理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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写真の行方(前編)

 バリアを張って海の中を進みながら、文明の跡地を眺める。

 俺は今日、ちょっとした散歩代わりに斎藤丸太……じゃなくてサイトナルタ帝国の跡地を徘徊していた。

 千年以上も海中に没しているだけあって金属は錆だらけ、建物はどれもボロボロに壊れているがこういうのは見ているだけでも楽しいものだ。

 何でこんな事をしているのかと言えば、魔物がいなくなった事で魔物相手の無双プレイも出来なくなり、代わりの趣味を見付ける必要があったからだ。

 なので最近は遺跡巡りを趣味にしている。

 後は、これだけ発達した文明なんだし探せば何か面白い物が見付かるんじゃないかという期待もあった。

 そんな割と軽い気持ちで遺跡を巡り、目に付いた博物館のような場所に入る。そこには車の模型などがガラスケースに入れられた状態で残っていた。

 ガラスケースといっても全部割れていて、中の模型もボロボロだが原形を留めている物もいくつかあるので持ち帰って錆を落とせば部屋の飾りになるかもしれない。

 それから奥には金属の箱が一つ。開けようと思ったが、しっかり閉じられている上に錆だらけでとても開けられたものじゃない。

 まあ、俺なら魔法で箱を壊す事も出来るし持ち帰って地上で開けてみるか。

 中身はゴミかもしれないが、ゴミだったらその時はその時で外れを引いた事を楽しめばいい。

 そう考えて今日の遺跡探索を切り上げて地上に戻り、箱の端っこを魔法で生み出した光の剣でぶった斬ってやった。

 そして箱を振って中身を吐き出させる。結果、出てきたのは……。

 

「……カメラ?」

 

 それはカメラらしき物体であった。保存状態は驚くほどよく、多分この箱そのものに何らかの魔法が使われていたのだろう。

 地球と繋がっていた空間の穴もサイトナルタ帝国が空けたって話だし、多分空間に作用する魔法でちょっとした封印状態にしていたのかもしれない。

 当時の写真なんかは何もなかったが、こんなに厳重に保管されているって事は多分、相当貴重な品だったのだろう。

 とはいえ、もしかしたらカメラのような見た目の未知の武器とか、身体に害を及ぼす道具の可能性もあるから、一応試してみるか。

 最悪、爆発とかしてもバリアを常時展開してる俺なら被害は受けない。

 で、色々試した結果……うん、普通にカメラだな。

 銃弾が飛び出るわけでも爆発するわけでも、有害成分を出すわけでもない。ただのカメラだ。

 試しに海辺を撮影してみたり、鳥を撮影してみたり、魔法で創ったゴーレムに撮影を任せて自撮りしてみたりとやってみたが、よく考えたら現像のやり方なんか俺は知らない事に気付いた。

 何か色々器具にセットして、部屋を暗くして、液に浸して、みたいなのは動画で見た事あるんだけど肝心の『その工程が何の為に必要なのか』を一切理解せずぼけーっと見ていただけなので全くやり方が分からない。

 しかもフィルム切れでもう撮影出来ない。これは完全にやってしまった。

 どうするんだ、これ……貴重なフィルムをいきなり使い切ってしかも現像出来ませんとか我ながらアホすぎる。

 ちなみにフィルムが何で出来ているかすら俺は知らない。

 ハロゲン化銀とかいうものの名前は聞いた事があるが、それくらいだな。

 手元にスマホでもあればこの場で調べる事も出来るんだが、そんな便利なものはないしな。

 浅学? うっせ。スマホ封じられた状況でいきなり『フィルムが何で出来ているかこの場で答えて下さい』と言われて答えられる奴の方が少ないだろ。

 ならせめて、手を付けずに賢い学者とかに丸投げしておけよって? ……ご尤もだな!

 などと心の中で自問自答をしても状況は何も変わらない。完全に後の祭りである。

 

「…………ま、いいか」

 

 やっちまったもんはしゃーない。

 幸いカメラそのものはほぼ千年前そのままの形で残ってるし、これだけでも貴重な資料になるだろう。

 ――なんて思っていたのだが、救済は意外な所にあった。

 森に帰ると、俺の持っているカメラを見てサル共(守人)がやけに反応していたので貸してやった結果、何と写真を現像してくれた。

 しかもネガには当時の映像も残っていたようで、魔女に破壊される前と思われる文明的な街並みと、そこに暮らす人々の姿があった。

 これには俺もびっくりである。このサル共(守人)、文明なんて捨てましたみたいな顔してるくせに何で写真現像出来るんや。

 ただまあ、よく考えたらこいつ等何故か汽車も動かせるし……真面目に考えたら負けなのかもしれない。

 ともかくこれは千年前の貴重な資料であり、同時に俺が持っていても何の意味もない物だ。

 なので城から兵士が定期連絡に来た時に、アイズのおっさんに届けてくれるように押し付けておいた。

 

 ……その数日後、輸送途中で盗賊の襲撃を受けて一部を盗まれたという報告が入って来た。

 え? マ?

 

 

 俺がビルベリ王国の王城に行くと、既に主要な人物はほぼ集まっていた。

 アイズのおっさんに、聖女教会の総大司教、騎士が数人。国内有数の貴族が数人と何故か変態クソ眼鏡。それからたまたま一時的に修行を切り上げて休暇に来ていたベルネル。

 前よりも更にガッシリしている気がする。

 こいつ見る度に逞しくなるな……。

 

「エルリーゼ様、申し訳ありません……折角エルリーゼ様が提供して下さった貴重な千年前の資料を……」

 

 アイズのおっさんはかなりへこんでいるが……彼の前に置かれたテーブルには、カメラが無傷で残っていた。

 あれ? カメラあるやん。じゃあ取られたのは写真だけか?

 でもカメラの横には写真もしっかり何枚か置かれている。

 

「幸いにしてこの……カメラ、なる物は無事です。しかし輸送していた兵士が言うには、一緒に渡されていた精巧な絵画が何枚か盗まれてしまったようです」

「なるほど。確認させてもらいますね」

 

 俺は一言断りを入れ、写真を手に取った。

 何盗られたんやろ? 千年前の町の写真とか持ってかれてるとちょっと痛い。

 あれは代わりがないからな。

 と思ったが、千年前の写真は全て無事だった。

 あれ? 何や、大事な物全部無事やん。輸送していたという兵士君、ぐう有能。

 

「あ、大丈夫です。貴重な物は全て無事ですよ」

「ほ、本当ですか?」

「はい。カメラ本体に千年前の写真。どちらも残っています」

「それはよかった……しかし、それなら盗賊が盗んだ物は一体……」

「ああ、それでしたら、私が試しに色々な物を写したので、それを持っていかれたのでしょう」

 

 俺がそう言うと、その場の全員があからさまにほっとした。

 運がよかった、としか言えないだろう。

 貴重な資料は全て無事で、盗られたのはただの風景写真だけだ。

 

「それは何よりです。その精巧な絵画自体も十分な価値があると思えば痛手には違いないですが、そこまで騒ぐほどのものでもない、と。ところでその絵画には何が描かれていたのですか?」

「ええと、確か……海と、砂浜と……近くを飛んでいた鳥と……」

 

 俺が記憶を思い返しながら写真の内容を話すと、安心したような空気が流れる。

 本当に盗まれたのがどれも、そこまで大したものではなかったと知って安堵しているようだ。

 他に何か撮ったっけな。確か最後に……そうそう、最後にゴーレムに持たせて確か……。

 

「あ。それと私を写したのもありましたね」

 

 

 ――瞬間、その場の全員の雰囲気が変わった……気がした。




皆様こんばんは。お久しぶりです。
壁首領大公です。

おかげさまで偽聖女第三巻が2022年6月10日に発売決定となりました!
詳しい事は前と同じくカクヨムの活動報告などで行いますので、気が向いたら覗いてみて下さい。
今回も初回特典に加えて以下の店舗で特典SSがあります。

・ゲーマーズ様
・メロンブックス様
・BOOK☆WALKER様

後編の更新は発売日の6/10になります。
それではまた、発売日にお会いしましょう。

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