理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第十四話 加速する誤解

 何故かエテルナに怖がられて逃げられました。意味が分かりません。

 いやうん、マジで分からん。どういう事なの?

 俺は本編エルリーゼと違って嫌がらせとかしてないはずだし、むしろファラさんに誘拐された時は救助だってした。

 これで好感度が上がりはすれど、下がる理由が分からない。

 可能性としては一応、ある程度いくつかは思い付く。

 例えば俺のギラついた性欲MAXな視線に気付き、『やだこいつ気持ち悪い!』と思って逃げたのかもしれない。

 俺は一応聖女ロールでガワを取り繕っているが、所詮は演技だ。本性が漏れ出ていた可能性はある。

 だがあの怯え方はそれとは違うような気がする。

 生理的嫌悪感というよりは、自分が害される事を恐れているような怯え方だった。

 エテルナがああいう反応をするイベントは…………あるな。

 

 このゲームのラスボスは選んだヒロインによって多少変わる。大体魔女かエテルナのどちらかがラスボスなんだが、エテルナがラスボスになるルートでは場合によっては魔女と戦う事すらなく魔女は死ぬ。

 その理由が、ベルネルのいない所でエテルナが大勢の騎士と共に魔女を倒してしまうというものなのだが、このルートに入ってからエテルナと話すとあのような反応を見せる。

 だがそれはずっと先の事で、今見せる反応ではない。

 そもそも魔女はまだ生きている。

 ……まさか俺の知らないところで既にエテルナが魔女を倒してた?

 いやいや、ねーわ。てゆーか無理。

 確かにエテルナはゲームでもベルネル抜きで魔女を倒す事があるが、それは十分に物語が進んだ後半の事だし、何よりその時彼女は大勢の肉盾(騎士)に守られて戦い、その戦いで騎士の大半が死ぬ。

 ついでにルートと選択肢次第ではここでレイラも死ぬ。

 それにこのイベントはエテルナのレベルが40以上でないと発生しない。

 つまりエテルナが十分にレベルを上げた上で肉盾を連れて行って、ようやく勝てるわけだ。

 今のエテルナが単騎で勝てるわけがない。挑んでも返り討ちに遭って死んで終わりだ。

 

 何故エテルナがそのルートで怯えを見せるのか。

 その理由は……あー、これ言っちゃっていいかな? ネタバレなんだけど。

 まあいいわ。隠す事でもないしゲロったろ。

 結論から言えば聖女=魔女なんだわ。

 聖女と魔女に違いなんかない。同じものなんだ。

 だから聖女と魔女は特徴が一致するし、自分の力でもダメージを受ける。

 ベルネルの闇パワーが魔女に効くのも、その闇パワーが聖女パワーと同じものだからである。

 で、聖女が魔女を倒すと、魔女の中の怨念的な何かが移り、魔女を倒した聖女が次の魔女になる。

 この怨念パワーが何なのかは公式でも判明していないが、初代魔女の魂という説が有力である。

 正確に言えば魔女の怨念は『自分を倒した奴』に移るが、魔女を倒せるのなど聖女くらいしかいないので、実質聖女一択だ。

 だからエテルナが魔女を倒したルートではエテルナが魔女になるし、ラスボス化してしまう。

 今代の魔女も、実はエテルナの前の聖女の成れの果てだ。

 だから『魔女を倒した聖女は死ぬ』は間違いだ。

 真実は、『魔女を倒した聖女は身を隠し、真実の隠蔽を図る一部の王族によって死んだと報じられる』。

 魔女が倒されてから次の魔女が生まれるまでに五年ほどのスパンがあるのは、聖女がその期間ずっと耐えてるから。

 ちなみに自殺は一部の超例外的な状況を除いて出来ない。魔女は確かに自傷でもダメージは受けるのだが、生存本能的な何かが働いて、どう頑張って自分を傷つけても死なない程度の傷しか負えない。

 闇の力には宿主を生かそうとする何かがあるらしい。聖女は自殺出来るのにな。

 この宿主を生かそうとするのも、宿主に死なれては困る初代魔女の意思のせいという考察がある。

 そして魔女になると何か自分でも抑えられない破壊衝動やら何やらに突き動かされ、本人の意思に関係なく悪落ちする。

 で、聖女の死か魔女の誕生を世界が感知すると、均衡を保つ為に世界に満ちている魔法の源的なパワー(名前はマナ。ベタすぎる)が『あっ、やべ。聖女が魔女になってもうた』、『やっぱり今回も駄目だったよ』、『じゃあ次いこか』、『次の聖女はきっとうまくやってくれることでしょう』的なノリで聖女を作り出す。

 だから聖女は絶対に魔女より後に出てくるわけだ。いやなシステムだこと。

 

 ちなみに聖女以外の奴が魔女を倒すと、もれなく怨念エネルギーに耐え切れず死ぬ。

 強さ云々関係なく、そもそも怨念を受け入れられるだけの器がないんだろう。

 チートの俺でも少し取り込んだだけで寿命が縮むような代物なので、当たり前である。

 この場合は新しい魔女が誕生しないので魔女と聖女の連鎖を断ち切る事が可能だ。

 これが出来るのが我らが主人公のベルネルで、これをやってしまうと主人公死亡でバッドエンド扱いになる。

 ただ、このバッドエンドは何だかんだで魔女や聖女の連鎖を切ってるし、エテルナも生存してるんだからハッピーエンドなんじゃないか? とも言われている。

 まあ、俺が今すぐに魔女を倒さないのもこれが理由だ。

 倒せる事は倒せるんだが、それをやると確定で俺があの世行きだ。だから今はやらない。

 まだ魔物も狩り尽くしてないし、放っておくと国単位で滅びるイベントとかもあるからなあ……。

 俺が魔女をジェノサイドしてあの世の道連れにしてもハッピーエンドになるとは思うんだけど、その後にベルネルとエテルナの平和な生活が魔物によってぶち壊されましたじゃ何の為に転生したか分からん。

 ハッピーエンドで終わったのをわざわざ続編とかで台無しにされるのはあんまり好きじゃない。

 だから俺が退場するのは不安要素を全部摘んだ後だ。

 具体的には魔物を全部狩り尽くした後じゃないとな。

 ……何? 魔物だって必死に生きている? 罪を犯していない魔物もいる? 知らんがな。

 そんな事言ったら農家の皆さんが冬のたびに屠殺してる家畜の豚さんの方がよっぽど罪がないわ。

 

 話を戻すがエテルナが魔女を倒したルートだとエテルナも、その恐るべき事実に当然気付く。

 そして表面上は普段通りに振舞いつつも心の中では自分が魔女である事を恐れ続け、そしてベルネルからも逃げるようになってしまう。

 最後には自分が自分でなくなる前に……と完全に魔女になった振りをして、ベルネルの手で殺される事を願い、そのルートでベルネルが選んだ他のヒロインとベルネルがイチャイチャするのを見せ付けられながら倒される。

 

 挙句の果てに『せめてベルネルに殺されたい』という願いすら結局果たせなかったりする。

 というのも、大半のルートではそのルートのヒロインがベルネルを守る為にエテルナに止めを刺してエテルナと刺し違える形で死ぬからだ。

 そんでベルネルはそのヒロインの死に際の言葉を聞きながら、冷たくなっていくヒロインの身体を抱きしめて号泣する……近くで死んでいるエテルナを放ったらかしにして。

 そうならない場合でも、結局は最後の良心でベルネルを道連れにする事を踏みとどまって自害する。

 何この不憫な子。

 ちなみにエテルナが自害する事で最後まで生存出来るヒロインはリナ・トーマスやアイナ・フォックスといった『自分のルート以外では絶対死ぬヒロイン』だ。

 このゲームでは珍しく最後までヒロインが生き残るので、数少ない癒しでありハッピーエンドだと言える。

 

 で、ここまで語ってアレだがやっぱり何故エテルナがあんな反応を見せたかが分からない。

 まだ魔女は生きている。エテルナは魔女になっていない。

 なのに何故あんな、自分が魔女になってしまったような反応を見せる?

 全く分からん、サッパリ分からん、微塵も分からん。なるほど、分からん。

 

 ……この件は保留にしようか。

 ベルネルにはエテルナを気にかけておくように言っておいて、しばらくは様子を見よう。

 アイナ・フォックスも今の所襲撃の気配なし。

 なのでこっちも保留。もしかしたらこのままモブキャラで終わるかもしれない。

 んで次のイベントは……各ヒロインごとに色々あるが、生死に関わるものはないのでスルー。

 というかベルネルがそもそもエテルナ以外のヒロインと関わりを持っていない。

 酷い話だけど、このゲームのヒロインは大半はベルネルと関わらなければモブキャラに成り下がる代わりに最後まで生存するので、むしろこのままの方がいいかもしれない。

 夏季休暇前の中間試験……これも気にする必要はない。

 夏季休暇……その時の好感度が高いヒロインごとに個別イベントあり。無視していい。

 休暇明け……年に二度の闘技大会。ここで魔女の刺客として魔物が襲撃してくる中ボス戦あり。

 ……ふむ。

 とりあえず、闘技大会まではしばらくは平和そのものだな。

 

 あ、いや、待て。気にするべきイベントが一つだけあった気がするぞ。

 学園内で捕獲されている魔物の暴走イベントがあった。

 これは、訓練用に飼育されている魔物(つまりは騎士の実戦訓練で斬り殺される為に飼われているわけだ。カワイソー)が、地下にいる魔女の力にあてられて活性化し、校内に解き放たれるというものである。

 とはいえ、この魔物はただの雑魚なので、名もなき可哀想なモブが二人くらい死ぬだけですぐに鎮圧される。

 ついでにこの時、ベルネルが頑張って魔物を倒せば一緒にいるヒロインの好感度が大幅上昇するボーナスイベントだ。

 まあモブとはいえ意味もなく死ぬのは可愛そうだ。

 このイベントが起きたらすぐに助けてやるか。

 

 

 エルリーゼが転入して以降、学園は毎日祭りのような状態になっていた。

 皆が盛り上がり、今日は聖女とすれ違っただとか、姿を見ただとかで盛り上がっている。

 だがそんな中でエテルナは自分の気分が沈み続けているのを感じていた。

 自分は魔女かもしれない。いや、きっと魔女だ。

 そう思い込んでから、彼女はずっと恐怖に縛られていた。

 エルリーゼは魔女の気配を感じてここに来たという。

 いつか、自分が魔女だとバレるのだろうか。バレたらどうなってしまうのだろうか。

 そう考え、眠れない日々が続いた。

 最近では時折、こちらを監視するようなエルリーゼの視線も感じる。

 気分を晴らす為に、弱い魔物相手の戦闘訓練などもやってみたが、あまり変わらなかった。

 

 それでも、自分に悪意がないと知ってもらえればもしかしたら見逃して貰えるかもしれないという淡い希望もあった。

 そうだ、魔女といっても別に悪い事をしたいわけではない。

 要は悪い事をしなければいい。それならきっと、許してもらえる。

 ファラ先生がああなってしまったのは……よく分からないが、あれはきっと何かの間違いなのだろう。

 だって自分はファラ先生に何もしていないのだから。

 そう思う事でエテルナは少しずつ落ち着きを取り戻しつつあったが……すぐに、次の試練が彼女を出迎えた。

 

「助けてくれ!」

「何で校内に魔物が!」

 

 教室で授業を受けている最中、外から悲鳴が聞こえた。

 一体何事かと思う前にエルリーゼが弾かれたように飛び出し、すぐにその後を護衛のレイラが続く。

 遅れてベルネルも走り、ドアを開けた。

 その先にあったのは……暴走した魔物が生徒を襲っている瞬間だった。

 あの地下室で見た魔物に比べれば小さく弱いものなれど、数えきれないほどの魔物が学園内を走っている。

 このままでは鎮圧までに何人かは犠牲になってしまうだろう。

 だがその予想を容易く覆せる者が、今の学園には存在していた。

 

Hope for the best,but prepare for the worst .(最善を願いながら、最悪に備えよ)

 

 エルリーゼが何かを言い、それと同時に彼女の足元を中心に光の魔法陣が展開された。

 それは一瞬で学園全てを覆うまでに広がり、そして全生徒が光によって包まれた。

 その生徒を魔物が襲うが……触れた瞬間、逆に魔物の方が吹き飛んで失神してしまう。

 

「光の防御魔法! いや、向けられた力を相手に返す攻撃性まで備えている!

それもそのまま返すのではなく、倍返し……いや、三倍返しか!?

しかも反射された魔物が麻痺している……これは雷魔法との複合!

恐るべき複合高等魔法! しかもそれをこの速度で、学園にいる全員に同時に!」

 

 教壇の上にいた魔法授業担当のサプリ・メント先生が興奮しながら叫び、今のがどういったものだったのを解説してくれた。

 この先生も何気に凄いのかもしれない。

 エルリーゼの絶技に驚きながら、エテルナは廊下の外にいた生徒を見た。

 

「い、痛い……痛い……」

 

 恐らくは肩に噛み付かれたのだろう。

 血を流し、蒼白になる彼にエルリーゼが歩み寄って治療を施す。

 

「エルリーゼ様……この騒動はまさか……」

「……ええ。恐らくそうでしょう。

魔女の放つ瘴気にあてられ、学園内の魔物が活性化したと見て間違いありません」

 

 レイラの問いにエルリーゼが答えた時、エテルナはビクリと肩を震わせた。

 魔女の瘴気にあてられての、魔物活性化。

 エテルナはこれに心当たりがあった。

 ああ、なんてことだ。私は確かに、つい最近学園内で飼われている魔物に近付いた。

 

(あ、ああ……私の、せいだ……私がいたから……)

 

 『悪意がなければいい』……とんだ甘えだった。

 悪意の有無など関係なく、魔女は魔女なのだ。

 そうだ、考えてみれば分かる事。歴史上に一人も悪くない魔女がいなかったとは考えられない。

 それでも彼女達は魔女だった。

 ……本人の意思に関係なく、魔女がいるだけで世界は闇に傾くのではないか。そうエテルナは思った。

 エルリーゼがいるだけでそこが光で満ちるように。彼女自身が光そのものと言っても過言ではないのと同じように。

 自分がいるだけで、そこは闇になる。自分そのものが闇……。

 

(だめだ……これ以上誰かを傷つけてしまう前に消えないと……

私が……この世界から消えないと……)

 

 フラフラと立ち上がり、泥酔したかのような頼りない足取りで教室を出る。

 普段ならば誰かしらが気付くだろう異常だ。

 だが皮肉にも……エルリーゼの見せた奇跡が鮮烈すぎたが故に。誰もがそちらに目を奪われてしまっていたが故に。

 誰も、エテルナに気付く者はいなかった。

 

 強すぎる光は時に、闇以上に人の視界を塞いでしまう。




Q、「大半のルートではそのルートのヒロインがベルネルを守る為にエテルナに止めを刺してエテルナと刺し違える形で死ぬ」ってあるけど、そのヒロインは何でエテルナを仕留める事が出来るの?
A、命を失うかもしれない決戦前の夜。好きあった男女。後は察して。
まあそのルートのヒロインは何らかの方法でベルネルの闇パワーをもらっているとだけ……。

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