虚白の太陽   作:柴猫侍

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Epilogue ~リリネットの日記~
*0 Last Resort


 地獄を揺るがす決戦。

 

 それは死神の知らぬ場所で始まり、静かに終幕を迎えた。

 仮面を被りし者らの手により、一つの平穏が訪れた……これはその後のお話。

 

 

 

***浦原商店のアルバイト***

 

 

 

 あたしの名前はリリネット・ジンジャーバック。

 藍染サマらと一緒に空座町ってとこに攻め込んだ後、なんやかんや死神に負けて尸魂界に送られた後、似たように奴らと行動を一緒にするようになって今に至る。

 地獄でやり合った後は専ら虚白の秘密基地――っていうか、空座町(偽物っぽいけど)の廃墟に住み込むようになった。

 

 ハリベルと連れの三人は、前に行った花街の復興の手伝いに行って留守にしたり、ルピとかクールホーンの奴も似たようにふらっと出かけたりするけど、大概みんなそこを拠点にしている。

 最近だと、虚白とかあたしが始めたバイトで稼いだ金で小物とか買ったり、意外と充実してきたところだ。

 

 ……え? なんのバイトしてるのかって?

 

 それは今から分かる。

 

「ちゃお~! バイトに来たよ、ウラハラさ~ん!」

「どうもォ~、虚白サン! リリネットさん! 配達する荷物はこっちに置いてあるっスよ」

「これをいつもの場所に送ればいいんだよね?」

 

 空座町の一角にひっそりと居を構える駄菓子屋『浦原商店』。

 

 あたしらは何故かそこでバイトするようになっていた。

 店主は胡散臭そうなゲタ帽子のおっさん。店員はムキムキな癖に三つ編みのおっさんに、あたしよりも年下っぽい大人しそうな女子とやかましい男子。最後に喋る黒猫も来るけど、あれは多分店員とかじゃないはずだ。

 

「そうっス。矢胴丸サンにはよろしく伝えて代金も受け取ってくださいね」

「あいあいさー!」

「……はぁ、あの眼鏡か」

「どうしたんスか?」

「いや、だってあいつってあの手この手で代金ちょろまかそうとするし……」

 

 あたしらが荷物を送り届けるのは、前に一度立ち寄ったヘンテコな像のある空鶴って花火師が住んでいる屋敷だ。

 何でもそこに間借りして現世の色んなブツを売りさばく商売を始めた矢胴丸リサって奴と浦原は取引しているみたい。

 でも、あの眼鏡女はあたしらを舐めているのか浦原が要求する代金をあの手この手で払わまいとするから、その取り立てで毎回面倒を見て辟易している。

 

 あれは絶対に商魂逞しいとは言わない。図々しくて厚かましいだけだ。

 

「まあまあ、そこはリリネットさんの手腕にかかってますから!」

「ねえ、ボクは?」

「貴女の粘り強い交渉術さえあれば、どんな人とでもうまくやってけます!」

「ねえねえ、ウラハラさん?」

「アタシがしっかり保障しますから! さあ、胸を張って行ってみましょう!」

「あっ、こんなところにガムテープがある。前に寝てるスタークさんの顔面に張り付けた時はすっごいリアクションしてたなぁ~。たくさん採れたんだよ! 何が採れたか聞きたい?」

「虚白サン、お好きな駄菓子十個で手を打ちませんか?」

「やったー! ありがとう、ウラハラさん!」

「いえいえ、このくらい礼を言われるまでもないっスよ~!」

 

 平然とした顔で混沌とした受け答えをするが、もう慣れたもんさ。

 浦原喜助――確か、藍染サマが警戒していた現世の強い死神みたいな話だったけど、直接会ったのは地獄から抜け出した後が初めてだった。

 そりゃあ最初はあたしらも警戒していたけれど、駄菓子に釣られた虚白がバイトなんか引き受けるもんだから、あたしもなし崩し的に手伝う羽目になって……まあ、稼いだ小遣いで買い物とかするのは楽しいけどさ。

 

「それでさ、ウラハラさん」

「はい?」

「中身はエッチな本?」

「……一応商品っスから。プライバシーもありますし、御内密に」

「そうだよね。ごめんなさい、バレないところで読むね」

「それがいいっスね」

 

「読むな!!! 読ませるな!!!」

 

 思わず蹴りが出たが、あたしはきっと悪くない。

 

 

 

***お気に入り***

 

 

 

 働けば給料が出る。

 

 現世とか尸魂界で働く人の感性からすれば、それが普通のことなんだろう。

 でも、久しくそういった場所と距離を置いていたあたしらにとって、初めて手にした給料を何に使うかは悩んだものだ。

 日払いな分、渡される金額は小遣い程度みたいなものだけれど、これを稼ぐにも相応の苦労はしている……あのゲタ帽子、まさか給料中抜きとかしてないよな?

 

 それはともかく、あたしらが稼いだ初めての給料で立ちより、それ以降現世行きつけの店になっている場所があった。

 

「ドーナツ♪ ドーナツ♪ オリヒメさん、ドーナツ一丁ォ~!」

「まいど~!」

 

 現世の空座町に構える『ABCookies』っていうケーキ屋だ。

 毎週のように通い詰めているから、店員――っていうか、崩姫(プリンセッサ)にも顔を覚えられるようになった。

 

「はい、おまちどおさま!」

「ありがとう! はい、お釣りはいらないよ!」

「ひーふーみー……うん! お代ピッタリ! お買い上げありがとうございました~!」

 

 毎度レジで始まる茶番に付き合うのも、崩姫の人の良さなのかもしれない。

 実際のところ、崩姫と直接会って話したことなんてないから、元々の性格なんて知らないけれど。

 

「やっぱ一汗流した後はこれだよね~! 甘~いドーナツ! この丸い穴が開いてるのが悔やまれる美味しさだよね! ここにもみっちり詰まっててくれれば……!」

「……それってドーナツなのか?」

「あんドーナツは穴がないじゃん」

「それはあんドーナツが特別なだけじゃないのさ?」

「え、じゃああんドーナツの『あん』は餡子じゃなくてドーナツであることを否定する『Un(アン)』って意味だったの……?」

「邪推極まりないな」

 

――ドーナツから穴を取ったらドーナツの存在意義がなくなるんじゃあ?

 

 なんて考えている内にも、虚白はほっぺに粉砂糖やホイップクリームをくっつけてドーナツを貪っている。

 どうにも初めて食べた時から気に入ったみたいで、気づけば十個平らげることもざらだ。

 しかも、人目を引くほどに幸せそうな顔で頬張るもんだから、道行く人の視線を引いて、あたしが食べにくくなる。

 でも、本当に食べにくい理由はすぐ傍に居た。

 

「はぁああぁぁああぁぁあおいしそぅうぅうぅう……!」

 

 勤務中な癖に客に物欲しげな目と顔を浮かべる、この店員だ。

 焼きたてのケーキやらパンやらを陳列する傍らで、涎を垂らしそうなくらい蕩けた表情が、すぐ真横に迫っている。食べ辛いったらありゃしない。

 

「……オリヒメさん、食べたい?」

「!」

 

 崩姫はコクコクと頷く。

 

「でもあげな~い!」

「あぁああぁあぁああぁぁああ!!」

 

 唇がドーナツに触れるぐらいまで近づけられてから、一気にドーナツを目の前から引き離される崩姫が悲嘆の叫びを上げている。勤務中だろ、おい。

 そんな店員を目の前にした虚白は、ハムスターみたいに口の中へドーナツを詰め込む。

 

「んん~、おいし~♪」

「あぁ~~~、おいしくいただいてもらって何よりですぅ~~~!」

「そこへ不意打ちの食いかけドーナツ!」

「はむっ!? あむっ、んっ、ゴクンッ……ぶわあぁああぁあ、食べかけでもおいしぃ~~~!」

 

 リアクション芸人か。

 

 何てことを毎度思っているけど、その後に売れ残りのパンを融通してもらったりしているから、まだしばらくは通うことになりそうだ。

 

 

 

***花街ファッションデザイナー***

 

 

 

 咎人のせいで大変なことになった花街だけれど、今じゃ嘘みたいに復興が進んでいる。

 ハリベルと連れの三人がメインになって、色々と手伝いをしていたみたいだ。ハリベルからしてみれば、『内輪の問題で住んでいた人たちに迷惑をかけたんだからこのくらい当然』的な感じだったけれど、それでも滅茶苦茶感謝されていた。

 

「で、あんたは何してんのさ」

「見て分からない? ”美”を作ってるのよ」

「『可愛いは作れる』って奴だね」

 

 花街の一角にある呉服屋。

 そこに佇む機織り機の椅子に我がもの顔で座っていたクールホーンが、それっぽい雰囲気を醸し出しながらわけわかんない事を宣った。虚白も虚白で良く分からない現代のキャッチコピーを口にしたけど、軽くスルーしておく。

 

「ねえねえ、ルピさん。クールホーンさんが何作ってるか知ってる?」

「はあ? そんなもの見りゃ分かるでしょ。わざわざ僕に訊かないでくれない?」

「そっかぁ。じゃあルピさんにはお土産に持ってきたサバパンをあげるね」

「なんだ、その罰ゲームみたいな生ごみ!? 食べる訳ないだろ、そんな悍ましいもの!」

「む、聞き捨てならないよ。ちゃんと見てごらん、スターゲイジーパイみたいで迫力満点!」

「味だよ、僕が気にしてんのは!」

「むっふっふ、ルピさんはもうちょっと勉強しないと。スターゲイジーパイはれっきとした料理であるよ。いぎりす……とかなんだとかの国で」

「なおさら不味いだろうが!! っていうか、それそもサバでパンなんだよ!! ニシンでもパイでもないし!!」

「魚と小麦粉使ってるよ?」

「ストライクゾーン広すぎるだろ、その定義!!」

 

 部屋の角で拾った漫画雑誌を読んでいたルピが、虚白の差し出すゲテモノパイを前に喚き立てている。あの時の親睦会がよっぽど堪えているみたいだ。

 これでも第6十刃なんだよなぁ……いや、”元”か。

 卍解した虚白とどっちが強いんだろうと思ったけど、ぶっちゃけルピが虚白に勝つビジョンが全然見えてこない。だってほら、相性悪いじゃん。主に性格面で。

 

「まったく、こんなに面白い物を食べないなんて、ルピさんは損だなぁ……それじゃあボクがいただきます。あむっ……ん゛う゛ぉえ!!」

「ほら見たことか! ほら見たことか!」

「パイとサバの香ばしい風味に……DHAを感じる魚肉の香りと、細い小骨が合わさって、とっても面白い味だよぅ? ほら、一口……」

「キマった顔しながら渡そうとすんな!! やめろ、絶対に食べないからな!!」

 

「あんたたち、さっきからうるさいわよ!! 私の探究の邪魔をしないで!!」

 

 ついにクールホーンがキレた。当たり前だ。

 

「で、結局何してんのさ。着物織ってるのは分かるけど」

「ふっ、よくぞ聞いてくれたわね。アタシは流魂街なんて辺鄙で田舎臭い大地で咲き誇った大輪の花……でも、花も咲く場所を選びたいじゃない? それが人目に付く野山か、手入れされた花壇か、はたまた他の花が咲き乱れる花畑か……」

「クールホーンさんはカレーパンでいい?」

「ちょ、やめて! それ近づけないで! カレー臭い! すごくカレー臭いから! 生地にカレーの匂いが移っちゃう!」

「美味しそうでいいね!」

「世間一般的にカレーの匂いがついた服は『臭い』って言うのよ! 離して、スパイシーなフレーバーが部屋に充満してくから!」

 

 横から差し入れのカレーパンを差し出す虚白にクールホーンが狼狽えていたけれど、これ以上反物に匂いを移さない為に、油ギトギトのカレーパンを爆速で完食した。あっという間だったから、カレーパンを差し出していた虚白も『おぉ~』って感心している。

 と、話が脱線してしまったクールホーンが、カレーの匂いをまき散らすように咳払いした。

 

「つ・ま・り! アタシは彩りのない荒野で咲き誇るなんて真っ平御免……百花繚乱、千紫万紅の花が咲き乱れる中に居ても尚、一際輝きを放つ花になりたいの! その為にはアタシ以外も美しく着飾ってあげないとね☆ って訳」

「それで着物を織ってんのか」

「そういうこと。お分かり、おチビ?」

 

 何かにつけて煽ってくるクールホーンだけど、それにももう慣れたものだ。

 まあ、あたしとしては服を織るのもデザインするのも器用な真似なんてできないから、素直に意欲的なクールホーンには感心する。

 

「へぇ~! じゃあ、ボクのおニューの着物もクールホーンさんが織ってくれる?」

「あら、アタシプロデュースの着物を着たい訳? お目が高いわね」

「やめとけ、『時代の先を行く』なんてうたい文句でマイクロビキニとか着させられるぞ」

「アタシをなんだと思ってるのよ!?」

「帰刃がバレリーナの奴に言われたくないんだよ!」

「言ったわね!? アタシの美が理解できないからって悪口を!! あー、醜い!! 醜過ぎて目が乾くわぁ~~~!!」

 

 執拗に瞬きするクールホーン。

 でも実際こいつの美的センスって若干ズレてる気がするから、あたしが言っていることも間違ってない気がするんだよな。

 虚白がこいつの織った着物を気に入って延々と着まわしたら……あたしは若干距離を置くかもしれない。それだけは色々と嫌だ。

 

「作るなら普通の作れよな!」

「はぁ~~~ん!!? アタシの辞書に平々凡々凡百普遍なんて言葉はありませ~~~ん!!! アタシのセンスを全て注ぎ込んだ究極の一着を仕立ててみせるわ!!!」

「おぉ~! 楽しみに待ってるね、クールホーンさん!」

「ご期待に添えてみせるわよ、虚白ちゃん。でも一つ問題があってね。中々アタシの至高の反物を試着してくれる子が現れないのよ。フッ、オーラがあり過ぎるっていうのも考えものよね」

 

 化け物級のポジティブシンキングだが、別に憧れない。

 そんなクールホーンに、虚白は『なんだそんなことか!』と言わんばかりの笑顔を咲かせた。

 

「ちょうどいい人が居るじゃん! ね、ルピさん!」

「は? ……いやいやいや! 何急に僕に話振っちゃってんの!? 今完全に蚊帳の外だったろ! 引き摺り込んでくるな!」

「あら、言われてみれば。凹凸もなくて面白味に欠けた体だけど、マネキンとしてはそこそこ使えそうね。グッドアイデアだわ」

「おい納得してんじゃねえぞオカマ! その気になったらお前のことをぶちのめせるんだからな!? 拳で分からせてやろうか!?」

 

 ヤバイ剣幕でルピが怒鳴り立てているけれど、虚白が居たら――まあ止まらないよな。

 

「ル~ピさぁ~ん」

「アタシたちの着せ替え人形になりなさぁ~い」

「ちょ、待て、にじり寄るな……う、うわああああああ!!!」

 

 その日、花街に一人の悲鳴が木霊した。まあ、次の日もまたその次の日も響くんだけど。

 

 

 

***仮面ファイター***

 

 

 

「ねえ、二人は白神様って知ってる?」

「シロカミサマ?」

「うん! 真っ白な仮面を被って、流魂街にやって来た虚をやっつけちゃうヒーローのことなんだ! 死神さんは真っ黒だけど、その人は真っ白な着物を着て戦うから『白神様』!」

 

 潤林安に遊びに来ていた時にユウイチが話した。

 最近流魂街の住民の間で話題になっているヒーローだとかなんとか。

 尸魂界に来て仮面なんて言ったら、大抵は虚の象徴みたいだし、いい印象は持たないはずだ。だけど、最近現世から来た子供とかの間では仮面を被った人間は正義のヒーローっていう認識があるらしい。

 

 っていうか、そもそもの話だ。

 

 白い。

 仮面。

 虚を倒す。

 

「へぇ~、そんな人が居るんだ! ボクも会ってサイン貰いたいなぁ~」

 

――お前のことだろうが!

 

 と、今すぐにでもツッコミたい。

 虚白はあたしたちに会う前から、不定期で出くわした虚を倒していたみたいなんだけれど、最近では浦原って奴の助言もあってか、身バレしないように毎度虚化してから現場に向かっている。

 それが傍から見たら、現世で有名な仮面が象徴の特撮ヒーローみたいな扱いを受けるようになった訳だ。

 っていうか、時たま浦原商店で店員の子供に混じって特撮鑑賞会をしているのもあるだろう。

 

(この前はとうとうレンタルビデオ屋の会員証なんか作ってたしな。ニセモンの身分証明証で)

 

 犯罪染みた行為までお手の物の浦原には色んな意味で頭が上がらない。

 あのゲタ帽子経由で、今や住処にはテレビやらDVDプレーヤーまである始末だ。週末には全員集まってちょっとした鑑賞会にもなっている。貴重な娯楽だしな。

 

「ボクも変身したいなァ~。そうだ、あの三人に手伝ってもらって『ライオン! ヘビ! シカ!』みたいな感じで――」

「それはアヨンになるだけだろうが!」

 

 今度から特撮ヒーローを見せるのは控えさせよう。そう思った。

 

 

 

***折れた刃***

 

 

 

 それは、たまたまあたしがスタークを探していた時のことだった。

 

「――こうして腰を据えて話すのも初めてだな」

「かも、な」

 

 カッコつけたように区切ったスタークの隣に立っていたのはハリベルだった。

 二人共、元々十刃だった訳だけれど、スタークは毎日ゴロゴロしているし、ああやってしっかり話すのは確かに無い機会だったのかもしれない。

 

「不思議なものだ。虚圏に居た頃は、常に死と隣り合わせの日々を過ごしていたというのに。ここは嘘のように穏やかだ」

「……ああ。退屈に退屈しそうなくらいにな」

「どうだ? 虚から人間に戻ってみて。少ないが、仲間と暮らす生活は」

「……どうなんだろうなぁ」

 

 ハリベルの質問に、スタークは頭を掻きながら応えていた。

 

「俺は、せめて死なないくらいに強い仲間が欲しかった」

「私たちでは不服か?」

「そういう意味じゃねえよ。ただ、仲間ってなんだろうなって思ってよ。結局んところ、虚夜宮(あそこ)に仲間と数えられる奴はいくら居た? って話だ」

「定義か。難しいな。確かに同族は大勢居た。だが、お前の言う仲間がどれだけ居たかと言われれば、少ないと言って差し支えないだろう」

「……だよなぁ」

 

 そういうスタークの声は、どこか寂しげだった。

 

「藍染サマに付いていきゃあ、勝手に手に入るもんだと思ってた……でも変わらなかったな。虚圏も、虚夜宮も」

「……度し難いな。私たちは見えていなかったんだ、あの強さを前に頭を垂れて膝を折り曲げていただけだから。群れとも呼べない寄せ集め――そういう集まりだったんだろう、私たちは」

「はぁ……やるせねえな」

 

 キュッと胸を締め付けられた。

 あたしとスタークは”孤独”から魂を二つに分けた存在。寂しくて、寂しくて、寂しくて……それが堪らなくて二人になった。

 でも、思い返してみれば思い当たる節がある。

 確かに虚夜宮には簡単には死なない奴らがたくさん居た。

 けれど、死なない()()は増えなかった――それからあたしたちは目を背けていたんだと思う。

 あたしも、スタークも。お互い口に出さなかったんだ。

 強い奴らが屯していただけ。

 あたしとスタークは、ふたりぼっちだった。

 

「だが、今は違うだろう?」

 

 そんな時、ハリベルの声が澄んで聞こえた。

 

「死にかけても助けに来るような者が、今は一緒に居る」

「……はっ、あの嬢ちゃんか。なんであんなに他人に命張れんだか。根明なのかね」

「本人に訊いてみなければ分からんな。折角だ、訊いてみればいいだろう」

「いや、そりゃあ……あれだろ。真面な答えが返ってくる気がしねえ」

「まったくだな」

 

 私も随分毒されたみたいだ、なんてハリベルが笑いながら口にした。

 

「だが、そんなに難しく考える必要もないだろう。同じ境遇で、偶然出会って、助け合い、暮らしていく……私は今の生活に十分満足している。私はずっとこんな日々に憧れていたのかもしれない。憧れて、諦めていたんだ。だから、今の一瞬一秒が光り輝いて感じられる」

「そりゃあ羨ましいもんだ。俺には眩しくていけねえよ」

「……なあ、コヨーテ・スターク」

「なんだい、改まって」

 

 普段から真面目なハリベルが、一層畏まった様子でスタークに目を遣った。

 それには背中を丸めていたスタークも、思わず背筋を伸ばして聞く姿勢に入る。

 そして、

 

「私は今ここに誓う。仲間の為に自分を犠牲にしてでも守ると」

 

 ハリベルが言った言葉に、水を打ったように場が静まり返った。

 

「そりゃあ……」

「文句は言わせんぞ」

「……はっ。あんたがどう言おうが、あの三人が許さねえだろ」

「違いない」

 

 フッとハリベルは凛としていた顔を綻ばせる。

 ずっと仮面に隠されていた横顔は、想像していたよりもずっと、ずっと綺麗だった。

 

 そんなハリベルに、スタークはこう言う。

 

「まあ……あんたがそういうなら、俺も張ってみようかね。自分の命って奴をよ」

「それだけの価値があると、ようやく思えたか?」

「――多分、な」

 

 それは、あたしでも見たことのない満ち足りた顔。

 くそ。なんだ、ずるいぞ。二人ばっかりいい感じの雰囲気になりやがって。

 でも……仲間って言われて嬉しいぞ、ハリベルの奴。

 

 

 

***因果応報***

 

 

 

 珍しいこともあるもんだ。

 そう思ったのは、わざわざゲタ帽子から全員で来るように連絡を受けたから。

 

 渋々……って顔をする奴が大半だったけれど、なんやかんや全員が到着してすぐ、最初のサプライズがあたしたちを襲った。

 

「ジャジャ~ン! 以前、小耳に挟んだ情報から密かに作っていたこの腕輪! これをワンダーワイスさんに着けるとあら不思議!」

「アウゥ~?」

 

 ヘンテコな腕輪を着けられた瞬間、ワンダーワイスが大人に姿に戻った!

 

 そう言えば忘れていたけど、こっちが本来の姿だ。全員なあなあにしている内に、自然と受け入れていた。

 

「わ、ワンダーワイスに抜かされた……」

 

 あたしたちがゲタ帽子の技術力に唖然としている一方、虚白だけは身長を抜かされた事実にショックを受けていた。

 あんたは別にいいでしょ、卍解すればデカくなるんだから。悲惨なのはあたしだよ! 暫定一番チビだよ!

 

「で? 全員呼んだ理由がこれだけって訳じゃあねえだろ」

「流石スタークさん。敵いませんねェ」

 

 白々しく言い放つゲタ帽子は『どうぞこちらへ』と店の奥へ全員を案内する。

 どこに行くのか――なんて考えていたら、どんどん訳の分からない道を進み、長い梯子を下りた先に広がっていた空間にたどり着いた。

 一面の荒野。んでもって天井があるはずの上には空が広がっている。

 なんだか虚夜宮を思い出す風景だ。

 そんなことを思っていたら、何やらゲタ帽子が大きな布が被さっていた物体をお披露目してきた。

 

「皆さんを呼んだ理由はコレっス!」

「なにこれ、刀?」

「ええ。皆さんにはこれからこいつに霊圧を注いで欲しいんス」

 

 ゲタ帽子の言葉に、空気が一変する。

 虚白とかスタークみたいなのはともかく、ルピやらハリベルの取り巻き三人が陰険な雰囲気を醸し出す。

 

「止せ、お前たち。事情は説明してくれるんだろう?」

「ええ、勿論。こいつはアタシがとある方の斬魄刀をベースに開発した、霊力を取り戻す為の発明品っス」

「霊力を取り戻す? 誰の?」

 

 好奇心を隠さないで刀を眺めていた虚白が問いかける。

 何も知らないからこその純粋な疑問って奴だ。

 だが、それがゲタ帽子にとっては答えにくい質問だったらしい。一瞬目を伏せて逡巡した様子を見せた後、ふぅ、と一息置いてから口を開いた。

 

「黒崎一護、って言えば分かりますかね」

『!』

「こいつは、彼が藍染を止める代償に失った霊力を取り戻すっていうアタシなりの贖罪っス」

 

 空気がひり付くのが分かる。

 黒崎一護――藍染サマが目を掛けていた死神代行。破面からしてみれば敵と言って間違いない相手だ。

 経緯は知らないけれど、いきなりそんな奴の力を取り戻す為に力を貸せだなんて言われて頷く奴は居なかった。

 

「はん! なんで僕がそいつの為に霊圧をくれてやらなきゃいけないんだよ。パス」

「同感だぜ。そんな義理、あたしたちには一ミリもありゃしねえだろうが!」

「ごもっともだねえ」

「これには私も賛同しますわ。時間の無駄でしたね」

 

 辛辣な言葉を並べるルピと三人だけど、あたしもその気持ちは分からなくない。

 でも、虚白だけは真っすぐな目で浦原の奴を見つめていた。

 

「身勝手なお願いだということは承知しています。勿論、貴方たちの立場も。それでも、出来る限りのことはしたい……そう思ってお呼びしたんス」

「それで私たちが是と言うとでも? 仮にも敵だった相手に」

「ただでとは言いません。ワンダーワイスさんへの贈り物は、その誠意みたいなもんっス」

「……虫のいい話だ」

 

 ハリベルもこう言っている。

 誰もわざわざ黒崎一護に力を与えようなんて奴は居ない――虚白を除いては。

 

「よーし、大船に乗ったつもりで居てよ!」

「虚白!?」

「いいじゃんいいじゃん。減るもんじゃないんだし、ウラハラさんだってただじゃないって言ってるよ?」

「そういう問題じゃあねえだろう……」

 

 あたしが声を上げた横でスタークが頭を抱える。

 一方でゲタ帽子は言い出しっぺの癖に目が点になっていた。

 

「あのぅ……言い出した手前で言うのもなんですが、ホントにいいんスか?」

「いいよいいよ。いつもお世話になってるし! それに……」

「それに?」

「クロサキさんって、アクタビエンマの友達でしょ?」

 

 それだけで十分だよ、と。

 真っすぐな瞳を浮かべている虚白は、佇まいでそう語っていた。

 

 あたしは知らない。虚白にとってアクタビエンマって奴がどんな奴か。

 でも、その名前を口にするたび、あいつは少し辛そうな顔を浮かべてから、噛み締めるように顔を歪め、破顔するんだ。

 あたしにとってのスタークみたいに。きっとあいつにとってアクタビエンマは特別な奴なんだ。

 

 そんな奴の友達なら、手を貸さない訳にはいかないってか?

 

「ったく。友達の友達みたいなもんだろ……よく力を貸そうなんて思うよな」

「ま? ボクって心が広いから!」

「カッチーン! そう言われちゃったらアタシも名乗り出ない訳にはいかないわね。いいわ……存分に注いであげるわ」

「あの~、スイマセン。注ぐのは霊圧だけにしといてくださいよ?」

「アタシをなんだと思ってるの!?」

 

 クールホーンにさらっと失礼なことを言っているゲタ帽子だが、誰もあいつをフォローする奴は居ない。なんて言うか、哀れだ。

 

「……それがあの死神に借りを返すという意味か」

「ハリベル様?」

「いいだろう。乗りかかった船だ。私もやる」

「なあっ!?」

「いいんですか!? こいつは黒崎一護の……」

「あら、貴方たちはハリベル様のご意向に背くおつもり? なら構いませんわ。私だけでもハリベル様と共に……」

『スンスン、てめえ!! 抜け駆けすんじゃねえ!!』

 

 ハリベルが言い出したことで、まんまと乗せられる三人。まあ、通常運転で安心した。

 流れができたところで、あたしはスタークに訊く。

 

「スタークはどうすんのさ?」

「俺か? あぁ~……まあ、全員がやるならやるさ。別に他の予定もねえしな」

「よぉーし! ワンダーワイスも手伝ってくれるとして……」

 

『……』

 

「……は? なんで僕を見るんだよ」

 

 あとはひねくれもののルピだけだ。

 

「ルピすわぁ~ん……」

「おい、近づくんじゃねえ! 僕は嫌だぞ! 疲れるし!」

「だったら虚食転生(ウロボロス)一蓮托生(ドッキング)するからさ!」

「やめろ! 誰が二度とお前と融合なんかするか!」

「おー、イイっスね~。景気よくドーンと注いじゃってください!」

「ゲタ帽子この野郎! 他人事だと思いやがってえええええ!!!」

 

 なんて喚いていたルピの叫びも虚しく、虚白が出した鎖に絡めとられる。

 

「さぁ~てとっ! そんじゃあ行っくよー!」

 

 虚食転生で全員取り込んだ後、金ぴかの鎧を纏う虚白が意気揚々と袖を捲る。

 

「よし……んっ!?」

 

 刀の柄を握った瞬間、あたしの――いや、虚白の脳裏に過った声が、あたしたちにもダイレクトに伝わって来た。

 

 

 

――『ありがとう』

 

 

 

 優しい女の人の声。

 誰のかは分からないけれど、とても温かい。そう感じた声と共に、刀へ霊圧が注がれた。

 十人分の元破面が注ぎ込む霊圧だ。ピンキリだけど、全員分を合わせたら相当の量に違いない。

 

 現に霊圧を注ぎ込まれた刀は、それ以前に比べて明らかに光り輝いている。

 

「おぉ~! 成功?」

「ええ、ご協力ありがとうございました」

「どういたしまして、っと!」

 

 虚食転生を解いた虚白が、感慨深そうに刀を見つめる。

 これもまた、あいつなりの恩返しなのかな。

 その――アクタビエンマって奴への。

 

 そんで、メッセージなんだ。

 自分はちゃんと生きてます、っていう。

 

「これならクロサキさんって人も力モリモリになるでしょ!」

「はい、想像以上っス。これならアタシも恩に報いることができるってもんス」

「そんじゃ、クロサキさんによろしく伝えておいてね!」

「……芥火サンにはよろしくて?」

 

 浦原の質問に、一瞬虚白が目を見開いた。

 けど、

 

「……ううん、いいや! どっかであった時、ボクが自分で伝えるから」

「そうっスか。それならいいんス」

 

 何か知っている様子だけれど、その答えを虚白は求めていない。

 

「それじゃあ、皆さん! ホントの本当にご協力感謝いたします! 何かあったらご気軽に相談してください」

「ボクらにも相談していいんだよ、ウラハラさん!」

「あらら、そうですか? それならちょっとご相談が諸々と……」

「帰るぞ、虚白!! 何吹っ掛けられておかしくないんだからな!!」

 

 あたしが警戒して虚白の前に躍り出れば、そんな殺生な……、とゲタ帽子が噓泣きする。

 

「ま、冗談はさておき……こう見えてもアタシ、貴方たちと懇意にさせていただきたいと思ってるのは本当っスから」

 

 黒腔で帰ろうとするあたしたちを見送るゲタ帽子はそう言った。

 確かにあいつの技術は凄いけど、なるべく関わりたくないというのが本音だ。

 けど、本当になんかあった時には頼ってみよう。この時のあたしは、なんとなくそう思うだけだった。

 

 まあ、この話が現実味を帯びるのはもうちょっと先の話なんだけどな。

 

「ねえ」

「ん? なあに、リリネット」

「あんた、会いたい人が居るんじゃなかったっけ?」

「ああ、それは――」

『お~い……ハリベルが呼んでるぞ~』

「あ、スタークだ! ごめん! その話、また後で!」

「オッケー! ――……大丈夫、きっとまた会えるもんね。アクタビエンマ」

 




こちら、ようぐそうとほうとふさんから頂いたイラストとなっております!
素敵に描いていただき、感無量でございます!


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