理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第五十三話 突入前準備

 何かフラグでも立つと思ったか?

 ねえよ! 俺にそんなもん期待すんな!

 

 という事で、何事もなく誕生祭が終わり学園に帰ってきましたエルリーゼです。

 ベルネルを加えたお祭り見学は誕生日プレゼントを貰った以外は本当に見学だけで終わった。

 ちょっと街中を見て昔はあーだったとか、ここは変わっただとか、そんな話をしただけだ。

 そもそも飲食店すらない国なので、その辺徘徊して雪合戦を見るくらいしかやる事ない。

 何故飲食店がないのかと言えば……そりゃあ、今はマシになったとはいえ少し前まではあちこちで飢え死にする奴が出て、その死体が路上に転がってたような国だぞ。

 特に冬はやばかった。子供が五人いればそのうちの二人は冬を越せずに死ぬレベルで死んでいた。

 親が口減らしの為に我が子を売ったり捨てたりするのも当たり前。

 そんな 食い物>越えられない壁>金 という世紀末な世界で飲食店なんて開く奴はいない。

 そんな事をするだけの食料があれば全部自分と家族の為に備蓄するだろう。

 一応今は、あちこちでジャガイモが栽培されているおかげで死者は激減したが、それでも飲食店なんてやっている余裕はどこにもないだろう。

 誰もが、冬をどう越すかで精いっぱいなのだ。

 

 さて、冬季休暇も終わって第三期が始まり、ついでに捕まっていたはずの変態クソ眼鏡も脱獄して帰ってきた。

 ゲームだとこの第三期でクライマックスだ。

 まず最初のイベントとしては、以前も話したように全学年での闘技大会が開かれる。

 この闘技大会はゲームではかなり重要だ。

 この時点で本来はエルリーゼがざまあされて退場しており、エテルナが聖女になっている。

 だがエテルナを守る近衛騎士はこの時、人員不足に陥っているのだ。

 というのも、エルリーゼ時代の近衛騎士はエルリーゼが自分の都合のいいイエスマンばかりを手元に残し、フォックス子爵のような進言をする近衛騎士は追い出していたせいで家柄と顔だけがいい、剣の腕は微妙な腐れ騎士だらけになってしまっていたからだ。

 (ちなみに、一応言っておくが俺の近衛騎士は普通に実力で選んでいるので大分面子が異なる)

 勿論エテルナはそんな連中を信用できるはずもなくレイラ以外の全員を平騎士に降格させ、近衛騎士がレイラ一人という異例の事態になってしまっていた。

 エルリーゼを追い出したとはいえ彼女の息がかかった正規の騎士を全く信用出来なかったエテルナは、この闘技大会で上位四名に残った生徒を近衛騎士に任命すると明言するのだ。

 ちなみにベルネルは強制で上位四人に残るのだが(負けると普通にゲームオーバー)、この時の順位でエテルナの好感度が変わる上に一位になればレイラを押しのけて筆頭騎士になれるのでエテルナルートを進めるならば一位を取っておきたいイベントだ。

 

 だがそれはあくまでゲームでの話。

 この世界では普通に近衛騎士が揃っているので人員不足にはなっていない。

 なのでこの闘技大会で勝利しても別に近衛騎士に内定したりはしない。

 まあ、将来的な評価には勿論響くだろうが。

 だが例のテレポ封じ作戦には強い生徒が必要だ。なので人材発掘としては重要なイベントである。

 が、よく考えるとそのテレポ封じ作戦そのものを見直す必要があるかもしれない。

 何故ならこんな作戦を取る必要があるのは、『魔女がテレポートをしたら居場所が分からなくなる』からだ。

 しかし今、こちら側には世界のあらゆる出来事をリアルタイムで観測出来るチート亀がいる。

 だったらバッドエンドフラグであるエテルナの村だけ厳重に守っておいて、あえて魔女にテレポートさせて弱体化してから亀に居場所を割り出させて追いつめても問題ないんじゃないかと俺は思うのだ。

 と、いうわけで俺は確認の為に学園裏に作った池を訪れていた。

 

「うむ、確かに出来る。私ならば、魔女がどこに行こうと位置を捕捉する事は可能だ」

 

 亀の言葉に俺は内心でガッツポーズをした。

 よっしゃ、これで最大の問題点が消えた。

 魔女が何処に行こうと分かるっていうなら、無理に魔力バキューム作戦をする必要はない。

 ベルネル達に危ない橋を渡らせるまでもなく、俺一人で終わらせる事が出来る。

 どこに逃げようと位置が分かるならこっちのものだ。

 テレポートほど速くはないが、俺にも『フェスティナ・レンテ(ゆっくり急げ)』がある。

 世界の裏側に逃げようと追いつめてぶちのめす事が俺には出来る。

 しかも魔女はテレポートをした事で弱体化するので、難易度は本来よりも大幅に下がるのでいい事尽くしだ。

 だが俺の喜びに水を差すように亀が言う。

 

「しかし例外がある。私にも観測出来ない物がある。

それはお前さんの『バリア』だ。お前さんが就寝する時に部屋に展開しているバリア……その中を見る事は私にも出来ない」

 

 亀にも観測出来ない例外がある……というのは既に俺が予測していた事だ。

 やはりこいつは、俺が展開したバリアを貫いてその中を見る事は出来ないらしい。

 それは俺にとってはむしろ有難い情報だ。プライバシーを守る事が出来る。

 しかし近くで話を聞いていたレイラはそう思わなかったのか、何故か不機嫌そうな顔をしている。

 

「預言者様……それはつまり、エルリーゼ様の寝室を覗こうとしていた……という事ですか?

もしそうだとすれば、たとえ預言者様といえど……」

「ま、待て、落ち着くんだ! 私は亀だぞ。それに雌だ!

人の雌に欲情など抱くはずがないだろう!?

お、おい、エルリーゼ! こいつを止めてくれ!」

 

 レイラに対し、慌てて亀が弁解をし始めた。

 未来が予測出来るのにこの焦りよう……もしかしてスットコ、ガチで亀を殴ろうとしてる?

 スットコ、ステイ。ここで亀を苛めて非協力的になられたら面倒だから止めろ。

 俺が手で制すと、スットコは亀を睨みながらも拳を納めた。

 というか……この亀、雌だったんかい。ずっと野郎だと思ってたわ。

 

「ふー……何と短気な娘だ。

ともかく、私でも全てを見通せるわけではないんだ。

魔女がお前さんと同じくバリアで隠れる可能性は決してゼロではない。

だから、わざと魔女にテレポートをさせて追跡しよう……という作戦はあまり推奨しないよ。

私の予測では、もしテレポートをさせれば魔女はその後、お前さんに発見される事を恐れて身を隠す為の魔法を使う。発見は困難になるだろう」

「テレポート先を予測する事は出来ないのですか?」

「出来なくはないが、候補が多すぎて確実性に欠ける。あまり分のいい賭けにはならないよ。

万一逃げられてしまった時の保険程度に考えておいてくれ」

 

 折角いい方法だと思ったのに駄目だしされてしまった。

 くそ……アレクシアのチキンぶりにいい加減腹が立ってきた。

 すぐに逃げるボスキャラがこんなに面倒だとは……。

 ボスならボスらしく玉座に座って堂々と待ち構えてろよ。

 いつでも夜逃げする準備が完了してるボスとか格好悪いぞアレクシア。

 

「結局、作戦を変えるわけにはいかない……という事ですか」

「ああ。居場所が分かっている今、この学園で終わらせるのが一番いい。

テレポートを封じる方向で考えるべきだ。

私の存在はあくまで逃げられた時の保険と思っておきな」

 

 結局、作戦変更はなしか。

 何でもかんでもそう都合よくはいかないって事だろうが、何とももどかしい。

 こんだけ色々出来るようになったのに、俺に出来る事は、ベルネル達に任せる事だけとは情けない……。

 せめて全員分の装備くらいは用意してやるか……。

 

 

 闘技大会は何か普通にベルネル達が上位を独占した。

 一位がベルネルで二位がアイナ。三位がマリーで四位がエテルナ。

 モブAとフィオラもベスト8に名を連ねている。

 前回とは少し順位が違うが、まあこれはクジ運だな。

 モブAは準々決勝でマリーとぶつかり、マリーは準決勝でベルネルとぶつかって戦績が振るわなかった。

 一方でエテルナはいつの間にか魔法の腕がかなり上がっていたようで、準決勝で惜しくもアイナに敗れたものの大健闘だ。

 説明が簡潔過ぎる気もするが、特に語る事は思い付かない。

 何と言うか、普通にベルネル一派が強くて普通に勝った。それだけだ。

 

 というわけで、この闘技大会でベスト8に残った八人を大会後に五階に呼び出した。

 これからこの八人を鍛え、そして例の作戦で魔女のMPを削ってもらう。

 もう少し人数を多くしたいんだが……亀曰く、これが限界らしい。

 あんまり増やすと『生徒が偶然紛れ込んだ』という状況を装えずに魔女が逃げる可能性が高まるとか。アレクシア、ヘタレもいい加減にしろよ。

 それと、ベルネル一味以外のベスト8に残った二名だが、そのうちの一人は三年生の筋骨隆々な男であった。名前はクランチバイト・ドッグマンというらしい。

 名前からして出落ちの噛ませ犬感が漂っている。

 もう一人は三年生の、全身フードの怪しい生徒なのだが……。

 

「……何をしているのだ、サプリ・メント教諭」

「はて、何の事やら。私は闘技大会でベスト8に残った三年生のトム・トイですよ」

 

 俺達の前には、何故かフードを被ったクソ眼鏡が立っていた。

 レイラの問いに飄々と答えているが、誰がどう見ても変態クソ眼鏡だ。

 どうやら生徒に交じって参加していたらしい。

 おい、誰か気付けよ。審査担当の教師の目は節穴か。

 あ、そういやこいつ審査担当の教師だったわ……。

 

「さあ我が聖女よ! ベスト8の生徒にのみ与えられるという貴女の武器を是非私に!」

 

 褒美用意したのは逆効果だったかあ……。

 実は今回の闘技大会を開催するにあたって、俺はベスト8の生徒には特別に武器を与えるという事を明言していた。

 それはやる気を引き出す為のものでもあったし、ベスト8に残るような生徒は今回の一件に巻き込む事になるのでその為の戦力増強と、後は巻き込むお詫びも兼ねていた。

 一応拒否権は与えるつもりだったが……『聖女』からの『魔女討伐に協力して欲しい』という頼みなんか実質強制みたいなもんだからな……。

 ゲームでもエルリーゼがよく鬱陶しい『お願い』をしていたもんだ。

 この学園は騎士を養成する為の施設で、騎士っていうのは聖女に仕える為の職業だ。

 なので聖女の頼みを受けないようでは、そもそも『お前何でこの学園にいるの?』という話になってしまう。その頼みが魔女討伐に関わる事ならば尚の事である。

 俺もそれは分かっているので、せめてものお詫びと罪悪感を薄れさせるためにご褒美を用意しておいた。

 だがそれが、こんな結果を招くとは……。

 …………まああれだ。

 考えによっちゃ、罪のない生徒を一人巻き込まずに済んだとも言える。

 少なくとも、この変態クソ眼鏡なら巻き込んでも俺のダンゴムシより小さい良心は痛まない。

 

「阿呆か貴様は。そのような不正で残ったベスト8など認めるはずが……」

「構いません、レイラ」

 

 レイラを諫め、俺は変態クソ眼鏡の参加を認めた。

 言っちゃ悪いが、こいつに負けて落ちたっていうんならそれは変態クソ眼鏡の方が強いし、生き残る可能性も高いって事だ。

 それに今から文句を言ってこいつを追い出しても戦力が一人減るだけである。

 こうなった以上は切り替えて、こいつも巻き込むしかない。

 それに何だかんだ言って変態クソ眼鏡は物語終盤で中ボスをやるだけあって、結構強い。

 ゲームで戦う際には第一形態と第二形態があって、第一形態は全く大した事のない雑魚なのだが第二形態で何と巨大なゴーレムと自らを一体化させるという離れ業をやってのける。

 そんな力はないはずなのだが、作中では『聖女への愛』で済まされているから性質が悪い。

 ともかく、こいつは(敵に回った時限定だが)終盤のベルネル達を相手に一人で渡り合えるだけの強さがあるという事だ。

 

「レイラ、あれを」

「はい」

 

 レイラに合図すると、俺の隣に置いてあった箱を開いた。

 中にはアイズのおっさんに頼んで用意して貰った、色々な鉱石やら金属やらが詰まっている。

 前にベルネルにあげた剣はその辺の土から適当に造ったが、今回は割と本気で造るつもりだ。

 手を前に翳し、材料を土魔法でバラして配合して、頑丈な合金へと変える。

 色々と試した中で、俺が見付けた中では一番靭性・硬度共に優れた合金をこの場で造り、それを材料にして武器にする。

 金属の名前は知らない。そもそも地球にない鉱石とか金属もあるからな。

 だがあえて、厨二な名前を付けよう!

 この合金の名はオリハルコンだ! 今、俺がそう決めた!

 つーわけで、はい決定。これはオリハルコンの武器だ。

 

 それを人数分用意し、全員に渡した。

 後、ついでにレイラにもプレゼントしておいてやった。

 まあレイラはもう、立派な筆頭騎士専用の剣持ってるけど……何故か最近使おうとしないので一応ね。


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