理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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いよいよ明日!


サプリ・メントは探求する②

 サプリは眼鏡を指先で持ち上げ、心から湧き上がる興奮を抑え込む。

 昔の聖女について調べている最中に、まさかのサプライズだ。

 ここはつい最近まで魔物の勢力圏だった場所であり、まだ誰も調査していない場所だった。

 つまり今回の騎士団の派遣が初であり、それ以前に人が立ち入っているはずがない。

 一体いつからここが人類の生存圏でなくなったのかは分からないが、下手をすれば聖女トルッファが最後に目撃されて以降、ずっと人が立ち入れなかった可能性もある。

 そんな場所で、誰かが魔法を用いてこちらを攻撃している。

 誰もいないはずの場所にいる『誰か』……これが興味をそそられないはずがない。

 一体何故ここにいる? 何故攻撃をしてくる? 分からない。

 分からないというのは、サプリのような研究者にとって不快なものであると同時に楽しいものだ。

 自分に分からないものがあるというのは、実に不快だ。何としても暴き尽くしたくなる。

 そして、分からないものが分かるのは堪らない快感であった。

 

「さて、さて……人がいるはずのない館で、我々に向けられた魔法。それもかなりの腕前のようだ。これだけの量の植物を同時に操るとは、素晴らしい」

「感心している場合ですか!」

 

 伸びて来る蔓をフィンレーが叩き切り、余裕そうに観察しているサプリを怒鳴りつける。

 騎士達は円陣を組んで植物を迎撃しているが、何せ相手は館中に根を張った植物だ。いくら切ってもキリがない。

 それどころか、この館があるのは森の中……操る植物など無数にある。

 つまりこのままではジリ貧だ。いずれこちらの体力が尽きるのは目に見えている。

 しかしサプリは、そんな状況にもかかわらず、全く焦っていない。

 

「落ち着き給え、フィンレー君。これは所詮、魔法による攻撃だ。そして土属性……植物を操る魔法ならば、エルリーゼ様の御業には到底及ばないが、私もそれなりに得意としている」

 

 サプリは目を細め、指揮者が演奏を奏でるように両手を動かした。

 すると彼等を襲っていた植物達が一斉に動きを止める。

 目には目を。魔法には魔法を。

 相手が魔法で植物を操るというのならば、こちらも同じ事をして支配権を奪えばいい。

 こうなれば後は魔力対決であり、どちらがより強く魔力を込めて植物に命令を出せるかだ。

 そしてサプリは、以前エルリーゼが一度命を落とした時に、どうにかして彼女を蘇生出来ないかを考え、エルリーゼが王都防衛戦で見せた蘇生の奇跡を使う事を考えた。

 その為にエルリーゼの領域へ近付く必要があると考えたサプリは魔力を循環させ、自我を塗り潰すほどの負の感情の流入はエルリーゼへの愛で耐え、その果てに巨大ゴーレムを生成して操るほどの……聖女に匹敵するだけの魔力を獲得するに至っている。

 結局、エルリーゼは人々の声に応えて自力で蘇生するという奇跡を成し遂げた為、サプリの努力は何の意味もなかったのだが、それでも一度獲得した魔力はそのままだ。

 故に、今のサプリを相手にした魔力対決となれば、エテルナやアルフレアであっても勝利は難しい。

 人の領域から片脚が出るほどの莫大な魔力を用い、サプリはこの館にある全ての植物の支配権を奪い取ったのだ。

 

「これで脅威は無力化した。後はじっくりと敵の正体を探るだけだ」

「……流石です。普段からそうしていれば、もっと皆に尊敬されるのでは?」

「失敬な。私が普段、おかしいようではないか」

「おかしいんですよ。聞けば最近、教科書に書かれたエルリーゼ様の言葉が一文字間違えていたというだけで生徒全員の教科書を取り上げて全て修正したそうじゃないですか」

「当然の事をしたまでだが? それと、あの本を作った工場にも抗議文を三百二十六枚送っておいた」

「……これさえなければ」

 

 サプリはエルリーゼさえ絡まなければ、ちょっと怪しくて性格が悪いだけの有能な男である。

 しかしエルリーゼが絡むと、途端にただの厄介な変態と化す。

 そしてこの世界は大抵の事にエルリーゼが絡んでいるので、つまりサプリは大体いつも、厄介な変態である。

 呆れて溜息を吐くフィンレーを他所に、サプリは館の奥へゴーレムを進ませ、騎士達も円陣を解いて前進を開始した。

 ――その直後。突如活動を再開した蔓が、騎士を数人捕まえてしまった。

 

「何だと!? 馬鹿な!」

 

 サプリが目を見開き、驚愕した。

 この場の植物は今も、サプリの魔法の支配下にある。

 ならば魔力対決でサプリを上回らない限り、植物を動かす事は出来ない。

 しかしそれが動いた。つまり、この植物を動かしている『敵』の魔力は、サプリを超えているという事になってしまう。

 サプリはすぐに蔓に手を向けて魔力を強めるが、それでも動きが鈍るだけで止めるまでは至らない。

 

「まさか、私の支配力を上回るとでも言うのか……?」

「今の先生を上回るなど……敵の魔力はエルリーゼ様に匹敵するとでも!?」

「それはない。そのレベルならば、今頃は森全てが襲い掛かってきている」

 

 サプリは汗を流しながら、この状況を打開する方法を考える。

 と言っても、実の所考える必要などない。やる事は至ってシンプルだ。

 

「フィンレー君、少々危険だがこのまま館の奥へ行くぞ」

「術者を仕留めるのですね」

「そうだ。不可解だが、私ではこの植物を完全に止める事は出来ない。ならば術者を叩くのが一番簡単だ」

 

 後は、あえて外に退避してから館に火を放つという方法もあるが、サプリはあえてそれを口にしなかった。

 この館自体が貴重な過去の資料であり、そして書斎には本もある。

 それを焼いてしまうなんて、とんでもない!

 

「途中まで植物は動かなかった。しかし捕まってしまったあの騎士がこの部屋に入ってから動き出した。それはつまり、これ以上進まれたら困るという事」

「ならば、敵はこの奥に! 行くぞ皆! 進め!」

 

 サプリの助言をすぐに理解したフィンレーは、迷わず騎士達へ突撃命令を下す。

 騎士達も一切の迷いなく円陣を崩し、合図もなくこの場に最も適した陣形へ変化した。

 先頭の騎士が道を切り拓き、その騎士を援護するように左右を固めた騎士が襲い来る植物を切り払う。

 他の騎士は棘付きの盾を持ち、右側の兵士達は右に盾を。左側の兵士達は左側に盾を構える。

 そうして左右をガッチリガードし、左右の盾に守られる形でサプリを守る。

 そして一本の槍と化した彼等は、全く同じ速度で前進した。

 これは本来、敵に囲まれた時に聖女を守りながら突破する為の陣形である。

 中央に置いた聖女に決して敵を近付かせず、周囲全てを囲まれた絶望的状況であっても聖女を生還させる為の鋼の槍。

 いかなる死地であっても、己が身を盾とし聖女を守り抜く。その『覚悟』の陣形なのだ!

 ……尚、エルリーゼが聖女になってからこの陣形が日の目を見た事は……一度もない。

 何故ならこんな陣形でエルリーゼの周囲を塞いでも邪魔にしかならないからだ。

 そして今彼等が守っているのは守るはずの聖女ではなく、変態クソ眼鏡であった。

 その哀れさを嘲笑ったのかどうかは分からないが、床には草が生えていた。

 

 騎士達が前進し続け、誰かが植物の攻撃で倒れてもすぐに別の騎士がその穴を埋める。

 倒れた仲間の救助はない。手を差し伸べる事もない。

 敵陣の中でそんな事をして動きを止めれば、その間に聖女が危機に晒される。

 だから騎士は、時には仲間を目の前で見殺しにする事、あるいは見殺しにされる事も覚悟しなければならない。

 たとえ自分達がどうなろうと、聖女さえ守り切ればそれは彼等の勝利なのだ。

 故に彼等は止まらない。死ぬ事すらも自分達の仕事と割り切り、前進を続ける。

 これこそが聖女の盾である騎士の矜持! 騎士の覚悟!

 ……尚、実際はエルリーゼが敵を纏めて駆逐してしまう上に、倒れた兵士も普通にエルリーゼが助けてしまっていたので騎士の面目は割と丸潰れであった。

 しかも今守っているのは変態クソ眼鏡である。騎士達はもう泣きたかった。

 それと余談だが、脱落した騎士は別に死んでいない。ただ、植物にどこかへ連れ去られているだけである。

 ともかく、そんな辛い思いをしながら彼等は遂に館の最奥へ辿り着いた。

 これ、入り口からわざわざここに来るより、外に出て後ろの壁壊して入った方が早かったんじゃね? とか言ってはいけない。外だって植物だらけなのだ。

 

「先生! 敵は!」

「あそこだ。見ろ、あの一面は特に守りが固い。あの中に術者がいる。フィンレー君、やれるか?」

「任された!」

 

 一番奥の部屋……の、中央。

 そこに蔓が大量に巻き付き、中の『何か』を厳重に守っている。

 きっとあそこに術者がいる。

 そう判断したサプリの指示に応え、フィンレーが魔法を使う。

 彼が得意とするのは氷属性と風属性。

 氷の魔法で五本の氷剣を生み出し、両手に持った剣と合わせて七本。

 そして氷剣を風の魔法で、まるで腕が五本あるように自在に操る事で実現する、七刀流!

 厳しい訓練を乗り越えた者のみがなれる戦闘集団『騎士』。その戦力は単騎で並の兵士三十人から五十人に匹敵すると言われる。

 その中でも、聖女の側に在る事が許された数人の選ばれし者のみが『近衛騎士』と名乗る事を許される。

 その名は決して伊達ではない。フィンレーはこの魔法によって、一人で騎士七人に相当すると呼ばれるほどの超人なのだ。

 即ちフィンレー一人で、兵士三百五十人分。一人で軍……は流石に言いすぎだが、部隊一つに匹敵する程の実力者である。

 

「はあああああ!」

 

 フィンレーが凄まじい速度で剣を振るい、次々と植物を切り裂いていく。

 切断された箇所は凍結して動きを封じ、更に一振りごとに冷気を発して部屋全体も凍結していく。

 ついでに仲間の騎士もちょっと凍結していく。

 残像すら残す速度で七本の剣が舞い、それらが同士討ちする事なく統制の取れた動きで敵を蹂躙する。

 まさに絶技、まさに超人。その戦いぶりはいっそ、凄まじいを通り越して美しいほどである。

 

 ……尚、余談だが。

 フィンレーのこの技は、炎を得意とするレイラ・スコットとの相性は最悪であり、彼女の剣が発する熱気に近付くだけで氷の剣は溶けてしまう上に純粋な剣技で太刀打ち出来ないのでフィンレーはレイラに一度も勝てた事がない。

 そしてついでのように、フィンレーの真似をしたエルリーゼは一万本の氷の剣を操ってみせ、フィンレーは己の小ささを知った。

 しかし……あれらは規格外……! 片方はそもそも比較対象にしてはいけない存在!

 近衛騎士は決して弱くない……弱くないのだ!!

 

 過去を思い出してしまったフィンレーの涙の剣舞によって植物の大半が裂かれ、遂に術者の姿が見えた。

 蔓に覆われているのは、壊れてはいるが豪華な椅子。

 そして、そこに座る襤褸を着た人影。

 サプリはフィンレーの切り拓いた道を駆け抜け、遂に術者を掴んだ。

 

「捉えたぞ! さあ、その姿……拝ませてもらおうか!」

 

 勝利を確信した笑みを浮かべ、サプリはまるで抵抗しない術者の襤褸を思い切り引っ張った。

 いとも容易く剥がれる襤褸。サプリはこの時、あまりに軽すぎる手応えに違和感を抱いた。

 おかしい……人の重さじゃない。

 襤褸を剥がれた人影は何の抵抗もなく崩れ……そして、サプリの足元に転がった。

 

 ――それは……白骨化した死体であった。

 

「なっ……何いいィィーーー!?」

 

 サプリの驚愕の声が響き、それと同時に植物が怒り狂ったようにサプリに殺到した。




Q、何かサプリ本編とキャラ違くね?
A、今回はエルリーゼが関わってないからやで。
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