虚白の太陽   作:柴猫侍

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*10 生かされた意義

「俺が流魂街一の花火師、志波空鶴だ! 遠路はるばる、よく俺の家まで来たもんだな」

 

 歓迎するような声音で言い放つ空鶴を名乗る女性。

 男勝りな雰囲気こそ漂っているが、外見だけ見れば美女と言って差し支えのない端正な顔立ちに、零れんばかりの乳房が目に付く。

 

「特盛……」

「おう、白いチビ。初対面の人間への第一声がそれたぁ肝が据わってんな」

「大盛……並盛……小盛……」

 

「誰を見て小盛と言いましたの?」

 

 青筋を立てるスンスンが虚白をねめつけた。空鶴からミラ・ローズ、アパッチへと視線を転々させてからの自分となれば、否が応でも邪推してしまう。

 だが、剣呑になりかけた空気を割って入る人影が一つ。

 

「ウゥ~」

「おー、よしよし。ワンダーワイスだったっけ?」

「ウォア? ウゥ~……」

「ほーれ、ここが気持ちいいのか~?」

「アウロァ~……」

 

 虚白の懐に入ってくる少年―――もとい、元破面であるワンダーワイス・マルジェラ。

 喉元を指先で擽るように撫でられる彼は、気持ち良さそうな声を上げる。

 

 このように、赤子というよりも動物に近い言動を見せるワンダーワイス。傍から見れば、動物と少女が戯れる微笑ましい光景が出来上がる訳だが、事情を知っている者は如何せん理解が追い付いていなかった。

 

 それはワンダーワイスの姿にある。

 元々少年らしい姿をしていた彼であるが、今現在、彼は幼児に近い体格であった。

 本来より一回りも二回りも小柄な体だったせいか、気が付いたリリネットでさえ本人と断じるかどうか悩んだほどだ。

 しかし、言動や名前に反応するといった点から本人とみて間違いない―――それらがリリネットたちの判断だった。

 

 ある意味精神年齢相応の見た目になったことから、以前よりかは違和感がないと言えば否定できないという理由もあるが、そこは大した問題ではない。

 

「で、このガキ知ってるようだが……テメーらは何者なんだ? とんだ色物集団だが、保護者かなんかか?」

「保護者っつーか……知り合い以上、友達未満だよなぁ……?」

 

 歯切れ悪く答えるリリネットに、他の面々も頷く。

 見ての通り、ワンダーワイスは他者と言葉を介しての意思疎通ができない。虚夜宮に居る頃も、一部の者に()()()()()というだけであり、友達や仲間といった間柄の人物はこれといって見かけなかった。

 

 だからこそ、ワンダーワイスをどうするか決めあぐねる面々。

 その煮え切らない態度に、サバサバとした性格の空鶴は眉尻を顰める。

 

「はぁ、なんなんだよ……てっきり俺ァ、このガキを引き取りに来たと思ったじゃねーか」

「えぇ!? 姉ちゃん、まさかこんな得体の知れねえ連中に引き渡すつもりかよ!」

「うるせえぞ、岩鷲! そもそもテメーが山ん中で拾ってきたのが始まりだろうがッ!」

「ヒィ!? で、でもよ、あんなひもじそうな姿見せられたら放っておけねーっつーか……そう! 自称“西流魂街一の頼れる兄貴分”の岩鷲様の名が廃るだろうって!」

「何が自称だ! 俺は別に拾ってきたのが悪いなんざ一言も言ってねえだろ!」

「おぼふっ!?」

 

 居間に転がっていた座布団を顔面に叩きつけられた岩鷲が、綺麗に180度後方へ回り、後頭部を床に激突させる。

 苦悶の声を上げる彼はしばし悶絶するが、その間大層虚白に懐いていたワンダーワイスは、心配そうに歩み寄っていく。

 すると、目尻に涙を溜めていた岩鷲が強がるようにサムズアップしてみせた。なんだかんだ、彼もワンダーワイスには愛着があるのだろうと見て取れる。

 

 と、弟と過激なスキンシップを見せた空鶴は、深々とため息を吐いてから刮目した。

 視線の先は眼前に並ぶように座る元破面たち。もちろん、まだ彼らの正体を彼女は知らない。

 

「……俺が言いてえのは、そのガキ引き取りに来たならテメーらの素性を洗いざらい吐いてもらわなきゃなんねーってことだよ」

 

 鋭い視線が全員を貫く。

 凄まじい眼力だ。とてもただの流魂街の民とは思えぬ威圧感を放つ空鶴を前に、霊圧だけで言えば護廷十三隊席官レベルはある面々が身を震わせる。

 

 理解した。彼女には嘘など通用しない。

 それが元々の気質か、一応とは言えワンダーワイスの身柄を預かっている者としての責任感からかまでは分からないものの、適当に取り繕った嘘では引き渡してくれそうにはない雰囲気が漂っている。

 

 それを理解するからこそ、素直に虚白が挙手して口を開く。

 

「うーん、ボクらは……もがごっ!?」

 

 だが、そんな虚白の口をミラ・ローズが塞いだ。

 

「(なに、ミラ・ローズさん?)」

「(馬鹿真面目に答えるつもりならよしな)」

「(なんでさ)」

「(いいかい? あたしらが捜してるのはハリベル様とスタークの野郎だ。ただでさえ手掛かりが少なくて先の見通しが立たないのに、無駄に人数連れて捜しまわるなんて冗談きついよ)」

 

 囁くように説明するミラ・ローズ。

 彼女が言いたいのは効率だ。意思疎通が難しい幼児を連れ、危険な人捜しの旅路に出るのは得策ではない―――ただそれだけの話である。

 

「(うぅ~、でも……)」

「(どうせ面倒になってる場所は分かったんだ。今引き取るんじゃなくて、後から来た方がワンダーワイスにとってもいいだろう?)」

「(そうかな? うーん……)」

 

 虚白としては同族―――しかも、懐いてくれた相手を連れて行きたいと考えている。

 しかし、一方で相手の立場を慮るのであれば、ただ同族であるからと仲間に引き入れるのも正しいと限らないことは理解していた。

 

 自分の欲望と相手の実情を秤にかけ、どちらがワンダーワイスのためになるか熟考する虚白。

 

 程なくして答えは導かれた。

 

「(……うん、分かった。また今度で……いい……)」

「(理解が早くて助かるよ)」

 

 最悪癇癪を起されると考えていたミラ・ローズは、物分かりがいい虚白の答えには純粋な感謝の念を覚えた。彼女とて慈善事業で付いて来ている訳ではない。アパッチやスンスン同様、生き別れた主と合流するべく旅をしているのだ。早いに越したことがない以上、旅の遅延を招く事態は避けたいところであった。

 ワンダーワイスを引き取るにしても、全てが終わってからが賢明。虚白も感情に任せるままではなく、増えてきた仲間の考えを尊重する傾向が現れ始めた。これも良い兆候だろう。

 そうした虚白も含め、代表者としてミラ・ローズが口を開いた。

 

「……なに、ワンダーワイスは顔見知りぐらいの知り合いさね。無理にあんたから引き取ろうって魂胆は持ち合わせちゃいない」

「ほぉ……まあ、そういうことにしといてやる」

 

 詮索はしない。

空鶴は、そう言わんばかりに答えた。

 

「だが、一つだけ聞かなきゃならねえことがある」

「?」

「俺のところまで訪ねた理由だよ。本命はそっちなんだろうが。なあ? 白いチビ」

 

 そう言って虚白をねめつける。

 端正な顔立ちながら、凄めばこうも迫力が出るものか。ある種、感心さえ覚えた虚白は、こちらを見つめて視線を逸らさない空鶴に対し、真っすぐな眼差しを返す。

 

「仲間を捜したいんだ」

「仲間だぁ?」

「うん。ボクの友達が捜してる。だからボクも捜すんだ。捜し出した人はきっとボクと友達になってくれるはずだから」

「……ふーん」

 

 やけに遠回しな言い方であったが、嘘には聞こえない。

 空鶴も人を見る目がある方だ。表面だけを取り繕った言葉ならすぐに見抜ける。そのような彼女の目にも嘘と映らないのだから、虚白の言葉が(まこと)本心からのものであると断ずるには十分であった。

 

「……は! いいぜ、お望み通り人捜しに手を貸してやらぁ。名前と人相を教えな」

 

 面倒事は大好きだからな―――そう告げる空鶴の口角が吊り上がった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「おいで、ワンダーワイス!」

「ウロァ~!」

 

 雲一つない青空の下、風に靡く草むらを踏みしめる二つの影が駆け回る。

 虚白とワンダーワイスの二人だ。真面な言葉を話せぬワンダーワイスであったが、良くも悪くも純粋で真っすぐな虚白の心根に惹かれたのであろう。出会って間もないにも拘わらず、大層懐いたようであり、今も虚白の胸に飛び込んでは無邪気な笑顔を咲かせる。

 

「おぉ~、よしよし!」

「ウゥ~」

「随分懐かれてんじゃん、虚白」

 

 そこへ遠巻きに眺めていたリリネットがやって来た。

 口にこそ出さなかったが、ワンダーワイスに忌避感のような感情を抱いていた彼女は、ここまで彼と一定の距離感を保っていたのである。

 

 しかし、彼と友人が仲睦まじそうにする光景を目の当たりにし、一歩踏み出す勇気が湧いた。

 その証拠として、恐る恐るではあるがワンダーワイスへ手を伸ばす。

 すると、微塵も敵意を抱いていないワンダーワイスは、吸い込まれるようにリリネットの掌の中へ頭頂部を委ねた。少女が撫でるまでもなく、自らグリグリと頭部を押し込んで撫でさせる。

 リリネットからしてみればこそばゆい感覚が掌一杯に広がり、思わず脱力した頬が緩んでしまう。

 

 そこへ虚白の快活な声が飛んできた。

 

「うん! ワンダーワイス良い子だよ! 一家に一人欲しいよね!」

「犬かよ」

「冗談冗談。心が癒される的なニュアンスで言ったんだよ」

「……まあ、それならまだ……」

 

 あはははは! と楽し気な笑い声が辺りに木霊する。

 一しきり腹を抱えた笑った虚白は、じゃれつくワンダーワイスを撫でまわしながら、リリネットへと目を向けた。

 

「ねえ、リリネット。ワンダーワイスが破面だった頃って知ってる?」

「! ……いや」

「リリネットって嘘が下手だよね。エッチな本ベッドの下に隠すタイプでしょ」

「違えよ!! ……って、嘘が下手なのとエロ本ベッドの下に隠すのは別の話だろ!!」

「じゃあ、どこに隠すタイプ?」

「そもそも!! 買わねえんだよ!!」

 

 ウガーッ!! と声を荒げるリリネットであるが、そのお陰で幾分か気が紛れたようだ。

 隠し切れぬ陰鬱さを抱えていた彼女は、言いにくい事柄だと言わんばかりにため息を吐く。

 

「ワンダーワイスは……改造破面だった」

「改造? まさか、悪の秘密結社に……!?」

「違っ……いや、ある意味違わないけど!!」

 

 リリネットは話の腰を折る虚白をいつでも止められるよう右手に拳を作る。今後、彼女が意味不明のボケを言い放とうものならば、口腔へ鉄拳が飛ぶ。これは、その構えのようなものだ。

 

 閑話休題。

 

 “改造破面”という単語に首を傾げる虚白は、純粋な疑問を口に出す。

 

「破面って皆改造されたようなものじゃないの? アイゼンさんってシコシコ創ったんでしょ?」

「シコッ……確かに破面は藍染様が崩玉で創ったようなモンだけどさ、ワンダーワイスはそういうのとはまた違うんだよ。あたしも詳しいことまでは知らないけど、死神の大将の能力封じ込めるためにいろいろ削られたって話……スタークから聞いたんだ」

「色々って?」

「その……あれだよ。記憶とか」

「!」

 

 記憶。

 今の虚白にとって、喉から手が出る程に欲しいものだ。

 それを含めたありとあらゆるものを犠牲に生み出された存在こそ、ワンダーワイス・マルジェラという破面だった。

 

 リリネットや他の破面には、差異こそあれ破面化する以前―――虚時代の記憶を持ち合わせている。

 ワンダーワイスにはそれすらもない。言葉も、知識も、記憶も、理性すらも―――何もかもを犠牲にし、万象一切を焼き尽くす炎を封じ込めるだけの器として生み出された。

彼を生み出した張本人曰く、「ただ徒に魂を喰い漁るだけの存在に意味を与えた」とのことだ。

 その言葉に仲間を思いやる感情を有していたリリネットがどう思ったかは、想像に難くないだろう。

 

 当然、現在のワンダーワイスと見比べて思う所はあるようだ。

 同情と安堵の色が滲む瞳は、微かに揺れていた。はぁ、と漏れる吐息も目頭に集う熱が伝播したかのように、冷涼な風が吹き渡る空の下、仄かな熱気を迸らせる。

 

「……良かった……のか? なぁ、ワンダーワイス」

「―――ヨカッタンジャナイノ、リリネット」

「裏声!! せめて声を寄せろ!!」

「ボク、ワンダーワイス。ハハッ☆」

「その声で笑うのだけはやめろ!! 色々と不味い気がするから!!」

 

 独り言に等しい呟きに応答するワンダーワイス―――の声真似をする虚白。100点満点で採点するなら2点のクオリティだ。

 と、しんみりとした空気を吹き飛ばすボケをぶち込んだ虚白は、愉快と言わんばかりに頬を緩めながら、こちらを見上げてくるワンダーワイスと視線を交わした。

 

「……いいのかどうかなんてワンダーワイスにしか分からないよ。ね?」

「アゥ……?」

 

 優しい声音を耳にしながらも、理解できるだけの知識がないワンダーワイスは首を傾げるだけであった。

 しかし、破面ではなく整として生まれ変わった今ならば、いずれ成長し、その時に理解してくれるかもしれない。

 

「なーんて……」

『おい、ガキども! そろそろ帰ってきやがれ!』

「おろ? アパッチさんが呼んでる」

 

 姿が見えないにも拘わらず轟いてくる声の主は、三人娘の中で最も気が短いアパッチだ。

 大方食事の時間だからと呼びに来たのだろう。懐のワンダーワイスを抱きかかえた虚白は、リリネットに一瞥を向けてから志波邸宅を目指す。

 穏やかに帰路つく三人。

 その時、

 

「……記憶がないなら、これから思い出を作っていけばいいもんね」

「ウゥ?」

 

 少しばかり寂寥感に彩られた呟きは、ワンダーワイスの耳だけに届いた後、吹き渡る風の中へ消えていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

『ハリベルって奴なら心当たりがあるぜ。最近、南流魂街の花街に異人みてーな見た目の女が居たって話だ』

 

 抜粋した空鶴の言葉だ。

 漸く得られた明確な情報に、ハリベルの従属官であった三人があからさまにソワソワとし始める。

 

 情報源は彼女の身内―――もとい、死神だ。

 流魂街の巡回を業務に含む死神にとって、情報収集などお茶の子さいさい。

 東梢局に属する瀞霊廷付近の近くには、主に日本人然とした見た目の魂魄がやって来る。そんな中、ある程度ハリベルの特徴に合致する人物を見かけたというのならば、真相を確かめに赴くだけの価値はあると言えよう。

 

「明日からは南に下るのかぁ~」

 

 どこか楽しそうな声音の虚白が語を継ぐ。

 

「観光名所とかあるかな?」

「何を期待してるんだよ、まったく……」

 

 呆れたように答えたリリネットであったが、心が浮足立っていないと言えば嘘にはなる。

 これまでの行き当たりばったりな旅とは違い、明確な目指す場所があるとなれば、不思議とやる気が湧いてくるようだった。

 

「それにしても花街か……」

 

 一方で、悪い方での予想が当たった形となる。

 

「そ、そんな……ハリベル様が……」

「お、お、お、落ち着きなアパッチ。まだハリベル様だと決まった訳じゃ……いや、ハリベル様が下賤な商売に手を染めてると決まった訳じゃないよ」

「二人とも、落ち着きがないのはいつものことですが、斯様に狼狽する姿は見るに堪えませんわ。お静かにして頂けませんこと?」

 

 落ち着きの無いアパッチとミラ・ローズに対し、端然とした面持ちで湯呑を仰ぐスンスン。

 しかし、手元が震えていたせいか、口の両端からダバダバと澄んだ緑色の液体が溢れていた。湯呑はおろか、伝い落ちる雫からも白い湯気が上がっている以上、その熱さは相当のものであろう。

 

「どうでもいいが床は汚すなよ。俺ん家だぞ」

「はぁーい、お邪魔しまぁーすッ!!!」

「邪魔の意味が違ぇだろうが」

 

 元気に返事を返す虚白であるが、如何せん別の意味に取られかねない言葉のチョイスだ。

 己とは別ベクトルで型破りな相手だと悟る空鶴は、やれやれと言わんばかりに隻腕として残った側の手で頭を掻き回す。

 

「兎も角、明日にゃ発つんだろ? メシ食ったら風呂入ってさっさと寝やがれ」

「おぉー、お風呂ぉー! ついに野性味溢れる行水からの卒業!」

 

 感慨深そうに声を上げる虚白に、リリネットが続ける。

 

「確かに……これから冬だしホントにどうしようかと思ってた……」

「なんだァ? てめえら、霊力ある癖に鬼道の一つも使えねえのか?」

『鬼道?』

 

 二人が声を揃えて復唱した。

 初耳―――という訳ではないが、詳細を聞いた記憶はない。

 ほとんど知らない霊術の名を耳にし、目が点となった二人を前にした空鶴は「知らねえんだな」と納得しつつ、掌に霊力を凝縮した玉を作り出す。

 

「まあ霊術院に入ってねえなら無理もねえか。霊力あるなら覚えといて損はねえ。やる気があんなら教えてやる―――岩鷲がな」

「ええッ!? 姉ちゃん!!」

 

 理不尽極まりない光景が、今まさに目の前で繰り広げられていた。

 志波邸の暴君として君臨する空鶴には、弟の岩鷲も逆らえないようであり、「なんで俺が……」と項垂れる。

 

 そんな彼の下へ歩み寄る白い人影。

 

「頑張れ、ヨンジュくん」

「岩鷲だ!! ガ・ン・ジュ!!」

 

 野球で言えばボールぐらいのハズレ方だ。

 どこぞの韓流スターのように名前を間違えた虚白であったが、その甲斐も―――所為とも言えるが―――あってか、俯いていた岩鷲が立ち上がった。

 

「そもそもよォ! 俺はこんな得体の知れねぇ連中に霊術云々を教える義理はねえぜ!」

「なんや、尻の穴の小さいやっちゃなぁ」

 

 喚き立てる岩鷲へ辛らつな言葉が飛んだ。

 その声の主はと言えば、当初志波邸に居なかった女性。年若い容貌で眼鏡をかけた関西弁で話す彼女の名は、

 

「だなァ、リサ。もっと言ってやってくれ」

「姉ちゃ~ん!?」

「そういうこっちゃ。ガタガタ言わんときゃあ適当に教えとけばええねん」

 

 矢胴丸リサ。護廷十三隊の一つ、八番隊“元”副隊長である。

 訳あって、最近まで現世に潜んでいた経緯があるが、紆余曲折を経て自由に尸魂界を歩き回れる身分となっていた。

 

 今では流魂街の志波邸を間借りし、とある商いに精を出しており、尸魂界と現世を行ったり来たりと忙しい身分だ。先ほど姿が見えなかったのも、商売で志波邸を留守にしていたからである。

 

 彼女もまた藍染及び破面と因縁浅からぬ身であったが、幸いにもこの場に居る元破面の誰とも面識はない。

 故に、現在進行形でちょこちょこと這い寄ってくる虚白にも大して警戒心は抱かず、手に持っていた書物に目を向けていた。

 

「ねえねえ、リサさん?」

「なんや」

「さっきから何読んでるの?」

「エロ本や」

「エロッ……!?」

 

 虚白の瞳が爛々と輝く。

 

「見てもいい!?」

「なんや、ませてるチビやな。まあええで。うちの店の商品や、気になるなら試しに読んどき」

「ホントッ!!?」

 

「見るな見るな!! 釘付けになるな!!」

 

 リリネットが止めに入るが、もう遅い。

 ページを捲る度、生まれたままの姿や妖艶な衣装を身に纏う女体が目に入る。食い入るように眺める虚白は、いつの間にか鼻から深紅の液体を垂れ流していた。

 

「……これは中々」

「その歳でエロ本に興味があるなんて素質あるやんけ。どうや? その気があるんなら、今度うちのバイトに採用したる」

「前向きに考えておくね!」

 

 エロを理解する同志として、二人は手を握った。

一方で、何とも頭の痛くなる同志ができたものだとリリネットは頭を抱える。破面(じぶんたち)が言えた義理ではないが、どうしてこうも行く先々で変人に出会うのだろう、と。無論、その中には身内も含まれている。

 

「まさか本当にやる気じゃないよな……?」

「……」

「せめて何か言え!!」

 

 肯定も否定もせず、ただただ黙して座す虚白。

 

―――こいつ、やる気だ。

 

 短い付き合いであるが、リリネットは察し、声を荒げる。

 だからと言って彼女がコロッと考える柄でもないことは重々把握しているが、だ。

 

「おーら、さっさとメシ済ませろ。俺ァ今から酒盛りすんだからよ」

「お酒!? 飲みたい!」

「お、そうか? だったら一杯引っかけ―――」

 

「空鶴殿、大変ですぞ!!」

「一大事ですぞ!!」

 

 乗り気な客人に酒瓶を取り出そうとした空鶴であったが、突然扉が開かれる音に言葉を遮られた。

 現れた筋骨隆々な男たちは、志波家の家臣である金彦と銀彦の二人。

 普段ならば志波家の門番としても威圧感に満ちた佇まいを崩さない彼らだからこそ、血相を変えて現れた現状に、家主の空鶴の面も引き締まる。

 

「……何があった?」

「潤林安が何者かの襲撃に遭い、子供が攫われたと!!」

「兕丹坊はどうした?」

「兕丹坊殿も倒れたと……!!」

「そうか」

 

 仔細を端的に聞いた空鶴は、近くに掛けてあった羽織を肩に掛けた。

 比較的簡素な内装の屋敷に似合わぬ荘厳さを漂わせる羽織―――それは、五大貴族であった頃、当主しか身に纏うことが許されなかった逸品である。

 五大貴族から追い出された今、特別な意味こそ持たなくなった品物でこそあるが、羽織を身に纏った瞬間、空鶴に周囲に渦巻く空気が一変した。

 

「兕丹坊の手に負えねえとなったら、いよいよ俺が出張らねえとだな。で、誰が知らせに来た?」

「そ、それが……のぉう!?」

『!?』

 

 屋敷全体を襲う激震に、空鶴のみならず虚白たちも駆け出す。

 金彦と銀彦の説明も聞かぬままに飛び出た面々が目の当たりにしたのは、空を舞う黒い影と―――。

 

「た……助けて!」

「ユウイチ!?」

 

 見知った人物に、リリネットが驚愕するように声を上げる。

 幼いユウイチは、蝙蝠を彷彿とさせる翼を羽ばたかせる化け物の足に掴まれ、宙づり状態であった。化け物が足を離せば、そのまま一直線に地面に落ちて激突。死は免れないだろう。

 

「虚か……!?」

「ううん、あれは……!」

「知ってやがるのか?」

 

 仮面に目をつけ、襲撃者を虚だと推測する空鶴。

 だが、これまた記憶にある仮面の模様に、虚白のみならずリリネットやクールホーンが反応した。

 忘れる筈もない。自分らの平穏を崩すかの如く、おどろおどろしい門を開いて襲ってきた輩のことは。

 

「ヒャーッハッハッハッハ!!!」

 

 閑散とした周辺に駆け抜ける金切り声にも似た笑い声。

 

「まさか()()()()()()で会えるとは思ってなかったぜェ……なあ、ガキィ!?」

「ひっ……!」

「そうビクビクするなよ。俺とお前の仲だろ? なぁ!? 今度こそママに会わせてやるからよォ!!」

「う……嘘吐くな! もうお前の言葉なんか……ッ!」

「アァ~?」

「ヒッ!!?」

 

 一瞬、着物を離されて浮遊感に襲われるユウイチ。

 内臓が空へ置いてけぼりにされるような感覚に死を予感し、それまで抗おうとしていた意思に反した怯え竦んだ悲鳴を上げてしまう。

 少年が恐怖に陥れた化け物は、一度は放り出したユウイチを掴み、再び宙づり状態にしては恍惚に浸った声音を上げる。

 

「聞こえねえなァ、アァ~~~!?」

「―――やめなよ、そういうの」

「あ……?」

 

 少年を甚振る耳障りな声を、底冷えした少女の声が中断させる。

 化け物の眼下には、黄金色の瞳に純然たる嫌悪を宿らせた少女が佇んでいた。

 

「その仮面……地獄に堕ちたんでしょ。そういうことしてるから地獄に堕とされたんだって反省してないの?」

「……ッハァ!! 知らねえなぁ……死ぬ前に何してたかなんざ、とっくに忘れちまったぜ!!」

 

 騒々しく言い放つ化け物。

 しかし、虚白の目に付いたのは化け物ではなく、捕まっているユウイチの手だった。小さい拳が強く握りしめられていた。怒りや悔しさの他にも窺える感情の数々は、その小さな手に収まり切るものではない。

 過去に何かあったかのかは察するに余りある。事実、化け物―――もとい虚()()()()彼の名はシュリーカー。生前に連続殺人を犯し、最後にユウイチの母親を殺した挙句、虚になってからユウイチの魂を弄ぶ極悪非道な所業を行った果てに地獄へ堕ちたはずだった。

 

 にも拘わらず、目の前に現れて再び襲われる。ただの子供であるユウイチの恐怖は計り知れない。

 だがしかし、ユウイチやシュリーカーの過去を知らずとも、静かな怒りを表していた虚白は鋭い眼光をシュリーカーへと向けた。

 

「放しなよ。痛い目見たくないでしょ?」

「はっ! 断る……と言ったら?」

「死神に代わっておしおきしたゲル」

「ヒ……ヒャハハハハハハ!! こいつは傑作だぜ!! ()()()()だと!? 殺られる側はてめえらなんだよ!! 周りを見てみなァ!!」

 

 シュリーカーに言われるがまま、辺りに視線を向ける面々。

 やや背の高い草むらに隠れて見えなかったものの、微かにだが小さな霊圧が虚白たちを包囲している。

 

小虚(ミューズ)か……」

「チッ。すでに囲まれてたって訳かい」

「ふんっ。ただ、我々を甘く見過ぎではなくて?」

 

 自陣を包囲する存在が、虚が分泌する使い魔的存在である“小虚”と見抜いたアパッチ、ミラ・ローズ、スンスンが順々に告げる。

 恐れるに足りない―――そう言わんとする内容であったが、言われた側であるシュリーカーはと言えば、憤慨する様子をおくびにも出さない。

 

「いいぜいいぜ、そういう余裕タップリな奴らをいたぶってやるのが愉しいんだからな……!」

「うっ……それ爆発するんだ! 気を付けて!」

 

 未だ捕まったままのユウイチが勇気を振り絞るようにして叫んだ。

 「爆発!?」と、一変して気が引き締まる面々。

 タネを明かされたシュリーカーは、一瞬面白くなさそうな色を瞳に浮かべたものの、「まあいい……」と続ける。

 

「そういう訳だ。下手に動こうもんなら、その場でドーンッてなァ! まあ、爆発よりこっちのガキを殺すって言った方がいいか?」

「……」

「そう怖い顔するなよ。俺はただ伝言を頼まれただけだぜ?」

「伝言?」

 

 訝しむ虚白に「ああ、そうだ」と答えが返る。

 

()()()()に言われた通り伝えるぜ? ―――『明朝までに鯉伏山へ来い。さもなくば、ルピ・アンテノールとコヨーテ・スタークを地獄に堕とす』……だとよ」

『!!?』

 

―――何故その名を?

 

 浮かび上がる疑問。同時に確信が生まれた。

 敵は自分たちを知っている。そして間違いなく故意的に行われた犯行であった、と。

 漸く得られた手掛かりと彼らの命を手中に収めていると言わんばかりの言葉に怒りに震えるリリネットであるが、彼女を手で制する虚白が一歩前へ出た。

 

「あっそ。キミに伝言頼んだ人にさ、『ラブレター書くセンスないね』って言っといてよ」

「クックック……随分余裕だなァ」

 

 心情的にも位置的にも虚白たちを見下すシュリーカー。

 小虚での包囲とユウイチを人質に取っていることから、彼らが動けないと踏んでいるからこその余裕と侮蔑であった。

 

 仮面の奥で下卑た笑みを浮かべ、ひと塊になっている人影を確認した彼は、おもむろに仮面の陰から舌を突き出した。音叉を彷彿とさせる二又に分かれた舌に、誰もが警戒を露わにする。

 

 だが、シュリーカーがもう片方の足の爪をユウイチの首に据えたことで、彼らに一瞬の躊躇いが生まれた。

 

「ヒャハハ!! 死ねェ!!」

 

 沈黙を保っていた小虚の頭部が分かれ、ヒルのような物体が発射された。

 直後、シュリーカーの舌が高速振動を始める―――と同時に、虚白たちに振りかかったヒルが一斉に爆発したではないか。

 爆風が辺りを包み込む。一部始終を目の当たりにしていたユウイチは、かつての記憶を呼び起こす凄惨な光景に呼吸をするのも忘れていた。

 

「あ……あぁ……」

「ヒャッハッハ!! 伝言は頼まれたが『殺すな』とまでは言われてねぇからよ!!」

 

 未だ空に木霊する爆音を背に言い放つシュリーカー。

 きっと今頃、爆発に巻き込まれた連中は地に伏しているはずだ。弱者を虐げる悦に浸るシュリーカーは、高らかに下卑た笑い声を響かせる。

 

「へえ」

 

 刹那、そんなシュリーカーの喉を一条の光線が貫いた。

 

「……あ゛?」

 

 何が起こったか分からず困惑するシュリーカーであったが、真横を通り過ぎる白い影、そして自身を睨みつける金色の眼光に射貫かれ、全身が総毛立った。

 

「ッ!!?」

「ユウイチを返してもらうよ。友達なんだ」

「ギャッ!!?」

 

 反撃に纏っていた外套の袖からヒルを放つも、銃口から迸った虚閃を前に蒸発して消える。

 さらにはユウイチを拘束していた足をしなる鎖に斬り飛ばされた。ついでと言わんばかりに三度振るわれる鎖に、今度は両翼と舌も斬り飛ばされ、瞬く間に飛行手段が潰えたシュリーカーは重力に引かれるがまま墜落する。

 

 その間、支えを失ったユウイチも地面に向かって墜落する訳だが、

 

「わあああッ!?」

「よっと」

「あう!?」

「怪我とかない?」

「う……うん、ありがと……」

 

 器用に鎖を絡ませた虚白が引き揚げ、事なきを得る。

 そのまま着地する虚白たちとは裏腹に、シュリーカーの体は地面に激突し、辺りに地面が揺らぐ鈍い音が轟いた。

 

「ぐ……がッ……てめェ……!?」

「オイタはそこまでよ」

「ッ!?」

 

 激痛に喘ぎながらも身を起そうとしたシュリーカーの仮面に、背中に乗りかかった何者かの手が掛けられる。

 仮面が剥がれぬようにそっと目をやるシュリーカーが目の当たりにしたのは、エキゾチックな紫髪を靡かせるクールホーンであった。

 普段の奇天烈な佇まいが鳴りを潜めている今、クールホーンが放つ威圧感は()()()()()()()()であれば身動きが取れぬ程だ。腐っても大虚から成った肉体。たかだか一体の虚にどうこうできる相手ではない。

 

 それでも足掻く挙動を見せるシュリーカーであるが、すかさず三人の人影が掌に霊圧を収束させて立ちはだかった。

 

「少しでも動いてみやがれ」

「あたしたちをハメようとしたツケは重いよ」

「お猿さんの頭で考えたなら敢闘賞と言ったところですわね。さて、どう料理されたくて?」

 

 破面でなくとも霊力さえあれば虚閃の真似事はできる。

 眼前で収束する霊圧―――その密度に畏怖するシュリーカーには、最早抵抗するという意志が消え失せていた。

 

 こうして襲撃者を無力化したところで、虚白たちと同様無傷の空鶴が砂煙を払いながら歩み寄る。

 

「おい、白チビ。てめえ……その姿。いや、その力……虚だな」

「あ、わかる?」

「破面か」

「んー……だとしたらどうしちゃう?」

 

 ユウイチを抱きかかえたまま帰刃の大人びた姿で笑顔を作る虚白。

 リリネットと融合している今、拳銃の他に大仰な兜のような仮面の名残を被っているため、言い逃れなどできない。

 

「……」

 

 その屈託のない笑顔を目の当たりにし、短くも深い思考を経た空鶴は、神妙な面持ちのまま言い放つ。

 

「明朝までに鯉伏山だったか……てめえら、間に合うのか?」

「ん~……全力で走れば間に合うと思う」

「十中八九罠だぜ」

「わかってるつもり」

「それでもか?」

 

 空鶴の言葉に敵意や警戒の色は窺えない。寧ろ、虚白たちを心配するような感情さえ伺わせるものであった。

 そうした思いやりを受け取った虚白は、一瞬目を伏せるやユウイチを下し、覚悟を決めた瞳を空鶴へ向ける。日中に見せていた巫山戯た様子は見受けられない。

 

「それでも行くよ」

「……そうか」

 

 本人がここまで言うのだ。ならば、止める方が無粋というもの。

 男気にも溢れる空鶴は、虚白の言葉を納得するように頷いて引き下がった。志波家の人間として生まれただけあり、仁義や魂に従い突き進む者には手を貸したくなる性分だ。虚か破面かなどは些少な問題でしかなかった。

 

「気を付けてけよ」

「うん!」

「待ちぃや」

「リサさん?」

 

 送り出そうとした空鶴と入れ替わり、リサが前へと躍り出た。

 

「あんたが使っとんの虚化か」

「たぶんね」

「……で、帰刃すると。ウチらよか、東仙に近いな」

「トーセン?」

「いや、こっちの話や」

 

 かぶりを振ったリサは、「話戻すで」と続ける。

 

「なんでお前が虚化できるなんかあたしは知らんわ。でも、一個だけ忠告しとくわ」

「?」

「自分の心……強く持っとき」

 

 ゴッ! と虚白の胸に拳をあてがいながら告げる。

 

「内なる虚は弱いトコ見せたらすぐに喰らいに来るで。屈服したるんや。よう憶えとき」

 

 それは先駆者としての言葉か。

 彼女の過去を知らぬ虚白であったが、真摯な眼差しに射貫かれて否と言えるはずもなく―――もっとも言うつもりもないが―――帰刃を解きながら、笑顔で頷いた。

 

「うん、気をつけるよ。ありがとう、リサさん」

「わかっとればええんや」

 

 ふんと鼻を鳴らしたリサは、それだけ告げて瞬歩で姿を消す。

 どこに行くかも言い残さなかったため、空鶴は「おいおい……」と呆れた声を漏らすが、一定の信頼感があるのか追いかけることはしなかった。

 

「あ、あの……」

 

 それから聞こえる弱弱しい声。

 元を辿るまでもなく、未だ恐怖で体が震えているユウイチが、帰刃から戻った虚白と拳銃から姿を戻したリリネットに視線を向けていた。

 

 母親を殺した男が虚となり、その後も散々な目に遭わされた彼にとって虚とは忌むべき存在。

 潤林安で寝泊まりした時とは違い、明確にその(まなこ)に怖れの色を滲ませる彼に対し、二人は出来る限り優しい面持ちを向けた。

 

「ごめんね、怖い目に遭わせて」

「え……」

「ボクらに関わったばっかりに……本当にごめん。嫌だったら忘れてくれて構わないから」

「いや……その」

「言い訳はしない。虚だった時代にたくさんの魂を食べたことも否定できない。だけど、キミを傷つける気はこれっぽっちもない。言うことはこれくらいかな?」

「ん……まあ、そうだな」

 

 言葉に詰まるユウイチに反し、言うだけ言った虚白がリリネットに問いかけ、彼女もまた言い残したことはないと頷いた。

 子供は純粋で繊細だ。過去のトラウマを刺激する存在などに関わらない方がいい―――決して精神年齢が高い訳でもない虚白とリリネットでもそう考え、ユウイチから距離を取ろうと背を向けた。

 だが、

 

「待って!」

 

 不意に二人の袖をユウイチが掴んだ。

 弾かれるように振り向けば、潤んだ瞳を浮かべるユウイチが真っすぐ見据える姿が目に入った。

 

「ボ、ボク……虚は怖いよ……けど! 二人のことはそんな風に思えないよ……!」

「ユウイチ……」

「ボク、知ってるよ……本当に悪い虚は地獄に堕ちちゃうんだって……! だから、二人は……」

 

「そうよ」

 

 クールホーンの声と共にけたたましい悲鳴が空を衝く。

 直後、大地が鳴動し始めたかと思えば、どこからともなく現れた地獄の門が仮面を引きはがされたシュリーカーを在るべき場所へと引き摺り戻していく。

 最後に怨嗟の絶叫を上げていたシュリーカーも、体を大剣に貫かれて何度目かの絶命を辿る羽目になった。

 

「こ~~~んな風にオイタが過ぎた虚は地獄に堕ちちゃうのよ」

 

 虚白たちにとっては二度目の光景。一方で初めて地獄の門を目の当たりにした三人娘は、道が違えば自分たちが引き摺り込まれる先であったかもしれない光景に唾を飲み込んだ。

 

「こいつァ……チッ!」

「……兎にも角にも、ハリベル様が目をつけられる前になんとかしなきゃいけないことだけは分かったよ」

「いえ、すでに目をつけられていると見て間違いないでしょう。こうなったからにはハリベル様に降りかかりかねない火の粉は払うのみ……」

 

 首謀者の魔の手が主に及ぶかもしれない危惧を抱く三人の雰囲気も一変した。

 戦意は満ち満ちている。

 怯えて逃げ出そうという気概は―――欠片もありはない。

 

「さ……行こっか」

 

 自ら死地へ赴く面々は、こうして志波邸を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あれ? そう言やさっきからワンダーワイスが見えねえな」

「嘘だろ、姉ちゃん!!?」

 

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