理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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今回も滅茶苦茶短いです。
まあ、前回同様に4コマとかと同じ感覚で見て頂ければ、と。


小話・新入生歓迎の挨拶

 騎士を志す者にとっての夢の登竜門、その名を『アルフレア魔法騎士育成機関』――通称魔法騎士学園。

 初代聖女アルフレアの名を冠したその学園は今日、新たな門出を迎えようとしていた。

 学園に入る為の厳しい試験を乗り越え、狭い門を潜ってきた未来の騎士候補生達。その前で壇上に立つのは、学園の名の由来となった初代聖女アルフレアその人であった。

 去年までは、新入生の前で演説を行っていたのは歴代最高の聖女エルリーゼであったが、王都での『魔女』との決戦を経て現役を引退し、今はどこかで隠居生活を送っているという。

 その後を引き継いで現役聖女となったのが、初代聖女アルフレアであった。

 

 騎士の役割はこれから、大きく変わっていく事になる。

 倒すべき魔女も、その裏にいた真の敵であった『魔女』も、もういない。

 ならば聖女の役割も変わり、これからの聖女は主に平和の象徴として戦いとは無縁の日々を送る事になる。

 ならば聖女を守る騎士も以前ほど必要ではなくなり、これからの騎士は聖女ではなく国や民を守るのが主な役割となるはずだ。

 そんな新時代を担う騎士候補生達の前で、アルフレアが演説を始めた。

 

「新入生の皆様、よくぞ厳しい試験を越えました。魔法騎士育成機関は貴方達を歓迎いたします」

 

 アルフレアが微笑みながら、歓迎の言葉を綴る。

 それから謎の静寂が訪れ、何故か次の言葉を話さない。

 あれ? と生徒達は思った。

 どうしたのだろう。ここから、こう、これからの騎士に求められるものとか騎士の心構えとか、激励の言葉とか、そういうのがあるはずではないのか?

 アルフレアは微笑んだまま硬直し、チラチラと横を見ている。

 それからようやく、次の台詞へと入った。

 

「……え、えっと……魔女、そして魔物という脅威が去った今、聖女と騎士の在り方は大きく変わります。これから先、騎士に求められる役割は抑止力です。抑止力というのはつまり……」

 

 そして、ここでまた言葉が止まった。

 一体何が起こっているのか……その答えは簡単。

 『挨拶の言葉を忘れてしまった』、それだけである。

 ここに来る前にしっかり記憶したつもりだったのだが、完全に覚えたつもりでもいざ話す段階になると案外「あれ?」となってしまうものだ。

 人というのは肝心な場面で肝心な事をド忘れしてしまう生き物なのである。

 だったら紙にでも書いておけという話だし、実際近衛騎士レックスは最初、そうしようとした。

 だがここで悲劇が起こったのだ。

 ――アルフレアが、この国の文字を読めなかったのだ。

 何せ彼女は千年前の人間で、元々の出身地もビルベリ王国ではない。というか千年前はビルベリ王国なんて国自体なかった。

 加えて彼女は高度な教育を受けている現代の聖女と違う。

 なので丸暗記するしか道はなく、アルフレアもそれで十分と自信満々に挑んだのだが……見事に、新入生歓迎の口上をド忘れしてしまっていた。

 

「……その、つまり抑止力というのは抑止力なわけで……だから、それをこれから担う皆様はとても凄いという事で……具体的に何に対しての抑止力なのかというと……ええと、魔物……あ、もういないんだっけ……えと、つまり……」

 

 すっかりグダグダになってしまった演説に、壇上横で控えていた近衛騎士レックスは手で顔を覆った。

 ちなみに騎士の担う抑止力というのは、野盗を始めとする悪人達は勿論、その最大の対象は国である。

 共通の敵がいなくなった平和な世の中では、遅かれ早かれ人類同士による戦争が始まる。

 だからこそ、それを防ぐために各国の王よりも上の存在として平和の象徴である聖女を残し、暴走した国をいざという時に止める為の抑止力として期待されているのが騎士なのだ。

 まだ手探りの段階ではあるし、エルリーゼが生きている間は彼女の存在が抑止力となるから暴走する国はそうそう出ない。

 だからこそ、エルリーゼが健在なうちに後世の為に平和な世の中を維持する為の基盤を作っておくのが今の世代の役目なのだ。

 なのだが……アルフレアは上手くそれを説明出来ずに、壇上でわたわたしていた。

 

「ねえレックスゥゥゥ! この後の口上何!? どうすればいいの!? 忘れちゃったんだけどお!!」

 

 とうとう半泣きになり、レックスに助けを求めた所でレックスが壇上横から飛び出し、説明を引き継いだ。

 人には得手不得手がある。アルフレアはこういう形式ばった挨拶が苦手だった……ただ、それだけなのだ。

 その光景を見ながら騎士候補生達は思った。

 ああ……聖女って言っても同じ人間なんだなあ、と。




皆様こんばんは。壁首領代行です。
本日、ついに最終巻である第4巻が発売となりました!
まずはこれで、一つのゴールを迎える事が出来たと言っても過言ではないでしょう。
皆様、これまでありがとうございました。
そして、偽聖女の書籍版は完結となりますが、コミック版は始まったばかりです。
なのでこれからも、偽聖女をよろしくお願いいたします。

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