虚白の太陽   作:柴猫侍

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*22 絶やさぬ望みを

 かつて『ホワイト』と呼ばれる虚が居た。

 

 対象に転移することで虚化を引き起こす、藍染惣右介一派が手塩に掛けた試作型虚の集大成。

 ホワイトは幾人もの死神を犠牲に生み出された経緯を持つ。

 奇しくも死神に譲渡される最初の斬魄刀“浅打(あさうち)”と同じ成り立ちで生誕したホワイトの力は、一人の純血統滅却師を経て、その息子―――黒崎一護へと受け継がれた。

 朽木ルキアに渡された死神の力を一度は失くしてもとも、彼が再び死神へと昇華できた要因の一つには、彼の父から受け継いだ霊力のみならず、抑え込まれていた内なる虚自身が死神の力を内包していたからに他ならない。

 

 それはディスペイヤー―――否、虚白にも言えることだった。

 

 他の魂魄に寄生・融合する力を持ったディスペイヤーは、何度も死神と融合し、魂魄に死神の力を蓄えていたのである。

 混ざり合う死神の魂は、やがて一本の刀の力を為した。

 斬魄刀に酷似した力。本来、然るべき経路を経て作成される筈の斬魄刀(ちから)を、彼女は己が魂の中に作り上げていたのである。

 

 そして今、虚と化し不安定となった精神世界の中、彼女は見つけ出した。

 

 ずっと秘めていた浄罪の力を。

 過去と向き合い、全てを未来へ連れて行くと覚悟を決め、内なる虚を屈服することによって手に入れた斬魄刀の()は、

 

「―――『鎖斬(さぎり)』」

 

 紡がれた解号と共に解き放たれる清廉な霊圧。

 目を開けていられぬ発光の後、ゆっくりと瞼を開いた面々が目の当たりにしたのは、十字架を模ったような純白のショートソード。刀と呼ぶよりは西洋の剣に近い形状だ。その刀剣の柄からは、虚白の手枷と繋がる鎖が垂れ下がっている。

 クシャナーダの頭部に立っているにも拘わらず、悠々と構えていた彼女は、腕に抱えていたワンダーワイスを任せるようにスタークへパスした。

 

「斬魄刀……だと?」

 

 驚愕に彩られる瞳を揺らす黒刀が独り言つ。

 破面だった魂魄如きが死神の力に目覚めるなどありえる筈がない、と。

 しかし、みるみるうちに彼の口角は吊り上がり、干乾びた容貌に更なる皺が刻まれる。

 

「くっ、はははははははははは!!」

 

 突然の狂笑。

 これにはクシャナーダを相手取っていた面々も、思わず黒刀へと意識を向けざるを得なかった。

 何故嗤うのか―――その理由は待たずとも紡がれる。

 

「馬鹿馬鹿しい!! 死神の力に目覚めたからなんだ!? まさか、それで俺に勝てるとでも思ってんじゃねえだろうな」

「……」

「だとしたら傑作だぜ!? てめえ如きの力じゃ、天地がひっくり返っても俺には勝てねえ!!」

 

 どう足掻こうが勝機はない―――そう告げる黒刀に、大人の子供の中間に位置する麗しい姿と化した虚白は、じっくりと斬魄刀を見つめた。

 仄かに青白く発光する刀身は、悍ましい光景が広がる地獄においては殊更神々しく目に映る。

 

「―――勝つよ」

「……あぁ?」

「誓ったんだ。だからボクはキミに勝つ」

「誓っただと? はんっ、何を言うかと思えば……」

 

 刹那、黒刀の姿が掻き消える。

 瞼をする間もなく虚白の眼前に現れた彼は、そのまま歪な刀を振り下ろした。

 

「一体……誰にだァ!!?」

「ボクの―――魂にさ」

「なッ!!?」

 

 虚白を両断せんと迫る刃は、掲げられる鎖斬によって受け止められた。

 交差した刃の接触面からは、これでもかと言わんばかりに火花が散る。が、それに黒刀は瞠目した。

 

―――チュィィィイイイイン!!!

 

(なんだ、この音は!?)

 

 鼓膜を揺らす不快音。金属を削るような甲高い音と、手応えに反して()()()()()()()()感触に、違和感と危機感が胸を過る。

 すぐさま飛び退こうと身を引く。

 しかし、それよりも虚白が振りぬく方が早かった。

 

「ハァっ!!」

「馬鹿なっ!!?」

 

 ありえない旨を口にする黒刀。

 彼が垣間見たのは、虚白と切り結んでいた刀の刀身が途中から真っ二つに切り裂かれるというものだった。続けて横に一閃される刃が、胸板を浅く斬りつける。血飛沫が噴き上がるが、それも厭わずに黒刀の視線は斬魄刀へと向けられていた。

 

 そんな筈がない―――霊力に比例して頑強な刀が両断されるなど、余程の力量さがなければあり得ぬ話だ。

 しかし、どう考えても二人の間にそこまでの力量差があるとは思えない。

 

 だが、手掛かりはある。

 切り結んだ時に鳴り響いた音。そして感触だ。

 

「……振動か」

「ご名答、っと」

 

 鋒を黒刀に向ける虚白が悪戯な笑顔を咲かせた。

 

「これがボクの斬魄刀、『鎖斬』の能力(ちから)だよ。目に見えないだろうけど、この子(さぎり)の表面じゃあ、霊子がとんでもない回数往復してるんだ」

 

 滅却師の武器の中に『魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)』と呼ばれる代物がある。刀身の表面を秒間数百万回往復する振動で物体を切り裂く―――実態としては鎖鋸(チェーンソー)に近い武器は、切り付けた霊体の霊子結合を弛緩させることにより、滅却師の戦術の基本である“霊子の収集”を容易くさせるのだ。

 だが、鎖斬はその上を行く。魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)が秒間300万回振動している一方で、鎖斬の回数はと言えば、

 

「―――1000万回、って言ってもピンとこないか」

「!」

「触れたら斬れる。そう思っておいた方がいいよ」

 

 桁が一つ違う。

 どれだけ強靭な肉体であろうと、鎖斬の前では無意味。刀身に触れれば、みるみるうちに霊体は()()()()()

 

「成程な……()()()()()

 

 格上相手にも十分通用する能力。ましてや純粋な膂力と剣技だけで戦うスタイルの黒刀には分が悪い相手だ。

 にも拘わらず、当の彼はこれっぽっちも余裕を崩さないどころか、その狂気的な笑みに喜色を滲ませる。

 

「触れたら斬れる、か。それなら俺の……この鎖も斬ってくれるのか?」

 

 挑発しつつ掲げてみせるのは、唯一自身を地獄に縛り付ける鎖だった。

 黒刀にとっては己を縛る鎖でさえ武器の一つだ。剣戟の合間に鎖で刃を受け止めるなど造作もない。

 つまり、これは牽制だ。確かにあの斬魄刀ならば自身に手傷を負わせられるだろう。しかし、彼女にとって斬るべきではない物を盾として掲げれば、躊躇から攻勢の手が緩むのは目に見えている。

 躊躇う格下を殺すなど、赤子の手をひねるよりも簡単だ。

 だからこそ、黒刀は勝利を確信しているような笑みを湛えて告げた―――が、

 

「別にいいよ」

「……なんだと?」

 

 返ってきた言葉に、思わず聞き返してしまった。

 

「鎖斬ってほしいんじゃないの?」

「……はっ! なんだ、命乞いか?」

「ん? いやいやいや、まさかァ~」

 

 訝しむ黒刀に対し、からからと笑う虚白が「ヤだなァ~」と浪花の婦人を彷彿とさせる挙動を見せる。

 

「だって、動機がどうあれ黒刀にはいろいろとお世話になったしさ。約束守ってくれるなら、このまま一緒に逃避行も吝かじゃないかなって」

「約束……だと? 何だ、ここまで来て交渉かァ?」

「そんな堅苦しいものじゃないんだけど……ま、いっか」

 

 やおら、指が三本立てられた。

 

「一つ目、ボクたちにこれ以上危害を加えないこと!」

 

 言うや、仲間たちを見渡してから一拍。

 

「二つ目、地獄から出ても悪さしないこと!」

 

 黒刀に眉間に皺が寄るが、対照的に虚白は満面の笑みを咲かせていた。

 だが、その表情(かお)の裏に隠れている真意は、真剣そのものだ。

 

「三つ目、たくさん善いことをすること!」

「……」

「ほら? 巡り巡って色んな人に迷惑かけちゃった訳だしさ、その分とかはしっかり謝ったりしないと」

 

 唇を尖らせる虚白に対し、黒刀は考え込むように顎に手を当てた。

 

 “約束”の内容とやらは、決して厳しいものではない。

 究極的に言えば、『人の道に則って人並みに暮らせ』というものだ。

 

 なんてことはない―――緩い条件の提示に、黒刀は内心ほくそ笑む。何故ならば、鎖を絶ち斬って自由の身となった後は何処へでも行けるのだ。口先だけで承諾し、地獄から出た瞬間にトンズラをこくのも訳はない。

 

 しかし、どうにも胸の内から拭い去れぬ違和感がある。

 ジッとこちらを見つめる黄金色の双眸。笑顔に張り付いた真摯さが、やけに神経を逆撫で手くるようだった。

 

 頷くことも視野に入れていた―――が、これはいけ好かない。

 

「……で? 約束を破ったらどうなる?」

 

 だから訊いた。彼女がどういう腹積もりかを。

 

 すると、この返答は予想していなかったと言わんばかりに呆気にとられる虚白。

「うーん」と数秒ほど腕を組んで熟考した後に、彼女はこう紡ぐ。

 

「キミを斬る」

「……ほう」

 

 言い放つ少女の瞳に曇りはない。

 彼女は嘘も偽りも言ったつもりはなかった。ただ純粋に、己の責任を取る心積もりで口にしたのだ。

 

 地獄に堕ちた咎人を引き上げるなど、到底許される行いではない。

 だが、欠片でもその心に贖罪の意志が宿っているのならば、その善意に委ねてみたかった。

 虚の罪は誰に赦される訳でもない。斬魄刀に斬られれば、それだけで虚の間に積み重ねた罪咎は洗い流され、生前に大罪を犯していなければ魂葬される。

 しかし、それで虚の間に犯した罪に抱く罪悪感が拭えるかと言われれば、そうではない。良く言えば踏み込まないように淡々と、悪く言えば何の慰めもせず事務的に―――それが死神による虚討伐の実情だ。

 

 それでも()()()は「許す」と言ってくれた。

 片方にとっては友人を。もう片方にとっては家族―――そんな大切な人間を殺されても、目に大粒の涙をこさえて嗚咽を漏らしても、未来の幸福を願ってくれたのだ。

 

 自分もそうなりたい。

 人を許せる、優しい人間へと。

 

 しかしながら、世界が優しさだけでできているとも思っていない。

 時には救った命が悪事を働くかもしれない。そうなった時、救った側はどう責任を取るだろうか?

 

 ()ならば刃を取り、改心を促すべく戦うかもしれない。

 ()()ならば言葉を取り、優しく諭し、宥め、淀んだ心を洗い流そうとするかもしれない。

 

 ならば、自分は?

 

 彼ほど力も無く、彼女ほど口も達者でなければ、方法はたった一つしか残されてはいまい。

 

―――この手に握る(もの)が全て。

 

 背負うと決めた十字架に等しい斬魄刀を掲げてみせ、虚白は黒刀に返答を促す。

 

「どうする?」

「俺は……」

「ボクは……できることなら、キミを斬りたくない」

「―――」

 

 心の底から、本心を。

 

 その言葉を聞いた瞬間、黒刀は腹を決めた。

 

「……分かった」

「それじゃあ……」

「―――とでも言うと思ったか?」

 

 憤怒を露わにする黒刀が禍々しい霊圧を迸らせる。

 

「何が『斬りたくない』だ!!? てめえはなんだ、神様かァ!!? 俺と同じ底辺の癖に善人ぶってんじゃねえよ!!! 屑は生まれ変わっても屑だ!!! 俺も!!! てめえも!!! 償ったところで何も変わらねえ!!! ()()()()()()()()ッ!!!」

 

 血が滲むような叫びが地獄に木霊する。

 黒刀の胸をドロドロとめぐる黒い感情。それは怒りであり、嫉妬であり、悲嘆であり、後悔でもあった。

 

(何だ? 俺はどうしてこんなにイラついてる……?)

 

 自分でも不思議なほどの不快が激情を駆り立てる。

 しかし、その根拠を思い出せない彼は癇癪を起こす子供のように喚き立てることしかできなかった。

 

 それに応えるは、悲痛な面持ちを湛える虚白だ。

 

「違うよ、コクトーさん。ボクらは生まれ変われる。ボクが証明してみせる! まだ―――()()()()()()って!」

「ッ!!!」

 

 瞠目する黒刀。

 その瞳は心のように揺れ動く―――が、すぐさま湧き上がる怨嗟の念に彩られた。

 

「……ぁぁぁぁぁあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェ゛ッッ!!!!! そいつはっ、こんな場所にまで来て……一番聞きたかねえ言葉なんだよォッッッ!!!!!」

 

 底知れぬ怨念は霊圧の波濤となって周囲を呑み込んでいく。

 数多もの死と復活を繰り返した黒刀は、大切だった筈の妹の顔や声、あまつさえ名前さえも思い出せなくなっていた。

 

―――それが間に合うだと? 巫山戯るな。

 

 地獄の苦痛から逃れる為ならばと全てを捨ててきた。

 復讐も、善意も、家族との思い出でさえも、一度喰い殺される度に膨れ上がる怨念と狂気と力を前に消え失せていった。

 

 なのに『間に合う』など、例え死んだとしても認めたくはない―――否、認められはしない。

 

「不愉快だッ!!! てめえは……てめえだけは殺す!!! そのムカつく面をぐちゃぐちゃに踏み潰してッ!!! 踏み躙ってェ!!! 死んでも殺し続けて地獄を見せてやるッ!!!」

「……それがキミの(こたえ)?」

 

 憐憫と悲哀に彩られた双眸を揺らす虚白。

 しかし、最早彼の怨念を止めることは叶わなさそうだ。どれだけの時を経たのかは分からない。

 ただ、彼の心は妹を殺された時の怒りと悲しみに縛られたままだということは確か。地獄に居る限り、彼の心は永遠に解放されはしない。

 

 ならば、

 

「分かった。ボクは……キミを斬る」

「やってみろ、()れるモンならなァッ!!!!!」

 

 燃え盛るように立ち昇る紫紺の霊圧。

 遠方でクシャナーダ相手に立ち向かう面々でさえ、余りの圧に一時動きが鈍くなるほどだ。

 

 それを真正面から受け止める虚白は、靡く髪を掻き上げる。

 隠していた右目は、過去から目を背けていた弱さの象徴。それを克服した今、虚白が目にする世界は鮮明だ。曇り一つ、ありはしない。

 

 不意に胸に手を当て、鼓動の存在を確かめる。

 確かに脈打つ心臓からは全身を巡る血に、指先が仄かな熱を宿す。

 刹那、彼女の熱に呼応するかのように鎖斬が放つ光が輝きを増した。刀身に宿る霊子の量は刻一刻と増えていく。すると、薄く纏っていた光の膜が肥大化し、やがて光剣と呼んで差支えない域にまで光の面積が広がった。

 

 それを、虚白は地面に突き立てる。

 

「……行こう、鎖斬(みんな)。あの人を救いに」

 

 大地を迸る四条の光。

 それは地表に十字架を描き、続けて中央に佇む虚白の体を光の柱で包み込む。

 

 その光景に、誰もが違和感を覚える。

 

「何……虚白ちゃんの霊圧が……」

「あのチビ、まさか……」

 

 クールホーンとルピの瞳が驚愕に彩られる。

 

「おいおいおい、なんだってんだよ! 誰か説明しやがれ!」

「あたしに聞くんじゃないよ!」

「分からないなら静かにしてくださる?」

 

 口喧嘩する三人もまた、目を離せずに光の柱を望む。

 

「あれは、よもや……」

 

 ハリベルもまた、驚愕と共に口角を吊り上げる。

 

「……成程な」

『なになに!? 何が起きてんのさ!?』

「黙って見てろ、リリネット」

 

 困惑するリリネットを宥めるスタークは、ハリベルと同様、一つの仮説を立てて目の前で起きようとしている現象に納得していた。

 

 破面の帰刃(レスレクシオン)とは、魂魄の力を刀の形に収め、それを解放することで強大な力を得るもの。

 虚白は今、魂魄に秘められていた死神の力を斬魄刀として顕現させ、始解してみせた。

 だが、それはあくまで序の口でしかない。

 『対話』と『同調』を要する始解よりも、帰刃の性質はそれよりももっと先―――死神の斬魄刀戦術の()()に近しい。

 

 両手で握りしめる柄を虚白。彼女の足下からは、絶え間なく流入する霊子に耐えかねて亀裂が奔った大地から、神々しい光の帯が揺らめくように舞い上がる。

 緩やかに宙を踊る光の帯は、ゆっくりと少女の体に巻き付いていく。

 身に纏っていた死覇装をより神々しく仕立てる帯は、そのまま彼女を中心に一つの繭を編み上げた。

 

 

 

 地獄に舞い降りた純白の繭―――その揺籃の刻が、鈴の音のような少女の声により、終わりを告げる。

 

 

 

 

 

「 卍 解 」

 

 

 

 

 

 光芒が、地獄を照らしあげた。

 

「なん……だと……!?」

 

 ありえない単語に耳を疑う黒刀は、暫し茫然と羽化を始める繭を見つめていた。

 

 糸のように細く解けていく繭から現れたのは、白いロングコートを靡かせる妖艶ながらも神聖な雰囲気を漂わせる白い死神。

 胸に穿たれた虚の孔と臍が覗く前面に加え、純白のロングブーツとの間に垣間見える肌色を眩く強調するショートパンツが特徴的だ。

 しかし、何よりも目に付いたのは()()()()()()()()()()だ。

 卍解前は一刀だった剣が、双子のようにそっくりそのままの形で増えているではないか。所謂双剣。それを彼女は逆手で握っていた。双方とも、柄尻からは手枷へと繋がる鎖が伸びており、彼女から噴き上がる霊圧に今もユラユラと揺れている。

 

「どう……して」

 

 信じられない。が、自然と零れる言葉。

 

「どうしてッ」

 

 震える手。これは怒りか、はたまた恐怖か。

 

「どうして……ッ!」

 

 血が滲むほどに唇を噛み締める黒刀は、純白の双剣とは対照的に漆黒に彩られた刀を掲げ、あらんばかりの声で叫びを上げる。

 

「どうして!!!!! (てめえ)如きが!!!!! 卍解(それ)を使えるッ!!!!?」

 

 

 

「―――『鎖斬架(さざんか)』」

 

 

 

 背負いし罪が、剣の形を成す。

 

「!!」

 

 紡がれる真名に、黒刀は身構えた。

 油断はない。慢心も、この時ばかりはなかった。

 

 それでも眼前に差し迫る白亜の影に反応できなかったのは、破面の高速歩法―――響転による肉迫だったからだろうか。

 

 見開かれた黒白の反転した瞳がギョロリと敵を見据える。

 青白い光の軌跡を引きながら、交差するように振り上げられる刃から、十字の閃光が迸る。

 

 

 

十字鎖斬(サザンクロス)

 

 

 

「ハアアアアアッ!!!」

「チィ!!!」

 

 迫りくる霊子の刃を一閃で斬り伏せる黒刀。

 だが、肉迫を許した事実は覆らない。双剣という手数に優れた武器を手に取る虚白は、黒刀が迎撃の隙を見せた瞬間を皮切りに、鬼気迫る雄叫びを上げながら猛攻撃を仕掛ける。

 

 宙に残る残光は一つや二つでは済まない。瞬きを一つする間に奔る斬撃の数は、十を優に超える。

 負けじと刃を滑らせる黒刀。

 霊子を纏う刃と触れ合う度、赤熱した金属の欠片による火花と、霊子が弾ける青白い火花が飛び散る。

 

 瞬刻、両者の姿が掻き消える。と同時に、消えた場所から離れた場所にて閃光が輝くのに遅れ、甲高い金属音が戦場に響き渡った。

 

「がァーッ!!」

「こいつ……ッ!!」

 

 清廉な見た目にそぐわぬ勇ましい叫び声。

 その勢いに相応しい怒涛の猛撃は、卍解しても尚、格上と呼んで差支えの無い黒刀へ食い下がるに至っていた。

 斬っては斬られ、斬られては斬って。純白の死覇装を彩る血化粧は、一か所や二か所では済まない。しかしながら、虚白の体に刻まれた刀傷は、血飛沫を上げるや否や、湧き上がる粘性の液体によって塞がれる。

 

(超速再生!)

 

 大虚としての基礎的な能力も、最上級大虚に匹敵するスペックが加味されれば、凶悪と言うほかない。

 

―――認められない。

 

「死ねェ!!」

「!!」

 

 怨嗟に塗れた呪詛を吐き、刃を突き出す。

 それは虚白の頭部を貫く。口から後ろへ。歪に歪んだ刀身だからこそ、刺突一つを取っても普通の刀剣より殺傷能力は高い。

 顔に降りかかる血飛沫は幻覚などではない。甘い血の香りが鼻腔を撫でる。

 頭部を貫かれた少女の双眸は光を失う―――ことはなく、寧ろより血走って黒刀を睨みつけた。

 

「なっ……にィ!!?」

 

 下から照らされる虚白の顔。

 確かに頭部を貫いたように見えた漆黒の刃だが、寸前で顔を傾けた虚白の口から頬を貫くだけの結果に留まっていた。

 驚愕と瞠目は一瞬。すぐさま横へ振りぬく、上顎と下顎を泣き別れにさせようとする黒刀であったが、握りしめる柄は微動だにしない。

 

「んぎぃぃぃいいい!!!」

 

 頬を貫かれてもただでは済まない。そう言わんばかりに虚白は刃を噛み締め、黒刀の一閃をあと一歩のところで妨害していた。

 これは黒刀に一矢報いるに十分な隙と化す。

 咬合だけで体を支える虚白は、そのまま自身を貫く刀身目掛け、肘打ちと膝蹴りを叩き込む。鎖斬によって刻まれた切り込みから、少し上と下にズレた箇所への衝撃。

 

 ガキン、と悲鳴が木霊する。

 

「折―――」

「ふんがああああっ!!!」

「ぐっ!!?」

 

 己の刀を折られた光景に目が点となる黒刀であったが、すぐさま迫りくる蹴撃を片手で受けざるを得なくなる。

 不意の一撃だ。万全な状態で受けられた訳ではなく、黒刀の体は数メートル以上後方の地面に叩きつけられる。

 

 一方、追撃の為に虚白は地面を蹴った。

 だが、右腕に纏わりつく違和感に動きが止まる。

 ―――鎖。右腕に雁字搦めになって絡まる鎖の伸びる先は、たった今蹴り飛ばした黒刀の掌。

 不敵な笑みを湛える彼が手を引けば、途端に右腕から厭な音が次々に奏でられた。

 衣が裂け、肉が潰れ、骨が砕ける音。噴き上がる血飛沫と共に脳天を焼くような激痛が襲い掛かってくる。

 虚白が苦悶の表情を浮かべた瞬間、好機と見た黒刀が駆け出す。

 

 右腕が使い物にならなくなり、鎖で絡めとられている以上、相手の接近に対し退避することもできなくなった。

 

 そんな彼女は、次の瞬間、

 

「がああああっ!!!」

 

 絶叫と共に、絡まる鎖を力尽くで引っ張って()()()()()()()()()

 突然の自傷行為に、彼女を殺す気に満ち溢れている黒刀でさえ、一瞬放心するほどの光景。だが、すぐさま彼女の意図に気がつくや、焦燥に顔を歪ませる。

 

―――(まず)

 

 が、すでに引き返せないところまで肉迫した上で、加速をかけるように地面を蹴ってしまった。

 そんな黒刀の目の前で自身の血の雨を浴びる虚白は、自ら引き千切った右腕に絡まっていた鎖を手に取って廻転。あろうことか、振り回す遠心力を乗せて()()()()()()()()()()()()()()

 

 最早、常軌を逸した狂気の芸当。

 しかしながら、痛みを厭わぬ流麗な剣舞は、鎖と腕の分だけ黒刀の折れた刀よりも間合いが長かった。

 不意をつく一閃が黒刀を袈裟斬りにする。右腰から左肩にかけて刻まれた刀傷からは、血液が噴水のように噴き上がり、虚白の真っ白な肢体と装束を紅く彩っていく。

 

 手痛い反撃を喰らった黒刀からは歯軋りの音が響いた。

 

「て、めェ……っ!!」

「これで……おあいこ様ァ!!」

 

 明らかな重傷を厭わぬ二人が切り結ぶ。

 片や体の前面が斬りつけられて臓腑が見えんばかりの状態、片や骨や肉が露わになった右腕の断面から血液がしとどと滴り落ちているという状態。

 

 常人であれば動くことさえままならない中、激烈な剣戟を繰り広げる両者の姿は、まさしく修羅そのものである。

 そのような血で血を洗う死闘の中、実力では勝る筈の黒刀は慄いていた。

 

(こいつは一体なんなんだ!!? どうして俺と互角以上に戦える!!?)

 

 全ては紅血に染まりながらも必死に喰らい付く虚白の強さにあった。

 彼女は破面という括りで見れば、真の力を得た今でこそ上位に位置するであろうが、それでもバラガンやスターク、そしてアルトゥロといった規格外の面々と比較すれば見劣りする。

 卍解すらも霊子振動による絶大な切断力を除けば、基礎的な部分を底上げしたものでしかなかった。

 

 天を焼き焦がす豪火を一刀に宿す訳でもない。

 超絶たる威力の爆撃で滅し飛ばす訳でもない。

 神速かつ長距離、そして猛毒を持つ訳でもない。

 得体の知れぬ回復能力を持つ訳でもない。

 認識を逆転させる概念的な力を有す訳でもない。

 億万の花弁の刃を自由自在に操れる訳でもない。

 獣王が如き強靭な力を解き放つ訳でもない。

 一心同体の鎧武者の巨神を召喚する訳でもない。

 敵味方関係なく心中させる悍ましい力でもない。

 無明の地獄へに引き摺り込む訳でもない。

 蒼天に揺蕩う水と氷を隷属する訳でもない。

 幾里をも冒す毒霧を垂れ流す赤子を産み落とす訳でもない。

 天地の逆転を幻視させる大海が如き水を操る訳でもない。

 解放する冷気で周囲を銀世界に彩る訳でもない。

 そして、浄化の炎で罪を焼き尽くし、その命の裁量を手に握る訳でもない。

 

(俺に劣る死神(ざこ)に負けた虚如きが……!!)

 

 黒刀には自負があった。それは最強の咎人としての自負。

 顔の半分が腐敗し、皮膚が干乾びるほどに復活を遂げた黒刀は、並みの隊長格どころか上位十刃陣に勝る力を持っている。

 現にスタークとハリベルを一蹴してみせた上、ここからさらに死のうとも、また力を得て復活するだけだ。

 負ける理由など一つも見当たらない。

 奴らが死んで地獄に囚われ、それでこの戦いは終わりだ。終わる筈だった。

 

 だが、だが、だが―――。

 

 確信した勝利を揺るがす存在こそ、今まさに目の前に居た。

 暫く片腕で剣を振るっていた彼女は、横薙ぎに振るわれる黒い一閃を紙一重で躱し、黒刀の懐へと潜り込んだ。

 直後、顎目掛けて刺突が繰り出される。

 

 逆手から順手に持ち替える瞬間は見えなかった。それでも辛うじて顔を逸らして躱す黒刀は、意趣返しと言わんばかりに潜り込んだ虚白の腹部を蹴り上げた。

 白装束ごと柔肌を突き破り、臓物と背骨をシェイクする一撃。

 しかし、その蹴撃は腹部に叩き込まれる寸前のところで()()に阻まれた。

 

 ―――右手。気付かぬ間に再生していた手が、命を刈り取るには十分な暴力を孕んだ一発を辛うじて塞いでみせた。

 思考が止まる。それでも体は動く。

 怨念に突き動かされる黒刀は、頭でどうするべきかを考えるよりも早く、刀を手放した手で拳を握るや、虚白の頬に裏拳を叩き込んだ。

 

 爆ぜるように飛散する血飛沫。その中に白い物体―――折れた歯が混じっていたのは幻覚ではなく、空虚な音を立てて地面を転がる。

 

 苦痛に虚白の表情が歪む。

 それでも金色の双眸からは光は絶えない。じっと黒刀を見据えたまま揺るがない。

 

(畜生!!!)

 

 その表情(かお)に、黒刀は何よりもまず恐怖を覚えた。

 

「巫山戯るなッ!!! 痛ぇだろ!!! 苦しいだろ!!! なのに……どうして立ち向かってきやがる!!!」

「ぐッ……!!!」

「いい加減死ね!!! 死ねよッ!!! 死んでくれッ!!!」

「嫌だ!!!」

 

 恐怖の余り、黒刀は怒鳴り散らす。

 尚も鎖を手繰り寄せて取り戻したもう片方の剣を手に、再び二刀で斬りかかる虚白。

 彼女の表情から苦痛といった感情がありありと浮かんでいる。右腕が潰れた時も、体中を刻まれた時も、今のように蹴りを受け止めた時でさえも、余裕を湛えたような様子は窺えなかった。

 

 痛みに慣れている訳でも、痛覚が鈍い訳でもない。

 にも拘わらず、常人ならば悶絶して呼吸もままならないような傷を負っても尚、精神力だけで立ち向かってくるのだ。端的に狂っている。狂っていなければおかしい。狂って然るべきだ。

 

 この時黒刀は、初めて真の意味で“狂気”を理解した。

 嗚呼(ああ)、奴は気が触れている。

 だからこそ地獄へ舞い降りた。地獄から逃れんと足掻き、邪知を働かせ、他者を踏み躙ってまで這い上がろうとする咎人が可愛く思えてくる。

 

 奴は、正しく狂人だ。

 取り巻く環境で狂わざるを得なかった狂人擬きとは、次元が違う。

 

「畜生がぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 畳みかけるように殴る。

 殴る、殴る、殴る。殴って蹴る。蹴っては殴る。血が地面に飛び散る音に耳を貸さず、尚も殴り続ける。その苦痛に歪む顔がぐしゃぐしゃに潰れて無くなるようにと執拗に、丹念に。

 振り翳す拳が血塗れになった頃、紅に染め浸された頭部がガクリと項垂れる。

 

 今だ。

 好機(チャンス)は今しかないと悟る黒刀は、つい先ほど手放した刀を手に取り、喉笛を掻き切らんと一閃した。

 折れただけあってリーチは短いが取り回しは良い。屈辱の結果が利点と化した今だけはほくそ笑む黒刀は、最後だと自分に言い聞かせるがまま、全身全霊の力を柄に込める。

 

「―――ガァッ!!!」

 

 刹那、血反吐と咆哮を吐き出した口腔から深紅の閃光が迸る。

 地面を穿ち、その勢いのままに頭部を振り上げる虚白。射線上には、言うまでもなく黒刀が佇んでいる。

 

「ぐ、おおおおおおッ!!?」

 

 虚閃に呑み込まれる黒刀。最大の好機を見込んでの一閃も、虚閃を放った反動で反り返られて躱された。

 

「舐……めるなあああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 が、黒刀もただではやられない。

 虚閃で押し飛ばされる寸前、虚白の体に地獄の鎖を絡ませた。右腕を縛り付けた時のように苦痛を与える為ではない。純然たる拘束が目的。その心は、虚白の背後に迫る巨大な影にあった。

 

『ヤバい!! 虚白、後ろだ!!』

「!」

 

 リリネットの声を聞き、血で視界が霞みながらも後ろを見遣る虚白。

 目にしたのは、常人には余りにも大きすぎる刀を振り上げるクシャナーダの姿であった。目の前の相手で手一杯であった両者は、にじり寄る地獄の番人の存在にギリギリまで気づけなかった。

 

 だが、黒刀はそれを利用した。

 

「俺が死んでも問題ねえ……だが、てめえはそうもいかねえだろ!!! てめえが死ねば地獄に縛られる!!! 永遠にな!!!」

「ッ……!!」

 

 邪悪な笑みを湛える黒刀が鎖に力を込める。

 流石は咎人を縛り付けられる鎖とだけあって、膂力だけでは引き千切れないほどに頑丈だ。絶大な切れ味を誇る虚白の斬魄刀も、刃が触れていなければ鎖は斬れない。

 

 虚白は遠くから「逃げろ」と訴える仲間の声を耳にする。

 だが、彼女は逃げる様子を欠片も見せなず、寧ろ脱力してその場に立ち尽くすだけ。

 そうこうしている間にもクシャナーダが振り下ろした大刀は、地獄を荒らした招かれざる客人目掛け、振り下ろされた。

 

 容赦も、慈悲もなく。

 

「ようこそ、地獄へェ……!!!」

「―――まだ」

 

 ピタリ、とクシャナーダの動きが止まった。

 余りにも突拍子のない静止に、つられて周りの面々も動きが止まる。

 黒刀はその表情に驚愕を浮かべ、動かぬ巨像とかしたクシャナーダと、その下に悠然と佇む虚白へと、順々に目を向けた。

 

「なッ……!?」

「言ってない能力(ちから)があったね」

能力(ちから)、だと……?」

「ボクは誰かの魂魄に乗り移って虚化する……この能力を“虚食転生(ウロボロス)”っていうんだけど、それだけじゃあ融合して他人の帰刃までは使えない」

 

 ゆらり……と面を上げる虚白。

 その血に濡れた眼は、背後に立ち尽くすクシャナーダを見上げるに至った。

 次の瞬間、虚白の孔から伸びていた鎖を打ち込まれていたクシャナーダがサラサラと砂のように崩れ去っていくではないか。

 

 散り散りな霊子と化したクシャナーダの体は、そのまま虚白の体を纏うように集う。

 

 まるで、鎧のように。

 

「もう一つ……虚の力と死神の力の他に、滅却師の力がボクの中には在る」

 

 徒に弄んだ命も、そこにはあった。

 だが、仲間を守る覚悟を固めた虚白の意志に従い、収束する霊子はより強く固まる。

 

「鎖で繋ぎ止めた魂魄……その力の核を、外殻として身に纏うんだ」

 

 瞬く間にクシャナーダだった霊子は、骸骨を模った金色の鎧と成った。

 鎧の下に覗く純白の装束も相まってか、地獄には似つかわしくない神々しさだ。否、彼女は死神と成ったのだから、この神々しさと禍々しさを両立させるに相応しいとも言えるかもしれない。

 

「……莫迦な。ありえねえ……そんな筈が―――」

 

 茫然として黒刀が漏らす。

 地獄の番人をその身に宿した虚白。その目的はただ一つ、眼前の咎人を断罪する為。その在り様は、まさしく閻魔(えんま)の眷属たる“獄卒”に近かった。

 

 

 

纏骸(スカルクラッド)

 

 

 

「―――()()()()()()

 

 

 

 初めては()に行使した力。

 

 当時は不完全もいいところであったが、今ならば存分に力を発揮できる。

 

 心の写し鏡となる死神の斬魄刀。

 失った心が力と姿の基となる虚。

 掠奪が能力の根幹を為す滅却師。

 

 死神と虚と滅却師―――三つの種族の織りなす奇跡が、地獄の地に光臨した。

 

 同時にそれは黒刀の敗北を意味する。咎人の力はクシャナーダに通用しない。つまり、クシャナーダを取り込んだ虚白には―――黒刀は身震いした。

 

「コクトーさん」

「ッ……巫山戯るな……何の取り柄もねえ塵如きが、どうして……!!」

「本当に……償うつもりはないの?」

 

 一歩、歩み寄る。

 

「俺は……俺はァ……!」

 

 それに対し、黒刀は一歩後退る。

 本能の、それこそ魂に刻まれたクシャナーダへの恐怖は並大抵のものではない。今までは知能が低いからこそあしらえた。それが今、自分に差し迫る力を持った存在を依り代として顕現したならばどうなるか? ―――考えただけでも身の毛がよだつ。

 

 幾百もの自問自答を繰り返す黒刀。

 次々に浮かび上がる感情に、彼の表情は百面相を呈する。

 時間で言えば、一分にも満たぬ間の出来事。

 しかし、当人にとっては数分や数十分……いや、数時間にも長く感じるほどの時間だった。そうして精神を摩耗させ、漸く導き出した解は、

 

「―――てめえが、赦せねえんだよぉぉぉぉぉおおおおおッ!!!!!」

 

 振り翳された刃。それは明確な拒絶を意味していた。

 憎悪。憤懣。嫉妬。それら全てが入り混じった怨念こそが、黒刀の腹の底でグツグツと煮え滾っていた。

 

「……そっか」

 

 心底残念そうな声音を、虚白が零す。

 

「なら……キミの復讐をここで終わらせる」

 

 そして、決意が瞳を彩った。

 刹那、響転で飛び出した虚白が剣を振りぬいた。青白い煌きを纏う刃は、怨念を表すかのようにおどろおどろしい紫紺の霊圧を宿す黒刀の刀と交差する。

 

 それは剣戟と呼ぶには一瞬の決着。

 

 宙を舞う二つの影。

 間もなくして地面に突き刺さるのは、どちらも紛れもなく鎖斬架の刀身であった。

 

「……ごぽッ」

 

 口から溢れ出す血が、体の前面を紅く染め上げる。

 

「ふぅー……ッ!!」

 

 それを目の当たりにしていた()()は、斬りつけられた肩口の痛みに苦悶の表情を浮かべる。

 だが、彼女が握る折れた剣の延長線上に伸びた光剣は、黒刀の胸に繋がる鎖ごと彼を貫いていた。霊子を霊圧でコーティングした刃は、鎖斬や鎖斬架と同じく鎖鋸に近い性質を備えている。やけくそで飛び込んできた男の胸を貫くには十分過ぎる切れ味だ。

 

「く、そ……がッ……」

 

 胸を貫かれ、臓腑の深い部分まで傷を負った黒刀は、地獄の鎖が絶ち斬れた現状を喜ぶこともせず、斜め下から覗き込むように虚白を睥睨した。

 

「俺は、死んで、も……てめえを……―――がはッ」

 

 怨嗟を紡ぐ黒刀であったが、とうとう命のともし火が消えたのか、血を吐き出すや地面に崩れ落ちた。間もなくして微動だにしない彼の体は塵を化し、地獄に吹く一陣の風に攫われていく。

 

「……コクトーさん」

 

 得も言われぬ寂寥感が心に蔓延る。

 覚悟していたとはいえ、人一人を斬り伏せるのはいい気分ではなかった。例え、相手が自分と仲間を嵌めようとしていた悪人とは言え、だ。

 しかし、いつまでも感傷に浸っている時間もない。

 “皇虚の閃光(セロ・エル・マス・グランデ)”で拓かれた空間の歪が閉じる残り時間は幾ばくも残されていない。刻一刻と歪は小さくなっている。

 

「……よしッ! みんな、帰ろう!」

 

 暗い気分は捨て置き、未来へ踏み出す方へ思考を移す。

 だが、「はい、わかりました」と即答できる状況ではないことは火を見るよりも明らかだ。

 

「おい、白チビ!! 早くこいつらどーにかしろォ!!」

「えぇ~? もぉ~、仕方がないなァ~」

「頼む!! 早くしろ!! もう色々と限界なんだよォ!!」

 

 喚き立てるルピであるが、満身創痍なのは他の面々も一緒だ。

 比較的余裕が窺える虚白に助けを求めれば、緩い笑顔を咲かせる彼女は、徐に掌から無数の鎖を抗戦中の面々に向けて伸ばす。

 それは寸分の狂いもなく彼らの体に絡みつき、やや強引な手法ではあったが味方の回収に成功する。

 

「それじゃあ、出発~~~つ♪」

「うごごごごッ!!? 虚白ちゃん!!! 首!!! あたし首に絡まってるわ!!!」

 

 他の面々が腰や腕といった部分に絡まっているのに対し、唯一首に鎖が絡まったクールホーンが抗議の声を上げるが、今から直す余裕もないため「ごめんね!」と一言掛けられて彼は引き摺られていく。哀れだ。

 それは兎も角、クシャナーダの追撃からも逃れた虚白たちは、間もなく空間の歪みへたどり着こうとしていた。長きに渡る咎人との戦いもこれにて終わり。

 

『あとは尸魂界に帰るだけか……なんだか、めちゃくちゃ疲れたなぁ……』

「つっても、やることあんのか?」

「あるさ。町の復興にその他諸々……暫く暇はしない」

「「あたしたちはハリベル様に付いて行きます!! って、真似してんじゃねえぞオラァ!!」」

「……ハァ。今は貴方たちに毒を吐くのも面倒ですわ」

「ボクは好きにやらせてもらうよ。二度と女装なんてするもんか」

「旗を立てたわね。その覚悟、しかと聞き届けたわ」

「アゥ~?」

 

 鎖に吊られながら呑気に談笑する面々。

 こうして朗らかな会話を交わすだけで、平穏がすぐ目の前に迫っているのだという実感が湧いてくる。

 

「これで……」

『―――いや、なんか来る!?』

「へ?」

 

 歪まであと少しというところで声を上げるリリネット。

 思わず呆けた声を漏らした虚白だが、移動の速度は欠片ほども遅くならなった。にも拘わらず、彼女よりも早く前へと躍り出た無数の鎖が、脱出口たる歪を塞ぐではないか。

 

「なッ……!!?」

 

 

「―――ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッッッ!!!!!」

 

 

『この声は……黒刀!』

 

―――怨念が、地獄より這い上がる。

 

 リリネットの声と共に振り返る虚白。

 彼女のみならず、連れられていた面々が目の当たりにしたのは、地獄の釜から無数の鎖を靡かせて蘇る黒刀の姿であった。新たに彼を縛り付けた鎖は十や百ではきかない本数だ。

 それらが地面に伸び、煮え滾る鉄を全身から滴らせる黒刀は、ところどころ皮膚が剥げて筋肉や骨が覗き、あまつさえ焼き焦げていながらも、脱出を図る虚白たちを執拗につけ狙う。

 

「逃がさねえぞおおおおおお!!!!!」

「ああもう、こんな時にッ!」

「てめえらは地獄で惨めに怯えてるのがお似合いなんだよおッ!!!!! 死んでも殺され続けろ!!!!! 俺と同じ目に遭え!!!!! 無様に喰い殺され続けろおおおおおお!!!!!」

「ッ……!」

 

 この時、虚白の脳裏に過った考えは二つ。

 一つは追跡する黒刀を無視し、このまま鎖を突破する考え。

 もう一つは―――、

 

『虚白』

「ッ! ……リリネット?」

『あんた、自分だけ残って他の奴らは先にー、とか考えてんだろ?』

「えっ、どうして……」

『ずっと一緒に居たら分かるっつーの! ったく、水臭いなァ!』

 

 「なあ!?」と他の面々にも振るリリネット。

返ってくる反応は三者三様であった。

 

「そうよ。あたしたちは一蓮托生……あたしは主役! ということは虚白ちゃんも主役!なら、主役の最後の大活躍は美しく演出しないとじゃない?」

「そういうのはぶっちゃけどうでもいいけどさ、ほら。キミのことだからなんかできるんだろ? さっさとやっちゃってよ」

「正真正銘、こいつで終わらせてやるよ!!」

「二度とあたしらに喧嘩吹っ掛けらんないようにね!!」

「甚だしい程に不本意ですが……私も同意ですわ」

「ここで中途半端に追い返せば無用な犠牲が生まれる。やるなら徹底的にだ。付き合うぞ」

「ウゥ~、ロァアァア~~~~~!!!」

「おーおー……全員やる気だねェ。ま、それなら俺も付き合うしかないか、っとォ」

 

「みんな……」

 

 不意に目頭が熱くなる。

 

「ようし……行こう、みんな!!」

 

 答えを聞くまでもなく、鎖で繋がっていた面々と一つになる虚白。

 全員の心を白亜の鎧として身に纏い、体を翻す。

 

 そうして、怨念の権化と化した咎人に対面した。

 

「コクトォォォオオオオッ!!!!!」

「コハクゥゥゥウウウウッ!!!!!」

 

 再度二振りの剣を顕現させた虚白に対し、半身が鎖の怪物と化した黒刀が、無数に靡かせる鎖の内の数百本―――それも先端に漆黒の刃がついた人一人に対して過剰な手数を以て、串刺しにしようと仕掛ける。

 圧巻の光景。二本の剣で立ち向かうには、余りにも圧倒的な黒の軍勢が殺到する。

 

 だがしかし、虚白の胸に恐怖はない。焦りも、動揺もなく、ただただ凪のように穏やかな心が胸に満ち満ちるのを覚えるばかり。

 

 何故ならば―――仲間が居るから。

 月並みではあるが、そうとしかいいようがない。

 彼らに背中を押されるように、虚白は全身全霊の力を込めた双刃を閃かせた。

 

 片や、己の血と霊圧を混ぜ合わせ、極限まで霊圧を高めた赤黒い霊圧の刃。

 

 片や、圧縮した霊子が光り輝いて、触れる霊魂を絶ち斬る青白い霊子の刃。

 

 二つの刃は交差し、鎖の海に十字の星を瞬かせた。

 

『行ッ、けえええええええええッ!!!!!』

 

 聲が重なる。

 息と、力と、魂も。

 

 

 

 

 

皇虚の十字架(グラン・ド・クロス)

 

 

 

 

 

 十字の刃が、黒の刃群を一蹴した。

 そして、その奥に佇む咎人さえも。

 

「―――な」

 

 光が視界を埋め尽くす。

 

 伸ばした手も、見開いた瞳も、言葉を紡ぐ喉も、全てだ。

 肉が(ほど)け、骨が溶け、血が昇華する。

 全身を打ち崩す十字架を喰らった黒刀は、霊体が悲鳴を上げる間もなく崩壊していく最中でも生に縋るように藻掻き、足掻いていた。

 

―――今更何ができる?

 

 あれほど邪魔で仕方なかった地獄の鎖ごと絶ち斬られているというのに、これっぽっちも感慨は湧いてこない。

 最早、自分を殺した相手に対する悪感情さえ湧いてこない程に唖然とし、茫然自失となる。

 空虚が心を埋め尽くす。結局、復讐を果たし、遣る瀬無い怒りのままに殺して回り、尽きぬ怨念を原動力に殺され続けてきても、何一つ為せることなどなかった。

 

 無意味な人生だ。

 “野望”は無為に帰した。そんな“絶望”が胸を埋め尽くす中、続いて生まれた望みは―――。

 

 

 

『兄さん!』

 

 

 

 不意に脳裏を過る声。

 

(誰だ、こいつは。これは……走馬灯、か?)

 

 刃が体に到達し、先と合わせて二度目の死を迎えようとする黒刀は、痛みも忘れ、ただただ不鮮明な映像と共に()()()()()声を何度も反芻していた。

 

(こいつは……ああ。そうだ、こいつだった。俺の……俺の大切な―――)

 

 体が滅し飛ぶ最中、黒刀は数百年ぶりに取り戻したものに思いを馳せる。

 すれば、眩い光に色づく少女が自分に手を引いた。

 

 

 

『兄さん、こっちこっち! もう、置いてっちゃうよっ!』

 

 

 

―――待てよ、すぐ……すぐに追いつくからよ。

 

 

 

 最期に生まれた望みは“破滅願望”。

 だが、これはけして諦観よりくるものではない。

 前を―――未来を向いて歩む為の“希望”だ。

 終わりとは、裏を返せば始まりを意味する。これは怨念に生きた黒刀としての生を終え、まったく別の魂の基として、遥かなる旅路へと赴く始まりだ。

 

 

 

(もしも生まれ変われたなんて今際の際で思うなんざ、俺も堕ちたもんだ。なァ……?)

 

 

 

 そして、一人の男は、光の彼方へ()()()()()()

 

 

 

 ***

 

 

 

「いやはや、これはひどいもんっスねぇ……」

 

 ここは現世の一角に佇む駄菓子屋。

 『浦原商店』と掲げられた看板の下、不吉な雲行きの空を見上げるのは無精ひげを生やした店主だった。

 霊感のない者が見上げれば何の変哲もない夜明け前の空も、彼らのような者の目からすれば地獄絵図の真っ最中だ。

 

 突然空に現れた歪から溢れ出した爆炎と瘴気により、空座町は混迷を極めていた。

 とは言うものの、すでに尸魂界から派遣された死神や従業員の鬼道に長けた人物の尽力もあり、被害は最小限で済んでいる。不幸中の幸いと言うべきか、はたまた原因の究明ができていない時点で最悪とみなすべきか。

 尸魂界でも指折りの天才は困ったように喉を唸らせる。

 

「しかし弱ったっスねぇ~。いくらアタシでも地獄はノータッチっスから、どうしたもんだか……うん?」

 

 杖で地面を小突きながら思案していた男だが、不意に自身の霊圧知覚に引っかかった霊圧に怪訝な表情を浮かべる。

 不思議な霊圧。だが、思い当たる節がないと言えば嘘だ。

 

 だが、同時に「何故?」という疑問も浮上する。

 もしも()()が地獄からやって来たとすれば、これまた大問題だ。

 そう、突拍子もなく現れた霊圧は中りをつけていた地点―――地獄の瘴気が漏れ出している歪の近くから出てきた。

 しかも、真っすぐ自分の下へと落ちてくるではないか。

 

「これは……!!」

 

 

 

『―――ぎゃあああああああああああ!!?』

 

 

 

「わっとっとォ!?」

 

 悲鳴を上げながら落ちる人の塊。

 減速もしなければ受け身も取らなかった正体不明の人物たちは、まさに慌てる男の眼前に墜落した。

 激震。直後、もくもくと立ち込める砂煙の中からは、苦しそうな呻き声と咳き込む音が聞こえてくる。

 

「え゛っほ! え゛っほ! うぅ……ここはどこ? ボクは誰……?」

「あんたの場合、その冗談は洒落になんないから……げほっ!」

「……っつーか、俺の顔からケツ退かせリリネット」

 

「フッ……空から流星の如く舞い降りるっていうのもオツよね……☆」

「あ~~~! ボクもう絶っっっ対キミらと関わんない! 心に決めた! こんな目に遭うのはもう懲り懲りだ!」

 

「ふぅ……まったく、最後まで賑やかさには事欠かないな。っと、大事ないか?」

「ウロァ?」

「「「……ハリベル様の胸から退け(きなさい)、ワンダーワイス!!!」」」

 

 見るからに個性豊かな面々。

 しかし、拍子抜けするほど陽気な雰囲気を醸し出す元破面たちに対し、男―――浦原 喜助は、扇子で隠した口から驚嘆の声を漏らした。

 

「これは……なんともまァ……」

 

「ほろ? ねえ、みんな! ここ駄菓子屋さんだって! 何か買ってこうよ! 駄菓子パーティーしない?!」

『呑気かっ!!!』

 

「―――愉快なお客サンっスね」

 

 総ツッコミを受ける虚白を目の当たりにした喜助は、全身の力が抜けると共に頬も緩ませたのだった。

 

 

 

 これにて、地獄が発端となった破面だった者たちの物語はお終い。

 そして、一人の死神との出会いで生まれ変わった者たちの新たなる門出。

 

 

 

―――見ててね、アクタビエンマ。

 

 

 

―――ボクらはちゃんと生きていくから……ね?

 

 

 

 再会はまた別の機会に、と、今はただ仲間と生きていられる喜びに浸る。

 仲間と共に居られ、笑い合い、助け合っていく日々の尊さを噛み締めながら。

 

 

 

 紡いだ絆が、今を明日へと繋ぐ力になると信じて―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Fin~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Xデーまで、1年とあと少し。

 




*あとがき*
 この度は『虚白の太陽』を読んでいただき、大変ありがとうございます。
 本作は以前連載していたBLEACHの二次創作『BLESS A CHAIN』の外伝にあたる作品でありまして、『破面篇後の浄化された破面たちはどうなったの?』という部分に焦点を当てて執筆させていただきました。

 本作の主人公『虚白』は、本編主人公・芥火焰真と浅からぬ因縁を築くことになった『ディスペイヤー』であります。
 焰真にとって虚や滅却師も人として救うと誓うに至ったきっかけとなる虚……本編の題名である『BLESS A CHAIN』の”CHAIN”の部分を、焰真が”絆”と訳すのであれば、彼女は”鎖”…繋がりを悪い意味で捉えているという意味で、重要な立ち位置にあったキャラクターであります。

 そのような彼女を主軸に添えて外伝を執筆することは元々構想を練っておりましたが、こうして皆さまの目にご覧に入れられて、キャラクターを生み出した作者としては嬉しい限りであります。

 作品の良しあしは読者の方々の感性次第でありますが、自分にとっては”この作品を書いた”というだけで、また一つやり遂げた達成感に満ち満ちております。
 原作で死亡していたキャラや、それ以外の焦点があまり当たらなかったキャラの活躍……自分自身全てを綿密かつ魅力的に描写できたとは思っておりませんが、この作品を通して楽しんでいただける場面があったなら幸いです。
 3獣神&アヨンと我緑涯のパワー対決。
 クールホーンと太金のオカマ対決。
 ルピと群青の触手対決。
 ハリベルと朱蓮による水と炎の戦い。
 完全虚化したスタークとの死闘。
 そして真の力に目覚めた虚白と黒刀の決戦。
 どれも一生懸命考えた対戦カードだけあって、思い入れは強いです。そのほか、原作では退場してそれっきりであった井上兄やシバタユウイチ、そして原作では死亡した宗弦の登場など、彼らとのふれあいの中で虚だった者たちの在り方も描いたつもりです。
 ”見えないところでの繋がり”もまた、本作のみならず『BLESS A CHAIN』でのテーマであります。

 話は変わりまして、本作の今後ではありますが、地獄篇を題材にしたメインストーリーはこれにて完結。けれども後日談のゆるゆる会話中心オマケ話も何話か投稿するつもりです。ある意味こっちがメインでもあったり。

 さて、話が長くなってしまいましたが、改めまして本作を読んでいただき大変ありがとうございました。
 二次創作の外伝とだけあってとっつきにくさは重々承知しておりますが、読んでくださった方々に楽しんでいただけたならば嬉しい限りです。

 それではまた別の作品で。
 柴猫侍でした。

*オマケ*

虚白の斬魄刀・技まとめ

【斬魄刀】「鎖斬(さぎり)
 解号は「絶ち斬れ」。白い十字架のような見た目の刀剣に変貌する。柄尻からは手首の枷に繋がる鎖が垂れ下がっている。刀身の表面を秒間1000万回以上霊子が往復しており、大抵の霊体は触れるだけで霊子結合が弛緩し、分解される形で斬られる。実態としてはチェーンソーが近い。
 【裏話】命名の由来は天”鎖斬”月。元々は別作品で使おうと思っていた斬魄刀名でしたが、紆余曲折ありつつも虚白にぴったりと言うことでこの名前に。でも、斬魄刀より前に技(十字鎖斬)が出ていたので、技名から斬魄刀名…という不思議な流れで命名された経緯があります。

・卍解 「鎖斬架(さざんか)」…内なる虚(斬魄刀)を屈服することによって得た力。帰刃もいっしょくたになった卍解であり、全体的な服装が変わる他、剣がもう一本増える。上半身は白いロングコートへ変わり、白いブーツを履くようになる。頭髪の他、瞳孔の白目部分も黒く染まっている。帰刃に引き続き、手足首には鎖が垂れ下がる枷がはめられている。服装のみならず肉体にも変化が及んでおり、肌も鋼皮となり、全体的な防御が上昇。攻・防・速、いずれもバランスよく上昇する『天鎖斬月』に近い卍解。
 【裏話】イントネーションは”山茶花(さざんか)”です。鎖斬を音読みした上で、すでに存在している”さざん”のつく言葉はないものか…と調べて考案した名前。本編中だと黒刀と互角に戦っていたが、この時点の強さは第5十刃以上第4十刃以下。ちなみに黒刀は映画にて完全虚化一護の虚閃を真正面から防御して無傷ぐらいの強さ。ただ、能力の相性でいい感じに喰い下がれていた。卍解状態で他の破面(主にハリベルやスターク)と融合したら刀剣解放第二階層ウルキオラや完全虚化一護ともやり合えるぐらいに強化される。

【技】
・十字鎖斬(サザンクロス)…赤黒い霊圧を振り回した鎖、もしくは刀かた解き放つ技。帰刃時、及び始解時の両方で使用される。【裏話】【由来】南十字星で有名な”サザンクロス”。十字…クロス、鎖斬…サザン(音読み)という当て字。

・纏骸(スカルクラッド)…鎖で繋いだ魂魄の力の核を外殻として身に纏う技。基本、他の破面の帰刃を解放する際に用いている。破面時代、芥火焰真に対して使用。

・虚閃(セロ)…赤黒い色

・虚弾(バラ)…色は同上

・白虚閃(セロ・イリュミナル)…霊圧ではなく“霊子”を凝縮した青白い光線。霊子結合を緩める為、直接受け止めれば滅し飛ばされるのではなく崩れる。【裏話】【イリュミナル】…スペイン語で”照らす”。

・王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)…霊圧に血を混ぜて発動。朱蓮戦にて使用。

・皇虚の閃光…(セロ・エル・マス・グランデ)…虚食転生にて、多数の破面と融合した状態で解き放つことができる最大最強の虚閃。数多の鎖が貪り蓄えた霊子を凝縮し、それをまた莫大な霊圧にてコーティングし、解き放つ“白虚閃”の上位互換。白い虚閃をコーティングする霊圧は取り込んだ者に対応するため、発射した際は虹色の燐光が辺りを照らす。完全虚化スターク戦にて使用。【裏話】【エル・マス・グランデ】…スペイン語で”最大の”。王虚の閃光の”王”に”白”をのっけて”皇”になるという言葉遊びから生まれた技でした。

・皇虚の十字架(グラン・ド・クロス)…“王虚の閃光”の刃と“皇虚の閃光”を交差させた十字の斬撃で敵を屠る虚白の持ちうる中で最強の技。黒刀戦にて使用。【由来】十字に惑星が並ぶ配列をさす”グランドクロス”。【裏話】スペイン語だと『グランクルス』のような発音になりますが、十字鎖斬(サザンクロス)に合わせてスペイン語風に区切った名称に。

・虚食転生(ウロボロス)虚食反応(プレデイション)のディスペイヤー版。鎖を打ち込んだ相手の魂と融合・同化することで生まれ変わる能力。ディスペイヤー時代から使用。帰刃、及び卍解を会得してからは卍解時に使用。【裏話】【由来】尻尾を噛んでいる蛇で有名な”ウロボロス”。虚って”うろ”って読める! から着想を得た当て字です。

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