理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第三十五話 囚われの(偽)聖女

 さて、この状況どうしたものかな。

 周囲を取り囲まれた状況で、俺は紅茶を飲んで考える。

 ……もしかしてこの紅茶とかも睡眠薬入りだったりするのだろうか。

 まあ毒対策……というか状態異常対策はしてあるから、そうだったとしても意味はないんだけどな。

 水魔法によって、俺の体内に毒が入っても自動で即分解、解毒されるようにしてある。

 闇パワーも身体に害を与える物を消す効果があるので、俺には毒物とかウイルスはほぼ通じない。

 SFとかにあるような強化されたウイルスは流石に試した事がないので分からん。案外効くかも。

 

「……これはどういうつもりです?」

 

 落ち着いたフリをしつつ、周囲を確認する。

 俺を囲んでいるのは各国の兵士達……何故か騎士、更に近衛騎士までいるな。

 何だ、全員裏切り者か? 俺そんなに人望ないのか?

 レイラとフォックス以外の近衛騎士全員裏切りは流石に笑えない。

 

「申し訳ありません、エルリーゼ様! しかし我々は……」

「お許し下さいとは言いません……ですが、それでも……それでも、我々は貴女を失いたくないのです!」

 

 近衛騎士を軽く睨んでやると、怯みながらも言い訳を口にした。

 俺を死なせたくないと言われても……そもそも魔女を倒した聖女が死ぬっていうのはこいつ等も(真実は知らないだろうが)分かってたはずだし、それを承知の上で騎士になったんじゃないのかお前等。

 まあいい。お説教は後でするとして今はこの状況をさっさと切り抜ける方が重要だ。

 近衛騎士が十人に騎士が二十人ほど。後は兵士が沢山。

 ……ま、全員殺さずに意識を断つのに十秒はいらないな。

 殺していいんなら一秒いらないけど、まあそこまでやる必要はないだろう。

 

「アイズ国王。貴方は先程、私がいれば平和は維持出来ると仰いましたね。

ではお聞きしますが……それ(・・)が出来る者を、この程度の手勢で抑え込むことが出来るとお思いですか?」

 

 この程度、俺なら軽く光魔法ドーンで全部蹴散らせるからねマジで。

 もう魔力強化は終わっている。こいつ等が何をしようと俺に傷を付ける事は出来ない。

 そもそもこいつ等は俺を本物の聖女と思っているので、ダメージを与える事は出来ないと考えているはずだ。

 だがアイズ国王は怯みつつも、笑みを崩す事はなかった。

 

「無論思っておりません。

しかし貴女の従者は別です」

 

 言われて、レイラの方を見る。

 そこには、何故か抵抗せずに後ろを取られて剣を首筋に突き付けられてるレイラの姿があった。

 おいスットコォ!

 お前何普通に捕まってんだよ!

 

「大人しくして頂けますね?

……我々も貴女と敵対したいわけではありません。

ただ、少しばかり……そう、少しばかり御身を大事にして欲しいだけなのですよ」

 

 アイズ国王は口調は穏やかながら、有無を言わないように話す。

 敵対したくないとか言っているが、こんな事をした時点で敵対宣言のようなものなんだよなあ……。

 

「貴女にとっても悪い話ではないはずです。

ただ、生涯聖女として君臨して頂きたいだけなのですから……むしろ、魔女と戦って死ぬよりもずっと得なはずだと思いますがね。

聖女として尊敬を集め、崇められ、そして権力もある。

その上で魔女との戦いなどせずに死なずに済むのです。

むしろメリットしかないはずだ。違いますか?」

 

 メリットねえ……まあ確かに俺にとってはメリットだらけと言えなくもない。

 だがそれは完全に次世代に問題をブン投げるやり方だ。

 何せ魔女を倒さず放ったらかしにするんだから、その使命は次の聖女に押し付けられてしまう。

 何も解決しない。ただ問題を先延ばしにして、表面上の平和を維持するだけだ。

 だったら俺がきっかり、二度と魔女が生まれないようにする方がいいじゃないか。

 それに……多分こいつが求めているのはあくまで偶像としての俺だ。

 つまりこいつの意見に賛同した末に待つのは、この城に監禁され続けるという未来だけだろう。

 もっとも、俺の同意なんて最初から求めていないのだろうがな。

 

「まあ……ゆっくりと考えて下さい。

おいお前達、聖女様を部屋へお連れしろ。丁重にな」

「はっ。……エルリーゼ様、ご案内いたします。こちらへ」

 

 アイズ国王が指示をすると、近衛騎士達に立つよう促された。

 こいつらを全員薙ぎ払って逃げてもいいんだが……今はスットコが捕まってるし、滅多な事はしない方がいいか。

 スットコごと薙ぎ倒して、全員KOした後にスットコだけ拾って逃げるという手もなくはないが……。

 まあ俺をどうこうしようって気はなさそうだし、じっくり腰を据えて行けばいくらでも機会はあるだろう。

 しゃあない。今は大人しくしておいてやるか。

 

「不要です。自室の場所くらい分かっていますから」

 

 立ち上がり、自室という名の牢獄に自分から向かってINしてやる。

 すると、自室に入ると同時に外から鍵が閉められた。

 ま、そうなるのは分かってたけどな。

 閉められているのはドアだけではなく、窓にも頑丈そうな格子がかかっている。

 窓の外を見れば、下には兵士がウロウロしていてこちらを見ていた。

 ここから逃げようとして格子を壊せばすぐに気付かれるってわけだ。

 俺は窓から離れ、部屋を見渡す。

 室内は綺麗に掃除されていたようで、快適な清潔さを保っている。

 天蓋つきのベッドのシーツも整えられ、ティータイム用の椅子とテーブルは何かと値が張りそうだ。

 この城は聖女を閉じ込める為の監獄と言う事は知っていたが、まさに俺が聖女やってる間に監獄として使用されるとは思わなかった。

 ドアも駄目窓も駄目と来れば……まあ、こういう時は暖炉が逃走経路ってのは定番だ。

 勿論ここの暖炉はその辺も考慮してか人が通れないようになっているだろう事は、わざわざ確認せずとも分かる。

 だが小人サイズなら、そうでもあるまい。

 魔力を練って、妖精型の魔法弾を撃ち出す。

 それを暖炉を通して煙突へ向かわせ、外へ出した。

 とりあえずやるべきは、スットコ救出だ。彼女の無事さえ確保出来りゃどうにでもなる。

 生憎と、大人しく囚われのお姫様をやるガラじゃないんだわ、悪いけど。

 とはいえ、向こうも俺がスットコの無事を確保すればいつでも逃げる事が出来るくらいは分かってるだろうから、そう簡単にはいかんだろう。

 ま、長期戦だな。

 幸い学園の方はしばらく大きなイベントや誰かが死ぬ出来事はないので、俺がしばらく学園にいなくても問題はない。

 じっくりと腰を落ち着けてやりましょうかね。

 

 

 エルリーゼが学園から消えて一週間が経った。

 各国の王との交流会に招かれた、と言っていたがそれにしては戻るのがあまりに遅すぎる。

 場所は聖女の城だったはずだが、学園と聖女の城の距離は馬車で三時間も移動すれば着けるほどに近いはずだ。

 それもそのはずで、このアルフレア魔法騎士育成機関は聖女の騎士を育成する為の機関である。

 この学園で優秀な成績を収めた者が向かう職場こそが聖女の城だ。

 故に学園は聖女の城近く、国境ギリギリの位置に建てられている。

 だからこそ、どう考えても一週間も戻らないのは明らかにおかしかった。

 

 学園への滞在を止めて、そのまま城に帰ってしまったのだろうか。

 あり得ない話ではない。

 元々聖女が学園に通っている方が異例の事態なのだ。

 ならば元々あるべき場所へ戻っただけと言える。

 だがベルネルは知っている。エルリーゼは確かに『すぐに戻ります』と言っていた事を。

 仮に城に滞在しなくてはならない理由が出来たとしても、彼女が何も言わずに去るだろうか?

 

「明らかにおかしい」

 

 授業が終わった夕暮れの時間帯。

 ベルネルはいつものメンバーを集め、話し合っていた。

 ベルネルにエテルナ、ジョンとフィオラ、マリーとアイナ、そして一週間もエルリーゼの姿を見ていないせいで禁断症状が出てブルブルと震えているサプリ。

 彼等は無人の教室で、何故エルリーゼが戻って来ないのか意見を出し合う。

 

「魔物か盗賊に襲われたとか……?」

「そうだとしても、エルリーゼ様なら問題なく返り討ちに出来るだろう。

レイラさんだって近くにいるし……それに、そんな事になったらもっと騒ぎになっているはずだ」

 

 エテルナが考えられる可能性の一つを口にするが、ジョンはそれを否定する。

 もしも聖女がそんな理由で行方不明になれば、もっとあちこちで大騒ぎになっているはずだ。

 国も捜索状を出して、兵を動かして大々的に探すだろう。

 だが現状、そうなっていない。腹が立つほどに平和なものだ。

 少なくとも国はこの件で一切騒いでいない。

 何より不気味なのは、聖女がいなくなって一週間も経つのに学園側が何の行動もせず、何も生徒に伝えていない事だ。

 生徒達の間では何故エルリーゼがいなくなったのかと騒ぐ声も出ている。

 だというのに、何の対応も行わない。これは明らかに異常だった。

 

「先生、学園長は……」

「馬鹿のように『問題ない』とだけ繰り返している。詳細は私達教師にも伝えられておらん。

既に国から、聖女が学園を去る事は伝えられているらしい」

「国から?」

「ああ。聖女は国王達との食事会に向かい、そして国からは聖女が戻らない事が通達された。

つまり今回の件には国……場合によっては各国の王が一枚噛んでいるのかもしれん」

 

 国が聖女に害をなす……少し前までならばそんな事はないと笑った事だろう。

 だが今は違った。

 ディアスとの戦いで、聖女と魔女の関係を知ってしまった。

 聖女の城が実際には聖女を閉じ込める為の監獄である事も……先代の聖女アレクシアが国人達に殺されかけた事も知っている。

 その知識がある以上、『まさか』という考えがどうしても頭を過ぎる。

 

「王様達がエルリーゼ様を閉じ込めた……?

でもどうして? 魔女をやっつけて次の魔女になってしまったわけでもないのに、何で今エルリーゼ様を閉じ込めるの?」

「……むしろ今だから……そうする……?」

 

 フィオラが不思議そうに言うが、マリーはどこか納得したような様子であった。

 それから、静かな口調で話す。

 

「魔女を倒さなくても……もう世界は平和……。

魔女は……聖女様を怖がって動かない……。

無理に倒すより……このままの方が、いい……のかも?」

「それはつまり……エルリーゼ様が魔女になるくらいなら、現状維持の方がマシだから、王様達が閉じ込めたって事?」

「……そうかもしれない」

 

 マリーの憶測に、誰も反論は出来なかった。

 確かにエルリーゼが魔女になってしまうくらいならば、現状を維持している方が遥かにいいように思えてしまう。

 魔女がいる以上、完全な平和ではない。

 だがそもそも、その『魔女のいない平和』など数年しか続かないのだ。

 それに対し、『エルリーゼがいる平和』は彼女が生きている限りは続く。

 それを捨ててまで無理に魔女を倒す理由が思い浮かばない。

 

「……それでも、だからって本人の気持ちを無視して閉じ込めるなんて俺には正しいと思えない。

それじゃあ、ただエルリーゼ様を利用しているだけだ」

 

 もしかしたら、このままエルリーゼは城に閉じ込めておいた方がいいのかもしれない。

 やはりそんなのは間違えているのかもしれない。

 ベルネルにはどちらが正しいのかなど、分からない。

 だがこのまま放っておくことなどベルネルには出来そうになかった。

 

「どのみちここで話しててもただの憶測よ。

事の詳細を知ってそうな人に……お父様に、直接聞きに行きましょう」

 

 そう言って、アイナが立ち上がる。

 ディアスに代わって学園長に就任したフォックス子爵は彼女の父だ。

 娘であるアイナが聞けば、あるいは学園長も知っている事を話してくれるかもしれない。

 ベルネルはそう思い、アイナの案に乗る事にした。

 

「そうだな、聞きに行こう。

ここでいつまでも話していても意味がない。

俺達で真相を突き止めるんだ」

 

 これが自分達の考えすぎや勘違いならば、それでいい。

 それが一番いい。

 だがもしも本当に国王達がエルリーゼの自由を奪い、自分達の為に利用しようとしているのなら……。

 

 少なくとも自分は、相手が国王だろうと戦おう。

 そうベルネルは密かに決意した。


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