理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第二十七話 一網打尽作戦

「お待たせしました、聖女よ。

これが、私がこの二週間で調べ上げた不届きもの達を記したリストでございます」

 

 そう言って、俺に羊皮紙を差し出して来たのは学園のスパイを洗い出す仕事を与えてみた変態クソ眼鏡だ。

 渡された紙を何となく触りたくないのでレイラに取らせ、名前を読み上げさせる。

 大半は全く知らない名前だが(そもそもモブの名前なんてゲームにも出ないし覚えないわそんなもん)、その数は実に二十四人にも上る。

 勿論その中に学園長とアイナがいるのは言うまでもない事だ。

 大半はアイナ同様に騙されているだけの阿呆なのだろうが、中にはガチで魔女に従ってる奴もいるんだろうな。

 このリストが正しいならば、なかなかの働きだと評価しなくもない。

 変態クソ眼鏡のくせにやるじゃないか。

 しかしレイラは納得いかないようで、リストを読み上げるほどにその表情は険しくなっていく。

 

「これは……何の冗談だ、サプリ教諭。

正直に言うが私はこれを読んで、むしろ貴方の方が魔女の手先なのではないかと疑い始めている。

虚偽の報告で、疑うべきではない相手を疑わせ、人類の戦力を削ろうとしているのではないか?」

「これは心外だ。私が心を捧げるのはエルリーゼ様以外にありえない」

「ならばこれは何だ? 貴方が裏切り者として並べたこの者達は……先代の聖女と共に魔女を討った、あるいは貢献した……偉大な騎士ばかりではないか!」

 

 レイラの怒りに満ちた声に、変態クソ眼鏡は挑発するように肩をすくめた。

 だが俺にとっては、今のレイラの言葉で逆にこの『リスト』の信憑性が増してしまった。

 あー、なるほどね。先代の聖女と共に戦った騎士やそのお友達の皆様と。

 まあ俺もその辺は怪しいかなと思ってたけど、それをこうして躊躇なく出して来ると言う事は、変態クソ眼鏡の調査は良くも悪くも本物だという事だろう。

 

「彼等は年齢によって引退した後も、後進を育てる為に学園の教師となった立派な、尊敬すべき者達だ。

貴方は我等騎士を愚弄する気か!」

「愚弄するつもりはない。だが先代聖女の近衛だろうが何だろうが、人類を裏切るならばその程度の輩だったという事。

騎士の誇りとやらも、君が思う程のものではないという事ではないのかね、レイラ君」

「貴様……」

 

 レイラが剣に手を伸ばし、変態クソ眼鏡も魔法を準備する。

 おいお前等、こんな所で喧嘩すんなや。

 

「落ち着きなさい、レイラ。

悲しい事ですが、既に学園長という前例がある以上、他の元騎士も同じように敵に回っている可能性を頭ごなしに否定する事は出来ません。

学園長を慕っていた者も少なくはないはずです」

「それは……そうですが」

 

 そう諫めると、レイラは渋々剣から手を離した。

 それから変態クソ眼鏡を見た。

 うえ、こいつ俺が顔を向けるだけで嬉しそうにするからあんまり見たくないんだよな……。

 

「サプリ先生、これはどのように調べたのですか?」

「よくぞ聞いて下さいました。彼等は共通の連絡手段として、ある鳥を使用しています。

今から八十年前に冒険家によって発見され、発見者スティールの名前をそのまま取ってスティールと名付けられたこの鳥は変わった機能を持っています。

天敵から逃れる為に羽毛の色を周囲の景色と同化させて透明化し、他の生物の唸り声を真似ることで天敵を追い払うのです。

この習性に目を付けて家畜化されたのが五十年前の事。

透明になる習性から頭や肩に乗せていても注視しない限りは気付かれず、言葉を真似る習性から優れた伝言役として重宝されるようになりました」

 

 俺の質問に、変態クソ眼鏡が嬉しそうにどうでもいい事まで話し始める。

 うん、発見された時期とかどうでもいいわ。

 とりあえずメッセンジャーとして実に都合のいい鳥だって事ね。

 

「私は彼等が飛ばしたスティールを全て捕え、私が調教した別のスティールとすり替えました。

こうする事で彼等の秘密の密談は全て私の所へ入って来るという仕組みです。

無論一気にすり替えるのではなく、間を開けて少しずつ……ですがね。

情報が入れば、動きも見えます。

彼等が直接話す場所に先回りして盗み聞きし、あるいは誰もいない隙に寮室に忍び込んで持ち物を調べ……そうして二週間をかけ、じっくりしっかり、完璧に彼等の繋がりを把握したというわけです」

 

 ……思ったより結構有能だった。

 なるほど、連絡手段をすり替えたわけか。

 現代で言うなら通信傍受みたいなものだろうか。

 ネットどころか電話もない世界だからこそ、通信は原始的な手段に頼るしかない。

 こういうのを見ると電話っていうのがいかに偉大な発明だったのかがよく分かる。

 

「このリストに間違いはないのですね?」

「自らの意思で行っているか、それとも利用されているだけかはさておき……結果として魔女の密偵になってしまっているという意味ならば間違いありません。

全員、捕えてしまうべきかと」

「他にまだ密偵がいる可能性は?」

「ゼロとは言えません。どんな事柄も確定するまではゼロではありませんので。

この二週間で誰からも情報を貰っていない密偵が隠れている可能性は僅かながらあります」

 

 ゼロじゃない、か。

 その辺ちょっと失敗フラグくさくもあるが、これ以上は実際やってみないと分からないって事なのだろうな。

 悪魔の証明ってやつだ。『無い』事を証明するのは限りなく不可能に近い。

 極端な例を出そう。例えば……そうだな。パンを尻にはさんで右手の指を鼻の穴に入れて左手でボクシングをしながら『いのちをだいじに』と叫んでいる奴なんて普通はいないだろう。

 では『今この瞬間に目の届かない何処かでそれをやっている奴が一人もいない事を証明してみせろ』なんて言われたら、それは不可能だろう。

 出来るのは、無いと信じて動く事だけだ。

 ……つーわけで、そんじゃまあ、もうやってしまいますかね。

 念を入れてもっと調査させてもいいんだが、アイナみたいに利用される奴が増えて人数が膨れ上がったら面倒くさいし。

 だがスパイを一網打尽にしては、流石に魔女もやばいと思って逃げるかもしれない。

 なので……癪だが、この変態クソ眼鏡の協力は必要不可欠だ。

 

「ならば、早期に解決させてしまいましょう。

しかし、魔女の手先を全員捕まえてしまえば、連絡が来なくなったことで魔女が警戒してこの学園から逃げる可能性もあります。そこでサプリ先生、貴方には……」

「心得ております。学園長が魔女との連絡に用いているスティールをすり替えればよろしいのですね?

そして学園長を捕えた後は私が学園長のふりをして、スティールを用いて魔女と連絡を取り合う……これが最善でしょう」

「話が早くて助かります」

 

 なるほど、予想してたか。

 あれ……こいつ、本当に変態クソ眼鏡か?

 ゲーム本編だと無能な小物だったのに、えらい役に立つな。

 

 そんじゃまあ、魔女の手先一網打尽大作戦。

 はりきっていってみよう。

 

 

 作戦の手順は簡単だ。

 奴等が連絡手段にしているステルスバード(すり替え済み)を使って、全員に学園長の名前で一か所に集まるように指示を送る。

 逆に学園長には、他の奴からの連絡と偽って『話したい事があるから来てくれ』と誘い出す。

 するとノコノコと密会(笑)の為に馬鹿共が訓練室に集まった。

 訓練室は校舎の隣にある施設で、体育館を思わせる広い施設である。

 ちなみにゲームだと体育館のような、というのを通り越して完全に体育館だった。

 学園ものだからって何で騎士を育成する学園にそんなものがあるんですかねえ……。

 あれ、絶対製作者が面倒でフリー素材の体育館の背景とか使ってただろ。

 とか、そんな事を考えつつ俺達はカーテンの裏に隠れて待機中だ。

 

「どうした。何故こんなに集まっている」

「何を言うのです。学園長が集めたのでしょう」

「私が? 馬鹿を言うな。こんな目立つ集会など私が提案するはずが……」

 

 おーおー、アホ共が混乱しておるわ。

 とりま、ここでバリア発動! 部屋に全員閉じ込めた。

 

「しまった! 罠だ!」

 

 学園長が騒ぐが、もう遅い! 脱出不可能よッ!

 貴様等は既にチェスや将棋で言う『詰み』に嵌ったのだッ!

 閉じ込めた所でカーテンを開けて前に踏み出す。

 ふん、おるわおるわ。雑魚が雁首並べてアホ面を晒してやがる。

 

「せ、聖女様……!? これは一体……」

 

 アイナが混乱したような顔をしているが、まあ利用されていただけの子は分からんよね。

 彼等の前で変態クソ眼鏡がドヤ顔で指を鳴らす。

 するとアホ共の肩や頭に乗っていたステルスバードが一斉に、彼等が交わしていたであろう話を勝手に話し始めた。

 その中には『エルリーゼには気付かれるな』とか『馬鹿な小娘は騙しやすい』とか『我等が魔女様の為に』とか、『エルリーゼを誘い込んで全員で叩いては?』とか、決定的な証言が混ざっていた。

 するとこれに何人かが騒ぎ、学園長へ敵意の籠った視線を向ける。

 

「学園長、これはどういう事です!?」

「今の言葉は……エルリーゼ様を害すると聞こえましたが……!」

「我々は聖女様の為に団結していたのではなかったのか!?」

 

 ああ、この人達は騙されて協力してた皆さんかな。

 あっという間に派閥が二つに割れ、ガチで魔女の手先派と利用されてただけ派が対立して睨み合った。

 

「落ち着かんか! スティールの言葉などいくらでも操れる! これは濡れ衣だ!

……聖女様、騙されてはなりません。その男、サプリこそは魔女の手先!

貴女は騙されております!」

 

 その中で学園長は流石に落ち着いたもので、この場のヘイトをサプリへ向けようとし始めた。

 まあ見るからに怪しいもんな、そいつ。

 俺だって前知識なしならそいつを疑うわ。

 それにステルスバードの発言などいくらでも変えられるというのもごもっとも。

 何せ所詮鳥だ。飼い慣らして美味い餌をやって言葉を教えれば、裏切っているという自覚すらなく前の飼い主を裏切るだろう。

 そもそもこの鳥は言葉の意味すら分かっちゃいない。ただ教えられた言葉を『音』として発しているだけなのだから、自分が何をしているのかすら知らないのだ。

 

「信じてください! 私の行動、言葉、その全てが聖女様の為です!」

 

 ほうほうほう、なるほどなるへそ。

 全てが聖女の為に行動ね。

 そうだな、それは信じてもいいだろう。確かにその通りだ。

 全部、お前の聖女(・・・・・)の為なんだよなァ?

 おいおっちゃん。俺が魔女の正体と聖女のカラクリを知らんとでも思っていたかい?

 そう言ってやると、学園長は開き直ったように鋭く笑った。

 

「……ッ!

なるほど……知っていたか……。

ならば誤魔化しは利かんな……」

「聖女の秘密……? 魔女の正体……?

エルリーゼ様、それは一体……」

 

 あ、スットコちゃん、それは後でね。今は集中しろ集中。

 学園長が不意を打つように俺に斬りかかり、それを咄嗟にスットコが剣で弾いた。

 

「ディアス殿! 貴方と言えどエルリーゼ様に剣を向けるならば許さん!」

「レイラ・スコットか……」

 

 学園長が俺に斬りかかった事で、もはや完全に誤魔化しは利かなくなった。

 学園長と共に本心から魔女側についていた教師陣が武器を抜き、利用されていただけの教師や生徒達が俺を守るように構える。

 更にベルネル達もそこに加わり、戦闘が始まった。

 俺が魔法を一発ドーンと撃てば終わるんだが……その前に、このままじゃアイナが不憫すぎるな。

 自分が何をしていたのか理解していた彼女は放心したように座り込んでおり、そして剣を喉に……ちょちょちょ、ストップストップ!

 俺は慌ててその剣を掴んだ。……っぶねー。

 

「聖女様……離して下さい……。

私……こんな、こんな事に手を貸してしまって……。

もう、お父様や皆に合わせる顔が……」

 

 両目から涙を流しながら言うアイナに、俺は何とも言えないゾクゾクとしたものを感じた。

 泣いてる美少女っていいよね!

 ……じゃなくて。とりあえずまずは慰めてやらんとな。

 今ならちょっと優しい言葉をかけてやればそのままホテルに連れ込めそうだ。

 しかし自殺なんかされては寝覚めが悪い。俺、胸糞展開って嫌いなのよ。

 つーわけではい、ハグ。役得役得。

 そんで軽く背中を叩いてやって、適当に元気付けてやる事にした。

 

 でえじょうぶだ、わーってる、わーってるから。

 お前はあれだ。俺を守ろうとしてくれただけなんだろ。

 で、ちょっとやる気がハムスターの乗った回し車みたいにグルグル回っただけなんだよな。

 OKOK、大丈夫。美少女のミスなら可愛いもんよ。

 野郎なら死刑直行だけど、お前は可愛いから許しちゃる。俺は心が(美少女限定で)広いんだ。

 誰が何と言おうと俺が許す。俺がルールだ問題ない。

 それに、俺だけじゃなくてそこの連中も許してくれるさ。

 そう同調圧力をかけて言うと、何ともノリのいい事でベルネル達が口々に同意する。

 最後にマリーが手を差し伸べると、今度は払い除けずにその手を掴んだ。

 よし仲直り。やっぱこうでなきゃな。

 

 戦闘は……お、こっち優勢やね。

 まあ向こうは言っちゃ悪いがロートルばっかだし。

 何せ先代の聖女の頃の騎士だ。もう歳だよ。

 そこにベルネル達とアイナも加わり、一気に押し込んでいく。

 あっという間に残るは学園長のみとなり、レイラとの一騎打ちとなった。

 

「何故です! 何故、アレクシア様と共に魔女を打ち倒した貴方が!

どうして魔女に魂を売り渡してしまったのですか!」

「売ってなどいないさ、これが私だ。

私が守る者は昔も今も変わらない。私はずっと私の聖女を守っている」

「裏切り者が戯言を!」

 

 なんかレイラと学園長が熱い会話をしている。

 おー、かっけえ。

 これ、空気読まずに俺が横槍入れて学園長をKOしたらどうなるんだろう。

 チャンチャンバラバラとレイラと学園長が恰好よく剣舞を繰り広げているが、これを言葉に出来ない俺の語彙力のなさが恨めしい。

 

「レイラ殿! 援護します!」

「ふん、雑魚共が……引っ込んでおれ!

貴様等など何人いようが物の数ではないわ!」

 

 学園長派を倒した、『チーム利用されてただけ』がワラワラと学園長に向かっていたが、学園長が薙いだ剣から電撃が出てウワーとかギャーとか叫びながら吹っ飛んで全員仲良く失神した。

 うん、雑魚キャラの宿命よね……。

 そして何事もなかったかのように筆頭騎士二人の戦闘が再開される。

 

「裏切りだと? 笑わせる。

私達が世界を裏切ったのではない。世界が私達を裏切ったのだ。

君もいずれ知るだろう。そして世界に絶望する」

「何をわけの分からぬ事を!」

「分からぬならばそれでいい。私はただ、アレクシア様をお守りするだけだ」

 

 チャンチャンバラバラ、チャンバラバラ。

 キンキンキンキン、ガキンガキン。

 バリバリ、メラメラ。

 はい、無理。こんなん文字に出来んわ。

 

「血迷っているのか? アレクシア様は魔女を倒した時に……」

「死んだとでも言いたいのかね?

いいや、違う。アレクシア様は生きている。死んだ事にされただけだ!」

「な、何だと!?」

「そしてアレクシア様に守られた愚民共は、その恩も忘れてあの方を殺そうとした!

だから! 近衛騎士である私が守らねばならぬのだ!

たとえ世界を敵に回そうと!」

 

 え、ちょ、待て待て。

 早い早い。それもう言っちゃうの!?

 それ、終盤も終盤でようやくベルネル達が知る事になるネタバレなんだけど!?

 

「そ、それは一体どういう……」

「フン……お前の聖女はもう知っているようだぞ?

エルリーゼよ、教えてやってはどうだ? お前の可愛い騎士に真実を話してはやらんのか!?

無理ならば私が教えてやる!

よいか、魔女の正体は――先代の聖女だ! 聖女アレクシア様こそが、お前達の倒そうとしている魔女の正体なのだ!」

 

 あーあ、マジで言いやがった。

 ほら、どうすんだよこれ。空気最悪じゃんか。


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