「はぁ、やっと終わったよ・・」
ホームルームからの自己紹介も終わり、時間は放課後へと突入していた。
「ふぅ、早く帰ろ」
「あら、それなら私もご一緒してもよろしいかしら?」
「わっ!?」
後ろからの突然の声かけに彩子は素っ頓狂な声を上げてしまう。その様子を見た陸乃はクスクスと笑い、それに気づいた彩子は恥ずかしくなり顔を真っ赤にする。
「もう!ビックリさせないでよ!」
「ごめんなさい。あまりにもすきがあったものだからつい、何か考え事でも?」
「いえ、あまり人に注目されるのが慣れてなくて、それで疲れたんだと思います。おもに心労で」
「それは大変だったわね」
人に注目された事の原因の一旦は陸乃も担っているわけだが彩子はその事には口をつぐみ睨むだけにする。
「それで帰るんでしょう?見たところ光蛇さんがいないみたいだけどほっといても良いのかしら?」
「光蛇なら放課後のスポーツ活動に早速申し込んでくるって張り切って行っちゃいました。」
「あら、そうなの」
〈スポーツ活動部〉・・・この学校、門絆学園独特な制度である。龍力を持ったものは人よりも力や感覚などが優れている。それにより正式なスポーツの試合に出ることが禁止されている。それでも体を動かしたいと思う者やスポーツを楽しみたいと思う者も存在はする。そんな者達のために設立された組織が、スポーツ活動部である。
「元気ね。自分の道を進んだり、そもそも学校の防衛者学の授業で手一杯って人も多いのに」
「私もそうは思ったんですけど、でも光蛇はスタミナお化けですから。それに申請したにしても参加は自由だし、無茶はしないって思うので…」
「ふーん、ずいぶんと信頼してるのね」
「そ、そんなんじゃないよ。…そういえば」
彩子は周りを見回すがどこにも焔の姿が見当たらない。
「焔君はどうしたの?もしかして焔君もスポーツ活動?」
「いえ…焔は自分の道を進むのに精一杯なだけよ」
「自分の道?」
彩子は陸乃の言う意味が分からずに頭にクエスチョンマークが浮かんでしまう。
「ふふっ、焔の道覗いてみる?」
「ふぇ!?い、いや大丈夫!」
「あら、そう?……まぁそれもそうね。ごめんなさい余計なお節介だったかしら」
「え!?いや、そういう意味じゃなくて」
「?じゃあどういう」
「…陸乃ちゃん……好きなんでしょ?焔君のこと」
「なっ!?」
「そんな人の秘密を私なんかと共有しちゃって良いのかなって…ってどうしたの陸乃ちゃん」
気づけば陸乃の顔は赤くなっていた。
「その、いつから…気づいてたの?」
「え?えっと肩を組まれてたときに乙女な顔をしてたからそうなのかなって…もしかして違った?」
「…いえ、そうなんだけど……そんなにわかりやすいかしら」
「い、いや隣で見てた感じ光蛇は気づいてなかったみたいだし、焔君も意識してる感じは」
「はぅ!」
陸乃が見てすぐわかる感じにズーンと落ち込んでいく。
「えぇぇ!?どうしたの!?」
「いえ、分かっていたこととはいえ人にそうハッキリと言われると心に来るものが」
「あ、あぁ…なるほど」
「…ハァ、さてともうそろそろ移動しないかしら?じゃないとこの話題が続けば私の心がチクチクと突かれていく気しかしないから」
「あっ、うん…分かった」
二人は少ない荷物をかばんに詰めると陸乃が教室のドアに手をかける。そしていざ開けようとしたその時だった。
「あっ、そうそうふと気になったことなのですけど」
「ん?どうしたの陸乃ちゃん」
「彩子さん、自分に自信がないのですか?」
「!?」
「たった1回だけですけどもさっき『自分なんかが』って言ったでしょう?声のトーン的にただ二人の秘密に割って入るのに遠慮している人の声のトーンでは無かったものですから、もしかしたらって思っただけなのだけど…その様子は当たりかしら?」
「…アハハそんなわけ無いじゃん。それに陸乃ちゃんも知ってるでしょ?龍力は」
「えぇそうね、自分の精神状態に影響する。精神が大きく乱れれば固有の龍力どころか共通して見られる大きな力や感覚も一般的なものに戻ってしまう。今では小学生でもきちんと勉強を受けていれば知っている一般知識ね」
「そうだよ、そんな龍力を専門的に扱うこの防衛者の学校に自分に自信が無い人が入ったって龍力が乱れに乱れて、ついて行けなくなるのは目に見えてるじゃない。そんなことする人なんて」
「ただの無謀者か、強がりか、それとも死にたがりか……まぁどれをとっても普通じゃないわね」
「そうだよ〜、私がそんな命知らずに見える?」
「…まぁいいわ。さてとそれじゃあ行きましょう?」
「うん」
そうして2人は教室を後にする。だがさっきの話もあってかどうかはわからないが2人とも話の切り口が見つからない。そんなこんなしているうちに下駄箱を過ぎて校門をくぐる。
「彩子さん?彩子さんはどちらの方向なのですか?」
「え?…あぁ!あっちの方向だよ」
「そう、それではここでまた明日ですね」
「あ、うん分かったよ。じゃあ、また明日ね」
お互いにそう言い合い別れる。だが彩子はすぐには歩き出せず陸乃が見えなくなり1人になって彩子はようやく歩き出す。
「〜♪」
1人になったおかげか、心が軽くなりつい好きな歌のメロディーを口ずさんでしまう。
「〜♪」
その内に足取りも軽くなってくる。が、
(ーーー)
「ーッ ーッ ッハァハァ」
「彩子さん!?大丈夫!?」
「ハァハァ…陸乃……ちゃん?どうしてここに?」
「はぁ、本気で忘れてたのね。学園に通う生徒は皆寮住まいって」
「え……あっ!」
頭から抜けていた恥ずかしさからか彩子の顔がだんだんと赤くなっていく。
「じゃ、じゃあなんであんな嘘を!?」
「嘘?あぁ、私はただ『ここでまた明日ね』って言っただけよ。ちょっと買う物があったものですから」
「うっ…じゃ、じゃあなんであんなかま掛けを?」
「買い物が早く終われば1人のときのあなたを見たかったものですから」
「1人のときの私を?」
「えぇ、おかげで歌が好きそうだって事が分かった」
「…本当にそうなのかな?」
「あら?あんなに楽しそうに歌っていて。何か迷いでも、もしかしてそれは途中で歌が途切れたことと何か関係が」
「……陸乃ちゃんよく周りから突っ込みすぎって言われない?」
「距離は図るほうよ?あなたの事はこれぐらい突っ込んでも大丈夫な友人として見ているだけよ」
「…そっか、えっとね私ちょっとしたトラウマ持ちなの」
「…それについては聞いても?」
「ごめん詳しくは聞かないで。あまり思い出したくないから」
「…わかったわ」
「それで歌を歌うとねその時の事をなぜか思い出しちゃうの。」
「…それは歌を歌うことを貶された……とかそういうことではなさそうね」
「うん、全く関係ないのそのトラウマってのは、私が龍力を宿した日のことなの」
「……え?だって龍力って」
「そういえば言ってなかったね、私の龍力について。私の龍力はクルペッコ…そして今現在において唯一の後天的に龍力を宿した人間だよ。これが私が龍力について言い渋ってた理由だよ。」
「…そう、ありがとう。言うの辛かったでしょう?」
「うぅん、まぁまだ上手く扱えないだけだから。気にしないで」
「そう…ならこれからもいつも通り、それでいいかしら?」
「うん、その方がいいな。あっでもこの事は」
「分かっているわ。皆には秘密にするわ」
「ありがとうね、陸乃ちゃん」
「フフッ、でもそれだけ悩めるのならきっと好きなのよ、歌」
「そうなのかな、そうだといいんだけど」
「さてとそれじゃあ行きましょうか寮へ」
「あっ、うん」
そうして2人は寮へ向かうのだった。
初めの週は身体測定や学力テストなどで過ぎていき、翌週からついに授業が始まった。門絆学園には一般的な科目の他に学園独自の科目として週に2回〈防衛者学〉が実施されている。主な内容としては龍力の強化、制御や将来防衛者として進むにあたって基礎的な知識を学んでいく科目である。
「はぁ〜」
「彩子さん、いくらため息をついたところで現実は変わりませんよ」
しかし一般的に龍力というものは一握りの例外を除き時を経ると共に強化、制御されていくものである。そのため新米龍力使いの彩子は気が重い、というわけである。
「まぁ彩子ならすぐにどうにか出来るさ。なんてったって俺の妹なんだからな!」
「ふーん、よっぽど信頼してるんだな?」
彩子が陸乃と話している間に光蛇と焔が割って入ってくる。
「そりゃ家族だからな。誰もそいつのことを信じなくても家族だけは信じてやる必要があるんだよ」
「……」
彩子は光蛇の事を責めるような視線で見つめる。
「なんだよ、彩子?」
「私が進んであの事話そうとしてないの知ってるくせに」
「ん?あぁ…あぁぁそういうことか」
「焔?この事は」
「ん?え、この感じもしかして本当に彩子って」
「多分想像どおりだよ」
「あぁ、なるほどな。分かったよと言っても先生達には伝わってるんだろ?だったら」
「それでも知っている人を少なくして余計なトラブルが避けられるならそれに越したことはないから」
「そうですね、私もそう思うわ」
「と言う訳で光蛇は反省して」
「ぐぇぇ、そこをなんとか頼むよ〜」
「光蛇は口が軽いから信用が無いんだよ」
「さっきの俺の言葉を思い出せよ!誰も信じなくたって家族である彩子は信じようぜ」
「……それとは別に家族が人が嫌がる事をやったら叱ってやるのも家族の役目だと思うの」
「うっ!?」
「これは勝負ありですかね」
「そうみたいだな。さてじゃあ授業だ授業だ!グラウンド行こうぜ!」
「ちょ、焔待ちなさい」
そう言って走る焔を止めに走る陸乃という図で2人は教室を後にし、教室に残っているのは彩子と光蛇の2人になった。
「それじゃあ光蛇早く行こ?」
「あ、あぁ…彩子」
「どうしたの?」
「その、悪かったな。陸乃が知ってるから2人には話したのかと思って、ついな」
「あぁその事?もういいよ過ぎたことなんだし」
「でもお前に嫌な思いをさせただろ?だから一応な」
「もう、心配性なんだから。じゃあ私からのお願い、私が困っていたらそのときはいつでも助けてくれる?」
「おう!いつだろうが死ぬ気で助けてやるぜ!」
「もう、死ぬ気は言い過ぎだけど…じゃあこの話は終わり!ほら、授業がもう始まっちゃうよ!早く行こ!」
「お、おう!って引っ張るなよ!?」
「じゃないと授業遅刻しちゃうでしょ!」
「だァァ!分かったから!」
そう言って2人は教室を後にしたのだった。