理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第十二話 これからの予定

 おっはよーーーございまーーーす!

 今日もルンルン、皆大嫌い、聳え立つクソの山系偽聖女、エルリーゼちゃんでーっす!

 嫌がる皆に愛情バッキュン☆あなたのハートを撃ち抜いちゃうゾ☆

 

 ヴォエッ!!!

 

 ……やっべ。ノリでやってみたはいいけど、自分でやっててあまりのキモさにリバースしかけたわ……。慣れない事はするもんじゃねえな。

 というか寝起きテンションとはいえ、もうやらない方がいいなこれ。

 万一誰かに見られてたら自殺もんですわ。

 とはいえ、俺の部屋には勿論誰もいない。

 寝る時はいつも部屋にバリア張ってから寝てるので、護衛だろうが俺の就寝中には部屋に入れない。

 勿論完璧に防音もしている。

 何故かって? 決まってるだろ。いくらネカマロールで取り繕おうが中身が俺だぞ。

 そしていくら俺でも寝ている時までは流石に演技なんぞ出来ない。つまり俺自身、自分が寝ている時にどんなだらしない姿をしているかが全く分からないのだ。

 最悪、寝言で『おら、しゃぶれよ』とか『おっぱいおっぱい!』とか言っている可能性もある。

 なので万一そうなっていても誰にも目撃されないようにバリアを最優先で、憑依して数日のうちに完全習得してやった。

 

 まずは鏡確認。魔法で常に髪質肌質その他諸々は最高の状態をキープしているが、五割増しでよく見えるように魔法でナチュラルメイクもどきを施していく。

 具体的には髪が光を反射して通常では少しありえないような輝き方をしたりとか、いわゆる天使の輪を作ったりとか、顔や肌も通常時より心なしか輝いて見えるとか、そんな感じの。

 中身が俺な分、ガワで騙し続けなきゃならんわけだが、そのガワを取り繕うのも楽じゃないのよ。

 聖女ロール続けて十二年目だけど正直面倒くさいし、いつボロが出るか分かったもんじゃないから、さっさとエテルナに聖女の座を返して物語から退場したいってのが本音だ。

 で、欲を言えば誰もいない山奥か森の中なんかで小さいログハウス建てて、そこで自然に囲まれながらダラダラと余生を過ごしたい。

 

 だがそれは先の話。まずは俺の望むハッピーエンドを見る為にも今後の緻密にして完璧な予定を立てよう。

 まず、メインのルート以外だと死ぬヒロイン。これは学園に三人いる。

 そのうちの一人は魔女なので、こいつはどうでもいい。くたばれ。

 問題はそれ以外の二人だ。

 

 まず一人はリナ・トーマスという名のサブヒロイン。貴族の出で、子爵家だった気がする。

 緑のショートヘアをした大人しい子で、眼鏡がチャームポイントだ。

 勿論眼鏡を外すと美少女というお約束はしっかり踏まえている。

 で、この子は病弱で、メインのルート以外だといつの間にかフェードアウトしている。

 メインルートに入る事で病弱である事が明かされ、そして彼女の病気を治す為にベルネルと愉快な仲間達が薬の材料を集めてマンドラゴラやらドラゴンの羽の皮やらグリフォンの毛やらを探す事になるが、どれもクッソ強いので一周目のこの時点だとまず倒せない。

 まあこのイベントは素材を集めるだけで、別に勝たなくていいので一応一周目でも達成できるが。やるには覚悟が必要だ。

 この子をどう生存させるかだが……俺がいりゃ何とかなんじゃね?

 自慢じゃないけど俺の回復魔法ってそこらの薬よりずっと効果が上だし、今まで治せなかった病気もない。

 駄目だったら……そういやこの前、ファラさんと戦った時にドラゴンとグリフォンいたな。材料あれでいいや。薬作れるじゃん。

 よし、こっちは実質解決したようなもんだな。

 

 次にアイナ・フォックスというサブヒロイン。

 赤髪のツインテール娘で元子爵家だ。

 しかし本編時点で彼女の家は潰れており、その原因こそがエルリーゼである。

 彼女の親は横暴を繰り返すエルリーゼに忠言したのだが、それが不興を招く事になり、家を潰されてしまったのだ。

 そしてエルリーゼが色々と手を回し、執拗に粘着質に嫌がらせを続けた結果、両親兄弟全てが死に追い込まれ、知人の家に逃がされていたアイナだけが生き延びる事となってしまった。

 マジでロクな事しないな、エルリーゼ(真)……。

 当然彼女はエルリーゼを恨み、そして暗殺する為に騎士学園へ入学する。

 高い成績を収めて近衛騎士になれば暗殺の機会も訪れると思っての事だ。

 しかしエルリーゼは学園に過度に介入を始め、度々学園に姿を現す事になる。

 それで焦ってしまったんだろうな。彼女は時を待たずにエルリーゼを殺そうと襲い掛かるのだ。

 ちなみにこの時のびびりまくったエルリーゼの豚のような悲鳴は笑わせてもらった。

 結局この襲撃はエルリーゼの護衛であるレイラによって鎮圧されてしまい、彼女はそのままどこかへ連れ去られて、後日処刑された事が明かされる。

 しかしこの一件は後への波紋を生む。

 まずレイラは、自分が襲撃を防いでしまった事で一人の有望な少女を間接的に死なせてしまった事を気に病む。

 更にこの時、アイナの剣はエルリーゼの腕に確かな傷を刻むのだ。

 これによって、決して傷付かないはずの聖女が傷を負ったという事実が残り、エルリーゼが偽物である事が発覚する。

 そこからは連鎖するようにレイラが今までの悪事の証拠を持ってエルリーゼを裏切り、そしてアイナの与えた傷痕が決定打となってエルリーゼは民衆の前で偽物という正体を暴かれるわけだ。

 つまりこのアイナは、エルリーゼざまあイベントの功労者である。

 ……が、彼女をメインにしたルート以外ではそれだけだ。

 エルリーゼを襲撃した生徒というだけで、特にクローズアップされずに消えてしまう。

 

 彼女をメインにしたルートでは途中までは同じ流れなのだが、何とエルリーゼ襲撃にベルネルまで加わってレイラと戦闘に入る。

 そして勝利する事でアイナは死ぬ事なくエルリーゼに傷を刻み込むのだ。

 この後はしばらく、聖女を襲撃したという事でアイナとベルネルの二人で愛の逃避行イベントが入るが、すぐにレイラがエルリーゼを裏切って悪事の証拠を突き付ける事でエルリーゼはざまあされる。

 

 で。この世界でだが……襲撃来るのかね、そもそも。

 俺は別にフォックス家を潰したりしてないし、覚えてる限りでは恨まれる理由はない。

 まあもしかしたら世界の修正力で『何かよく分からんがお前が憎いィィィィ!』と突撃してくるかもしれんが、それは流石に俺もどうしようもない。

 まあ突撃してきても俺なら無傷でどうとでも出来るし、捕まえた後も死刑にしないように言っておけばいいだろう。

 つまりこっちもほぼ解決していると言っていいんじゃなかろうか。

 

 後は……何か気を付ける事あったっけな。

 強いて言やあ魔女関連のイベントか。

 エテルナが真の聖女と気付いたらしい魔女が色々と裏からちょっかいをかけてきて、魔女があれこれやるイベントではモブに死人が出る。

 ただ……どうもこの世界、魔女が真の聖女に気付いてないっぽいんだよな。

 ファラさんなんていつでもエテルナを殺せる状況にまで行ったのに、エテルナを人質にするだけで偽物(おれ)の方を殺そうとしてたし。

 ……もしかして魔女って俺が思ってたほど賢くないのか?

 本物の聖女と中身クソの偽聖女を見間違えるかね、フツー。

 一般人ならともかく、お前さんは聖女と対を為す魔女だろうに。何で気付かないんだ。

 いやまあ、気付かないのは俺としちゃあ好都合なのは間違いないけどさ。

 

 で、魔女は……ぶっちゃけ今すぐにでも消せる。

 魔女の潜伏位置も分かってるし、俺ならゴリ押しで勝てると思うんだよな。

 俺の中にある闇パワーを乗せれば、軽減はされるだろうが魔女にもダメージは通せるし、逆に魔女の攻撃は多分俺は弾ける。

 あくまでゲームの情報なんだが、魔女ってレベル70のベルネル一人で互角くらいに戦えちゃうんだよな。

 ちなみにエテルナがパーティーにいればレベル40台でも余裕。

 で……あの夢で見た俺の強さはレベル99のベルネルよりずっと上っぽいし、実際レベル99ベルネルでも苦戦するような魔物だろうが俺は蹴散らせるし、魔力でバリアすればダメージは受けない。

 つまり俺と魔女が戦えば俺の魔女への攻撃は『軽減されるがゴリ押しで効く』。魔女の俺への攻撃は『効果抜群だが実力差で効かない』になるわけで、負ける要素が見当たらない。

 まあ例えるならレベル99のほのおタイプとレベル5のみずタイプが戦うようなものだな。

 ただ今はそれは出来ない。出来ない理由がある。

 やるにしても、それはエテルナのハッピーエンドを見届けた後でなければならないのだ。

 まあ魔女が出て来たら追い払う程度で済ませておこう。

 

 とりあえず当面の予定は決まった。

 まずリナ・トーマスを探して回復魔法をかける。

 アイナ・フォックスはレイラにでも調べて貰って、後は向こうの出方待ち。来るなら来い。

 

 よし、思考終わり。

 そんじゃバリアも解除しますか。

 

「おはようございます、エルリーゼ様」

 

 ノックして入室してきたのは、護衛として学園まで付いてきたレイラだ。

 今日もキリッとしていて凛々しい。

 誰だよこの美人をスットコとか呼んでるの。

 俺だよ。

 

 スットコを従えて教室へ向かう。

 すると周囲がざわつき、生徒や教師が立ち止まって俺を見ていた。

 ふははははは、ちょっとした大名気分だな。控えおろう、頭が高いわ平民共。

 あ、この学園の生徒って大半が貴族だった。むしろ平民は家名もない俺の方じゃねえか。

 控えます。頭が高かったですね、はい。

 しかしこれは確かにちょっと気分がいいな。

 まるで自分が凄く偉い奴になったと勘違いしてしまう。

 幼い頃からこんな環境に置かれていたエルリーゼ(真)が思い上がってしまうのも止む無しと言えるのかもしれない。

 でもまあ、それでもあいつのクソさは擁護出来ないけどな。

 だが思うんだよな。もしもエテルナが最初から聖女として育てられていたら、果たしてあんなに心優しい聖女になったのかと。

 もしかしたらエルリーゼ(真)と同じで、横暴で我儘なエテルナになっていたのではないか……なんてな。

 人間ってのは最初は誰しも真っ白だ。どう変わるかは周囲次第。色の付け方一つで全てが変わる。

 そういう意味じゃ……エルリーゼ(真)も被害者だったのかもしれないな。

 俺? 俺はほれ、もう最初から真っ黒よ。だから憑依転生なんてしても何一つ変わりゃしねえ。

 黒に何を混ぜても黒だよ。

 

 よし、教室前に到着。

 後は中に入るだけなのだが、何か教室前に誰かが座っていて入るに入れない。

 誰やこのおっさん。

 

「エルリーゼ様の道を阻むなど……」

 

 スットコが前に出ようとするが、慌てて手で制した。

 おいやめろスットコ、それ高慢ちきな悪役がやる行動じゃねえか。

 こう、取り巻きが『〇〇様の道の前に出たな!』とか言って斬りかかったりするの。

 俺を権力を笠に着た悪党にする気か、お前は。

 

「ああ……近くで見るとより美しい……。

お待ちしておりました……貴女を我が校に迎え入れられる日が来ようとは……」

 

 いやだから誰だよお前は。

 改めて観察するが、いまいち誰か分からない。

 というか男キャラなんか一々覚えてないっつーの。

 年齢は……二十代半ばくらいかな。顔立ちは腹が立つがそこそこハンサムな優男。

 目は細め。鼻は高く、顔の輪郭はやや縦に長く見える。

 黒の長髪。首の後ろで束ねていて前髪はオールバック。一房だけ額に垂れている。

 そして世界観を無視して現代風の眼鏡をかけていて、インテリっぽい雰囲気を纏っていた。

 最初は友好的で後で裏切るタイプの顔立ちだ。

 えーと、誰だっけなこいつ。ゲームにいたような気もするんだが……。

 仕方ない。こういう時は有能スットコに聞くに限る。

 視線を向けると俺の意図を察したスットコが咳払いをした。

 

「彼は、この学園の教師です。名はサプリ・メント」

 

 あ、思い出した。敵キャラか。

 そうだ、こんなんいたわ。

 こいつはサプリ・メント。キャラクターを作った人が名前を考えるのが面倒で、たまたま近くにサプリメントがあったから、そう名付けられたかのようなキャラクターだ。

 ファンからの通称は変態クソ眼鏡。年齢は25。

 どのルートでも敵としてベルネルの前に立ち塞がり、そしてぶっとばされる小物野郎。

 こいつは熱狂的な聖女信者で、聖女というものに勝手な幻想を抱いて押し付けている。

 勿論エルリーゼ(真)はこいつの崇拝対象ではないし、こいつは早い段階でエルリーゼ(真)は聖女ではないと見抜いていた。

 その理由は『あんなものが聖女のはずがない』という勝手な決め付けによるものだ。

 まあ合ってるんだけど。

 こいつが行動を起こすのはエルリーゼ(真)がざまあされた後で、『やはり真の聖女は別にいた』と歓喜した彼は自分だけの本当の聖女を探し始める。

 そしてその時点で最も好感度の高いヒロインをストーキング・誘拐して自分の理想を押し付けるという死ぬほど迷惑な野郎だ。

 しかしこいつの理想の聖女はこいつの中にしかいない。

 誰を誘拐しようとこいつは満足出来ず、理想との乖離から『聖女はそんな事言わない』だとか『こんなのは私の思う聖女と違う』とか言い出してヒロインを自分好みに調教しようとして、そこで駆け付けたベルネルにボコボコにされて最後は学園を追放される……というのがこいつのゲーム中での活躍であった。

 ちなみにこれは本物の聖女であるエテルナの時も変わらない。

 結局のところ、こいつの『理想の聖女』なんて存在は何処にもいないって事だ。

 こんなのが教師とか世も末だな。

 

 ま……取るに足らん小物ではあるが、一応警戒だけしておくかな……。

 変な事したらその時は、物語から退場してもらおう。


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