理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第十五話 錯乱

 媚びろー! 媚びろー! 俺は天才だ!

 お前等の傷を治す魔法はこれだ! ……ん? 間違ったかな?

 内心そんなテンションで回復魔法をかけつつ、俺は無事にイベントを乗り切った達成感に浸っていた。

 魔物の暴走イベントも無事鎮圧し、怪我人は出たが死人ゼロで今回のイベントは幕を閉じた。

 死んでさえいなきゃ俺の魔法で治せるし、いやー自分の才能が怖いっすわ。

 こうして自分でエルリーゼになってみると分かるが、エルリーゼはマジモンのバグキャラだったんだなあと実感する。

 まあメタ的に言ってしまうと中盤から後半にかけて戦うキャラなので強くせざるを得なかったんだろうし、かといってキャラの性格的に努力なんかするはずがないから、『せっかくの神がかった才能を無駄に腐らせたクソ馬鹿』という方向にするしかなかったんだろう。

 ま、おかげで俺は今こうして無双プレイを楽しめるわけだし、文句は言うまい。

 

After rain comes fair weather.(雨の後には晴れが来る)

 

 必殺、海外の格好いいことわざを適当に言えばなんか技っぽくなるアレ! 第三弾!

 俺が魔法を発動すると同時に空から光の粒子が雨のように降り注ぎ、生徒達の傷を癒していく。

 一人一人回復なんてかったるい事やってられないんでね。はい一斉回復バーン。

 建物内でも効果があるの? と思われるかもしれないが心配無用。これは雨じゃなくて雨のように降り注ぐ回復魔法だ。建物なんて余裕ですり抜ける。

 こいつの難点は範囲内なら全部癒しちまう事だな。怪我人なら万全に。元々万全ならその日一日ちょっとエネルギッシュになる。

 怪我してない奴は今日一日、少し疲れ知らずになるかもしれないが、まあ諦めろ。

 ほい終わったぞ変態クソ眼鏡。怪我人はもういないはずだけど、一応確認はしておけ。

 俺は面倒だからやらない。ここからはお前等教師の仕事。いいね?

 

「はい! お任せ下さい、聖女よ!

それにしても……ああ、何と素晴らしい……まさに奇跡の御業……」

 

 奇跡ねえ。残念、奇跡なんかじゃなくてただの馬鹿魔力ゴリ押しなんだなこれが。

 まああえて夢を壊す必要もないし、ここは何も言うまい。

 さーて、それじゃ教室に戻って日課のエテルナちゃんウォッチングでもするかな。

 ただ最近だとエテルナも何か邪なものを感じ取ってるのか、俺の視線に敏感になってるんだよな。

 やっぱちょっと、尻を見過ぎたかな……。

 まあアレは不快だからな。分かる分かる。

 かく言う俺も、割と頻繁にそういう視線を感じるからな。

 特にそこの変態クソ眼鏡から。

 後でガン見し過ぎた事謝っとこ。

 

 ……で、そのエテルナ何処よ?

 何故か教室のどこにもいないんですけど?

 もしかして俺の視線が気持ち悪すぎて逃げた?

 おいベル坊! お前の未来のワイフどこいったか知らねえ?

 

「エテルナ……? そういえば、確かにいませんね……」

 

 おいコラ、ネルベルゥゥゥゥゥ!

 間違えた。ベルネルゥゥゥゥゥ!

 お前何で見てないんだよ!? 現状唯一のお前と交流あるヒロイン様やぞ!

 メインルートの相手放置して一体どこ見てたんですかねえ!?

 『そういえば』ってお前……『そういえば』って……。

 他に攻略中のヒロインがいるわけでもないのにホンマ何しとんねん!

 

「あ、エルリーゼ様。私、エテルナさんが出て行くのを見ましたよ」

 

 いたよ目撃者。でかした!

 この可愛い子は覚えている。

 薄い金髪のセミロングのこの子の名前はフィオラだ。

 昔に俺が顔の傷を治して、あの誘拐事件の時もいた子だな。

 

「僕も見ました。何か暗い顔をしてそっちの方に……」

 

 あん? 誰やお前。

 野郎の事なんぞ一々記憶してるかいボケェ。

 と言ってもいいのだが、とりあえず適当に笑って感謝しておく。

 ありがとよ、モブA。

 

「ジョン、それは本当か?」

「ああ……何か思いつめた顔をしていた」

 

 モブAの名前はジョンというらしい。

 何かベルネルとそれなりに仲がいいように見える。

 よく見たらこいつ、あの時確か誘拐されてた面子にいた……気がするな。多分。

 つまり一緒に誘拐された縁で仲良くなったわけか。

 

「行ってみましょう。心配だわ」

 

 そうフィオラが言い、ベルネル、フィオラ、モブAが立ち上がった。

 ここは流れ的に俺も参加しておいた方がいいかな。

 やはりエジプトか……いつ出発する? 私も同行する。

 

「エルリーゼ様が行くならば、私も行きましょう」

 

 お、レイラ。頼もしいね。

 彼女は普通に有能なので来てくれるならば有難い。

 

「聖女様が行くならば私も動かぬわけにはいかんな……生徒諸君、しばらく自習していたまえ」

 

 続いて変態クソ眼鏡も同行を申し出てきた。いらねえ。

 ……しかしひっでえパーティーだ。

 主役のベルネルと、攻略キャラの一人であるレイラはいいとして後が酷い。

 ゲームに登場しないフィオラにモブA、小物中ボスの変態クソ眼鏡。

 そんで最後にご存知、ざまあ系ヘイトキャラのエルリーゼこと、俺。

 ギャグで組んだレベルの布陣である。

 そんなお笑い六人組でエテルナを追うが、流石に行動が遅すぎたのかエテルナの姿はどこにも見えなかった。

 

「こっちです。僅かですが彼女の魔力反応が続いている」

 

 そう自信満々に言ったのは変態クソ眼鏡であった。

 おお、変態のくせにやるやんけ!

 流石ストーカーは一味違うな!

 どんな奴にも取り得っていうのはあるもんだな。

 基本的に馬鹿魔力ドーンばかりしている俺は魔力追跡とかやった事がない。

 うーん……こいつ実は有能なのか?

 

 変態クソ眼鏡の先導で俺達が辿り着いたのは学園の外にある崖であった。

 下では海が荒れ狂っており、控えめに言ってこんな所に学園建てる奴はおかしいと思う。

 いや、正確に言えば崖の上に建てられてるわけじゃなくて学園自体は高台にあるってだけで、そこから少し進んだ場所が崖っていうだけだ。

 そして今にも落ちそうな崖の端……落下防止の柵を越えた先にエテルナが立っていた。

 マジで何してんのあの子。

 明らかにやばい位置に立っているエテルナへ、ベルネルが慌てたように叫ぶ。

 

「エテルナ! そんな所で何をしてるんだ!」

 

 ホンマにね。

 

「来ないで!」

 

 エテルナは叫び、崖の端に片足をかけた。

 やばいな。後少しでも近づいたら飛び降りそうだ。

 まあエテルナは飛び降りても死なないんだけどな。

 なのでここは落ち着いて、何故エテルナがこんなわけのわからん行動をしているかを聞くとしよう。

 

「私は、消えないと駄目なの!」

「何を言ってるんだ!?」

 

 エテルナとベルネルの痴話喧嘩を聞きながら、考える。

 こんな事になるフラグどこにあった?

 一応俺は全ルート制覇して、攻略ページとかも見ているが、こんなイベントは見た事がない。

 ただこのゲーム……とにかく小さいイベントとかがあちこちに隠れてて、発売から四年経った今でもたまに新しいイベントとかが発見される事があるからなあ。

 攻略本もあるにはあるが、イマイチ微妙だし。

 何でこうなった? やっぱベルネルが筋トレばっかして放置してたからこうなったんじゃないかこれ?

 

「全部……全部、私のせいなの!

ファラ先生がおかしくなったのも……今回の騒動だって……!

私がいたから……!」

 

 んん?

 何かおかしな事を言い出したぞ。

 ファラさんの暴走と今回の騒動が自分のせい?

 ごめん意味わかんない。何でその思考になったのかサッパリ理解出来ん。

 ファラさんは魔女に操られたせいだし、それは俺がハッキリ言ったはず。

 魔物の暴走だって魔女のせいだ。エテルナは何の関係もない。

 とりま、まずは落ち着かせようか。

 見て分かるほどに彼女はSA☆KU☆RA☆Nしている。

 

「落ち着いて下さい。貴女は今、錯乱しています。

まずはこちらに来て、それから……」

「来ないでッ!」

 

 何とかなだめようとするが、何故か逆に興奮してしまった。

 この反応は……もしかして俺が原因か?

 やっぱ俺の視線が不愉快すぎた!? 尻をガン見するのは流石に駄目だったか。

 

「隠さないで下さい、エルリーゼ様……。

私、もう全部分かってるんです……」

 

 ギクゥ!

 ま、不味い……俺が偽聖女ってバレた!?

 中身が聳え立つクソの山ってバレた!?

 いやまあ、そらバレるわな。だってエテルナが本物の聖女なんだから、怪我するべき時にしなかったりして、それで『本物私じゃん! アイツ偽物じゃん!』って気付くよね。

 それともやっぱり尻を見てた方か?

 ち、ちちちちちちゃうねん!

 あれはちょっとその……魔が差したというか……。

 た、ただ、いいケツだな~って思って……。

 あ、あわ、あわわわわわ……。

 

 いやでも待て。

 それで何で自殺しようとしてんの?

 飛び降りても死なないから私が本物の聖女でそいつは偽物よ! とでも言うつもりかな。

 ふっ……愚かな。

 やめてくれエテルナ。その技は俺に効く。

 

「何を言っているか分かりません。

とにかくまずは、一度落ち着いて……」

「ええ、そうでしょう……貴女には私の気持ちなんて絶対わからない……」

 

 ぐむ……確かに分からんかもしれん。

 向こうにしてみれば自分が聖女なのに、こんな偽物が聖女名乗っているわけだからな……。

 いわば成り代わられた被害者で、俺は加害者だ。

 だが成り代わりは俺のせいじゃない。俺達が赤子の時に取り違えた預言者とかいうアホがいて、全部そいつのせいなんだ。

 だから俺は悪くねえ。俺は悪くねえ!

 ……とか思っていたが、次の瞬間、とんでもない爆弾発言が彼女の口から飛び出した。

 

「――聖女である貴女に、魔女である私の気持ちなんて分かるわけがない!」

 

 ほうほうなるほど、君が魔女……。

 そいつは驚きだ。しかし俺も好んで偽聖女などしているわけでは……。

 ……。

 うん? 魔女? 聖女じゃなくて?

 今この子、自分を魔女って言ったの?

 

 ………………。

 ごめん。どういう事?


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