理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第三十四話 動き出した王族

 対魔女に備える偽聖女ライフはーじまーるよー!

 例の夢によって魔女にテレポさせない作戦は無事に出来上がった。

 名付けて他力本願バキューム作戦。

 まず誰かを地下に突入させて魔女と戦ってもらい、魔女に魔法を使わせてMPを削る。

 この時突入させるメンバーに正規の騎士やレイラを入れるのはNG。俺が魔女の位置に気付いていると思わせてしまうと魔女は即退散してしまう。このチキンが!

 あくまで『生徒や教師が偶然迷い込んできた』くらいに思わせなくてはいけない。

 その場合は魔女は、外にいる俺に情報が洩れるのを恐れて、逆に全力で侵入者を排除しようとするだろう。

 が、腐っても魔女。チキンでもラスボスだ。

 普通の生徒では返り討ち必至で、まず勝てる相手ではない。

 ゲームだとベルネル達で倒す相手だし、二周目以降ならばベルネル単騎討伐も可能なのだが、とにかく強敵という前提で事に当たった方がいいだろう。

 ならばどうするか? 答えは簡単。

 ベルネル達を強くする……それしかない。

 というわけでフォックスのおっさんとレイラには、定期的にベルネル達の秘密特訓をつけるように指示しておいた。

 何故秘密なのかというと、他の生徒から『特別扱いだ!』と反発される事を避ける為である。

 後は……そうだな。マリーのように学生の中にも正規騎士を上回る実力の持ち主などがいるかもしれないし、次の闘技大会で優秀な戦績をおさめた二年生や三年生にも声をかける事を考えておこう。

 

 それと、折角ディアス達を捕えて連絡網をこっちで掌握したんだから、それも活用したいな。

 現在魔女はディアス達が捕まった事を知らずに、相変わらずステルスバードことスティールを使ってやり取りをしている。

 が、その会話相手はディアスではなく変態クソ眼鏡だ。

 おかげで魔女の現在の考えや、ディアスに何をさせたいのか等は筒抜けとなっている。

 変態クソ眼鏡っていうのが少し不安材料ではあるが……まあ、奴も魔女にこちらの情報を流したりはしないだろう…………しないよね?

 現在魔女は、どうにかして俺を学園から引き離せないかと画策しているらしく、自分の部下の誰かに魔女の影武者をやらせて、遠くで暴れさせようかと考えているようだ。

 上手くすれば逆に利用出来るかもしれないので、とりあえず変態クソ眼鏡には、ディアスに成り切ったつもりで魔女と一緒に俺を学園から引き離す方法を考えろと指示しておいた。

 それと、俺は地下には全く気付いてないと嘘情報も流させておく。

 

 後は……後は特にないな。

 ベルネル達が強くなるのを待って、他にも強い生徒を集めて突入させて、そんで例の作戦を発動して決着を付けるだけだ。

 本来なら、この夏季休み明けから冬季休みまでの第二期は偽聖女エルリーゼとの決戦で使われる期間なだけあって、俺がベルネル達と敵対しないだけで平和なものだ。

 だが本番は冬季休みが明けてからだ。

 そこからは本格的に魔女が、新たに判明した本物の聖女であるエテルナを抹殺するべく色々と刺客を送り出して来るし、選択肢ミスによってはサブヒロインが死んだりする。

 だがこの世界では俺が偽聖女を続行するつもりなので、多分結構変わるだろうな。

 ……と、そんな事をつらつらと考えながら俺は現在、馬車に揺られていた。

 

 現在俺は、学園から離れて聖女の城へと戻っている。

 その理由は、非常にクッソ面倒なのだが各国の王族が食事会がてら交流を深める催しを行うので、俺も招待されたという感じだ。

 聖女の城はどの国にも所属しない――正確にはどの国からも縄をつけられている施設なので、こういう話し合いの場には最適なのだろう。

 何で俺自分の城に招待されてるの?

 これ、現代で言うと『今度仲良しパーティーやるからお前も参加しろよ! あ、会場はお前の家な!』って言われてるようなもんだぞ。

 招待じゃないじゃん。むしろこれ、俺がもてなす側じゃん。

 俺としては俺なんか無視してどっかの国でやっててくれと思うんだがね。

 あー、めんどくさ。

 何が楽しくて、おっさん共相手に愛想笑い振りまきながら飯なんか喰わにゃならんのよ。

 ベルネル達にはすぐに戻るって言っておいたけど、マジですぐに帰りたい。

 こういうお偉いさん相手の食事会とかって普段以上に聖女ロールに気を使わなきゃいけないから疲れるんだよな。

 

 城に到着した俺は、召使い達に王様達を歓迎する準備をさせて、ついでに料理も適当に作らせた。

 それから、リクエストがあったようなので生クリームをこれでもかと塗りたくった巨大ケーキも作っておく。

 工程は魔法で幾分か短縮できるとはいえ、面倒くさい。

 製法を秘匿して独占してるから俺以外の手を借りる事も出来んしな。

 そうして準備をしていると、続々と各国の王様達が到着した。

 

「お久しぶりですな、エルリーゼ様。相変わらずお美しい」

 

 最初にそう言って、挨拶してきたのはビルベリ王国のアイズ国王だ。

 名前の響きはイケメン風だが、実際は白髪の筋肉質なおっさんである。

 魔法学園が建っているのもビルベリ王国の領土内であり、最も国力と発言力が強い。

 聖女はどの国に所属してもパワーバランスを崩すという建前で中立だが、その聖女を守る騎士はビルベリ王国の所属なので、実質的にはこの国が聖女を抱えているようなものだ。

 その影響力の強さは、現代で言えばアメリカに近い立ち位置の国だろうか。

 このおっさんは昔から何を考えてるのか分からないので正直好きではない。

 後ろには彼の息子の王子達が続くが、肥えている奴とイケメンと美少年で属性が豊富だ。

 そして王子達が俺へ向ける視線がキモイ。何というか性欲が顔と目に出ている。

 ただ、こんなのでも自国の王様と王子様達である。

 ぶっちゃけ俺の生まれた村……つまりはエテルナの生まれ育った村もビルベリ王国の領土内なので、ベルネル、エテルナ、俺などの主要キャラの多くはビルベリ人だ。

 レイラは実は他の国から来た留学生枠だったっけ。

 

「歓迎頂き感謝する、聖女よ。これは我が国で栽培した魔法の青い薔薇だ。

美しき花は貴女にこそ相応しい。どうぞお受け取りを」

 

 そう言って変な色の薔薇をキザったらしく渡して来たのは、どっかの国の王様だ。

 先王が病死した為に若くして王位を継いだらしいが、どうでもいい。

 

「ほっほっほ、エルリーゼ様はお変わりないようで」

 

 そう朗らかに笑うのは、どっかの国の王様だ。

 人好きのしそうな笑顔だが、目が笑っていない。

 

「ねえリオン、私早くクラウドを食べてみたいわ」

「はっはっは、そうだね愛しのエリー」

 

 イチャイチャしながら入ってきたのは、最近結婚したというどっかの国の国王夫妻だ。

 王妃の方は元々は下級貴族だったらしいのだが、色々あって熱愛の末に王妃の座を勝ち取り、ついでに元々王妃になるはずだった婚約者は婚約破棄で追放されるとか、それ何て悪役令嬢? と言いたくなるようなドラマがあったようだ。

 こいつ等だけ世界観間違えてないかな。ここ女性向け乙女ゲーじゃなくて男向けのギャルゲー世界なんですけど?

 どうでもいいが、彼等の国は財政難でぶっ潰れる一歩手前らしい。

 そら(王妃になる為の教育もされてないような奴を王妃にしたら)そうよ。

 

「いやあー、噂には聞いてたけどこれまた美しい事! どう? 今夜俺と一杯……」

 

 そう言って出会い頭にナンパしてきたのは、顔を真っ白に染めたチョンマゲのおっさんだ。

 服は和服のようで……というかモロに和服だなこれ。

 海を隔てた東の小さな島国であるジャッポンという国からやって来たらしい。

 何でファンタジーって、東の方に行くと高確率で日本モドキがあるんだろうか。

 

「……エルリーゼ様。先日は、本当にありがとうございました」

 

 最後にそう言ってきたのは、ルティン王国の王様だ。

 オッスオッス。何か元気ないけど、便秘か?

 

「エルリーゼ様、この交流会は…………いえ、何でも、ありません」

 

 何かを言おうとしたが、結局何も言わずに暗い顔をして立ち去った。

 何だ? 気になるだろうおい。

 そういう思わせぶりなの、俺はよくないと思う。

 

 

 それから交流会は和やかに進んだ。

 途中、財政難の国が他の国に援助を求めて、にべもなく一蹴されるなどの光景は見られたが、まあ穏やかなものだ。

 そしてある程度場が温まってきたところで、おもむろにアイズ国王が話を切り出してきた。

 

「ところでエルリーゼ様、最近は魔女を探して学園に潜入しているそうですが……見付かりそうですか?」

「ハッキリとした事はまだ言えません。あくまで状況証拠で、学園にいる可能性が高いと踏んだだけですので」

 

 実際はもう確定しているのだが、それはまだ言わない。

 どこにスパイが潜んでるか分からんからね。

 それにこの中の誰かが口を滑らせて、それで魔女に伝わる可能性だってある。

 

「なるほど、まだ魔女を倒す段階には至っていないと……それはよかった」

 

 いや、よくねえだろ。

 馬鹿なのかな?

 

「エルリーゼ様、これは相談なのですが……魔女を倒すのは、やめませんか?」

 

 何言ってるのこのおっさん。

 魔女倒さないとハッピーエンドがずっと来ないだろ。

 ていうかこんなイベントあったっけ?

 ……いや、ないな。そもそもエルリーゼが交流会に呼ばれて学園を離れるなんてイベントそのものがない。

 まあその辺はゲームのエルリーゼと俺が違うから、多少違いが発生したんだろうくらいに思っていたが、何やら空気が不穏になってきたぞ。

 

「……どういう事です?」

「魔女を倒さずとも現状、貴女がいるだけで十分に世界は光に傾いています。

民は明日を恐怖せずに暮らし、魔物は勢力圏を縮め、魔女は隠れ……昔は行き来するのも命がけだった街道も今は安全に渡れるようになった。

全て貴女がいればこそです」

 

 ふむ。まあ、偽聖女で中身アレだからこそ、ガワをよく見せるのには結構力を注いだからな。

 だが、それがどうしたというのか。

 

「だから、このまま(・・・・)を維持するのがよいのではないか、と我々は思うのです」

「より良くしようとは思わないのですか? 魔女を倒さぬ限り、完全に世界の闇は晴れません」

「そうですな。確かに理想は魔女を倒す事……それが一番、世界から闇を払う。

しかし、その平和はほんの五年程度しか続きません。

そして貴女ほどの聖女が今後現れるとは私には思えない。

ならば、五年しか続かない100の平和を求めるより……貴女がいる限り続く、95の平和を維持するべきなのではないか……私はそう思います」

 

 何か変な事言い出したぞ、このおっさん。

 魔女を放置して現状維持しろってか?

 何言っちゃってんの? 頭大丈夫?

 

「詳しくは語れませんが……魔女を倒した聖女は必ず、失われます。貴女であっても例外ではない。

エルリーゼ様、貴女はまさしく過去最高の聖女だ。他の聖女はもって五年……魔女を倒して次の魔女が現れるまでの僅かな期間の平和を作る事しか出来なかった。

だが貴女は既に七年間も平和を維持している……そして貴女が生きている限り、この平和は維持される。

貴女を失うのは大きな損失であり、そして次の大きな災厄の誕生に繋がるでしょう。

だから提案したいのです……魔女を放置しませんか(・・・・・・・・・・)?」

 

 うわあ、何かすげえヤバイ事言い出したぞ。

 事もあろうに国を守るべき王様が、世界で一番脅威になるだろう魔女放置を持ち掛けてきやがった。

 まあ、少しは分からんでもない。

 こいつ等から見れば、もし魔女を倒した場合に次の魔女になるのは俺だからな。

 要するに『クッソ強い無敵の魔女なんか出してたまるか』ってところだろう。

 

「……先日、ルティン王国が壊滅しかけた事はご存知ですね?

魔女がいる限り、あのような惨劇は必ずどこかで起こります」

「しかし貴女はそれを防いだ。守り切った。

だから私は確信したのですよ。

聖女エルリーゼがいれば、無理に魔女を倒さずとも平和は維持できる……と」

 

 アイズ国王はニコニコと笑いながら、話を続ける。

 

「むしろ私はこの“95の平和”こそが最高のバランスだと思っています。

魔女が死んでからの平和な五年間は魔女の脅威も魔物の脅威もありません。

しかし、敵のいなくなった人類は人類同士で争い始める。結束が緩む。

知っておりますか? 過去に行われた人類同士の戦争は全て、魔女がいない空白の期間に行われているのです。

たとえ100の平和があったとしても、人類は自らそれを80……いや、70にも60にも減らしてしまう。

だが魔女がとりあえず存在している今……この95の平和は、私の生涯で最も素晴らしい時期でした。

共通の敵がいる為に人は人同士で固く結束し、適度な危機感を維持し続け、そして聖女エルリーゼの名の下に明日を信じて前向きに生きる。努力する」

 

 アイズ国王は両手を広げ、更に話す。

 何ていうか、流石一国の王だ。話をするのが上手い。

 自分の言っている事があたかも正しいかのように飾り立てて、『そうかもしれない』と思わせる会話力に長けている。

 

「95でいい……いや、95()いい!

完全では駄目なのですよ。完全では、その先がないから逆に人は駄目になる。

ゴールに行き着きそうで行き着かない、このバランスがいいのです。

世界全体が光に傾き、されど完全に闇は駆逐されず……そう、それはあたかも太陽という大きな光に怯える小さな影のように、僅かながら確かに存在している。

今、この世界に必要なのは魔女を倒す事ではありません。

貴女が聖女の座に君臨し続ける事なのです!

さすれば、この平和は続く! 貴女がいる限り十年でも二十年でも!

いや、歳を取らない貴女ならば百年だろうと!」

 

 あー、うん。なるほどね?

 よく分かった。このおっさん致命的な部分を分かってねえわ。

 まあ俺が偽聖女って事教えてないから仕方ないんだけどね?

 多分俺が不老だから、ずっと生きてると勘違いしてるんだな。

 むしろ逆だ。俺の寿命は人並みほどもない。

 多分生きて、後一年もないだろうからな……ぶっちゃけ電気切れ寸前よ。

 元々この世界の平均寿命ってそんな長くないし、そこにベルネルの闇パワー吸収とかやったんで当然なんだが。

 魔物に殺されたり等の外的要因による死を計算に入れれば平均寿命は驚きの二十年未満。

 それを取り除いても餓死やら栄養失調やら病死やら凍死やらで赤ん坊の二人に一人は死ぬので平均寿命は三十年未満だろう。

 生活環境のいい王族や貴族、騎士などは五十歳や六十歳まで生きるのも珍しくないが、平均寿命は割と酷いものだ。

 一応、俺がアレコレやった結果、子供の生存率は飛躍的に上昇したはずだが……それでも現代日本と比較するとね。

 とりあえずここは変に刺激せずに、当たり障りのない返答でもして流しておくか。

 

「なるほど……そういう意見もあると、前向きに参考にさせて頂きます」

「参考? それはいけませんな」

 

 俺はこの場を荒立てずに終わらせる気だったのだが、どうも向こうはそうではないらしい。

 指を鳴らすと、それと同時に兵士が一斉に雪崩れ込んできて俺を包囲した。

 おいおいおい……そこまでやるか?

 

「エルリーゼ様!

貴女には魔女を倒さずにこのまま、正義の象徴として死ぬまで聖女を続けて頂く!

これは既に、我等国王同士で話し合って決めた決定事項だ!」

 

 ……ええ……。

 寿命で死ぬまで籠の中の鳥やってろってか……。

 そういや、あっちで見たエテルナルートでもこのおっさん、俺の事を幽閉してたっけ。

 何だか面倒な事になっちゃったぞ。


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