理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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彼女が赤色を嫌いになった理由

 ――日本のとあるスーパーにて。

 

 その日、夜元玉亀は数日分の食材を纏め買いするべく近所の業務用スーパーに買い物に来ていた。

 慣れた手つきで必要なものを買い物カゴに入れていき、その最中にある商品を見て手を止めた。

 それは冷凍用のイチゴで、沢山入って値段は三百円未満というお買得商品だ。

 それを見て思い出すのは、フィオーリでプロフェータと呼ばれていた頃に散々手を焼かされた困った奴……初代聖女アルフレアの顔であった。

 冷凍イチゴをカゴに入れながら、思う。

 そういやあいつ、まだ赤い色が嫌いなままなのかね……と。

 

 

 夜元――プロフェータの主観で千年以上昔の事だ。

 魔女イヴを倒す為に旅を続ける聖女アルフレアは、現代の聖女と違って人々から祝福される立場ではなかった。

 初代であるが故に聖女という存在自体が認知されていなかったこの時代は、『もう一人の魔女』くらいにしか思われていなかったのだ。

 当然、大っぴらに人の町に近付く事も出来ず、食料の確保にも難儀する日々……顔の割れていない仲間や、時にはアルフレア自身が変装をして町に入り、隠れるように食料を調達していたが、それでもバレる時はバレる。

 その為、長期間まともに食料が確保出来ない事も珍しくなかった。

 そんなアルフレア達にとって大きな助けとなったのが、野生の獣や、当時はそこらに生えていた赤くて甘いベリーだ。

 アルフレア達は獣を狩ってその肉を干し肉にし、ベリーは魔法で冷凍する事で保存食とした。

 この保存食は旅の大きな助けとなり、特にベリーは不足しがちなビタミン(当時の彼女達にそんな知識はなかったが)の補給に大いに貢献し、甘味は辛い長旅のストレスも軽減させた。

 しかし、頭を悩ませる問題があった。このベリーを巡って度々問題が起こっていたのだ。

 

 ある日の事だ。

 アルフレアの仲間の一人であるゴンザレスが、皆に配分する為の冷凍ベリーを調べると、何故か一つ残らず消えていた。

 

「おい、またベリーが消えてるぞ!」

「何だと! まさか……!」

 

 ゴンザレスの言葉に、全員が咄嗟にアルフレアの方を見た。

 彼女は座り込んだ姿勢で背を向けており、その表情は分からない。

 しばしの沈黙……やがてアルフレアは不機嫌そうな声を出す。

 

「ちょっと……何? 仲間を疑う気?」

「いや、そういうわけでは……」

「しかし……なあ?」

 

 何の証拠もなく仲間を疑うのはよくない事だ。そう、たとえ前科があったとしても。

 世界の人々から祝福されないアルフレア一行にとって、仲間達だけがこの世界で唯一信頼出来る存在だ。

 だからこそ、仲間を疑うようではこの先の旅もやっていけない。

 しかしプロフェータはまるで気にせず、冷たい声をアルフレアにかけた。

 

「アルフレア、こっちを向きな」

「…………」

「ほれ、顔をこっちに向けな。やましい事がないなら出来るだろ?」

 

 プロフェータの言葉に、アルフレアはそっと顔を向けた。

 果たしてそこにあったのは、リスのように頬を膨らませたアルフレアの間抜け面であった。

 それを確認するや、仲間達はアルフレアを取り押さえ、手に持っていたベリーを没収する。

 

「ええい、またか! またなのかお前は!」

「うわああん! ごめんなさいいいいい! だって美味しかったんだもん! 甘かったんだもん!」

 

 言い訳になっていない言い訳をし、アルフレアは泣き喚いた。

 これが、度々起こる問題である。

 アルフレアによるベリーの摘まみ食いが頻発しており、ベリーの消費が凄まじく早いのだ。

 普通に考えてパーティー追放待ったなし案件である。

 それでもギリギリ、かろうじて、瀬戸際でアルフレアが許されているのは彼女がこのパーティーの中核だからだ。

 この一行は、イヴを倒す為にアルフレアを中心として集まった者達であり、イヴを倒せるのはアルフレアしかいない。

 なのでその彼女を追い出してしまえば、残るのはただの烏合の衆。イヴ討伐などアルフレアを追い出した瞬間に不可能となる。

 なので許さざるを得ないのだが、流石にこれは目に余る。

 この問題に頭を抱えた仲間達は、何とかならないかとプロフェータに相談を持ちかけた。

 

「うーん……正直効果があるか分からないけど……じゃあ、ちょっと脅かしてみるかね」

 

 このままでは最悪、ベリーの摘まみ食いが原因でパーティー解散などという間抜けな事態になりかねない。

 そう思ったプロフェータは、呆れながらもアルフレアを何とかしようと行動を起こした。

 

 

 その日の夜、焚火を囲みながら野営をしている時にプロフェータは唐突に、声を低くしながら語り始めた。

 別にそれは珍しい事ではない。

 何せ娯楽と呼べるものが何もないのだ。ならば仲間達同士の会話こそ数少ない癒しであり、誰かが脈絡なく話題を振ったり語り出したりするのは、いつもの事だ。

 

「そういえば皆、知ってるかい? この辺りに出るという『腹裂き怪人』の話を」

「ん? なにそれ? モンスター?」

「いいや、モンスターじゃない。亡霊さ」

 

 きょとんとした顔のアルフレアに、プロフェータは視線を合わせて薄ら笑いを浮かべる。

 その表情は、暗闇の中で火に照らされて不気味さが強調されていた。

 

「貧しい農村に生まれた男がいたんだ。そいつには可愛い妹がいて、妹は真っ赤なベリーが大好物だった」

「あら、私と同じね」

「そうさ。けど兄妹は村から迫害されていた。兄はとても醜くて怪物にしか見えなかったからだ。

それでも兄と妹は力を合わせて生きていたが、ある日妹が病気にかかった。死を前にした妹は好物のベリーを食べたいと兄に願い、兄はベリーを採るべく外に出た」

 

 プロフェータはアルフレアを見る。

 彼女は純粋に話の中の妹を案じるような顔をしており、しっかり話を聞いているようだ。

 アルフレアはアホで考えなしだが、感受性が高く何でも素直に受け止めてしまう。

 その点だけは、彼女の数少ない美点かもしれない。

 

「けど、ベリーは見付からなかった。村の連中が嫌がらせで近場のベリーを全部食べてしまったからだ」

「酷い!」

「結局妹はベリーを食べられないまま死に、兄も妹の後を追って自殺した。

けどこの話はここで終わりじゃない。その一月後……村の若者が、腹を裂かれた状態で死んでいたんだ。更に連日、村人達は死んでいき、全員が腹を裂かれていた」

「えと……全員、死んじゃったの?」

「いや、一人だけ助かった。そいつはベリーが嫌いで、食べていなかった村人だ」

 

 ベリーを食べていない村人。

 そう聞き、アルフレアは自分の手元を見る。

 そこには、好物の赤いベリーがしっかりと握られていた。

 

「生き残りの村人は見てしまった。兄妹への嫌がらせを率先して行っていた友人が、何かに腹を裂かれている瞬間を。それは顔を真っ赤に染めた、自殺したはずの男だったんだ。そいつは『ベリーはどこだ』、『ベリーはどこだ』と呟きながら村人の腹を裂いて、胃の中身を取り出していた」

「ピエ」

「死んでも尚、妹の為にベリーを探し続けてるんだねえ……それ以来、この辺にはベリーを求めてさまよう怪人が現れるようになった……という噂話さ」

 

 語り終えた時、アルフレアは青い顔をしていた。

 そしてそっと、ベリーを皿に戻し、口をつけなかった。

 その姿を見て、プロフェータは無事に自らの企みが成功した事を確信する。

 

 ――勿論、腹裂き怪人の噂話など存在しない。

 

 全てはプロフェータの即興の創作。アルフレアの摘まみ食いを抑える為の作り話だ。

 効果は精々ほんの数日で、しばらくすればアルフレアは忘れてまた摘まみ食いを始めるだろうが、これで少しでもマシになれば、ホラ話を吹いた価値があるというものだ。

 

 

 しかしアルフレアの食い意地はプロフェータの予想を上回った。

 この時代のプロフェータはまだ、後に獲得する未来予知染みた先読み能力を持っていない。

 とはいえ……まさか、たったの二日で効果を失うとは流石に思わなかったのだろう。

 アルフレアは二日前に聞かされた話などすっかり忘れ、ベリーの盗み食いをするべく皆が寝静まった頃にパーティー共用食料を詰め込んだ袋に近付いていく。

 

「あれ?」

 

 袋に近付く途中で、何かを踏みつけた。

 夜中の闇でよく見えないが、感触からしてどうも人のようだ。

 一体何を踏んでいるのだろうと月明りを頼りに、覗き込む。

 

 ――そこにあったのは、真っ赤な顔をした誰かであった。

 

「…………え」

 

 思考が硬直し、石像のように固まるアルフレアの前で倒れていた誰かがゆっくりと起き上がった。

 その誰かはフラフラと歩き、地の底から響くような声で何かを探し求めている。

 

「ベリーはどこだ……ベリーはどこだ……」

「ピエエエエエエ!?」

 

 アルフレアは悲鳴をあげ、驚くべき速度でその場から逃げ出した。

 その悲鳴で仲間達も目を覚まし、何事かと即座に武器を手にして周囲を見渡す。

 そのうちの一人はすぐに逃げるアルフレアを追い、残った者達は顔を真っ赤に染めた誰かを見た。

 恐る恐る松明に火を点け、相手の正体を確認する。

 そしてその正体が分かった時……全員が呆れた顔をして、警戒を霧散させた。

 

「アンタ……ゴンザレスか。なーにやってんだい、そんな顔を真っ赤にして」

「あ、皆……すんません。起こしちまいまして」

 

 ――顔を真っ赤にした怪人の正体は、ゴンザレスであった。

 彼は申し訳なさそうに頭を下げ、手渡された手ぬぐいで顔を拭く。

 

「盗み食いされてないか、冷凍ベリーの数を確認してたんですが、眠くなって顔から突っ込んじまいまして……ほんっとすんません! 折角のベリーを……」

「あー……」

 

 縮こまって謝るゴンザレスを見て、大体の状況を察したプロフェータが、アルフレアの逃げた方向を見た。

 それから少し考え、そう悪くない結果だと結論を出す。

 

「いや、むしろお手柄さね。これならアルフレアも盗み食いしようなんて思わないだろう」

「え?」

 

 

 

 その後、プロフェータの読み通りにアルフレアがベリーの盗み食いをする事はなくなった。

 どうやらベリーの怪人(笑)と遭遇してしまったのが、余程怖かったらしい。

 それはいいのだが……。

 

「ちょっと! 私のお皿に赤い色のものを入れないでって言ったでしょ!」

「あ、ごめん……忘れてた」

 

 ――今度は極度の赤嫌いになってしまい、それはそれで周囲の頭を悩ませたのであった。

 




皆様お久しぶりです、壁首領大公です。
偽聖女コミック版4巻が12月27日発売となります!
次回は発売日にもう一度更新する予定なので、その時に私が予約投稿を忘れていなければまたお会いしましょう。
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