」
レオポルト「へぇ、イチゴもかい?」
ナズナ「はい、今年騎士に任官したばかりですが、ブロッサムヒル所属で各地で討伐に関わっていますから。」
慣習として、騎士学校の卒業生が正式な形で任官するのは5月頃である。卒業自体はその年の12月、任務に出るのは年が明けてからであるが、任官するまでの間は「騎士見習い」として扱われるのだ。言ってしまえば研修期間の様なものである。
レオポルト「本当に、人は見かけによらないのだな。」
ナズナ「その通りです!」
レオポルト「ハイビスカスと言いイチゴと言い、よくやっているな。今まで率いて来たどの騎士達よりも。」
5人は指揮こそ受けていないし、作戦を練る者がいる訳でもないが、相互に声を掛け合い、適切にコンビネーションを取っていた。この辺りは、それぞれがそれぞれに経験を積んでいなければ出来ない事である。
レオポルト「・・・作戦は俺が立てないといかんか。」
ナズナ「そうみたいですね・・・。」
レオポルト「まぁ、今回は5人の動きを見ると言う事で―――」
ガサッ―――
ナズナ「団長様!」
「―――ッ!」
ナズナの声を受けるまでもなくレオポルトは気づいていた。草むらから現れたのはハエ型の小さな害虫。既に彼に狙いをつけていたが、彼は素早く鞘からブロードソードを引き抜き―――
ズバァッ
すれ違いざまに上段から斜めに鋭く一閃、それだけで、害虫は両断されていた。
「―――団長様、今のは・・・?」
剣に付いた害虫の血糊―――体液を振り払うレオポルトに、彼女はそう聞いた。この時彼はその質問に対していともあっさりと、こう答えたのみであったと言う。
「何の事はない。迷いなく、斬るべきものを斬ると見定めたまで。特別な事は、何もしてないよ。」
ナズナ「・・・。」(普通の人なら、害虫をこうも鮮やかに両断する事なんて出来ない。普通にやったら、どうしても剣が止まってしまう筈なのに・・・。)
レオポルト「―――? さ、行こう。ハイビスカス達が取りこぼした害虫を倒さないと。」
ナズナ「あっ、そうですね! 行きましょう!」
―――団長様、貴方は一体・・・―――
5
その後、ナズナも含めた7人は、特に波乱もなく害虫討伐を進めて行った。その過程でレオポルトも5人に引けを取らない数の害虫を討伐していた。
「団長、貴方本当によくやるわね。」
イブキトラノオが感心した様にそう言うと、これまたあっさりと彼はこう言った。
「この位何と言う事はないさ。」
イブキトラノオ「まぁ、その様子なら心配なさそうね。噂通りの人で安心したわ。」
レオポルト「へぇ、それはどんな噂かな?」
ミント「団長さんの武勇伝に関する事ですよ。『ブロッサムヒルの勇将』と言えば、他国でも有名ですから。」
レオポルト「あぁ、かつて『
彼の言葉に続いて、横に並んでいたイブキトラノオが何か言おうとしたのを、レオポルトは腕を伸ばして素早く制止する。それは、彼なりの戦場の勘と察知力の現れであった。
イチゴ「・・・団長?」
レオポルト「大きな音がした、近い。」
小さく、しかし鋭い声で彼は言った。彼の言葉を聞いて全員が武器を構える。しかし周囲を見渡してもそれらしいものの姿はない。
ミント「どこに―――。」
レオポルト「多分深い窪地の中だ。この辺りにもデカいのがすっぽり収まってしまうようなのがいくつかある―――。」
・・・ズン
レオポルト「―――向こうだ。」
サルビア「本当かよ、何も聞こえなかったぜ?」
レオポルト「ちょっと先に窪地があるんだ。まぁ見て置け。」
そういうと彼は腰のベルトからナイフを一本取りだすと、力を込めて前方に投擲する。するとそのナイフはそこから見えていた地面に突き刺さる事なく姿を消し、そして―――
「グオオオオオオオオオオ―――ッ!!」
景色の向こうから、赤い甲殻を持った芋虫のような害虫が、咆哮と共に地面から姿を現す。その大きさは今まで相手取った害虫などとは天と地ほどの差がある。虫にしてはとんでもない大きさである。しかも投擲したナイフは刺さってすらいない、恐らくは弾かれたのだろう。
レオポルト「―――やはりな。」
ナズナ「あれは、“春庭の脅威”! どうしてこんな所に!」
レオポルト「考えるのは後だ、来るぞ!」
彼の一言と共にイチゴを除く4人は左右に分かれる。が、イチゴだけは咄嗟に動く事が出来ず判断に迷っていた。その間にも“春庭の脅威”は背中を丸めてこちらに迫ろうとしていた。
レオポルト「イチゴ、右だ!」
イチゴ「は、はいっ!」
イチゴは咄嗟に言われた通り右にかわすが、レオポルトは一人正面に立ちふさがっている。
ハイビスカス「団長!?」
ミント「危ないっ!」
一様に周囲の花騎士達が慌てる中、レオポルトは意に介する様子もなく平然としていた。そして剣を構えたまま、じっと“春庭の脅威”を見つめている。そして不意に彼が動く。
数歩前に走って勢いをつけるとそのまま“春庭の脅威”に向かって飛ぶ。
ズガアアァァァッ―――
6人「「!?」」
「ゴオオオオオオオオオッ!?」
レオポルトは交錯するその瞬間右薙ぎに剣を振り払い、それによってすれ違いざまに害虫の甲殻をものの見事に切り裂いて見せたのである。
レオポルト「ほっ!」ズザザザァッ
イブキトラノオ「無茶するわね団長!」
驚き半分、咎める響き半分と言った彼女の声に、彼は答える。
レオポルト「無茶なものか、何回でもやった。」
サルビア「嘘だろ・・・?」
レオポルト「それよりも来るぞ、あの程度で倒れる相手じゃない。」
レオポルトが見つめる先では、片側の甲殻を複雑に切り裂かれ、体液を噴き出しながらも振り向こうとする“春庭の脅威”の姿があった。
レオポルト「行くぞ、ミントとハイビスカスは側面から、サルビアは俺と正面から仕掛けろ、イブキトラノオとイチゴは両サイドから援護!」
ミント・イブキトラノオ「「はいっ!」」
イチゴ「分かりました!」
サルビア「おう!」
ハイビスカス「オー!」
レオポルトの指示を受けて5人は一斉に散り、サルビアはレオポルトの前を突進する。
レオポルト「サルビア! 頭に一発叩き込め!」
サルビア「任せろ!」
ズガァァッ
「ゴアアッ!?」
レオポルト「せやぁっ!」
ズババァッ
ハイビスカス「ブンブンブーンッ!」
ズドドォッ
ミント「逃がしません!」
ズパパパパパパパパッ
4人のコンビネーションと波状攻撃によって、“春庭の脅威”は瞬く間に傷だらけになっていく。そして動きが鈍った所へ、イブキトラノオとイチゴの矢が次々に突き刺さり、害虫に更に深手を負わせる。
「グオオオオオオオオ―――ッ!!」
突然“春庭の脅威”が咆哮を上げ、同時に体を丸め、凄まじい速さで転がり始める。
イチゴ「えっ―――!?」
余りに唐突なその動きは、イチゴに向かっていた。イチゴも余りの出来事に反応が遅れ、その場に立ち竦んでしまう。だがその時―――
レオポルト「イブキトラノオ!」
イブキトラノオ「えぇ!」
レオポルトはハンドサインでイブキトラノオに指示を出すと、そのままイチゴを守る為害虫の前に立ち塞がる。
ザザァッ―――
イチゴ「団長っ!?」
突然の事にそう言うのが精一杯のイチゴ、その時―――
ヒュゥッ―――ズドドドッ
「ゴオオオオッ!?」
イブキトラノオの放った矢が“春庭の脅威”の傷口に突き刺さり、堪らず害虫の突進が止まる。停止したその距離、イチゴから僅か7歩ほどの所であった。しかもそれをレオポルトは見逃していない。
「フッ―――!!」
彼の振り下ろした剣は、サルビアの渾身の一撃で脆くなっていた害虫の頭部を叩き割り、その頭部を真っ二つに切り裂いた。そしてそのまま、さしもの大型害虫“春庭の脅威”も、そのまま動かなくなった。
「あ―――ありがとうございます、団長。」
そう言って頭を下げるイチゴに対し、レオポルトはその頭に手を置いて言った。
「騎士になって間もないんだったな、仕方ないさ。」
イブキトラノオ「全く冷や汗ものね。」
「ナズナ、こんなとこにまでこんなデカいのいるもんなのか?」
ブロッサムヒルの事について知らない訳では無いにしても知悉している訳では無いサルビアがそう尋ねると、
「いえ、普段は滅多にない事の筈ですが・・・。」
とナズナも答えた。すると引き継ぐようにレオポルトが言う。
「言ってしまえば、不測の事態と言う奴だ。だが、この辺りの害虫は、もういなさそうだな。」
ミント「―――そうですね。」
レオポルト「・・・よし、任務終了だな。」
ナズナ「はい! お疲れ様でした!」
<イチゴ、帰ったらゆっくり休めよ。
<わ、私だってまだまだいけますっ!
<あらあら、張り切ってるわね。
その後彼らは順調に各所の巡察を終わらせて初任務を完了、フォス丘陵地に静かな風が吹き渡る。
「あの、少し宜しいでしょうか?」
レオポルト「うん・・・?」
一休みとばかりに談笑する一行に声をかけたその声の主は、彼らを予期せぬ冒険に駆り出すことになるのである・・・。